間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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相手はルールの裏をかき、それ故に彼は気づく

『それでは、サンダース大学付属高校と大洗学園の試合を始める』

 

 試合開始前のアナウンスが流れる。

 あの聖グロ戦から一年生チームや他のチーム、俺を含めたやつらが戦車をだいぶ扱えるようになった。まぁそれでも今まで普通に戦車道をやっていたやつらには遠く及ばないが、それが=勝敗に繋がるとは限らない。

 勝負は時の運ともいうが、俺はそれはあながち間違っていないと思う。

 戦車はあくまで人が運転するものだ。だからその日の気分や体調、人間関係などで作戦の成功に影響などしたりする。士気が如何に大切なのかがよくわかる。人間はできないと思ってしまえばどうしても動きが鈍る。逆に言えばできると思えれば多少無茶を慣行できるあたり不思議でもあるな。

 そういうことで言えばサンダースは手強い。

 偵察の時、サンダースの隊長と話していて思ったことは、あの人には裏表がないってことがわかった。

 基本的に考えていることをすぐに口にしたり、相手の言葉を疑ったりしない、そして何事にもフェアプレーの精神で挑むことが大切だと言っていた。

 だからほとんどの生徒に信用されているのが傍目で見ていてもわかった。

 むしろああいうタイプはウザがられたり煙たがられて孤立していくものだが、あの人の人柄の所為かそういった感じもサンダースの中ではなかったように思う。

 なのであの人があきらめない限りサンダースのメンバーがあきらめるということはなく、つくづく戦車道の全国大会が殲滅戦ではなくフラッグ戦で良かったと思ったね。

 一回戦で当たれたのも大きい、相手はあの大量に保有している戦車を使って物量のごり押しを基本としているからな。

 まぁ戦車は少なくなってもこの一回戦で相手がやることにあまり変わりはないがそれでもである。

 加えて戦車の性能のに差があるのも何ともしがたい、シャーマンは言うに及ばずとくにあのファイヤフライはやばい。射程距離が3000メートルとか性能を聞いたときは冗談かと思ったほどだ。

 以上のことを踏まえ、サンダースは普通に強いとわかった。いやまあ弱いわけはないんだが、そこはあれだ、なんとなく言いたかっただけだから気にするな。

 

『説明した通り、相手のフラッグ車を殲滅した方が勝ちです』

 

 西住の試合前の最後の確認が行われている。

 

『サンダースの戦車は攻守共に私たちより上ですが落ち着いて戦いましょう! 機能性を活かして常に動き続け敵を分散させてⅢ突の前に引きずり込んでください』

 

『『『はい!!』』』 

 

 西住もだいぶ板についてきたな。

 聖グロの時はおどおどしていた気がするが、今はそれもないように思える。

 戦車道の全国大会はまずお互いに定位置につき、各校の代表者だけで挨拶を行う。これによって時間の短縮をするんだそうだ、大洗はもちろんのごとく会長が行っている。

 会長がジープに乗って戻ってきたな、ならそろそろ始まるか。

 

『試合開始!!』

 

 そして審判員のアナウンスが流れるのであった。

 

 

 ====

 

 

 俺たち大洗は試合開始と同時にすぐさまに森の中に入った。

 ただえさえ車両数に差があるのだから、なるべく最初のうちはこういった遮蔽物に囲まれているところの方がいろいろとやりやすいと思ったからだ。

 一年生ウサギチーム、バレー部アヒルチームが偵察に行き、フラッグ車の生徒会カメチームを守るように西住たちのあんこう、カエサルたちのカバチームが配置されている。

 え? 俺はかって? いつものごとく単独行動だ。

 

『こちらE085S地点、シャーマンを発見したのでこれから誘き寄せます!』

 

 意外と早く相手が見つかったな。とにかく早めに相手の車両を減らせればいいんだが……。と思っていた矢先。

 

『シャーマン六両に囲まれちゃいました!!』

 

『ウサギさんチーム、南西から援軍を送ります! アヒルさんチーム、ついてきてください!』

 

『はい!』

 

 いくらなんでもおかしくないか?

 一年生からの報告があったあとすぐに囲まれたと言うのが特に……まるでこちらの位置が正確にわかってでもいないとできないような。 ………いや、まさか?

