やってきた事なんか勿論分からない上に、そもそもレシェイアは異世界人なので、デストロイヤー自体ほぼ知らないです。
一通り小話を終えた所で―――年内最後の、本編をどうぞ。
―――約十数分前―――
レシェイアが探し、己もまた彼女との邂逅を待っていたクリスは、今。
「臭う、臭う……! お宝の臭いだね! 『宝感知』にビンビン来てるよ……!」
とあるダンジョンらしき場所でスキルを併用しながら、ニヤリとした笑みをうかべていた。
此処までの道のり説明すれば―――
クリスしか感じないらしい“におい”を掃う様にしながら森を進んでいたら、
『宝感知』に反応が引っ掛かり、
アイテムで一応のマーキングを残してから向かったところ、
……より大きな気配を返してくる洞窟を見つけた為乗り込んだ
―――という訳である。
洞窟に誰も居ないのは言うまでもなく、更にクリスも感じていた四方八方からの『気配』が先から薄れてきてもいた。
これが洞窟に入ったお陰なのか、濃霧に何らかの効能があったのかは定かではない。
それに霧自体はまだ漂っている。
「……フフ……!」
だが惑わすモノが少なくなったのも事実。
煩わしさが減ってまだ見ぬ“お宝”に対するワクワクの方が勝ってきたらしく、クリスは一丁前に舌舐めずりまでしている。
(それにしても……中は広くてけっこう温かいんだね。壁も意外に滑らかだし、モンスターでも住んでたのかな?)
せまく細長い洞窟や、幾重にも分かれた洞窟ならばまだ有り得ただろう。
しかし道は一直線が多数で、ホールの如く広い石室が複数あるというのに、それでも尚温かいのだから疑問に思っても不思議ではなかった。
ただの岩壁だというのにゴツゴツしていなければ、尚の事あれこれ考えてしまう。
「案外、転生者の人が作った、昔の隠れ家だったりして……? それとも行方不明事件の犯人が作ったのかな?」
呟いた言葉の中に見知らぬ単語こそ混ざっていたが、前者か後者に関わらず、誰かの隠れ家だという推測は概ね外れでもあるまい。
珍妙で不快な霧すら撒かれているのだから、その考察自体は頭へ留めておくべきだろう。
クリスは魔法付与のダガーを逆手に構え直しながら、静かな足音に似合わぬ大胆な歩方で進んでゆく。
わき道をチェックしつつ、見逃しの無い様に。
「『宝感知』、『宝感知』っと……う~ん? 気配そのものは、けっこう大きいんだけど……?」
なんとここでも霧が何やらお邪魔虫となっているらしい。
気配を感じ取る事が出来ても、詳細な位置までが分からない様子だ。
顎に手を当てて唸っている様から、何時もならもう少し詳しく探知できるのかもしれない。
「これは行方不明事件の犯人が居ると見るべきかな。なら、止めないと! ……あの不快な臭いも気になるし、凄く」
嗅いでしまった事をまだ根に持っているか、表情へ浮かぶのは明らかに苦いもの。
一体、何が其処まで彼女を不快にさせるのか?
存在価値すら否定し掛かるそれとは何か?
付き人がいない故に答えが明かされぬまま、歩ばかり進められていく
「引き返すなんて前言撤回だね。どんどん進んで、斬ってこう。うん、それがいい」
段々物騒になっていく、クリスの台詞。
顔すらも不気味な物へと刺し変わってしまっている。
コレをダクネスが見たならば、果たして彼女はどう思うのやら……。
―――――と。
そんな一人憎悪劇場を繰り広げつつ半分ほど進み終えた、その時だった。
「むっ……?」
突如としてクリスの足は止まり、さっきとは別の険しい表情を浮かべ、辺りを警戒し始める。
(『索敵』スキルに反応があった……! やっぱり何か、
洞窟に誰かが先に入っていたのか―――いや、それは否。
この状況で、そして事件が起きている危険性高い中で、他の冒険者が探索している可能性は、実に低いと言わざるを得ない。
(出来ればレシェイアさんでありますように……と)
見つからない為にクリスは盗賊系スキル・『潜伏』スキルを発動させて、周囲への気配を断つ。
レベルが高ければ高いほど隠蔽率が増すのは言うまでもなく、本物の盗賊職であるクリスなら補正も掛る為、意外に強力なスキルと化す。
遮蔽物が曖昧なこの洞窟内では特に有効なスキルだろう。
一歩、ニ歩と近付いて行く度に、微かながら足音らしきモノも聞こえてくる。
(ビンゴ! あとは不意打ちで確認するだけ……! “奴等”だったらデストロイっ!!)
