素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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IF:数巻進んだ後、カズマ達の宿場にレシェイアが居たら:

ゼル帝 『コッケコッコォオオォォオッォオッ!! コォオケコッコォォォォォオオ!

 ▽ゼル帝 は 大声で 鳴いた!
 ▽カズマ は 目ざめかけている!

レシェイア 『二日酔いに響くら……』

 ▽レシェイア の とつぜんの 平手ふり下ろし!
 ▽しょうげき波 が へやを ゆらした!

ゼル帝 『コォケゴッ―――』

 ▽ゼル帝 は むざんにも つぶれた
 ▽カズマ は そのまま かべに ぶつかった!
 ▽カズマ は あるいみ 2ど寝に入った

 ▽アクア は まだ 寝ている
 ▽アクア は おなかを かいている
 ▽ふっかつの じゅ文を となえられない!

 ▼ざんねん! ゼル帝 の ぼうけんは ここでおわってしまった! 


……それはさて置き、本編をどうぞ
アクア「ゼル帝ィイイィイィイィィィィィィッ!?

※なお本編には一際関係ありません。




酒の席で本音を

 カズマ達がジャイアントトード討伐クエストをクリアした、その日の夜。

 買い取りの為、一旦素材を渡す場となっている、買い取り専門カウンター。

 

「……レシェイアさん、アクセルの街に来て一ヶ月以上は経つんですから、カエルばかりでなくもっと上を目指されては?」

「れもさ~、アタシまだ()()()2()なんらけど」

「……単なる冒険者ならば、私とて何も進言いたしませんよ……?」

 

 今日の買い取り担当はルナらしく、レシェイアの奇怪な秘密を知る数少ない人物だと言う事もあって、同じ地位に縋りつくだけの彼女へ少し不満げに声を洩らしていた。

 

 レシェイアはトードを頭狙いの一撃で葬る他、意外と狙いが繊細なためにカエル肉の状態はすこぶる良い場合が多い。

 だから他の素材よりも高額で買い取れ、思わぬ金額を叩きだす事もあった。

 

 何よりレシェイアのステータス値は異常に高く、防御に関する数値は千単位など超えていて、最早『冒険者』をぶっちぎっている存在。

 クルセイダーや狂戦士など余裕で繰りあがる事が出来るだろう。

 そもそもアクアと同様にレベルなど関係なく、登録した時点で上位クラスへ進んでいてもおかしくない実力の持ち主だ。

 

 なのに未だ冒険者止まり。そりゃあ進言の一つもしたくなる。

 ……しかし。

 

「れもされもさぁ、冒険者以外『選べない』んらよね?」

「それは……そうですが……」

 

 レシェイアが何時まで経っても、今の位置から進もうとしない真の理由はコレ―――上がるどころの問題ではない事にあった。

 

 最初はカードの不調か何かだと思っていたのだが、やはりどれだけ日数経とうともまるで変わらないので、即ちこれがレシェイアの冒険者カード『本来の仕様』だと決定する他無かった。

 冒険者カードの内容は個人情報で、丁重に扱うべきもの。だから何を隠しているのか、踏み入って聞く事はそれ自体、許されない事でもある。

 そうでなければ、ルナが会うたび溜まっていくだけの悶々とした感情を抱く筈も無い。

 

「……ってそうではありません! レベルやクラスに関係なく、もっと強いモンスターを相手取れる筈なのに、何故何時も何時も見知ったモンスターしか討伐しないのですか? という事を私は申し上げているのです!」

「らって興味無いし」

「いやもう……理由が酷すぎますよ……ぐすん……」

 

 もうこれ以上繰り返しても押し問答なのはルナも承知しているので、今日のところは金銭受け渡しのカウンターへと促して、会話を打ち切った。

 そう理解していても尚話すのは、それ自体が愚痴の様なものだと言う事と、まだ彼女に期待をしているため。

 そしてギルドのより良い運営と街の治安もある。

 

 暫くしてから顔を合わせれば再び口にするんだろうなと、ルナは溜息を吐きながら、自然とそう考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな事とは(つゆ)知らず。

 所代わって―――時刻は夜、場所は冒険者ギルド。

 

「モンスター倒して、それでレベルがマジで上がったのには驚いたけど……」

 

 ジャイアントトードに着けられたぬるぬるを落す為、銭湯にアクアとめぐみんを届けたカズマが、テーブルに座りながら一人ごちる。

 

