しかも起承転結の『結』なのに、それなりに長いというありさま。
……すっきり終わらない……。
―――では、第二章最終話となる、本編をどうぞ!
雷鳴とどろいた後の森へ、不気味と感じてしまうほどの静寂が訪れていた。
頬を撫でてゆく穏やかな風が……唯一癒しと言うべきだろうか。
アレだけ濃かった霧も、その風が攫う様にして段々と、少しずつだが晴れて行く。
「はぁはぁ……ふぅ……」
最後の『カースド・ライトニング』に全魔力・生命力すら使わんばかりにを注ぎ込んだゆんゆんは、先までビッターが存在していた黒く焼け焦げた地面の上で、息を切らしてへたり込んでいた。
立てないほどではない様子だが……先までの動きは無理だろうことは明白だ。
中級魔法の行使すら怪しいのもまた言うまでもない。
ビッターがどれほどの悪魔かは分からない。
だが
流石にすぐ復活する事は無いだろう。
さて、一方のレシェイアはと言うと……
「おっつかれ~♪ 無理せずちゃんと休めば良いよ、うん!」
ゆんゆん以上に動きまわり、神経を削る様な音の聞き分けを行い、しかも正面から受け止め続けていたにもかかわらず―――酒を飲み飲み呆れるほどの能天気さでケラケラ笑っていた。
汗はかいているし泥だらけ、呼吸も通常とはリズムが違うが、座り込むぐらいの重い疲れなど感じさせない。
先程顔を出した、ある種の剣呑さなど欠片も見られない。
(な、何だかよくわからない内に終わっちゃった……?)
背中に盾を構えて行った『
バリアはいきなり発動されて、いきなり足元が持ちあがり、空中へ打ち上げられた。
その所為なのか……ゆんゆんはいまいち、状況を把握しきれていない節がある様子。
最後に一撃もほぼがむしゃらに、半ば無意識で行ったものだろう。
(でも、防御技術や個人の堅さは凄かったわ……この人、一体何者なの……?)
されど何も情報が無いかといえば、違う。
見立てでの実力だけをを踏まえても、職業ですら本当に
まあ冒険者とは言っていれど、他に当てはまる職が無いからそうアテを付けているだけなのだが……しかし仮に違うとして、それならそれで疑問ばかり。
運動量の問題や、魔力は感じられないのもあり、ウィザード系はあり得ない。
神聖属性などかけらも見られないため、クルセイダーも除外。
ソードマスター、もしくはアークプリースト―――否、そもそも戦い方が違う。
盗賊ならもっと補助スキルを使っただろう。使わないで良い場面が無かったのだから。
装備のランク、感じられる力の質、どれをとっても……やはり、最弱職以外あり得ないのだ。
(でも、何だか初めてじゃない様な……う~ん……)
答えが出ず、ヒントも無いが故に悩むゆんゆん。
もし今レシェイアの、受付嬢・ルナも声を上げた謎ステータスや、本人しか知りえない余りに
それとも、受け入れきれずにひっくり返るのか。
(聞いても、大丈夫なのかな……)
ゆんゆんがそんな葛藤をしている間にも、レシェイアは先まで飲めなかった憂さ晴らしのつもりか、ニャハハと笑いつつ呑気に酒を飲み続ける。
今もまた、麦の香りが強い酒を一気に飲み干して、若草色の入れ物を取り出す。
そのチョコレートの様な香り漂う酒を飲み干せば、次! とばかりに端っこに置いていたらしき荷物の中から赤いリキュールの瓶を取り出した。
空気を読まない酒盛りは、ピリオドすら見えない。
「はぁ~美味しいは良い事らぁねぇ~……ニヒヒ……ウィッ、ニャハハハ!」
その空気が邪魔をするだけでなく……戦闘が終わり高揚した気持ちが収まった所為で、ゆんゆんの何時もの悪癖が顔を出してしまい、上手く声を掛けられなくなっていた。
でも、と意を決して出した声は―――
「あ、あの……す、すみませ……ん……」
……声と呼んでいいのか疑問に思う位、余りに小さかった。
空気を震わせているのかも怪しいぐらいだ。
当然ながら、レシェイアはゆんゆんの方へ顔すら向けやしない。
ゆんゆんは更に覚悟を決め、彼女なりに大きく息を吸って…………
「あ、そーら。ゆんゆん」
「ふひょぉっ!? アゴハ、ゴハァ、……ゲホッ!? ゲホゲゴゲホォ!!」
「ゆんゆん?」
直前で声を掛けられ、世にもコミカルな咳を連発する羽目になった。
何とかソレが収まってから、ゆんゆんはまだ軽く咳の出る喉を押さえ、胸に手を当てて呼吸を落ちつかせながら顔を上げた。
「あの……えぇっと……何か、ご用ですか?」
「うん。今日の事」
「? ……きょ、今日の、事?」
一瞬、掛けられた言葉の意味が分からず、ゆんゆんは小首を傾げてしまう。
