素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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お待たせしました!

今回は、もしかしたら気になっている方が居るかもしれない
《なんでレシェイアはカズマに優しいの?》
という件について、ちょっとだけ踏み込みます。

……実はアレ、作者のカズマ贔屓ってだけじゃあないんです。
といいますか贔屓成分の方が実は少なめだったり。


では、本当に久しぶりな本編をどうぞ!


カズマ救出への道

 走り始めて数分ばかり経ったところで、何時ものギルドにたどり着いたレシェイア。

 

 

 走っている間に呑んでいたのだろう。

 濃く甘い匂いを漂わせるリキュールをおともに、ギルドの扉をバアン!と開け放つ。

 ……しかし発生源が、奇妙な酒飲みでしかないレシェイア故、『あの酔っ払いなら何時もの事だ』とばかりに皆ワイワイ酒盛りへ戻る。

 

 まあ酒瓶を咥えっぱなしなのだから、“アホか”と呆れて捉える者の方が多くて当たり前である。

 

「ん~……」

 

 当のレシェイア本人はというとどうやらソコまでオチャラケてない様子。

 

 先までの真剣味が残っているか未だほろ酔い気味で止まってはいる。

 されど壁に拳をぶつけた怒りと比べれば、面影は影も形も無いと言って良い。

 切り替えが早いのか、それとも誤魔化しているのかは不明だが……。

 

「……お!」

 

 出て行ったのに十数分余りで戻ってきたのに不信がられる事も無く。

 入ってきて早々手を額に当てキョロキョロし、それすら苦笑いで気にとめられない。

 

 ―――そんな変人認識は兎も角。

 今回も今回とて、酔っ払いなのだからと一蹴されそうな行動をとっていたそんな彼女は、唐突に声を上げてある一点で眼を止めた。

 

 あるテーブルに居たのは今正に探していた、『何時ものメンバー』だったからだ。

 

 

「―――から、やっぱりここはガツンとやっちゃった方が良いわよ!」

 

 幾つかの証拠により、実際に本物の神ではないかとレシェイアは思っている―――しかし余りのアホの子っぷりにより周りからは単なる痛い()としか思われていない青髪の少女・アクア。

 

「しかしですね……賛成というか、私としてもそうしたいですよ? ですが、こちらが不利なのもありますし……」

 

 かなりのポテンシャルを秘めているのは確かであり、先天性的にも後天性的にも良好―――にも拘らず、一発撃ったらもうその日は終了な、コスパ最悪の魔法を極めようとしている残念な黒髪少女・めぐみん。

 

「動くにしても、余り変なことをすると寧ろ悪化させかねんしな」

 

 全体的なステータスが高く、守るための強い肉体を持ち得ていて―――なのにそれを《攻撃を受ける為》だけに全力で使うという嫌な偏りっぷりを見せている、自他共に認めるドМな女性・ダクネス。

 

 何やらソワソワしているものの、特に騒ぐ事も無く慌てる事も無く集合し、三人娘内で何やら話しあっていた。

 早速とばかりにレシェイアは近寄る。

 

「あ! レシェイアじゃない、ちょうど良いトコに来たわね!」

 

 それより早く、アクアがレシェイアへ大きく手招きをした。

 

「ちょ~どいいトコぉ? ……ウィッ……何々?」

 

 元々彼女らを探していたのだし、渡りに船だと、ピョコピョコした足取りでテーブル席へ駆けてゆく。

 奇天烈だが若干態とらしいあたり未だカズマの件で悩んでいる様子だ。

 そうしてレシェイアの着席を待ち、アクアは《ちょうど良いトコ》といった理由を説明しだす。

 

「これからカズマを助けに行こうと思ってるのよ!」

 

 アクアの発言にレシェイアは少々驚き目を見開いた。

 