「クエスト報酬合わせて十一万エリス入ったのは良いが、それでも一人頭三万六千エリスにまで減じてしまうし…………はぁ~……手に入ったのは三万ポッチの報酬かよ」

 

 主にアクアの所為で全力尽くして闘い。

 主にめぐみんの所為で命からがら逃げおおせ。

 その報酬が日本円にして三万六千円相当ならば、精神的にもこれからの経済的にも割に合わないのは明白だ。

 おまけに、お荷物二人をこれからも抱えて行かなければならない。彼の心労の程は察するべきであろう。

 一応カズマも手を(こまね)くだけじゃあなく、討伐クエスト報告の後、掲示板前で容易いクエストを探しはしている。

 ……いるのだが……高い報酬を得られるものはどれもこれもが高難易度。

 

 

 ホワイトウルフという、カズマ達では手に負えないモンスターをペットにしている者からの捜索依頼だったり。

 剣術指南の依頼で、しかもルーンナイトかソードマスターに限るという、技術もクラスも足りない依頼だったり。

 魔法実験の被験対象探しという、なんとも自分本位過ぎるはた迷惑な依頼で、いざ受けるにしてもかなり高い耐久力と魔法抵抗力を求められていたりと。

 

 ……兎に角どれもこれもが、カズマ達に受けられるクエストではないのだ。

 口にするまでもなく『無理』だと即行に断言出来てしまう。

 

「異世界に来て早速どん詰まりじゃねえか……ホント、あの駄女神は蚊ほども役に立たねぇし、ロリっ子の奴はアレだし……」

 

 大きく二度目のため息を吐き、机に突っ伏しそうになるカズマ。

 と……。

 

「募集の張り紙を見させてもらったのだが」

「!?」

 

 突然の呼び掛けとその予期せぬ内容に、カズマは驚いて振り返る。

 そして……また再び驚く。

 

(きき金髪碧眼の女騎士……しかもとびきり美人!)

 

 彼等のようなポンコツパーティーに入るとは思えない、剣と鎧からして前衛職なのであろう女性が其処にいたのだ。

 齢の程は恐らく、若干だがカズマより上。

 きりっとした瞳が、彼女の騎士らしさをより演出していた。

 

「まだ、メンバーを募集しているだろうか?」

「は、はいぃ! まっまだ募集していますけども……!」

 

 長年引きこもっていたカズマはその弊害ゆえか、そして相手が美人だと言う事もあり、少し引き攣って上擦った声を出してしまう。

 しかし相手の女騎士はそれを気にする事無く微笑んだ。

 

「そうか……良かった。私は、貴方の様な者が現れるのを、待ち望んでいたのだから……」

 

 同時に女騎士の息が乱れ始めた。漏れ出る湿った吐息のせいか、なんだか妙に艶めかしい。

 何故いきなりそうなったのかとまず疑問が浮かびそうなところだが……その所作へ気を取られたカズマに、そこへ考えを回す余裕など無い。

 

「私の、名は……ダクネス。皆を守る壁となるっ……クルセイダーを、生業としている者だ」

 

 そこから更に女騎士・ダクネスの顔は上気し始め、息荒く話も途切れ気味なのがより顕著になっていく。

 さすがのカズマの顔にも戸惑いが見られ始める。

 

「ぜ、是非私をこのパッ……パ……パーティーに! 入れてもらえないだろうか!?」

 

 異様に熱のこもった視線と言葉を叩きつけるように放たれて、カズマは迫力に負けて少し仰け反った。

 

「さっき、ドロドロヌルヌルだった二人は、貴方のパーティーなのだろう!? 一体どうやったらあんな目に……!」

「ちょ、ちょ、ちょっと落ち着いてください、待って下さいってば! ……えっと、ああなったのはジャイアントトードに食われて粘液まみれになっ―――」

「っ!! 想像、以上……っ!」

 

 なんだろうこの女騎士。

 赤く染まった顔の裏で、そんな疑念の感情がカズマから確かに窺えた。

 パーティー構成や戦力には気を向けず、粘液でヌルヌルだと言う所に食いつき、食われたと聞いて目を見開けば……更に赤くなり息が荒くなる。

 正常であろうと無かろうと、基本的にもうこの時点で、実に奇妙だと思わざるを得ない。

 

「い、いや違う、違うな……あ、ああんな年端もいかぬ少女達をそのような目に合わせるなんて、騎士の名に置いて見過ごせる筈が無いっ!」

(目がヤバい……超ヤバい……ってかもの凄い危機感とデジャヴを受けてるんだが、俺!)

