間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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やはり戦車道をやっている俺が奉仕部に入るのは間違っている

 青春とは嘘であり、悪である。

 

 青春を謳歌せし者たちは、常に自己と周囲を欺き、自らの取り巻く環境のすべてを肯定的に捉える。

 

 彼らは青春の二文字の前ならばどんな一般的な解釈も、社会通念も捻じ曲げてみせる。

 

 彼らにかかれば、嘘も秘密も罪咎も失敗さえも、青春のスパイスでしかないのだ。

 

 仮に失敗することが青春の証であるのなら……

 友達作りに失敗した人間もまた、青春のど真ん中でなければおかしいではないか。

 

 しかし、彼らはそれを認めないだろう。すべては彼らのご都合主義でしかない。

 

 結論を言おう、青春を楽しむ愚か者ども、砕け散れ。

 

 

 ====

 

 

「砕け散るのは君の方だ。なあ比企谷、私が授業で出した課題はなんだったかな?」

 

 そう言って白衣を着た教師こと、平塚先生が俺に問いかける。なんか白衣を着た天使っぽく聞こえるが、平塚先生はそんなものと一番遠い存在とだけ言っておこう。

 これ以上は俺の命が危ないので言及はしない。この人ホント勘だけはいいのだ。俺が変なことを考えようなものなら即、鉄拳制裁である。これは比喩でもなんでもなく文字通りの意味。

 とりあえず、平塚先生の質問に答えるか。

 

「はあ、高校生活を振り返ってというテーマの作文でしたが」

 

「それでなんで君はこんな舐め腐った作文を書いてるんだ。なんだこれ? どうしてこうなった?」

 

 なんでといわれても、そうなってしまったとしかいいようがない。

 

「ったく、戦車道を始めて少しは変わったと思ったが……」

 

 俺は今、西住たちとあそこでわかれたあと職員室に来たわけだが、何故かこんなことになっている。

 

「君の眼は死んだ魚のような目だな」

 

 どこかの万事屋だろうか? いや、生徒会の何でも屋という意味では間違ってないんじゃね?

 

「そんなDHA豊富そうに見えますか、賢そうっすね」

 

 俺がそう返すと、平塚先生がまるで汚物を見るような目で俺を見てくる。

 俺はそっちの趣味はないのでいくら睨まれてもうれしくともなんともないのでやめてください。いや冗談抜きでやめてほしい。それは教師が生徒に向ける目では絶対ないだろ。

 

「真面目に聞け!」

 

「ひぃっ…! い、いや、俺はちゃんと高校生活を振り返っていますよ? だいたいこんな感じじゃないでしゅか?」

 

 噛んでしまった……。死にたい。

 

「小僧、屁理屈を言うな……」

 

「小僧って……いや、たしかに先生の年齢からした――」

 

「せいっ!!」

 

 掛け声と共に右ストレートが俺の顔の横を通って行った。

 ちょっと待って平塚先生。今の人に向けていいレベルのものでは断じてなかったぞ。

 

「女性に年齢の話をするなと教わらなかったのか?」

 

「す、すいませんでした。というか平塚先生、なんで今更俺を呼びだしたんですか?」

 

「どういう意味だ、比企谷?」

 

「どういう意味ってそのまんまですよ。この作文で俺を呼びだすなら前のやつでもよかったんじゃないですか?」

 

「ほう、君は最初に自分がまともな作文を書いていないと自覚していながら今回のを提出したわけだ」

 

 しまった、藪蛇になったな。これは話を変えないと。

 

「そ、それより、生徒会長が言ってましたよ? 先生の手に負えないから生徒会に更生の依頼をしたって」

 

「彼女が?ふむ、たぶんそれは嘘だろ」

 

「は? 嘘?」

 

 なにをいってるんだこの人は?

 

「たしかに更生の依頼をしたのは私だが、あの作文に関しては彼女が君を脅すために必要だからと聞かなくてな」

 

 おいおい、つまりどういうことだ? もしかして最初のあの時、俺が断っていたらあの作文で脅してたってことか? あの生徒会長一人の生徒を確保するためにそこまでするのかよ。今後の付き合いを真剣に考えないといけないんじゃいかこれ?

