間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
「――というわけなんだ、小町」
『どういうわけなの? ちゃんと説明してよ。お兄ちゃんは妹をなんだと思ってるの? そんな言葉でわかるわけないでしょ、馬鹿なの?』
「そこはなんとか察してくれ」
正直、説明するのがめんどくさい。ならなんで小町に電話をかけてるかって? シスコンなんだよ。言わせんな、恥ずかしい。
『いやいや、無理だから』
しょうがない、説明するか。俺は小町にことの顛末を教える。
『ほえ~、婿養子。なるほどなるほど、まさかそっちが動くとは』
「そっち?」
『あ、今の気にしなくていいよ』
いや、そう言われても気になるから普通に。なにごとも中途半端はいけませんねぇ、小町さんよ。
「……お前、なに知ってるんだ?」
『言ったら小町が消えちゃうかもだから勘弁してほしいかなーって思うんだけど』
「わかった。これ以上は聞かない」
小町が消えるなら仕方がない、これ以上は聞けないな。
『……小町が言っといてなんだけど。お兄ちゃん、小町のこと好き過ぎでしょ……』
「まぁ、実際にそうだしな」
『本当にどうしたの? 気持ち悪いよ?』
ちょっ、気持ち悪いとか酷すぎるだろ、この妹。本当に気持ち悪かったとしても、心の中にとどめておいてくれませんかねぇ。安易に真実を人に告げることはいくないよ!
「……もう切るぞ」
『あっ、待って待って!』
「なんだ?」
『頑張ってね?』
「なにを頑張れと……」
『えっと、いろいろ?』
「小町……」
『なに?』
「わりとシャレにならないから、いろんな意味で俺の将来が確定しちゃうから、無茶を言うんじゃありません」
『えー、小町的にはそろそろお姉ちゃんの顔が見たいかなって―――』
俺は無言で電話を切った。これ以上、小町の戯言を聞いてられるか。
あと早いから、いくらなんでも早いから、お姉ちゃんはせめて18歳になるまで待とうよ。小町ちゃん。
俺は今、西住邸での食事のあと、家に帰れないから小町に連絡を入れていたのだが……。あの子の頭がお花畑過ぎて、お兄ちゃんちょっと……いや、かなり将来が不安だよ。
「ちょっといいかな?」
小町の将来を憂いていたら話しかけられた。
「どうしたんですか? 常夫さん」
西住家の大黒柱……かはわからないが、西住 常夫がそこにはいた。
「お義父さんでもいいんだよ?」
「いやいや、気が早すぎでしょう」
なんであなたはうちの小町と思考回路が一緒なんですか? それ、冗談でもシャレになりませんよ?
「俺に話があるんでしょう? 変なボケはかまさなくていいですから」
「おやおや、あながち冗談でもないだろうに。君が戦車道の全国大会で負けたら、まほの婿養子になるんだろ?」
「……負けたらですよ。俺は負ける気はさらさらないんで」
「うちのまほが嫌いなのかい?」
「……そういう話じゃないと思うんですけど……」
別にまほさんのことは嫌いではない。けど、問題はそこじゃない。俺なんかが婿養子とかまほさんが可哀想すぎるだろ。俺の負けられない理由の一つである。
「実際問題、まほは強いよ。勝てるのかい?」
常夫さんが言うことももっともである。
「確かに、西住流の戦車道は圧倒的火力と統制された陣形での短期決戦の決着を目指す強力な戦術ではありますけど……」
「けど?」
「あくまでも戦車を動かすのは人間です、それならつけいる隙はいくらでもあります。相手が正攻法でくるなら、こちらは搦め手で行きますよ」
わざわざ同じ土俵で戦う必要などないのだ。殲滅戦なら絶望的だが、戦車道の全国大会はフラッグ戦だ。
だから極論、こちらがいくらやられようと、最後に相手のフラッグ車を倒せばすべて丸く収まる。
まぁ、問題はどうやってそこまでもってくかではあるが。
「……それに西住の勘当を見過ごすわけにはいかないですし」
「………」
「常夫さん?」
「八幡くん」
「……なんですか?」
「しほのことを誤解しないであげてほしいんだ」
「誤解……ですか?」
誤解ってなんだろうか?