……矢鱈と高いテンションをもって脳内でそう言い切り、マジックダガーを構えなおすクリス。
徐々に大きくなる音。
段々と圧の増す、『索敵』スキルにて感知した気配。
残り3歩……2歩…………1歩……0となった刹那、クリスは飛び出す―――!
「ハッ!! ―――え?」
瞬間、目をお皿の如く、真ん円にしてしまう。
……何故ならば。
そこには誰もおらず、あざ笑うかの如く『もぬけの殻』だったのだ。
(で、でも! でも確かに……っ)
されどまた疑問。
反応は『索敵』スキルにも引っ掛かり、足音まで聞こえていた。
それが、一瞬の内に消える事などありえない。
(気配があっただけじゃない、
そもそも気配は途切れてすらいないのだ。
そこで……クリスはハッ! っとなって即座に“上”を見やり―――。
「うぐっ!?」
―――“ソレ”を確認する間もなく、突如襲い来る衝撃。
結果何の反応も出来ず、クリスは地に張り付けられてしまった。
手は片方が首に、片方が肩に掛けられ、腰も足で固定され……かかる力の強い事強い事。
クリスとてそれなりにレベルを上げて来ているというのに、まるで抜け出せない。
(ぐ……誰っ……!?)
衝撃に慣れて何とか薄目を開けてみてみれば、コレまたビックリ仰天な人物が。
「何もんだ……?」
(あ、あの広場でソードマスターと諍い起こしてたチンピラの人!?)
今クリスが思った通り。
その人影は、先刻辺り勘違い系少年ソードマスターを、拳の一発でお星様に変えたチンピラ風な長身の男だったのだ。
断片的に見えた人柄からもこんな事件を起こすようには思えず、装備品だからこそ身に付けなければ為らないネックレスは着けておらず……感知できる魔力も、これまた格段に低い。
(不幸中の、幸いってコトかな……?)
憶測になるが彼もまた、宝目当てで来たのかもしれない。
手付きも締めつけるというよりは抑える方に力が向いており、殺す気はまだ見られない。
もしかすると『潜伏』スキルで下手に気配を消した事が、警戒心を煽った可能性もある。
ならばまだ会話の余地は、充分にあろう。
「あ、たしは……盗賊だよっ……! 森に『宝感知』のおっきな反応が合ったから出向い、て……この洞窟に、辿り着いたのっ……!」
押さえつけられる力が強い所為で若干途切れ気味なれど、言いたい事は言い終えたクリス。
ヘアバンドで上半分が隠され、より恐ろしげな相貌となった三白眼を、真正面から恐怖を抑えつつ睨み返した。
そこから暫し沈黙が流れ…………。
「取りあえず、信じてやるわ。バカみてぇな動き、しやがったら―――ぶっ飛ばす」
「……ん、ありがと」
怒りの様な感情のこもった声色でそう呟き、それでも一先ず手を離してくれた。
やたら物騒な事を言いつつも、一応信じてくれた事にクリスは安堵の溜息を吐く。
(バカみたいなって言ってもなぁ……襲おうにも隙なんか全然無いんだけど……)
警戒態勢を敷いている男にクリスは内心感心半分震え半分で立ち上がった。
「それでさ。立場を利用する様で悪いけど、君はこの洞窟について何処まで知ってる?」
「…………」
前置きのお陰でクリスの『立場』の弁が何を指しているのか理解した男は、多少ながら忌々しそうに顔を歪めた。
雰囲気に怒りの空気が薄い事から、恐らく彼的には単に、バツが悪いだけなのだろうが。
「アッチは全部見た。残りはそこのクソデケェ部屋だ」
言いながら男は後ろを指差し、次いで隣を指差す。
方角と入ってきた方向が違うだけで、基本クリスと変わらないらしい。
「アタシも同じだよ。向こうから入ってきて、今ここに来たとこ。……そうなると、出入り口は二つあるのかな?」
「みてぇだな。……嫌に人工的な作りしてやがっから、事件起こしたクソ野郎がも一つ掘ったかもしれねぇがよ」
簡素な情報交換も終わり、クリスと男は正面から見つめ合う。
