素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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今回、幽霊屋敷騒ぎでのレシェイアは、カズマ達とは別行動をとります。

……本編でも説明がありますが、彼女が出張っても何もできない、というのもあったので―――解決できる、別の物に手を出させました。

ソレではどうぞ。


墓場の結界騒ぎ(?)

 個人の価値観による諍い、習得に対する疑問、果ては思わぬ秘密による騒動など、紆余曲折を経てどうにかスキル習得までこぎつけたカズマは……若干疲れたような顔でウィズと向かい合っていた。

 

「色々あったけど……じゃ、ウィズ。スキルを教えてくれよ」

「は、はい。それでは、えっと……一通りスキルをお見せしますから、好きな物を選んで覚えていってくださいね。以前見逃してくれたことの、せめてもの恩返しです」

 

 そうは言えども。

 彼女が立派な務めを果たそうとしていた事、可哀想という情がうつった事、リッチーがどれだけ強いか解らなかったという事、友人であるらしいレシェイアが居た事もあり、寧ろ “見逃す以外の選択肢が思い付かなかった” ――が正しいだろう。

 

 まあ今そんな事を言うのは無粋であろうし、そもそも結果自体は変わらない為に言う必要も無いので、カズマは口を噤んだままだ。

 

「…………あっ……!?」

 

 されど……何故か。

 一言も発してはいないのに、いきなりウィズはハッ! として何やら慌て始めたではないか。

 脈絡も無いその行動に対し、当然ながらカズマから質問が飛ぶ。

 

「どうしたんだ?」

「その……私の、リッチーのスキルは対象者が居なくては使えない代物でして……。で、ですから教示するには誰か、もう一人スキルを試す為の人物が居なくてはいけなくて、ですね……?」

 

 要するに、彼女一人がただ単にスキルを発動させても、それだけでは効果の程も分からず教えたことにならない、つまり覚えられない―――という事らしい。

 カズマは覚える側、ウィズは他ならぬ当人なので論外。

 ……そうなると残りは、恐らくカズマが一応の保険として連れて来ているアクアか、ウィズの店の常連として手伝っていたレシェイアの、二人のみ。

 

 安全性を考慮するのならアクアの方だが、しかしアンデッドガーと言い出して滅茶苦茶になるのは必定だ。

 だからこそ一抹の、純粋な方の不安こそ残るものの、確実性を選ぶのなら当然レシェイアの方になる。

 カズマが選ぶのは……果たして。

 

「―――レシェイア。ちょっと頼んで貰って良いか?」

「アタシ? ……う~ん……」

 

 流石に対象となるのは嫌なのか、それとも何か別の理由でもあるのか、レシェイアは顎に手を当てて思案しめる。

 数秒ぐらい悩み、カズマがやっぱりアクアにすると言い出しかけた、その時を狙ったかのように彼女は諸手を上げた。

 

「りょ~かい♪ アクアだと話まぁた拗れるしねぇ、アタシが妥当れしょ。うん」

 

 拗らせる自覚はあるらしく、アクアは不満タラタラの顔で、されど何も言い返さない。

 

「だ、大丈夫ですよレシェイアさん。今から使うのは『ドレインタッチ』で、ちょっぴりしか吸いませんから」

 

 そのままウィズの手を取り、店主の方から忠告がとぶ……

 

 

「……ねぇ、ウィズ」

 

 ―――その前に、何故かレシェイアは少し声を落して、こう語りかけてきた。

 

「今からアタシに何があってもぉ、“絶対に驚いたりし()い”で? 良い?」

「へ?」

「お願い。良~い?」

「え、あ……は、はい……」

 

 意外と真剣さが混じっており、思わず頷き返すウィズ。

 どうしてそんな事を言ったのかが良く分からず、ウィズは不思議そうに首を傾げながら、レシェイアの手を握り返す。

 

「では、いきます」

 

 数秒程の溜めがあり、ウィズが途中、若干目を見開いてはいた。

 が―――次の瞬間。

 ウィズの手が淡い紫色の光を纏い、同色の粒子がレシェイアの方からウィズの方へと、小さくゆっくり……しかし確実に流れていく。

 

 『drain(排出)』の名の如く己をパイプとし、何かの力を移動させている様子らしいが、ウィズは勿論、レシェイアの方にも今のところ対して変化はない。

 普通ならここでアクアが耐えきれずに嫌みタラタラにこきおろしたりするのだろうが、ウィズ本人がちょっぴりしか吸わないと言っていたのでだんまりを貫いている。

 

