間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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ただ単純に、彼は未来を見据える

「しかしながら結局、私たちは比企谷殿に一度も勝てませんでしたね」

 

「そうですね。何度か惜しいとこまではいったのですが……」

 

「うん。問題はそこより先に八幡くんを追い詰められなかったんだよね」

 

「サンダース戦の時にも思ったんですが、比企谷殿はいったい何者なんでしょうか? 西住殿でも勝てないとかちょっとどころじゃなくすごくないですか?」

 

「あれ? うちの兄はみなさんには自分のこと話してないんですか?」

 

 まぁ、あのお兄ちゃんが自分のことをわざわざ人に教えるとも思えないし、ここは妹として頑張らなければ!もしかしたらお姉ちゃん候補ができるかもしれないし。

 

「そういえばわたくしたち、八幡さんのこと知りませんね」

 

「言われてみるとそうかも……」

 

「謎といえば謎ですよね、比企谷殿。男の人なのに戦車道なんて」

 

「小町でよければ答えますよ? 兄のことならある程度小町もわかるんで」

 

 身長、体重、好きな食べ物、飲み物、その他いろいろ、お兄ちゃんのことなら小町はなんでも知っているのです!

 

「そ、それじゃあ、なんで八幡くんはあんなに強いのかな?」

 

「さっきのゲームのことですか?」

 

「うん」

 

 ふむ、最初は軽くジャブできましたね。もっと小町的にはガンガン来てもらえると答えがいがあるんだけど、まぁ最初だしこんなもんかな。

 

「まず、最初にうちの家系が戦車道をやってるのは知ってますか?」

 

「いえ、小町殿が戦車道をやっているのは知っていましたが、そこまでは」

 

 これは本格的にお兄ちゃん、自分のこと話してない。まったくそんなんだからいつまでたっても彼女ができないんだよ! 小町はかって? 告白とかは割と結構されるけど、とりあえずお兄ちゃんを超えてもらわないと話にならないとだけ言っとこうかな?

 それより小町はお兄ちゃんが結婚してくれないと心配でそれどころじゃないのです! お兄ちゃんはほっとくとすぐに引きこもろうとするし、まったく手の掛かるお兄ちゃんで小町は迷惑してるんですよ。やれやれ。

 

「とりあえずうちの兄は、小さい頃から自分も戦車をやるもんだと思ってたんですよ」

 

 とりあえずはそこから、小町はお兄ちゃんのことについて話していった。お兄ちゃんの生い立ち、なんでそこまでして戦車を乗ろうとしているのか、そのために何をやってきたのか、普通の人ならまず男の人が戦車ってだけで嫌な顔をするんだけどみほさんたちは小町の話を真剣に聞いてくれている。

 正直、お兄ちゃんを戦車道に入れてもらえるよう会長さんにお願いしたのは小町だけど、不安がなかったといえば噓になるかな。下手するとお兄ちゃんがさらに孤立してしまう可能性もあったけど、小町的にお兄ちゃんにはどうしても戦車に乗ってほしかった。

 小町はお兄ちゃんの頑張りをずっと見てきたから……。お兄ちゃんはいつも平気な顔をしてるけど、それでもやっぱり頑張ってる人にはそれなりのご褒美があってもいいと思うんだよね。

 この前の聖グロリアーナの試合前の親睦会、あれで大洗の戦車道をやっている人たちの人柄は話してみてわかったし、お兄ちゃんが大丈夫そうでホッとした。あの時の小町の目的はそれだったから、まぁ王様ゲームは予想外だったけど小町的に会長さんグッジョブ!

 でも一つだけ文句をお兄ちゃんに言いたい。なんでまったく、これっぽちも小町に学校でのことを話さないの!? 少しくらい話してくれたっていいのに、いつ聞いても「気が向いたらな」とか「また今度」とか話を濁すし、だから小町は今回強硬手段をさせてもらったわけですよ! 沙織さんと麻子さんがいないの正直残念だけどしょうがない。今日は寝かせませんよ? みほさんたち!

