素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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お待たせいたしました。
……にもかかわらず、話の進みがめっちゃくちゃ遅いです。

三か月以上も遅れてしまい、本当に申し訳ありませんでした……!
では。
本編をどうぞ!



借金を返すために

 先よりも、赤み強くなった焔が燃ゆる……暖かな暖炉の前。

 濛々と立ち上る湯気を浴びながら、カズマ達は輪を描く形で集まって座り、食事していた。

 

 中央には赤みある出汁に入った魚介中心のスープ、鶏肉がごろりと入ったラザーニャのようなパスタが鎮座。

 酒やジュースの注がれたコップがそばに置かれている。

 以前の暮らしに比べるとまだ量が足りないのだが、現状の酷さと比べてみれば、十分な贅沢かもしれない。

 

「まだ差し押さえられて一日たってねえのに―――ハフハフ……なんか久しぶりの飯って感じがする……末期か? あ、レシェイア酒注ぐな?」

「え? あ、うん、助かる……」

 

 カズマが眉をひそめて、鶏肉を口に入れながらにそんなことを語る。

 

「あれだけ理不尽に持っていかれれば―――アムッ、仕方ないのです。そう思っても。……レシェイア、スープぐらいよそいますよ」

「え? ……あ、りがとう……」

 

 めぐみんは彼の言葉に同意し、スプーンから少しずつスープをすする。

 

「ねぇカズマさん、そっちに置いてあるシュワシュワ、十本ぐらい持ってきてほしいなぁ~」

「………………」

「ねぇめぐみん? お皿が空になったから特盛りでよそって欲しいの。お願いできないかしら?」

「…………」

「ちょ、ちょっと二人共ー。気を回す余裕があるんだから、私にだって回せるわよね? というか女神である私に捧げないのは、よっぽど罪な行いだと思うんだけど、あんぽんたんな二人には分からないのかしら?」

「…………オッ、おっきいお肉」

せめてこっち見なさいよおおっ!?

 

 アクアの叫び声が、食事中の温かみを吹き飛ばす。

 まあ、理由は言わずもがなだろう。

 

「ちょっとちょっと! さっきからなんでレシェイアばっかり甲斐がいしく世話してるわけ!? 私だって裁判で頑張って弁護して活躍したんだから、証人としてちょっとだけ喋ったレシェイアよりも、手厚く労われるべきだと思うんですけど!!」

 

 バァン! と《小さなテーブル》を叩き、カズマ達へ向けアクアが怒鳴った。

 そんな彼女に対し、テーブルを叩きこそしなかったが、カズマが怒り交じりに反論する。

 

「なぁにが活躍だこの駄女神が! お前がしたことなんざ【異議あり】だの【論破】だの好き勝手ほざいただけじゃねえか!? オマケになんとか取り返せたけど、お前がやらかした過去の失態すら俺の方に回って来たんだぞ!! こんなんで労える奴がいるかってんだ!」

 

 尤もな論を吐かれたアクアは、しかしそんな物で収まる気質でもなく、納得いかないと抗議し続ける。

 

「何よっ私は水の女神なのよ? よく考えれば今のレシェイアみたいな扱いが正しいハズじゃない! なのに……ソレ! 今までソレが出来なかったのは、アンタ達の性格のせいとかだと思ってたのに! 出来るなら私にもしなさいよ!!」

「アホかお前、誰ぞに貢げるぐらいの金あるんなら真っ先に借金へあててるわ! ……それにさっきも言ったよな、『命がけの場で好き勝手やった奴に労いの情を向けられるか』ってんだよって。どうしても崇められたいんならレシェイアと同じこと、一つぐらいしてみせろ!」

 

 それを聞いたアクアは一瞬だけキョトンとし、どうやらその発言なら論破できると踏んだのか、自信たっぷりに大きく胸を張った。

 

「それぐらい簡単じゃない、要はレシェイアの普段みたく、好きなだけ飲めばよいんでしょ? だからほら、アンタ達が飲んでるお酒全部よこして! ほら、早くお酒よこして!」

 

 ―――ご飯をおごったりなど、肝心な部分を抜かしているわがままは、問答無用で場の空気を凍らせる。

 

「……別に良いけど、ほれ」

 

 そして意外や意外、あまりにもバカバカしいから反論するかと思いきや、カズマは素直に酒を差し出した。

 本当に素直過ぎるのでアクアはポカンとしている。

 

 でもソコは駄女神がデフォルトになってしまっている彼女だ、すぐ笑顔に変わった。

 

「カズマにしては素直じゃない? いつもそんな感じに給仕してくれれば―――」

その代わり、1人でクエスト受けて来いよ?

