素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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長くなってしまったので、前後編に分けています。
一時間後に、後編が投稿されます。

……あと、投稿不備によりいきなり後編が投稿されてしまってました。
今は削除してます。
『最新話が更新されたはずなのに、何もないぞ!?』と思った方々。
驚かせてしまい、まことに申し訳ありません。



それではどうぞ。


カズマ被告(前)

 カズマが転生・転移した世界での裁判は、現代日本の裁判よりもシンプルだ。

 検察官が証拠を集め、弁護人が反論。

 その後、裁判官が白と見れば無罪、疑わしいと判断すれば即刻実刑が下る……といったシステムである。

 

 また、この世界には裁判官はいても弁護士などはいないので、その役目は友人や知人が行う事となる。

 

(建物の造り自体は、そう変わんないんだけどな……)

 

 諦観からか至極どうでもいいような、しかし気になるような事をカズマは考えていた。

 今の彼は現行犯宜しく手錠をかけられ、弁護人達と共にホール中央に(たたず)んでいる。

 

 そんな彼の背後には、見知った冒険者やアクセルの街の住人達が。

 距離置いた向かい側へは裁判官の男性が立ち、その隣に位置する席に検察官のセナがいた。

 

(で、アッチの人が俺に縄かけた領主か)

 

 そして……彼女の反対側にドシッと座るのが、告発人である領主アルダープ。

 

 カズマにとってアルダープとの対面自体はこれが初なのだが、第一印象からして良いとは言えない人物だった。

 まず背が高いが、かなり太目な体型の所為でイマイチそう見えない。

 脂ぎったテカリの所為かハゲ上がっており、体の方は肌が見える部分だけでもかなり毛深い。

 

(なんか熊と豚を足して二で割って、良くない部分だけ残したみたいだな……)

 

 必要が無いと思っているのか、アルダープは依然としてカズマの方を見ないでいる。

 しかし仮に見られたとして得など無いし、カズマ的には諦念と苛立ちが余計募りそうだった為、かえって良かったかもしれない。

 

「………………」

 

 逆に、カズマを穴が開くほど見ているのは検察官セナ。

 もちろん好意的なものではなく、信用など皆無であろう、かなり冷たく鋭い視線だ。

 ……心なしか、敵意すら混じっているように見えるが……。

 

 流石にそこまで行くと、理不尽ここに極まれりに思える。

 されども、実のところカズマは『敵意』が混じっている理由について当てがあったので、対して驚いてもいなかった。

 

(昨日の、嘘発見魔道具有りでの取り調べがまずかったんだよなぁ……最後のウィズの事とかモロ地雷だったし……)

 

 なんという不幸か。嘘と誠を見抜く魔道具を用いられたせいで、確証はないもののかなり怪しまれてしまっているのだ。

 今一度思い返したのを皮切りに、先日の件をカズマは反芻し始めた。

 

 

 最初こそまだ……自分の事をニートだと宣言するまで魔道具が鳴りまくったり、一時有利になった際に調子こいてセナを怒らせたりと、色々と悶着があったがどうにか平和には進んではいた。

 だがしかし。

 最後の最後で『魔王軍関係者との面識などないんですよね?』と、形式的な理由で投げた問いへカズマが肯定で返したその直後――― “チリーン” と魔道具が鳴ってしまったのである。

 

 よくよく記憶をたどってみれば、確かになんちゃって幹部とは言え、魔王軍と直に関係している魔道具店主&リッチーのウィズと知り合いな為に、魔道具は明らかに正常だと言えた。

 焦りから弁解を咄嗟に吐き出せず、結果牢屋へと再び乱暴にぶち込まれてしまったのだ。

 

(普段のポンコツリッチーぶりの所為で、頭から普通に抜けてたぜ……マジで大失態だ)

 

 更に嫌がらせか何かなのか、カズマの苦難はソコで終わらない。

 今日傍についてきた《弁護人》すらも大きな問題なのである。

 

 先にも挙げたがこの世界に弁護士といった職種は存在しないので、民間人であれば家族や知人や友人を、冒険者であればパーティメンバーを弁護人として呼ぶのが通例だ。

 

 現状、カズマの知人と呼べる人物の中で、弁護の側につけるだろう者は大凡5~7人ほど。

 そして全員個性が強い。

 裁判の場での例えとしては妙だが、俗にいう『アタリ・ハズレ』が存在していたりする。

 

 つまるところ……不幸の原因とは、それ即ち。

 

 

 

 