 牢屋から出せるように協力を求むか、裁判でひっくり返せるように有利になる証拠を集めるか、そのどちらかならまだしも直接『助けに行く』のだから。

 確かにレシェイアとしても今すぐ牢屋から出せるなら出してあげたいモノだが、様々な不条理が複雑に絡み合った現状、検察官の説得が一番の近道だと思っていた為に不意を突かれたらしい。

 

「まあ、レシェイアが驚くのも無理はないのです。けど理由自体はちゃんとあるのですよ? ……ダクネス」

「……知っているかもしれないが、今回訴訟を起こした領主アルダープは陰湿で執念深いと有名なのだ。今回の件の理不尽さに鑑みれば、最悪力技でカズマを死刑にする可能性もある。あちらは権力者なのに対し、此方はあくまで一冒険者でしかないからな」

「……」

 

 諸々の無理矢理さや取って付け加減を入れたとしても、国家転覆罪は最悪死罪も免れぬモノ。

 レシェイアとてソレは懸念に入れていたか、眉をひそめたのみでそれ以上は反応しなかった。

 

「そこで夜逃げの準備をしてから何とか助け出そうってこと! でも正面からは流石に無理だから、色々と裏技を使おうと思ってるわ! ねっ、だからドンと任せてちょうだい!」

 

 アクアが『裏技』など考えられる知能があること自体に驚きがあるが、それよりレシェイアには気になる事があった。

 

「……助けられるなら、助けたいですけども……」

「むぅ……」

 

 どうも、めぐみんやダクネスの表情がすぐれないのだ。

 先の会話からして、夜逃げ程度でどうにかなると思っていないのだろう。何より今自分たちが騒ぎを起こしたと感づかれたら最後、最悪それを利用されカズマの罪科が増えるかもしれない。

 更に自分達にも罪状が伸し掛かってくると考えれば、家族に対しても何かしらの責が行くかもしれず―――カズマを助けたい気持ちと板挟みになっているらしい。

 

 まあ何より何も思いつかないからこそ、この場合アクアの作戦に乗らなけらばならないのが、彼女らのモチベーションが上がらない一番の原因だろうが……。

 

 

 しかしながら。レシェイアにはもう一つ、気になることがあった。

 ―――《なんだかアクアの様子がおかしい》―――

 どうにも取り繕ってる感がぬぐえないのだ。

 

「本当のとこは?」

 

 なのでレシェイアがぶっちゃけて聞いてみれば……。

 

「い、いや別に、別に何もないのよ!?」

「…………」(ジーッ)

「そ、そのね?」

「…………」(<●>_<●> ジーッ)

「何もないってば!

 ただ検査官が怒鳴り込んで来た時にカズマを庇わなかったとか、半ば売る形になったとか、流石に無理矢理感が強いから裁判まで行っても程度温情あるだろうし、だから牢屋から出てきてからそれに対する報復がありそうだからとか考えてないから!!」

 

 語るに落ちたり。

 割と感情込められて見つめ続けられたアクアの口から、理由がぽろっと零れ落ちた。

 それを受け視線をそらしてみれば、めぐみんは若干そっぽを向き、ダクネスは所在無さげにモジモジしていた。

 

「……お二人もぉ、れすかい?」

「ちょっと、話すと長くなるんですけどね?」

 

 

 めぐみん曰く。

 デストロイヤーを倒したと宴が開かれていたその時、検査官と騎士二人が現れ、国家転覆罪を告げてきた………と、ここまではレシェイアも知っている。

 

 問題はこの後で、検察官はカズマを魔王軍の手の者かテロリストではないかと言い放った。

 余りに理不尽すぎるとギルド内の全員で抗議した刹那『国家転覆罪は犯行者以外にも適用されることがあるため、言動には気を付けろ』とねめつけながら言葉を重ねたらしい。

 

