間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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そうして、大洗学園の勢力は集結する

 一色の案内を終えて昼休み。俺は珍しく食堂で飯を食っている。それはなんでかというと……。

 

「せんぱい。となり、いいですか?」

 

 一色が、昼飯を食べようにも食堂での食べ方がわからないとぬかしやがったからだ。

 一色の弁では、サンダースの昼食は基本的にその日の朝、自分で食べたいものを注文しておくと昼休みに用意されているのだとか、しかも金はいらないらしい……。

 だから、食券の使い方がわからないと……。これ、まじなんなの? 格差社会ってレベルじゃねぇ。いや、この場合、サンダースがおかしいのか? それともウチの学園艦が貧乏なのか?

 

「……別のところに行け」

 

 俺はしっしっと、一色を追い払う。わざわざ俺が隅っこで食べてる時点で察しろよ。俺は一人で飯を食いたいんだよ。俺の昼飯に女の子というスパイスはいらないから。

 

「そうですか。では……」

 

 そういって、一色は俺の目の前の席に座る。あの?話聞いてました? 俺は別のところに行けって言ったんだけど? となりじゃないから前に座ってみましたってか。

 

「なんなの? お前……」

 

「一人、知らないところでご飯食べるのってー、なんかいやじゃないですかー」

 

「は? 普通だろ」

 

「……せんぱいの普通は、世間一般的ななにかからズレてますよね」

 

 余計なお世話だ。

 

「一人が嫌ならそこらへんの男子に声かければいいだろ。お前なら一人や二人、ひょいひょいついてくるだろうし」

 

 一色という餌を蒔けば、それこそ男子なんて入れ食い状態だろうに。

 

「……えっと、それはちょっと……」

 

「なんだ、なにか問題があるのか?」

 

「いえ……その、怖いというか、なんというか……」

 

 怖い?男子が?

 女子が怖いならまだわかる。ケイさんの話を踏まえればそう思うのもしょうがない事態だったはずだ。けど、男子が怖いってどういうことだ?

 

「それだとなおさら、俺のところに来る意味がわからなんないんだが?」

 

「せんぱいはなんかアレなんですよ。ほかの男子とは違う感じがしますし」

 

 それはあれですか? 俺みたいなチキン野郎には近づいても大丈夫だとか、そういうことですか。

 

「……はぁ、もう勝手にしてくれ」

 

 

 ====

 

 

「―――というわけで、新しい仲間が増えたからみんなよろしくね。特に一色ちゃんは同じクラスになるかもだから、一年のみんなは特にね」

 

 昼休みが終わり、そして戦車道の授業。会長の適当な新メンバーの紹介が終わる。

 新しいメンバーは4人。サンダースから転校してきた一色。俺が勧誘した雪ノ下と由比ヶ浜。そして、最後の一人は……。

 

「なんか質問とかあるなら今のうちにね? なかったら練習をするよ」

 

「はい!」

 

「お、元気いいねぇ、阪口ちゃん。それで?」

 

「戸塚先輩はなんで男子の制服を来てるんですか!?」

 

 はい、最後の一人は戸塚でした。

 そして阪口の質問は、みんな大体気になっていたのか、戸塚に視線が集中している。

 

「戸塚ちゃん、答えてやってー」

 

「え、えっと……、僕が男の子だから……かな?」

 

「お、男の娘ですか!?」

 

 それたぶん、意味が違うやつな。

 

「なんと、あれで男子!? ……見えないな」

 

 ……わかる。

 

「下手な女子よりかわいいんじゃ……」

 

 わかる、わかるよ!

 

「同じクラスじゃなかったら、私も疑ってたね!」

 

 それある!