レシェイアもレシェイアで、流石に主語が足りないと思ったのか付け加えて来る。
「今日のアラシの闘いの事とか、あんま
その一言はゆんゆんにとって、それほど予想外なモノではなかった。
レシェイアは見た目19~20代前半ほどの年齢だが、若い事と名を知られる事は別に乖離していない。寧ろ彼女の奇特さを顧みれば、今まで目立った活躍すら聞いた事も無いのが、ゆんゆんにとって不思議だった。
そうなると、『彼女個人で隠したい理由がある』 と見るのが一般的だろう。
だからゆんゆんも、今日の事を秘匿して欲しいと言い出す事を、予想自体はしていた。
(けど、私も詳しく解ってる訳じゃ……まだフラフラしてて、何が何だか……)
尤も、ソレを聞けるほどの度胸を持ち合わせてはいないし、唐突をコレでもかと重ねられた挙句、理解不能な事が次々起きた所為で、半ば理解できていないから曖昧にしか話す事が無い。
―――と言うのがゆんゆんとっては本当の所だ。
仮に彼女からその“理由”を聞いたとしても、早々納得できるものじゃあ無いだろうが。
(そもそも……喋ろうにもめぐみんとか、ゾルギオさん以外親しい人いないし……)
“ほろり”と来るような、悲しい事を考えながら。
それでもゆんゆんは返事を待つレシェイアへ、今度こそしっかり答えて見せた。
「わ、分かりました……喋りません」
「ありがと! ……あ。秘密を共有したってことは、これで友達かもれ? ニャハハハハ!」
恐らく、レシェイアとしては冗談と言うか、半分ほどは酒の勢いの茶化しで言った事だろう。
(とっ……ととと、ともだちっ……!?)
が、此処にいる少女を舐めてはいけない。
何せこの紅魔族の少女・ゆんゆんの『友達』への固執度合いは、めぐみんの爆裂魔法スキーにも匹敵するからだ。
(友達なら、友達なら……友達なら失望させちゃ駄目っ!)
落ち込み気味だった視線をやっと元に戻すと同時、ゆんゆんは力強く拳を握る。
「ま、任せてくださいっ。ちゃんと秘密にしますから……!」
「へ? あ、うん」
眼を赤く爛々と輝かせ、物理的にはそのままでも眼力的には押し気味にぐいぐい来るゆんゆん。
頼んだ側である筈のレシェイアが若干後ずさる迫力だったが―――ゆんゆんにとって、気が付かない方が吉だろう。
やがて……。
話は終わりだと、抱いた感情を押し消すように酒を飲み干したレシェイアは、まだ手を握ったり開いたりして決意を『新たにしまくっている』ゆんゆんへ向け、手を振り振り声をかけた。
「じゃ、アタヒは一旦街に戻ってギルドに連絡するれ? 多分、ビックリひてると思うから~うん」
「あ。そっか、霧が晴れて……」
ビッター、そして奥にいたであろうもう一人の悪魔も退治された影響か、アレだけ消える気配を見せなかった濃霧が今では靄の一筋すら見当たらない。
中規模程度の森なこともあり、木立ちの間から街がうっすらと見えるぐらいに視界が回復しているのだから、街では今頃大騒ぎの筈だ。
「じゃ! 中の人達によろひくねぇ~♪」
言いながら……何だかちょっと逃げる様にして、諸手を上げて走るという正直、スピードが落ちるだけで何の意味の無い体勢のまま、テッテッテーとコミカルな動作で去って行ってしまうレシェイア。
そんなどう見ても可笑しな彼女を見送って―――漸く、ゆんゆんがハッ! と気付く。
「何時の間にか、私が洞窟に行くことになってる……」
好き勝手に決められた事で、ちょっと茫然となるゆんゆん。
……まあ、この状況だ。
ギルドの人間なら森から来た時点で、酔っ払いだろうがなんだろうが、まず話を聞いてから森に向かう筈。
洞窟内の人間達にしたって、いきなり現れるのが酔っ払いでは、信じる・信じないの観点でその後の対応に困るだろう。
その点エリート種族と言われる《紅魔族》のゆんゆんなら、それだけで一定の信用を持って貰える。
洞窟の中にモンスターが居たとしても、雪の森を行くのと比べればそう差が無いし、見た限り内部には明りすら灯っている。
「なら、行った方がよさそうね……友達の為だから……よしっ!」
幾分か理解しがたい理由こそ混じっていたものの、どうにか納得はした様子。
先の言葉を、自分に言い聞かせてから立ち上がり、ゆんゆんは洞窟の中へと足を進めて行った。
やはり―――とでも言うべきか。
洞窟の中は外よりも暖かい。
また、雪明り以外が見えぬ夜とは比べるべくも無く、明るい。
モンスターの気配は、今の所しない。
「部屋が一杯ある……ゴミも幾つかあるけど……ここで、生活してたの?」
元ある自然を利用し、手を加えてある中途半端な洞だからか、生活の跡が余計に違和感を残す。