「しほは決して自分の娘のことをどうでもいいとは思っていない、むしろ愛しているんだよ」
「……じゃあ、なんで勘当なんか……それに婿養子のことも」
「勘当のほうに関しては、そうだね。西住流から逃げ出したみほが戦車道をまた再開して、しかも全国大会の決勝まで無名の高校を引っ張り上げてきた。どこぞのマスコミなら面白おかしく記事を書きそうだと思わないかい?」
いわゆる、マスゴミってやつか。
全国大会の決勝は生中継だ。それを加味しなくても注目度は高い。ならそういうやつらがいつも以上に沸いて来てもおかしくはないか。
「だから、そんなことにならないように初めから縁を切っておこうと……西住の為に」
「そう、みほが傷つかないように。婿養子のことにしたってそうだ、娘の将来の為を思ってこそだよ」
「まわりくどくないですか? それならいっそのことちゃんと話した方が……」
「しほは不器用なんだよ」
「いや、それって不器用なんてレベルじゃ……」
「それにしほはあのやり方しか知らないからね」
あぁ、そういうことか。いかんなぁ、今ので納得してしまった。
つまりだ、俺と一緒なのだ。西住 しほ……いや、しほさんは。
周りになんと思われようとも、それで結果が得られるなら問題ない。理解されるための弁明もしない。ただひたすらに自分のやれることをやる。
まったくもって不器用極まりない、本当にそっくりだ。俺と。それに、その娘のまほさんも同じ感じがするしな。
「なんで俺にその話を?」
「うーん、なんとなくかな? 強いて言うなら君が似ていたからかもね」
「……似てるですか?」
「実はね。みほから君のことを聞いていていたんだ」
西住から……なんて言ったのだろうか?
「みほからね”ボコみたいな人に初めて会った!”と聞かされたときはちょっと心配になったんだけど……」
西住さんや、お父上にボコみたいな人に会ったとか言っちゃダメだろ。一般的にボコはいいイメージがないのだから、そりゃ心配されるわ。俺でも小町からそんなこと言われたら心配する。
「あの子は人見知りなところがちょっとあるけど、人を見る目はあるからね。それに、電話越しでみほがよく笑うようになった」
「こっちにいるときは笑ってなかったんですか?」
「……そうだね。小さい頃はよく笑っていたけど、西住流としての手解きが始まってからは徐々に笑わなくなっていったかな。いつも遠慮がちに俯いていた」
俺が最初に会った西住は確かそんな感じだった気がする。俺が「ボコ」と呟いたせいで、一瞬にしてそのイメージが消え去ったが。
「そんなみほが笑うようになった。だから僕は転校したみほのことを心配することがなくなったんだよ」
「それと俺が似ているってのとなんの関係が?」
「あぁ、ごめんごめん。みほから君のことをよく聞くようになってね、似てるなと」
「それって、しほさんにってことですか?」
「……そうだね。不器用なところがなんともね。これはまほにも言えることなんだけど」
「だから俺にさっきの話を……」
「まあ、君が試合に負けて、うちに来るかもしれないし、その時にギクシャクしてもしょうがないしね」
「……そっちが本音だったりしませんよね?」
「あっはっは、そんな、まさか」
この人フレンドリーだなぁ。しほさんやまほさんがあんなんだから余計にそう感じるのかもしれないけど。
「あ、そうだそうだ。そろそろ風呂にでも入ったらどうだい?」
「いいんですか?」
「この時間ならもううちの家族は入り終わってるから気にしなくても大丈夫だよ」
そういうことなら。
「わかりました。入らせてもらいます」
「着替えはこっちで用意してるから」
俺は常夫さんに風呂場まで案内された。
「じゃあ、ごゆっくり~」
案内を終えた常夫さんは手を振りながら去っていった。
さて、風呂にでも入りますか。俺はがらからと扉を開ける。
「え?」
そこにはちょうど着替えていたイッツミーがいた。ふむ、黒か。いやいや、そういうことじゃなくて!
「…………」
「…………」
互いに無言である。現状に頭が追い付いてない。え?なんでこんなことに?
ちょっとまて、常夫さんはさっき大丈夫だって……、
『"うちの家族"は入り終わってるから』
あぁ、そういうことかよ。確かに常夫さんはなにも間違っていない。この西住邸には西住家以外に人間がいるのを忘れてなかったらな。
一人は俺、そしてもう一人は――目の前にいるイッツミー。
とりあえずあれだな。
「あまり背伸びしない方がいいんじゃないか?逆に子供っぽく見えるぞ?」
「なっ!?」
なにしていいかわからなかったから、とりあえず感想を言ってみた。
いやー、うん。自分でいっといてなんだが……なにしてんだ俺?
「………わよ」
おや? イッツミーの様子が? なんだか肩をプルプルと震わせているような? もしかしてあれなの? おこなの? 激おこぷんぷんまるなの?
え?死語?いや、死語って言葉も今日日使わねぇな。
「余計なお世話よ!さ っさと出ていきなさい!」
うわっ、ちょっ、中のものを投げてくるんじゃない!