「ほら。なに暗い顔してるのよカズマ! 私達が付いてるんだからもっとシャキッとしなさいな」

 

 今隣にいる、彼のパーティメンバーの駄女神なのだ。

 というかアクアなど、一番連れて来ちゃいけない部類ではなかろうか。

 

 まともに進行しても分が悪くキツイというのに、ここへ空気の読めないダメダメな者まで加えたら、始末に負えないでは済まないだろう。

 寧ろ彼女がいない方がまだ罪状を軽くできそうで、弁護が弁護にならないどころか、火に油を注ぐという危険すら抱えている有様。

 

 ―――『獅子身中の虫』……本当の敵は内にあり、とはよく言ったものである。

 

「大丈夫ですよカズマ。理不尽な弁にもキッチリと、紅魔族の知能を活かして反論しますから。検察官相手でも、メッタメタに論破してやりますよ!」

「本当にマズいことになったら私がなんとかしてやるさ。今回は、仮にお前がどれだけ悪かろうと借金だけに留まる事態……ここまで大事にならない筈の件なのだからな」

 

 それでも尚、めぐみんやダクネスのように『ちゃんと頼もしい』者達はついてくれており、その点ではカズマも安堵できていた。

 

(レシェイアもついて来てくれりゃあ、もっと安心だったんだけどなぁ……)

 

 良識的な酔払いという意味の分からない存在であるモノの、それでも確りとした信頼自体は得ているレシェイアは、カズマのいう通り弁護人側に居ても良い存在。

 

 だが弁護人側にも当然制約があり、パーティメンバーがいる為『付き合いは長いがメンバーではない』レシェイアはここに立てなかったのである。

 加えて彼女は別件でこの法廷に呼ばれているらしく、だからこそ傍につけない事をカズマも既に聞き及んでいたので、一応理解しながらも納得出来ずに溜息を吐いたりしている。

 

 

 ……一方でダクネスの “なんとかしてやる” 発言に少々ながら違和感を覚えてもいた。

 危機的な状況からも察せるが、何より自信ありげな口ぶりからして虚言ではなく、誠を語っているのが分かる。

 だからこそ、「一体どんなコネがあるのだろう?」と疑問に思っているのだ。

 

「もう、溜息なんか吐かなくても良いじゃない。なにせ聖職者たる私の言葉は、常人数百人分をも超える説得力があるのよ? ドンとまかせなさい!」

 

 カズマの内心などつゆ知らず、アクアは大分胡散臭い文句を交えて胸を張り、自信満々に鼻息を鳴らす。

 そんな彼女にげんなりしたか、一旦疑問を隅に置いてから、カズマはかなり真剣な口調でアクアへと訴えかけた。

 

「いいかアクア。お前は今回何もするな、というかただ立っててくれ。マジで何も言うな、つーか何もすんな。おとなしくしておいてくれたら、お前分の霜降り赤ガニ奢ってやるから。な?」

「何言ってるのよ? この裁判で懲役になったり死刑になったら、それこそシュワシュワ一杯すら奢れないじゃない。それに、この中で私が一番弁護人に相応しいと自負してるわ」

「……根拠は」

「《ダ〇ガン〇ンパ》とか《〇転裁判》とかしってる? 私ってあの手のゲームで遊んだ事が何回もあって―――」

 

 選択肢とフラグ管理さえ怠らなければ良く、最悪知能便りですらなくなる先の決まったゲームでは、現実で役に立つかなど曖昧なとこだ。

 それにアクアの場合『何度も何度もミスって漸く1√クリアできた』か『全くクリアできなくて途中で放り投げた』の2択なのは明らかな為、何の慰めにもならない。

 

「オーケー分かったガチ頼むから沈黙していてださい、マジに」

 

 割と、どころかかなり必死な声音でカズマは黙秘を言いつける……のだが、アクアはプイッとそっぽを向いてしまった。

 『わからずやとはもうこれ以上会話しない』―――とでも言いたげである。

 

(こんのアマァ……!)

