『デストロイヤーと爆破テロが、繋がっている決めつけられた事の“歪さ”』と
『国家転覆罪が適用され、カズマが牢屋に入っている事の“歪さ”』が主題です。
だから、色々と穴がありますし『それは違うぞ!』という意見もありますでしょうが、
『この作品ではこういう見解なのだ』と、納得していただければ幸いです。
この後の話でも今話に出てこなかった要素を含め、その類の思考がまた出てきます。
では……かなり短いですが、本編をどうぞ。
何度息を吐き、何度吸っただろうか。
なんとか、漸く本当の意味で『怒りが落ち付いた』レシェイアは、一先ずやるべき事を頭へ浮かべ始める。
「情報収集は絶対にやる。けど、もう一度……考えてみよう」
その口調、その表情、その雰囲気に―――いつもの酔いなど見られない。
一人の人生が、理由すら全く知れず、余りに馬鹿げた『通り無い』理不尽で崩されようとしているが故に、彼女も真剣なのだろう。
そして……思わず殴ってしまった壁を撫でながら。
取りあえず一旦、状況をおさらいしようと、思考の海に沈んでいった。
まず―――考えるまでも無く。
カズマは、個人個人の解釈の違いはあるだろうが、事実、アクセルの街を救っている。
それどころかこの国・ベルゼルグに蔓延る、負の遺産を取り除いた、といっても良いだろう。
だからこそ、カズマとそのパーティメンバー、そしてアクセルの街の冒険者達は、多大なる恩赦を受けとるべきであり。
そして領主の屋敷を破壊した件で、いくらか借金を負う可能性はあっても……何かしらの“罪”を、それも眼を疑うような大罪を着せられる可能性は、現状何を踏まえても『皆無』でしかない。
しかし……今、目の前に広がっている“現実”は違う。
街を救った大戦闘の、疑う事無き立役者であるカズマは―――国家転覆の大悪人として牢の中。
パーティメンバーであるアクア、めぐみん、ダクネスには―――何かしらの特等もたらされず。
アクセルの街の、冒険者達は―――ベルディア討伐時よりも少ない賞金しか受け取っていない。
(しかもウィズの事は、まるっきり無視だし)
レシェイアとて、別に友人が捕まって欲しい訳ではない。
それは彼女が、カズマが捕まったと聞いた際、壁に八つ当たりしてしまった件でも分かる事だ。
だがそれでも尚、『ランダムテレポート』を行った張本人であるウィズがお咎めも無しなのは、彼女にとって正直かなり奇妙な事だった。
普通なら何かしらの苦言を呈されても疑問ではない。
怒りこそ湧くだろうが、理解できない事でもない、とそう言えるだろう。
(領主本人は国の重要役人ってわけでもないし、それどころかねぇ……)
更に“アクセルの街”が属している領を納める領主・アルダープは、何かと良くない噂を耳にする人物だ。
その噂はただ街を歩くだけでも自然と耳に入り、被害に遭っていない様な人物まで眉をひそめて毒を吐くほど。
権力とてソコまで強い訳でもなく、したがって、彼を庇って国家転覆の罪を着せたとは考えにくい。
(となると他の理由を踏まえて、何で《国家転覆罪》に繋がったかを考えなきゃだけど……やっぱり、領主邸の爆破しか当てはまらないし……)
次の可能性として当てはまるのは、破壊行為そのものの危険性だ。
……確かに、領を納める貴族の家を破壊するなど言語道断ではある。
―――しかしそれは『意図して破壊した』か『必要のない処置で破壊した』の、どちらかに当てはまる場合。
