間違いながらそれでも俺は戦車に乗るのだろう。   作:@ぽちタマ@

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彼は意外にも行動を起こす

 俺はMAXコーヒー仲間が増え、上機嫌で西住たちの集合場所へときたのだが……。え? あれなんなの? なんか負のオーラを纏った集団がいるんだが。

 おかしいな、集合場所間違ってたっけか俺? というかあの集団は断じて見覚えのある連中ではないな。うん、よし逃げよう。

 

「比企谷……、どこ行こうとしてるの?」

 

 ちょっ、武部さん、なんでわかったんですかね?

 おかしい、いつもの俺ならステルスヒッキーが発動して周囲の人間に認知されることないんだが。

 最近ステルスヒッキーの精度が落ちてきている気がるんだが気のせいか?あれか、戦車道をやっているせいで俺のボッチ力が著しく低下しているのかもしれん。今日なんて日曜だってのにわざわざ出勤してるんだから社畜度のレベルがすごく上がったな。

 いや、全然よくないだろこの現状は、まだ俺高校生なのにすでに社畜の仲間入りとか嫌すぎる。

 

「いいわよね比企谷は、あんこう踊りを踊らなくて……」

 

 な、なんだろうか……、今とてつもなく話しかけたくないんだけど。これって話しかけないといけないんだろなぁ。

 

「あんこう踊りのことならそこまで気にしなくてもいいんじゃないか?」

 

 まあ、あれはいろんな意味で酷くはあったが、そこまで落ち込むほどじゃないだろ。

 

「比企谷になにがわかるの!? わたしたちあんな格好で踊ったんだよ!? もうお嫁にいけないよ!!」

 

 なんか心配して損したな。

 結局、武部のやつは変わらんな平常運転だ。よし放っておこう。正直相手するのがめんどくさくなってきた。

 となるとあとこのメンバーの中で落ち込んでいるのは……。

 

「西住も、武部と同じ理由で落ち込んでいるのか?」

 

 自分で言っといてなんだが、西住が武部と同じ理由だったらなにを信じればいいかわからんくなるな。

 

「え……う、ううん。そうじゃないけど……」

 

 良かった……違ったよ。どうやらこの世界はまだ大丈夫なようだ。でもなんか歯切れが悪いな。

 

「じゃあ、なんでそんなに落ち込んでるんだ?」

 

「……よね?」

 

「すまん西住、よく聞こえないんだが」

 

「は、八幡くん……私たちのあの姿見たんだよね?」

 

 西住は言い終わったあと顔を真っ赤にしている。

 あの姿とはつまり、あのぴっちぴちのあんこうスーツのことだろう。あれは露骨にボディラインが出るからな、そりゃあ俺なんかに見られたら落ち込みもするか。

 そしてほかのやつらも西住の一言で思い出したのか一斉に俺の方を見てくるんだが、え?なに?今から俺、見られたからには……的なことで消されるの?

 

「え……いや、なんというか……」

 

 やばいぞこれ、返答次第では明日の日の目を拝めなくなる可能性があるんだが、どうする俺!?

 

「すまん……。たしかにお前らのあの姿を見たのは否定しない」

 

 もう素直に謝ることにした。下手に誤魔化してややこしいことにしたくないしな。

 

「や、やっぱり、そうなんだ……」

 

「ひ、比企谷殿に見られていたんですか!?」

 

「うう……、わたくし、また恥ずかしさがぶり返してきました」

 

「比企谷!責任とってくれるんでしょうね!」

 

 責任と来たか、まあ俺のせいで西住たちが恥ずかしい思いをしたならしょうがないか。

 

「わかった。俺も男だ、責任をとろう」

 

「「「え!?」」」

 

 俺の本気を見せてやろうじゃないか。

 

 

 ====

 

 

「で、今私たちはみんなでパフェを食べていると……」

 

 いやー久しぶりに本気出したな俺。正直四人分のパフェの出費はなかなかに痛かったがしょうがない。

 

「なんだ、食べないのか武部?」

 

「わかってたよ? どうせ比企谷だしこんなことだろうと思ったけど……やっぱり納得いかない!!」

 

「なんだ、まだパフェが食べたいのか?」

 

「違うから! もういい、やけ食いするもん!!」

 

「なあ西住、なんで武部のやつあんなに怒ってるんだ?」

 

 なんでパフェを奢ってるのに俺はキレられているんだろうか?