目当てで無ければ見逃してしまいそうな、各部屋の詳細をのんびりと眼に映しつつ、ゆんゆんはさらに奥へと進んだ。
そして、配置的には一番奥とも言える、最奥部の広い石室に辿り着く。
奥を覗きこんでみると……高い者と低い者、2つばかりの人影が見える。
「誰かいるの……?」
念のために杖を構えた戦闘態勢のまま、そ~っと石室を覗きこんでみる。
そしてその姿を眼にする前に、大石室から二人のやり取りが聞こえてきた―――
「よかったよかった魔法陣も消えたしすっきり! 良い事した後って気分が良いね! あんな奴らなんて腐ったゴミクズは、塵も残さず消えるのが定め……いーや寧ろ“務め”なんだよ! あ~、これで空気がもっと澄んでればなぁ~っ。あんな害悪そのものな奴が居たから空気だって汚染されき―――」
「ウッゼぇんだよ! さっきから何度も何度も何度も何度も!! 何回繰り返しゃあ気が済みやがるんだテメェは! ア゛ァ!?」
「みみみみぃ耳元で叫ばないで耳が鼓膜がぁあぁぁー!?」
―――耳をついた、ネチネチとした呟きと、怒りをぶち込んだ絶叫。
なんとまあ……何だか物騒なやり取りではあるものの、しかしそれに反してゆんゆんの顔は何故か明るい。
(この声は! 間違い無いわ……!)
厳密には、女の者の後に響いた男の声に反応し、ゆんゆんは先までの迷いを捨てて石室に足を踏み入れた。
そこに佇む人を見て、ゆんゆんは、心底安堵した顔になった。
「やっぱり! ここに居たんですね!!」
「ア゛?」
「ひぃっ……!?」
……直後に睨まれ、引き攣った顔になった。
しかしそれも、数瞬の事。
「……って、ゆんゆんじゃねぇか、無事だったかよ」
「は、はい! 何とか……」
これまたすぐに、ゆんゆんの顔へある種の安心感が宿る。
なぜなら石室に居た二人組の内一人、今し方睨んできた(ように見えた)ヘアバンドの“男”こそが、彼女のパーティメンバーである《ゾルギオ》その人だったからだ。
彼も……睨み付ける様な瞳こそ何時も通りではあるが、声には何処となく安堵の空気が含まれている。
表面にこそ出しはしないが、彼もまたゆんゆんを心配していたのだろう。
「悪かったな、今回ぁ俺のミスだ。少しボーッとしちまった所為で、クッソ面倒癖え事態になっちまってよぉ……」
「い、いえ。もう一人の冒険者の方も居ましたし、何とか切り抜けられました」
「あぁ。って事はやっぱり、そっちにも腐れ肉塊が居たの?」
唐突に声を掛けてきた銀髪の少女にゆんゆんは少しビクッとなる。
……が、何とか心を落ち着かせたら、今度は『腐れ肉塊』が何を指しているのかいまいち良くわからず、首を傾げてしまう。
それを目の前の少女は別の意味で取ったのか、
「ごめん、あたしの名前はクリスって言うんだ、さっきまでこの人……ゾルギオさんと一緒に闘っていたんだよ。腐れ肉塊の一角とね?」
突発的な自己紹介は終わったが、“腐れ肉塊”の正体は依然不明なまま。
『いい加減、普通に呼称しやがれや』とでも言いたげな憤怒を込めた視線を後方へ投げてから、歯軋りを交えつつ、ゾルギオが“腐れ肉塊”なる者の正体を口にした。
「悪魔だ。変な生きもんが居なかったかっつぅ事だ」
「悪魔の事だったんですね……悪魔なら、居ました。協力して何とか倒しましたけど」
「へぇ~、やっぱり紅魔族は凄いね!」
暗い紅色の瞳から瞬時に出自を割り出したクリスに褒められ、ボケッとしかけたゆんゆんはすぐに訂正しようと口を開く。
「え? い、いや私は寧ろサポート―――」
「私達がここに来たのが運のつきだね、あの忌々しい害悪共は」
「あ、あの、私じゃ無くて―――」
「紅魔族も居たなんて心底アンラッキーだよホント。調子に乗って現世に来るから見事に罰が当たったね!」
「私はその、違くt―――」
「そもそも悪感情の種類によっては存在そのものが許されないし。いやホント」
……全く話を聞いて貰えず、結果この戦闘は『ゆんゆんが大活躍して終わりました』的なモノに、勝手に落ち着いてしまった。
「あ、そう言えば……ねぇ君」
「は、はい!? ななななんでしょうかっ?」
「そこまで緊張し無くて良いってば。……あのさ、灰色の髪をした背の高い、お酒に酔った女の人見なかった?」
「み、見てます。一緒に闘いました」
「! ……へぇ」
ゆんゆんの話を聞いた、クリスの顔付きが少しだけ変わる。
紅魔族の活躍だけを信じていた、先までとは打って変わったモノ。
『もしかして……この子じゃなくて?』
そんな感じの、何かの糸口を掴んだ様な、手掛かりを見つけた様な顔だった。