 

「というか平塚先生、相手が脅すのに使うとわかってて渡したんですか?」

 

「そういうな比企谷、実際今のところ被害はないんだろ?」

 

 そういう問題じゃないと思うんですが……どんだけ信用されてるんだあの会長。

 

「安心しろ、彼女は君が思うほど横暴ではないよ」

 

 俺の知る限りにおいて横暴の限りを尽くしているんだが……。まさかあの会長、教師たちには仮面を被ってるのか?そ れならあの生徒会室の広さにも納得がいくな。

 教師たちは全員、あの生徒会長に騙されているのかもしれん。まじあの人なにもんだよ、恐ろしすぎる。

 

「それで、作文を書きなおしたらいいんですか?」

 

「そうだな、戦車道に入れてもダメとなると……比企谷、ちょっと着いてきたまえ」

 

 え? 今から俺はどこに連れていかれるの? 校舎裏に連れていかれてボコボコにされたりするんだろうか? と内心思っていたのだが、俺が連れてこられたのは。

 

「空き教室?」

 

 そして先生が扉を開けるとそこには一人の少女がいた。いや、美少女といっても過言でないのかもしれない。ただ椅子に座っているだけで絵になるとかそうそうないだろ。

 その少女は俺たちが入ってきたことに気づいたようで。

 

「平塚先生、入る時はノックをお願いしたはずですが……」

 

「ノックをしても君が返事をしたためしがないじゃないか」

 

「返事をする間もなく先生が入ってくるからですよ」

 

 この二人はいつもこんなやり取りをやっているんだろうか?

 

「それでそこのぬぼーっとした人は?」

 

 ちょっと初対面なのに失礼すぎないかこいつ、さっき美少女と言ったが取り消そう。正確には性格の悪い美少女だ。

 そして俺はコイツのことを知っている。というか知らないやつがいないレベル。

 大洗学園国際教養化2年J組、大洗が共学化する前からあるクラスの為、9割が女子であり偏差値の高い生徒の派手なクラスとして知られている。その中でも異彩を放っているのが雪ノ下 雪乃、学内誰もが知る有名人だ。なんでそんなやつがこんな空き教室にいるんだ?

 

「彼は入部希望者だ」

 

 は? いやちょっと待ってください入部?

 

「どういうことですか、平塚先生」

 

「あのふざけた作文の罰だよ比企谷。君には今からこの部活に入ってもらう」

 

「いや、待ってください。俺は戦車道で忙しいんですが……」

 

「それは知っているよ。だがな、君のその腐った性根はここでしか治らないと私は思っている」

 

 俺はそうは思いませんけどね、むしろ悪化するまである。

 

「とりあえず自己紹介したまえ」

 

 俺は平塚先生に言われ自己紹介しようとしたのだが。

 

「普通Ⅰ科2年A組比企谷 八幡くんでしょ?」

 

 そう雪ノ下は俺に言ってきた。俺を知ってるのはどいうことだ?

 

「なんだ雪ノ下、君は彼のことを知っていたのか」

 

「むしろ彼の名前を知らない人がいないんじゃないでしょうか、平塚先生」

 

 どういうことだ?

 俺は雪ノ下の方を見るとなぜか鼻で笑われた。おい喧嘩売ってんなら買うぞ、平塚先生がな。

 

「俺は自分で言ってなんだが、人様に知られるようなことをした覚えがないんだが……」

 

「あら、本当に知らないようね」

 

「おい、本題に入れよ。いちいちもったいぶるな」

 

「今年から戦車道が選択科目に入ったのはあなたも知っているわね?」

 

「ああ……」

 

「それじゃあ男子が戦車道を選んだ数はわかるかしら?」

 

「わかるわけないだろ……いや、0か?」

 

 正確に言えば俺を入れると0ではないのだがそこは今はおいとこう。

 

「違うわ」

 

 雪ノ下はそういうが、実際に戦車道に男は俺だけだし違うわけないのだが。

 

「じゃあ1か?」

 

 雪ノ下は首を横に振る。

 これも違うのか?