 

「え、それはなんというか、勘違いした私たちも悪いとは思うけど……」

 

 え?西住たちもなんか勘違いしてたのか。

 

「八幡くんの言い方も誤解を招いた原因ではあるかな?」

 

 どういうことだ? なんか俺間違ったことでもいったのだろうか? そう思い、秋山と五十鈴のほうを見ると、西住の意見に共感しているのか二人してうんうん頷いている。

 まじで俺はなにかやらかしたのか、まったく心当たりがないんだが……。ん?というか。

 

「そういえば冷泉のやつはどこにいるんだ?さっきから見かけないが」

 

「冷泉殿ならおばあさんのところに行くと言って、比企谷殿が来る五分ぐらい前に出発しましたよ」

 

「そうか、まあとりあえずパフェを食い終わってからいろいろ考えるか」

 

 そしてパフェを食べ終えたのだが、武部のやつがガチでやけ食いしやがった。おかわり二杯とかさすがにやりすぎじゃないのか?女子的に体重とか気にしてんじゃないの?

 まあいいか、いやよくないが俺の財布が軽くなった現実は見なかったことにしよう。

 

「7時まで自由行動ですが、どうしましょうか?」

 

「買い物行こう~!」

 

 ということで俺たちは今、大洗のショッピングモールにいる。

 

「可愛いお店いっぱいあるね~」

 

「あとで戦車道ショップに行きましょうね!」

 

「その前になにか食べに行きません?」

 

 え……五十鈴さん、あなたさっきパフェを食べませんでしたっけ?もしかして意外と大食漢なのか五十鈴のやつ。しかしそうなると食べたものはどこにいってるんだろうな?どう見ても太ってるようには見えないし、あれか身長と胸にいってるのか。

 え?なんでわかるかって?それはもちろん、あんこ……ゲフンゲフン、今のは失言だったな。

 

「あ……」

 

 武部につられてみると、そこには人力車があった。こちらを見かけたかと思うとその運転手が爽やかな笑顔を振りまきながらこっちに来た。

 知り合いでも誰かこの中にいるのか?そう思っていたら。

 

「新三郎?」

 

 はい、五十鈴さんの知り合いでした。

 

「知り合い!?」

 

 気になるのはわからんくもないが、武部は少し落ち着こうか。

 そして件の新三郎さんは人力車を止め、こちらに近づいてきた。

 

「お嬢、元気そうで」

 

「なに!?聞いてないわよ!!」

 

 もうツッコむのめんどくさいんだが……。今日も武部は平常運転、でもないのか? いつもなら目があった時点でなんかいろいろ言いそうなもんだが今日は調子が悪いんだろうか?

 いや、恋愛脳(スイーツ)に調子がいいも悪いもあるかは知らんが。

 

「うちにいつも奉公に来ている、新三郎」

 

「どうも。お嬢がいつもお世話になっています」

 

 新三郎さんが挨拶したあと、人力車から着物を着たこれまたな人が日傘をさして降りてきた。どことなく五十鈴のやつと似ているな、というかもしかして話の流れ的に親子なのかこの二人?

 

「華さん」

 

「お母様!」

 

「よかったわぁ、元気そうで。……そちらの皆さんは?」

 

「同じクラスの武部さんと西住さん、そして比企谷さんです」

 

「「こんにちは」」

 

「……ども」

 

「私はクラスは違いますが、戦車道の授業で……」

 

「戦車道?」

 

 なんだ?雰囲気が変わったか?今明らかに戦車道に反応してたよな。

 これはもしかしてまずいんじゃなかろうか、俺は慌てて秋山のやつを止めようとしたが。

 

「おい!秋や――」

 

「はい!今日、戦車道の試合だったんです!!」

 

「華さん……、どういうこと?」

 

「お母様……」

 

 そして五十鈴の反応で秋山のやつも気づいたんだろうが少し遅かったな。まあ今のはしょうがない、問題はむしろここからだろ。

 

「あ……」

 

 五十鈴の母ちゃんはいきなり五十鈴の手を取ったかと思うと匂いを嗅ぎだした。どうも五十鈴のやつが匂いに敏感なのはこの人譲りっぽいな。

 いや、今はそんなこと考えてる場合じゃないか。

 