 

「え?みんなはなんでそんなに驚いてるのかな?」

 

 ……西住。お前はそのまま、ありのままを受けいられる素直で素敵な子でいてくれ。

 

「まぁまぁ、みんな。戸塚ちゃんは、決勝で女子の制服を着るからそこまで違和感はないんじゃない?」

 

「なんで女子の制服を?」

 

「戸塚先輩の趣味……?」

 

「ぶっちゃけると、戸塚ちゃんの申請が間に合わないんだよねー、うん」

 

「申請って、前に比企谷先輩がやってたアレですか?」

 

「そうそう」

 

 捕捉すると、基本的に戦車道は女子の嗜みである。だから、男子が戦車道の大会に出るには事前の申請が必要だ。しかし、戸塚は急に参加かが決まったため、その申請が間に合わないらしく、そこで会長がとった手段が……。

 

「だから、戸塚ちゃんには女子の制服を着てもらって大会に出てもらおうかと思ってね」

 

「え……それって大丈夫なんですか?」

 

「バレたらヤバイかもねー」

 

 会長の言い方だと全然ヤバイように聞こえないんだが……。

 

「「「え!?」」」

 

「大丈夫大丈夫。戸塚ちゃんが女子の制服を着たら、みんな男の子だと思う?」

 

「「「…………」」」

 

 会長の一言で戦車道の全員が沈黙する、というか視線が戸塚に集中している。各々、頭のなかで戸塚に制服を着せてみてイメージしているのだろう。

 そして、全員がたぶんこう思っている。

 

 ――あれ?違和感なくね?と。

 

「基本的に戦車道は女子の嗜みだからね。決勝は全国中継されるし、男子だとなんて言われるかわからないからね。まぁ、いろんな意味で戸塚ちゃんを守ることに繋がるってわけ」

 

「え? でも、比企谷先輩は?」

 

「比企谷ちゃんはもういろんな意味で手遅れなんだよねー。なんか想像以上に有名になってるの、なんでだろ?」

 

 それは俺が聞きたいぐらいである。会長は有名になっていると言ったが、別にこれはいい意味ではなくむしろ悪い意味で有名になっている。

 簡単に言えば俺の変な噂が流れているのだ。

 流れている噂の大半は俺への誹謗中傷。別に今さらそんなもので傷つくような繊細な心はしていなが、なかには俺とセットにして、西住たちのことを悪く言っているものもあった。

 ……これは、まほさんに頼んだらどうにかできないかしら?

 

「で、でも……、戸塚先輩はそれでいいんですか?」

 

「え? うん、大丈夫だよ? それに、戦車道のみんなの助けになるなら僕もうれしいし」

 

 ええ子やー、本当にええ子やー。どこぞの、なんとか下さんとは違って。

 

「……比企谷くん?」

 

「……なんだ、雪ノ下」

 

「今、不埒なことを考えなかったかしら?」

 

「……いや、全然?」

 

 っべー、っべーは、なんでわかったの?

 

「おかしいわね。あなたからいつも男子から向けられている邪な気を感じたのだけど」

 

 お前は見た目だけはいいからな。中身は……言うまでもないな。

 

「安心しろ、雪ノ下。お前にそんな感情は持ったりしないから」

 

「……それはどういう意味なのかしら?」

 

「お前の想像に任せるわ」

 

 具体的に言えば、もっと成長してからそういうことを言うんだな。まぁ、どことは言わんが。

 

「……なんか仲いいね、二人とも」

 

「別に仲はよくはないのだけど……」

 

「そうだぞ、西住。全然仲はよくないからな?むしろ悪いまである」

 

「他に質問はあるかな?」

 

「あのー」

 

「はい、武部ちゃん!」

 

「一色さんと戸塚くんはわかったんですけど、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんはなんで戦車道に?」

 

「ああそれ?比企谷ちゃんがどうしてもって……」

 

「え?」

 

「ハチが?」

 

「八幡くん?」

 

「八幡さん?」

 

 え?なんで俺を見てくるの?いや、あの……?こ、怖いぞお前ら!特に顔が……!

 

「理由を説明して!」

 

「……言わないといけないのか?」

 

「なに?言えない理由なの?」

 

 ちょっと?言葉にとげがあるんじゃないの?俺の気のせい?