 

「わからん、降参だ。答えを教えてくれ」

 

「本当にわからないの?」

 

「それはどういう意味だ?」

 

「戦車道を選んだ男子は12人、あなたも入れると13人よ比企谷くん」

 

「いやいや、それはおかしいだろ。ならなんで戦車道に俺しか男がいないんだよ」

 

 他にいたら雑用とかめっちゃ押し付けるのに!

 

「そこなのよ比企谷くん。あなた以外の男子は全員第二候補の選択授業になっているのよ」

 

 余計わからんくなったんだが、他の男子が戦車道を選んでいた? それなら会長が雑用としてそのまま使うと思うだが、どうなってんだ?

 

「その様子だと本当に知らないようね。じゃあ、噂も知らないのねあなたは」

 

「噂?」

 

「比企谷 八幡が裏で生徒会を脅して自分以外の男子を選ばせなかった、っていう噂が流れてるのよ?」

 

 まじ?そんな噂が流れてんのかよ。

 最近戦車道ばっかりだったから人間観察を怠ってたからな。というかあの会長を脅すとかどうやるんだよ、逆に教えてほしい。

 

「それが出来るなら俺は真っ先に戦車道以外の選択授業に変えてもらう」

 

「あら、ハーレムを自ら手放すの?」

 

「……雪ノ下、お前が何を言いたいか知らんが、無責任にハーレムとかいうのはやめろ。あいつらだって一生懸命やってるんだ」

 

「…………」

 

「どうした?」

 

「い、いえ……少し意外だっただけよ。平塚先生」

 

「なんだ雪ノ下?」

 

「彼を更正することが奉仕部への依頼と思っていいのでしょうか?」

 

「ああ、そうだ。彼の腐った性根をどうにかしてほしい」

 

「本当に必要なんでしょうか? 今のところそこまで問題があるようには見えないのですが……」

 

「雪ノ下、君もこれを見れば考えが変わるぞ」

 

 そう言って平塚先生が取り出したのは先程の俺の感想文。それを雪ノ下に渡す。

 なんでそれをわざわざ持ってきてるんだこの人は。俺の個人情報を簡単に渡し過ぎじゃないだろうか。前にも言ったがボッチにだって人権はあるんだよ?

 

「これは……。あなた、どういう精神回路をしていればここまで酷いものが書けるのかしら……」

 

 もうね、ボロクソですよ。こいつあれだな、絶対友達いないだろ。こいつの毒舌を聞いてなお友達になるやつはよっぽどのお人好しか、ドMしかいない。

 

「まあ、先生からの依頼となれば無下にはできませんし、承りました」

 

 承っちゃたよ、雪ノ下のやつ。

 

「そうか……なら頼んだぞ、雪ノ下!」

 

 そう言って平塚先生はこの部屋から出ていった。

 え? まさか俺をこのまま放置していくつもりですか平塚先生? 雪ノ下と二人きりとかやめてほしい、さっそくだがもう帰っていいかな? 明日も朝練があるしそうしよう。

 

「ちょっと、なにをしてるのあなたは?」

 

「なにって、見てわかるだろ? 帰るんだよ家に」

 

「あきれた、さっき平塚先生が言ってたことをもう忘れたの?」

 

「あのな、俺は別に自分が更生する必要がないと思っている。だから無駄なことをしたくないから帰るんだよ……めんどくさいし」

 

「最後にの方がえらく本音じみているのだけど、あなた女の子としゃべったのは何年振り?」

 

 なんだその質問? それはあれですか? 俺みたいなやつは女子としゃべることがないと思われてんのか? ……いや、少し前ならあながち間違っていないな。

 

「30分前にしゃべったな」

 

「平塚先生は女の子ではないわよ?」

 

 こいつ自分がなにを言ってるのかわかってるのか? まあたしかにあの人は女の子という年齢ではないが……。平塚先生が聞いたら泣いちゃうよ? いやたぶんガチであの人は泣くと思う。そしてそのとばっちりが俺に飛んでくるまであるな。

 

「ちげーよ、戦車道のやつらだよ」

 