「ねぇ、ゆんゆんさん……で良かったよね?」
「は、い……ちなみに、本名です」
「分かってるってば。それでさ、その女の人、とっても強くなかった?」
その問いに一瞬、ゆんゆんは正直の答えかけた。
だが『友達のため』という思いは強かったか、紅魔族の優れた頭脳が瞬時に『取り繕う』為の言葉を生み出してくる。
少々心苦しい事ではあれど、約束は守りたい。
「い、いえ……私も良く解らなかったと言いますか、出来ない事を支えて貰っただけで、他には別に何も……」
と、ゆんゆんは何度目かの意を決して『辛うじて嘘ではない』答えを返す。
実際分からない事が多いし、自分が出来ない “殆ど” をサポートして貰ったのだから、確かに嘘は言っていない。
……尤も、詳細を語ってくれと言われた所で、その詳細を掴めていないのだからどの道無理であろうが。
「……だよねー、うん…………行けると思ったんだけどなぁ、紅魔族が居たのは幸運で、同時に不運でもあったかぁ。第三者を挟んでも尻尾を掴ませないとはね……」
クリスが呟いた何事かは、声が小さ過ぎたためにゆんゆんには聞こえなかった。
「……で、だ」
話し終えた空気を見計らい、今度はゾルギオが二人に声をかけて来る。
「アイツ等冒険者だがよ、別に今後の戦闘行動自体に支障なんざねぇ。今すぐにでも剣握って飛びかかれるぐれぇだ」
「みたいだね、私も何人か調べてみたけど至って健康だったし……奴等の分際で人間を手ゴマ扱いして、“私のモノ”とかとか大それたこと言ってたから、弱かったり体調崩されると駄目だったんだろうね。コッチに寄生するばかりな害悪のクセに変な優しさ見せるなんてさぁ?」
「んなの、どうでも良いだろが……!」
ゾルギオも別に悪魔を庇いたい訳では無かろうが、クリスが悪魔を一々遠まわしにけなして話を長くする所為で、いい加減本気でキレそうになっている。
だからか、ゆんゆんは焦りの表情を浮かべてオロオロとしていたが、どうにか軌道修正できそうな言葉を吐き出した。
「あ、あの。その人はギルドに人を呼びに行くって言ってました。だから職員さん達や冒険者さん達と一緒に、もう少しで来るんじゃあないかと……」
「なら後は暫く見張ってるだけ、か。運ぶのを手伝いながら街へ帰れば、一石二鳥だね」
「……ハ……やっとこさ終了かよ」
ゆんゆんから説明を聞いた二人が、それぞれの形で安心を表し、そのまま溜息を吐く。
中規模以下の森なので、洞窟への到達まで、それほど時間がかかる事も無いだろう。
悶着こそあり……漸く、戦闘後でまだまだ重かった場の空気が、少しだけ収まる。
同時に、クリスが別の話題を出してきた。
「あ、そう言えばゾルギオさん。ちょっと聞きたい事があるんだけどさ」
「……聞きたい事だぁ?」
ギロリ、と睨めつけられて、クリスは少しばかり息を詰まらせてしまう。
……だが本人的にはただ視線を傾けただけの様で、付き合いがそこそこ長いらしいゆんゆんもそれは察しているのか、先程と違い慌ててはいなかった。
相手の人相が悪い事もあり、何故だか無性にホッ……としたクリスは、改めて質問を切り出した。
「さっき、地面を抉るぐらいの拳を放ってたけど―――」
その瞬間。
まるで図ったかのように軽く石室が揺れ、魔法戦とゾルギオの拳に耐えきれなかったらしい屋根が崩れ―――。
「おぼほぉっ!」
「「「は?」」」
真上から人の様な『何か』がドズン! とバカでかい音を立て落ちてきた
「…………う~ん……」
三者三様の視線が落ちてきた“ソレ”へ集まり、続いて出てきた答えは……
「あん時の妙な剣士じゃねえか」
「あっ! ちょっと前に吹っ飛ばされてた、勘違い系ソードマスター!」
「前にパーティへ入るなって威嚇してきた、戦士と盗賊の女の子連れてた人……?」
かなりバラバラなれど、言葉が飛び出るタイミングだけは見事に一致していた。
しかも感想が違うだけで、その三つ共に当てはまる人物でもある様だ。
クリスの弁が一番分かりやすいだろう―――そう。ゾルギオに勘違いで喧嘩を吹っ掛けて来ていた、あの青鎧のソードマスターだったのだ。
残念ながら名前は不明だが。
……そして『全員もれなく名前を知らない』事態を三人とも思い浮かべてはおらず、話題はこの不思議な状況へ自然と傾いてゆく。
「……っんで上から落ちてきやがった? 俺が殴ったのがここまで飛んで来たっつうのか?」
「有り得無くも、無いかなぁ……ソードマスターで高レベルっぽいから、体は丈夫だろうし……」
「今の今までずっと気絶してたんですね……」
