素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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ニ章の冒頭と同様、アクセルの街とは違う《とある場所》での語りから入ります。
家族の誕生を待ちわびている少女。
何処か、暗い雰囲気を持つ女性。
彼女等の話が前半の中心です。

またこの三章から、オリジナル設定の詳細がドンドン明かされていく予定です。



では、第三章『僅かにさす“影”』、始まります!



第三章『僅かにさす“影”』
国家転覆……?


 

 空は僅かに曇っている。

 雨が降るのか、これから晴れるのか……分かりずらいモノが広がっている。

 

「やった! やったやったぁ!」

 

 そして―――とある少女が。雨天の日に家屋の中で家族と語らっていた少女が、とても嬉しそうに跳ねまわっていた。

 何せ、待ち望んでいた兄弟がもうすぐ、生まれてくるのだから。

 

 弟らしいと分かった自分の兄弟の誕生に、ある雨の日の家屋の中で、楽しげに笑っていた灰色髪の少女は……。

 

「ニャハハッ、ニャハハハハハ♪」

 

 薄曇りの下、元気一杯に駆けていた。特徴的な笑い声を上げながら、くるくる回っていた。

 何時、『時』が来ても良い様にと母も病院で入院しており、父は気が早い事で既に3歳ごろからの遊び道具すら買って来てしまっていた。

 

「おっとうと! おっとうと!」

 

 だがソレも無理からぬこと。

 新たな命の誕生、新たなる家族を迎えると言う事。

 それは何処か気持ちを逸らせると同時に、人を穏やかで温かな気持ちにさせる。

 少なくとも少女と、少女の家族にとっては、そうだった。

 

 ―――もうすぐ、もうすぐだ。もうすぐ生まれて来てくれる―――

 誕生の時がいよいよ近づき、改めて“姉”になるという自覚の出てきた少女は……ふと、ある事を思いついていた。

 

『姉らしい事ぐらい、一つはした方が良いんじゃあないか?』

 

 一番重要な“姉らしい”という事が、どういう事か少女にはいまいち分からない。

 だから、彼女なりに……今日この日、実行へ移そうとしていた。

 

「行ったことないところに行ければ、私も立ぱな“おねーさん”だよね!」

 

 それは子供らしい、単純かつ明快な『行動』だ。しかし、同時に尤も実行しやすく分かりやすい行動でもあるだろう。

 だから彼女は……何時も行く遊び場を、少しばかり遠く越える。

 そして、街を見下ろせる小高い山の麓まで足を伸ばして来ていた。

 

「ココ! ココを上れれば……!」

 

 一見、其処まで険しくは無く、傾斜も緩やか。

 されど子どもと言う未熟な身からすれば、充分に“大冒険”の範疇であった。

 

「おっとと……」

 

 自分より背の高い草木をかき分け、何時もより色濃く見える大樹を仰ぎ、雲間から時折さす太陽の齎す木漏れ日に、思わず安堵をおぼえる。

 

「ウニィッ……!?」

 

 ギィーッ……と響いた鳥の声にビクッとし、また風が揺らした茂みに警戒し。

 

「っ……ハァー……ビックリ……!」

 

 ―――子供“だからこそ”の冒険を繰り広げる少女。

 

 そして、どれぐらい登っただろうか。どれぐらい、時が経ったであろうか。

 もう少しあと少しで、頂上が見える……そこまで辿り着いた……。

 

 

 

「んぅ?」

 

 まさに、その時だった。

 不意に少女は、何故か唐突に別の方向へ顔を向けた。見えぬ何かに感づいたかのように、釣られるように顔を山の頂から背けた。

 

「……気のせい……」

 

「―――」

 

「じゃ、ないみたい……」

 

 それは何者かの声、或いは鳴き声。

 人かどうかは判別できないが、少なくとも今まで響いていた生き物たちのモノとは違うと、少女は確かに認識している。

 

 普通なら怖がってしまい、さっさと頂上に歩いてゆくか、下まで慌てて降りて行ってしまうだろう。

 ……が、この少女の対応は、普通とは違うモノだった。

 

「……ちょっとだけ……ちょっとだけ、だから」

 

