間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
「――君も、そう思うだろ?八幡」
スーパーから晩飯の材料を買って帰り、俺はチューリップハットを被った女子に話しかけられた。
「は?」
話の脈絡があまりにもなさすぎて、つい俺はそんな返事をかましてしまう。
さっきまでわいわいとしゃべっていたのに、なぜ突如として俺の名前が出てくるのか……。いかんいかん。こういう輩には変に反応をしてはいけない。反応をしてしまうと相手は調子に乗ってしまう。ついでに主導権を握られてしまう可能性がある。……まぁ、こいつのことはよく知らんがな。
というか、俺が話を軽く盗み聞きしている前提で俺に話しかけてくるあたり、俺のことを知っているのか、こいつ。
チューリップハットで顔がよく見えないが、俺にこんな格好の知り合いには覚えがない。――ないはずだ。
「え?どうしたのミカ。知り合い?」
「話の途中でいきなり話しかけるもんだから、何事かと思ったぞ」
俺に話しかけてきたチューリップハットのツレもそいつの行動に訝しんでいる。
どうやら、他の二人は俺のことを知らないようだ。なら……。
「……誰かと、間違えてるんじゃないですか?」
人違い、その一言に尽きる。名指しされておいて人違いとかなにいってんだとか言われそうだが。
「人違いじゃないよ。それに……君を見間違えたりはしないさ」
まるで、昔からの知り合いのように話しかけてくるそいつに、俺はまったく見覚えがなかった。――いや……ない?そういうには………。
さっきから妙に頭の隅っこで記憶が思い出しそうで思い出せないというジレンマに駆られている。
「どうやら混乱してるようだね。――ん?あぁ、あれかな?私がこれを被っているからわからないのかな?」
そんなことをいいながら、そいつはチューリップハットを脱ぎ……そして――、
「久しぶりだね、八幡」
千代さんと愛里寿を足して2で割ったら、たぶんこんな感じになるのだろう。もしくは愛里寿がいい感じに成長したらこんな感じに……そう思えるほどにそいつは似ている。……似ている?当たり前だ。だってこいつは……。
―――愛里寿の姉であり、元島田流の後継者だったのだから。
「………久しぶりなんてレベルじゃないだろ。あれから5年以上経つんだぞ?」
俺がわからなかったのも当たり前だ。あの時のあいつはこんな感じではなかった。断言できる。いろいろと変わりすぎだろ。いや、ホントに。顔を見てようやくわかったぐらいだぞ。
「時間はそこまで問題じゃないさ。肝心なのは互いが認識できるか。それには関していえば君はわかりやすかったよ」
その理論はおかしい。現に俺の方は認識できてなかったんだが?というか、五年もあれば小学生から高校生になるれるぞ。つまり、それは……。
「……変わってないって……そう、言いたいのか?」
あいつが島田家からいなくなってから俺は変わってないらしい。そういうことになるんだろ。
「一目見て君だとわかったよ。君の目は昔から……最初に会ったあの時から変わってないようだね」
あぁ、なるほど。そういうことか。
文字通り、人の目を見て俺だとわかったのね。
「こんな腐った目をしていたらそりゃわかるか……」
小学生の頃には、小町から目が腐ってるって言われてたからな。ついでに捻くれているとも。
「腐ってる?――いいや違うさ。君の目はひたすらになにかを求めている目だよ、八幡。今も、昔もね」
なにをどうみたらそう見えるのか、そいつはそんなことを言ってくる。
……眼科に行くことをお勧めするぞ。わりと冗談抜きに。
「ちょ、ちょっとちょっと、ミカ!どういうことか私たちに説明してよ!まったくもって状況がわからないんだけど!?」
さすがに外野においてけぼりにされているとわかったのか、講義の声が上がる。
「親しい仲にも礼儀あり。ましてや男女の関係を根掘り葉掘り聞くのは野暮ってもんさ」
「男と女!?」
「……おい。誤解を生むような発言はやめろ」
その言い方だと昔、お前と俺になにかあったみたいに聞こえるだろうが。お前のツレが、俺とお前を見て顔を赤くしてるんだが?あれ完璧に誤解してるだろ……。
「正解も誤解もあるのかな?どうやったって人は人を誤解するものさ。完璧な相互理解なんて不可能だよ」
……まぁわかる。どうやっても人に伝わらないことはある。人は自分のことさえ完全に把握できないのに、ましてや他人を完璧に理解するなんてできない。
……でもさ。それは別に今言わなくてもよくね?それに誤解を生むようなことを言ったのはお前だからな。
「それより、なんでお前はここにいるんだよ」
正味、誤解を解くのも優先だがこっちもこっちで俺にとっては重要である。
