間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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それが彼の選択

「戦車が冷えるので、素手で触らないようにしてください」

 

「手の空いたものは暖をとれ!」

 

「スープ配りまーす」

 

 西住、河嶋さん、小山さんが各々にみんなに呼びかける。

 試合再開までまだまだ時間はあるからな、体が冷えるのもそうなんだが、全員のやる気が最後まで持つかどうかも重要だろう。空腹と寒さで精神的に追い詰められていく思う。

 でも、たぶん、こいつらならもう大丈夫だろう。

 冷泉たちが偵察に出ていった後。天候が更に悪くなり、吹雪いてきた。雪で視界が悪くなる。これは試合にも影響しそうだ。それがどっちにとって有利になるかは神のみぞ知るところか。

 

「こんなに天気が荒れていたら、偵察にいったみんなは……」

 

 西住も冷泉たちを心配してか、不安そうな顔になる。

 さて、あいつらが持って帰ってくる情報次第では、俺たちはどう動くかが変わってくる。

 そして噂をすればなんとやら。秋山たちは歌を歌いながら、冷泉たちは走って戻ってきた。

 

「ただいま帰還しました!」

 

「こちらも偵察終わりました!」

 

 秋山たちが持ち帰ってきた情報を地図に書き込み、更に詳細にしていく。

 ふむ、これは……。

 

「あの雪の中でこんなに詳細に、これで作戦が立てやすくなりました。ありがとうございます!」

 

「雪の進軍は結構楽しかったです!」

 

「うむ、楽しかった」

 

「敵に見つかって逃げ回ったのがかえってよかったな」

 

「なに言ってるの!? 見つかったのも作戦よ!」

 

「はいはい……」

 

 あいつら仲良くなってんな。

 まぁなにはともあれ、これだけの情報があれば、敵の作戦や意図もわかりやすくなるだろう。

 俺たちはこれからどう動いていくかの指針を決めていく。というかこの配置といい、さっきの作戦といい、なんでこうわかりやすいかね、あいつは。

 西住もこの布陣の意味にすぐに気づいたし、俺たちはそんなに簡単にひっかると思われているらしい。

 まぁ相手方さんもこちらを舐めてるってことで、さっきのお礼にでも行くか。降伏時間まで1時間切ってるが、まだ時間あるな。

 

「西住」

 

「どうしたの八幡くん?」

 

「ちょっと相手の隊長に挨拶してくるわ」

 

 俺は近くのコンビニに散歩に行くノリで西住にそう伝える。

 

「え? うん、いってらっしゃい……って、え!?」

 

 俺は西住の返事を聞く前に吹雪の中に突入し、あの小さい隊長のところへと向かうのだった。

 

 

 ====

 

 

 私はボルシチを食べたあと眠くなったから寝ていたんだけど、誰かが名前を呼んでいる気がする。

 もう、誰よ。人が気持ちよく寝ているときに起こそうだなんてふとどき者は。

 

「カチューシャ」

 

 私の名前を呼んでいたのはノンナだった。

 むぅ、ノンナなら仕方がない。ほかのやつらだったら、シベリア送りにしてたけど。

 

「もう時間になったの?」

 

 私はあくびと背伸びをしながらノンナにそう聞く。

 

「いえ、まだあと一時間あります」

 

「? じゃあ、なんで起こしたの?」

 

「あなたにお客人です」

 

「私に?」

 

「えぇ……」

 

 そう言われて周りをよく見てみると、あいつがいた。この前、ダージリンが連れてきたよくわからない男。

 あのお茶会の時もよくわからなかったけど、試合前に少し話した時も結局よくわからなかった。

 私があいつの仲間をけちょんけちょんにすると言ったのに、返ってきた言葉は「むしろお願いする」だなんて、あんなこと言う奴は初めてだった。

 

「で? 何しに来たの? とうとうカチューシャの下僕になる気でもなったのかしら?」

 

 とりあえず牽制。これが私なりの人へのあいさつの仕方でもある。小さいと何かと舐められてしまう。だから少しでも相手を威嚇するためにこんな言葉遣いになった。

 目がどんよりとしていてやる気がなさそうなあいつの返答は、カチューシャがまったく予想にもしていない言葉だった。

 

「いや、お前にお礼を言おうと思ってな」

 

「へ? お礼?」

 

 あまりにも予想外だったから変な声が出た。

 