 すると―――途端に状況は一転。

 アクアが『何が起きても俺が責任を取るから! 大丈夫だ、俺は運がいいらしい!』と言った事を声高に口にしたり。

 めぐみんが『もしその場にいたら止められたのに残念だ。居なかったから仕方ない』とつい言ってしまったり。

 ダクネスが庇おうとしたモノの、実は今回彼女は『デストロイヤーを止めたがって駄々捏ねたのに全く何の役にも立たなかった』事で反論すら許して貰えなかったり。

 ウィズも当然テレポート実行者として反論したが、言い切る前にアクアが『罪をかぶるなら一人の方が良い』と口をふさいだり。

 果てはギルドの顔見知り達ですら『今までカズマが行ってきたことをちょっと悪し様に改ざんしながら』視線をそらしつつ先までの発言を取り返そうとしたり。

 

 結局誰一人味方はおらず、「お前ら覚えてろォォォッ!?」という絶叫を残しカズマは連れて行かれてしまったのだ。

 

 

「―――って訳なのです、ハイ。さすがにちょっと言い過ぎたかな~とは思ってまして……」

「それにカズマへの罪状は明らかに理不尽だわ! だから助けに行くのよ! 何もせずにいたら本当に鬼畜な報復に会いそうだとかじゃなくてね!?」

「……そうだった……私は役に立たなかったのだ……ぐすん

 

 それを聞いたレシェイアの表情は―――

 

 

「…………oh」

「ちょ、レシェイア!?」

 

 ―――というか表情が見えなかった。

 座ったまま気を付けの態勢を取り、テーブルの上に顔を伏せているのだから。

 勢いよく顔でも振り下ろしたのかと心配したくなる体勢だった。

 

「…………」

「レ、レシェイア? どうかしたのですか?」

 

 めぐみんの問いかけにも答えず―――少しは顔をずらしたが、されどその視線は床へ向けて。

 

 実のところ、確かにレシェイアは怒ってもいた。

 黙っていたりそれとなく不満を口にすればよかったのに、売るような発言の包囲網を敷いたアクア達への怒りはあった。

 

 ……だが状況に鑑みれば、悪徳領主が絡んでいる時点で碌な話など聞いて貰えなかっただろうし、なにより一度牢屋へ連れて行かれる可能性は高かった。

 それでも証拠がない、と解放されるのがオチだとも、そう思っていたのだ。

 

 

 つまり―――レシェイアが黙っている理由は、そこではなく別の場所。

 

(テロリスト? 魔王軍関係者? ……何それ?)

 

 その発言よりも、もっと()()()()にある。

 

(テロリストなら……なんで態々逃げもせず立ち向かったの? コロナタイトで領主の家だけ吹っ飛ばして、無言沈黙でどうすると? デストロイヤーを放置しつつ自分も魔道具使って壊しまくれば良いんじゃない?)

 

 何よりもテロならば、何かしらの目的が背景に会ったり、声明や主張を伴ったりするだろう。

 が……当然カズマにそんなモノは無いし、してもいない。

 少なくとも家は得たのだから、後は金銭を工面するだけなので、テロを行う理由が存在しないのだ。

 

 普通に鬱憤が溜まり過ぎてのただの破壊行動だとしても、それなら何でデストロイヤーを伴ったのだろうか?

 なぜ、カズマだけを捕らえたのかという件も無視できない。

 

(魔王軍関係者もおかしいって、おかしいってば。

 だってここ《初心者の町》なのに? 何で対象にするの? ミツルギとかいう人を狙う為?