「驚いた。あなたにしゃべりかけてくれる人がいるのね」

 

 まじで驚いてるよ雪ノ下のやつ。

 そりゃいっぱいいますよ? 西住とか西住とか西住とか、時々武部たちとか。あれ? よく考えたら俺ほとんど西住ぐらいにしかしゃべりかけられてないな。

 あ、会長さんは別な、あの人はカウントしない。だってやっかいごとしか持ってこないもんあの人。

 

「まあな、なんせ俺みたいなやつに話しかけてくれるんだから、よっぽどのお人好しなんだろ」

 

 西住は人が良すぎる、それこそここにいる雪ノ下など到底及ばないレベルで。それ故に心配でもあるんだがな、だって戦車道以外はポンコツだし。

 

「自分で言ってて悲しくならないのかしらあなたは?」

 

「まあ、事実だし」

 

「持つものが持たざるものに慈悲の心をもってこれを与える、人はそれをボランティアと呼ぶ」

 

 いきなりなんだ? というか、どんだけ上から目線なんだこいつ。

 

「困っている人に救いの手を差し伸べる、それがこの部の活動よ。ようこそ奉仕部へ、頼まれた以上責任は果たすわ。あなたの問題を矯正してあげる、感謝しなさい」

 

 更生ではなく矯正ですか。俺は犬猫かなんかなんだろうか? それとも俺のこれはそのレベルでやばいと言いたいのか? どちらにせよ雪ノ下 雪乃、こいつはこいつで問題があるんじゃないか? 俺にどうのこうの言う前に自分をどうにかしろよ。

 

「おい雪ノ下、お前友達がいないだろ?」

 

 さてと、こいつと口論となると生半可な覚悟だと精神をズタボロにされかねん。俺は反撃の準備をしていたのだが、そこに予想外の返事が返ってきた。

 

「……いるわ一人、いえ私が一方的にそう思っているだけなのかもしれないのだけれども……」

 

 なん……だと!?

 どこのどいつだ? このツンドラのように凍りきったこいつの心を溶かした奴は。

 雪ノ下はこう言ってるが、十中八九そいつは雪ノ下のことを友達と思っているはずだ。なんで曖昧なことをいってるのかは雪ノ下自身、確証がもてないんだろう。こいつもクラスで浮いてそうだしな、俺と一緒で。そしてボッチは人の好意に猜疑的になるからな。

 そんなやつが友達がいると言ってるのだ、これはもう間違いないだろう。

 

「噂をすれば……」

 

 雪ノ下のつぶやきと共に奉仕部の扉が勢いよく開かれた。

 

「やっはろ~! ゆきのん、遅れてごめん!」

 

 ばん!と勢いよく、奉仕部にの扉開き、来訪者がやって来た。

 

「今日はてっきり来ないかと思っていたわ。あと由比ヶ浜さん、あなたは奉仕部じゃないのだから別に毎日ここにこなくてもいいのよ?」

 

「え!? 私、奉仕部じゃないの?」

 

「ええ、入部届ももらってないし」

 

 その理論で行くなら俺もまだ入部届を出していないから奉仕部じゃないことになるな。

 

「今すぐ書くから! もう、なんで言ってくれなったのゆきのん!」

 

「いえ、てっきりわかっているものだとばかり……」

 

 突如この奉仕部に現れたこいつはノートを取り出し、そこに入部届と書いている。

 

「せめて入部届ぐらい漢字で書けよ……」

 

 やっぱアホの子だったか。いやそれにしれても入部届を平仮名とか、こいつどうやって大洗に入ったんだ?