まあもう終わったのに今更ソードマスターが現れても困るだろうし―――ちょっとおマヌケな登場なのだから、微妙な空気が場を支配しても仕方がない。
寧ろこれに対して冷静に判断できたなら、持ち得る適応力が高過ぎである。
「取りあえず、ほ、本当に大丈夫か……様子を、見ませんか?」
「そだね。見たとこ外傷は無いけれど。……でもまあ、自業自得だしなぁ……」
クリスがそう言いながら、ゆんゆんと共にソードマスターの顔を覗きこむ。
「う、うぁ………………ハッ!?」
「「わ!?」」
図ったかのように、そのタイミングで彼が跳び起きた。
ガバァ! と効果音でも付きそうなぐらいオーバーなリアクションで起き上った所為で、傍にいた二人はひっくり返りかけてしまうものの、根性で何とか持ち直す。
「知らない天井……―――というか、岩の部屋?」
背中を触って剣があることを確認しつつ、ソードマスターの少年は起き上ってから……まず、傍にいたクリスとゆんゆんに声を掛けてきた。
「君達かい? 何だか知らないけど、倒れてた僕を助けてくれたのは」
「いやなんだか知らないけどって……」
何だかどころか『事の顛末まで全部知っている』クリスがそう呟きかけ、本当に覚えていないのか確認を取ろうとする…………が。
「どわぁ!?」
「へ!! ひ、ひゃいっ!?」
突然叫んでゆんゆんに素っ頓狂な声を出させたかと思えば、彼女の方を指差してまた眼を真ん円にし、口を魚見たくパクパクさせていた。
「さ、さ、さっきのチンピラ……!? まって、まってくれ、思いだせない……僕から先の襲いかかった記憶がある様な……で、でも、でもならなんで僕はここに……と、と言うか何で頬も首も背中も尋常じゃ無く痛いんだ……!?」
全然ついて行けないゆんゆんは茫然とし、クリスはなにやら顔に手を当て上を仰ぎみている。
どうやら思い切りぶん殴られた所為で記憶が飛んでいる様子。
そのうえ彼は気絶していたのだから、この支離滅裂さもある意味では仕方ないかもしれない。
それをどう説明するかでクリスは頭を悩ませているのだろうと推測され―――
「おーい! そこにいるのかぁー!?」
―――そうこうしている間にギルドの人達が来てしまう。
部屋を覗きに来たのは、まず最初がギルドの職員達。
そして次に、霧が一気に晴れたという、異常さ故にやはりというべきか……腕利きの冒険者達まで複数人いる。
皆が担架や荷台のついた手押し車の様な道具を持ち運び、部屋を驚きつつ見回していた。
「本当だ、本当に誘拐された者たちだ……! こんな所に居たのか!」
「魔法陣の跡みたいなのがあるな……」
「無事は無事みたいだ。衰弱も無い。よし、さっさと運び出すぞ!」
あちらこちらで驚愕が、安堵が、それらが含まれる似たような会話が交わされる。
中でも一番驚かれていたのが―――ソードマスターの少年に対してだった。
「ミツルギさんじゃないですか! まさか例の事件を解決したのは……流石! 流石です!」
「へっ?」
「そうだな! だがこれも当然……王都で彼は、ランキングトップ5を維持しているんだからな」
「それでも、誰も出来なかった事をやり遂げたんだ。やっぱり凄いぞ、魔剣の勇者は!」
「あ、え、あの、えっと、その」
戸惑うソードマスターの少年・ミツルギ。だが、それも当たり前の事。
なにせ自分はトンと身に覚えが無く、今さっき目覚めたばかりなのに、何時の間にやら“事件”解決の立役者になってしまっているのだから。
そして……どうもこれ以上ここにいると、ミツルギ経由で面倒事が回ってくるのを察したのか、クリスが白々しい態度で態とらしく呟き始めた。
「ほんとーにすごかったよねー。魔法をバンバン放つ悪魔が居たんだからー(棒)」
「え、えっと……私の方、は、とっても速い悪魔が居たんです、けれど」
「そーだよねー。二体も悪魔が居たんだよねー。とっても強かったなー、私見てたもんー(棒)」
「で、でもミツルギさん。最後は上から……」
「あぁそうだったよなぁー!? 上からズドンてやってたよなぁー!?(苛)」
見てたどころか盛大に関わっていたのだが、当然とばかりに部外者面でしらばっくれるクリス。
何故だかゾルギオも若干ながら便乗し……そんな発言がどう受け止められたか知らないが、ミツルギの元へ益々人が集まっていった。
嘘は言って無いのだから発言を顧みる必要も、あながち無い……かも、しれない。
人だかりから逃げる様に、クリス、ゆんゆん、ゾルギオの三名は、冒険者達の搬送を手伝いにスタコラサッサと駆け出していく。