俺は慌てて外に出ようとしたが、イッツミーが投げてきたものが顔面にクリーンヒット、そこから意識がブラックアウトした。
意識がなくなる直前に俺が思ったことは、なんでこんな時に仕事してんの?ラブコメの神様。だった。
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「知らない天井だ」
生きていたら一度は言ってみてたいセリフが言えたな。というか、まじで知らない天井だ。俺、なにしてんだっけ?
「大丈夫? 八幡くん」
目を覚ましたら、目の前に心配そうに俺を見てくる西住がいた。
「えっと、なにがどうなって?」
「脱衣所で倒れてたんだよ? エリカさんが見つけてお父さんがこの寝室にまで運んでくれたの」
西住が、俺が欲しかった情報を教えてくれる。
「………」
「八幡くん?」
「ん、いや、大丈夫だ」
どうやら警察には通報されてはいないみたいだ。
いやそもそも、あれは俺は悪くはないと思いたい。だって常夫さんに連れられて風呂場に行ったのだ。不可抗力だろ。
いやまぁ、その後に変なことを口走ったのは俺の責任だが。
「心配かけてすまんかったな、西住。自分の部屋に戻っても大丈夫だぞ?」
「え? でも……」
「足滑らせてすっころんだだけだから、そこまで気にしなくて大丈夫だ」
「う、うん。じゃあ、おやすみなさい」
「おう」
西住は渋々と言った感じで部屋を出ていった。俺が気絶させられてだいぶ時間がたったみたいだ。時計を確認したら、もう22時を回っている。
さてと、俺はまた風呂に入りにいこう。さっきは不慮のアクシデントで入れなかったし、今度は大丈夫だろう……不安だからノックはちゃんとしよう。同じ轍は二度も踏みたくない。
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「家もデカいが、風呂もデカかった……」
俺は特に何事もなく普通に風呂を入り終わった。着替えは温泉とかによくある、簡易式の浴衣を想像してもらえればいいと思う。
さっきは異常だったな。普段仕事しないラブコメの神様が仕事なんてするからえらい目に逢った。
しかし、あれだな。ああいうデカい風呂場って無性に泳ぎたくなるんだよな。いや、人んちだしさすがにやらなかったけどさ。
さっきは常夫さんに大見得を切ったのはいいものの、現状、こちらが不利なのは目に見えている。できればこっちの戦車を増やせればいいんだが……。ん? いや、そもそもだ、俺の戦車って使えるのか? プラウダ戦でやばい感じに大破したんだよな。
そんなことを考えながら俺は自分がさっきいた部屋へと戻っていたら縁側に人がいた。こんな時間に?
「どうしたんですか?」
「あぁ、八幡か。君は?」
「俺はちょっと遅めの風呂上がりです。まほさんこそどうして?」
「……私は、ちょっと考えことをしていた」
「それって、もしかして西住のことですか?」
シスコンはいつ何時であろうと妹のことを考えるもんだ。まほさんもその例に漏れないだろう。
「……エスパー?」
これはエスパーですか? いいえ、ただのシスコンです。
「まほさんがわかりやすいだけかと」
「……そんなこと初めて言われた」
いや、まぁね。あなた表情がほとんど変わらないですし、口数も少ないから誤解されそうですもんね。実際に武部たちは誤解してるし。
俺もシスコンという共通点がなければ、わかっていたか怪しいよ?
「………」
「………」
互いに沈黙。別に特段会話がしたかったわけでもなかったので、俺は部屋にでも戻るかな。
そして、俺が戻ろうとしたら……。
「……みほに嫌われたかもしれない……」
まほさんがそんなことを呟く。
突然何を言いだしてるんだこの人は? どう見ても冗談言ってるようなテンションじゃないし。いや、そもそもまほさんが冗談なんて言うのか?
「は? いやいやないでしょ。なんでそんな結論に」
「みほに睨まれた……」
睨まれたって……。もしかしてしほさんとの話し合いのあとの西住のあのことを言ってるんだろうか?いやいや、あれは別にそういうんじゃないだろ。
「勘違いじゃないですか? 俺にはそう見えませんでしたよ?」
「……そうだろうか?」
「そうですよ。そもそもあの西住が人を嫌うってことあるんですか?」
八幡的に全然想像できないんだが。
「……みほはやさしい」
「……そうですね」
俺とまほさん、二人してうんうん頷いてるけど、これ、どういう絵面なんだ?だいぶカオス。
「それじゃあ、俺はこれで……」
とりあえず、まほさんの勘違いは解決したし帰ろうとしたのだが。
ぐいっと、俺の浴衣の裾を掴まれた。
「あのー、まほさん?」
「どうした?」
どうしたって、あなたが俺の浴衣を掴んでるですけどね。
「いや、放してもらってもいいですか? 部屋に帰れないんですけど」
「私の部屋に来ないか?」
………………Pardon? え? どゆこと?