「え」

 

 何でもない事みたく、実に簡潔に告げるカズマ。

 その気軽さとは裏腹に、アクアの笑顔がピシッっと固まる。

 

「他にもあるぞ? トラブルこさえず、苦手なモンスター相手でも逃げず、俺達と食事の時はなるべく奢れ。それが出来るように余計な借金負わず人にたからず、己の金も自分で何とかしろ。……あ、アクシズ教の勧誘もすんなよ。レシェイアそんなことしてねえだろ。第一エリス教へ嫌がらせしてたのを抑えた側だったし」

「ま……ちょっ……」

 

 次々と―――確かに『あってはいる』事柄を羅列されてアクアは狼狽し始めた。

 しかしカズマは “口撃” をやめない。

 

「つーかレシェイアは、自分の分で俺らの借金天引きしてるぐらいだし? 逆に《相手に払って貰う》なんてことは無い訳だから? つう訳でアクア。借金や残ったツケは己の分ぐらい払え。それからツケで飲み食いするのも無し。もし更にトラブルの種増やしたら、敬わせたのを仇で『倍にして返す』からな」

「あ、あのー? カズマさーん?」

 

 どんどん進んでいく話にキャパオーバーしかけ、それでも口を開くアクアだが時既に遅し。

 

「ふっ……なぁに借金の件は大丈夫だろ、俺より額少ないから。精々家屋壊した分の八千万エリス超ぐらいだ。俺は領主の屋敷の返済分で忙しいんでな。……ベルディア戦で余計な被害持ってきたのはお前だしぃ? 張本人が払うのは当たり前だよなぁ?」

「―――――」

「よーし、分かった様でなによりだ! ということでほれ、独り立ちの前祝に酒注いでやるよ…………オラ杯よこせぇ!!

「いやああぁぁぁっ!?」

 

 妙に丁寧な所作で酒を注ごうとするカズマから、アクアはコップを遠ざけようと立ち上がる。

 カズマもいつも以上に素早い動きで追いすがる。

 結果コップの中身を溢さないよう器用に逃げ回る羽目となった。

 

「注いでやるって言ってんだろぉ!? ただちょっとツケできなくなって、個人分の借金が増えるだけじゃねぇかよ! 散々高ステ自慢してんだ、稼ぐのなんざ楽勝だろぉ!?」

「悪かったから、裁判でちょっと好きにやっちゃったこと謝るから! だからお酒入れようとするのやめてぇ!? いくら崇められててもダラダラ出来なきゃ意味無いのぉ!!」

 

 カズマの事だ、きっと『鬼畜』の二つ名に違わぬ容赦のない手を使って、強引にアクアが払わねばならない所まで追い詰めるだろう。。

 それを察しているがゆえアクアも楽観視はせず、必死にコップの中身を守りつつ逃げ続けた。

 

 カズマもカズマで執拗に追い回す。

 やっぱりアクアのやらかしがほとほと頭にキていたらしい。

 恐らく夕ご飯を食べたおかげでソコに頭を回す余裕が出来てしまったのかもしれない。

 

「全く。食事時なのですから、少しは静かに出来ないのですか……あむっ」

 

 めぐみんはもう慣れっことばかりに呆れ声で言い、手元によそった料理を口に運ぶのもやめない。

 

 

 その傍ら一つ、少し妙なものが置かれていた。

 普通に見慣れてはいる品なのだが、されど今『この場には存在しない筈』の物。

 それは……本来ならば差し押さえられた筈の【マナダイト製の杖】だった。それが何故だかめぐみんの手元にあるのだ。

 

「んむんむ……それにしても、よく帰ってきてくれました」

 

