間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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チームはやる気を見せ、本格的にまとまりだす

 今日の戦車道の練習が終わった。

 一回戦で勝てたおかげか、俺以外のほとんどのやつらのやる気が凄まじかったな。

 戦車は乗れば乗るほど動きが良くなる、というのは言い過ぎかもしれないが。戦車にだって人間と同様個性があり操縦のやりやすさや本人のフィーリングとか割と馬鹿にはできない。もちろん初めて戦車に乗ってマニュアルを読んだだけで完璧に動かす奴もいるが、大抵はそんなものは無理である。

 戦車道は一日にして成らず! という言葉があるように、日々の積み重ねがなにより戦車の操縦に関係している。

 まあ、俺はどうやっても戦車に乗れなかったから、作戦関係を重点的にやっていたせいで戦車の操縦なんて素人当然だったが、今はそれなりに動かせている。

 動かせはしているんだがやっぱりネックになるのが一人乗り故の行動のラグだな。

 装填してから狙いを定めるのに時間がかかりすぎる。最近鍛え直しているとはいえ砲弾は重い。どうにかして同時にやれないもんか、あと砲弾ももう少し積めれるようにしたいし……。

 あれだな、自動車部の人たちにでも相談してみるか、なんかいいアイデアとか思いついてくれるかもしれん。

 

 さて、練習が終わったのはいいんだが、いつのまにか会長が全員を集めている。

 やべっ、早くいかないと河嶋さんにどやされる。

 

「よ~し、全員集まったね。これから重大な発表するよ~!」

 

 そして会長は俺に意味ありげな視線を送ってくる。今度はなにを企んでるんだこの人は?

 

「比企谷ちゃん、例のぶつは持ってきてるんでしょ?」

 

 例のぶつってまさかあれか? なんでこの人が知ってるんだ?

 と思っていたら秋山のやつが俺にすまなそうにシュンとしている。もしかして話していて聞かれたとかそんな感じだろうか?いや別にそこまで気にしなくてもいいだろうに。

 

「これですか?」

 

 俺はカバンに入れていたボードゲームを会長に渡す。

 

「うんうん、ありがとう比企谷ちゃん」

 

「会長さん、それなんですかー?」

 

「今、比企谷ちゃんからもらったこれはね戦車のシミュレーションゲームだよ」

 

「そのボード盤がですか? それで一体なにを?」

 

 もっともな意見だと思う。俺にさっき送ってきた意味ありげな視線といい碌なことではないんだろうけど。

 会長はいったん全員の顔を見渡しこう告げる。

 

「これからみんなにはランキング戦をやってもらおうと思います」

 

 は? ランキング戦? 俺がいぶかしげな顔をしていると。

 

「まぁまぁ比企谷ちゃん、話は最後まで聞いてから判断しようね?」

 

 いやだって絶対なんかあるだろこれ。もう正直この先の説明を聞きたくないまであるんだが。

 

「河嶋~、説明お願いね」

 

「はい、わかりました!」

 

 自分で説明しないのかよ、何のためにみんなの注目を集めたんだこの人は。

 

「このゲームのやり方はあとで説明するが、簡単に言うとこのランキング戦を行ってもらい上位者を決めてもらう」

 

「それを決めてどうするんですか?」

 

「その上位者にはランキングトップと戦う権利が貰えるのだ、そしてそのトップに勝てば……」

 

 河嶋さんに代わり、会長がセリフを言う。

 

「生徒会からいろいろと特典を渡そうと思ってるから頑張ってね~」

 

「あ、あの! 特典とう言うのは実際どのような?」

 

「生徒会で出来ることならなんでもかな~」

 

 いやまたえらく強気で出たなこの会長さん。それだけ勝つ自信があるってことなんだろうがどうするつもりなんだ?