「鉄と油の匂い……あなた、もしや戦車道を?」

 

「……はい」

 

「花を活ける繊細な手で、戦車に触れるんなんて……、ああぁ……!」

 

 あまりにもショックだったのか、気を失いそのまま倒れてしまった。

 

「お母様!」

 

「奥様!」

 

 

 ====

 

 

 俺たちはあのあと倒れた五十鈴の母親を家まで運んで来たんだが……。まじもんでいいとこのお嬢様だったんだな五十鈴のやつ。いまどきこんな立派な武家屋敷に住んでるとかそうそうないぞ。

 

「すいません、私が口を滑らせたばっかりに……」

 

「そんな、わたくしがちゃんと母に話してなかったのがいけないんです」

 

 雰囲気がよろしくない。まるで葬式前みたいに全員静かになってるよ。

 そして襖が開き新三郎さんが現れる。

 

「お嬢、奥様が目を覚まされました。……お話があるそうです」

 

「わたくし、もう戻らないと。お母様には申し訳ないけど……」

 

 時間的にはまだ余裕があるはずだが、五十鈴は話をしたくないんだろうか?

 

「さしでがましいようですが、お嬢の気持ち……奥様にちゃんと伝えた方がよろしいと思います!」

 

 ふむ、たしかに新三郎さんの言うことも一理あるな。

 

「俺もそう思うぞ、五十鈴」

 

「比企谷さん?」

 

「俺が言うのもなんだが下手にこういうことから逃げない方がいい」

 

「ですが……」

 

「まあ話を聞け、逃げ続けたその結果が俺みたいになるからおすすめはしないぞ?」

 

 まあ、正確にいうと違ったりするんだがこの際は置いておこう。

 

「比企谷が言うと嫌に説得力があるわね」

 

 あの武部さん?今は余計なことは言わなくていいからな?

 

「ふふっ、比企谷さんはいつもそうなんですね」

 

「なんのことだ?」

 

 よくわからないが五十鈴のやつは納得してくれたらしい。

 

「わかりました、お母様のところに行きましょう」

 

「お嬢!」

 

 

 ====

 

 

「いいのかな?」

 

「偵察よ、偵察!」

 

 で、俺たちが今何をしているかというと、ぶっちゃけると盗み聞きしています。はい。

 この際細かいことはそこらへんに置いておこう。五十鈴を煽った手前、話の内容が気なるのはしょうがないのだ。

 

「申し訳ありません……」

 

「どうしたの?華道が嫌になったの?」

 

「そんなことは……」

 

「じゃあ、なにか不満でも?」

 

「そうじゃないんです……」

 

「だったらどうして!?」

 

「わたくし活けても活けても……なにかが、足りない気がするんです」

 

「そんなことないわ、あなたの花は可憐で清楚、五十鈴流そのものよ」

 

「でも、わたくしはもっと、力強い花を活けたいんです……!」

 

 つまり五十鈴のやつは今の自分の華道に限界を感じてて、それをなんとかしようと戦車道に入ったってわけか。

 ちゃんとした理由があったんだな、さすがに武部みたいな理由で戦車道を選択したとは思ってなかったが。

 そしてたぶん母親に反対されることも承知の上だったのだろう。

 基本的に俺たちは学園艦ですごしているからな、滅多なことじゃ親に会わないやつの方が多い。うまくいけばバレないと踏んでいたんだろうが、こうなってしまったわけだ。

 西住も五十鈴の言葉で表情が変わったな。やっぱり同じ家元としてなにか思うところがあるんだろう。

 

「あぁ……。素直で優しいあなたはどこへ行ってしまったの? これも戦車道の所為なの? 戦車なんて、野蛮で不格好でうるさいだけじゃない!……戦車なんて全部、鉄くずになってしまえばいいんだわ!」

 

「て、鉄くず…!」

 

 どうどう秋山、戦車が貶されて怒りたい気持ちもわかるが今は大人しくしとけ。

 

「……ごめんなさいお母様。でもわたくし……戦車道はやめません!」

 

 やはりというかなんというか、五十鈴のやつは芯が強いな。この状況ではっきり自分の意見を口にするのはなかなかできないと思う。

 