 よく見ればカズマの剣も、型こそ同じだが真新しい品に変わっている。

 何の疑問を抱くことも無く、傍らの木箱にちゃんと立てかけられていた。

 

「私の杖を()()()()()くれるとは。本当、感激の極みですよレシェイア」

「……いいえ。本当に取り返したのは、魔剣の人だから」

「発案はレシェイアなのでしょう? 話を聞く限りでは、あの魔剣の人も悩んではいたものの如何したら良いか、算段が付き切っていないようでしたし」

 

 実はあの裁判の後、レシェイアはここに来る前に魔剣の勇者・ミツルギと出会っていたらしい。

 なんでもカズマかレシェイアを探していた様で、会うなり「裁判で役に立てなかった分、なにか償いとして還元できる事が無いか」と聞いてきたのだとか。

 

 ……ならば借金の天引きが一番ではないかと思う所だが、レシェイアの天引きはギルド内での顔利きがあってこその物で、ベルディアの件は己の賞金を回したからこそ、これといった問題が無かっただけ。

 普段もカズマ達のクエストを手伝った際に、自らの分を借金に回しているのみ。

 今回の件で異常だったのは飽くまで『国家反逆罪』の部分なのであり、本人達がアルダープ邸を壊したのは言い逃れできない。

 何より借金を払う事を命じられたのは、他ならぬカズマ達とくれば……そこまで踏み込むことは双方ともに出来なかった。

 

 ならば何があるのか? と悩んでいた時、『ならば差し押さえられた物を買い取ってしまうのはどうか』とレシェイアが提案を出したのだ。

 所謂 “お偉いさん” 方面には顔が効くミツルギが居たこともあり、交渉の結果……借金を返すために必要な「戦力」である武器だけではあるが、無事コチラへ返してもらうことが出来た。

 

 無論カズマ達の私財は差し押さえられているので、ミツルギ経由で『レシェイアの私財』とし、表面上では現在彼女が所持する装備を、カズマ達に期限付きで貸し与えている状態となっている。

 ……のだが彼女達の友好関係からすれば、もう手元に返ったも同然。

 なにより、差し押さえられた物を交渉の折に買い取り還元したので、借金問題と直接的には関係が無いのも良い点だ。

 

 

 

 こうして極一部だけでも取り返した訳だが―――レシェイアだけでは門前払いだったろうし、だからこそ自分の手柄とは言い辛いと考えているらしかった。

 

「半分半分で良いではありませんか。お互いに良い結果をもたらした発案も、充分手柄の範疇なのです」

「…………」

 

 めぐみんの断言に、レシェイアは答えこそしなかったが、否定せず頷き返した。

 

 ちなみに件のミツルギは「あのチンピラの彼はどこなのか」と去り際に呟きながらも、レシェイアへきちんとお礼を言いつつ、フィオとクレメアを連れて王都へ帰ったらしい。

 以前ほど金銭に余裕が無いとも言っていたので、足早だったのも致し方あるまい。

 自業自得とは言え、巻き上げたのはレシェイアなのだから、彼自身の暮らしもありとやかく言えないだろう。

 

「ですがそれよりも気になる事があります」

 

 唐突に話を切り上げためぐみんはスープを一口すすり、含みある目でレシェイアをジーッと見つめ始めた。

 

「何?」

「裁判の時のまま、なのですね。雰囲気が」

「! ……ああ、その事」

 

 お気づきの人もいる筈。

 先からずっと、レシェイアの口調がハッキリしていることから分かるだろう。

 服装がいつも通りなだけで全く酔っていないのだ。

 常日頃の彼女を知る身ならば、それこそ強い違和感を持つかもしれない。

 

 更に食事を始めてからずっとお酒を飲み、バッグからもウイスキーを取り出し、何本もがぶ飲みしている。

 ……なのに、まさかの『欠片も酔っていない』という珍事が発生している為、それがめぐみんの気を引いていた。

 

「ある意味でお酒に強い、とは常々思っていましたが……もしかしてその()()で酔い難かったりしますか?」

「それも有る。酔っている方が“好き”だから、この体質が恨めしくてね」

 