 さすがにこの会長の発言には全員ざわついているな。

 

「そ、それじゃあ、バレー部復活とかは!」

 

 磯辺のやつがさっそく食いついたな、たしかにこんなんで復活できるなら儲けもんだしな。

 

「さすがにそれは無理だけど、体育館での練習の許可とかなら出せるけど?」

 

「た、体育館での練習!」

 

「キャ、キャプテン!」

 

「あ、あぁ、今まで朝練をやるには他の部活より早くくることでしか練習ができなかった私たちにはまたとないチャンス!これはやるしかないな!」

 

「「「キャプテン!」」」

 

「これはバレー部復活の足掛かりだ! 気合い入れていくぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 すごく気合い入ってんな磯辺たち、それを見て他のやつらもやる気になってるみたいだし。

 まぁとりあえずは勝たないといけないんだがな。

 

「して、そのランキングトップとは誰が?」

 

「順当にいけば隊長殿じゃないのか?」

 

「いや、ここは言い出しっぺの会長だろう。それだとあの強気には納得いく」

 

「いや、もしかしたら大穴で八幡かもしれんぞ?」

 

「「「それだ!」」」

 

 いや、それだ! じゃないからなお前ら。

 

「あれ? よくわかったね、ランキングトップは比企谷ちゃんだよ?」

 

 は? まじ? もしかしてさっき秋山が申し訳なさそうにしていたのってまさかこっちか!?

 

「しかし何故八幡が……」

 

「理由は簡単だよ? だって西住ちゃんでも勝てないから、比企谷ちゃんに」

 

 さっきとは違った意味でまたざわつきだす。

 

「な、なんと!? あの隊長殿が!?」

 

「だが先日のサンダースのあの見事な作戦指揮は八幡がとったというぞ?」

 

「それなら納得がいくぜよ」

 

「あれは見事だった、相手の無線傍受を逆手にとったところがまたなんとも」

 

「まぁまぁみんな落ち着いて、とにかくトップは比企谷ちゃん。それに勝てば特典がつくからみんな頑張ってね~」

 

「対戦のルールはこちらでまた詳しく詰めてくるから実際に始まるのは明日からだ!それまでに各自このボードゲームを覚えるように!」

 

「でも一個だと大人数で出来ないんじゃあ……」

 

「そこはこちらも考えがある、チーム戦だ」

 

「チーム戦ですか?」

 

「そうだ。現在分かれているチームごとにランキング戦をしてもらう」

 

「でもそれだと比企谷先輩が不利なんじゃ……」

 

「そこは安心してもらっていいよ~、それぐらいでいいハンデだと思うし」

 

「そ、そんなに先輩は強いんですか!?」

 

「が、頑張ろう! そうしたらウサギ小屋がもっときれいになるよ!」

 

「か、桂里奈ちゃん、すごいやる気だね」

 

「………」

 

「あの沙希ちゃんが珍しくやる気出してる!」

 

「でもなんか、桂里奈ちゃんは目的が違うっぽいよ?」

 

「も、もしチームで勝ったら特典は一つなんでしょうか?」

 

「そうだね~、それだとなんかつまんないし三つまででいいよ~」

 

「よ~し、ウサギさんチーム頑張るぞ~」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

 なんかいつのまにか俺がやるとも言ってないのに話が進んでいる……。というか一つから三つは増やし過ぎだろ。地球製からナメック製に変わったといえばわかりやすいか?そんだけ無茶苦茶なことを会長はやってるんだよな。

 

「ちなみに生徒会もこれには参加する」

 

「え? それだとメリットがないんじゃ?」

 

「私たちが勝ったら全員あんこう踊りね~」

 

 それもうただの罰ゲームじゃ……。というかあの人どんだけあんこう踊りをしたいんだ。

 

「は、八幡、絶対に負けるなよ!」

 

「先輩!お願いします!」

 

「お願いします!」

 

「比企谷、根性だ根性でどうにかしてくれ!」

 

「は、八幡くん、頑張って!」

 

「負けたら承知しないわよ!」

 

 いや俺が戦うのはなにも生徒会チームだけじゃないんだがこいつら全員わかってんの? あんこう踊りが嫌なのもわかりはするんだが……。もういろいろめちゃくちゃだな。

 なんか違う意味で団結力が増してる気がする。

 

「あ、それと比企谷ちゃんは今日から副隊長だからよろしくね」

 

 ちょ、なにこの人重要なことをさらっといってんの?