 そ~っとした足取りで向かう場所を変えた少女は、先まで歩いていた道よりも(うっ)(そう)とした脇道へそれ、その奥へズンズン進んでいく。

 時折聞こえる“声”を頼りに、若干迷いを生じさせながらも、歩みを止めない。

 

「はぁ……はぁ……っ……」

 

 疲れてきたのか息を荒げ、やっとの思いで辿り着いた“声”の発生源であろう場所。

 そこには―――驚くべき《モノ》が横たわっていた。

 

ウ、ウゥ……

「赤ちゃん!? い、いや、子供……私よりちっちゃい……!」

 

 何とそこにあった……否、()()()は、齢2才に届くか届かないかの、非常に幼い子供だったのだから。

 どこか不思議な雰囲気を漂わせては要るものの……見た目は、至って普通の黒髪の幼児である。

 

「捨てられたの……?」

 

 《捨て子》

 その言葉と意味自体は、流石に少女も知っていた。

 知っていたからこそ、実際にその捨て子が目の前で横たわっている光景が、とても信じられない様子だ。

 見た所、捨てられてからそう日は経ってないらしく、表情は寂しげだが血色自体は良い。

 

「……大丈夫、かな……ほっとけないよね……」

 

 ほんの一瞬だけ迷った少女は、しかし良心が許さずその子供を抱き上げる。

 弟が生まれるとのことで、小さい子供の抱き方を学んでいたが故に、頭をきちんと支えながら。

 

「ウゥ……ゥ?」

「だいじょうぶ! ちゃんとおうちに連れてく、守ってあげるからね」

「ウ……キャッ、キャッ」

「えへへ……♪」

 

 抱きかかえられた幼児はとても嬉しそうに笑い、少女もつられて笑顔になる。

 やっぱりこれから生まれて来る弟みたく、幼げな子供にはある種の“力”があるのだと、少女は子供ながらにそう感じ取っていた。

 

「えっと…………うん、帰れる。草がつぶれてるから、なんとかなるね」

 

 少女は幼児を気にしつつ呟きながら、もう一度頂上を目指すかどうか迷いながら、遅々とした足取りで進み始めた。

 

 

 ―――思えば、この少女はとてつもなく幸運だったと言えるだろう。

 

 

「ん?」

 

 なにせ、元の道に戻り、少しだけ誘惑に負けて山を登って。不意に……空を見た時。

 

「なんだろ……アレ……?」

 

 少女の住む街の上空に現れた、“アレ”と称した『六角形の物体』。

 それに、何の兆候も無く罅が入り……。

 

「あ――――」

 

 『六角形』から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()くれたのだから。

 

 そして、少女が目覚めた頃には、胸元に抱いた幼児の泣く声だけが聞こえ―――他に何も音が無く、焼ける様な不快な臭いが鼻をついていて……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は僅かに曇っている。戦塵が日を遮り暗くなった天の下……荒野の上で。

 

「おおおおぉ!」

「はああぁっ!」

 

 黒い道着を着た者達と、蒼い道着を来た戦士達。彼らが戦場を覆い激突している。

 その様相は現代の戦争とも、古代の戦争や近代の戦争のどれとも違う。

 

 普通の槍を持った者が居るかと思えば、無駄に大きい拳銃を持った者が居る。

 剣を持った者が吠えたかと思えば、ブーメランを冷静に振う者が佇む。

 果ては武器ですらない、“巨大な扇子”を携える者すら見えた。

 

「せぇえええぇッ!」

「ッ―――アァァ!!」

 

 どうも変わり種を持っている者は少数で、兵士長・部隊長の様な役割を持っている様子。

 故にか殆どの者が、槍を持ち銃を構え、剣を振りかざしている。

 それでも例えぶつかり合う場所が違えども、古代と現代がごちゃ混ぜになった、異次元の戦闘―――いや『戦争』である事に変わりは無い。

 

 そして中でも一際異彩を放っている『翠の閃光』があった。

 

「…………ッ!」

 

 中心に居るのは同色の太刀を構えた、軍服姿の灰髪の女だ。

 

「ぐはっ!」

「うがぁ?!」

 