「あぁ、お前のお陰で大洗の問題は解決した。だから、ありがとうだ」

 

 目の前にいる男はとても優しい顔でそう言う。

 というか、なんで自分はこんなにもドキドキしているんだろうか。カチューシャと戦ってきたやつでこんな顔をしたやつなんて一人もいなかった。

 当たり前だと思う。だって私はそういう戦い方をしてきたのだから。

 だからこのドキドキは寝起き故のせいなのだと思う。たぶん。

 

「やっぱりあなた勝つ気がないの?」

 

 そんな顔をされる理由がわからなかったから、とりあえず適当に言ってみる。

 

「なんで?」

 

「まだ試合が終わってないのにお礼だなんておかしいじゃない」

 

「それはあれだ……。勝った後にお礼なんて言えないだろ?」

 

 負ける気はさらさらないってことね。

 

「ふーん、まだあの状況で勝つつもりなのね。でもあなたがそうでもほかのやつらはそうとは限らないわよ?」

 

「……大丈夫だ。あいつらはもう俺がいなくてもやっていけるからな。心配なんてしてない」

 

 またさっきと同じような表情をする。

 

「ふ、ふん! そんなことを言ってられるのも今のうちよ! 私たちの親愛なる同志が、あなたたちをけちょんけちょんにしてくれるんだから!」

 

「試合始まる前にもそういってなかったか?」

 

「あれはたまたまよ! うちのかーべーたんがほんきを出せば一瞬なのよ!」

 

「そういうことにしといてやるよ」

 

「ふみゅっ……」

 

 あいつはそう言いながらカチューシャの頭を撫でてきた。突然されたものだから変な声が出てしまったじゃない! ……別に、嫌だったとかそういうわけじゃないけど……。

 

「じゃあな」

 

 そう言ってあいつは帰っていった。

 なんで、なんであいつはあんな顔をしたんだろう。わからないけど、カチューシャがやることにはなにも変わりはない。いつも通り相手を倒すだけよ。

 でも……。

 

「ノンナ」

 

「どうしました、カチューシャ?」

 

「あいつの名前は?」

 

「………」

 

 ノンナはなんか意外な顔をしている。私はそんなに変なことでも言ったのだろうか。

 

「ノンナ?」

 

「いえ、彼の名前は比企谷 八幡と言います」

 

「比企谷、八幡……」

 

 なら、ハチーシャってとこかしら。

 次からはそう呼ぶことにしよう。別に他意はない。なんとなく、そう思っただけ。

 

 

 ====

 

 

 カチューシャたちが俺たちを包囲しているが、その布陣には防壁が薄いところがある。

 西住とも話し合った結果だが、二人とも同じ意見になった。突破するのは防壁の薄いところではなくむしろ厚いところ。理由は簡単、だってあからさますぎるのだ。ここを攻めてくれと言わんばかりの布陣。十中八九罠だろうな。フラッグ車の方も同じ理由で却下。

 なら、俺たちはそこには攻め込まず、相手の意表を突くためにあえて、ぶ厚い方へと行くことにした。

 問題はその後、包囲網を突破したあと、どうやって勝つかだが……。

 ん?なんか聞き覚えのある歌が聞こえてくるんだが、なんでだ? 俺は疑問に思いながら帰還し、その理由はすぐにわかった。

 

「……お前ら、なにやってるんだ?」

 

 西住たちがなにをやってるかって? あんこう音頭踊ってた。いやまじで。たしかこれって中継されてるんだが、わかってるんだろうか。

 

「へ? は、八幡くん!? い、いつからそこに?」

 

 どんだけあんこう音頭に集中してるんだよ。俺が話しかけるまで気づいてもらえなかった。たぶん、俺のステルス性能は関係ないと思う。

 

「今さっきだ。で? なんであんこう音頭を踊ってるんだお前らは」

 

 俺の疑問に答えてくれたのは秋山だった。

 

「西住殿がみんなのやる気を出すために踊りだして、みんなが踊りだした感じです!」

 

 西住もだいぶ会長に毒されているな。なにもあんこう音頭でもなくてよかっただろうに。

 いや、結果的に言えば、間違っていないんだが。やはりどこかずれてるな西住は。

 

「比企谷殿も一緒に踊りましょうよ!」

 

 秋山か俺を誘ってくる。

 

「いや、もうそろそろ時間だぞ」

 

 それに俺が踊るとテロになるから却下で。

 そして相手さんもちょうど来たようで。

 