「私がここにいる理由なんて意味はないよ。まぁ、それでも意味を求めるのなら……うちの学園艦は貧乏なのさ。パンツァージャケットが買えないほどにね」
「は?」
「だから時折こうやって学園艦を転々としてるんだよ。わかるだろ?」
……、ああそういえば、こいつはこんな感じだった。だいぶ思い出してきた。昔からようわからんこと言ってて捉えどころがなかった。小学生のくせに妙に達観していたし、まわりに何か言われるたびに否定的な意見を言っていた。
捻くれていると言えば捻くれている。――けど、俺と違って皮肉屋や根暗とういわけでもなく、不思議な雰囲気を持つやつだった。
「……つまり、戦車を探してるってことか?生憎、ここの学園艦にある戦車は俺たちがほとんど探してるからないと思うぞ?」
「え~そうなの?ガックシ……」
どんだけ戦車が欲しかったのだろうか。肩の落ち具合がヤバイ。
「まぁまぁ、アキ。この前プラウダが快くKV-1貸してくれたじゃん!」
は?今なんていった?
「……プラウダって、あのプラウダか?」
他にどんなプラウダがいるかと聞かれても困るが、あの小さな暴君がそう易々と戦車を渡すだろうか?――いや、ないな。うん。断言できる。
「え?うん。そうだけど」
「そうなんだよね?ミカ」
「あぁそうだよ。快く譲ってくれたのさ」
「お前……もしかして……」
「八幡。むやみに人を疑うものじゃないよ」
いや、俺はまだ何も言ってないんだが?こいつ絶対に確信犯だな。
なんでこいつは昔から妙に手癖が悪いのか……。まぁ、本人が言うには”快く譲った”とか言ってるがどう考えても嘘くさいんだが。
いや、今はそんなことより。
「なぁ、お前。その名前は……?」
なんでこいつはさっきから”ミカ”なんて呼ばれているんだ?俺が覚え間違いをしていない限り、ミカなんて名前じゃないはずだが……。
「今は継続高校の隊長をやっていてね。みんなからはミカって呼ばれてる」
俺の質問にそう答えるってことはつまり、詮索をされたくないってことか。これ以上は突っ込んでもしょうがないのだろう。
「……はぁ。わかった。これ以上は聞かん」
聞いても、のらりくらりと柳の木のようにはぐらかすだろうこいつは。
「君は理解が早くて助かるよ。……それと、久しぶりに会えてよかった」
「……まぁ、元気にしてるならなによりだ。じゃあな。今度いつ会うかは知らんが」
「そうだね。
====
「たでーま」
「あ、お兄ちゃん。おかえり~」
「あれ?千代さんたちは?」
俺がスーパーから帰ってくると、リビングには小町しかいないかった。
「うん?あぁ、なんか急用ができたって帰っちゃった。お兄ちゃんにまた今度、晩御飯よろしく言っといてって言われたよ~」
「げ……まじかよ。この材料どうするんだ?二人じゃ食いきれないだろ……。それと、また来る気なのあの人?」
ちょっと勘弁してほしい、と思わなくもない。なんか次に千代さんがこの家に来たときは俺の年貢の納め時な感じがするのは気のせいか。……気のせいだと思っておこう。勝てばいいのである勝てば。
しかし、帰るなら帰るで途中で連絡入れてくれればいいものを。まぁ、材料費はあっちが出してくれてたし、こっちに出費がないのはいいんだが……。
「材料余るって……、お兄ちゃん。何作る気だったの?」
なにやら、ポチポチとスマホを弄っていた小町がそんなことを聞いてくる。
「カレー」
「ほうほう、カレー。なるほどなるほど」
なんで今、こりゃちょうどいいみたいな顔したんだ、小町のやつ。
「ちなみにどれくらいで出来そう?」
「早けりゃ一時間ぐらい……ってなんでそんなこと聞くんだ?」
いつもはそんなこと気にするような繊細さは皆無のはずだが……。
「……お兄ちゃん。今、小町のこと馬鹿にしたでしょ」
「ばっお前小町。俺は常に小町のことしか考えてないぞ。なんなら小町以外のことは考えたくないまである」
いや、よくよく考えると、小町の次に戦車のことを考えないといかんな。というか決勝戦のことを考えないといけない。わりとガチに。
さっきの俺の発言で、いつもの小町ならなんなく騙せると思ったのだが……。
「お兄ちゃんっ!って騙されるわけないでしょ!!」
……ダメか。チッ。
「お兄ちゃん?」
怖いわぁ、小町ちゃん。女の子がそんな顔したらいかんと思うぞ、うん。時間があれば構ってやらんこともないんだが、生憎俺はカレーを作らねばならん。いやぁ、お兄ちゃんはカレー作りに忙しいからな!あぁ、ホント忙しい忙しい。
とりあえずの俺は今、忙しいアピールをする。
そんな俺を冷めた目で見ながら、とりあえずテレビをつける小町。
……というかあれだな。どうせなら小町と一緒にカレー作ればよかったと今更ながら思う。
俺は妹との貴重なコミュニケーションタイムを棒にふってしまったのか!?オーマイゴッド!……いや、この場合は、オーマイシスターか?