 右の兵士を切り捨て、振り抜きざまに生じる衝撃波により、背後の兵士数人を弾き飛ばし。

 左の兵士を肘での打撃で宙に飛ばし後続の者に巻き込ませて。

 斜め後方の兵士を、後ろ(ソバ)蹴り(ット)で“圧し折る”荒技を見せる。

 

 それは瞬きする間の『ほんのわずか』で行われた事。見えていた者はいれども、一兵卒には軌跡すら捉えられなかったであろう。

 

「いまだ!! 突撃!」

「兵士長が作った亀裂に跳びこめぇッ!!」

「「「オオオオオォ!!」」」

 

 元よりこの戦は双方共に総力戦のつもりなのか、兵士達は迷わず突攻を行った。

 ……見れば女性の味方らしき黒道着の兵士達より、蒼道着の兵士達の方が少ない。

 戦力自体にも決定的差がある様で、女の圧倒から数分経たず及び腰となっている。

 

 彼女が率いているらしい部隊は他よりも数が多く、更に彼等が中央に割り込んだ事で、必然左右に分かれていた他部隊と挟み打ちする形になっていた。

 

「まだだ、一気に攻めろ!!」

『おぉっ!』

「うん……今日も気合入ってるね」

 

 更に少数部隊と大数部隊に分け、少数の部隊がより前線へと突き進んでいく。

 女性の一声を受けて兵士は勢いづき……副官らしき背の低い女性が関心の声を洩らす。

 まさに圧倒的以外の何モノでもない。

 敵戦力を押して、押して、女性達は複数の舞台と共に、遂に敵の城砦らしき建物の前まで辿り着いた。

 

 しかし、事は上手く運んだまま終わってくれない。

 

「撃てぇーっ!」

「……止まれ!!」

 

 僅かに聞こえた声を頼りに、女性が鋭い声を上げて舞台を制止させる。

 ソレとほぼ同時に、敵の城砦より顔を覗かせる、黒々とした砲門より轟音が響いた。

 視界覆うと錯覚するほど、砲炎より煌々といずる光の中。

 

 

「ッ! ァ―――アアァ!!」

 

 ―――翠色の刀を携えた女性の雄叫びが、それらを纏めて右から左へ切り裂く。

 

 まず、迫っていた砲弾が物の見事に『空中で』両断され、虚しく汚い花火と化した。

 更に刃の勢いが一瞬だけ完全に停止し、右方から左方へ弾かれた様に振り切られる。それはあまりの離れ業に立ち止まる、敵兵達へと牙を向いた。

 

 ただの一太刀で十数人を上下二つに斬り飛ばす。

 降り注ぐ血しぶきは返す刀の一閃にて散らし、切り捨てられた敵兵士達は断末魔すら上げられず、物言わん躯と化す。

 

「まだ……!」

 

 まだだ、それだけで終われない。

 飛び散った臓物を水音を上げて踏み潰しながら、女性は更に突貫する。……瞳に『何かへの怒り』を宿して。

 

「――――!」

(声が……何かの命令? ……合図を出ししている?)

 

 しかしそれは唐突に、冷静になった事でふと止まった。

 相手も相手で、回り込んできたらしき別動隊の用意した大砲を見たか。

 また馬鹿正直に砲撃を撃つ事はせず、既に用意していたのであろう『もう一つ』の策を実行してきた。

 

 それは果たして。

 

 

―――ァァアアアァァァアアアアアアアアアア!〕」

「ッ!!」

 

 ―――()()()()()()()から、熱気を伴い焼けた砂礫を飛び散らせ、青系統である『納戸色』をした光源がまず顔を出す。

 

「! ハァッ!!」

 

 女性が納戸色の光源塊を弾き飛ばせば、激突した城砦が三分の一、豪快に砕かれる。

 そして……生じた砂煙や石瓦礫すら吹き飛ばすほど咆哮しながら、本体が飛び出してきた。

 

「〔ハアアァアアァァー……!〕」

 

 “それ”は頭は鼻から上が『槍状の物体』で支配されており、下の牙見える口もイヤに目立ち。

 重機のボディをそのまま人型にし、バイクの排気管を取り付けた様な、余りに歪な体を持ち。

 背中に、喰い込ませるようにして付けられた『あからさまな角形の大筒』が更に目を引く。

 