「それでウィズ、これはどういったスキルなんだ?」

「…………」

「……ウィズ。……おい、ウィズ?」

 

 声を掛けるカズマに反応せず、ウィズは『ドレインタッチ』を行った最初の格好のまま、固まってピクリとも動かない。

 それもその筈―――内心では、かなりの驚愕に見舞われていたからだ。

 それこそ、レシェイアの前置きがなければ、絶対に声を上げていた程に。

 

(吸い難い……ううん、吸い『難過ぎる』……? 最初の力じゃ吸えもしなかったし、もう少し力を入れても量がちょっぴりしか変わらないなんて……レシェイアさんは抵抗なんかしていないのに、何故……?)

 

 お願いされた手前、口に出す事も顔に出す事もしてはいないが、カズマの問いかけに答えないだけでも十二分に怪しい。

 

「ウィズ~っ。力量差から吸い過ぎない様に集中するのは良いんらけどぉ、カズマ心配しちゃってるんらよ~」

「あ……す、すいません! ついうっかり……」

 

 レシェイアの一言で返って来られたものの、これ以上続いていたら本格的に疑われていた所であった。

 カズマも彼女の言葉で納得したらしく、特に奇妙だという顔はしていない。

 アクアはなんという物騒なスキルかと口に出して呟いてはいたが、妨害自体はしていない。

 

「では改めて。―――このスキルはですね、端的に言えば相手の魔力や体力を吸い取ったりできるスキルです。失ったスタミナや魔力の回復に使ったり、逆に自分から与えたり、自分をパイプとして他者から他者へ受け渡したりもできるんですよ」

「おぉ、結構使えるじゃんか」

 

 アクアとめぐみんを繋げば爆裂魔法も連発できるだろうし、ダクネスから体力を貰えば長期の闘いにも耐えられる。

 ステータスだけは高いメンバーだからこそ、カズマが仲介となれば様々な活用法が見出せそうだ。

 

 問題はリッチーのスキルなど受け付けないと喚き、アクアが拒否するかもしれない事なのだが……。

 やっぱり問題は微妙に解決していないと、カズマは内心で溜息を吐いた。

 疲労のたまる状況ばかりな所為で、先程からカズマは溜息のバーゲンセール状態である。

 

「では次のスキルを―――」

「気が変わったわ。リッチーのスキルなんて受け付けないけど、レシェイアが危険かもしれないし、私が相手になるわよ。ほら」

「や。れもさぁ、アクアだと……」

「良いから良いから、ほら」

 

 アクアがレシェイアと強引に代わるのを横目に、カズマは冒険者カードの習得可能スキル欄にある『ドレインタッチ』を探した。

 日頃から使えるスキルを探しまわっている都合上、下の方にあるのか選ぶまでちょっと時間が掛っていた。

 

「つ、次は相手を状態異常にするスキルなど……」

「へぇ? 中々便利なんじゃない? ほら、やってみなさいよ」

「では失礼して………………あ、あれ? あれぇっ?」

「……フッ」

「あれえぇええぇぇっ!?」

「ほれ、何やってんの

「あたっ! ―――だ、だってやっぱり無理なのよ! これ以上リッチーのスキルを覚えられるなんて、とても耐えられないもの! それに私は抵抗なんてしてないわ、ただ羽衣が状態異常を無効化しているだけよ!!」

「それはそれでどーかなー……?」

 

 横では何やら(一方的に)姦しく会話が繰り広げられているが、如何もこれ以上のスキルの習得はポイント的な問題以外でも厳しそうであり……1つ習得した(しかけた)だけで既に難航し始めているのが窺えた。

 ……そしてどうやら叩かれながらも手は放してなかったらしく、会話はそのまま続行する。

 

「あ、アクア様? ダメだと分かったのでもう手を離して欲しいのですが……というかその、ちょっとピリピリしてると申しますか……その……」

「…………」

「何だか熱いと言いますか……痛いと言いますか、その、ピリピリでは済まなくなってきて本当に痛いというか、本当に痛いです! 浄化が始まってますって放してぇっ!?」

「いい加減にせいや」

「腕ええぇえぇっ!?」

 

