素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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UAが30000を超しました!
中途半端な数ですが、記念報告という事で。

―――ベルディアとレシェイアが1VS1(サシ)で闘ったらとか、IFの構想でも考えてみたり。
たぶん、かなり短い文章で終わると思いますが。

……ではこれからも、どうかよろしくお願いいたします。


本編をどうぞ。



神器と情報、そして事件

 思い込みの強い残念イケメンなソードマスターの少年と、素行の悪いチンピラに見えてそこまで粗暴でもなかった男性の、何とも気の抜ける茶番劇の後。

 

 レシェイアと合流したクリスは、取りあえず今回のクエストについて聞き始めた。

 

 

 まずは何でも良いから話を切り替えてモヤモヤとした気分を晴らし、テンションやモチベーションを元に戻しておきたいのだろう。

 

「今回の荷物はワインれしたっ。らから、ちょっと遅れちゃってさ~?」

「……飲むか飲まないかで葛藤したの?」

「んにゃ。酒屋さんがぁ何処にあるのかとか、後は~……ワインセラーをチラ見して来まひた」

「なるほど、だからちょっと早めに出てたんだね」

 

 ワインは葡萄の品種のみならず作る場所によっても味が変わるし、モンスターの所為で所々回せない流通経路も存在する。

 なので依頼主は、モンスターの跋扈する冬だという事もあって、態々十数本かの配達の頼んだらしかった。

 ……クライアントがレシェイア並の酒好きなのか、ただ単にワインが恋しくなったのか、それ自体定かではないが。

 

 ―――しかし依頼を終えたというのに、レシェイアの顔はちょっと苦笑い気味。

 その何故か? を説明するかのように、クリスが彼女へと問い掛けた。

 

「それでレシェイアさん。此処から先、まだ馬車は出ない訳だけど、それまでどうするの?」

「そ~なんらぁよねぇ……うぅ~ん……?」

 

 朝早“過ぎた”所為で馬車がない上、今日のシフトでは昼前でないと街まで来ないのだ。

 

 足が無くては街へ帰れないなど当たり前。

 この冬の、モンスターいっぱいの雪道をゆくなど自殺行為に等しいし、メリットがほとんどない。

 最悪の場合、あとから来た馬車に追い越される―――なんてマヌケな結果になるかもしれない。

 

 昨夜とは違い、馬車が迂回しているから遅れている訳ではないのだが、つまり裏を返せばこれから来る馬車自体が遅れる事は充分にあり得る。

 巡回しているものも、時期が時期だけに頭数が少なく頻度も減っており……その点で言うなら、一々確認しながら一日を潰すよりは、最後の馬車に狙いを定めた方が良いかもしれないぐらいだ。

 

 

 だからこそ、クリスは『どうするの?』と聞いたのだろう。

 

「簡単なクエストは無いしぃ……ヒック、お酒飲んれも時間潰しに限界あるれしょーし……うん、ろーしましょぅ」

 

 頬に手を当ててコテンと首を傾げながら、相変わらず酒臭い息を吐くという、所作と空気が全く合っていないポーズをとりながらレシェイアは呟いた。

 

「じゃあさ、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど」

 

 ならば! と、待ってましたとばかりに提案を口にするクリス。

 

 昨夜の事を踏まえれば、此処からここまで計算づくか。

 ……と思えば、地味に『ラッキー☆』的な表情を垣間見せている辺り、この質問自体は行き当たりばったりに違いない。

 

「んえ~? 不安なんらけろ~……?」

「大丈夫。ちょっとした情報収集だから。手が足りない分を補って貰おうかな? ってだけだよ」

「じょーほー……なんの?」

「神器だよ、『神器』。それに近しいだろう“情報”(もと)は掴んでるから」

 

 『神器』

 その存在と、そう呼ばれる道具の大まかな詳細は、レシェイアとて知っている。

 

 武器で有れば、マツ、いやミ―――まあ兎に角、ソードマスターである “何たら” が持っていたグラムの様な、膂力を引き上げる力を持っていたり。

 道具で有れば、一瞬で岩を想うがままに加工して、像でも建物でも作り上げられたり。

 中には単体では役に立たないが、現地の材料で地球における様々な便利グッズを生みだし続けた者も居たらしい。

 