 

 場所が場所だけに、ギリギリ音が鳴るほどに歯を噛み鳴らすしかないカズマ。

 

「静粛に! これより……国家転覆罪に問われている、被告人サトウカズマの裁判を始める。告発人は、アレクセイ・バーネス・アルダープ!」

 

 そして、無慈悲に始まった裁判。

 立ち上がった肥満体の男アルダープを横目に、カズマは不安一色の顔へ冷汗をにじませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――所変わり、裁判所の待合室。

 ソコにはセナの集めた、個性様々な証人達が一堂に会している。

 

 彼らは『カズマがテロリスト、及び魔王軍関係者であることを証明する』為に呼ばれた者等だ。

 いわば、カズマを追い詰める為の、間接的ながらカズマの“敵”となる人物達とも表せる。

 

 

 ……はずなのだが。

 

「なんか、さ。……大分いろんな人が集まってるもんだね?」

 

 頬の傷を掻きながら話す盗賊は、ダクネスの友人クリスで。

 

「誇張なくマジにな」

 

 のへーっ、とした顔の金髪冒険者は、カズマの飲み仲間であるダスト。

 

「まさか、あたし達まで呼ばれるとは思ってなかったわ……」

「うん……本当よね」

 

 以前ひと悶着を起こしたパーティの一人、槍使いの戦士クレメア。

 そしてアーチャーにジョブチェンジしたらしく、装備を変えたフィオが口を開き。

 

「……何故僕が呼ばれたんだ……?」

 

 魔剣の勇者であり、クレメアとフィオのパーティのリーダー。

 ソードマスターのミツルギが、何やら頭を抱えて呟いた。

 

 

 《御覧の通り》とはまさにこの事。

 誰も彼もがテロリストだの魔王軍だのとは、縁遠い者達ばかり。

 盗賊職についているクリスだが、本人の素行自体は悪くなく。

 ダストはテロをする気など微塵もうかがえないチンピラで。

 ミツルギやクレメア、フィオに至っては自国ベルゼルグを代表する、対魔王軍筆頭の冒険者だ。

 

 彼らを集めたところで、精々そんな人達と付き合いがあったんですね、ぐらいしか言えまい。

 ……セナは一体何がしたいのだろうか。

 

「集められたメンツもメンツだけど、理由もなんか変だったというか……」

「オレはいきなり呼ばれたけどな。第一、この次俺の裁判があるし。あんたは違うのか?」

「違うにきまってるだろ!?」

 

 憤慨して当然なことを聞かれ、らしくない口調で怒鳴るクリス。

 ……どうもダストは特殊な事情が後ろにある様子。数が足りないから―――というよりはカズマへの票を『悪』の方へ傾ける為に呼ばれたらしい。

 なんでかクリスを同類みたく扱いながらも、ダストは「で、実際どうなんだ?」と呼ばれた理由をまじめに聞いてくる。

 

「う、うんまぁ……。その、ほじくり返してほしくないと言うか、半ば自業自得だったというか。……っていうか、もう済んだことなのにぃ……」

 

 そして、どうも正式な証人ですら証拠内容が怪しく、個々人にとっても芳しいモノではない模様。

 クリスの顔は赤く、そして実にいやそうな顔でもあり、どちらの顔にも所謂『今更感』が漂っている。

 

「あたし達は、そもそも当人が全然違う人だしさぁ……」

「確かレホイ・レシェイアって人が主だったんだもんね。カズマって人は本当に最後の絡みでしかないのに……」

「もうその事は思い出したくないんだ……反省してるんだってば……!!」

 

 キョロキョロ気遣うような所作のクレメアとフィオは、互いに同意見だったか頷き合う。

 ミツルギは「チンピラ風の彼の件とかもあるのに……ドラゴンの事もあるのに……!」と、まるで己の黒歴史でも覗いているが如く、苦し気に頭を抱え続けていた。

 

 やっぱりと言うべきか、どう捻ってみたって魔王もテロも関係なさすぎた。

 本当に何がしたくて彼らを集めたのだろうか?

 

「あっ、そういえば」

「……どうしたよ」

「いやレシェイアさん来てないなって。外でだってチラッとも見えなかったし、カズマの弁護側にもいないってダクネス言ってたからさ」

「マジか。ってことはコッチ側として呼ばれてんのか? ……でもまだ来てねぇし」

 

 セナがレシェイアを証人として呼んだのも、普通に考えれば理由があるはずだが、彼等を見る限りこの意味不明な状況へ拍車をかけるぐらいにしかならなそうである。

 ただでさえカズマの罪を証明するどころか、むしろ弁護側に回りそうな者達が多いと言うのに、常日頃関わりが深いレシェイアを加えればどうなるかなど……言わずもがなであろう。

 

 それが思いつかない程セナもトンチンカンでは無かろうに。

 本当に何で彼らなのかが謎でならない。

 

 と、クリスらが疑問だらけで中身が埋まらない会話をし、不意に沈黙が部屋を包んだ。

 ……その時だった。

 

『ですが……いや、確かに装置の判定は青です……!』

『魔道具も反応しません』

『……わ、分かった。通って良いぞ』

 

