―――それでは本編をどうぞ
「で、昨日のバカ騒ぎがあったわけか」
「ワケさっ♪」
真昼に入るかどうかの時刻、のどかとは言い難い石造りの牢屋の中で、カズマは呆れた表情を浮かべている。
対話の相手はレシェイア。どうも彼が心配だったのか、翌日すぐに警察署内をおとずれていた。
何故朝方ではなかったかと言えば、昨夜の件で動きが取れなかった(要約)ためだ。
別に罪にとわれた訳ではなく、『またお前らか』や『アンタも酔っぱらって悪乗りするんじゃない』的なもの。
酔っ払い相手は嫌なのか……
ちなみにアクアはというと、捕まらなかった代わりに雪の降る中でずっと放置されていた挙句、職務質問されまくりだったらしい。
そんな訳で。
深夜過ぎに色々開放され今もグースカ寝ているアクア達に変わり、レシェイアがたずねて来ている―――という訳だ。
もっとも、その訪ねた理由である
ちなみに最初に記した通り、時刻は陽光がさんさんと降り注ぐ『昼前』である。
さしものレシェイアも、真顔でツッコミを入れかけ……それでも言わずにギリギリ止めた。
「アクアの奴も来てたし大まかな部分は聞いてたんだけども…………なんか、すまんかったな? アクア達に付き合わされた挙句捕まったり、こうして話にも来てくれちゃったりよ」
「らいじょーぶらいじょーぶ♪ 好きでやってたり、個人で勝手にやってることらからぁ。うん!」
「……そっか、でも悪いなホント」
理不尽な罪を着せられた愚痴よりも先に、カズマは謝罪とお礼を口にした。
順当に考えれば、昨晩カズマはアクアに針金を渡されている筈。
なので、そのあまりにお馬鹿な作戦に付き合わせてしまったから―――という理由もあるのだろう。
「それれさぁ……うぃっ。 牢屋に入れられ
「ほかにか? イヤ、何もないな。昨日はマジでなんも聞いて貰えなかったしさ……」
叫んでも冷たい一言だけ吐かれて本当に大罪人になってしまったかのような気がした、とか。
理不尽すぎてマジで涙が浮かんできて、ほんのちょっと世を儚んだなど、呟くように付け加えた。
カズマ視点で見たならば、
『頑張って国家賞金首を倒したのに、国家反逆罪になって捕まって、しかも最悪殺されそう』
―――なのだから理不尽ここに極まれりだ。
こうなる直前にギルドの仲間に半ば売られた形になったのを踏まえれば、理不尽度合いは更に加速する。
「まぁそれでも俺からみたって色々怪しいし、何とかなるのも祈ってるさ。事情聴取もあるみたいで、そこでひっくり返せりゃあ御の字だしな」
カズマが半ば諦観を含んで一言呟いた……その時。
「そーいえばさ、何れカズマ達逃げなかった
ふと、思い出したかの様にレシェイアが口にした1つの疑問。それは、確かに的を射ていた。
デストロイヤ-が天災級の化物であったことや、アクセルの街では冒険者もレベル足らずで、他所からの増援も間に合わないので、身体を張る理由があまり無いのは言うに及ばず。
ダクネスが駄々をこねた件も、パーティの三人で引き摺って行けば、デストロイヤー到達前には逃げられた筈である。
なのにカズマだけでなく、他の冒険者達でさえ街に残り決死の覚悟でデストロイヤーと戦ったのだから、常識的に考えて『何か理由があるんじゃないか?』ぐらいは思うだろう。
情に厚い中心人物や、仲間想いな高レベル冒険者の先導有りならばまだ分からなくもないが……ダクネスの “街を護りたい!” というワガママだけでカズマが早々動くだろうか。
こう表すと、カズマが悪い方で信頼を得ているように見えてしまうが。
「やっぱり~、ダクネスの懇願が必死だった! とかぁ? ……ウィッ」
なんだかんだ言って厳しいときには手を貸してくれるカズマだ。
情にほだされたのと、アクアやめぐみんにウィズなどの、強力な使い手達にも後押しされたのかもしれない。
(まぁ大穴で、あの領主が関係してる可能性もあるけど……)
領主を起点に考えられる理由としては、『責を負うor実質的に領がなくなるのが嫌だから』という理由で、出撃を無理強いされた可能性が最も高いだろう。
