間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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その時は不意に訪れる

 ヘリから見る夕焼けは乙なものですな、まるでいつもと見ている景色と違うようだ。……いや、まぁ。こんな状況じゃなければ尚のことよかったのだが……。

 どんな状況かって? だいぶカオスだよ? 俺が今まで生きてきた中でトップクラスの息苦しさである。

 まず迎えに来たヘリの操縦手がイッツミーさん。あれ? 違う? 気のせいだ。気にするな。それと、俺が出合い頭に睨まれたのも気のせいだと思いたい。

 今はイッツミーのことはどうでもいいのだ。このヘリの空気を重くしている原因が二人いる。誰かって? もちろん西住流のお二方である。ヘリ乗ってからというもの、西住姉妹はまったくもって会話が発生していない。ふえぇ~、空気が重いよ~。

 ……ダメだ。自分でなんとか心を強く保とうとしたがその試みは失敗に終わった。

 いや、そもそも、配置がおかしいと思われる。なんで助手席には誰も座らず、後部座席で俺を真ん中に配置して、姉と妹で俺をサンドするのか。俺は出来れば助手席か窓際がよかったのだが……。

 なんでこの配置になったかというと、イッツミーとまほさんの配置は俺たちを迎えに来た時から変わっていない。

 なので、後部座席に俺たちが後から乗った形になったのだが、西住がどうにも踏ん切りがつかなそうだったので、俺がまほさんの隣に座って緩衝材代わりになったということだね。

 うん。今ちょっと後悔しているよ。ハチマン、オウチ、カエリタイ。

 ……今この場でもっとも必要なのは会話だ! ぼっちなのでトーク力など皆無だが、この現状を西住邸に着くまで我慢できそうにない。

 無言で過ごすことはぼっちの必需スキルなのだが、無理…、この空気は耐えられない……!

 なにが耐えられないって、あまりにももどかしすぎるのだ。なにが?西住姉妹の二人だよ!

 まずは西住。もうこの子はなにかまほさんに話したそうに、なんども視線を向けては外し向けては外しを繰り返している。……もどかしい。

 一方のまほさんはまほさんで、その視線に気づいていながら動こうとはしていない。まほさんの表情はほとんど変わっていないが、わかるものはわかるのだ。たぶん、同じシスコンだからだろう。……もどかしい。

 圧倒的っ…! 圧倒的もどかしさっ……!

 そんな二人に挟まれて、俺のメンタルポイントはぎゅいんぎゅいんと減ずられているわけなのですよ。

 この二人の共通の話題ってなんだっけ? 西住に関しては、イケ魂なのとポンコツなのとボコが好きってことぐらいしか知らんしな。

 まほさんはどうなのだろうか? あれか、俺と一緒で重度のシスコンってことぐらいかしら。

 ……あっ、あったわ共通の話題。というか、これは俺も関係している。あまりにも展開が急すぎて聞くのを忘れてしまっていた。

 

「ちょっといいですか?」

 

 俺は隣にいるまほさんに話しかける。

 

「どうした?」

 

「西住家の本家に向かっているんですよね?」

 

「? そうだが……」

 

 そう。今、俺たちはヘリで西住流の本家に向かっている。別にそれはいいのだ。問題はそこではなく……。

 

「いや、場所はどこなんですかね? 俺聞いてないんで教えてもらえると助かるんですけど……」

 

「みほから聞いてないのか?」

 

「あっ、そうだった。ごめんね? 八幡くん」

 

 まほさんの言葉で西住は俺に謝ってくる。このヘリに乗ってようやっとちゃんとした会話が始まった気がするな。

 

「それで場所は?」

 

「あぁ、私たちの実家は熊本にあるんだ」

 

 熊本、熊本かぁ。割とというか、結構遠いな。そうなると帰りはどうしたらいいのかしら? このまま西住邸に着いて、俺と西住の用件を済ませたら軽く夜遅くになると思うんだけども。

 

「あれ? でもそうなると帰りはどうしたら? 夜遅くに交通手段ってありますか?」

 

「? 泊っていけばいいだろう、別に」

 

 俺の疑問に、まほさんはさも当然のようにそう答えた。

 

「た、隊長!? どういうつもりなんですか!? そんなどこの馬の骨ともわからないやつを泊まらせるなんてっ!」

 

 それにはさすがのイッツミーが黙ってはいなかった。

 いや、怒る気持ちもわかりはするのだが、今は操縦に集中してもらっても大丈夫ですかね? こんなことで墜落とかシャレになりませんのことよ?