 ……いやもういないし、非効率すぎるでしょ。もっと大きな街にした方が、魔王軍にとって有益なのに……)

 

 無理矢理ベルディアの敵討ちと仮定しようにも、そのベルディアを倒しているのは他ならぬ『カズマ一行』。

 アクアがやらかした所為で疑われる可能性もあるが、それならアクアの方にしわ寄せが行くだろう。

 

 ならば、とデストロイヤーを操ったと仮定しても―――かのデストロイヤーは魔王軍ですら接触を忌避していたらしく、結界に阻まれて城まで来られないなら“別に良し”としていたのだとか。

 そもそもデストロイヤーを操作できるなら、その過剰なる戦力を用いて王都を攻めた方が何倍も手っ取り早い。

 ……何故に中身だけ取り出して、しかも辺境の領主の屋敷なんか狙うのだろうか。

 

 何より魔王軍の内通者なら犯罪まがいの鬼畜な所業など行うはずがないだろう。もし今回のような事例で冤罪をかけられ疑われた場合、己の潔癖を証明しずらくなるのだし。

 

(―――なんで、そんな事になってるの……ねぇ……?)

 

 『カズマの罪を軽減させる、いや無くすぞ!』と意気込んだ矢先、まさかの事実を突きつけられたせいで、レシェイアの思考は止まりかけていた。

 

 彼女は決して自分が周りより頭が良い、などとは微塵も思っていない。

 何より罪やら裁判やら検察などは、彼女の専門外と言っても過言では無かろう。

 

 ……そんな彼女ですら気が付く奇妙さに、よりにもよって国の頭脳担当が気が付かないのに、唖然となるのが止められないのだ。

 現にアクア達だってカズマの報復云々を除いても、何となくだが奇妙だと思っているのは見て取れるのに。

 

「ね、ねぇレシェイア? 大丈夫?」

「うんだいじょーぶ」

「えーと……何か不安だけど、とりあえず話を続けるわね」

「ああ。カズマを助け出す方法とやらについて、まずは確認しておかねば」

 

 まあそもそも会話の主軸はそこだったのだから、元に戻すべきだろう。

 

「で。警察署から助けるにしたって、簡単ではありませんよ? 衛兵はもちろんの事、中にだって見回りがいます。何より牢の鍵を開けようにも盗賊系スキルは誰も持っていませんし、どうやって助けるのですか?」

「うむ。隠密に向いている者は誰もいないからなぁ……」

「そーだよねー、うん。そーそー」

「……本当に大丈夫なのかレシェイア?」

 

 レシェイアの気が抜けているのは置いておくとしても、めぐみんの一言は至極真っ当なもの。

 

 めぐみんはアークウィザードで爆裂魔法専門だからまずアウト。小柄だから、では無理がある。

 ダクネスは器用ではないし、《さぁ侵入者だぞ! 捕えて拷問にかけるがいい!》などと言い出しかねない。

 レシェイアは未知数だが、今まで使った技を見ても、防御や妨害系ばかりなのでキツかろう。

 アクアは論外。

 

 何とも皮肉だが、捕まっているカズマの方が、この四人より余程潜入に向いているのだ。

 

「当然それも考えてあるわ。何より、全員がそろってないと実行できないんだから、分かった上でのギリギリの作戦よ」

「……なんでしょう。どうしても、どうやっても、わき上がる不安が9割を下回らないのですが……」

 

 アクアが自信満々なのはそれ即ち《失敗へのカウントダウン開始の合図》にも等しいのであり、だからこそ不安しか出てこないのが当たり前。

 ―――むしろ、不安以外が1割も占めたのが、真に驚くべきことなのかもしれない。

 

「大丈夫って言ってるでしょ、このアクア様にまっかせなさい♪」

 

 アクアが胸を叩いたのと同タイミングでレシェイアが顔を上げ、めぐみんとダクネスは互いに顔を見合わせてから、それでも仲間なのだから私達だけでも信用すべきだと真剣に見つめる。

 

 全員の視線が集まったのを見計らい、アクアは咳払い一つしてから口を開いた―――――。

 

 

 

 

「まず、爆裂魔法を警察署近くにぶっぱなつの!」

「「「オウフッ」」」

 

 ―――と同時に3人共テーブルに頭を衝突させた。

  かなり小気味良い音がした。

  しかも全く同時。奇跡的な息の合い様だった。

 