 

 ここにきてカズマは己の中に、アクア、めぐみん、その両方にも感じた危機感を、ダクネスにも抱いていることに気が付く。

 それ即ち『またも厄介事が転がり込んできた』のだと、そう考え付くのが妥当だ。

 故にか、カズマはどうにか口八丁で乗り切ろうとし始めた。

 

「いやぁダクネスさん、正直お勧めはしないですよ? 一人は存在意義が分からないし、もう一人は魔法が一日回限定の一発屋ですしぃ」

 

 ……ここで一つ疑問が生じる。

 本当に考え無しでトラブルを誘発させるアクアはまだ分かるが……めぐみんならアークウィザードなのだし、他の魔法も覚えている筈だ。

 ならば一日一回と付け加えたのは、ダクネスを追い払う口実とする為なのだろうか。

 

「それにですよ? 他二人は上級職ですけども、俺は最弱中の最弱クラス『冒険者』なんで、ポンコツ中のポンコツ集団で後悔させられる前に他のパーティー痛で痛で痛で!?」

 

 だがお相手は説明は愚か、懐柔の言葉すら紡がせてはくれないらしい。

 

 何時の間にやらカズマの右腕に手を掛けていたらしいダクネスが、興奮から強く握りしめてきてカズマは思わず声を上げる。

 ソレに対してダクネスは特に謝罪も無く、しかもまだまだ詰め寄ってくる。

 

「ならば尚更だ! ……実は、少し言いづらかったのだが……私は力や耐久には自信があるがな……その、不器用であって、攻撃がそれこそ全く当たらないのだ」

 

 自らポンコツと明かしていくスタイル。

 好きでもないしぶっちゃけ微妙。

 そんな言葉がカズマの脳裏へ、一瞬ばかり浮かんでは消える。……そして感じたデジャヴは正しかったと、一気に頭の血をも下げていた。

 

という訳で!

 

 どういう訳かは分からないが、ダクネス的には言い返したつもりらしく、更に更に詰め寄っていく。

 最早、物理的な意味で目と鼻の先まで近寄られ、カズマの顔が再び上気した。

 

「是非! 是非この私を盾だの防具だのの代わりに扱き使って欲しい! 否! 私は騎士、つまり言われずとも前に出て皆を守る壁になろうっ!」

(近い近い近いて!?)

 

 引きこもり+童○+思春期の合わせ技な彼にはどうにも刺激が強すぎたらしく、口が全く動かず否定の言葉すら止まってしまう。

 ……されどそこから何とか落ち着かせ、色香に惑わされて莫大な負担を背負う事を避けようと、体ごと眼を逸らしながら震える唇を開いた。

 

「と、兎に角……女性が盾代わりとか俺はあまり好ましくないし、それにモンスターに捕食されることもしばしばかも―――」

寧ろそれこそ望むところだ! ……あぁっ……」

 

 胸の前へ両手を起き、傍から見ても分かるぐらいに呼吸を乱しているダクネス。

 

 ……ここでカズマは遅ればせながら、全ての『嫌な予感』に気が付いた。

 

 このダクネスと名乗った女騎士は、性能がポンコツなだけではない。

 中身―――性格の方までポンコツなのだと。

 

「さぁ!」

 

 一旦は離れた所為か、より勢いを付けてダクネスはカズマへ近寄って来た。

 

「上級職を望んでいるんだろう! そして器用貧乏と後衛ばかりならば壁役が必要なハズ! さぁ!! 今すぐ私を――――」

 

 

 

「やっほー! 少年、酒に付き合って欲しいんらよぉっ♫」

 

 

 

「―――パーティはふぅうぅうん!?

 

 ……そして真横に吹っ飛ばされた。

 

「……え?」

 

 突然ダクネスが金と橙の流星となり、眼前から消えて、目を白黒させるカズマの前に現れたのは、

 

「ほぉら! しけた顔して無いれ、ガブッと一口ぃ!」

(レ、レシェイア……ッ!?)