 

「エリカ、八幡を呼んだのは私たちなんだ。つまり八幡は客人になる」

 

「で、ですが……」

 

「こちらの用件で呼んでいるのだ、そのまま帰らせてしまっては西住流の名がすたれてしまう」

 

「……はい」

 

 イッツミーは、返事はしているが納得はしていない感じだな。

 いや、そもそも。

 

「俺ってなんで呼ばれたんですかね? まったくもって関係ないと思うんですけど」

 

 西住はまだわかる。だって西住流だしな。俺はなんでだ? 呼ばれる理由も心当たりもないんだが……。

 

「八幡を呼び出したのはお母様なんだ。だからすまない、理由まではわからない」

 

 西住流の当主が俺を?

 

「お母さんが……?」

 

 西住も訝しげな顔をしている。たぶん俺も同じ顔だろう。

 件の人と俺は面識などまったくもってないはずだ。そんな俺が呼び出される理由ってなんだ?

 一つ可能性を上げるなら、俺が島田流と関係しているということぐらいか。

 といっても、俺は別に島田流の教えを教わっているわけではないし、そもそも男だ。呼び出すとしても俺なんかではなく小町の方がまだ納得がいく。

 俺なんか、相手からしたら道端の石っころだろ。そんなやつを西住流の当主がいちいち気にするだろうか?

 今はわからないことに頭を悩ませていてもしょうがない。俺なんかより西住だ。

 

「俺のことは今は置いときましょうか。なら西住はなんで呼び出されたんですか?」

 

 俺の考えがあってるなら、絶対に楽しい理由ではないはずだ。

 

「みほは……」

 

 どうやらまほさんがためらうほどに言い難い内容なのか。この様子を見ると俺の予想は当たってそうだな。

 でもそうなると、やはり疑問は残る。そもそもなぜこのタイミングなのだろうか? 呼び出すにしろ、西住に関しては早めの状態から戦車道に復帰していたことはわかっていたはずだ。

 だって、そうだろ? 蝶野さんは言っていた。西住のことをお嬢様と。

 なら、蝶野さんは西住 しほ、つまりは西住流とそれなりの関係がるのだろう。懇意にしている相手の娘なら会ったことを報告すると思うのだ。

 だから、西住 しほは初めから知っていたはずなのだ、西住が大洗で戦車道を復帰していたことを……。

 

「お姉ちゃん、私のことは気にしなくても大丈夫だよ」

 

 西住は言うのを躊躇っているまほさんに、真っ直ぐ視線を向ける。

 いや、二人して見つめ合うのはいいんだが、中間に俺がいることを忘れないでほしい。

 

「……みほ。強くなったんだな」

 

「大洗のみんなのお陰かな?」

 

「…そうか」

 

 なんで二人して俺を見てくるのかしら?俺は別になにもしていないよ?ホントだよ?

 西住が黒森峰の時より強くなったというのなら、西住がさっき言った通り、大洗の戦車道のやつらのお陰だろ。

 あとはあれか、ボコの存在が強いのだと思う。俺にしろ西住にしろ。

 まほさんもなにかそういったものがあるのだろうか?気に入ってるにせよ好きにせよ、そういったものが。

 うーん……全然想像がつかんな。

 

「みほが今回呼び出された理由は―――」

 

 そしてまほさんが西住が呼び出された理由を語る。

 やっぱりか。俺は驚きよりも納得しかしていなかった。西住流か……、やっぱり西住には向いてないわ。

 そう、はっきりと思う俺がいる。そう思う程度には西住のことを知っているし信頼しているのだろう。

 昔の俺が見たらなんて言うだろうか?勘違いしてんじゃねーとか言いそうだな。言いそうだ、というよりもそれしか言わないと思う。

 なら俺が返す言葉は決まっている、“だからどうした?”だな。

 俺たちを乗せたヘリは西住邸へと向かうのだった。

 