 俺は慌てて戦車から頭を出し、空を見て双眼鏡で確かめる。おいおいまじかよ、やってくれるじゃねーか。これまた随分と手の込んだことをするもんだな相手さんは。

 いかん、このままだと西住たちがやばいかもしれん。

 

『三両、囲まれた!』

 

 これで一年生に六両、西住たちに三両、全九両がこの森に投入されていることになる。

 いくら物量で押していくと言ってもこれはさすがに無茶の範疇を超えている。それこそ確信できるなにかがないとここまで大胆に作戦を実行できるわけがない。

 だからそれが相手にあるのだろう、さっき確認したから間違ってないはずだ。問題はこれをどうやって西住に伝えるかだな。無線は使えない……。そもそも今のピンチを西住たちが切り抜けないとどうにもならんな。

 

『ウサギさん! このまま進むと危険です! 停止できますか!?』

 

『『『無理でーす!!』』』

 

 このままだと完全に挟み撃ちになるんじゃないか?

 頼むぞ西住、ここが勝負の分かれ目になる気がする。

 

『ウサギさん、アヒルさん、あんこうと間もなく合流するので、合流したら南東に進んでください!』

 

『わかりました!』

 

 

 ====

 

 

「あっ、せんぱーい!」

 

「はい! 落ち着いて!!」

 

 さて無事にウサギさんチームと合流できたのはいいけど、問題はここからです。

 私たちが合流して南東に逃げていると前方から敵車両が見えてきました。

 

『回り込んできた!?」

 

『どうする? 撃っちゃう?』

 

 それだと下手に攻撃をしても、こちらの攻撃は当たらないので砲弾が減って不利になるだけ。

 

『このまま全力で進んでください! 敵戦車と混ざって!!』

 

『まじですか!?』

 

『了解です! リベロ並みのフットワークで……!!』

 

 私の指示と共にⅣ号も加速する。そして敵戦車と接触しながら相手の攻撃を搔い潜り、なんとか相手の包囲網を抜けることが出来た。正直に言うと結構ギリギリだったかも。

 それにしても……。

 

「危なかったですね……」

 

「うん、まるで私たちを待ち構えてたみたい……」

 

 その瞬間、私の脳裏になにかがよぎる。それと同時に。

 

「あれ?」

 

「どうしたのみぽりん?」

 

「なんか携帯が鳴ってる……」

 

「え? こんなときに? 相手は誰なの?」

 

「えっと、ちょっと待ってね……」

 

 私は携帯に表示されている名前を確認します。そこには……。

 

「八幡くん?」

 

「比企谷?」

 

「なんか比企谷殿が電話って珍しいですね」

 

「まさか愛の告白だったりして~」

 

「八幡さんがですか?」

 

「それはさすがにないだろ……」

 

 沙織さんが変なこと言うから少し意識してしまう。でもどうしたんだろこんなときに?

 

「もしもし? どうしたの八幡くん?」

 

「西住、お前に大事な話あるんだ、聞いてくれるか?」

 

 だ、大事な話!? ど、どうしよう?

 

「い、いきなり、そんなこと言われても心の準備が……」

 

「いや、西住? なにを勘違いしてるかしらんが――」

 

「ふ、不束者ですが、よ、よろしくお願いします!!」

 

「み、みぽりん!?比企谷となんの話してるの!?」

 

 私たちは試合中だったけどその瞬間だけは忘れていた気がします。

 

 

 ====

 

 

「おーい、西住?」

 

 なんか西住の謎な発言のあとあっち側が騒がしいんだが、こっちははやく用件を伝えたいんだけど何やってんだ一体。

 

「もしもし比企谷! どういうことか説明しなさい!!」

 

 なんで西住じゃなくて武部に変わったんだ? まあいい、伝えるのは誰でもいいしな。

 

「ああ、大事な話があるからな、それで電話したんだよ。無線だとあれだから」

 

「……そ、そうなんだ。でもそれなら試合前でもよかったんじゃないの?」

 

 試合前か、たしかにな。俺がそのことに早めに気づけていれば西住たちを危険にさらすこともなかったろうし。

 

「そう言われるとなにも言い返せないが、気づいたのが試合途中でな」

 

「それでミホに電話をかけたの?」

 

「あぁ、早めに伝えないと手後れになるかもしれないし」

 

「……そう、わかった、じゃあミホに代わるね」

 

 なんかやけに武部の声が沈んでる気がするんだが、気のせいか?