そうなると、アルダープは自分で出撃させた挙句、解決の立役者を捕らえた物凄い外道となってしまうのだが……ギルド内でそんな話は聞かなかったので、確率としては低い筈。
そう考えながらレシェアはカズマの返答を待つ―――のだが……。
「よしそれで行こう……まあその通りだな! ダクネスがしつこくて仕方なくてな!」
なんでか一瞬ばかり挙動不審となり、口元ですらモゴモゴとした妙な動きを見せていたり。
かと思えばレシェイアの言へあからさまに便乗し、胸を張って声高に叫ぶ始末。
……明らかに怪しい。怪しすぎる。
「…………」ジーッ
『なんか奇妙だ』
レシェイアはその思いを瞳に込め、カズマを傍からでも分かるぐらい、とても不思議そうな眼で覗き込んだ。
本人としてはただ本当に探るだけの目的で、不審により若干眉が下がっていただけなのだが、カズマは矢鱈青くなり過剰反応気味にビクッ! とする。
更に今度は視線を虚空で固定し、身振り手振りで弁解し始めた。
「な……なんやかんやあったと言うでありますか、無い訳でも無いとか男の意地の問題がとか……そ、そんなですよそんな感じ系。何か有るとか無いでありんすよ!」
「わっち系になってるでありんすよ?」
語調まで狂うほど怪しくなってきたカズマは、焦りつつ牢屋内に居る《もう一人の冒険者》に視線で必死に訴える。
されどその《もう一人の冒険者》は、下を向いたまま頑として動こうとしない。
彼もまた冷や汗を流しているかのように見えるが……微動だにしない。
なんという事か、“またも”カズマはいつの間にか裏切られていた。かなり地味に。
ついに逃げ道が無くなり、万事休す―――!
「ん~……まあ言いたくないなら聞からいよ。今は
「わ、悪いな……ホント……」
―――と思いきやレシェイアから身を引いたことで、一時的にだが場は収まる。
心の底からホッとしいてたカズマは、しかし悟られないよう溜息も吐かず汗もぬぐわず、お礼を言うだけに留めておいた。
どうにかこうにか『秘密』を守ることが出来たらしかった。
(あのいかがわしい飲食店でも守りたかったんだろうし……まあ身近な女性が、あの三人娘と私なんかじゃね)
なんてことはなく。
健闘(?)空しく
隣町への荷物配達クエストの際に見た『サキュバスと呼ばれていた痴女だらけの店』を、どうも思い浮かべているらしい。
実のところ彼女のその考えは半分アタリで、《もう一人の冒険者》の様子からも分かる通りカズマだけでなく他の男性冒険者も、彼とほぼ同じ理由でデストロイヤーに立ち向かったのだ。
流石のレシェイアとて、無条件で信頼を置いている訳でも無い。
そんな店に通っている彼を理不尽ながら、ちょっと穿った目で見てもいるのだが……元はと言えばそんな《いかがわしい店》を開いている側も開いている側。
駄女神・爆裂狂・性騎士・酔払いとこんな日頃の女性関連の酷さもあり、そんな店に通ってしまう気持ちも、何となくだが理解はしていた。
「……で、唐突に切り替えるんだけど……ウィッ」
とにかく『何故デストロイヤーに立ち向かったか』は概ね解せた―――もとい察した為ここで打ち切り、別の話に移るべくレシェイアは前置きをする。
それは真剣味すらもない、一応聞いておこうという雰囲気が強い。
恐らくその話の主な原因自体は、特にすこぶる気になるという訳でもない様子だが、とりあえず聞いておいた方が良いと判断したのだろう。
「まず一ついえるなら~ ―――何でダスト居るろ?」
「あ? 俺か? マジでいきなりだなあオイ」
そう……カズマと同じ牢屋内にいる《もう一人の冒険者》は、なんと以前パーティ交換をした戦士職・ダストその人。
なんでか彼もまた牢屋の中で座り込み、空気を読んで今の今まで黙っていたのである。
対し、ダストはなんでも無い様な口調で金髪頭を掻きながらに、あっけらかんと言い放った。
「ああ、そのことかよ。まず最初に……この時期って寒いよな?」
「そー
「そうそう、だから外や馬小屋で寝ると凍えちまう。でもよ、手元には金が無いんだよ」
「デストロイヤーの懸賞金は?」