「わかりました。だったらうちの敷居を跨がないで頂戴」

 

「奥様、それは……!」

 

「新三郎はお黙り!」

 

 これは実質的に勘当と一緒だろうな。

 それと新三郎さんも大変だな、たぶんだがどっちの気持ちもよくわかるんだろう。けど立場的にはどっちの味方にもなれない、それゆえにもどかしいんだろうな、なにもできない自分に。

 なら代わりに俺がどうにかするか。

 

「え? 八幡くん?」

 

 そして俺は襖を開ける。

 

「ちょっと、いいですか?」

 

「なんですかあなたは? 今は大事な話をしているんですよ」

 

「その大事な話に関係があるから横やりをいれさせてもらったんですよ」

 

「どういうこと?」

 

「五十鈴が戦車道を始めたのに俺が関係しているんですよ」

 

「比企谷さん!?」

 

 言いたいことがあるのはわかるが今はすこし黙っていてくれ。それと俺は別に嘘は言ってないからな。

 西住を戦車道に入れたことで間接的にしろ五十鈴が戦車道をやるきっかけを与えたのも事実だしな。

 そして俺の目的はただひとつ、五十鈴の話を最後まできちんと聞いてもらうこと。それにはまず相手を落ち着かせないといけない。

 あとで怒られそうだがしょうがないやるか。

 

「あなたの所為で華さんが変わってしまったのね」

 

「否定はしませんよ。でももう関係ないですよね?先程、勘当まがいのことを言ってたんですから。たとえ五十鈴が俺に脅されて無理やりに戦車道をやっていてもどうでもいいんでしょ?」

 

 さすがにこの言葉は無視できないだろう。まあ、そんな事実はひとつもないんだが、それこそ今あの人には知りようがない。

 

「だからこれから五十鈴のやつが……いや、華が俺に脅されていくのもあなたにはどうでもいいことなんでしょうね。だって華道をやっていないなら娘じゃないんでしょうし」

 

 俺はそう言いながら五十鈴の母親に近づいていく。

 さてと、ここまで言えばいくら意固地になった相手でもさすがにキレるだろ。

 そして俺の予想通りの展開になった。

 

 パシィンッ!!

 

「あ、あなたみたいな人にうちの大事な娘をどうにかさせたりしないわ!」

 

 はい、ビンタされました。まあ、来るのはわかってたんだがやっぱり痛いな。聞きたい言葉も聞けたし結果オーライだな。

 

「そんなに大事なら五十鈴流としての五十鈴 華じゃなく、自分の娘の五十鈴 華として、ちゃんと話を聞いてやってください」

 

「え……?」

 

「さっき俺がいったことはほとんど嘘なんで気にしないで大丈夫ですよ」

 

 俺はそれだけをいい部屋を出た。

 

「比企谷!なにやってるの!?」

 

「なにって見てわかるだろ? ビンタされにいったんだよ」

 

「そういうことじゃなくて……」

 

「俺は先に外に行ってるから終わったら声を掛けてくれ」

 

 俺はまだなにか聞きたそうな西住たちを無視して外に向かう。

 しかし五十鈴の母ちゃん容赦がない。だってめっちゃビンタされたところが痛いからな、まあそれだけ五十鈴のことが大事だったってことか。

 すこし羨ましくもあるが俺には小町がいるし、いいか別に。

 

 

 ====

 

 

「華さん、先程の彼は?」

 

「え? 比企谷さんはわたくしと同じ戦車道をやっていて……」

 

「男の人なのに戦車道をやっているの彼は?」

 

「そうです。わたくしはくわしい事情は知りませんが」

 

「そう……、彼にはお礼を言わないといけないわね」

 

「……そうですね」

 

「華さん、先程うちの敷居を跨がせないといいましたけど、あれを取り消すつもりはないわ」

 

「お、奥様!」

 

「新三郎、話は最後まで聞くものよ。自分の新しい華道を見つけてきなさい華さん。それが出来た時にこの家に帰ってきなさい。それまでは敷居を跨げないから覚悟して励むように」

 

「っ!はい、お母様!」

 

 

 そうして華さんは話が終わったのか、私たちのところに来たんだけど、その顔はどんよりしているというよりはむしろやる気に満ちていました。

 