 急に外がちょっとばかし騒がしくなったかと思えば、警備員達の戸惑うような声も耳に届く。

 どうやら誰か来たらしい。

 だとすると先のやり取りは、なにかしらの手違いでもあったのだろうか。

 

 やがて少しばかりの拍を置いた後、待合室の扉がゆっくり開く。

 出入り口に立っていた者を見たクリス達の顔は――― 『困惑』一色に染まった。

 

 

 

「…………」

 

 何故なら入って来た人物は、部屋内の誰も見たことが無い謎の女性であったのだから。

 

 まず背が高い。この場の男性陣よりも上だろう。

 明かりを反射し銀にも見える灰色の髪は、セミロング程の長さで多少ハネ気味。そこへ紅色の前髪がアクセントを加える。

 ネイビーブルーのシャツは硬めで、暗赤色のネクタイは確りしめられていた。

 ズボンは無地の黒であり髪とは逆に何のアクセントもない。

 ジト目とツリ目の中間のような瞳へは冷たいモノとも違う独特の空気が宿っている。

 

「………………」

 

 怜悧そうな相貌をミツルギ、クレメア、フィオ、ダスト、クリスの順に向けてから、女性は目についた空席へ腰を下ろし髪を手ぐしで整える。

 されども情報を得られるような所作はそこまで。待合室内が再び、痛いほどの沈黙に包まれた。

 

「………ふぅ」

「………」

「…………」(―_―)>ポリポリ

 

 女性が小さく息を吐いたり、クリスが視線をさまよわせたり、ダストが頭を掻いたりと。

 小さなアクションこそ見せれど誰一人として言葉を発そうとはしなかった。

 

 だが終わりの見えない静寂に耐えかねたか否か、一つの声が場を切り裂く。

 

「そういえば」

「「っ!?」」

 

 発生源は意外や意外、件の “謎の女性” からだった。

 本当にいきなりだった為に、近くに座るクリスとダストは思わずびくっと身をすくめる。

 

「やっぱり呼ばれていた、貴方達も。ワタシが呼ばれたから……もしかしてとは思ったけれど」

「は、はぁ……?」

「そうっすね……はい」

 

 《だからあなたダレ?》

 内心そう考えつつ戸惑いから無難すぎる答えを返してしまう。

 彼らのそんな言葉に何故だか女性もまた若干戸惑い、眉をひそめつつもう一度声をかけてくる。

 

「大丈夫? ダスト、クリス。なんだか強張っている様にも見えるし……緊張?」

「へ? ……あー、そんな感じかな……うん」

「!? ……だ、だな。多分」

 

 《なんで名前知ってんの?》

 本音を心の隅へと追いやって口にした、彼女らの当たり障りのない返答を最後に、女性は怪訝(けげん)な表情をしながらも会話をやめた。

 が―――それだけでは済まないのがクリス達。

 

 ミツルギ達の方を見ている間を利用して顔を突き合わせ、ひそひそ話を始めた。

 

「……ねぇ君。彼女に心当たりとかある?」

「ある訳ねぇだろ。あんな綺麗なお姉さんともし知り会いだったなら、即行でサキ―――何とかセクハラにならないギリギリを模索しまくるぜ」

クズだね君!? なに隠そうとしたか知らないけど、別方面で本音が漏れてるじゃん!」

 

 地味に出てきたダストの『名前通り』な一面に遠慮なく突っ込むクリス。

 

 とは言えクリスもダストも知らないのなら、狂い無く自然に声をかけてこれたり、名前を知っていたりする理由が余計に見当たらない。

 ……ダストは悪い方で名を知られていたりもするのだが、謎な女性の表情にはそこまで変化が見られなかった上、それどころか普通に心配してきたので悪評を聞いたクチでは無かろう。

 

((マジで何なのこの人?))

 

 なれば尚更。

 クリスやダストの名前を知り、順序を飛ばして気遣うほどに仲良さ気なのはどういった訳か?

