間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
『試合終了………勝者、大洗学園!』
試合終了のアナウンスが鳴り響く、どうやら私たちは負けてしまったようです。
「負けちゃった……」
ポツリと呟くカチューシャ。
いつもの彼女なら、試合に負けてしまうと、必ずと言っていいほど癇癪を起こすのだが、今日の彼女はどうやら様子が違うように見受けられる。
負けて悔しいのか、目をぐしぐしと擦って涙を拭いている姿は久しぶりに見たような気がする。
「泣いてなんてないんだから!」
誰もなにも言ってはいないのに、なぜか言い訳をするカチューシャ、その姿は見ていてやはり愛らしい。
「ノンナ!」
「どうしました、カチューシャ?」
「行くわよ!」
行くとはなんのことだろうか?
「まだ戦車が回収できていないので学園艦には帰れませんよ?」
「違うわ!あいつらのところに行くのよ!」
今日の彼女は本当にどうしたのだろう?
こちらが試合に勝っているならまだわかる、いつもの彼女ならそうするだろうから。
でも、私たちは負けたのだ。その上で相手に会いに行くなど初めてではないだろうか。
なにが彼女をそこまでさせるのか……。
いや、思い当たる節など1つしかない。
彼だろう。
「彼に会いに行きたいんですね、カチューシャ」
「そ、そんなんじゃないわ!私たちに勝ったあいつらに挨拶をしにいくだけよ!」
目に見えて動揺している。やっぱり、目当ては彼か。
本当にこれは珍しい。カチューシャがこんなに簡単に相手を気に入ることなどあっただろうか?
私の記憶している限りではなかったように思う。
彼女は基本的に警戒心が強い、そんな彼女がましてや男性を気に入るだなんて……。
まぁ、カチューシャが行くというのなら、私はそれに従うだけです。
それに、私も彼に聞きたいことがあったのでちょうどいいでしょう。
最後の攻防の時に彼の戦車を撃ち抜いた感触に違和感があった。
あまりにも手応えが軽すぎた。あれは確実に装甲を弄っている。
私が知りたいのはなぜ装甲を弄ったかではなく、なぜそうしようかと思ったか。
カチューシャに言われれば私もそういうことはできると思う。
でも彼は、誰かに言われて、はい、そうです。と、素直に聞くタイプではなさそうだった。
なら必然的に、彼は自ら装甲を弄り、そして最後にフラッグ車の盾となった彼の行動は極めて異常だと思う。
下手をすれば怪我ではすまないかもしれない行動。試合中の彼の戦車の動きに迷いはなかった。
まるでそうすることがさも当然のように。
だから、彼がなにを思って行動したのかが気になってしまっている。
「ノンナ?」
「いえ、なんでもありません」
いつの間にか考えこんでいたようだ。
「行きましょうか、カチューシャ」
そして、私はいつものようにカチューシャを肩車して、大洗のメンバーがいる場所へと向かうのでした。
大洗のメンバーがいる場所へと着いたのですが、なにやら雰囲気がおかしい気がする。
どうみても勝ったチームとは思えないほどに、全体の空気が重くなっている。
なにかあったのだろうか?
とりあえず、大洗の隊長に話しかけよう。
「少しよろしいですか?」
「あなたたちは、プラウダ高校の……」
「聞きたいことがあるの、いいかしら?」
どうやら本当に彼女たちに話したいことがあったようで、カチューシャは話しかける。
「…なんでしょうか?」
「包囲網の一部を薄くしていたのに、なんでそこを攻めてこなかったの?あえて分厚いところを攻めてくるなんて思いもしなかったわ」
「あれは八幡くんが…えっと、うちの副隊長なんですけど、他のやつは全部私たちを誘い込むだけの罠でしかないって、言っていて」
なるほど、こちらの意図が相手に看破されていたのですね。
ですが……。
「それでも、わざわざ中央突破をしなくてもよかったのでは?」
あれは成功したからよかったものの、失敗していれば、あそこで全滅していた可能性があった。
「私たちが勝つにはどうしてもあなたたちの注意を惹き付ける必要がありました。だから、あえてそうしました」
あえてこちらの包囲網の分厚いところを攻めこみ、こちらを、いえ、カチューシャを煽ったということでしょうか。
確かに、カチューシャならああされてしまえば追いかけてしまう。
その結果、途中車両が二両ほど少なくなっていても彼女は気にせず、フラッグ車を叩きにいった。
そして、私たちはフラッグ車を撃破できず、むしろこちらのフラッグ車が撃破されてしまった。
驚くべきことは、これが計算されて行われていることだ。彼女の口ぶりからはこうなるとわかっていたようにも聞こえる。
「こうなると確信があったんですか?」
「あったというか、なんというか…」
どうも歯切れが悪い、どうしたのだろうか?
「こうすれば絶対に相手の隊長は頭に血がのぼって私たちを追いかけてくるから、後は時間との勝負だって」
「それも彼が?」
「はい」
どうやら、私たちは完全に相手の掌の上で踊らされていたようです。
しかし、彼はカチューシャのことをよく理解している。会ったのはお茶会のときと試合前に会ったときだけだ。
それだけで、ここまでわかるだなんて……。
「それはわかったわ!なら、なんであなたたちはそんな辛気くさい顔をしているの?このカチューシャに勝ったんだからもっと嬉しそうにしなさいよ!」
「それは……」
カチューシャの言葉で表情が暗くなる。
「それにあいつはどこにいるの?姿が見えないんだけど」
「!、えっと…」
この反応、どうやら大洗の人たちのこの雰囲気は、彼が関係しているようだ。
これ以上は聞いてもあまりよくはないでしょう。
「カチューシャ」
「なに?」
「そろそろ戻りましょうか」
「…そうね。決勝、頑張りなさいよ!無様な戦いなんてしたら承知しないんだから!」
カチューシャにしては珍しく相手を励ましている。
「は、はい!ありがとうございます!絶対に"全員"で決勝戦を頑張ります!」
そういった彼女はなにかを決意したのだろう。
先程までの暗い雰囲気がなくなっている。
さて、私たちも帰りましょう。
その帰り道、私は気になっていたことをカチューシャに聞く。
「カチューシャ」
「どうしたの?ノンナ」
「彼に会ってどうするつもりだったんですか?」
「……」
「カチューシャ?」
「…頭」
「なんですか?聞こえませんよ?」
「頭撫でてもらおうと思ったの!」
そういえば、あの時にも彼がカチューシャの頭を撫でていた。
「そんなに気に入ったのですか?」
「ノンナ、あいつのなでなではそんじょそこらへんのレベルじゃないわ、あれはもうこくほうきゅうよ!」
彼女にここまで言わせるとは……。そんなにすごいのだろうか?
彼に、そのなでなでのやり方を教えてもらえれば、もっとカチューシャを愛でることができるかもしれない。
これは近々、彼の元に行かないといけませんね。