  あきらかにランキング云々よりこっちの方が大事だろ。

 

「それから比企谷ちゃん、これからは必要だと感じたら無線で全体に指示をだしていいからね?」

 

 なんてことを会長はいうが、そもそも俺なんかが副隊長とか誰も認めないだろ。

 

「なにか言いたそうだね、比企谷ちゃん」

 

「適任者がほかにもいるでしょ? わざわざ俺なんかにしなくても……」

 

「適任者ねぇ、私は比企谷ちゃんが相応しいと思ったから選んだんだけどね。それにみんなも反対の意見はないようだし」

 

 そう言われて周りを見てみると。誰一人として嫌な顔はしていなかった。

 

「八幡くん」

 

 西住が俺の前に来る。

 

「なんだ?」

 

「私たちのことを助けてくれるんだよね?」

 

 たぶん西住が言っているのはあの聖グロとの試合のあとの人力車でのことだろう。たしかに俺は助けるって言ったな。撤回するのもあまりにも無責任だしな。しょうがない、西住に乗せられてやるか。

 

「またえらく高くついたな」

 

「そうかな?」

 

「わかった、やるよ副隊長。俺なんかでよければな」

 

「違うよ、八幡くん」

 

 西住は俺にそう言うが、なんか間違ったか俺?

 

「なんかじゃないよ、八幡くんだからだよ?」

 

 西住は誰でもいいわけじゃなく、俺だから副隊長になってほしいと言ってる。

 ホントに勘違いしそうになる。俺なんかがこの戦車道のやつらの輪の中に入ってもいいだなんて……。だがそれだけは絶対にダメだ。入ってしまえば俺はたぶん決定的に間違えるだろう。いや、たぶん入らなくても。

 今は必要に駆られてないからやってないがその時がくれば俺は躊躇いなくやる。たとえそれで西住たちが傷ついても

 今はこんなことを気にしてもしょうがない。どうせ早いか遅いかの違いでしかないのだから。

 

「まぁとりあえず、これからよろしく隊長殿」

 

「私たちのことも頼ってね副隊長さん?」

 

 なんか西住に俺の心を読まれた気がした。……いや、さすがにそれはないか。

 

「とりあえずこれで終わりかな」

 

「あの~、もし比企谷先輩が負けなかったらどうなるんですか?」

 

「うーんそうだね、この中の誰かとデートとかどう?」

 

 なんでわざわざ俺に話を振るんだこの会長は。まぁ俺の答えは決まっているけどな。

 

「それはただの罰ゲームにしかならないし誰も得しないんで却下で」

 

「じゃあ比企谷ちゃんがテキトーに考えといてくれる?」

 

 そんなんでいいのかよ、ホントに適当だな。

 

「まぁ当たり障りのないやつにしときますよ」

 

「よろしく~」

 

「じゃあこれにて解散! 西住と比企谷は次の戦術会議を行うので生徒会室に来い」

 

「それと交換する部品のリストを作るのを手伝ってほしいんだけど……」

 

「あ、はい」

 

「わかりました」

 

 俺と西住はとりあえず生徒会室か。

 そして俺たちが生徒会室へと向かおうとした時。

 

「先輩、照準をもっと早く合わせるにはどうしたらいいんですか?」

 

「あ……」

 

「どうしてもカーブが上手く曲がれないんですけど」

 

「え、えっと……、待ってね、今順番に……」

 

「隊長、躍進射撃の射撃時間短縮について」

 

「ずっと乗ってると臀部がこすれていたいんだがどうすれば」

 

「隊長、戦車の中にクーラーってつけれないんですか?」

 

「せんぱーい、戦車の話をすると男友達がひいちゃうんです」

 

「私は彼氏に逃げられました~」

 

 おいおい、西住がこの場からいなくなるとわかってから一斉に質問をしてどうするんだよ。西住は聖徳太子じゃないんだからいっぺんに答えられるわけないだろ。

 というか若干名、戦車と関係ない質問が混ざってるぞ。それはわざわざ聞かなくていいだろ。

 

「お前ら俺と西住は今から作戦会議だ! 操縦関係は冷泉に、メカニカルなことなら秋山に、恋愛のこととかは武部でいいだろ……たぶん」

 

「ちょ、比企谷なんで私だけ曖昧なのよ!」

 

 いやだって自称恋愛マスターじゃないの? お前、付き合ったことすらないじゃないの?

 

「八幡さん、わたくしは……」

 

 五十鈴か、そうだな……。

 

「書類関係を手伝ってくれ、頼めるか?」

 

「はい、それなら任せてください」

 

「というわけだ、わかったか」

 

「「「………」」」

 

 なんか反応がないんだが。

 

「やつめ、いきなり副隊長としての風格を……」

 

 いや、そんなんじゃないから。

 

「先輩って割とちゃんと全体のこと見えてるんだ……」

 

 おいそこ! 聞こえてるぞ!