「なんでですか! なんでなんですか!! 流石の私もソレには賛同しかねますよ!?」

「同意見だ! あんな公的施設の傍で魔法なんて使ってみろ! 下手すれば本当に転覆罪が適用されかねんぞ!?」

「最初っからおかしいって……なんで爆裂魔法が前提なのかって……もっと他にあるって……」

 

 当たり前ながら爆裂娘、ドM騎士、酔いどれの全員から抗議の声が上がる。

 

「フフン、甘いわね三人共。そう来ることは分かってたわ、それも含めて計算付くよ! ……故に今のうちに反省なさい? でなければ、私を称えても称えきれなくなるわよ? 何せその言葉は即ち、そんな当たり前が来ると想像できてないって侮る、あんぽんたんぶりを表してるも同然なんだから!」

 

 胸の下で腕を組み、これ見よがしに強調しながら見下ろすアクア。何故かかなり偉そう。

 無意味に見下し始めた彼女の態度を受け、場の空気が一瞬ばかり凍った。

 

「“黒より黑く、闇より暗き漆黒に―――」(殺気)

「よし今日は気分を変えて攻撃スキルを会得するとしよう!」(怒気)

「……オイ、誰かちょっと大岩持って来い」(圧気)

 

 …………刹那、これまた同時に青筋が浮かんだ。

 

「ストップストップストーーーップ!? なに三人して攻撃態勢に入ってるのよ!? 特にめぐみんやめて、シャレにならないから!!」

 

 自覚がない天然でやってしまったらしく、その交戦いとわぬ態度を見てようやく慌て始めたアクアが土下座―――というかかなり綺麗な五体投地を披露し、一先ずその場は収まる。

 

「……一応続きを聞こうか。それで、爆裂魔法の後にどうするのだ?」

 

 息一つか細く吐いてから、ダクネスが切り出した。

 

「もちろんダクネスがめぐみんを抱えて逃げるのよ。ほら、撃った後に動けなくなるじゃない? いくら長距離から放ててもその場で寝込んでたら、犯人確定しちゃうしね?」

(爆裂魔法の時点で犯人確定するんだけどね)

 

 レシェイアが尤もなことを、しかし話を途切れさせない為に内心でつぶやいた。

 王都内ならばいざ知らず。アクセルの町ではめぐみんしか使えないのだから、証拠をつかむ必要すらない。

 

「で、次にレシェイアが酔っ払いスキルをうま~く使って、衛兵や署員たちに鬱陶しく話しかけながらのらりくらりかわして、隙があれば別方向に誘導するの!」

(いや、護衛が一人二人しかいない貴族のお忍び旅行じゃないんですから……)

 

 めぐみんがこれまた尤もな部分を突く。

 しかも様々な方向に展開するのだから、レシェイアが話しかけただけでは効果など薄いだろう。

 加え、しつこすぎると関与が疑われてレシェイア自身が投獄されるなど、デメリットが大きすぎる。

 

「最後に。混乱の最中私がハリガネをカズマに渡して、それで解錠すれば万事OK☆ 警察署の前で待機してそのままとんずらって寸法なの! ―――どう、どう? まさに一片の隙すらない完璧な布陣でしょ!」

(寧ろ何故その策で行けると思ったのか、小一時間みっちり聞きたいのだが……?)

 

 ダクネスの眉が、尤もな疲労感により限界まで下がる。

 アクアの発案で牢屋のカギを開けるのなら、南京錠に近いタイプでないと不可能だ。

 そして警察署は真実か誤解かに拘らず、犯罪者となった人間を一時的とはいえ捕えておく場所。

 ―――その重要な場所に、半端な解錠スキルやハリガネ程度で解ける鍵を置くだろうか。

 

「「「…………」」」

「フフン♪ 完璧すぎて声も出ないみたいね……!」

 

 まさにめぐみんが抱いた危惧通りで不安通り。余りに穴だらけ―――というか

穴あき過ぎて残っている部分があるかもわからない そんな作戦に、三人そろって二の句がつげず沈黙。

 