……ゆんゆんだけはどうも“人集りが苦手だから”に見えるが、そんな個人の心根など知る由も無く、ミツルギはビックリ仰天な表情で彼らへ向けて手を伸ばした。
「ま、待ってくれ! このままだと僕、逃げるに逃げられないというか、この場を乗り切っても余計に逃げられないというか、この先もっと別の意味で苦労するというか! とと、兎に角待って……!」
「「「……」」」
必死の懇願を、ガッツリ無視。
コレでもかとばかりに、三人(というかゆんゆん以外の二人)はシカトを決める。
「君達のお陰なんだよね!? 僕はほとんど関係ないんだよね!?」
「いやー。手柄が手に入るから満足でしょー(棒)」
やっと答えたクリスの調子も、全然変わってはいない。
「いやこんな手柄なんか、どころか、普通に、良心の観点で嫌な…………そ、其処にチンピラの人! 謝るから弁解してくれ、僕はそんなに関わって無い―――」
何とかその台詞を絞り出すが……努力実らず、すぐに別の人に遮られた。
「またまた御冗談を! あんなチンピラな人が主役で、あなたが脇役な訳無いでしょう? なにせ魔剣の勇者なのだから!」
「ちょ、ちょちょっと待って……!」
「おい! こっちも手伝ってくれ!!」
「はーい」
「わ、わわ……わ、分かりまひ……ぁぅ……」
「……チッ」
又もや三者三様の反応を返しながら、しかし皆一所懸命に、優しくそして律義に、冒険者達を運んでいく。
途中で『い、いやだから僕は……』『自分の功績を誇らないとは、何と謙虚な!』等と言った声が聞こえてきたモノの、ゆんゆんもクリスも、ゾルギオも気に留める事無く作業を進めて行った。
「それにしても、ゾルギオさんやっぱり、力持ち……ですよね。やっぱり、その……ゴ、ゴッドハンドとかじゃないん、ですか?」
「ア゛? んなわきゃねぇって知ってんだろが。俺の職業は冒け―――チィ、まだ残ってやがるか。しゃぁねぇ、乗っけてやるかよ」
(ゾルギオさんが、ゴッドハンドじゃないって? というか、今“冒険者”って言いかけた? ……いやこんな仕事してる人達ひっくるめて冒険者だし、まぁ気の所為だよね。うん)
―――ちなみにレシェイアだが、“酔っ払いが現場に居ても邪魔なだけ” と言われ街で待機していたらしく、作業を終えてからクリスがその詳細を聞いていたのだとか。
確かに正論ではあるものの、森の方から酔っ払いが来たという、その奇妙さにこそ疑問を抱かなかったのだろうか……。
そんなこんなで、紆余曲折あり過ぎ、要らないイザコザこそ交えたものの―――どうにか、事件は終息を見る事となったのであった。
・
・
・
その後。
ギルドの者の話によれば―――何故か事件を解決したのは『ミツルギ キョウヤ』という名のソードマスターだ―――という事になっているらしい。
彼の口から犯人像が詳しく語られる事こそなかったものの、恐らく上級悪魔との激しい戦闘で記憶が飛び飛びなのだろう……と、そう判断されたのだとか。
冒険者達も経過を見てから、己々仕事に戻るつもりらしい。
捕えられていた際の記憶は無いそうで、争った事実も彼らには忘れ去られており、それが後で面倒事を生まなくなったから良いと捉えたか、それとも複雑に考え込んでしまう結果を生んだのかは、各個人次第だろう。
また、クリスにレシェイア、ゆんゆんにゾルギオも捜査に協力したからかきちんとお礼が渡され、冒険者達に頭をさげられていた。
がしかし。全員が全員色んな意味でその反応を良くは思わなかったせいで、またもや有耶無耶になってしまったのは……余談かも知れない。
結果、訳の分からない形で事件の手柄を横取りされてしまったが、目立ちたくないレシェイアからすればメッケモノであり、クリスも神器自体は手に入れられたし悪魔も滅せたので言う事は特になし。
レシェイアへ会いに行く途中で、まだクエスト関連の用事があるらしく分かれたゆんゆんとゾルギオも、別段文句自体がある訳ではないのか、さっさと去って行ってしまった。
尤も、クエスト関連で森にトンボ返りせねばならない為、其処に関してはゾルギオが愚痴を言っていたが。
森に来ていた理由はそのクエストなのだろうが……悪魔に邪魔されたのは、運が無かったとしか言いようがない。
(まあ何とかなった訳だけど……結局、レシェイアさんの実力は分からなかったなぁ……)
クリスは頭の中でそうぼやくと、大きく溜息を吐いた。
当初の目的であった神器が手に居られただけ良いかと、クリスは無理矢理自分を納得させて、
「……馬車、明日なんだってね」