 

「比企谷は捻くれてるからね」

 

 それはもはやただの悪口だからな、武部よ。まぁいい。いや、よくないけど。

 

「とりあえずこれで大丈夫だろ」

 

「う、うん、ありがとう八幡くん」

 

「気にすんな。さっさと済ませようぜ、戦術会議」

 

 俺たちは生徒会室へと向かうのだった。

 

 

 ====

 

 

「グリスは一ダースでいいですか?」

 

「はい」

 

「そちらの書類は?」

 

「戦車関係の古い資料、ここで一緒に整理しようかと思って」

 

「お手伝いします」

 

「本当? 助かるよ」

 

「あ、やっぱりお花があるといいね~。私も華道やってみたいな」

 

「小山先輩、お花の名前がついてますよね? たしか、桃さん……」

 

「私は柚子。桃ちゃんはね……。おーい、桃ちゃーん!」

 

「桃ちゃん言うな!」

 

 なんかこの二人のやりとりを見ていると和んでいる自分がいる。いやー平和だな。

 というか会長さんは会長さんで干し芋食ってるし、ホントぶれないなこの人も。

 

「西住ちゃん、チームもいい感じにまとまって来たんじゃない?」

 

 たしかにあの練習試合から比べるとチームの一体感はでてきてはいる。

 

「あ、はい」

 

「西住ちゃんのおかげだよ、ありがとね……。あとついでに比企谷ちゃんも」

 

 会長さんは西住にお礼をいう。なんかこの人がお礼を言うのってなんか珍しい気が。そして俺はついでですか……。いやまぁ別にいいですけどね。

 

「いえ、お礼を言いたいのは私の方で……。最初はどうなるかと思いましたけど。でも私、今までとは違う自分だけの戦車道が見つかるような気がしてます」

 

 お姉ちゃんとお母さんに認めてもらえるような自分だけの戦車道だったけか? たぶん西住なら見つけることができるだろ。なんとなくだがそう思う。

 

「それは結構、だが次も絶対に勝つぞ」

 

「勝てるかね~?」

 

「チームはまとまって来て、みんなのやる気も高まってきていますけど……」

 

 やっぱり問題があるよな。俺もそのことを会長さんに聞こうと思ってたしちょうどいいな。

 

「戦車だろ? 西住」

 

「うん、そう。正直今の戦車だけじゃ……」

 

「ふむ」

 

 けど一回俺たちは探してるんだよな戦車を。その上でさらにこの学園艦に残ってるなんてあるんだろうか?

 

「あの、お話し中すみません」

 

 五十鈴がなにか話があるのか俺たちに話しかけてくる。

 

「どうした?」

 

「えっと、書類上では他にも戦車があった形跡が……」

 

 ということはつまり?

 

 

 ====

 

 

 そして次の日、俺たちは戦車を再び探し出すことになった。

 五十鈴の話では戦車が処分されるとその書類が必ずあるらしく、何両かの戦車はその書類がなかったためこの学園艦のどこかにないとおかしいらしい。

 書類自体古く、もしかしたら紛失してる可能性もあるが、探すしかないのが俺たちの現状だ。

 といってもな、闇雲にさがしても見つかるわけもないんだよな。

 さてどうしたもんか。

 とりあえず俺は武部と一年生チームと一緒に戦車を探しに船底へと向かっている。

 なんで一緒にいるかというと。なんか武部に、話があるから! と強制的に一緒に行くことになった。俺なんかしたか? わからん。

 

「なにここ……なに?」

 

「すごい! 船のなかっぽい!」

 

 いや、船の中だからね?

 

「いや、船だもん」

 

 ツッコミが被った。いやまぁどうでもいいか。

 

「思えばなんで船なんでしょう?」

 

 なんでだっけか? 俺もきちんとは覚えてはいないが、たしか……。

 

「大きく世界へ羽ばたく人材を育てる為と、生徒の自主独立心を養うために学園艦が作られた……らしいよ?」

 

 武部のやつがそう説明する。そうそう、そんな感じだったな。

 そのせいと言ってはいいのかわからんが愛里寿の飛び級などはこのことが関係している。

 そのおかげで愛里寿は中学高校を通うことがなくなってしまったんだがな。それがいいことなのか悪いかは人次第だろうな。俺的には普通に愛里寿を学校に通わせてもよかったと思っている。今言ってもしょうがないけどな。

 