 そして俺がツッコんだことによっていつものごとくやっと認識されたかと思ったら。

 

「あれ? なんでヒッキーがここにいるの?」

 

 あん? なんでこいつは俺のこと知ってんの? というかヒッキー言うな、お前は最初の頃の武部か。

 

「そういえば由比ヶ浜さんはこの男と同じクラスだったわね」

 

「同じクラス? 誰と誰が?」

 

「あなた、話を聞いてなかったの?」

 

「いやだって、コイツのこと俺知らないし……」

 

 ついでにいうとコイツという存在を認識したのもさっきが初めてだ。

 

「嘘!? ヒッキー私のこと知らないの!? 同じクラスじゃん!」

 

「同じクラスだからって知ってるわけないだろ。むしろなんでお前は俺を知ってるんだよ」

 

 その理論で言えば俺はクラスのやつらから知られていることになる。いや、絶対ないな。

 

「え、えっとぉ、それは……あ、あれだよ! 最近ヒッキー噂になってるじゃん!」

 

 なんか今の答え方おかしくなかったか? いやまあ、さっき雪ノ下が言っていたが、なんか俺のことが噂になってるらしいからおかしくないといえばおかしくないのだが……。

 

「そ、そんなことより、なんでヒッキーがここにいるの?」

 

「平塚先生に連れてこられた……。あとヒッキー言うな」

 

「平塚先生に? ってことは依頼かなんかなのゆきのん?」

 

「そうよ由比ヶ浜さん。そこにいる彼は社会不適合者としてここに連れてこられたのよ」

 

「おいおい、いつの間に社会不適合者に俺の称号がランクダウンしたんですかね?」

 

「ランクダウン? アップの間違いじゃなくて?」

 

 おい、ランクアップてどういうことだよ。社会不適合者より俺は下ってことなの?

 

「おいおいそれは聞き捨てならなねぇな」

 

「あら、あなたにもプライドはあったのね」

 

 喧嘩売ってるんですよね? そうですよね? ならいいだろう、買ってやるよその喧嘩。

 

「ちょ、ちょっと、二人ともなんで喧嘩始めようとしてるの!? ゆきのんもゆきのんだよ、今のはゆきのんが悪いからね!」

 

「ご、ごめんなさい、由比ヶ浜さん……。少し言い過ぎたわ」

 

 雪ノ下は俺にではなくあいつに謝ってるし、それにあれで少しかよ。本気を出したらどこまで行くんだお前は。

 それにしても雪ノ下が素直に言うことを聞いたのが俺には驚きだった。

 

「さっき奉仕部じゃないって言ってたが、こいつも依頼かなんかでここに来たのか?」

 

「こいつじゃないし! 私には由比ヶ浜 結衣って名前があるんだからね!」

 

「お、おう、わかったよ、由比ヶ浜な」

 

 なんでこんなに怒ってるの? つうか必死すぎるだろ、なにがそこまで由比ヶ浜を突き動かすのか。

 

「なんでも由比ヶ浜さんは、ある人にお礼としてクッキーを渡したいそうなのだけど、作り方がわからなくて奉仕部に来たのよ」

 

「ここは何でも屋かよ……」

 

「ある意味では間違っていないわね、でも奉仕部がやることはあくまで方法を教えるだけよ?」

 

「どういう意味だ?」

 

「相手が魚が欲しいといえば魚を渡すのではなく、魚の捕り方を教えると言ったらわかるかしら?」

 

 なるほどそういうことね。

 

「つまりは本人自身に解決してもらう為の手伝いをするのが奉仕部のやり方ってわけか」

 

「………」

 

「なんだその変なものを見る目は……」

 

「いえ、意外にも思考する脳があったのねあなた」

 

 それ褒めてないよね? それとも雪ノ下、お前の辞書には褒めると書いて貶すと呼ぶんですかね?

 

「俺はこう見えて頭がいいんだよ。実力テスト国語学年三位だからな」

 

「え? ヒッキーって意外と勉強が出来たんだ」

 

 あの由比ヶ浜さん? 意外とは余計だ、意外とは。あとヒッキー言うな。

 

「違うわ由比ヶ浜さん、勉強が出来るんじゃなくて、勉強しかできないのよ彼は」

 

「雪ノ下、お前は人をいちいち見下さないと話ができないのか?」

 

「いいえ、これはあなただけよ? 比企谷くん」

 

 うわー、まったくもってうれしくもなんともないんだが。俺はそんな歪になってる特別を求めたつもりはないぞ雪ノ下。

 

「まあ、俺のことは今はどうでもいい。それで? 由比ヶ浜のクッキー作りはうまくいってんのか?」

 

「アハハ……えっと、それはー……」

 

「……とりあえず、今のところはうまくいったとは言えないわね……」

 

 なんか雪ノ下が遠い目をしてるんだが……え? なに? 由比ヶ浜のやつそんなに酷いの? あの雪ノ下が苦戦するとかやばすぎじゃなかろうか?