 放たれた手刀で繋いだ手を打たれもんどりうつアクア。

 更に後頭部を床で強打。

 来店時の再現か星を飛ばしまたも頭を抱えて転がり回っていた。

 ウィズもウィズで先の『ターンアンデッド』の件とは違い、薄くなってこそいないし立てない程ではないものの、少しながら苦しそうである。

 

 流石に痛いと言ったら離すか? と思えばこれなのだから、こりない性分は無駄に健在なのが窺えた。

 少なくとも、消させたくないと思っている人間が一人居るのだから、後に痛い目を見るのは分かり切った事だろうに。

 

「はぁ……」

 

 何度目かも知らぬ溜息を吐きながら、カズマがようやく見つけた『ドレインタッチ』を選択肢、スキルを無事に習得する。

 

 その時だった。

 

「すみません。店主さんはいらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というわけでして」

 

 入店してきた中年男性は、ウィズに頼みごとがあってきたらしい。

 それは何でも……。

 

 

「「「「悪霊?」」」」

 

 ―――詳しく説明するなら。

 

 中年男性の職は不動産業であり、このアクセルの街で幾つかの物件を扱っているのだとか。

 以前まではこの小さい街でも順調に商い出来ており、このまま少し場を広げるかと思っていた矢先……困った問題が一つ上がったのだ。

 それが先程、四人が異口同音で発した『悪霊』の事である。 

 

 つい最近になって何の脈絡も無く悪霊が大量発生して、ここぞとばかりに空家へ住み着いているらしい。

 冒険者ギルドにも討伐依頼を出したが……倒せど祓えど湧きでて来る所為で、もう既に打てる手など無く、文字通りのお手上げ状態。

 今では物件の除霊が精一杯で、碌な稼ぎも得られない、俗に言う『骨折り損のくたびれ儲け』ばかりだという。

 

「じゃあ、ウィズの下に来たのって……」

「ウィズさんは今でも高名な魔法使いでして、商店街の者等はよく相談に乗って貰っていますし、特にアンデッドがらみではとてもお世話になるんです」

 

 そりゃあ、本人がリッチーだしなぁ―――と、カズマは内心で納得していた。

 少なくともこの件に関しては適任であろう。……だが。

 

「しかし……ウィズさん、今日は具合が悪いのですか? 何やら体が重そうで……いつも以上に青白い顔をしていますが……」

「「…………」」

 

 カズマとレシェイアが無言、加えて責めるでも嘆くでもない“無”の瞳でアクアを見ると、彼女は気不味そうに目線を逸らした。

 

「大丈夫ですよ、任せてください。街の悪霊をどうにかすれば良いのですね?」

「いえ、街全てではなくてですね……例の屋敷を、どうにか出来ればと」

 

 例の屋敷がなんなのかカズマは気になったが、その前にウィズが『例の屋敷ですか、では悪霊だけを何とかすれば良いのですね』と納得して歩き出し……少しふらついて立ち止まった。

 

「ほ、本当に大丈夫なのですか!?」

「あ……は、はい心配いりませんから。仕事に、差し支えは有りませんので……」

 

 確かに少しよろめいただけではあろうが、これから仕事をするとなると、差し支えないでは済まないだろう。

 何せ、浄化を受けただけに留まらず、施した相手がよりにもよって天敵の“女神”なのだから。

 

「「…………」」

 

 傍にいた二人の、片方は全く熱の籠らない、片方は顔を寄せられて直に覗きこまされる目に、これ以上はもう耐えきれなくなり―――

 

「わ、私がやります……」

 

 アクアが挙手し、依頼を受けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数刻後。

 

 カズマがアクアとめぐみんとダクネスを連れ、郊外に佇む屋敷へと足を運んでいた……その頃から更に夜が更けて。

 

「ングッ……アタシもアタシで出来る事をやろうかな~、ウィッ……ウゥ」

 

 星の輝く夜空の下で、レシェイアは透明な液体の入ったカップ酒を片手に一人、街の外をうろつき、それでも時折目を閉じ何やら探っているらしかった。

 

 

 除霊の依頼を遂行するには夜半過ぎまで待たねばならないが、レシェイアは元より除霊をするつもりなどないし、出来もしない。

 ……実際はかなり強引な力技を用いねば出来ないが正しいのだが、アンデッドのエキスパート足るアクアが居るのに、態々そんな荒療治をする必要も無いだろう。

 