「無策な教育政策の反動なんですかね?」

 

 なんとも真実っぽいところを突いてくるな澤のやつ。

 そして俺たちは階段を降りる。

 するとちょうど船員がいたので武部は声をかけた。

 ちなみに学園艦は生徒だけで運用されている。俺たちとはそもそも学科違い船舶科があり学費が免除となっている。ならそっちの方がお得じゃんとか思うかもしれないが、常に学園艦動かすことを強いられているので拘束時間がかなり長ったりする。

 決してブラックということはないらしいが、ある意味では学生の時に体験しとけば社会に出た時役に立つとか立たないとか。たぶん立たない気がする。

 

「あ、あのっ、戦車知りませんか?」

 

「戦車かどうかわからないけどそれっぽいのをどこかで見たよね?どこだっけ?」

 

「もっと奥の方だったかな?」

 

 ということで俺たちはその曖昧な情報を頼りに戦車を探しに向かったのだが。

 迷った……。いや冗談とかそんなんじゃなくてガチで迷った。船の中で遭難するとか不思議な体験どころじゃないだろうな。今度小町に自慢するか。いや、呑気に構えてる場合じゃないか。

 

「武部、冷泉と連絡は着いたか?」

 

「う、うん、とりあえずなんか目印になるものはないかって」

 

 目印になるものねぇ。言われてあたりを探してみると第十七予備倉庫と書いてある表示板があった。

 

「武部、あれを伝えてくれ」

 

 俺はその表示板を指さす。

 

「わ、わかった、すぐに伝える」

 

 とりあえずは捜索隊が来るまでは大人しくするしかないな。

 そんなことよりこの雰囲気をどうにかするほうが先かもな。空気が重いってレベルじゃないんだが。

 

「お腹……空いたね……」

 

「うん……」

 

「今晩は、ここに泊まるのかな……」

 

「う、ううぅ……」

 

 そして丸山以外が泣きだし始めてしまった。

 というか丸山さん? あなたはあなたはでメンタル強すぎません? いや、頼もしいといえば頼もしいんだが。なんかこいつはこいつで大物になる人間なのかもしれんな。

 

「あ、そうだ! 私チョコ持ってるからみんなで食べよ?」

 

 武部は武部でなんとか一年生を元気づけようとしてるな。

 ん? 甘いものか、そういえば俺のカバンに……。

 

「なぁ、お前ら」

 

「な、なんですか先輩?」

 

「喉渇いてないか?」

 

「そういえば……」

 

「渇きましたー」

 

「でもこんなところに飲み物なんてないですし……」

 

 やっぱり渇いてたか、ずっと歩きっぱなしだったしな。

 

「お前らの口に合うかわからんが飲み物ならあるぞ?」

 

「え?」

 

「ホントですか!?」

 

「ちょっとまってろ」

 

 そして俺はカバンからあれを取り出す。

 

「比企谷、もしかしてそれいつも持ち歩いてるの?」

 

 武部よそれはあまりにも愚問すぎるぞ。

 

「あたりまえだろ、いつどこで必要になるかわからんだろうが」

 

「いや、普通は必要にはならないから……」

 

「先輩、それなんですか?」

 

「コーヒーって書いてある……」

 

 一年生全員が嫌そうな顔をする。あれか苦いのとかがダメなのかこいつら。

 

「安心しろ、これは苦くない」

 

「ホ、ホントですか?」

 

 どんだけ疑ってんだよ。俺はそこまで性格は悪くないぞ。

 

「騙されたと思って一回飲んでみろ」

 

「わ、私頑張ります!」

 

「か、桂里奈ちゃん」

 

 お、最初は坂口か。

 俺はMAXコーヒーを坂口に渡す。

 

「ホ、ホントに苦くないんですか?」

 

 そんな捨てられそうな子犬のよな目で見るんじゃない。俺がいじめてるみたいじゃないか。

 

「大丈夫だ、俺を信じろ」

 

「あい!」

 

 そういって坂口は一気にMAXコーヒーを飲む。うむ、いい飲みっぷりだな。

 

「………」

 

「ど、どう?桂里奈ちゃん?」

 

「すごく……」

 

「すごく?」

 

「すごく甘い……! そしておいしい!」

 

「お、うまいか坂口!」

 

「はい!」

 

「もう一本飲むか?」

 

「いいんですか!?」

 

「はっはっは、いいぞ、じゃんじゃん飲め!」

 