 

 ====

 

 

「でかっ……」

 

 俺がそう呟いてしまうほどには西住邸はデカかった。

 五十鈴の時もそうだが、島田流も西住流もなにをやったらこんな家を建てれるのだろうか? 怪しい匂いがプンプンですねぇ。え? ただのやっかみ? うん、知ってた。

 

「では、我々は行くとしようか」

 

 どうやらラスボスのところへと行くようだ。でもその前に。

 

「あの、トイレってどこにありますか?」

 

 不肖、比企谷 八幡、ヘリで移動中ずっと我慢していたのでこれ以上は無理そうなのである。

 

「エリカ、案内してやってくれ」

 

「隊長! なんで私が!」

 

「私とみほは先にお母様のところへと向かう。エリカなら何度かここに来たことがあるから大丈夫だと思ったんだが……」

 

「だ、大丈夫です! 任せてください!」

 

「そうか、頼んだぞ」

 

「はいっ!」

 

 そして西住とまほさんは最終ダンジョンへと向かったのだった。いろいろと大丈夫だろうか?

 

「なにボケっとしてるの、早くいくわよ。隊長を待たせる気?」

 

 イッツミーはまほさんのことを好きすぎないか? あれか? もしかして西住につっかかっていたのはまほさんの近くにいるから、嫉妬していただけなのかしら。

 そう思うと今までの行動が可愛く見えてくるのはなんでだろうか?いや、そんなことより今はトイレが優先だ。

 

「へいへい」

 

 

 ====

 

 

 イッツミーの案内により俺はトイレに向かうことができた。

 ふぅー、スッキリした。これでなにも気兼ねなく西住流のボスと戦える。ん? 戦う? なんで俺は争う前提なんだろうか? まぁいいや、それよりもイッツミーはどこだ。最終ダンジョンへと案内してもらわないといけないのに……。

 俺は周りを見渡してみるとイッツミーは誰かと話していた。しかも男性。この西住邸で男性? しかもなんかどことなく雰囲気が西住に似ているような?

 とりあえず話しかけるか。

 

「なにしてるんだ?」

 

「見てわかるでしょ? 会話してるのよ」

 

 いや、俺が聞きたいのはそういうことじゃなくてだな。

 

「ん? 初めて見る顔だね、君はエリカちゃんの彼氏かなんかかい?」

 

 イッツミーと話していた男性はいきなりそんなことを言ってくる。確かにこの西住邸で俺みたいなやつがいるのはおかしいのだろうが、それでも彼氏はないだろ。

 あなたのその理論でいくと、イッツミーは他人の家に彼氏を連れ込んできているというとんでもない女になるんだが……。

 イッツミーではなくイッツビッチになってしまう。…言わんどこ、絶対にキレられるわこれ。

 

「おじさん! 冗談でもそういうことは言わないでくださいっ!」

 

「あははっ、ごめんごめん。エリカちゃんが男の子と話しているのが珍しくてついね。いつもまほにべったりだからさ」

 

 やっぱりイッツミーは、まほさん大好き人間だったか。

 

「それで君は?」

 

 さっきの会話を聞く限りじゃどうもこの人、西住の父親っぽいな。西住はこの人に似たのか。ということは、まほさんは母親似になるのだろうか。その答えはすぐにわかることだしどうでもいいか。

 とりあえず今は自己紹介だな。

 

「……えっと、比企谷 八幡です」

 

「比企谷……? そうか、君が……」

 

「え?」

 

「僕は西住 常夫だ。たぶんこれからいろいろ大変だと思うけど頑張ってね」

 

 西住……、やっぱりこの人は西住の父親だったか。いや、それよりも頑張ってとはどういう意味だろうか? この人はなにか知ってるのか? 俺が呼び出された理由を。

 俺は気になったので聞き返そうとしたら。

 

「ほら、さっさと行くわよ。隊長が待ってるんだから!」

 

「いや、ちょっと待って―――」

 

 イッツミーによる強制送還による退場を余儀なくされた。

 いやいや、あなただって常夫さんと話してたんだから俺にも会話ぐらいさせなさいよ。

 