 兎に角、とても強力な力を持ち、内に膨大な魔力を秘めている道具が、『神器』と呼ばれるのだ。

 ……紅魔族ほどでなければ、その違いを見抜くのは容易くないらしいが。

 そして大概―――というか殆どすべての『神器』は、黒髪黒眼で奇妙な名前の者達が最初の所持者なんだとか。

 この辺の話は自主的に調べたり、すこし力をつけてきた冒険者なら誰でも知っている事である。

 

「それぐらいなら……うん! オケ、らよ」

 

 レシェイアはそう肯定の意を返してから、しかしまた疑問符を浮かべた。

 

「あ、れもさぁ? 神器ってちょお珍しいのに、すぐ情報提供なんかして貰えるもんらの~?」

「正確には神器そのものじゃあ無くて、怪しげな道具とか、変な事件とか間接的に調べる方が良いよ」

「…………む、事件……」

 

 クリスの一言でふと、この街を中心に起こっているらしき『冒険者失踪事件』を思い出し、レシェイアが曰く微妙な難しい表情をする。

 

「調べるついでに情報をまとめ上げれば、この街の役にも立つんじゃないかな? ってのもちょこっとはあるよ。意外とそこら辺について意図的に利かないと纏まらない物もあるだろうしさ」

「ん。一理あるであります!」

「……口調統一しなよ、レシェイアさん」

 

 

 兎にも角にも、事件解決そのものに関わらずとも、解決の糸口を見つけ出す手掛かりや、『神器』探しの手伝いぐらいは良かろうと―――数時間後に落ち合う約束をしてから、レシェイアとクリスは別々に分かれて情報収集を開始した。

 

 

 

 

 

 …………さて、まずはクリスの方。

 

 当然のことではあるが、彼女は何も手が足りないという理由だけでレシェイアに協力を頼んだ訳ではない。

 情報収集せねばならないのは本当の事なれど、しかし彼女には別名・『宝感知』という強大な力を持つ品々の “気配” を感じ取るスキルを持ち合わせているので、ある程度確証が得られればそれだけで充分なのだ。

 

 本当の目的は、言うまでも無く昨夜の続き―――レシェイアの『本当の実力の件』に他ならない。

 されどそればかりだけかと言えば決してそうでもなく、純粋に『神器』の事について探りを入れる腹積もりでもある。

 

 ようは半々。

 そして、どちらか片方を成功させられれば良いと、クリスはある程度ながら割りきってもいた。

 今のとこ怪しまれては無い様だが、一度不信を抱かれれば勘付かれ、詰問などノラリクラリとかわされるのがオチだろう。

 

(まあ……今は情報収集が先だよね。一応核心は得てるけど、もう少しだけ確実なモノが欲しいし)

 

 そこからクリスは次々と聞き込みをし、情報を探ってゆく。

 大抵が今まで利いた事のある者や、此方でも想像できるものばかりの中―――それでも有益な情報は幾つか上がった。

 

「そういやへんなネックレスがあったとか聞いたな……あぁ、もう昔の事だから今は居ないけど、黒髪黒眼の奴が持ってたらしいぜ? それとネックレスが流れた同時期に、森に別土地の魔物が住みついてたってのも聞いた。発見者がまだ少ないからもしかすると、結構頭の良い奴なのかもな」

 

「行方不明者と一緒にいた無事だった人は、怪我が無いだけじゃなくて記憶もあいまいなんだよ。だから事件が広まっちゃったりする訳でさ。森の元の難易度が難易度だから、進入禁止じゃなくて厳重注意に留まっちゃってるけど」

 

「ちょっと前の森には悪魔が居たみたいよ。でも、プリーストが向かって戻ってきてるから、多分討伐されたんじゃないかしら。……怪しげな道具? それなら、その後で露天商が妙な道具を一杯売ってたけれど。でも大抵がこの街でもかき集められるようなモノだったわ。何せ黒髪黒眼の人が集めてたのが流出してるんですもの」

