間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。 作:@ぽちタマ@
「あ、八幡くん」
「どんな感じだ?」
「うん、もう大体は塗り替えが終わったな……。それより八幡くん、なにかいいことあった?」
「そんなにいつもと違うように見えるか?」
「そこまでじゃないけど、いつもより目がどんよりしてないよ」
ふむ、いいことか。
「あれだな、なんだかんだ言って小町が好きなんだなって再確認できたからかもしれん」
「いいことがそれって……。比企谷、シスコンすぎるよ……」
「まあ、八幡さんですし」
「それより比企谷殿、その手に持っている袋はなんですか?」
「あ、それ、私も気になってた」
「ああ、これか、これはクッキーだ」
「え、まさか誰かにもらったの?」
なんか知らんが全員が俺を見てくるんだが、どうした一体。
「いや調理室を借りれたから、お前らに差し入れと思って作ってきたんだよ」
「だ、だよね。比企谷に限ってそんな……」
おい、それはどういう意味だ武部よ。いやたしかに女子からものをもらったことなんて一度もないが。
「そういえば前に比企谷殿が料理が出来るって言ってましたね」
「そうなのか?」
「そっか、あの時麻子いなかったんだっけ?」
「まあとりあえず、いるかクッキー?」
全員が頷いたので俺はクッキーを渡した。
「すごいね、八幡くん」
「意外とちゃんと出来てますね~」
「比企谷のくせに……」
「ふむ……、普通においしいな」
「比企谷殿、おいしいです!」
感想はいろいろだが、とりあえずは食えるようだし問題はないみたいだな。
「ところで戦車に変なマークが描かれてるんだが、なんだあれ?」
なんかⅣ号にあんこうらしきものが描かれている。
「あれはチーム名を変えたので、それにあわせてるんですよ」
「チーム名を?」
「えっと、Aチームがアンコウ、Bチームがアヒル、Cチームがカバ、Dチームがウサギ、Eチームがカメになってますね」
「なるほど、そういうことか」
「比企谷殿はなににしますか? チーム名?」
「いや、そもそも一人なのにチームもへったくれもないんだが」
「まあそういわずに、好きな動物とかいないんですか?」
いきなり言われても思いつかんな。もういいか、あれで。
「じゃあ、クマにでもしといてくれ」
「え? クマですか?」
まあ俺が気に入ってるのは実際のクマじゃないがいいだろう別に。適当に決めたがクマも基本的に単独行動だし、俺と俺の戦車にピッタリだと思う。
そうして俺たちのチーム名が決まり、俺たちは一回戦へ向けて練習をしていくのだった。
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たしかに俺はクマがいいと言った、言ったよ?でもこれはさすがにいかんだろう。俺は指示したであろう人物を呼ぶ。
「西住、ちょっといいか?」
「どうしたの八幡くん?」
「ダメだから」
「え?」
「いや、え?じゃなくて、ボコはさすがにダメだ。描き直してくれ」
「え……ダメかな?」
「いや、西住がボコが好きなのは十分に知ってるしわかってはいるが……」
「でも八幡くんも好きでしょ?」
いや俺の場合は好きというか、気に入ってるだけだから。
「西住、これは普通に著作権的にアウトだから。どっかの団体に訴えられて戦車道の全国大会を途中棄権もあり得るからな?」
そもそも男の俺が戦車道の全国大会に出るってだけでも目を付けられやすいのだ。なるべくそういった不安材料は取り除かないと何を言われるかわかったもんじゃないからな。いくらボコが人気がなかろうがそういうやつらは目ざとく見逃しはしないだろう。
「そっか残念だけど……。うん、わかった」
ホントに残念そうだよ、西住のやつ。なにが彼女をそこまで突き動かすのか? いや、ボコか。なんかボコを景品して大会をやったらどうなるのだろうか? いや、やめとこう碌なことになる気がしない。
ということでリニューアルしたクマのデザインなんだが。
「なんでクマが二体いるんだ?」
そして片方のクマの目つきが悪いのなんのって、これもしかして俺なのかしら? そうだとするともう片方の小さいクマが小町になるのか? なるほどな、そう考えるとあながち間違ったデザインでもないな。クマの目つきが悪いことを除いては。
いやこれ、わざわざ目つき悪くする必要なかったんじゃないの? 小さい方が普通だから余計に際立っている気がするのは俺の気の所為だと思いたい。