「バクチで使っちまった。でよ? 予想以上に報酬が少なかったから宿も取れず、自分の金使っただけなのにリーンにも追い出され……もうしょうがねえやって『わざと無銭飲食して』ここに泊めてもらった訳だ!」
「……うわ~……」
それ以外一言も口に出せず、レシェイアは固まる。カズマはどうも先に聞いていたのか、同意するような眼を彼女へ向けていた。
鬼畜鬼畜言われるカズマにもそんな目をされるとは…… “ダスト” の名は伊達ではないという事だろうか。
「……っとと、次々」
とてつもなく微妙な空気になってしまったが、まだ質問があるかレシェイアは切り替えるべくとかぶりを振って続けた。
「二つ目。あり得ない事だけどさぁ、カズマは検察官からテロリストか魔王軍関係者って疑われたんだよれぇ?」
「つまり、なんか『そんなこと言われる節が思い当たらないか』ってことだろ? 無いに決まってるって。領主のことだって借金の件で恨んだりもしたけど、じゃあ暗殺したいかとか言われるとなぁ」
「だよねぇ……」
レシェイアとて十中八九カズマに心当たりなど無いことは承知していた。
だが自分だけの判断ではどうしても身びいきが入る為、ご本人に聞いてみれば……これまた予想ぴったり、言うまでもない物であった。
やはり問題があるのは検察官か領主の方と見てよい。
よい……がこれまたレシェイアの専門外で、且つ国の中枢まで突っ込まねばならず、立場的にも能力的に迅速な解決は無理難題だ。
―――そうこうしている内に。
「おい冒険者。時間だ、面会を終了しろ」
律儀に計りつつ会話の一部を聞いていた、看守と思わしき男性の、鋭く重い声がかかってしまう。
「むぅ」
「そうだった。普通はそうだよな」
まだ聞きたいことがあったレシェイアは残念そうな顔で声を漏らし、カズマも難しい表情だが納得し頷いていた。
駄々をこねる理由もないのだしと、レシェイアは表情そのままに、しかしすんなり立ち上がる。
「じゃぁ、またね」
「おう。……ああ、そうだ。アクアがまたやらかすかもしれないし、その時は頼んでいいか?」
「もち!」
「うっし、じゃあお願いな!」
最後に彼女は彼とそれだけ交わし…………看守の視線を背中に受けながら、多少足取り重く警察署を後にした。
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カズマとの面会を終えてから、今現在レシェイアは人通りの少ない裏路地で、何をするでもなく緩慢に歩いている。
「……………」
オチャラケが常で顔が赤いのが普通な彼女にしては珍しく、片手で開封前のカップ酒を保持したままに、口を手で覆った格好を崩さず思考し続けていた。
警察署を出てからというもの、ずっとこの状態である。
……思考内容は当然ながらカズマの事。そして領主や検察官の件だ。
(基本的な方面は時間がかかり過ぎるし、コネなんかアタシには無いし……かといって検察官に掛け合うにも時間が足りないし……)
領主としての功績より悪評と身勝手さが目立つアルダープのこと、『気に入らない奴が何時までものさばるなんて煩わしい』、なんて理由で裁判を早めかねない。
女性検察官本人に限定しても、やはりカズマへ良い印象を抱いていないことから手早く切り上げてしまうかもしれない。
仮に何事もなく証拠集めが進んでも、裁判までの時間に鑑みれば持てる余裕はない。
カズマを捕らえた理由がお粗末すぎるので刑を免れる可能性はあるが、それに甘えて取り返しのつかない事態になっては遅い。
この投獄、及び裁判自体が元よりおかしいのだ。予想もつかぬ負のどんでん返しが起きても、何ら不思議ではない。
故、最悪の事態が頭をよぎり余計に焦ってしまうのだろう。
『カズマの冤罪を晴らす』と意気込んではいたレシェイアだが、どうも感情が先走りしていた部分もあったようで……冷静に考えてしまえばご覧の通り。
情報面なら兎も角として、時間や信頼度の所為で手詰まりへ陥りかけていた。
(もっと何か、別方面で切り込める何かがあれば……!)