 

 

 ====

 

 

「ぶぇっくしっ!」

 

 なんかいきなり寒気がしたんだが、なんでだ?

 

「八幡、風邪ひいたの?」

 

「いや、大丈夫だ。どうせ小町あたりが俺のことでなにかいってんだろ。……そういえば愛里寿、今日はどこで寝るんだ?」

 

 そろそろな時間だし、布団を引いてやらんとな。

 

「ここ?」

 

 愛里寿は首を少し傾げながらそう言う。

 

「それはさすがに勘弁してくれ、俺が千代さんに殺される」

 

 あの人、娘のためなら修羅にだってなるだろう。俺も反対の立場なら絶対にそうなる自信がある。

 

「むぅ~」

 

 愛里寿はご立腹なのか頬を膨らませているが、正直かわいいだけなのである。

 

「前は一緒に寝てたのに……」

 

 はいそこ、問題発言は慎むように。俺にあらぬ疑いがかけられるから。一緒に寝たといっても島田邸に泊まっているときいつの間にか愛里寿が俺の布団に勝手に入っていただけだから。

 その後千代さんに見つかって、清い男女交際とは、について小一時間説教を喰らったので愛里寿にはそれ以降布団に入らないよう厳しく言ったんだが、ここに千代さんがいないからいいと思ったのだろうか。

 それあれだからな? あとで絶対にバレたらやばい奴だから、八幡がこの世からいなくなるから。

 

「あんまり聞き分けがないようなら、もう頭なでてやらんからな」

 

「は、八幡、それは横暴すぎるよ!」

 

 小町と愛里寿にはこれが一番効果的である。なんでか知らんがあの二人にこう言うと素直に俺の言うことを聞いてくれるのでこういうときは助かる。

 別に頭がなでられないぐらい大丈夫だと思うんだが、なにが二人をそこまで突き動かすのかが謎だ。

 

「小町が西住たちと客間で寝ると思うから、愛里寿は小町の部屋で寝たらいい。場所わかるか?」

 

「うん」

 

「そうか、おやすみ」

 

「おやすみなさい」

 

 さて、今日はなんか長い一日だったな。一回戦はなんとか勝てはしたがこのままだとダメだろうな。とにかく俺たちは戦車の数が少なすぎる。二回戦まではいいが決勝まで勝ちを見据えるなら戦車の数は増やさないといけない。休み明けに会長さんに相談してみるか。

 とりあえず明日は休みだし、のんびり過ごすとするか。今日はいろいろあって疲れたし、俺も早めに寝るとしますかね。

 

 

 ーーー

 

 ーー

 

 ー

 

 

 ちょっと待って、これはいくらなんでもイレギュラーすぎる……。

 なんで西住が俺の隣で寝てるんだろうか? もう一度言わせてくれ。なんで西住が俺の隣で寝てるの?大事なことなので二回言った。

 しかももれなく愛里寿までいるんだが……。いや、百歩譲ったとして愛里寿はまだわかる。寝ぼけてきたとかそんなことだろう。だが待ってくれ、西住がいる理由がまじでわからん。

 いや、だってここ二階ですよ? 西住たちが寝ていたのは一階、これはどういうことだ?

 俺がいくら考えたって答えは出ないので、俺は本人に聞くことにした。

 

「おい、西住」

 

「ん~ん……」

 

 いかんな、完全に夢の中だよ西住のやつ。早くしないと小町たちが起きてくる可能性がある。その前に西住から事情を聞かないとやばいだろ。なにがやばいってもういろいろである。この現状を小町たちに見られたとして言い訳ができるわけがない。

 

「おい、西住」

 

 今度は西住の肩を揺らしながら起こそうとしたのがいけなかった。……ちょっと目の毒だ、西住のやつかわいい顔して凶悪なものを持っていやがる。

 いかん、早急に西住を起こそう。うん、そうしよう。いやまじで起きてくれ西住さん。お願いします! なんでもしますから!