 カズマに対し『酔っていないのは好きじゃない』と語った理由の一端は、どうもここにあるらしかった。

 悪酔いもせず中毒とも無縁ならば、逆に酔いを抜いた際にどうなるかなど言わずもがな、だ。

 

 そうまでしてカズマに味方しようとするのは、彼女の中にある《懐かしい感じ》が後押ししているからか……。

 

 

 まあ助けたいと願った少年とその仲間は、未だに注ぐ・注がれないで果てなき追いかけっこを続けているのだが。

 

「だ、だいたい! ドレインタッチとかリッチーの事はどうする気だったのよ!? 私の論破があったから乗り切れたんでしょ!」

「ダァホが!! ウィズとキールの事を混ぜながら話す算段があったんだよ! リッチーに出会ったのも、対話したのも浄化したのも、スキル教えてもらったのも嘘じゃない! 魔王軍関係がどうのだって『かつての知り会い』みたいな感じでなら、あとは擦り合わせ次第で何とかなるってな!!」

 

「ああ、なる程。確かに嘘ではないです。ピンチでもちゃんと考えていたのですね、カズマ」

「……そうなるとアクアは……」

 

 レシェイアはそこで切ったが、どう取り繕うとめぐみん以上に要らない子だったのがこの時点でハッキリしてしまった。

 もう覆くつがえせまい。

 

 

 

―――約十分後―――

 

 

 

「……さて。じゃあ今後について、ね」

 

 アクアが必死に謝り倒したことで、漸くカズマも追いかけっこを止め、卓に付き食事を再開し始める。

 

 そうして落ち着いたのを見計らい、かちゃりとスプーンを置いてから……レシェイアが切りだして来た。

 

「もう解ってるとは思うけれど……」

「金の返済に無実の完璧な証明、だろ。無罪とは言え、悠長にしてる場合じゃない」

「少しでも生活を改善しなければ本当に凍えてしまうのです。……これはえり好みしている場合じゃりませんね」

 

 恐らく『カエル』などのトラウマがあるモンスターの事を指してるのだろうと、カズマは値を付け頷く。

 尤も今の季節では、カエル等の低ランクモンスターなぞ、隠れていてそもそも探しようがない。

 

 となると、やはりこれまで通りギルドで良い依頼を見繕うしか―――そう思いきや、なにやらアテでもあるのかカズマが手を上げ、視線を集めた。

 

「それなんだけど……まずはウィズに掛け合ってみようと思ってるんだ」

「いいじゃない、それ!!」

 

 ……まだ言い切っていないにもかかわらず、アクアが何故だか勢いよく立ち上がる。

 

「つまりあのアンデッドにさくっと成仏してもらうって事ね! アンデットを退治できるし、生意気にもご立派な建物の権利書も手に入れられる、一石二鳥じゃない!」

「いや、なんでそうなるんだよ。だいたい……」

「まさに私の出番、十八番よ! こうなったら善は急げで―――うぅえっ!?

 

 言うが早いか立ち上がろうとした刹那、何者かにガシッと頭を掴まれ、押さえられるアクア。

 動かない首の代わりに目線だけずらしてみれば、やはりか掴んだのはレシェイアだった。

 

 しかも顔は真顔で固定され、目線すら向けておらず、たいそう不気味である。

 

「ちょっ、レシェイア何で掴んでアダダダちょいちょちょいアイアンクローって!?」

……カズマ続き宜しく」

「“で”って!? “で”って!! 何で普段のやさしさをこういう時に発揮しな痛たたた!! 止め止め止めてせめてコッチ向いてちょうだぅのうぉおええ!!」

 

 レシェイアは取り合わず、アクアの叫び声も相まってもはやカオスの真っただ中。

 

 カズマが止めてもソコを起点に話が拗らされかねない為、そう考えれば判断としては正しいかもしれないが、正直過剰に脅し過ぎである。

 ……本気で浄化するつもりだったんだろうアクアも大概だが。

 