カズマに対しての恩は無かろうに、一体何がそうさせるのか。
もしくは不気味なまでの熱意を持つだけで……もしかすると彼女は前評判以上に優しく、お人好しな性分であるのかもしれない。
「……クソッ……!」
かといって仮に何方かに当てはまっていようとも、策など無く焦りが募る状況自体は変わらないのだ。
らしくない一言を吐きながら、『可能性』があるのかすら曖昧な中で―――それでもレシェイアは今まで知った事柄を順々に思い返す。
(そういえば……この件で誰が得するんだろう?)
得する人間で幾つか候補は上げられるが、すぐに次々打ち消されていく。
まずカズマはあり得ない。アクア達も、ギルドの冒険者達も、アクセルの街の人間も当然あり得ない。
ならば検察官の女性か? 否、これもあり得ない。
アルダープに協力したところで得られるのは『何かと悪評の多い冒険者の内1人の排除』だけ。しかもカズマは魔王軍幹部討伐にもかかわっている功労者。
評価自体がプラマイゼロだとしても、『マイナス面が大きいかもしれない』だのとそれだけを頼りに、態々カズマを表舞台から消そうとするだろうか?
そも公平かつ確固たる証拠が必要な場において、“噂程度”を根拠にするモノなのか。
(となるとやっぱり………
どう考えを変えようともそれしかレシェイアには思いつかなかった。
事の理不尽さに鑑みれば、得するのは裁判沙汰の中心にいるアルダープ本人のみ。
しかも『格上の存在たる自分の屋敷に、平民風情が爆発物を送り込んだ。気に入らない』と、そんな理由でしかなかろう。
もしくは『冒険者達は無傷なくせに何で自分は村人と同じく被害に会わねばならないのだ』かもしれない。
……どちらにせよロクでもない。
この身勝手の果てにあるのは《気に入らない奴がいなくなる》のみ。
理由も《偉い自分が平民よろしく被害に会うなんておかしい》・《相手が冒険者という低俗な者なんて気に入らない》という事だけ。
余りに軽い。余りに小さい。領主であるというのに、領民の補助や今後の運営など微塵も考えてはいない。
「それだけでカズマを……街を護ったのに、カズマを……アルダープ」
どんな人間であれ、自分を第一に考える節はあり、だからこそそれ自体は仕方のない事。
しかしアルダープは自分の事を優先しすぎるあまり『自分の事“しか”考えていない』という、領主としては致命的な欠点を抱えているように思えた。
もし、何かしらの過去が関係しているとしても……その件すら関係なくなる程に。
それはまるで……裕福が過ぎたせいで、
そこまで至った、レシェイアの周囲を重苦しい空気が包み込んだ。
突発的に呟かれたとても短い、しかし憤怒に満ちたな言葉を皮切りに。
とてつもない、言い表せぬ圧力が放たれ始める。
隅を這っていた虫は静止したまま微動だにせず、ネズミや小鳥等小動物はその “圧気のみ” で引っ繰り返って痙攣しており、遠くからも住民達の怯える声が
怒りの高まりに呼応し……圧気が制限なく、そこら中へ垂れ流されているらしい。
『行くところ』まで行くか、そう思われた殺気は…………なんの脈絡もなく唐突に止まった。
「落ち着いて―――落ち着かないとダメ……手前勝手な理屈で強引に進めたら、領主と同じ……」
どれだけの外道であろうとも、相手は仮にも一人の領主。
国にその地を任された身であるからして、その日暮らしの冒険者が歯向かったが最後、どの様な罪を負うかなど想像に難くない。
自分の分だけならば
「落ち着こう…………カズマに、迷惑がかかるから」
もう一度呟き呼吸を整えるレシェイアは、『ソコ』を思い出して、何とか踏み留まれた様子。
未だに先までの圧力がもたらした小さな騒ぎは収まっていないが、それでも『消えた』事により安堵は広がっている。
「……移動しながら考えよう」
自分がやらかしていたこと自体は把握できているらしく、一先ずレシェイアは路地から出て広場へつながる通りへとでた。
……その道すがら、考えながら歩く中で。