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そんなこんなんがあり、とうとう戦車道全国大会一回戦の日がやってきた。
「整備終わったかー」
「「「はーい!」」」
「準備完了!」
「私たちも大丈夫です!」
「Ⅳ号も完了です!」
なるほど、俺以外はもう終わってるのか。
「すいません、まだオイル補充が終わってません」
「比企谷、それを飲むことがオイル補充とでも言うつもりか?」
俺にとってMAXコーヒーはなくてはならないものだがから間違っていないはずだ。
「おかしいですか?」
「はあ……貴様の場合その腐った目が整備不良だ。どうにかしろ」
いや、どうにかできるならとっくにしているのであきらめてください。
「とりあえず、試合開始まで待機!」
「あっ、砲弾忘れてた!」
「それ一番大切なやつじゃん!」
「ごっめーん!」
澤たちは呑気に笑っているが、それ普通に忘れちゃいかんやつだろ。こんなんで大丈夫か?先が思いやられるんだが……。
「呑気なものね。それでよくのこのこと全国大会に出れたわね」
あれはたしか、サンダースにいたやつらか。
「あっ」
サンダースに気づいて慌てて秋山のやつが冷泉の後ろに隠れたのが、それは隠れる相手を間違ってるだろ秋山よ。
「貴様ら、何しに来た!」
河嶋さんはもう臨戦態勢に入ってるのか相手を威嚇してるし。
「試合前の交流を兼ねて食事でもどうかと」
「敵の施しなど受けん!」
「まあいいんじゃないですか別に?」
「なっ、比企谷、貴様!」
「たしかに比企谷ちゃんの言う通りだねー」
「か、会長まで!」
ということで俺たちはサンダースの食事会に行くことになった。
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「すごっ!」
武部が驚くことも無理はない。サンダースはこれでもかというぐらい贅沢の限りを尽くしいる。どんだけリッチなんだよこの学校。一回戦でこれなら二回戦以降どうなるんだ?いや、それは考えるだけ無駄か。なんせ俺たちは勝たないといけないからな。
「救護車にシャワー車、ヘアーサロン車まで!!」
「本当にリッチな学校なんですね……」
我が大洗学園と比べてはいけないのだろうが、ここまで差がつくもんかね?
「ヘイ、アンジー!!」
「角谷 杏だから、アンジー?」
「なれなれしい奴だ」
先程、会長のことをアンジーと呼んできたのはサンダースの隊長である。
「やあやあケイ、お招きどうも」
「なんでも好きなもの食べてって!OK?」
「オーケーオーケー。オ、ケイだけに!」
まさかの親父ギャグである。しかも会長はどや顔。そして相手の隊長は大爆笑、ホントあの人の笑いの沸点は低すぎるだろ。さっきの二人もビミョーな顔してるしな。
「アハハハッ!ナイスジョーク!!あっ…ヘイっ!」
なにかに気づいたのかこちらに近づいてきたな。
「あぁ……見つかっちゃった!!」
「怒られるのかな……?」
そしてそのまま秋山の方に向かうかと思いきや。
「ハッチー! 久しぶりね、元気にしてた?」
「「「え!?」」」
はい、俺のところに来ました。
「元気もなにも俺はこれが平常運転なんで、前とたいして変わりませんよ……。あとハッチー言わんでください」
なにハッチーって? まじ勘弁してください、普通に恥ずかしいからその呼び名。
「そうなの? それより今度はいつうちの学校に来るの?」
またスルーされたんだが、いやホントに俺の話を聞く人が周りにいなさすぎだろ。
「いや、もう来ませんから普通に」
なんで友達を家に呼ぶぐらいの気軽さで言ってるんですかね。そうひょいひょいと行けるわけがない。
「ちょ、ちょっと! どういうことなの比企谷!?」
「どうもなにも見たまんまだが?」
「いや、そういうことじゃないくて……」
ふむ、ちゃんと説明した方がいいか。
「前に俺がサンダースに行ったのは覚えてるだろ?」
「え? あ、うん……」
「そんとき俺を案内してくれたんだよ」
「それはいいんだけど、なんであんな親しげなのよ!」
「なんでと言われてもな。なんか知らんが気に入られたんだよ」
いやホントなんでだろうな? さっきも話したと思うが、笑いの沸点が低いせいか案内の間俺がなにか返事を返すたびに笑いだすのだ、俺ってそんなにおかしい返しをしたんだろうか?