「もうすぐタイムリミットです。降伏は?」

 

「降伏はしません。最後まで戦います!」

 

 

 ====

 

 

 俺たちは戦車に乗り込んでいく、その途中で会長が西住に話しかける。

 

「西住ちゃん!」

 

「え?」

 

「私らをここまで連れてきてくれてありがとね。あと比企谷ちゃんも」

 

 毎度のことながら俺を添え物みたいに扱うのはやめてほしい。それに……。

 

「これで終わりじゃないですよ。まだ決勝が残ってるんですから」

 

「……比企谷ちゃん。うん、そうだね、そうだった」

 

「行くぞ、西住!」

 

「う、うん!」

 

 そう、会長たちの戦車道はこれからまだ続くのだ。だからまだあきらめるのははやい。勝利の女神はまだどちらにも微笑んではいないのだから。

 

『それではこれから、敵の包囲網を一気に突破する、ところてん作戦を開始します。……パンツァー、フォー!』

 

 

 さて、先程も話したと思うが、このところてん作戦が終わってからが勝負の肝だ。なんでところてんなのとかは聞かないでくれ。俺にもわからん。

 話がそれたな。

 どこまで話したっけか、そうそう作戦が成功したらの話だったな。

 まずこちらの車両が七両、相手は撃破したといってもまだ十二両も残ってる。しかも戦車としての性能も段違いであちらの方が上だ。このまままともに戦ったら勝ち目はない。

 だからまともに戦わない。

 たぶんだが、相手は下手にフラッグ車は動かさないはずだ。動かさないというよりは動かす意味がないといってもいいだろう。

 下手に動かして、なんかのはずみで撃破などシャレにならない。ならいっそのこと動かさず、他の車両に守らせていた方が安全だ。

 だからそこを突く。そのためには相手の戦力の注意を引き付ける必要がある。こちらのフラッグ車を囮にしての盛大な鬼ごっこが始まるわけだ。

 相手の戦力を引き付けてる間に相手のフラッグ車を叩くしかない。

 

 

 ====

 

 

 試合再開の合図とともに、38⒯を先頭に大洗の戦車が大聖堂から一斉に走り出す。

 彼女たちの戦車はそのまま包囲網の薄いところへと向かっていく――ように見せかけ、そのままぶ厚い相手の包囲網の方へと走り出すのだった。

 そんな大洗を迎え撃つべく、プラウダもまた砲撃を始める。だが、吹雪で視界が悪いこともあって、なかなかにその砲撃は当たらない。

 38⒯がそのままその砲撃をかいくぐって敵の車両を一両撃破。その隙に大洗の他の車両も一気に包囲網を抜けていく。

 

『前方、敵四両!』

 

 しかし、その包囲網を抜けても依然としてプラウダの車両は立ちはだかる。

 

『こちら最後尾、後ろからも四台来ています、それ以上かも』

 

『挟まれる前に隊形崩さないよう、十時の方向へ旋回してください!』

 

『前の四両引き受けたよ!上手くいったら後で合流するね!』

 

「T-34、74、86にスターリンかぁ、堅そうでまいっちゃうなぁ……。小山! ねちっこくへばりついて!」

 

「はい!」

 

「河嶋! 装填早めにね!」

 

「はい!」

 

「38⒯でもゼロ距離ならなんとか……『西住ちゃん! いいから旋回して!』」

 

『わかりました!気を付けて!』

 

 38⒯だけが前方の四両へと立ち向かい。その間に大洗のほかの車両は十時の方向へと旋回する。

 そのまま加速して近づいていき、ゼロ距離で攻撃を当てるべく、相手の車両と車両との間を駆け抜けながら履帯やエンジン部を狙い砲撃をする。

 だが、距離が遠かったのか、砲弾が弾かれる。

 

「失敗、もういっちょ!」

 

「はい」

 

 装填が行われ、追撃。

 

「もういっちょ!」

 

「はい!」

 

 さらに追撃!