「……なんか比企谷、性格変わってない?」

 

 なにを言ってるんだろうか武部のやつは? 俺はいつもこんなもんだろ。

 

「せ、先輩! 私にもください!」

 

「わ、わたしにも!」

 

「………」

 

「丸山もいるか?」

 

 なんかほしそうな顔をしていたので一応聞いてみたが、どうやら間違ってなかったようだ。

 うんうんと頷いてくれたのでMAXコーヒーを渡す。

 よし、これで全員に行き渡ったか。

 

「……比企谷、私には?」

 

「え? いやだってお前……」

 

 前に渡したときはたしか甘すぎてダメだった気がするんだが。

 

「あのあと好きになったの! いいでしょべつに!」

 

 なん暗がりでもわかるぐらい顔を真っ赤して武部はそう言う。そんな怒らんでもいいだろうに。

 

「ほらよ」

 

「……ありがとう」

 

 そんなことをしていたら不意にライトの光が俺たちを照らしだす。

 

「みんな大丈夫!? ……ってあれ? なにしてるの八幡くん?」

 

「なんか楽しそうだなお前たち……」

 

「思った以上に元気ですね、みなさん」

 

「とりあえずここから出ましょうか」

 

 それもそうか、いつまでもこんなとこいてもしょうがないし。

 

「うん、そうだね。……あれ?」

 

 なんか西住が突然奥の方を照らしだした。そこには俺たちが探していた戦車があった。

 そういや俺たち戦車を探しに来てたんだっけか。すっかり忘れてたな。

 そうして俺たちは無事に戻ることができた。

 さすがに歩き回ってあちこち汚れているので俺はさっさと家に帰った。

 そういえば今回の戦果をいってなかったな。俺たちが見つけた戦車はあのままで放置。後日、自動車部が回収するとのこと。まじでお疲れ様ですとしかいいようがない。今度差し入れ持っていこう、そうしよう。

 あと他に主砲と戦車が見つかったらしい。次のアンツィオ戦には間に合わないということらしいが、十分な戦果だと思う。

 俺は今回でMAXコーヒー仲間がいっきに増えたのでそっちのほうが嬉しかったりする。

 今MAXコーヒーの時代が来てるんじゃないか?頑張ればもっと増える気がする。

 そして俺は自宅に着く。

 

「あ、おかえりお兄ちゃん……ってなんでそんなに汚れてるの?」

 

「ちょっと遭難してきた」

 

「え?」

 

「風呂って沸いてるか?」

 

「うん、そういえばお兄ちゃん」

 

「なんだ?」

 

「次はアンツィオ高校と戦うんでしょ?」

 

「ん? あぁ、それがどうした?」

 

「どうしたって、久しぶりの再会になるんじゃない?」

 

 再会? 小町はいったいなんのことをいってるんだ?

 

「知り合いなんてあそこにいたか?」

 

「え、お兄ちゃん覚えてないの? 安斎さん」

 

「や、安西先生ならわかるんだが」

 

「はぁ……。ごみいちゃん? それ本気で言ってるの?」

 

 割と本気だったんだがこれ以上はあかん気がする。小町の逆鱗に触れそうだ。

 

「小学生のころお兄ちゃんに戦車のことを聞きに来てた人っていったらさすがにわかるよね?」

 

 それならわかる。

 

「あぁあいつか、安斎って名前だったんだな」

 

「え? 知らなかったの?」

 

「だって自己紹介とか一回もされてないぞ?」

 

 むしろされてても覚えていたかは正直自信はない。俺の頭の中ではアホの子としてインプットされてたからなあいつは。

 

「というか小町なんでお前があいつのこと知ってるんだよ」

 

「細かいことはきにしちゃダメだぞお兄ちゃん♪」

 

 あざとかわいい。いや、そんなんで誤魔化されたりはしないが、なんか聞いたらやばそうなのでスルーである。

 

「しっかし、あいつがねぇ」

 

「お兄ちゃん、相手が年上だってわかってる?」

 

 むしろわかっているからこうなんだけどな。

 

「あいつをさん呼びは絶対にしないぞ俺は」

 

「ちゃんと会ったらあいさつはしてよね、さすがに」

 

「善処はする」

 

「大丈夫かなー?」

 

 とりあえず明日アンツィオ高校の本格的な情報がわかるらしいから、今はそっち優先だな。

 


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