「ウィズに頼ろうって言ったのは、こっちで商品を製作してウィズの店で売ってもらえるよう、頼み込むってことなんだ」

「つまり新商品提供の見返りとして、利益も貰うと。……良い案だとは思いますけど、肝心の商品にアテは有るのですか? カズマ」

「当然。寧ろ商売の為に備えてた商品を、ここで売り出すチャンスさ。ウィズに商品を見てもらってからだけどな」

 

 魔法文明が発達しているこの世界とは違い、カズマは現代日本からやってきた少年だ。

 簡単な文明の利器なら覚えている物にもよるが、スキルで補強できるこの世界に限って言うと、材料さえあれば開発ぐらい易々できる筈である。

 

「では金銭確保の第一の策は成った、と仮定して……次のクエスト関連だけれど」

 

 とにもかくにもウィズに聞かなければ話が成り立たないため一旦置いておき、アクアを解放したレシェイアが一番分かり易く、且つ一番難しいコトを口にした。

 

「確かにそれも重要だよ。一にも二にも、今はエリス貨幣が必要なんだし、座して待ってちゃ遅すぎる。……だからどんな依頼でも文句付けんなよ、アクア」

「なんで私だけに言うのよ! こうなったら私だってもうちょっと頑張るに決まってるじゃない、何時もよりもちょっとは張り切るわ」

「もっと張り切れよ。つーか何時もよりじゃなく、いつも以上に張り切れ」

「だって女神が必死こくとかみっともないじゃない! そんなことも分からないの?」

「お前の考えそのものがワケ分からんわ!?」

 

 カズマの一言を皮切りにまたもや口論が……となる前にレシェイアが手を掲げ、二人を制止しながらにこう告げてきた。

 

「私も手伝うから。暫くは、一緒によろしく」

「おう。いいかお前は何時まで経っても怠け今なんて言いました?

 

 あまりにもサラッと言われた所為か、内容を半ば聞き取り切れず、カズマは唐突な敬語で聞き返す。

 

「暫くクエストを手伝うから、宜しくねって」

 

 瞬間。

 数秒時が止まり、静寂が支配し、その空気が続くと思われた―――刹那。

 

マジで!?

 

 驚き半分、喜び半分といった様子で、カズマがズイッと身を乗り出した。

 ……けれどもすぐに、疑問符を浮かべて座りこむ。

 

「いや、でも今まで表に出ること忌避して無かったか? ミツルギの時もはぐらかしてたし、ベルディアの時だってソコまで目立とうとしてなかったよな?」

 

 尤もな言葉に対し、レシェイアは間断なく答えを返して来た。

 

「ええ。だからそう出しゃばる気は無くて、あくまでサポート。……何時もよりは、前に出るつもりだけれど」

「なる程な……いや、何にしろ助かるって。こっちから頼みたいぐらいだしな!」

 

 パーティ内の陣形構成は、ダクネスが帰ってくるまで、その穴をレシェイアが埋める形となる。

 そうなると必然、近接主体の前衛を受け持つ事となるが……それについては心配無いだろう。

 

 彼が目にしたレシェイアの戦闘は数えるほどしか無いが、そのどれもが規格外。

 

 補正も無いのに、素手のビンタでキャベツを吹っ飛ばしたのは言うまでも無く。

 上級職(ソードマスター)相手だったのに、ノリ気じゃないままあしらい続け結局一発もくらってなかったり。

 単なる石投げで魔王軍幹部を妨害して見せ、勝利の一旦をも担ったのだ。

 期待しない訳がない。

 

「マジでありがとうな! 超心強いよ!!」

 

 そう、これでやっと―――

 

「やっと! どこぞのなん()ちゃ()って()上級()職共()じゃない、《本物の上級職》が俺のパーティに入ったみたいだっ!!」

「「ちょっと待って」」

 

 そんなカズマの正論暴論にアクアとめぐみんが身を乗り出した。

 

「役立たずって何よ役立たずって! ちゃんと回復したりしてるでしょ!? こすっからい搦手が基本の、貧弱なアンタと一緒にしないでくれる!?」

「そうですよ、第一今までの実績は確りしたものでしょう!? 私は最強のアークウィザード、万象を一振りで灰燼に帰せる爆裂魔法の使い手……全てを仕留めてきたじゃあないですか!!」

 