 では何をしようとしているかと言えば―――――しつこい臭いは元から断つとの通り、悪霊大発生の原因を探ろうとしているのだ。

 ギルド側も既に動いているのだが、こんな初心者の街に本格的な調査員が来る筈も無く、加えてごく最近発生した案件の為、職員が仕事の合間をぬって行っている。

 つまり効率が良くないらしく、だからこそレシェイアも独自に調査を行おうと決めたのだ。

 

「……元々が人なら『探知』の術式(じゅつひき)が使えるれしょーし……よぅひ! ……ヒック」

 

 『探知』の術式とは、本人の近くよりもさらに広い範囲の気配を、漠然的にだが捉えられるというモノ。

 使用上、自分と同等以上だと効果が薄くなるし、宛ら『ソナーレーダー』の様な物なので常時展開する事も出来ない。

 しかし応用すれば、小数人に限定されるが気配の“揺れ”すら感じ取り、駆け付ける事も出来るのだ。

 当然修業も必要で、俗に言うマーキングも必須なので、今のカズマへレシェイアは使えない。

 

 兎も角、今回の様な件では《微弱で、生まれては消える、量の多い気配》を手繰れば良いので、ただ単に曖昧に捉える事しかできない『探知』でも役に立つのだ。

 第一そこまで不自然な発生の仕方なら、通常の冒険者だとしても目に着くだろう。

 

「…フゥ……」

 

 定期的に目を閉じているのはその為であり、やがて目星がつき始めたのか、ニヤリと笑って額に手をやり『探知』を始める。

 

「さぁて、何が出るかな? 何が出るかな、何が出るかな!」

 

 大いにふざけているとしか思えないセリフを吐きながら。

 それでもその直後に台詞はピタリと止み……一度、二度、三度、短く鋭く息を吐きながら、徐々に徐々に特定していく。

 

 やがて、呼吸も自然に止まる。

 

「……あ~った」

 

 再度ニヒルに笑ってとある方角を見やると、そのまま迷うことなく駆け出し始める。

 景色を後方へ流し、風を突き破り、走って走って向かう先は…………。

 

「変な言い方なんらけろ~……お馴染な場所、かなぁ?」

 

 なんと、『共同墓地』。

 以前ウィズとレシェイアが、そしてカズマ達とも初めて出会った場所であり、今はアクアが時折やって来ては除霊をしている為、無害にも等しい場所であった。

 アンデッドも湧き出てはいないし、誰かが来ている様子も無く、景色事態に変化は見られない。

 

 傍目からでは特に何も変わってはいない、何時も通りの共同墓地だ。

 ……ある一つの、無視できない位に大きな『異変』 を除いては。

 

 

「―――何か“結界”張ってあるし」

 

 そこには墓場全体を覆う程の規模を誇る真白な魔法陣が敷かれ、天へ向けて同じく純白の結界が伸びているのだ。

 辺りへ神聖な雰囲気が漂う所からして、恐らくプリーストが張った物だろう。

 

「盲点、らったんらねぇ~……」

 

 離れていては解り辛く、場所も場所なので、ウィズの評判もあり誰も此処を疑いすらしなかったのだろう。

 そもそもこの共同墓場から悪霊が舞い出たのなら、流石に途中で気が付く筈だ。

 気が付かなかったのは悪霊発生の“ロジック”が関係していると、レシェイアはそう見ている。

 

「すーっと飛んできて、やがて街の方へ行くねぇ。ってことは、そういう事らね?」

 

 結界のお陰で可視化できる程になった魂は、レシェイアが口にした通り、粘り粘って居たり、すぐ諦めたりと違いこそあるものの、全て同じ道をたどっていた。

 つまりはそういう事。

 

 どこぞの誰かがこの結界を張った所為で魂達が行き場を失い、この墓場周辺をうろついている内にとうとう空き家などに住み着いてしまった―――それがこの悪霊事件の真相らしかった。

 ……そして、こんなデカイ神聖属性の結界を、訳も無くこんな場所に張るプリーストなど、ただ一人を除いて他に居ない。

 

 そう、其の者とは―――!