 

「とりあえず今日はもう帰りましょう」

 

 どうやら今日はお開きになるらしい。

 

「なら俺がカギを職員室に持って行ってやるよ」

 

「あなた……、私たちが帰ったあとこの部室で何をする気なの?」

 

「は?」

 

「言っとくけど私や由比ヶ浜さんの私物は置いてないわよ」

 

「ヒッキーの変態!!」

 

「おい、人の善意を捻じ曲げて犯罪者にしたてあげるな雪ノ下」

 

 あと由比ヶ浜、お前がなにを想像したかは知らんが、顔を真っ赤にしてるあたり人のことを言えないからな?

 

「平塚先生に話があるからそのついでだよ。なんならお前がカギを掛ければいいだろ。そのあと持っていくから」

 

「でもその後に……」

 

 どんだけ俺のこと疑ってるんだこいつは……。

 

「ほら、ゆきのん! ヒッキーもああいってるんだし、ね?」

 

「由比ヶ浜さんがそう言うのなら……。部屋に置いてあるものはすべて記憶してるから動かしたらわかるわよ?」

 

「わかったから早く済ませてくれ。俺は明日も朝早いんだよ、早く家に帰りたい」

 

「え? ヒッキー部活かなんかやってたっけ?」

 

「部活はこの奉仕部だろうが由比ヶ浜。俺は戦車道の朝練を今やってんだよ、遺憾ながら」

 

「遺憾ながらなんだ……。でも朝練って、ヒッキー何するの? 雑用?」

 

「なに? 俺ってそんなに下っ端根性が住み着いてるようにでも見えんの?」

 

「ち、違うよ! だって戦車道って女の子がやるものなんでしょ?」

 

 ああ、そういうこと。

 

「俺も全国大会に出るからな、しょうがない」

 

「ヒッキーってもしかして女の子だったりするの?」

 

「由比ヶ浜さん、冗談でもそういうことは言わない方がいいわ……。想像したくないから」

 

 珍しく雪ノ下が俺をフォローしたかと思えばやっぱり雪ノ下は雪ノ下だった。

 

「ご、ごめん。じゃあ、ならなんでなのヒッキー?」

 

「それを俺に言われても困る、俺を大会に出すって言ったのがなんせ会長だからな」

 

「会長って、あの生徒会長さん?」

 

「ああ、あの生徒会長だ」

 

 あの人をどうにかできる奴なんてこの学校にいるのかね? たぶんだが教師ですら役不足な可能性がある。

 

「ね、ねえ、ヒッキー、なら戦車に乗ってるんだよね?」

 

「それがどうした?」

 

「そ、それだと、女の子と一緒に乗ってるのかなーって思って……」

 

 そりゃあ普通はそう思うか。いや、というか待て。

 

「雪ノ下さん? なんであなたは携帯を取り出してるんですかね?」

 

「携帯でやることは一つだと思うのだけれども、セクハラ谷君?」

 

 俺の名前ほとんど原型とどめてないぞ、それ。

 

「お前がなにをしたいかも今俺のことをどう思ってるかもわかったが、ひとまず携帯をしまって俺の話を聞け」

 

「俺はやってないとでも言うつもり? 犯罪者は全員そう言うのよ?」

 

 それだと冤罪だらけになりませんかね雪ノ下さん?まずそもそも俺がセクハラをやった前提で話を進めるな。

 

「違う。俺は断じてしてないし、その証拠もある」

 

「私が納得できなかったら通報するから覚悟することね」

 

 どんだけだよ、お前が納得できなかったらとかいくらなんでも横暴すぎるよ?