 

 ギルドどころかアクセルの街随一の 酔っ払い こと、レホイ・レシェイアだった。

 

 視界の端にいるダクネスは、コロコロと横向きなまま転がっている……のだが、顔はやっぱり上気していて、同情の余地などまるでない。

 ……しかし、マゾヒスト疑惑な女騎士から解放されたかと思ったら、次は酔っ払い女の相手をせねばならなくなった事に変わりなく。

 カズマの顔が若干老ける。

 

「……自分の故郷では、俺ってまだ酒を飲んじゃいけない年齢なんすけど」

「なら飲まなくて良いって! 付きあってくれたらそれで良いんらよっ」

「はぁ……」

 

 逃げ道を失ってしまった所為で、カズマは遠慮なく溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 ……数十分後

 

 

「っはぁ!! 本当にバカばっかりだ!! 苦労人なんだよ俺はぁ!!」

 

 

 結局酒を飲んだらしく、大声でわめき始めたカズマ。

 

 そんな彼へと、レシェイアも遠慮なく質問をぶつけてきた。

 

「どーして叫んだり、落ち込んだりしているろ? ギルドで見てたけろねぇ……めぐみんとかいうアークウィザードが入ったんれしょ? もうちと狩りが楽になるんじゃあらいの?」

楽ぅ!? 楽になる訳が無いだろぉ!?」

 

 もうどうしようもない袋小路に迷い込みかけているのなら兎も角、ただ話がしたいだけの酔っ払い相手には我慢する必要が無いからか、イライラが溜まっていたカズマは思い切り叫んだ。

 

「へぇ、それはどうひて?」

「ますはアクアが駄目なんだよ! 打撃は利かねえとか言ってんのに二回も物理で行こうと走り寄って食われるし! 金を浪費して溜める事を覚えないのがこの短い付き合いの中でも容易に分かったし! 知能足りないから一向に学習しないし地獄だっつうの!! 立派なのは上級職(アークプリースト)って肩書だけだ!」

「でもスキルはぁ、回復系があるんじゃーないの?」

2/3以上宴会芸スキルに費やしてんだよアイツは! しかもソレを胸張って堂々と行った後にまさかのドヤ顔! オマケに口を開けば女神ガー女神ガー! 人を小馬鹿にする才能や、トラブル起こす才能だけは一人前!! もう阿呆ここに極まれりだ!」

 

 ほぼほぼ怒鳴るような口調だが、レシェイアは仰け反ったりせず席に着いたのと同じ恰好のまま、深くて大きいガラスのグラスに入った(ジン)を舐めている。

 

 そしてアクアの話を皮切りとしたが如く、めぐみんについての不満も吐き出し始めた。

 

「めぐみんもめぐみんで馬鹿すぎる! なにが『私は爆裂魔法しか愛せません! 爆裂魔法以外習得する意味など無く、これから習得する気も毛頭ありません! スキルポイントがあるのなら、迷わず爆裂魔法に注ぎ込みます!』だ! 一発しか撃てない物を強化してどうなるってんだよ! 留られる奴ばっかじゃないだろ!?」

「ふむ……他にもある?」

「まだまだ! しかもアクアはロマンがあるとか言って褒め称えたけど、火力あったって一日一発限定ならミスった時点でゲームオーバー! ダンジョンとか洞窟内なら端から撃てないから連れて行く意味も無い!」

「確かにれぇ」

「爆裂魔法の為にアークウィザードに成ったとか、楽に冒険が出来るとしても爆裂魔法以外には興味が無いとか、一日一発限定で倒れるとしてもそれしか愛せないとか……アホ過ぎるにも限度があるわあぁぁっ!!

 

 迸る激情の中にこれでもかと込められた、この上ない悲しみの感情。やり場のないそれらによる虚脱感。

 だが、カズマの口弁はまだ止まらない。

 

「結局、通りすがった三人の女の子が、ヌルヌルプレイをしたとか変な噂を立て掛けた所為で仲間にする羽目になるし……何でそんな風に見えるんだよ! 被害被れば漏れなく全部男が悪いってかこんなろう!」

「ふぅむ……」

「そしてさっき来たダクネスって騎士も! アレ明らかにヤバい系だろ、出会って即お断り系だろ!? 何で俺の周りには変な奴しか集まんないんだぁあぁぁあああぁっ!!

 異世界に来てハードモードにも程があるんだよおぉぉぉおおおおおおおぉぉぉおおぉぉおっ!!