 

 

 

「また“アクア”らのね、コレ」

 

 これに尽きた。

 

 つまり今回の悪霊騒ぎと、屋敷の除霊依頼は、他ならぬ『アクアの物臭』から来るマッチポンプに他ならないという事だ。

 懲りない女である。

 

「……報告入れよ、それが先らね、うん……ウィ……うん」

 

 取りあえず脱力しそうな体を何とか支え、一先ずギルドの職員へ連絡を入れるべくレシェイアはギルドに戻った。

 飲んでいる者こそいるが、それに加わりたいのかソワソワしつつもグッと無視し、空いていた受付窓口に佇むルナへ開口一番、悪霊の件を口にする。

 

 最初こそやっぱり唐突過ぎて疑っていたものの、現場を見た事で事実だと理解し驚いていた。

 

「こんな所にあったとは、灯台元暗しという言葉を聞いた事がありますが、正にその通りですね……」

「ん。ビックラこけたよねぇ? ……で、アタシどうすればいい?」

「道具を持っていらっしゃれば、臨時報酬ありという事で結界を消す依頼を出しますが……」

「じゃあやっていい?」

「分かりました。それではお願いします」

 

 アクアの知りあいである事を踏まえ、その手の道具を持っていると判断したのか。

 それともルナが知っている彼女の『謎ばかりなステータス』に鑑みての事なのか。

 どちらにせよ任せるという意志を示しこの場を託した。

 

 

 ―――そしてルナが共同墓場から去っていくのを見やり、姿が消えたのを見計らってから……レシェイアは一つ溜息を吐く。

 

「……そりゃ~予想なんて付からいし、アラシも人の事言えないんらけどさぁ……れも“これ”は無いれしょ、“これ”は。一つの行動が良い方ばかりに働くかは分からないんらよ?」

 

 ぶつくさ言いながら、最近は冬将軍以来トンと見なかった『翠一色のマン・ゴーシュ』を取り出し、刀身を地面に突き刺すとまるで結界を両断するみたくラインを引いて行く。

 

 神聖属性の結界は、結界という名ではあるものの防御機能を持っていないらしく、レシェイアへ多少の違和感こそ感じさせたが……別段、難もなく端から端まで線を引くことに成功していた。

 

「じゃ、やりますか」

 

 カツン……と鈍い音を立てつつ手を止め、合言葉の如く、レシェイアは声を発した。

 

「―――【止まるよ殻壁(ニーグラ)】……っとぉ」

 

 刹那、巨大キャベツ『親玉キャベツ』を受け止めた際に現れた、緑色のホログラム壁が姿を見せる。

 薄く天へ伸びる緑色の長方形は見事に純白の結界を両断し、なんとか繋がろうとスパークし始めた神聖な力をも抑え―――やがて維持できなくなったか、結界は脆くも消えていった。

 

「こう言う使い方もあるんらよねぇ~……ちょっち、色々と面倒なんらけど」

 

 たった数分で消した、仰天な凄技を行った、その本人は……。

 

「久しぶりに飲んでこ♫」

 

 何時もぶら下げているバッグからワインを数本取り出して、ラッパ飲みし始めるのだった。

 

 

 

 

 ―――翌日―――

 曰く……アンナ=フィランテ=エステロイドとか言う女の子の霊が居るとアクアが言い出して不安になっただの。

 その霊が自分のお酒を飲んだと大騒ぎして、どうせ自分の所為なのにアクアが皆を無駄に起こしただの。

 めぐみんとのトラブルがあったり、ダクネスが血気盛んに走りまわったり、アクアがまたも頭部を強打しただの。

 そんな珍事こそあったものの、カズマ達は臨時報酬を受け取れることとなったらしい。

 

 

 が……その直後に悪霊事件が自分の仕業だと分かったアクアが、『夜に行くのは寝る時間も減って面倒くさいし、住み場所をなくしてやれば適当に散って居なくなるかと思った』と珍しく敬語で表明、及び謝罪。

 結果、報酬は自分から辞退し、不動産屋へ謝りに行ったのは、言うまでも無い。

 

 

 ……レシェイアもまた、微妙な大馬鹿をやらかす。

 なんと変に盛り上がり一晩かけて酒盛りしていた為、結果的に一晩かけてせっせと結界を消してくれていたと勘違いされたのだ。

 そして懲りずにまた迷惑をかけたと、迷う事無くカズマとアクアがレシェイアへ土下座し、なんだか申し訳なくてレシェイアすら報酬を受け取らなかったのも―――また言うまでも無い(?)事だろう。

 

 




―――次回。

此処からまた少し、原作とは異なる展開となる予定です。
章タイトルからも、推測できるかもしれませんが……



それではまた。

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