……とは言っても別に
クリスは他に言う事が無く、あっても全て秘密にしていたい事ばかり。
男も男で彼女を疑っている以上、そう情報を開示したくはあるまい。
ただ目的地は―――互いに一致している。
「……一緒に行く?」
「ったりめぇだ」
結果、凄まじく短いやりとりの後、臨時パーティが組まれる事となった。
(まぁ当たり前かな……それに人は多い方が良いし)
不測の事態に陥った時、助けられる人間が居るか居ないかだけで、生存率は大きく変わる。
二人して罠にかかる可能性も無くは無いが、人が多いにこした事は無かろう。
向こうは此方を警戒している事もあり、下手に助けようとしない分、助かったり助けられたりする確率が上がるかもしれない。
「どっちが先に行く?」
「必要ねぇよ、道
「……ですよね」
言いつつクリスは若干ながら驚いていた。
警戒から後ろを取られるかと思いきや、並んで進む事を立案してきたのだから。
確かに石室までの道は広いので、縦に並ぶ必要は曖昧だが……。
(……もしかして、女を先行させるのは嫌、とかもあったりして?)
仮にそうだとするならば、やはり本質は『良い人』なのだろう。
善性を前提に語れば―――幾ら仕方なかったとは言え警戒されてしかるべき事をしたのだし、誰だってピリピリして当然である。
そうして二人で肩を並べて歩く事、数分。
目的地の石室につくなり二人の口をついて出たのは、ほぼ同じ感想だった。
「くっせぇな……オイ」
「うわ……臭っ……?」
男は顔をしかめ、クリスは思わずのけぞる。
むせ返るとまでは行かずとも、穏やかな土の匂いしかしなかった今までと比べれば、各段に濃い“別の臭い”が鼻をついたのだ。
突発的に襲ってきた臭いに顔をしかめながらも、二人は石室内に足を踏み入れ、中を覗きこむ。
中はやはり広く、窓が無く見ただけで風通しの悪さが露見する内装も、強い臭いの原因だろうか。
しかし驚きだけでは終わらない。
(神器の傍に、事件の臭い有りとみてたけど……またまたビンゴ、ってことかな?)
臭いがあるという事は、裏を返せば『誰かが確実に居る』、そして『誰かが暮らしている』事と同義なのだ。
やはり、ここに犯人が居るのだ。
問題や疑問があるとするならば『なぜ隠す気が皆無な内装と通路にしたのか』という不審な点。
犯人が少人数だと仮定して……事件開始の日数から逆算すると、余りに臭いが発生し過ぎだという点。
何れも怪しく、無視はできない。
「……なんだアレぁ?」
「……?」
―――と、男の方から急に呆気に取られた様な声が上がり、クリスも吊られて素っ頓狂な声と一緒に振り向いた。
彼が指さす方、石室の奥の方に……何やら人の様な、細長いシルエットが複数転がっているのが分かる。
この状況でそれらに値する“モノ”は1つしか無い。
(ま、まさか……?)
ゆっくりと、気を落ち着かせながら進むクリスとは対照的に、ずんずん進んでいく男。
そしてまだ彼女の方は、心の準備ができていないにも拘わらず、男はガバッ! と布らしきものをめくり上げた。
次に発せられるのは、凶報か、吉報か、果たして。
「……生きてるぞ。コイツぁ」
「へ……ほ、ほんと!?」
思わず緊張を彼方に投げ捨てて駆け寄ってみれば……なるほど。
その被害者である少年冒険者は、ただ寝息を立てて、穏やかに就寝しているだけのご様子だ。
みると周りには被害者であろう、イケメンや美少女が何人も居る。
念のためにと近寄り、拙い知識片手に確かめてみればやはりその全員が、呑気に睡眠中なだけであった。
無事が分かり、ホッ……と溜息を吐くクリスだが、内心は穏やかで居られない。
根本が、まだ解決していない。
(……良かったは、良かったけど……何で態々さらっておいて、寝かせてるだけなの? というか、犯人は何処に?)