今回の様な『そうするしか他に生き延びる方法が無い』やら『まさか過ぎて、予想外にも程が合った』場合に対しては、特例だって認められるだろう。
よしんば認められなかったとしても、ランダムテレポートの違反や、領主邸の損害などは、天災クラスの国家賞金首が関連している事もあり、ある程度ながら軽くなる筈。
またデストロイヤーが消えた事で、今回の件で被害にあった土地への対処に集中できるし、これから賞金首に脅える事も無くなったのだから、間違っても『国家転覆』になど繋がらない。
なにより邸こそ無くなったものの、裏を返せば消えたのは屋敷 “だけ” 、領主本人は生きている。
貯めた財産だって消えた訳でもなく、家ならまた建て直せばいい。
もう少し踏み込めば……新たな候補の貴族を選び、段階を得て新たな領主と据える、国への負担も無い訳だ。
領主本人が悪人だというのなら、尚更カズマへ温情を与えぬ理由が無い。
家を建て直す間、もしくはそれを利用してスパイを仕込み、悪事の証拠を調べられるのだから。
(うん、やっぱりおかしい)
間違っても賞金受け取りをスッ飛ばして、領主の命が脅かされたからと捕える事は、やっぱり有り得ない。
捕えるまでが早すぎて、状況が唐突過ぎで、しかも詳細も調べぬと理不尽過ぎる。
(普通に考えれば機動要塞の事を入れても……や、入れるからこそ、かなりおかしいかな)
仮に考えられる罪状として、
―――『ランダムテレポート』を装い、普通の『テレポート』で領主を暗殺すべく、コロナタイトを邸に送り込んだのだ!―――
と強引に言い張っても、ソレはソレで余りにおかしい。
いやいっそ、 愚かしい とすら言い変えられる。
まず、余りに運まかせの要素が強過ぎる。
今回のデストロイヤー襲撃の件は、言うまでもなく予想外中の予想外。
本来の軌道を外れるなど誰にも予測できなかったのだから、内部のコロナタイトを利用しようにも、とんでもない低確率のラッキーが起こるのを待たねばならない。
しかも、デストロイヤーの原動力がコロナタイトである事は
乗り込めたとしても爆発性が無かったり、全く別のモノだった場合は見事に計画がオジャン。
漏れなく街もペッチャンコの、バッドエンド直行ルートしかないのだ。
それに、もしカズマが暗殺を企てていたとして、一体どうやって『動力がコロナタイトである』と見抜いたのだろうか?
また仮に幾重ものラッキーが重なって、運良く『テレポート』併用で領主の屋敷を爆破できたとしても、テレポートへの犯罪性を疑われる可能性があるのだ。
領主自身がほぼ悪人で、恨みを持たれて当然だろうという固定観念もある。
だから、デストロイヤーが来た事をこれ幸いにとばかりにテレポートさせた―――などと、かなり強引過ぎるが決め付けられてしまうだろう。
そう、
何より奇跡が起きて、動力をテレポートさせ、デストロイヤー本体も倒せたとしても。
相手が国家賞金首である以上、どういった経緯で何が起こったかを、ある程度ながら細かに国へ報告する必要がある。
だから、策の立案者が疑われる可能性は、更に跳ね上がると言って良い。
断じてしまえば、『自分から暗殺した証拠を露見させている』にも等しい。
即ちガッツリ証拠が残り疑われ、失敗すれば街ごと終わりと―――もうデメリットしかない作戦と言える。
領主を暗殺しようとしているのに、犯行後犯人は私です!なんて馬鹿正直に告げることを、犯行前から計画に入れている人間が一体何処に居るというのだろうか?