そんな本当にどうでもいいことを考えながらカレーの下ごしらえを行っていく。
ちょっと八つ当たり気味に玉ねぎをこれでもかってぐらいにみじん切りにしてやった。やりすぎたせいで涙がとまらない。
それから一時間、いい感じにカレーが出来上がった頃。
――ピンポーン!とインターホンが鳴る。
千代さんか愛里寿がなにか忘れたのだろうか?いや、それなら直接連絡してくるだろうし……。
「小町?」
「今、テレビ見てるから、お兄ちゃんよろしく~」
くそっ、この妹、完全に聞く気がないな。こっちに一別もしないでそう答えやがった。
俺はカレーの火を止め、玄関へと向かう。
そして扉を開けるとそこには――、
「また会ったね、八幡。久しぶり」
なぜかさっきより荷物の量が増えているあいつらがいた。
「久しぶり、じゃねーよ。数時間前に会ったばかりだろうが……」
こいつの久しぶりの感覚がランダムすぎるだろ。幅が数時間から5年とかラグがありすぎるわ。
俺が「何しに来たんだ」と聞くと、「小町に呼ばれてね」と答えてくる。
は?小町?また小町ちゃんが裏でなにかやってるの?
「というか小町のやつ、お前のこと知ってたのかよ……」
千代さんにバレたらやばいんじゃねぇの?
「私が口止めしてたからね。あの子は悪くないよ」
「それは――いや……これは以上は意味ないな。小町に呼ばれたって言ったか?なんで――」
いや、待て。あの時の会話を思い出せ。あの時、こいつらはなんて言ってた。
――今日のご飯どうするの?ミカが買い食いばっかりするからお金がないんだよ!?
――なんとかなるさ。
たしか、こんな感じの会話をしていたはず。ん?まさか……。
「やっぱり、君は察しがいいね」
なにが楽しいのか、クスクスと笑いながらそんなことを言ってくる。
「というか、なんだその荷物。さっきまでそんなの持ってなかっただろ」
「ん?あぁ、これはね――」
「ミカ、ミカ!ここが小町の家なのって……あっ」
「どうしたんだ、アキ。……あ、さっきの人だ」
さっきからアキと呼ばれたちみっこが俺の方をじぃーっと見ているのは何故なのだろうか?あ、そういえばさっきの誤解を解いてないじゃん。
そう、解かないといけないのだが、俺とこいつの関係を説明するのには島田流云々を話さないと説明できないわけで……。
あ、うん、無理。これ説明できないやつだわ。
玄関でアホ面下げて突っ立てるのもなんだから俺は中に入るように促す。
「小町とはどういう関係なんですか!?」
俺とあいつのことで訝しんでいるかと思いきや、まさかのそっちだった。
「小町は俺の妹だ」
簡潔に簡略に俺はそう答える。
それで俺がここにいるのに納得したのか、強張っていた顔がほにゃっと崩れる。
「なんか似てないなー」
短い髪をサイドにツインテしている、もう一人のちみっこにそんなことを言われる。
今、めっちゃ心にグサッと来たんだが……。人が一番気にしていることをサラッと言いやがったよ、こいつ。
そんな俺を見てあいつがフォローしてくれるかと思いきや。
「八幡の妹とは思えないほどにいい子だからね、小町は」
もはや死体蹴りに近い所業なんじゃねぇの、これ。
「俺という反面教師がいたからだな」
とりあえず強がっておこう。そうでもしないと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。
「それは開き直りの言葉としては些か悲しさが漂い過ぎていないかい八幡」
うるせぇ、余計なお世話だ。
「俺のことはどうでもいいだろう。飯食いに来たんだろ?」
「ふむ、それもそうだね」
「ご、ご飯!」
「一時はミカのせいでどうなるかと思ったけど……」
「アキ、私は悪くないよ。悪いのは美味しそうなものがたくさんあるこの学園艦さ。私に食べて欲しいって語りかけてきたんだよ」