「では帰りましょうか皆さん。いつかお母様に納得してもらえるような花を活けることができればいいんです。それまではこの家には帰れませんから」

 

 いつか納得してもらえるように……。その言葉が私の頭から離れず繰り返される。

 

「お嬢!!」

 

 新三郎さんはすごい泣き顔になっちゃってる。

 

「笑いなさい新三郎、これは新しい門出なんだから……わたくし頑張るわ」

 

「はいっ!」

 

「華さん」

 

「どうかしましたか、西住さん?」

 

「私も……頑張るよ、戦車道」

 

 私の言葉に華さんは優しく微笑みを返してくれた。

 お母さんやお姉ちゃんが納得できるような私だけの戦車道、見つかるかどうかはわからないけどやってみよう。

 

 

 ====

 

 

「いつまでもまっています、お嬢様~!!」

 

 新三郎さん近所のご迷惑になるんでそろそろ泣き止んでもらってもいいですか?

 

「顔はいいんだけどな~」

 

 どうやら俺の気の所為だったらしい、武部のやつはいつも通りだな。

 というか……。

 

「いくらなんでもこの人力車に5人はさすがに無理があるだろ……」

 

「だってしょうがないじゃん、出港ギリギリなんだから」

 

 それはそうなんだろうが、そもそも配置がおかしくない?

 前の座席に武部、秋山。そして後ろの座席に五十鈴、俺、西住の順で座っている。できれば俺は端っこが良かったんだが……。人力車はとにかく揺れる。そのせいで西住と五十鈴に触れてしまいそうになって気が気じゃないんだが。

 これ拷問じゃなかろうか?もし間違えて触れようもんならセクハラのレッテルを張られるとかシャレにならん。

 

「比企谷さん、今日はありがとうございました」

 

「どうした、いきなり?」

 

「いえ、別にいきなりでもないと思うのですが……」

 

「別に礼を言われることをしたつもりはないけどな」

 

「あんな嘘までついたのにですか?」

 

「それこそ嘘ついてビンタされに行っただけだけどな」

 

 なんかこれだと俺がMみたいだな、いやそういわれたら言い逃れはできないことをしたのはたしかだが。断じて違うとここでは言わせてもらおうか。

 

「あ、そういえば比企谷、どさくさに紛れて華のこと名前呼びしたでしょ!」

 

 なんで俺が忘れてたようなことをお前が覚えているんだ武部よ。

 

「別にあの時いっただけだから気にするな。特段深い意味はない」

 

「そうなんですか?別に名前呼びでもわたくしはかまいませんよ?」

 

「いや俺がかまうから、名前呼びとかボッチにハードル高すぎなんだよ」

 

「ではわたくしは八幡さんとお呼びしますね」

 

 ちょっと待て、今の会話おかしくなかったか? なんで俺の名前呼ばれてんの?

 

「いや今まで通りでお願いしたいんだが……」

 

「お断りします♪」

 

 なんともいい笑顔で五十鈴のやつはそう言ってきた。

 

「八幡くん」

 

「ん?どうした西住?」

 

「私、戦車道頑張ってみるよ」

 

「は? いや、今までだってお前は頑張ってきただろ。なに? それ以上頑張るの?」

 

 俺が知る限り西住が戦車道において手を抜いてるとこなんか見たことがないんだが。

 

「え、えっと、そういうことじゃなくて……。お母さんやお姉ちゃんに認めてもらえるような私だけの戦車道を見つけようと思ってて」

 

「そういうことか」

 

「うん、だから八幡くん、私のことちゃんと見ててね」

 

 なにこれ? 俺プロポーズでもされてんの? いや、西住のことだから単純に私の戦車道を見てって意味なんだろが、誤解するやつは誤解しそうだな。

 

「まあ西住は戦車道の時以外はポンコツだからな。俺はむしろそっちのほうが心配でしょうがない」

 

「そんなことは……最近はそうでも、ないはず……」

 

 自分でも自覚はしているんだろう。なんだろうあれか、戦車道に集中力を持っていかれすぎて普通の時に気が抜けてるのかもしれんな。ん?これってもしかして対処しようがないんじゃ……。

 

「まあ転んだ時ぐらいは手を貸してやるよ西住」

 

「うん、私たちが困ってたらその時はお願いね」

 