今しがたの“怒り”で少しばかり分かった事でもあったか、何らかの『決意』が宿った表情を浮かべていた。
「そう、そうだ……いくら領主の懇願でも、私情だけの意見で裁判までは……」
もう少し付け加えれば、国家転覆罪に問われる経緯すら 雑 の一言に尽きる。
おかしいだの理不尽だの、改めて顧みれば、そういった物とはどうも違って見えた。
得するのは領主だけでしかも小さ過ぎるのも、検察官の来訪が早すぎるのも、デストロイヤーの被害より屋敷損壊の方が重要になっているのも、すべてが蚊帳の外だ。
デストロイヤーを利用するという、モロモロの不可思議さは考慮にすら入れない。
特に討伐前に被害を受けた土地に関してはそれこそ全然追及されていない。
例えるならばマイナス要素を無視した挙句、プラス要素に結び付けようと強引につなぎ合わせているかのような。
辻褄合わせ“だけ”を行い、それに付属するストーリーや正当性をまるっきり放り捨てたような。
曰く 《違和感しかない事に違和感を覚える》 矛盾も真っ青な内容である。
「……! もしかして……? ……でも…………いや、試す価値はある?」
いきなりレシェイアは何を思いついたか、領主の屋敷の方を振り向くなり、口元に手を当てながらブツブツと呟き始めた。
端から見ていた人間がいたなら、その者等にとっては奇行に次ぐ奇行でしかない意味不明な言動を繰り返す。
されど、どうも彼女自身の中ではまだ半分ながら合点がいった様子だ。
「よっし…………!」
そうと決まったなら―――踵を返して先までの進路とは別方向に進もうとした、そんなレシェイアを呼び止める声が一つ。
「少しよろしいでしょうか?」
「……ん?」
声に再度別方向へ振り向いてみれば、ソコには眼鏡をかけた黒髪ロングのクールな雰囲気を持つ女性が、背後に騎士二人を連れて立っていた。
酔っぱらっている事への反応か、嫌悪は大なり小なり見えるもののレシェイアに対しての敵意自体は見られない。
先の問いかけも含めれば、注意や個人的な説教という訳でもなさそうだ。
「私は王国検察官・セナと申します。あなたはレホイ・レシェイアさん、でよろしいですね?」
「そーらけど」
「……簡潔に聞きましょう。貴方は日ごろから、サトウカズマ被告との友好が深いと聞きますが」
「そーらけど」
本当にそれだけしか返せない為、二回ともほぼ同じ発音で答えるレシェイア。
そのことに若干眉をひそめながらも……検察官・セナは本題であろう事柄を口にする。
「貴女には証人として、裁判の席に出廷して頂きたいのですが、如何でしょうか?」
「!」
一方では、カズマへの印象を覆す弁解のチャンス。
また一方では、どうも拭えぬ違和感強める罠。
どういった証拠を論ずるかで変わるので、うのみにはできないが、カズマと親しくとも既に彼には弁護役となれる『パーティメンバー』がいる。
「それで?」
先に考えた『とある事』を含めて……数秒考えた後、レシェイアは答えを出した。
「OKッ♪ 頑張っちゃうらよぉ」
「いえ、頑張らなくても良いので、答えてくださればそれで幸いです」
次に懐から紙を取り出してセナはレシェイアへ渡す。
「……先の行う説明と法廷の日取り、場所はこちらに記してありますし、冒険者ギルドへも連絡を取ってあるので、不参加になりかねないという事態は気にしなくともよろしいですよ。それでは」
それだけ言うと酒臭さから逃げるようにセナと騎士たちはその場を後にした。
一人残されたレシェイアは法廷が開かれる日時を見て、途端に表情を険しくする。
それもその筈、なんとまあ泣きっ面にハチとでもいうのか、近日中だったからだ。
「“こっち”も賭けになるし、急ぐ必要があるかもね……」
背中にあるバッグの、中に鎮座するマン・ゴーシュを叩きながら、レシェイアは独り言ちた。
理不尽な裁判が開かれるその裏で―――別種の『理不尽』もまた、動こうとしていた。
次回は裁判+αです。
それでは、また次回も宜しくお願いいたします。