「「いや、ないない」」
思わずツッコミが被ってしまった。……こいつも苦労してるんだな。
そんなこんなで晩飯タイム。
もともと、カレー用に買った食材はできるだけ節約しようと思い、消費期限ギリギリのやつの特売のやつにしておいたし、どうせなら明日の朝飯にでもしようと多めに作っておいた。
だが、この人数だと白飯が足らんくなるかもな。
俺はもう一個炊飯器を出して、ポチっとスイッチを押す。
実際問題。この量のカレーを小町と食べきるには毎日朝晩カレーコースにしないといけなかったのであいつらの来訪はありがたいっちゃありがたかった。そこんところを小町も考えての行動だったのなら俺も文句は言えないが、あの小町がそこまで考えて行動しているかは疑問ではあるが。
「このカレー、お兄さんが作ったんですか?」
「まぁな。あとお兄さん言うな」
俺の妹は、小町と愛里寿だけである。
「そうなんだ!美味しいです!あと、名前教えてください。私はミッコって言います」
「さっきそいつが言ってただろ?……まあいいか。比企谷 八幡だ」
と、俺が答えたら気づけばカレーにがっついていた。優先度が俺の名前よりカレーなのはこの際置いとくけどさ。質問を投げっぱなしとかやめてくんない?俺が答えた返事は誰が返してくれるんだよ……。
「あの……本当によかったんですか?私たちが食べちゃって……あ、私はアキです」
「気にすんな。そもそもあっちに至ってはおかわり三杯目だ」
俺は、もはや我が物顔でカレーを平らげているあいつに視線を促す。
あれはもう少し遠慮をしてほしい。下手すると、あいつ一人で作ったカレーを食べきる勢いだ。……いや、ないと思いたい。ないよな?
「ミカ……途中でいろいろ食べといてまだ食べるんだ……」
「い、いやー、ミカさんの食べっぷりはいつ見てもすごいですなー」
「小町、褒めてもなにもでないよ?」
いや、たぶんそれ褒めてねーよそれ。半分皮肉入ってる。だって小町の顔が若干引きつっているし。
「まあいいや。俺は自分の部屋に戻るわ。皿は俺があとで洗うから、食ったら置いておいてくれ」
俺がいたら弾む話も弾まんだろ。
ということで俺は部屋に戻り、決勝に向けての作戦を考えるのだった。
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ぐっと背伸びをして、イスにもたれかける。あーきっつい。なんど考えても戦力差が激しい。
決勝戦での最大投入戦車数の上限が20両、黒森峰はMAX投入してくるだろう。こっちは雪ノ下のおかげで戦車が増えたといえ9両……。グロい……グロすぎる。
数が全てじゃない!と言ってしまいたいが、数の暴力には勝てない。いつの世も民主主義にはぼっちは勝てない。なんせ一人だからな。
だが、今回は一人じゃない。全員で勝ちにいくのだ。俺の独りよがりではなく。
黒森峰を倒す方法としては戦力の分断、そして最終的にはフラッグ車との一騎討ちに持っていければ最高なんだがな……。問題は結局、その方法だ。
明日、決勝の場所の詳細な地図と他のチームのやつらで戦略会議だな。案外、意外なところからいいアイデアが出るかもしれんし。
すると突然、俺の部屋の扉がノックされる。
「あん?小町か?」
「いいや、私だよ。八幡」
「お前かよ……」
「凄く嫌そうな顔してるね」
「小町かと思ったからな」
「君は変わらないね」
「そりゃどうも。……で?なにしに来たんだよ」
「ん?ああ、今日、この家に泊まるからね。それを君に言っておこうと思って」
「は?」
「どこかに泊まろうにもお金がないしね。もしダメだと言うなら庭で野宿させてくれるだけでもいいよ」
それは新手の脅しかなんかなの?泊まらせなきゃ人の庭で野宿とか……、そんなことされてみろ。ご近所さんから通報されてしまうわ!