 彼・彼女の知り合いの中に、当たり前ながら女性の様な人物はいない。いればそもそも困惑などしない。

 

 数回クエストへ出かけた人物に固定しても……やはり思い当たらない。

 クリスに限るなら似た人物こそいるが、1人はこの場に居ないのだし1人はドMだしで、とんと覚えが無く当てはまりそうにもなかった。

 

「……もしかしたら俺らが忘れてるだけかもしんねぇぞ。思い切って聞いてみるか」

「ちょっと怖いけど……そうだね。一番手っ取り早いし、いっそ直に聞いてみよう」

 

 ごほんとクリスが一つ咳ばらいをし、

 

「貴方達も来ていたなんて……」

「え、あ、はい……まあ意外ですよね、ホント」

「……何故、敬語?」

「へぇっ!? い、いやだってアナタ……」

 

 ―――などと先までの彼女達と似たり寄ったりな会話を繰り広げている、ミツルギパーティが口ごもったのを見計らって、目線を固定してから声をかけた。

 

「あの、ちょっといいですか?」

「私? ……何?」

「貴方、いったい誰……なの? 忘れてたらゴメンだけど、本当に覚えが無くて」

「そうそう。なんで俺らの名前を知ってたり、サラッと話しかけられたりすんだ?」

 

 そんなクリスの質問やダストの言葉に対し、どうも来る事すら予想していなかったようで、目を見開きピタッと停止する女性。

 数秒後に立ち直るものの、若干で分かり難いとはいえ困惑しているのがうかがえた。

 

「それ……本当に言っている?」

「ほ、ホントもホントだよ。割と本気で思い出せないんだってば」

「俺ならあんたみたいな人、結構忘れないと自負してっけどよ。やっぱり浮かばねえ」

 

 彼らの返答が変わらない事に『理解できない』的な空気を、女性はにじませ始める。

 その間 “何故こうなったのか” の答えを探していたらしき女性は、閉じていた瞳を開きつつかぼそい息を吐く。

 

「……分かった……かもしれない。もしかすると、真っ先に考慮すべき点だったと……」

 

 そこから一拍置き、クリス等の疑問を解消するだろう一言が呟かれる。

 

「シンプルに解決する。つまるところ誤解があった、と言う事だから―――」

 

 

 

 

 

 ―――再び場所は変わり、法廷の場。

 

「とまあ、このような活躍をした訳ですよ、俺達は!」

 

 セナの供述も終わり、今はカズマが―――如何にして自分たちが魔王軍幹部と戦ったか、どれ程の知勇を持ってデストロイヤーを倒したか、いっそやりすぎなぐらい熱くも細かく語ってみせている。

 

「だから思うんです、ベルディアにデストロイヤーまで討伐した自分は、もっと讃えられても良かないかと!」

 

 ……この熱弁の前に告げられたセナ自身の供述だが、その内容の支離滅裂さをとっぱらえば別段無難なモノ。

 内容はセナがアルダープの起訴状を読み上げ、その後『ランダムテレポートにて危険物を送る際必要な許可とる事なく使った法に接触する件と、それで領主の命を脅かした件、それらは国家を揺るがしかねない事態だ』と語った、それだけである。

 

 が……それで終わらないのが、このカズマパーティのクオリティ。

 アクアが “意義あり!” という言葉を使いだけで前に出て怒られたり、セナの気勢がそれで削がれたり、アルダープの女性陣を見る視線がねちっこすぎて目つぶししたいだの(主にアクア)違和感の残る沈黙を貫いたりだの(専らダクネス)と、ほんの少し語りの間に問題が目白押しだった。

 

 ならば熱を持っても致し方あるまい。

 

「……なのに、確かな実績も残してるのに、テロリストや魔王軍関係者扱いなんて! 要領を得ないうえに理不尽極まりないんじゃあないでしょうか!?」

 

 ……カズマの弁舌とて、疑わしい表現の場面が無かったわけでもない。

 それでも多少なりとも大げさな部分こそあっただけで、当然とでもいうべきか嘘はついておらず、嘘を見抜く魔道具も先ほどから微動だにしない。

 

 無駄にオーバーな感情表現も相まって、珍しく燃えるカズマに気圧されたことも合わさったか。

 裁判長はみるからにゲンナリしており、まだ追加で語ろうとするカズマを木槌とジェスチャーで留めた。

 

「も、もういいでしょう。被告人の言い分は、成否含めよく分かりました。……では次に検察官。サトウカズマ被告へ国家転覆罪が起用されるべきと、そう示す確固たる証拠の提出を」

「はい。…………では、証人達を」

「ハッ」

 

 セナに命じられた騎士の一人が法廷の場を抜け、裁判所の待合室へと少々駆け足で向かっていく。

 

 彼が向かう中。セナはハッキリと通る声で、一枚の紙に目を通しつつ読み上げた。

 

「ではこれより、被告人が国家転覆を企てるテロリスト、もしくは魔王軍関係者という、大罪人であることを証明して見せます!」

 

 




後編に続きます。

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