「そー。遅過ぎたんらねぇ。事件にも巻き込まれるしツイて無いや。ないやぁ、いやあ~、あやいやいやぁ~♪」
「なに奇妙なモノ歌ってるのさ」
他愛ない会話を交わしながら、昨日も止まった宿屋の一室で顔を突き合わせる二人。
先にクリスが言った様に……事件の方は何とかなったものの、その悪魔たちの所為で馬車にギリギリ遅れる事となってしまい、またクリス馴染の宿屋に泊る事となった。
もう両者ともに用事は終わったし、一日待つぐらい苦でもないので、仕方ないからと宿屋の店主に訳を話してまた宿泊している。
しかし昨夜とは違い、クリスはレシェイアへ詰問をする事無く……静かに、じっとその背中を眺めているのみ。
が、無駄だと悟った訳では、別にないらしい。
証拠に今でも何処となくソワソワしているが、聞く・聞かないの一線だけは踏み越えないよう、ボーっとする事で留まっている様だ。
「OK、マイウェ~イ、はんにゃらほーいほい、うほぉい♪」
相変わらず支離滅裂でマヌケな唄を歌う
クリスの思考は自然と、今日の事件の方へ傾いて行く。
思えば……今回の隣町行きはクリスにとってはただ神器の回収……いや神器があるかどうかを調査し、あわよくば手に入れる。ただそれだけのものとなる筈だったのだ。
―――されど、蓋を開けてみれば、内容はまるで違う“
レシェイアに出会い、実力に近付くきっかけが生まれ。
事件の中心にある物が、神器だと分かり。
更に事件の首謀者は悪魔で、神器を利用して巨大な魔法陣を創造していて。
ゆんゆんと言う少女のパーティメンバーである、ゾルギオという男の実力にも謎が出来て。
何とか目立つのを避ける事は出来たが、神器回収以外に進展も無く。
(……濃い一日だったなぁ……収穫分は薄いけどさ)
レシェイア―――職業は最弱の“冒険者”で、浴びるほどお酒を飲んでも普通に酔っ払ったままで、盾の様な変な武器を持っていて、矢鱈強くて何時もふざけたままで……そして時折、影と真剣味を覗かせる。
彼女が何者なのか、まだまだ謎だというのに―――ゾルギオと言う名の、また新たな謎が生まれる負の連鎖。
まるで自分を嘲笑うが如く、湧き出て来ているようで……その所為か、クリスは自然の無意識のうちに溜息を吐いていた。
(ゾルギオさんは一応置いておくとしても、
ここでまたもや元気ハツラツ盗賊娘な彼女に合わぬ、丁寧語を脳裏に浮かべ始めたクリス。
とても深く、深く、考え込んでいる所為で……。
「どうひたの~? ……そだ。 ―――おーい、○茶ッ!」
「ひゃっ!?」
近くまで寄ってきていたレシェイアの悪ふざけに、叫ばれるまで気が付かない有り様だ。
「ななななな何!? ごめん聞いて無くて……!」
「んにゃ~、ボーとしてたから気になっただけれふよぉ。ニャハハ! ……ウィッ」
「そ、そう……」
マイペースに動く彼女を探るなど至難の業だという事を、薄々ながらクリスは感じ取る。
いくら行動に最低限の定義が合っても、そのランクが高いのならば早々動かせる訳でも無かろう。
と……クリスの方へ、ふと思い付いたと言った感じで、レシェイアの方から声をかけて来た。
「そーいえばさぁ? デストロイヤー警報ってあったけろ、デストロイヤーって何?」
「知らないの? ダクネス達から聞いてない?」
「『デストロイヤーはデストロイヤー。高速機動する要塞で、ワシャワシャ動いて子供に人気ある』って言われた」
「……いや説明じゃないじゃん、それ」
どうもカズマ同様、レシェイアもデストロイヤーについて詰問していたらしい。
……そして、同様の答えを返されたようだ。
余りにいい加減なめぐみん達の言い分の再現に、思わず脱力したクリスはそれでも咳払いを一つしてから、デストロイヤーについて説明し出す。
「詳しく言えば、虫の“蜘蛛”の形をした移動する要塞だね。全長は100m以上はあったかなぁ……。多数の砲門と護衛のガーゴイルを携えて、対魔法結界で上級魔法にも耐性がある厄介な存在だよ。原動力は何らかの希少石って言われていて―――“機械”だけど賞金首にまでなってるんだ」
「うは~……恐っろしい……らいじょーぶかなぁ、カズマ達……」
本気でそう思っているか疑わしい態度ではあるものの、レシェイアは己れの肩を抱いて身ぶるいする。
クリスとて、願わくばアクセルの街に来ない事を祈っているのだ。
何せ……通った後は皆等しく滅びを迎えてしまう、機械故に加減の無い理不尽な要塞なのだから。
「まぁ……カズマは運が良いらしいし、きっと回避できる運命に辿り着いてるかもよ? レシェイアさん」
「運が薄そうな人に言われても
「運に胸は関係無いだろ」