「選択肢がほぼないだろそれ……」
「ないことにはないと思うけど?」
「泊めなかった場合のリスクがデカすぎてないのと一緒だろうが」
「ふふっ」
「……なんだよ」
「君は本当に変わらないね。5年振りに会っても本当に変わらない」
「お前も外見以外ほとんど変わってねーぞ」
「そうでもないよ。君が知らないだけで、私にもいろいろあるのさ」
いろいろ……ね。まあ、そりゃあるのだろう。5年前に島田家から突如として、「私の居場所はここじゃない気がするので旅に出ます」というわけのわからん置き手紙を残して出ていったらしい。
これを知ってるのは、千代さんと俺だけだ。表向きには勘当というよりも、もはやいないものとして扱われている。
もともと、あいつはなにかに縛られるようなやつじゃなかったのだろう。俺とはまた違った意味で浮いていた。
だからなのかは知らんが。俺は愛里寿に懐かれるまでは親戚の集まりの時は適当に外に行って木陰で昼寝していた。俺がいる意味なんてほとんどなかったし、小町がいればよかったので親もとくには俺になにも言わなかった。
あいつも別に親戚の集まりに興味がなかったのだろう。ある意味似た者同士、同じ木の下で俺は昼寝、あいつはカンテレを鳴らしていた。
特段、その時に会話をした記憶はない。互いに不干渉。俺たちはただただ時間を過ごす。有意義か無意義から知らんが、少なくとも嫌ではなかったのは覚えている。
「……5年もありゃいろいろあるだろうよ」
逆に俺の方は最近いろいろありすぎて困惑するレベル。
「それは君も一緒だろ?今は戦車道をやっているって聞いてるよ」
「成り行きだ成り行き。俺自身が一番信じられん」
「でも、あの頃からずっと続けていたんだろ?」
なにがとは言わなかったが、戦車のことを言っているのだろう。とりあえず頷いておく。
「なら、君の勝ちだよ」
「なんの勝負だよ……」
誰かと勝負していた記憶はないんだが?
「否定してきたものと、それでもあきらめなかったものの話さ」
「……ようわからん」
「次は決勝戦なんだって?頑張れとは言わないよ。ただ君らしくやればいいさ」
「………なあ」
「なんだい?」
俺はどうしても言いたいことがあった。
「――お前、その右手のプリンはなんだ」
「………」
「………」
「…………私に――」
「いや、ないから。しかも付け加えるならちゃんと名前が書いてあったはずだが?」
「……八幡。世の中、弱肉強食なのさ。食うか食われるかなんだよ」
「おい待てこら、話を逸らそうとするんじゃねぇ」
「君のものは私のもの、私のものは私のもの」
「どこのジャイアニズムだ」
「この子は私の元に来る運命だったのさ」
「壮大な感じにして誤魔化そうとするな」
「…………私に――」
「ネタが尽きたからってループしなくていいから、お前は大人しくそのプリンを解放しろ」
「…………ダメ?」
俺に頭を撫でることをおねだりする時の愛里寿の顔にダブった。……それはずるいと思うんですけど。いや、狙ってやったんじゃないんだろうけどさ。
……しかし、どんだけプリンを食いたいんだよ、こいつ。
「ああわかったわかった。もうなにも言わん」
もういいや、めんどくさい。
「ふむ、八幡」
「……なんだ?」
「シスコンもほどほどにしたほうがいいと思うよ。じゃあ、お休み」
それで言いたいことが終わったのか、あいつは俺の部屋から出ていった。
「………、余計なお世話だ」
誰に向かって言ったでもない俺の言葉は虚空へと消えるのだった。
――そして、日曜が終わり、月曜がやってくる。俺はまだ知らない。
血の月曜日、ブラッディマンデーが始まることを。
次回、八幡死す!!デュエルスタンバイっ!!
――女子って恐い。そう思いました、マル。