 アクアの腹立つ所作すらも、目に入っていない様子である。

 

「そうと決まったら―――さあ行くわよ!」

「「「いや何も決まってないから」」」

 

 いつの間にやらシュワシュワの入りジョッキを掲げ、元気よく叫ぶアクアへ異口同音で突っ込みが入った。

 

 絶頂のタイミングに邪魔されて、アクアの表情は憮然としたものへ変わった。

 

「んもぅ~……私の作戦の、何が気に食わないっていうのよ?」

「全部ですよ全部!? 何でそんな本当に命がけな作戦を行使しなければいけないのですか!」

「私としても御免だぞ?」

「うぃ、以下同文なり」

 

 全員に反対されたアクアは目じりに涙を浮かべ―――――る事無く、『あくどい笑み』を浮かべ始めた。

 

「あら、逃げるのめぐみん? 爆裂を極めようってのに、案外臆病なのね」

「……! に、逃げる……臆病ですと……?」

「だってそうじゃない。めぐみんは爆裂魔法を極めるっていってたじゃない。

 なら狙撃技術や絶対にひかない度胸、己の矜持を捨てない覚悟だって必要よ?

 何よりいつもとは違う爆裂を行えるっていうのに……ま、どうせ貴女の爆裂愛なんてその程d」

行きましょう!! 爆裂魔法を極める為!

「めぐみぃんっ!?」

 

 めぐみん陥落。

 爆裂魔法を絡められるとどうにも弱かった。

 

「ダクネス。あなただってこんなチャンスを逃すの?」

「チャ、チャンスだと? ……いやいや、そんな甘言には―――」

「後日自分が主犯だと言い出すこともできるし、例え逃げ切れなくてもめぐみんを庇えば当然罪は重くなるわよね? 

 しかも相手は犯罪者には容赦しない施設で、更に冒険者の女性は強いから、なかなか欲を満たせない。そんな彼等の前に程良い体を持った女性が現れれb」

よし行こう! 我が聖騎士の誇りをもって!!

「うん。言うと思った」

 

 ダクネス陥落。

 呼吸が荒いあたり、もうすでに妄想し始めているらしい。

 

 そして残るレシェイアへ魔のささやきが迫る…………!

 

「……えーっと……あの、レシェイアは……」

「ハイ。なんれすかい?」

 

 初っ端で詰まった。

 よく考えなくても、レシェイアは酒飲みなだけで『変人ではない』ために、どうにも悪魔のささやきが思いつかない様子。

 と、掴みあぐねる唸っているアクアの横から、めぐみんとダクネスが声をかけてきた。

 

「酷い言い方になるかもしれませんが……レシェイアは付き合うことないのですよ? 今までご飯や冬将軍などでお世話になっている人ですから、パーティ内の危険に巻き込むわけにも……」

「そうだな。ベルディアだってそうだし、借金の件でも世話になりっぱなしだ。こればっかりは私達でやり遂げさせてもらえないだろうか?」

 

 雰囲気を元に戻し、その後付け加えながら真剣に語っているあたり、本気でそう思っているのだろう。

 ……アクアは『えっ!?』という顔を本気でしていたが。

 

 そんな彼女達、めぐみんとダクネスに対し、レシェイアは二カッとあっけらかんに告げた。

 

「気遣い無用らよぉー。ずっと支えてきて、ココでほっぽりだすのは嫌なんらよ? 心配だから協力する、うん!」

「し、しかしだな……」

「カズマを無罪にするためなら……救出以外れも~がんばっちゃうぞ? 証拠や難点をまとめるし、領主に疎まれても有利になる情報集め続けたりするら! ……うぃっそーらそーら!」

 