 

 ====

 

 

 そして俺は引きずられながら目的の場所へと着いたのだった。

 

「……」

 

「なにやってるの? 早く入りなさいよ」

 

「いや……」

 

 あれかしら? 魔王城に入る勇者の気持ちってこんな感じなのかしら? 部屋に入る前から空気がやばいのが感じられるんだが……。

 まぁしかし、逃げるなんて選択肢は端からないわけで。西住も先に行ってるのだ。俺も覚悟を決めないと。

 

「よしっ……。ん? お前は入らないのか?」

 

「私は関係ないから入れるわけないでしょ…」

 

 え? そうなの? てっきりついて来ているからそういうもんだとばかり……。

 

「なによ?」

 

「いや、なんもねーよ」

 

 とりあえず、行くか。

 そして俺は魔王城への襖を開けるのだった。

 中には、先に行っていた西住、まほさん、そして……。

 

「……来たわね」

 

 西住流の当主にして西住、まほさんの母親である西住 しほがそこにはいた。

 凛とした佇まい、ムッとした表情。やはりまほさんはこの人に似たのだろう。そっくりだ。

 

「なぜ俺を呼んだんですか?」

 

 まどろっこしい話は抜きだ。単刀直入に行かせてもらう。

 

「聞きたいことと話したいことがあったので、まほに頼んで呼んでもらいました」

 

「聞きたいこと……ですか?」

 

「えぇ」

 

 俺なんかに聞きたいことってなんだ?

 

「あなたは新しい流派、つまりは比企谷流を作るつもりなのかしら?」

 

「は?」

 

 いかんいかん、あまりにも予想外な質問をされたから素で返してしまった。

 

「すいません。……えっと、新しい流派とか、誰がそんな頓珍漢なことを……?」

 

「あなたの妹、比企谷 小町が言っていたわ」

 

 ……は? 小町? いや、ちょっと待ってくれ。小町さん? あなたはまた俺が知らないところで一体なにをやらしてるんだよ。比企谷流? ヒキガエルの間違いだろ。語呂も似てるし。

 

「そんな小娘の言うことなんて気にする必要があるんですか? あなたたちにとってはどうでもいいでしょうに」

 

「……そうね。それを体現するものが一人なら私も特段気にもしなかったのでしょうね」

 

「? それはどういう……」

 

「あなたよ」

 

 俺? 俺がなんだというのだろうか?

 

「彼女が言っていたことは二つ。一つは先程言っていた比企谷流、もう一つは……彼女の戦車道があなたの模倣であること」

 

 そういえば、蝶野さんも同じようなこと言っていたな。小町の戦車道は俺を模倣していると。

 

「そのあなたが戦車道の全国大会の決勝まで駒を進めた。なら……」

 

「その信憑性が増す、と?」

 

「そういうことね。それで実際のところは?」

 

「俺はそんな大それた考えはしてませんよ……」

 

「……そう。ところであなたはみほとはどこまで関係が進んでいるの?」

 

「へ?」

 

「お母さん!?」

 

「みほ、静かにしなさい。私が今話をしているでしょ」

 

「……はい」

 

「………」

 

 ちょっ、この人、いきなりなにを言いだすんだ? あまり不穏なことを言うのはやめてもらっていいですかね。まほさんの表情は変わってないが、確実にあれはやばい。俺の発言次第では即座に……。

 というかそもそも、なんで俺と西住の関係をこの人が気にするんだろうか? だってこの人は……

 

 ―――西住に勘当を言い渡すためにわざわざ呼び出したのに。

 

「関係もなにも、俺と西住はただの戦車道の仲間ですよ」

 

「……ただの……」

 

 あれ? なんで西住が落ち込んでるんだ?なにか俺は間違ったことでも言ったかしら?

 

「では、好きな人か付き合っている人は?」

 

 なんでさっきから話がそっち方面なんだろうか? これになんか意味があるのか?

 

「……いませんけど」

 

「……そう、なら問題はないわね」

 

「それは一体どういう――――」

 

「西住流の婿養子として来る気はないかしら?」

 

 

 …………………………は?

 

 

 続く。え? 続くの?


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