 遠慮なくガーガーまくし立てる2人へ構わず、レシェイアの方を向いたままカズマは続ける。

 

「レシェイアも知ってるとは思うけど、アイツ等の問題児っぷりには辟易してたからありがたい! 日頃どっちが迷惑だどうだとか言ってるが、俺的にはドッコイドッコイだし」

「はぁ? この攻撃してよし、護ってよし、蘇生すら可能の万能女神アクア様を、撃って倒れて運ばれるだけが取り柄の一発屋と一緒にしないでくれる?」

「なっ……! い、一発屋とは何ですか! 一発屋とは! 遠近・支援完備の万能職(アークプリースト)の看板に偽りあり、聖職者の皮をかぶる自称女神な旅芸人(アクア)より役に立ってますよ!」

「じしょっ!? 言ってくれたわねぇ!?」

 

 隣への飛び火を皮切りに、アクアとめぐみんが喧嘩し始めた。

 よく分からんポーズで威嚇するアクアに、どうも本気で怒っていたらしいめぐみんは、ノリにつきあわず飛び込む。

 綺麗なドロップキックが命中し、アクアは衝撃で目を飛び出させる。

 だが思いっきりコケた為勢いが止まらず、双方ともに暖炉目掛けて転がっていった。

 

(……私が発言するともれなくトラブルを呼ぶの?)

 

 割と“そういう事”が頻発する所為もあるだろう。

 レシェイアは自分で自分を疑いながら、さりとて言葉もないのか顔を手で覆い隠す。

 

 そんな軽く憂いの入った彼女とは逆に、カズマの内心は超がつくほどウキウキである。

 これで借金を返すのも少しは楽になるのだから、喜ばない方が嘘だ。

 ……されど一方で。

 

(一件が落ち着いたら、改めて色々とレシェイアに恩返さないとなぁ……)

 

 本当に色々お世話になりっ放しで、何も返さないなどカズマ的にも良くない事の様子。

 このファンタジー感が欠片もない異世界の逆風と、一人の女性の温情のお陰で、生来のニート気質を若干ながら脱却しかけているらしかった。

 

 ちなみにカズマは《自分を働かせず、甘やかしてくれる年上のお姉さん》が好みのタイプなのだが、状況が状況とはいえそのタイプに当て嵌まっている女性のお陰で脱却しかかるとは、何とも皮肉的であろう。

 

「えっと……そ、それじゃあ今回は先に行ってクエスト確保しておくから……また、明日」

 

 未だキャットファイト中のアクア達に視線を向け、ニコリとも出来ず微妙な表情でレシェイアは立ち上がった。

 

「おう、明日からよろしくな!」

 

 カズマはサッ、と手を挙げてやる気に満ちた声を返した。

 

 そのままアクアとめぐみんの喧嘩を止めに行くレシェイアを見やりながら、手元の剣を撫でるカズマ。

 

(なんでだろうな、明日がちょっと楽しみになってきた……こんなん久しぶりだ!)

 

 以前と変わらないような、しかしどこか違うような。

 そんな複雑な気持ちをカズマは一旦片付けて、それでも『レシェイアが加わらねばならない』ほど先の見えない借金の膨大さを、改めて自覚するのであった。

 

 

 

―――翌日、朝。

いつも以上に早起きしたカズマは、意気揚々とギルドに乗り込む。

何処か嬉しそうな、ルナの雰囲気がこちらにも元気を分けてくれる。

《億クラスの借金》という事の重大さもあるからか、アクアやめぐみんの表情も引き締まっている。

 

やる気満々な彼らの登場を、何時もと同じ服装で、いつもと違う雰囲気の、レシェイアが待ちかまえていた。

 

「揃った? それじゃあ、行こう――――」

 

カズマ達の実力を知っていて、アクア達の残念さも知っていて、なにより優しい。

そんなレシェイアが持ってきたクエストに、三人とも高揚感を示し……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――『“初心者殺し”の複数討伐』へ

「「「ゑっ?」」」

 

 一瞬でしぼんだ。

 

 




予想外の相手……?
何故レシェイアはそんなものを選んだのか。

―――では良いお年を!

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