 38⒯は次々と相手の砲撃を掻い潜りながら、着実に相手の車両に砲撃を当てていく。

 

「よーし、こんぐらいでいいだろう。てっしゅ~」

 

「お見事です!」

 

 その直後、砲弾が38⒯を直撃する。

 38⒯も健闘はしたが、相手もそう甘くはなく、応援に来たプラウダの車両に38⒯は撃破されてしまうのだった。

 

『いやーごめん。二両しかやっつけられなかったうえにやられちゃった。あとはよろしくね』

 

『わかりました。ありがとうございます』

 

『頼んだぞ!西住!』

 

『お願いね!』

 

『……この窪地を脱出します!全車あんこうについて来てください!』

 

『『『はい!』』』

 

 勝利の女神はどちらに微笑むのか、いまだ天秤はどちらにも傾いてはいない。

 

 

 ====

 

 

『なにやっているのよ、あんな低スペック集団に!全車で包囲!!』

 

『こちらフラッグ車、フラッグ車もですか?』

 

『アホか!あんたは冬眠中のヒグマ並みに大人しくしてなさい!!』

 

 

 ====

 

 

『麻子さん、二時が手薄です! 一気に振り切ってこの低地を抜け出すことは可能ですか?』

 

「了解。多少きつめに行くぞ」

 

『あんこう二時、展開します! フェイント入って難度高いです、頑張ってついて来てください!』

 

『了解ぜよ!』

 

『大丈夫?』

 

『大丈夫!』

 

『マッチポイントにはまだ早い! 気ぃ引き締めていくぞ!』

 

『『『おお――!!』』』

 

『頑張るのよゴモヨ!』

 

『わかってるのよそど子』

 

『あの、冷泉さん。少し手加減してもらうってのは……』

 

『ふっ、頑張れ比企谷、お前ならできる』

 

『いや、できないから言ってるんだが……』

 

『人間、死ぬ気でやればなんでもできる。行くぞ』

 

 そしてⅣ号を先頭に大洗の車両は麻子の宣言通り、何度もフェイントが入りながらもしかっりとついていくのであった。

 

「見えたぞ」

 

 大洗の面々は向かう、最初に榴弾で溶かしたあの場所へと。

 直後、相手が手当たり次第に機銃曳光弾を撃ってあたりが照らされていく。

 

『カモさーん、追いかけてきているのは何両ですか?』

 

『えーと…全部で6台です!』

 

『フラッグ車はいますか?』

 

『見当たりません!』

 

『カバさん! あんこうと一緒に坂を乗り越えた直後に敵をやりすごしてください。主力がいないうちに敵を叩きます! ウサギさん、カモさん、ボコはアヒルさんを守りつつ逃げてください。この暗さに紛れるためにできるだけ撃ち返さないで!』

 

『『『はい!』』』

 

 そして最初に定めていた作戦通り、Ⅳ号とⅢ突は坂を上ったあと、榴弾で溶かした雪の残骸の陰に隠れ、他の車両はそのまま走り抜ける。

 それを追いかけプラウダの車両もそのまま通り過ぎる。

 相手が通り過ぎたことを確認し、Ⅳ号とⅢ突は決着を着けるべく、相手のフラッグ車の元へと急ぐのだった。

 ここからは先にフラッグ車を撃破した方が勝つ。あたりまえであり、単純明快な答え。

 それでもまだ、勝負の行方はわからない。

 

 

 ====

 

 

『追え追えー!!』

 

『二両ほど見当たりませんが』

 

『そんな細かいことはどうでもいいから、永久凍土の果てまで追いかけなさい!』

 

 あくまで目標はフラッグ車、関係のないどうでもいい車両など放っておけばいい。

 直に援軍もくる。そうなれば相手はもう終わりだ。

 

 

 ====

 

 

 そして一方のⅣ号、Ⅲ突はというと相手のフラッグ車がどこにいるのか目星がついていない。

 

 その現状を打破するためにみほは動く。

 

「優花里さん、もう一度偵察にでてくれる?」

 

「はい!よろこんで!」

 

 そのまま優花里はⅣ号を飛び降り、相手のフラッグ車を見つけるため、高い場所へと目指すのであった。

 

 

 ====

 

 

『遅れてすいません!IS-2、ただいま来ました』

 

「きたー!ノンナ!変わりなさい!」

 

「はい」

 

 IS-2はノンナが乗ることにより変貌をとげる。長距離射撃こそが彼女の得意分野、そのスタイルはサンダースの砲手と酷似している。このままだと大洗は……。

 

 

 =====

 

 

 優花里はようやく高台を見つけ、フラッグ車を探す。時間がない、急がないと。

 そしてようやく。

 

『あっ!発見しました!』

 

 これで互いに王手をかけた。あとはもう時間との勝負だ。

 