あれはいまだに俺の中で謎である。だから正直に言うとこの人のことは凄く苦手です、はい。
「しかしあの時はホントにエキサイティングだったわ。まさかあなたが偵察しに来た子をお姫様抱っこしてエスケープさせるんだもん」
「偵察……? あ、あんた! 大洗の生徒だったの!?」
え? 今更かよ、どんだけ俺のこと覚えてなかったんだ。もういっそのこと思い出さなくてよかったのに。
「え? アリサは知らなかったの?」
「いやむしろ隊長は知ってて、あいつの質問にいろいろ答えてたんですか!?」
「ん~? なにかまずかったかしら?」
「まずいもなにも一回戦の相手じゃないですか!」
いやーホントにあの時はお世話になったな。主に情報面で。
「ど、どういうことなの八幡くん?」
「さっき説明したろ? 案内してもらったって」
「う、うん」
「そんときにな戦車の性能とか次にどうやって戦うつもりなのかとか、いろいろ聞いたんだよ」
「え、比企谷殿それって……」
そうあの日、秋山がやったことと同じことを俺もやっていたのだ。まあ結局俺がやったことはあんまり意味はなかったけどな。秋山が動画に撮っている方が普通にわかりやすかったし。
「で、でも、それなら私たちに言ってくれてもよかったじゃん」
「まぁそうなんだが、絶対に情報が手に入るわけでもないしな、今回はたまたまあの人だったからうまくいったようなもんだし、それに……」
「それに?」
「お前らに無駄に期待させてガッカリさせるのもアレだったからな」
「「「………」」」
「どうした?」
「ちょっと作戦会議するから、比企谷は絶対近づかないでよね!」
「お、おう……」
いやまぁ、近づくなと言われるなら近づかないが…そもそもなんの作戦会議だ?いいけどね別に、あれだよハブられてショックとか受けてないから。ボッチだからこんなの日常茶飯事だしな、もう超ヨユーですよ。ホントダヨ?
「あれが小町ちゃんが言ってた捻デレなのかな?」
「え? あれがそうなんですか?」
「だってあれ、比企谷なりに私たちのことを考えてくれたってことでしょ?」
「そう言われると、そうかもですねー」
「わかりにくい……」
「でもその割には私たちのことを信じてくれてなかったよね」
「あぁ、沙織が暴走したやつか……」
「それは今はいいから!」
「あれじゃないかな? 八幡くんは信用してないんじゃなくて、確信がもてないとか」
「どういうことミホ?」
「えっと……たぶんなんだけど、信用はしてるけど、自分が信用されてるとは思ってなかったんじゃないかなと思って」
「そうですね。八幡さんは人に嫌われるようなことをやってでもその問題を解決しようとしますし……」
「そう言われるとあの生徒会でのこともそうだよね。私と華は勘違いしてたわけだし……」
「なんのことですか?」
そっか、優花里さんと麻子さんは知らないんだっけ。
「話すと長くなるんだけど……」
そして生徒会室での出来事を優花里さんたちに説明する。
「え!?じゃあ、比企谷殿がいなかったら西住殿は戦車道に入ってなかったんですか!?」
あれ? そう言われるとそうなるのかな?
「うん、だから私たちにできることは八幡くんを信用することだけじゃないかな? 八幡くんは言葉で言ってもたぶん疑っちゃうと思うし」
「疑い深い……」
「というかミホ、よくそこまで比企谷のことがわかるわね」
「え?そうかな?」
そんなことはないと思うけど。