「あれ、は……っ!」

「う、嘘だろ……!?」

 

 ――まるで生物と機械の間のような、正しく “兵器” と言える化物であった。

 同時に城砦上の敵兵達が躊躇もせずに撤退していくではないか。

 

「ね、ねえ! まさかこれって、中級クラスの!」

「ええ……偽器兵。(コー)(ドネ)(ーム)は確か、ボーガス・『突穿湖畔(スターグヌム)』」

 

 機械生物・『偽器兵』の登場に、先まで戦勝確実ムードだった兵士達も……皆一様に気を引き締めてゆく。

 ソレもその筈。

 女性達の世界では、この偽器兵は身近でありながら、且つ恐るべき存在としても教えられているからだ。

 

 そのパワーが生む破壊力は下手な兵器群より断然上で、頑強さも比較する事すらおこがましい。

 個々が持つ特殊な能力も、厄介さを上乗せ倍増ししてくる。

 比較的小食であり人を好んで襲う事こそ無いが―――宛ら害虫や害獣を相手にした人間の如く、邪魔と見れば容赦なく殺しに掛ってくるのだ。

 

「〔バァアァァァァァァアアアア!!〕」

 

 今の様に。

 

「くっ!」

 

 背中の(ブース)(ター)から火を吹くや否や、灰色髪の女性を無視して部下達の方へ突貫していく。

 

「させる……か!!」

 

 眼にもとまらぬ……比喩ではなく、文字通りの神速で振われた剣は『翠色の衝撃波』を生みだして、壁となり(スタ)(ーグ)(ヌム)を弾き飛ばす。

 

「〔ッギィ……―――アアアアァァァァァァ!!〕」

「フゥー……ッ!」

 

 ソレで偽器兵注意は完全に女性の方へ向き、蒸気を噴き上げながら怒りの咆哮を叩き付けてきた。

 されど女性もまた、その(アメ)()(スト)の様な瞳に、同色の鋭き火焔を宿らせる。

 

「多分、コイツをけし掛けたから奴等は逃げたんだと思う! もしくは檻が壊れたからかもしれないけど……でも、さっき通信が入った!」

 

 背の低い女性が、進んできた方角とは逆の方角を指差し。

 背後の兵士達を遠ざけながら、また茜色のレイピアを抜きながら、偽器兵の出すスチーム音に負けないよう叫ぶ。

 

「こっちの本戦用の『第1隊』とは逆に、反対側に待機してくれてる『第2隊』が居るから、あっちは心配ないわ!」

「……そう」

 

 ならばもう気にかける事は一つしか無い。少なくとも、女性にとってはそうだった。

 

「仲間を守る……人を()()る……私はもう非力じゃない」

 

 暗示のように、或いは思い出すかのように、

 

「“防ぐ”とは……(てき)を滅する事……ただ、それ一つ……」

 

 女性は静かに、けれども力強くそう呟き―――

 

「〔バアァアァァアァ……―――ァァァァアアアアアア!!〕

「ッ! ……【重圧の―――」

 

 刀を真っすぐに構え、『翠色の弾丸』と化して駆け出し、突き出した。

 左拳を引き絞ると同時に、空をふるわせ響く、大砲の如き重低音を携えて……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『意味が分からない』

 

 今のレシェイアの心境を表すなら、正にそれが的確だろう。

 

「こ、国家転覆? カズマが?」

「……おう。何でか知らない……というか、知ってはいるというか……」

 

 思わず訊き返したレシェイアだが、やはり外れでも聞き間違いでもないらしく、多少の違和感こそあれど返ってきた答えは “肯定”だった。

 茫然。いや、もはや『ボーゼン』という言葉が似合おう程の様相で、レシェイアは絶句してしまっている。

 

 表情と連動し、頭の中にも疑問しか浮かんでこない。

 何でこうなったのか、レシェイアは戸惑うばかりで、他のアクションが取れない有り様だ。

 

 ……が、無理もなかろう。

 

(何も変な事、してないよ……ね?)