(いや……というか、『デストロイヤーを利用する』って時点で、なんかもうおかしいし……)
もっとバッサリ言ってしまえば。
もうそんな運任せで、回りくどく面倒くさい、損の多い作戦を実行するくらいなら、クエストか何かでアリバイを作り、爆発物を自分で手に入れ送り込んだ方がよかろう。
証拠が残らないように細工する事も出来るし、領主の就寝時間を頭に入れておけばよりグッド。
というかそうした方がメリットも多いし手っ取り早い。
アルダープ領主の悪行に悩まされているが故、関わっていなかろうと信頼度に差があろうと、他者を黙秘させてしまうことだって可能な筈だ。
(けどまあ、要するにって言うか……)
そして、ここまで記してきたこれらの考えは全て “デストロイヤーに爆発性の動力があり、それをテレポートで送り込んで領主を暗殺する計画を、カズマが前々から企てている” こと前提の思考。
普通、アルダープ領主を始末したいと本気で考えているのなら、
『デストロイヤーに九割九分踏み潰される事を覚悟して、更に自分が犯人だと確実に疑われる事を踏まえて、国家賞金首を利用する』
―――というその考え行き着くこと自体、どんな確率持ち出すまでもなく端から有り得ない。
なら普通にデストロイヤーを無視して土地を被害に合わせ、領主に責任を負わせた方が上々だ。
原因を作った者が悪評の多いカズマだったから、突飛な方向へ話が傾いている……と仮定しようにも、そうする事自体が無理難題。
何せ、カズマに掛けられた罪状は『領主暗殺』でも『建築物損壊』でもなく『国家転覆罪』なのだから。
(……違和感『しか』無いって、ことか)
もう一度言うが、領主の住居を爆破した所で、疑われるのはそのまんま領主暗殺だけ。
国家転覆罪など適用されるどころか、普通は思い浮かぶ事すらない。
他ならぬ『
そしてしつこい様だが……その被害者の領主も領主で《疑わし過ぎる悪人》である。
「……一旦、ギルドに戻ってみる?」
結局やはりというべきか彼女の有する情報と、考えだけでは答えなど到底出ず、仕方なしに踵を返し始めた。
遠方から攻めて行くよりも、近場から情報を集めた方が良い、と思ったのであろう。
「でも、なんか……まるで……」
その道すがら。
一瞬だけ思い浮かんだ事を、レシェイアは『荒唐無稽だ』と切り捨てようとして……されども、引っ掛かりを覚えた心が、思考を最後まで進めてしまう。
(まるで―――
そう考えたレシェイアは……しかしやっぱり荒唐無稽過ぎるかと、そして焦り過ぎだと自分を鼻で笑った。
しかし―――何故か、拭いきれぬ違和感は、脳裏の隅に残り続けるのであった。
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―――時刻は、赤と紫に染まる夕刻。
―――場所は、とあるダンジョン。
「―――で。お前さん、こんな所に居るのかいや」
「うむ。調査自体、進めてはいないのだが……なぁに、無問題! こんな良い場所を見つけてしまうとは、吾輩も良き運に恵まれたというモノで有ろうな。魔王様万歳! 対した敬もない常時より5/10増しで感謝しよう! フハハハハハ!」
「最初から『半分』て言いなや……ヒヒヒ、問題だらけだろうになぁ。まったく呆れモンだこった」
天然物により形作られる迷宮の中で、二つの声が響いては吸いこまれゆく。
うち一人は、仮面をつけたタキシード姿の男。
装飾自体は少なく口元が露出している仮面で表情が読めず、一層不気味さを醸し出している。
更に180㎝後半は余裕だろう大柄で、武器こそ携えていないが一目で『タダモノではない』と窺わせた。
そんな彼は今、手元を緩慢に動かし自身に似た人形の様な物を作っている。
「しかし……よもや、汝がここに来るとはな? 城の者たち皆ほとんどに嫌われているとはいえ、敵意を向けられた程度でヘソを曲げる男では無い、だいいちヘソが包帯で見えぬのだし。そして汝の『協定条件』に鑑みれば、つまり何かを探りに来たという事。さて汝の目的は一体何なのだ?」
「オーヤオヤ、お前さんは『先を見通す』事が出来るんだろうがい。そんなら、ワシの未来やら思考やらを見通しゃあ、万事済む話じゃあねえのよ」
仮面の男の質問に対しどうもヤル気の無い声で答えたのは、包帯を巻いた男。
仮面の男も中々の長身ではあったが、こちらもこちらで2mクラスある。
両目と口、髪の大部分が露出する様に巻かれているがそれら以外の露出はあまりりない。