 

 今思えば俺はこの時冷静じゃなかったんだろう。別に西住を起こさずとも問題が解決することに気づいたのは全部が終わったあと。答えは簡単、俺が自分の部屋から出ればよかっただけなのである。俺は早めに起きたことにしてリビングにいればそれでよかった……。まさかあんなことになるとは……。

 

 そして俺の願いが通じたのか、西住の目が開いたのだが……。

 

「お、起きたか? 西住?」

 

 西住はこの時まだ夢の中だったのだろう。

 

「わぁ~、ボコだぁ~」

 

 なんてことを言いだし、俺に抱き着いてきた。

 

「ボコ~、ボコ~」

 

 は? へ? ちょ、に、西住! 俺はボコじゃないから! あといろいろ当たってる!! 主に胸部的ななにかが!!

 冷静に考えて、これをまほさんに知られたら俺がやばいなんてレベルじゃない。俺が逆だったら相手の男は死んでも許さん。というかお泊り会の時点でいろいろとアウトな気が……。だ、大丈夫、今回は小町とのお泊り会だ。いくらまほさんでも話は聞いてくれると思いたい。

 

「西住、はやく起きろ! 起きないとあんこう踊りをしてもらうぞ!!」

 

「あ、あんこう踊り!?」

 

 そして、西住はようやく目を覚ましてくれた。

 

「あ、あれ? 私なんで?」

 

「西住、考えるのはいいんだが、そろそろ離してもらっていいか?」

 

「え……?」

 

 俺の言葉でようやく自分が置かれている状況がわかったのだろう、西住は顔を真っ赤にして俺から離れる。

 なんで俺は朝からこんなにつかれてるんだろうか?

 

「は、八幡くん!? な、なにがどうなって……」

 

 とりあえず西住を落ち着かせるために俺はボコの人形を西住に渡す。

 いや、正直俺もさっきまで冷静じゃなかったんだが、西住の慌てようを見てたら落ち着いた。

 ちなみにボコの人形は俺の部屋に置いてあるやつだ。

 

「落ち着いたか? 西住」

 

「う、うん。でもここって……」

 

「まぁ、俺の部屋だな」

 

 問題はいろいろあるんだが、聞くことがあるから手短にいこう。

 

「西住、なんで自分がここにいるか覚えてるか?」

 

「え?えっと?たしかボコを追いかけてたような、そうじゃないような……」

 

「いやそれ、夢の……」

 

 ん? ちょっと待て。ボコ、ボコねぇ。

 

「なぁ西住、それってトイレかなんかに行こうとした時か?」

 

「た、たぶんそうなのかな? 寝ぼけてたけどそうかも」

 

 なるほど、よくわかった。

 

「西住、お前が見たボコはたぶん見間違えじゃないと思うぞ」

 

「え?」

 

 答えは俺のすぐ隣にいる。

 

「こいつだ」

 

 俺は愛里寿が大事そうに抱きかかえているボコを指さす。

 

「あ、愛里寿ちゃんのボコ?」

 

 あれ? 西住に愛里寿の名前って言ったけか? いや今はどうでもいいか。

 

「あぁ、たぶんなんだが、西住がトイレかなんかに行こうとした時、ちょうど愛里寿がいたんだろ。それで愛里寿が持っていたボコをそのまま追いかけて、愛里寿が寝ぼけて入った俺の部屋に……」

 

「私も一緒に来ちゃったと……」

 

 謎はすべて解けた! いや、西住よ、どんだけボコが好きなの? いくら寝ぼけたとはいえトイレを中断してまでボコを追いかけるとか……。

 というか、当の事件の首謀者は俺たちがあれだけ騒いでいたのに普通に寝てるし、大物になりますわこの子。

 

「とりあえず、西住」

 

「どうしたの?」

 

「俺たちはなんにもなかったOK?」

 

 西住は無言でうんうん頷く。

 

「ならとりあえず着替えてこい、ちょっと早いが朝飯作ってやるよ」

 

 

 ====

 

 

「ほわぁあ~、おはようお兄ちゃん……。って、あれ?