 

 彼女は―――クエストを受けて隣町まで行くつもりだった。

 馬車の停留所でクリスと出会い、中で少し話をして、同じ宿に泊まった。

 

 次の日。一先ずクエストを終わらせた。

 中央広場で、チンピラ風の男と、奇妙なソードマスターの諍いが在ったと知った。

 情報を集めて、神器と誘拐事件の関連を見つけ出した。

 

 森に向かった先で紅魔族の少女・ゆんゆんと出会った。

 犯人である悪魔『ビッター』が現れ、ゆんゆんと共に戦った。

 お膳立てこそしたものの、ゆんゆんが悪魔を倒す事に成功した。

 

 自分が手配役をやるとギルドまで直行し、邪魔だから待っているようにと言われた。

 洞窟内部でも事が終わっていたらしく、神器も回収でき、事件は漸く終息を見た。

 

 

 そして……アクセルの街に帰ってきて、カズマを探しているのが “今” だ。

 

(うん。何もしてない)

 

 出来事全てを並べても、レシェイアになんら落ち度は無い。

 

 かと言って、カズマ自身の非だって思い付かない。

 いくら『パンツ脱がせ魔』だの、『ぬるぬる強制ゲス野郎』だの、『鬼畜の~』だの呼ばれている彼でも、最低の一線は守っていたし。

 領主に対して『何で修繕費を全て払わんやならんのだ』的なグチは言っていたが、国に対しての不満は無かった筈だ。

 ……国を崩すほどの大それた才能と力、度胸を持った人物にも思えない。

 

(じゃあ、アクア達? ……でも……でも、なぁ……)

 

 いや、ソレも無い。

 レシェイアは多少の惑いこそ見せたが……最後はそう断じた。

 

 まずダクネスはあり得ない。

 彼女は冒険者という職業的に見れば欠点だらけだが、一般論の観点から見れば常識はある人間だ。

 何より極論を言ってしまえば『ただのマゾ』なのだから、仲間の命すら冗談抜きにで脅かされる犯罪はしないと言えよう。

 

 次のめぐみんだが、これもあり得ない。

 『ベルディアの元・居城では満足できないので、もっと大きな城を爆裂したい』

 と言いだすかもしれないのは否定できないが、その前にカズマが()(ティ)(ール)で止めるだろう。

 ……何より、それならばめぐみんが真っ先に罰せられる筈だ。

 

 最後にアクアだが……彼女ですら、ギリギリあり得ないと言える。

 いくら女神がー女神だーと嘯く彼女でも、流石に国規模の犯罪に手を染める事はしない―――否、出来ない。

 ツケがどうこうで済まなくなるのは自明の理で、ソコまで来るとカズマに押し付けるのはもう無理だ。

 それにアクシズ教のお馬鹿集団の行動に鑑みれば、やはり其処まで大それたことは出来ないと見た方が良い。

 

(なら、なんで国家転覆罪になんか……?) 

「……レシェイア、ちょっと良いか?」

「―――んぅ?」

 

 珍しく外見に、第三者にも分かるぐらい感情を出してまで悩むレシェイアに。

 冒険者の男が言い辛そうにしながらも、ちゃんと答えを教えてきてくれた。

 

「何で捕まえられたかを語るには、まずこの街にデストロイヤーが来た! ってところから話さなきゃならないんだが……」

「デストロイヤーが? マジ?」

「おう。マジもマジの、大マジだぜ」

 

 いいか? とそう前置きをし、男は語り出す。

 

 曰く―――予測していた軌道を僅かに変えて、機動要塞・デストロイヤーはアクセルの街に向かっていたらしい。

 

 当然街の人々は逃げだし、冒険者達も逃げる支度を進める中……勇敢にも、立ち上がる冒険者達が居たとのだとか。

 ソレも大勢の、屈強なモノから色白な者まで、数多の男性達が。

 彼等に感化され、また『街を守るのだ!』と声高に叫んでいたダクネスに先導され、ギルドに皆が集まったという

 