 

 今までで一番のシャウトは、しかし一時的に戻って来たギルドの喧騒にかき消されていく。

 この上ない怒気をはらませて吐き捨てたカズマは、奇しくも先のダクネスと同様、肩で大きく息をする。

 

 その肩が―――――不意に優しく、ポンポンと叩かれた。

 

「苦労してるんらねぇ……うん」

「……アンタみたいな酔っ払いに慰められたって、全然嬉しくねえんだよぉ……」

「愚痴を聞くくらいはタダらって。もっと吐きだして良いんらよ?」

「ぐすん……くそぉ……ヘベレケな奴の優しさが、嫌に目に染みるぜぇ……」

 

 今現在進行形で酔っ払っている自分へ、ヘベレケという部分に対してブーメランしている事にも気が付かず、カズマはさめざめと泣き始めた。

 

 やがて言葉数も減って行き―――泣き疲れたのか、小さな鼾をたてて眠ってしまった。

 

「……毛布、貸すよ」

 

 夏も過ぎ掛け、今宵は意外と冷え込んでいる。

 それから起こる寝冷えの風邪を危惧したか、レシェイアはカズマの背中に毛布を掛けた。

 

 そうしてそのまま立ち上がると、彼の飲み食いした分も合わせて代金を支払う。

 

「彼、もうちょっとだけ、そっとしておいて欲しいんらけど」

「別にかまいませんが……」

「ニャハハハ、うんうん! ありがとーっ♫」

 

 ヒラヒラと手を振りながら、何時も寝床代わりに使っている場所へ、レシェイアはスキップしながら足を進める。

 当然とばかりに、手には酒瓶が握り締められて居て、スキップの合間合間で時折呷っていた。

 

「やー、結構苦労してるんらねぇ?」

 

 アルコールの所為もあるだろうが、さほど深刻には思っていない様な表情で、呑気にレシェイアは呟く。

 

「それにしても…… 『異世界』 ……か……」

 

 酔った勢いでカズマが吐いた一つの単語に、レシェイアはより深く興味を持つ。

 ……それも無理からぬこと。

 なにせ各言うレシェイア自身、こことは異なる世界からこの世界に落とされた存在なのだから。

 

(様々な要素を合わせれば……落とされた『場所』が、アタシの居た『場所』と同じとは考えにくいしね……嫌な予感だけ当たったか)

 

 酔っぱらってるからと言って、それだけにかまけ、あれから調べなかったわけでもないらしかった。

 普通に考えれば楕円形に吸い込まれ、変な場所に飛ばされた時点で慌て、検証を始めるだろう。

 だから……妥当と言えば妥当だ。

 

 そして無論、元の世界に帰りたいとは思っているし、酒をかっ喰らって酔っ払うだけしか目的が無さ気な彼女にも……実のところ“目的”自体は存在している。

 

「……難し問題らなぁー……」

 

 何より故郷の世界の方が、暮らし易いか難いかよりなにより、『其処に居たい』と彼女はそう思っている。

 当然今居る世界、そしてアクセルの街も、そう悪いものではないという前提を置いて、だ。

 

 

「ま、なるよになるれしょ? それがぁ一番!」

 

 ……意外と深刻な状況にもかかわらずレシェイアはまた呑気に叫ぶ。

 

 そして辿り着いたのは、なんとボロ小屋。

 誰も使ってない割にソコまで荒れてはいないが、それでも一発でボロだと分かる佇まい。

 ……まぁ、だからこそ彼女も選んだのだろうが。

 

「たっだいまぁ……そんでおやすみーっ……パタァン」

 

 寝床代わりのボロ小屋に入って、そのまま横向きに寝転がり、毛布をかぶって寝始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらカズマ! 寝てないでさっさと起きなさいよ! 帰るわよ!」

「う~ん……頭がなんか痛ぇ……叫ぶなって……」

「この女神足る私に迎えに来させといて、でてくるのはその台詞? もっと何か言う事あるでしょ」

「あ、そういや飲め無ぇのに付き合わされてたんだっけか……」

「ねぇちょっと?」

「って事は俺も飲んでた!? あああの、お金は―――」

「大丈夫です。レシェイアさんがまとめて払ってくださいましたよ?」

「ちょっとカズマ、聞いてる!?」

「ま、マジか!? ……あの人ってまさか結構いい人? お酒以外は良識人?」

「だから―――って何よカズマ、レシェイアって事は、あの酔っ払い女に奢ってもらったの? ……若しかしたら私も……!」

「相分からず、意地汚いんだよ、お前。……にしても――――」

「カズマ?」

「どうなさいました?」

 

(何があったかなんて覚えてないけど…………なんかちょっとだけ、少しだけ、心が晴れてる気がするんだよなぁ……)

 

 

 

 

「……私が、忘れられている……こ、この止まらぬ震えはなんだっ……!?」




一ヶ月以上は居て色んなモンスターを倒しているのに、何でレベル2なのか?
これこそ謎ではないのか!

……って、答えは物凄く簡単なんですけどね。

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