「まああんまり期待はするなよ、なんせ俺だからな」

 

 というかちゃっかりと西住のやつ、私たちって言ってるよ。

 

 

 ====

 

 

 そして俺たちはやっとこさ港に着いたが結構ギリギリだったな。出港まであと五分もないぞ。

 

「遅い……」

 

 冷泉のやつ、わざわざ俺たちを待っていてくれたらしい。というか何そのポーズ?カッコいいな。今度俺も真似してみようかしら?いや、やめとこう。俺がやったら気持ち悪がられるな絶対に。

 

「もう、夜は元気なんだからー!」

 

 俺たちは急いで学園艦へと乗り込む。

 

「出港ギリギリよ!」

 

「すいません」

 

「すまんなそど子」

 

「その名前で呼ばないで!」

 

 戻ってきたな、やっと長い一日が終わった気がする。あとは帰って……。

 ちょっと待て、今日は日曜日ってことは明日から学校じゃねぇか。まじ?勘弁してくれよ俺絶対明日筋肉痛になるぞ、さすがに今日は疲れた。

 装填、操縦、砲撃、実戦でやってみると思いのほかきつく、今も体中が痛かったりする。

 俺はいっそのこと思い出さない方がよかった現実から目をそらしていると、ちょうど階段を上がった先に一年生たちがいた。

 

「西住隊長……」

 

「え?」

 

「戦車を放り出して逃げたりして、すいませんでした!!」

 

「「「すいませんでした!!」」」

 

 なるほど謝りに来たのね。なら、やることは一つだな。俺は一年生チームに近づく。

 

「怖かったか?」

 

 俺に怒られるとでも思っていたのだろう、全員意外そうな顔をしてるよ。

 

「え、あの……、怒らないんですか?」

 

「なんで?」

 

「なんでって、私たち戦車から逃げ出したんですよ?」

 

「そういわれてもな。別に俺はそのことに関してはそもそも怒ってないしな」

 

「で、でも……」

 

「勘違いしてるようだから言っとくが、別に逃げることが悪いだなんて俺は思っていない」

 

 まあ、状況によりけりだが今回はこいつらは悪くないだろう。そもそも俺がけしかけたことだしな。

 

「初めての戦車の試合で怖かったんだろ?なら別に逃げ出したってかまわん、というかむしろ危ないと思ったらすぐに逃げろ。別に戦車道は戦争じゃないんだからな」

 

 俺はそういって全員の頭を撫でる。

 

「だけどお前らも戦車道が楽しいだけのものじゃないってわかったろ?」

 

「はい…」

 

「それでちゃんと謝りに来たんだ、褒めはするけど怒ったりはしないぞ俺は」

 

 まあ、こんなもんか。

 

「なんか比企谷、えらく年下の子の扱いがうまくない?」

 

「小町ちゃんがいるからじゃない?」

 

「えー、なんかそれだけじゃない気がする…だって無駄に優しすぎるよ」

 

 おい武部、俺にいらん容疑をかけようとするなよ。少し一年生たちが距離をとったじゃないか、ロリコン先輩とか呼ばれた日にはこの学園艦からいなくなるぞ俺。

 

「先輩たちカッコよかったです!」

 

「すぐ負けちゃうと思ってたのに…」

 

「私たち次は絶対頑張ります!」

 

「絶対頑張ります!!」

 

「あと比企谷先輩もカッコよかったです…卑怯でしたけど」

 

「卑怯でしたけど!!」

 

 いや、そこは復唱しなくていいから……。まじで褒めるか貶すかどっちかにしてくれよ、上げて落とすとはまさにこのこと。

 

「これから作戦は西住ちゃんにまかせるよ」

 

 どうやら会長さんたちもこの場にいたらしい。

 

「えっ!?」

 

 なんで意外そうな顔してるんですか河嶋さん、俺にはそっちのほうが驚きだよ。

 

「で…これ」

 

 そういって会長が差し出したのは紅茶のカップと手紙?手紙にはto friend書かれている。

 

「すごいです!聖グロリアーナは好敵手と認めた相手にしか紅茶を送らないとか」

 

 へぇ、そういうことか。何気にダージリンさんも西住のことが気に入ったんだな。

 

「そうなんだー」

 

「昨日の敵は今日の友、ですね!」

 

「あ、そうだ。比企谷ちゃんにも手紙もらってるんだった」

 

 まってなんでこの流れでだしたんだこの人?西住たちの時と一緒に俺に渡せばいいのに…ちょっとまて、嫌な予感がする。

 

「はい、ラブレター」

 

「は?」

 

 今なんて言った?ラブレター?誰が誰に?