 されど、相手は国家賞金首になる程の大物。

 落とし穴は驚異の跳躍力でかわされ、また落してもすぐに跳び上がってきてしまう。

 罠などは勿論不可。丈夫な体で耐えきられ、巨体に似合わぬ機動力で避けられるのがオチ。

 かといってウィザード・アークウィザードを総動員しようにも、周りの対魔法結界が邪魔。

 内部に乗り込むのは、その早馬並の速度が故に無理。弾き飛ばされるか、踏み潰されるのが関の山だ。

 ガーゴイルの所為で空からだって不可能。

 オマケに向こうだって大砲などで攻撃してくるという理不尽さ。

 

 この事態に中心となって立ち上がったのは……意外や意外、ダクネスの所為で逃げられなかったのだろうカズマ達。

 作戦は、まずアークプリーストのアクアが結界を破り、めぐみんとウィズが『エクスプロージョン』で迎撃し、乗りこんで中から止めるというモノ。

 力付くにも近かったがこれ以外に手も無く、まずは魔法で脚を砕いて動きを止め。

 ガーゴイルと闘いながら、中に乗り込み。

 エネルギー源であり爆発寸前でもある《コロナタイト》をウィズの『ランダムテレポート』で世界の何処かへ移し。

 

 最後は放出できなかった熱の所為で破裂寸前のデストロイヤーを、男性曰く“何らかの手段”で魔力をチャージしためぐみんのフルパワー『エクスプロージョン』で完膚なきまでに破壊して……街に平和が訪れたのだ。

 

 

 

「それだけ?」

「おう」

 

 話を聞き終えたレシェイアがまずしたアクションは、先までと変わらぬ『戸惑い』だった。

 

「……? それだけなら~……え? 何れカズマが国家転覆罪?」

 

 実に尤もな疑問を抱くレシェイアへ、男性が難しい顔で一拍置き―――告げた。

 

「テレポート先がな? よりにもよって《アクセルの街の領主の屋敷》だったんだよ。マナタイトの爆発で瓦礫の山になったんだと」

「!」

 

 驚くレシェイアへ、男性は更に続ける。

 

「ウィズさんのテレポート先がどれも人の住む場所しか無かったから、手段が他に無かったのも事実だし……ここに来た王国検察官が言うには、死者はゼロなんだと。

 何より事態が事態だ……なのにこのありさまとこの扱い。だから、みんな正直困惑しててな」

 

 ソコで話は終わりだとばかりに、男性は口を噤む。

 ありがとう、とレシェイアは一先ずお礼を言い、そのテーブルから去った。

 

 

 その後。

 飲む気にもなれなかったのか、取りあえずレシェイアはギルドから出て、人の居ない路地に入る。

 心なしか、震えている様にも見える。

 

「……」

 

 俯いたまま、何も言わない。

 そんな彼女の胸中に、表情に、抑えきれないと浮かんできたのは―――

 

……ふざけるな……っ!

 

 純粋な『怒り』だった。

 

 普段の彼女ならしない様な、怒り任せの一撃を壁を叩き付け、その衝撃で軽くヒビを入れている。

 空気すら、破裂音で揺るがされる。

 

「どう考えたって、カズマが咎められるような事じゃない……間違っても、罪に問われる事じゃないのに……なのに!!」

 

 デストロイヤーを倒さなければ、この街は滅んでいただろう。

 避難しきれていない人達は、無残にも踏み潰されていたかもしれない。

 

 領主だって運良く死ななかった、屋敷が壊れただけで済んだのだから。

 そして『ランダムテレポート』を許可なく無断で使う事は犯罪らしいが、それだって状況が状況だけに、罪はより軽くなるか、特別お咎め無しに事になる筈。

 

 何より彼等は、今後起こるかもしれない災害を未然に防ぎ、過去の負の遺産と呼ばれるデストロイヤーを降したのだ。

 褒められこそすれ、憤怒抱かれる要素は何処にも無い。

 

 

 なのに―――

 

「……怒っている場合じゃ、無いよね……」

 

 もっと詳しく調べよう。今の自分は、情報が足りない。

 

 一旦怒りを収めたレシェイアは、震える拳を収めつつ……路地を後にするのだった。

 

 

 この世界で出会った、大事な友達(カズマ)を救う為に。

 

 




次回から、レシェイアが詳しく、国家転覆罪についてツッコミを入れる予定です。

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