 

「あ、そうだそうだ。盗賊職の人が、なんか凄い御宝の気配がした! って森に向かってったのは耳に挟んだかな。でも行方不明にならなかっただけで結局何も得られなかったんだって。魔力の凄いネックレスを見たって噂がるから多分それだと思うよ?」

 

「……変な事だってなら事件のほかにも、最近森には霧が出る日が多い事もあるぞ。……俺が来たばかりの頃は、霧どころか朝モヤですら一度も見た事ねぇのに……」

 

 ―――結果を見れば『神器』関連よりも、ワンクッションとしての役目であるはずの『行方不明事件』の情報ばかりが集まっていたが……しかしコレを無駄だとは、クリスは全く思っていない。

 

(話を繋げれば、色々と見えてきたかな? 不自然な所業や現象が多いなら可能性はあるし……宝感知の件からして『神器』と事件は多分無関係じゃないよね。モヤが出てるって事も怪しいし)

 

 憶測ながら個人の欲を満たす為の『神器』探しと、多数の人間に安堵をもたらす『事件解決』が一辺に行えるのならこれほど美味しい事は無い。

 そして何かしら、相手方の理解不能の術に対して対抗策でもあるのか、クリスはニカッと笑って森の方を見ていた。

 

 

 

 

 一方、此方はレシェイア。

 

 彼女も彼女で、事件や怪しげな道具の情報を得る傍ら、並行して核心的な事柄を次々と聞いてゆく。

 重要な情報を得ている最中だからか、話を聞くその度に真剣な表情を崩さない。

 

 ……それでも酔っていること自体に変わりは無く、砂糖菓子の様な匂いのする酒を手に飲み飲み聞いているので真剣さはプラマイゼロであるものの、情報収集自体はちゃんと行っていた。

 

 クリスに言われた通り疑問も無くやっている辺り、いまだクリスの狙いに勘付いている訳では無さそうではある―――されど、内心が読めないので本当に気が付いていないのかは分からない。

 だが少なくとも、拒否して奇妙な事をやっている訳ではないらしかった。

 

(さーて、この話は聞き逃さないようにしないと……!!)

 

 そうして情報を得て行く中で、レシェイアもクリスと同様有益なモノに出会ったらしく、それを皮切りに次から次へとゲットしていく。

 

 頭の中で反芻するのは、その優秀な情報、クリスでさえ舌を巻く優良なモノの数々―――!

 

『このロゼワインはチーズよりもクラッカーに合うんだが、キリッとして酸味があるからな。干し肉トッピングならより良いつまみになるぜ』

 

『蜂蜜とこの塩漬け、意外に合うのよねー……意外と知られてないけど、クリムゾンビア-が一番マッチするんですって』

 

『この辺りだとウイスキーが有名かねぇ? 濃厚な味が特徴で、一度飲んだだけだとウイスキーだと分からないそうだよ』

 

「―――そして飲みやすい蛇酒! 軽い飲み口とアッサリな味、独特の匂いがクセになるぅ……異世界には面白い物があるんらね~、ニャハニャハハ! きょ~おのアタシはラッキーなんらぁ♫」

 

 ……確かに優良は優良だが酒に対して優良なモノを集めてどうするのか

 当初の目的を完全に忘れているとしか思えない。

 というか絶対に脳裏から、ポーンとすっ飛んでいるんじゃあ無かろうか。

 

 ……いや、まだ呆気に取られるには早いだろう。目的の為に、“敢えて”迂回しているという事も有り得るのだから。

 

 

 そして―――クリスも、レシェイアも、あっちへ行っては話を聞き、

 

「へぇ……やっぱりネックレスは少し前まで見かけてたんだね。無くなってから事件が起きたってわけ」

 

「へぇ……蜂蜜とチーズの組み合わしぇに、こんら方法があったっれわけ」

 

 こっちへ行っては情報を貰い、

 

「なるほど、やっぱり似通った情報だね……そうなると類似じゃあ済まないかもね」

 