 握り拳を作って声高々言い放ち、片眉を上げた不敵な笑みを作ってみせるレシェイア。

 気負いも同情もなく、彼女も本心からカズマを助けたいと思っているのがうかがえる。

 酔っていても分かるぐらいなのだから、それ以外何もないのかもしれない。……だがめぐみんやダクネス、アクアもすぐには頷かず、顔を見合わせている。

 

「んぅ……ろーかしたの?」

 

 レシェイアの問いかけで一旦顔合わせをやめ、代表してアクアが、頷けなかった理由を口にした。

 

「レシェイアって、さ。なんでカズマとか、私たちの為にそこまでしてくれるの?」

「……はい? どゆこと?」

「いやどうもこうもありませんよ。そのままの意味です」

 

 尚も意味を掴みかねているレシェイアへ、ダクネスも問いかけた。

 

「思えば、私が初めてカズマと会った時―――まあ私が絡んでいたと思われたのだろうな。

 そんな私を横から突き飛ばして、カズマの愚痴すら全部聞いて、酒も奢っていたではないか。どんな者にも優しいという訳でもないようだし……本当に初対面なのに、何故そこまでしたのだ?」

「ああ、なるなる……そーいうことれ……」

 

 ようやく理解したレシェイアはしばし俯き、アクア達の質問へ真面目に答えようと、目を閉じてまでして考えている。

 

 たっぷり、本当にたっぷり時間をかけ、アクア達へと向き直ったレシェイアは―――カズマへと構う確固たる理由を、口にする。

 

 

 

 

「なんでれしょーね? 分かららいや」

「「「オウフッ」」」

 

 数分前の焼き直しの如く、三人の額がテーブルに叩きつけられた

 ものすごく “テキト-” な理由だったのだから、ずっこけない方が無理という話だ。

 真剣な理由など、どこにもなかったのだから。

 

「いや……れも、なんか『なつかしさ』を感じたんらよねぇ……構ってあげたくなった? 一緒に居たくなった? そんな感じ? ―――ん~……なんかよく説明できないんらぁ……」

「り、理由自体はあったのだな……けれど大分曖昧なモノなのだなぁ……」

「レシェイア。あなたは本当に、ダメ男好きではないのですよね?」

「ど~かなぁ~?」

「なんか本当にダメ男好きかもって思っちゃうんですけど……」

 

 結論としては、どれだけ取り繕おうが結局グダグダなのに変わりは無かった。

 

「ああもう……とにかく、レシェイアも退く気はないのよね?」

「まあれぇ? 作戦の制度はともかく、色々別件でも心配らしぃ」

「ならいいわ。存分に手腕を振るってちょうだい!」

「う~……らじゃ!」

「ひかないならば、せめてより良い爆裂をお届けしましょう!」

「……なんだろうか。この知人への慈しみと、欲望が持つ力との、奇妙な葛藤は……?」

 

 全員が何かしらブツクサ言いながら立ち上がり、バカ騒ぎはいつもの事だと特に気にしていない冒険者の面々の横を通り過ぎつつ、ギルドを出ていく四人。

 

 

 

 その中で、レシェイアはずっと考えていた。

 

(郷愁っていうのかな……とっても懐かしくて、もどかしい感じがしたんだけれど―――あの奇妙な感覚は、やっぱり気の所為?)

 

 “懐かしく感じた”、その考えは意外と彼女にとっては根が深い物であったようで、引っ掛かりをとれないでもいた。

 

(ううん! 今はカズマ救出に集中集中! ……絶対、失敗するけど)

 

 小さくかぶりを振ってから、レシェイアはアクア達から半歩引いた距離を保ってついてゆく。

 

 ―――各々、不安や独自の考えを抱きながら。

 紆余曲折の果てに『カズマ救出&隙有らば夜逃げ』作戦は始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ごめん。作戦は夜だったわ。屋敷で待機!」

「「「早く言ってください」」」

 

 …………ちなみに、その作戦がうまくいったかどうかは《言わずもがな》なので割合とする。


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