  なんでお兄ちゃん休みなのにこんな早くに起きてるの?」

 

 さすが小町、俺の生態系を知り尽くしている。だがな。

 

「おはようさん小町、あと早いとか言ってるけどもう普通に9時だからな?」

 

「だって、みほさんたちと夜遅くまで話してたんだもん」

 

「とりあえず顔洗ってこい、飯はもうできてるから」

 

「は~い」

 

 とりあえず他のやつらもそろそろ起きてくるだろうし、他のやつらの分も作っとくか。まぁ作ると言ってもパン焼いて、目玉焼きとベーコンとサラダを用意するだけだから手間はかからんが。

 

「おはようございます、八幡さん」

 

「おはようございます、比企谷殿!」

 

 どうやら五十鈴たちも起きてきたようだな。

 

「あぁ、とりあえず朝飯食うか?」

 

「いたただきます。みほさん、見かけないと思ったらもう起きてたんですね」

 

「う、うん、ちょっと目が早く覚めちゃって」

 

「私たちと一緒に寝たのに早いですね、西住殿」

 

 これはいかんな、追及をさり気なくやめさせないと。

 

「お前たちは今日はどうするんだ、これから」

 

 我ながらいい感じに思いついたと思う。不自然じゃないしな。

 

「えっとですね、冷泉殿に会いに行こうかと」

 

「冷泉に? じゃあ、病院に行くのか?」

 

「はい、八幡さんはどうしますか?」

 

「俺はパスだな、愛里寿も放っておけないし」

 

「そうですか、わかりました」

 

「あの、比企谷殿。あのボードゲーム、戦車道のみんなにもやってもらいましょうよ!」

 

「あれをか?」

 

「はい! あれはなかなかに戦車道の勉強になると思うんですけど、どうですかね?」

 

 この家に放置されて埃をかぶるくらいならそれもいいかもな。

 

「別にいいぞ、じゃあ次の学校の時にでも持ってくるわ」

 

 そうして西住たちは朝ご飯を食べ終えたあと、冷泉の元へと向かったのだった。

 

「みほさんたちいい人だね」

 

 小町がいきなりそんなことを言う。

 

「どうした? いきなり」

 

「だってそうでしょ? こんな捻くれたお兄ちゃんが受け入れられてるんだよ?」

 

「……まぁな」

 

「どしたの? 今日はまた一段と素直だね」

 

 一段とは余計だ、一段とは。

 

「いやな。俺はそれなりに戦車道でもいろいろやらかしてたんだよ」

 

「知ってる、みほさんたちから聞いたから」

 

「は?まじ?」

 

「まじまじ、お兄ちゃんがまったく学校のこと話さないからね」

 

 今回はそういうことか。

 

「いや、お前に無駄に心配かけるのもアレだし……」

 

「そういうのいいから、小町的には話してもらった方が安心できるから、変なところで捻デレしないでいいから」

 

「捻デレじゃねぇし。……あれだ、その、なんだ、すまんかった」

 

「あんまりそういうことは小町だけにしといてよね? お兄ちゃんただでさえ誤解されやすいんだから」

 

「へいへい、善処はするよ、一応な」

 

「もう本当にわかってるのかな~」

 

「わかってるよ、西住たちが俺にはもったいないくらいにいいやつらだってことは」

 

 だがもし、俺の存在が戦車道のやつらの邪魔になる日が来たとして、俺はどうするんだろうか?いや、考えるまでもないな。その時は……。

 

「お兄ちゃん?」

 

「なんだ?」

 

「また変なこと考えてるんじゃないの?」

 

「いや、別に変なことは考えてはいないぞ」

 

 そうこれは変な考えではない。“いつも”のことだ、別に自己犠牲の精神なんて持ち合わせていないが別に変なことじゃないだろう。男の俺が戦車道をやっていること自体がおかしいのだ。その俺がもしいなくなったとしてもなにも問題はない。世界は問題なくまわる。正常になるだけだ。

 まぁ、今こんなこと考えてもしょうがないしな、俺は自分のやれることをやるだけだ。それが善であろうと悪であろうと俺には選択肢なんてないのだから。

 


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