「なるほど、やっぱり似通った情報ら……そうなると、同種の干物でも違うかもれ」

 

 其方へ行っては関係のない話を交えながらに聞きだして、

 

「やっぱりこの話は『当たり』だね。神器関連としか思えない、不可解なモノだよ」

 

「やっぱりこの話は『当たり』らね。旨味の混合体がもたらす、一種の奇跡らよ」

 

 必要なモノを蓄え、街を徘徊して周り、

 

「穴場の酒場発見! 話聞いてて良かったんら~♪ ―――という訳でブルーリィビアーを一丁!」

 

「……まって……ねぇ、ちょっとまって、なんか変な電波を受信したんだけど? ねぇちょっと」

 

 様々な人物と言葉を交わし、紆余曲折を得て―――

 

 

 

「ん! 戻ってきたよ~クリスぅ……ウィッ。ニヒヒ、ニャハハハ☆」

「……明らかに酒臭さ増してるよね? っていうかあの電波気のせいじゃないよね? ねぇ?」

 

 ―――約束の場所で再び合流する。

 どうやら己々収穫はあった様で、レシェイアは行きよりもちょっと膨れたバッグを手に、クリスは幾つかの紙束を握って、最初に言葉を交わした広場まで戻ってきていた。

 

 ……明らかに片方がモノの役に立っていない様子だが、クリスは核心を得た疑問にあえて突っ込まず、溜息を一つ吐いてから紙束に目を通し始めた。

 

「それで、こっちが集めた情報を開示するけどさ―――念の為、レシェイアさんが集めてきた情報を聞いても良い?」

「ん、いーよいーよぉ! ヒック……」

 

 言いながら取り出されたのは、蒼い瓶に入った酒。

 ラベルからして白ワインらしいが―――これは一体、何の情報の繋がっているのだろうか。

 

「これが一番気に入りまひた! という訳で取り寄せちゃいます! ……流通経路確保できたんらよ?」

「誰も頼んで無いからその情報!? とういうか経路確保したとか早すぎない!?」

「親父さんと話が合ったのれす。ねーちゃん、良い舌してんじゃねぇか? と。や~良い買い物らったねぇ♫」

「……いや馴れ初めとかどうでも良いから。割と本気でどうでも良いから、今の所」

 

 やっぱり予想通り、途中で受信した電波は正解の様で何の役にも立っておらず、クリスは諦めて紙束を胸元まで持ち上げて口を開く。

 

 

「―――そういえば、行方不明にならない人って普通な容姿の人が多いらしいれ? ひかも~記憶曖昧な上に無傷なんらってぇ?」

「……!?」

 

 されどその前にレシェイアが、ニヒルな笑みと共にクリスが必死に歩き回り、調べていた事と『ほぼ同じ事』を告げてきた

 

「で、事件の発端が怪しい露天商の品々の中れも、異彩を放っていたネックレスが消えて少ししてからぁ。しかも~そのネックレスは十数年前に他界ひた、黒髪黒眼の人が持っれた物と同一だとか~……うん」

「……!!」

 

 更に多少ながらに推理して出した答えと、足りない単語こそあるものの『ほぼ同じ答え』まで打ち出してくる。

 クリスは少しの間絶句してから……ゆっくりと口を開く。

 

「調べて無かった訳じゃ、無いんだね」

「世間話の乗りの方がっ♫ 案外よく集まるもん何らよ~♪ アヒャヒャヒャ……ウィ……」

 

 酒臭い息を盛大に吐き、辺りに撒き散らしながら言うレシェイアに対して―――クリスは内心、舌を巻いた。

 

(能天気そうに見えて、意外とやる事はやるタイプみたいだし……尚更前に出ない理由が分からないね。やっぱり探りを入れて正解だったかな?)