 

「いや、そのままでいいから」

 

「え?」

 

 なんでいちいち変わろうとしてんの? ただただめんどくさいだけだろ。

 

「いいか? 相手に無線が傍受されている可能性がある、だから無線を使うのは……」

 

「………」

 

 なんか武部の反応がないんだが。

 

「おい、ちゃんと聞いてるのか? 武部?」

 

「……ちょっと待って、作戦会議するから」

 

「は?」

 

 いや、なんで作戦会議?

 

「ミホ! ちょっとこっちに来なさい!!」

 

 その武部の発言のあとまたあっちが騒がしくなった。ちょっと君たち? 今試合中なのわかってんの? 割と切迫してるんだけどな……

 そして電話に西住が戻ってきたかと思うと。

 

「お騒がせして申し訳ありませんでした……」

 

 いきなりの謝罪である。それは誰にたいしての謝罪なんだろうか?なんかツッコむとこれ以上ややこしくなりそうだな。こういう時はスルーに限る。

 

「お、おう……。さっき武部にも言ったんだが無線が傍受されている」

 

「……やっぱり」

 

 どうやら西住も気づいてたみたいだな。これなら話が早い。いや、ここまでに結構かかってるからトントンもしくは結構アウト。

 

「だからそれを逆手に取る」

 

「どうするの? 八幡くん」

 

「いいか……」

 

「うん……」

 

 さて、こっから反撃といかせてもらおうか。相手に情報戦に置いてなにが大事か思い知らせてやりますかね。

 

 

 ===

 

 

『ボコチームを除いた他のチームは次の道路を南進、ジャンクションまで移動して! 敵はジャンクションを北上してくるはずなので通り過ぎたところを左右から狙って! それとボコチームは引き続き作戦を続行してください』

 

『了解です!』

 

『こっちも了解!!』

 

『西住よ、そのチーム名はさすがに……』

 

『異論は受け付けません』

 

『いや……』

 

『異論は受け付けません』

 

『はぁ、わかった……。こちらも作戦続行するから、そっちもへまするなよ?』

 

『うん、まかせて!』

 

 こっちに無線傍受をされているとは夢にでも思ってないでしょうね! いい気味だわ! というか、こいつらなに試合中にいちゃついてるのかしら……私はタカシと……いや、それは今は置いときましょう。

 無名の弱小校が全国大会に出場しただけじゃあきたらず男まで連れてくるんておかしいのよ。そう、これは天罰だわ! 戦車道の試合中にいちゃつく輩がいけないのよ! だから私はなにも間違っていないの!! 目にものを見せてやろうじゃない。

 

『目標はジャンクション、左右に伏せているわ……囮を北上させて! 本隊はその左右から包囲!』

 

『OKOK、というかなんでそんなことまでわかっちゃうわけ?』

 

『女の勘です』

 

『アハハハッ! そりゃ頼もしい!!』

 

 隊長はいつもフェアプレイと言ってるからバレたらやばいけど、バレなきゃいいのよバレなきゃ!

 

 

 ====

 

 

 さてとそろそろと相手がこちらに来る頃か。

 俺たちは相手の動きが良く見える丘に集まっている。そして相手が上手い感じにばらけてジャンクションに向かってきているな。よし、とりあえずは第一段階だな。

 

『囲まれた! 全車後退!』

 

 西住の指示が出るがもちろんこれはデマである。本当の指示は……。

 隠れていたバレー部チームが動き出したな。そしてその後ろには土煙を起こせるよう木を括り付けている。これで相手はこちらの車両数を誤認するはずだ。

 たぶん普通だったらこんな手は引っ掛からない、だが相手は無線を傍受してることによってこちらの情報を疑わなくなってるからな。それで認識が甘くなる。

 

『見つかった。みんなバラバラになって退避、38⒯はC1024R地点に隠れてください!』

 

 38⒯はこちらのフラッグ車だ。相手は確実にこの情報に食いついてくるだろう。目標地点に相手が来たとき、俺たち大洗学園の反撃が始まるのだ。

 

 


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