「―――――Zzz……」
「即行で寝るのかよ、早いなオイ」
結局この晩もグダグダなまま、お互い就寝する事になる。
……そして翌日。
今度はなんとモンスターの所為で便に支障が出て、馬車が中途半端な時間に来てしまい……無事帰る事こそ出来たものの、ギルドは既にしまっていた。
帰還の報告がドンドン遅れる事に疲れを感じながらも、レシェイアとクリスは分かれる。
そして仮宿として陣取っている、ボロ屋の中で一夜を明かし―――事件終わりの翌々日で、漸くレシェイアはギルドに帰る事が出来た。
仲間内と飲みたいのかその日の昼ごろを狙ってレシェイアはギルドに顔を出し、まずはクエストの報告にとルナの元へ駆け寄る。
「たっだいまぁ!」
「あ、御帰りなさいレシェイアさん。向こうのギルドから既に連絡が入っていますよ。では、証書を」
「ほぉい」
クエスト達成の証である用紙をルナへと渡し、正式な手続きを得て……これで荷運びクエストは完了となった。
貰った報奨金を手に席へと付き、メニューを見るその前に。
まずは一番に声をかけたい人物を探して、額に手を当てキョロキョロとギルド内を見回す。
「……?」
しかし―――目当ての人物は見つからない。
それに何処となくギルド内の空気が、気不味いモノというか、妙なモノに変わってもいる。
ギルドに居なかったレシェイアは何が何だか分からず……仕方なく、傍にいた人物に話を聞いた。
「ねぇ~、カズマ知ららい? クエスト行っちゃった?」
「お、おうレシェイアか……カズマは、な……いや、それが、その……」
「?」
歯切れの悪い返答の冒険者にそこはかとない不安を感じるレシェイア。
このまま黙っても仕方が無いと判断し、冒険者は意を決して、カズマが居ない理由を口に出す。
「あいつは、今な―――
国家転覆罪で、『牢獄』に居るよ」
「……え?」
・
・
・
・
・
同時刻。
某国、某所。
「……バニル様は、行かれたか?」
「魔王様からの密命を受けたらしいが……」
「ベルディア様もいっこうに帰還されない、何かあったのは間違い無いだろうな」
「しかし、あのベルディア様が負けるなど……」
紫の明かりが照らす中、魔物たちが何やら話しあっていた。
ただ事ではない様子だが……しかし、それを切り裂く声が一つ。
「へーえ、バニルの奴ぁいねぇのかい?」
「「!」」
後ろからやってきた、人型の魔物らしき包帯だらけの男の登場に、魔物たちは何故か『敵意』を見せる。
「……魔王様の命令だから、貴様に害を加えぬだけだ。図に乗るなよ」
「そうとも。『人間』がここに入れる事、それは奇跡にも近いのだから」
「ヒヒハハハ! そうかいそうかい。ならそう思っとこうかね」
明らかに中級以上の実力を持つだろう魔物達に睨まれて尚、その包帯の男は涼しいとばかりに笑って見せる。
「ワシとて別に慣れ合うつもりぁねえわな。目的が達しやすいからここにいる、それだけの事だ」
「……」
「じゃな。断片だが、良い話聞かせて貰ったさ。あんがとよ」
魔物たちの敵意の視線を背に受けながら、包帯の男は呟いた。
「さーて、ウィズの嬢ちゃんも気になるし……また外に出ちまおうかね?」
―――更に、同時刻の、とある『里』
其処には数多のとんでもない名所が存在し、グリフォンの像や、女神が封印された地や、抜けない伝説の聖剣などといった、神秘の塊すら鎮座している。
そのなかで―――ひときわ異彩を放つ、謎の巨大施設。
それはまるで、現代日本での『建設途中の工場』と『ロボアニメの研究施設』を混ぜたような外観をした、異様過ぎる建物。
封印が施されており、中に入れる者は誰ひとりとしておらず、堅牢が故にその内部は一際の謎に包まれている。
その、現代風謎施設の、よりにもよって『内部』に。
「~♪ ~♪」
一人の少女が侵入していた。
無表情で鼻歌を歌いながら、何やら積み上げられた機械の塊を選別したり、本を読みあさったりしている様子。
「レールガン、でス? big・volt・canon、似てるますか? ……Oh……大発見、ます。ぐんじなえーせーありました、のでした!」
無表情で、とても無理のある丁寧語を呟いていた彼女は唐突に立ち上がり……そして外に向かって飛び出して行く。
―――壁に開けられた『硝煙漂う』歪な穴から。
これにて、第二章は閉幕。
前章と同じように幕間を挟んでから、第三章へと入ります。
……最後に出てきた人達、一体何者なのか。
と言うか地味に、とある施設が害を受けている様な。
ここに来るまでに、フラグも色々立ってますしねぇ……。