 

 ====

 

 

 フラッグ車率いる大洗は苦戦を強いられている。IS-2に乗ったノンナの長距離射撃の前に文字通り手も足も出せない状態だ。

 最初の一発は外れたが、あとは誤差を調整して次からは当ててくるだろう。

 

『なんなのよあれ! 反則よ校則違反よ!』

 

「どうしよう?」

 

「私たちのことはいいからアヒルさんを守ろう」

 

「そうだね。桂里奈ちゃん、頑張って!」

 

「よっしゃー!!」

 

 M3がフラッグ車のアヒルを守るように後ろに張り付く。その直後にノンナの砲撃によって撃破されてしまうのだった。

 

『ウサギチーム、走行不能!』

 

『みなさん、大丈夫ですか!?』

 

『『『大丈夫でーす!』』』

 

『メガネが割れちゃったけど大丈夫でーす』

 

『カモさん!クマさん!アヒルさんをお願いします!』

 

『おう』

 

『了解! ゴモヨ! パゾ美! 風紀委員の腕の見せ所よ!』

 

 

 ====

 

 そしてプラウダのフラッグ車はというと。

 

『カチューシャ隊長、こちらフラッグ、発見されちゃいました! どうしましょう? そちらに合流していいですか? とういうかさせてください!』

 

 Ⅳ号、Ⅲ突に見つかり追いかけ回されていた。

 

『単独で雪原を出たらそれこそいい的になるだけよ!!』

 

『ほんの少し時間さえいただけたら、必ず、仕留めて見せます』

 

『というわけだから! 外に逃げずにちゃかちゃか時間稼ぎして。なんなら頼れる同志の前に引きずり出したっていいんだから』

 

 カチューシャの指示通り、フラッグ車は外には逃げず、追いかけてくるⅣ号とⅢ突を倒すために、KV-2が立ちはだかるのだった。

 

『来た、ギガント!』

 

『大丈夫!』

 

 KV-2からの砲撃をⅣ号とⅢ突は避ける。

 

『停止!』

 

 即座にそのまま停止。

 

『KV-2は次の装填までに時間があるから、落ち着いて!』

 

 ここで外しては意味がないが、かといって適当に撃っても相手は撃破することはできない。

 

「はい。もっとも装甲の弱いところを狙って……」

 

 狙うはウィークポイント。

 

『撃て!』

 

 みほの指示で二両同時に砲撃を行いKV-2を撃破。

 

 

 ====

 

 

 時を同じくしてカモチームのルノーも撃破される。

 

『カモチーム撃破されました!アヒルさん、クマさん、健闘を祈ります!』

 

『『『はい!』』』

 

『…………』

 

 最後に残ったフラッグ車と八幡の戦車、彼も同じようにフラッグ車がやられないよう後ろにつく。

 普通ならなんら問題がない行動だが、彼の戦車は今や普通ではない。何故なら……、特殊カーボンがほとんど役目を果たしていない。戦車道のルール規定に触れるか触れないかレベルまで特殊カーボンが薄くなっている。

 そのままIS-2の高い火力での砲撃をくらうと危ないとわかっていても、彼の行動は変わらない。まるで自身のことなどどうでもいいかのように彼は迷いなく行動するのだった。

 

 

 ====

 

 

『みぽりん! 急がないと! あとはクマさんとアヒルさんだけになっちゃった!』

 

 急がないと、もう時間は迫ってきている。

 

「グルグル街を周ってるだけ、だったら……!」

 

 みほも覚悟を決め、最後の攻防へと出る。

 

『カバさんチーム追撃を中止してください!』

 

 

 

 それが彼女たちと彼の選択。そして勝利の女神は微笑み、天秤は傾く。

 

 戦車道全国大会準決勝。勝者は……。

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

『試合終了…………』

 

 

 

『勝者………』

 

 

 

 

 

『――――――――大洗学園!!』

 

 湧き上がる歓声。その放送に大洗の面々も多いに喜んでいる。だが……。

 

『西住隊長!!』

 

 この準決勝はそれだけでは終わらない。

 

『八幡の戦車が!!』

 

 彼と彼女たちの戦車道も別の意味で終わりが来ようとしていた。

 

『急いでこっちに来てください!!』

 

 結果だけを言おう。

 

 比企谷 八幡は……、この日……。

 

 

 

 ―――――――戦車道を辞めた。

 

 

 


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