手元には湾曲した刃を持つ、柄と刀身が同じ長さの、石剣らしき得物が握られている。
上半身の服装は、現代日本の『ジャージ』に似ており、異様な雰囲気を纏っていた。
その包帯の男が言うには、仮面の男にはどうやら『先を見通す力』がある様で、だからこそ言うより見た方が早いとばかりに、それを促した様子だが……。
「……理解しているその上でその看過しきれぬ言を、態々と口にしているのではあるまいな?」
「へぇ、分かってるか……何をだい」
仮面の男は大きく溜息を吐き、外見に似合わぬ不貞腐れた様な声で呟く。
包帯の男がおどけてヘラヘラ笑う傍ら、更に声のトーンを落としてから、仮面の男はまた口を開いた。
「例え何千何万と時が流れようと、決して分かり得ぬ神々の思考ですら見通すと自称する吾輩を持って尚、『全く見通せぬ』のはとっくの昔に分かっている周知の事実であろう? と、そう言っているのだ」
「ああ、そう言やそうだったわな……ヒヒハハハ、時の流れって奴ぁやっぱり、記憶の摩耗に繋がるみたいだねぇ」
ニタニタ笑う包帯の男からも、そして暗い雰囲気を僅かながら捨てた仮面の男からも、奥底の感情は読み取れない。
怒っているのか本心からあざ笑っているのか、全くと言っていいほどに分からない。
……それを現すかのように、仮面の男はすぐさま、陽気に笑い始めた。
「フハハハハ! やはりお主は食えない男だ。いきなり現れ、味方になり、そして気紛れで居なくなる。不可思議と言い換えても良い。面白く飽きないとも言えるのだから、吾輩にとってはかなり興味深い」
「そりゃあどうも。魔王軍幹部に気に入られるたぁ、ワシも冥利に尽きるやね」
包帯の男の弁を受けて、仮面の男は何やら言いたげにしていたが……すぐに諦め、ヤレヤレと言わんばかりに首を振る。
「よっこらせぇ……っと。じゃ、一先ずお別れだわな」
言いながら、包帯の男は腰掛けていた岩から立ち上がり、出口の方面へと歩いて行く。
仮面の男は少しだけ名残惜しそうにしながら、見送るためにか人形作りの手を止めた。
「では、気を付けるが良い。汝の実力に鑑みれば、何に気を付ければ良いのか、便意か? などとツッコミが入りそうなモノだがまあ、兎にも角にも用心する事だ」
「お前さんにしてみりゃ、少々無難さねぇ」
サラッと聞き逃しきれないオバカな言葉が呟かれる。
割と自然に下ネタが入る会話が無難など、常人からすればサッパリだろう。
「見通せぬが故、吾輩もこのような陳腐な言葉しか掛けられぬのだ。話の種がもっと欲しいモノだが……種があれば更に話へ花が咲き、実が生り、季節が巡ってボロリと腐る。良き掛け合いと成りそうなのだが、とても残念だ」
「いや腐っちゃアカンだろう、腐っちゃ」
ボケとツッコミが唐突に入れ換わる、摩訶不思議な会話を交わして二人の男はソコで、一旦サヨナラとばかりに別れた。
アクセルの街から離れた場所に位置するそのダンジョンはそこまで複雑な構造じゃあないらしく、包帯の男は迷うことなく外へ出る。
アクセルの街とは反対方向に歩を進め、日が完全に落ちかけた頃……山脈地点までさしかかった、その瞬間。
「……ん?」
タイミングを図ったかのように、陽に一点の影が差した。
“影” はだんだんと大きくなり、やがて包帯の男の視力でも、完全に捉え認識できるサイズと化す。
その影の正体とは―――――
「ヴォオオオオオオオォォォオオアアアアァア!!!」
なんと、モンスターの中でも最強と謳われる『ドラゴン』。
しかもレッサードラゴンの様な小型種ではなく、鎧の如き甲殻を持つ、最上級クラスの類だ。
男の手元には先の石剣と、腰に差した同色の刀の様な物しか無く、到底相手できるようには見えなかった。
恐らく国家賞金首であり、見境なく対象を踏み潰すデストロイヤーが居なくなったため、元々有していた古来よりの勢力圏を奪い返しに来たのだろう。
運が悪かったとしか言いようがない。
「……こりゃビックリかねぇ」
諦念か、ため息交じりに呟く包帯の男を余所目に。
「オオオオオオオオオオオォォォォォォオオォォ!!」
咆哮一声。
ドラゴンは邪魔者を排除すべく、ちっぽけな食事にありつくべく、そのアギトを開いた。
―――後日とある場所の、とあるダンジョンの、とある地で。
頭から真っ二つになった、哀れなエンシェントドラゴンの遺骸が見つかり、勇者ミツルギの功績とされたが……真相は定かではない。
そしてとある村人が、ダンジョン近くの小山の