 

 真実に近づこうとしてある程度考える時間を貰い、その後本命の行動に移そうとしていた矢先、更なる小さな謎を追加されてクリスは苦笑いした。

 

 話を聞きだすにしてもある程度腕が必要だし、幾ら解決して欲しい事件がらみだとは言っても酔っている客のそうホイホイ教える危険さや、狙われる対象であろうなまじ綺麗な彼女相手ならより躊躇う筈。

 だがそれでも、己の目的を達しながら集めてきた。

 クリスものに比べれば詳細は省かれ、足りない部分があるが、それでも大まかな答えはほぼ同じ物を。

 

(こういうのを―――『くえない人』って言うのかな?)

 

 受けた協力依頼に託けて飲んでいたかと思えば、その実きっちりクリスの神器探しに協力してくれていたのだから、驚かない方が無理という話だ。

 

 だが一先ず驚くのは其処までにして、クリスも紙束に目を通しながらに口を開いた。

 

「こっちも基本は同じだよ。事件の発生期間、『神器』との関連性、被害者の共通点、やっぱりあたしの目的と事件は無関係じゃないね……確実にひっついてる」

「らいじょーぶ? なんか諸々危険みたいらけど、超デンジャー見たいらけど~……?」

「確かに “大丈夫” とは流石に言い切れないかな。最近出るらしい濃い霧の中だと視界利かないし、感知系のスキルには自信あるけど絶対はないし、マジックダガーの性能に過信するのもちょっと危ないしね」

 

 言いながらに森のある方角を見やって、クリスはそれでも自信を失っていない、力強さを感じさせる笑みを浮かべた。

 

「でも一回は向かってみるつもりだよ。回収せずに逃走する事前提で、さ。盗賊がお宝を目の前にして、引き返すなんて言語道断だし! ……まあ、無茶はしないから」

 

 そう言いながら遠くにある鉄塔を見やれば、その壁面に添えられる巨大な時計の針が、今にも四時過ぎを示そうとしていた。

 今回も今回とて遅れて居なければ、一時間後には停留所へ馬車が来る頃だ。

 

 つまり、帰るつもりなら今がチャンスという訳であり、逃すと一番遅い最後の便を待たねばならないので……このラッキーに乗らない冒険者などいないだろう。

 常に余裕を持つ事こそ、冒険者に必要な要素が内一つだ。

 

 

 時計を覗き、クリスを見て、それを繰り返すレシェイアを前に……『分かっている』とばかりにクリスは元気よくうなずいた。

 

「じゃあここでお別れだね。情報収集に協力してくれてありがと! 答えが同じって事だけでも信憑性は上がったし、さっきも言ったけど確認するだけだからソコまで危険はないよ。……じゃね、レシェイアさん!」

「おー……気を付けてれ、ホント-に無茶しちゃ駄目よ~?」

「危険な宝は慣れっこだからね、これ位何時もの事だよ。本当にありがとねー!」

 

 言いながら離れていくクリスをレシェイアも軽く手を振りながら見送る。

 クリスは少しの間、レシェイアの方に目線を合わせてから、充分に離れたのを見計らって前方に向き直る。

 

 

「ふぅー…………」

 

 ……そして、何やら緊張した面持ちで、静かに長く息を吐いた。

 

 その顔には不安と“期待”が入り混じった色が浮かんでおり―――即ち、この別れすらも作戦のうち一つだという事が窺えた。

 

 まだ、諦めてはいないのだ。

 

(黒髪黒眼の人が関わっている事はもう彼女も理解できた筈。そして人前で出したがらないなら、陰から支えてあげられる条件を作ればいい。……着いて来るかどうかは半々だけど、あたしは勝つ方に賭けたよ……!)

 

 今まで彼女が力を発揮してきた状況に鑑みて、この作戦を考案したらしいクリスは、しかしそれを抜いても危険な森を前に、再び息を長く吐き出す。

 

「さ~て……両方の目的が達成される事を願って、いっちょいきますかぁ!」

 

 そして、そう元気よく宣言してから、まっすぐに森へと足を進めて行くのだった。

 

 

 

 

 それと同タイミング。

 先の広場にて。

 

「……分かりやすいらぁ……れもまぁ不安は不安だし、背かないし、何より気になるひぃ……ウィッ、乗っかっちゃおっかな?」

 

 遠くを見やるレシェイアが何やら呟いていたが、それはまた別の話。

 


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