『宝感知』スキルも『索敵』スキルも、依然ちゃんと反応を返しているので、この洞窟内に居るのはまず間違いなかった。
しらみ潰しに探した方が良いかもしれないと、クリスは一先ず状態を調べるべく抱えていた少女を静かに置き、砂を払って立ち上がる。
―――それとほぼ同じタイミングで。
“―――――……ゥゥン―――!”
「……!? 何、今の音……!」
何というタイミングだろう。
腰上げたその瞬間、遠くからまるで『巨大なモノが倒れた』様な音が響いたではないか。
洞窟内は石室以外コレと言って複雑な内装をしてはいない。
つまり入口付近で何かが起こったのだ。
(まさか、犯人は入口に……!?)
慌ててクリスは立ち上がる。
……そして彼女は気が付かない。
焦燥からか、気が付けない。
行きずりで同伴者となった件の男が、不気味に沈黙している事を。
「…………」
石室の出入り口を凝視するクリスの後ろから、男は静かに……しかし素早く近付き。
「何にせよ、早く行かないと…………!」
「―――――」
その筋肉質な腕を、大きく振り上げて―――――!
「……えっ?」
・
・
・
・
・
クリスの耳に届いた、大きな音。
その発生地点である――東側の出入り口。
しつこく霧が張り続ける中で、それとは毛色の違う土色の煙と、三つの人影が目を引く。
「……な、なにが……?」
「……」
一人は紅魔族の少女・ゆんゆん。
いきなり木に穴が空き倒れるという、奇々怪々な状況に着いて行けず目を白黒させている。
もう一人はレシェイア。
ゆんゆんを伏せさせ守った彼女は、頬をほろ酔いで染めながらも一点を凝視してる。
そこにあるのは樹を倒した張本人であろう、第三の人影。
「『ヒヒヒヒヒ! いいねいいねぇ、その驚愕の眼差し!』」
……しかし、それは断じて《人》ではなかった。
上半身裸であるのに、それを可笑しいと感じさせない灰色の肌。
体躯は長身の男性と同じだが、腕の長さと足の筋肉量がおかしい。
極めつけは、蜥蜴の様な顔に牛の様な一対の角。そして蝙蝠のモノにも似た翼。
それはまるで、伝承に登場する怪物―――。
「デーモン……っ!!」
人の心に漬け込み、契約を交わす、悪魔に相違なかった。
ゆんゆんの口ぶりからして、この世界では普通に種族として存在するのだろう。
強さの純度もまた、イメージに違わず強者に分類される事が理解できる。
杖をしっかり握り臨戦態勢をとるゆんゆんと、顔を伏せたまま目線を向けるレシェイアに対し、悪魔は余裕綽々な態度で頭を掻く。
「『しっかしビックリだなぁ……いくら好みのタイプじゃあないって言っても、まさか“魅了”と“神器”の合わせ技を受けた人間を元に戻しちまうとは……しかも妨害の方もあまり機能してないなあ、こりゃあ?』」
レシェイアを見ながらニヤニヤ笑う悪魔の弁に、ゆんゆんは半ば予期していた様子で指さし、叫ぶ。
「やっぱり……あなたなのね? この行方不明―――いいえ、誘拐事件の犯人は!」
「『ヒヒヒヒヒ……誘拐事件、かぁ? 言い得て妙だが、まぁその通りだしなあ』」
「……! まさか、本当に生きてないんじゃあ……!!」
体を戦慄かせるゆんゆんに、悪魔は苦笑いしつつ両掌を向けてきた。
「『おいおい攫われた奴等は無事だぜ? 俺の言葉を信じるなら、だがな』」
嘘か真か……判断する材料が余りにも少なく、人質を取られているに近い状況へ変わってしまった事もあって、迂闊に反撃も反論できず固まるゆんゆん。
「『ああ、安心しろよ。別に俺に手を出したら人間の命が無い! だなんて事は言わねぇからな』」