 まぁ、いいや。別に隠すことじゃないし。

 

「戦車持ってるから」

 

「え?」

 

「いや、だから、戦車持ってるから」

 

「それが理由?」

 

「他にどんな理由があるんだよ……」

 

 逆に教えてほしいわ。

 

「いやだって、ハチがわざわざ勧誘するとか珍しいし……雪ノ下さんと楽しそうに話してるし……」

 

 お前もか、武部。なんで西住といい、武部といい、俺が楽しく雪ノ下と話しているみたいに誤解しているのか。

 

「あれ?ん?ねぇ、ハチ」

 

「なんだ?」

 

「ハチが雪ノ下さんたちを勧誘したんだよね?」

 

 唐突に武部のやつはそんなことを言ってくる。

 武部のやつはなにが言いたいんだ?

 

「由比ヶ浜さんは同じクラスだからわかるんだけど、雪ノ下さんとハチって知り合いだったの?」

 

「あぁ、それはな――」

 

「ヒッキーが奉仕部に入ってるからだよ?」

 

 ちょ、由比ヶ浜さん?なんであなたが代わりに答えてるの……。俺のセリフを取らないでもらえます?

 

「「「え?!奉仕部に!?」」」

 

「奉仕部って、雪ノ下さんと由比ヶ浜さんだけじゃないの!?」

 

「一応、ヒッキーも入ってる……よね?」

 

 確認をとるように、由比ヶ浜は俺を見てくる。

 

「……あぁ、そうだな」

 

 平塚先生に無理矢理入れられただけだけどね。

 

「……八幡くんが部活……?」

 

「は、八幡殿、な、なにがあったんですか!?」

 

「しかも、学校で美人の二人となんて……絶対なんかあるでしょ!」

 

 確かに、俺の状況からそう思うのもわからんこともないが。いやいや、ないから、女子が夢見る甘酸っぱいような関係とか断じてないから。

 

「ふふっ……、ようやく私の出番が来たようだな……」

 

 今まで沈黙というか、相手にされていなかった平塚先生がついに動くのか!?

 

「あ、あなたは……!?」

 

 そんな平塚先生に阪口が反応をする。

 前から思ったんだが、阪口よ、ちょっとノリがよすぎない?お前の反応が嬉しくて、平塚先生ちょっと泣いてしまっているんだが……。

 たぶん、奉仕部じゃ、あのノリに乗ってもらえないんだろうな。雪ノ下はそもそもそういことに乗るやつじゃないから逆に冷たい目で平塚先生を見るだろうし、由比ヶ浜は由比ヶ浜で、たぶんそういうのがわからないんだろうなぁ。

 一人寂しく奉仕部で滑ってる平塚先生が目に浮かぶ。

 ……今度、優しく接してあげよう。そうしよう。

 

「比企谷を奉仕部に入れたのはこの私だ」

 

「なんでハチを?」

 

「これを見ればわかるだろう」

 

 そういって、平塚先生はなにやら取り出している。

 

「なんですか?これ?」

 

「作文だ」

 

「作文?」

 

「前の授業で出したのを覚えているか?」

 

「えっと……、たしか、『学校生活を振り返って』でしたっけ?」

 

「そう、それだ」

 

「これが関係あるんですか?」

 

「読んでみたらわかるぞ?」

 

 ちょ、ちょっと平塚先生?もしかしなくても俺のやつですかねそれ。

 なんで持ち歩いてるの?そんなに気に入ったんですか?いや、違うか。

 そしてなぜか、全員に読まれてしまった……。

 俺のプライバシーってどこにいったんだろ?迷子届けを出したら戻ってきたりしないかな?……しないんだろうなぁ。

 

「あっはっはっ、さすが比企谷ちゃん!期待を裏切らないねー」

 

 笑ってるのあなただけですけどね。

 

「……ヒッキー、さすがにこれは……」

 

「なんというか……」

 

「うん、なんというかだよね……」

 

「でも…なんか」

 

「「「比企谷(先輩)らしい……」」」

 

 俺の感想文を読んでの感想がそれかよ。俺らしいってどういうこと? なんでお前ら、全員して納得してんの?

 


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