 この場合相手は聖グロだろ、そしてその貰い手は先程会長が言った通り俺になるわけね。これ絶対ダージリンさんの仕業だろ、まじろくなことしないあの人。

 それともあれか?まだ詐欺師って言ったことを根に持ってるのかもしれん。手紙にはご丁寧に I Love you と書かれている。たしかにこれなら誰も間違えないだろうな、逆に誤解を解くのが難しくなるんだが……。

 

「いやー比企谷ちゃん、いつのまにそんなに仲良くなったの?」

 

 そしてこの人絶対分かったうえでこんなこと言ってるよ。だってめっちゃ顔が笑顔なんだよ!これでもかってくらいの笑顔である。

 ……おかしい、まだ秋には入ってないはずなんだがえらく寒気がする。

 

「比企谷……」

 

「うぇい!」

 

 あまりにもビックリしすぎて変な声を出してしまった。

 

「その手紙を見せて」

 

 そこにはNoといえない雰囲気をかもしだした西住たちがいたのだ。

 え?なんで皆さんそろいもそろってそんなに殺気立ってんの?怖いから、一年生がおびえてるじゃないか。

 そして俺は無言で手紙を渡す。

 まあ中身は見てないがどうせラブレターとは程遠い内容がかいてあるんだろうな。

 

「あれ?これ私たちがもらった手紙とほとんど内容変わらないじゃん」

 

 やっぱりか。

 

「まあ、いたずらだったんだろうな、俺が貰ったもんだし一応返してくれると助かる」

 

 それとその手紙にはまだ用があるんだよ俺は。

 

「まあ比企谷ちゃんは置いといて、公式戦は勝たないとねー」

 

「はい、次は勝ちたいです!」

 

「公式戦?」

 

「戦車道の全国大会です!」

 

 

 ====

 

 

『大洗学園、8番!!』

 

 トーナメント表に大洗学園の文字が出る。これで俺たちの全国大会の相手が決まったな。

 

 それで俺たちがどこにいるかというと戦車道全国大会の抽選会場に来ているんだが……。なんかめっちゃみられている気がするんだが、気の所為ではないだろう。

 なんせこの中で唯一、男である俺がいればそれはもう嫌になるぐらい注目を浴びる。

 

「会長、俺来ない方がよかったんじゃ…」

 

「いやー参加者は全員出席って書いてあったから無理だったんだよ比企谷ちゃん」

 

 くそ!これ絶対戦車道連盟の嫌がらせだろ。

 

「サンダース校…」

 

「それって強いの?」

 

「優勝候補のひとつです」

 

「えー大丈夫?」

 

 全然大丈夫ではないがやるしかないんだよな俺たちは。なんせ負けたら廃校である。

 

「初戦から強豪ですね…」

 

「負けられない…負けてしまったら私たちは…」

 

 ある意味初戦で当たってよかったかもしれんな。二回戦までは十両までしか戦車は参加できない。

 それでもこちらの数が圧倒的不利であるのは変わらないが。

 こうして俺たちの全国大会が始まりを告げるのであった。

 

 

 

 あ、そうそうダージリンさんにもらった手紙には続きがありダージリンさんとペコの連絡先が書いてあった。

 

 いつでも気軽にどうぞと書いてあったのでもうメールを送らせてもらった。

 あの手紙の返事とついでにメールは送ったのでそろそろあっちに手紙が着いたころだろうな。メール自体は手紙がついて少し遅れるよう時間計算はしたのでこれで大丈夫だ。

 

 

 

 

 

 

 

 八幡が送った手紙にはシンプルにこう書かれていた。

 

 ―――月が綺麗ですね、と。

 

 そしてその手紙を受け取り顔を真っ赤にしてあたふたしているダージリンがいたとかいなかったとか、あとから送られてくる八幡のメール「冗談なんで気にしないで下さい」がくるまで続いたとかどうとか。

 

 

 


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