「何を根拠に……!」
「『だったら、何で今の今まで攫った奴を生かしてるんだ? 期間が短いとは言え、理由があるからだろ?』」
「さらった人にもぉ……傾向あったしねぇ……?」
「『その通り! ちぃと用事があるんだよなぁ、これが!』」
レシェイアへ肯定を返した悪魔はパンパンと手を叩きながら喜び、バカにしたような所作につられてゆんゆんの眉が更にひそめられた。
「洞窟の中にさらわれた人達が居るのね……その人達を、開放させて貰うわ」
「『どーぞどーぞ。好きにすりゃあいいだろ』」
杖の先端を向け、魔力を充填させ始めたゆんゆんに対し、悪魔はアッサリと手を振って洞窟の方へ行くよう促し始める。
怪し過ぎる行いにゆんゆんも、レシェイアも動かない。
さりとて悪魔もこれで動くとは思っていなかったらしく、身をかがめて臨戦態勢をとる。
「『ただしこの俺……ビッターに勝てたらなぁ!!』」
―――刹那、駆け出した。
すぐさま慣れた手付きで中級・下ランクの魔法を放とうとしたゆんゆんだが……その手は動かず、またも固まってしまった。
「は、速いっ……!?」
その姿が肉眼で全く
空気を裂く音、地を叩く音、霧を散らす音……それらが耳を着いた時には、別の場所から声が上がる。
「『おいおいどーした紅魔族! 魔王軍すら縮み上がる、恐怖のエリート種族なんだろ! それとも見えなきゃ話になりませんてか!?』」
あからさまな挑発にも一言すら返せない。
たった一言の生む間隙が、この緊張状態を崩す決定打となりかねないから。
しかしその決定打は、なにもゆんゆんの行いで生じるモノだけとは限らない。
「っ!!」
「ふわっ……!?」
灰色の悪魔・ビッターが自ら仕掛けるという事も、選択肢に入っている。
「『おっと、惜しい惜しい!!』」
間一髪でレシェイアが、【翠のマン・ゴーシュ】を使い受け流したものの、一歩間違えば致命傷を負っていただろう。
「『中々やるなあ、酒酔いのねぇちゃんは! ……それに引き換え如何した紅魔族! もっと来いよ、じゃなきゃ俺を倒せないぜぇ!?』」
ビッターのその挑発に耐えかねたか。
ゆんゆんは意味が無いと分かりつつも、虚空目掛けてビッターへ叫び声を叩き付けた。
「仮に見えないとしても、時はいつか必ず来るわ! その時までの根気勝負よ! ……ニ対一なら何とかなる、でしょ、レシェイアさん!」
傍にいる味方に同意を求めるよう、ゆんゆんは口にして……即座に口を閉ざしてしまう。
「……」
表情の薄れた顔で、何も言わず反応を返さないからだ。
何故か……とゆんゆんが考える間もなく、意外にもビッターの方から答えが来た。
「『ニ対一? 根気勝負? ……本当にそう思ってんのかぁ?』」
「ど……どういう事っ!?」
「『俺は、別に一人とは言ってないしぃ……第一、“何の装備も付けちゃいない” んだがなぁ?』」
「え……―――っ!?」
そこで漸くゆんゆんはレシェイアが黙っていた訳を察する。
今、闘っている場所と別の場所で。
「―――――」
「……えっ?」
振り向いたクリスが、ソレに驚愕する。
腕を振り上げこちらを睨み付ける男……。
―――その『瞳に映る女の影』に。
「避けろノロマぁッ!!」
「うわぁっ!?」
男に襟首を掴まれて思いっきり引かれ、結果強引に飛びのく形になった二人。
同時に巨大な尖った岩が着弾し、驚いたクリスが目にしたものは……ゆんゆんが察した物と、同じ“者”。
つまり。
「あら? 意外と良い判断するのねぇ? ボウヤ?」
犯人は、
次回から本格的にバトルが勃発!
―――それではみなさん、良いお年を!