 

「俺の戦車は一人乗りだ」

 

 俺は簡潔にそう答えた。

 

「そう、それなら無理ね……」

 

 おい、なんで少し残念そうなの? どんだけ俺を通報したかったんだこいつは。

 

 そして俺は雪ノ下たちと別れて職員室に向かった。

 

「平塚先生、鍵を返しに来ました」

 

「ああ比企谷、君か、ご苦労様」

 

「それで平塚先生、俺を奉仕部に入れた理由を教えてください」

 

「理由は君が一番わかってるだろうに」

 

 俺の更生のため……ね。

 

「戦車道をやってるんで毎日とはいきませんよ俺?」

 

「ああ、だから君が暇なときにでもあそこに向かえばいい」

 

 やっぱりか。

 

「それは雪ノ下のためですか?」

 

「君のためでもあるよ、比企谷」

 

「俺になにかできると期待してるならやめた方がいいですよ。自分で言うのもなんですが、捻くれてるんで俺」

 

「別にそこまで気負わなくてもいいさ。君は君のままで雪ノ下と接してやれ」

 

 そうするとたえまなく口喧嘩が続くんだがいいんだろうか? まあ由比ヶ浜がいるし、なんとかなりそうではあるが。

 

「はあ……わかりました」

 

「君も戦車道を頑張りたまえ、私も応援しているからな」

 

「それならいっそ平塚先生も戦車道をやったらどうですか? モテるようになるらしいですよ?」

 

「いや……いい」

 

 先生にしては珍しく落ち込んでいるな。

 

「それはどうして?」

 

「昔な……やっていたんだよ、戦車道。何故か私の周りには男ではなく女が集まっていたが」

 

 まあたしかに平塚先生はかわいい系ではなくカッコいい系に入るのかもな。だってこの人が戦車を動かすところが容易に想像できる。そしてその平塚先生に群がるのは女ばかりだったと。

 

「それでモテなかったからやめたんですか、戦車道を?」

 

「ああ……」

 

「平塚先生……」

 

「なんだ比企谷?」

 

「いつかいい人が見つかりますよ、絶対」

 

「……そうか、ありがとう比企谷」

 

 こんな感じでいい話で終わると思ったのだが……。

 

「もしダメだったら私を貰ってくれるか?」

 

「え? いや、それはちょっと……」

 

 さすがにそれはどうなんだ? たしかに俺は専業主夫を目指してはいるが……。あれ? そう考えると平塚先生は意外と優良物件だったりするのか? 公務員だし給料は安定してるし、暴力的なところと愛が重すぎるのを除けば……いや後半が不安要素ばりばりすぎる。無理だなこれ。

 やっぱり俺には小町しかいないな。

 

「なんてな冗談だ。気にしなくていいぞ比企谷」

 

 いや、目がマジだったんですけど……。

 そこにツッコみを入れると平塚先生ルートに強制突入しそうなので俺は大人しくそのまま家に帰った。

 

 

 ====

 

 

「お兄ちゃん、今日はまた随分と遅かったね」

 

「ああ、いろいろあってな」

 

「ふーん。あ、そうそう、愛里寿ちゃんがお兄ちゃんに会いたがってたよ?」

 

「愛里寿が?」

 

 そういえば最近は会ってない気がするな。

 

「とりあえずお兄ちゃんが戦車道始めたことは伝えといた」

 

「そうか。と言ってもなあ。俺は学園艦にいるし、小町みたいにそうひょいひょいと動けるわけじゃないしな」

 

「お父さんって頑なにお兄ちゃんをヘリに乗せないよね? なんでだろ?」

 

「それは最初に俺がヘリに乗った時お前が俺の膝に座ったからだろ」

 

「え、そんな前のことをまだ根に持ってるのお父さん」

 

 そんなことってなあ小町さんよ。親父がいくら言っても俺の膝から頑なに降りないからこうなったんだぞ? そ れで拗ねた親父が俺をヘリに乗せなくなったのだ。

 

「まあ盆になれば集まるだろうし、愛里寿にはそんときに会うだろ」

 

「それはどうだろうねぇ」

 

「どういう意味だ、小町?」

 

「お兄ちゃんがそう思ってても愛里寿ちゃんがそう思ってるとは限らないってことだけ教えといてあげる」

 

「いや、余計にわからなくなったんだが……」

 

 


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