素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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今回は原作準拠の話にレシェイアをプラス。
更に、ちょっとした伏線らしきものを、盛り込んでいます。

ソレではどうぞ。


ウィズの真実

 とある日。

 着々と成長を続けている冒険者・カズマは……何時も息を吐く様に仮初の平和を崩しては、反省もせず学ぼうともしない駄女神・アクアを連れて、アクセルの街の『ある場所』を訪れようとしていた。

 

 今日のクエストはまたもお休みなのだが、一応この場にはいないダクネスに確保を頼んで貰っており、確実とは言えないが安心ではある。

 めぐみんも……かと言えば実は違い、一人で何処かへ出掛けているらしく、彼等の知る場所には居ない。

 何をしているのかは気になるが、場所も知らないのでカズマは放っておくことにした。

 

 

 

 閑話休題。

 さて……今向かっている場所、そこはウィズの魔道具店なのだが……なにかしらの強敵対策か? と言えば違い、そして実の所、事自体はそう複雑ではない。

 

(見逃して、約束しといて良かったな……どんな時に運が向くか分かんないもんだ)

 

 ……というのも、カズマは己のパーティに不安を感じ、“とあるスキル” を教えてもらおうとウィズの店に寄ろうとしているのだ。

 今までの、アクア、めぐみん、ダクネスといった、ポンコツ三人娘に鑑みれば、不安を感じるのも無理はない。

 

 アクアはダクネスの防御力の所為で、回復魔法の出番がまるで無い。

 ゴッドブローなどの近接技も使いどころが悪過ぎて本当に役立たず状態。

 

 めぐみんの瞬間最大火力はこのパーティどころか、アクセルの街含めても随一の高さを誇る。

 が、反面一日一回こっきりで範囲も広すぎ、使いどころがかなり難しい。

 

 ダクネスは防御スキル一辺倒だが筋力はあるので運良く当たれば儲けもの。

 だが、基本はモノホンの『棒振り』で当てようともしない為、そこを計算に入れるのは厳し過ぎる。

 

 レシェイアは不定期参加で気紛れ有りの為、早々期待してばかりもいられないだろう。

 

 

(そうなると、結局は俺……自分頼みってわけか……)

 

 ―――つまるところ、カズマは『安定した火力』が欲しい。

 補正の無い冒険者では剣だと心許無く、だからこそリッチー経由でスキルを覚え、火力を底上げしようと言う魂胆なのだ。

 

 それに先のダンジョン探索では、道中の防衛にめぐみんが居た事で危険を顧みず、本来の目的の方に精を出せたのだとか。

 更にダンジョンには欠かせぬ専門職である盗賊職のクリスと、着いて行くと聞かなかったが今回は中々役に立ったアクアが居たのだから……まあ帰りに一騒動こそあったものの、中々に安定して金銭稼ぎ&経験値稼ぎが出来ていた。

 

 それに最奥にはリッチーが居たり、浄化してくれと本人から頼まれたアクアが眼を爛々と輝かせたり、なのにクリスが話も聞かずに短刀を構えて突っ込んでいこうとしたり。

 ダンジョンを作った張本人がそのリッチーだったり、挙句の果てにはそのリッチーはお嬢様と逃避行をしながら多人数とドンパチやった猛者だったりと、思わぬ展開すらあったのだ。

 

(意外な大冒険てのは、まさにあの事だよな)

 

 ―――ちなみにダクネスは本気でお荷物だったらしい。

 

 とにかくそんなこんなでスキルポイントが溜まった折り、ふとゾンビメイカーの件で知り合った店主・ウィズが《スキルを覚えたいなら協力する》と旨を口にしていた事を思い出した為……彼女の魔道具店を訪れることとしたのだ。

 

 

 ……しかし。

 もし、彼らの事情を知っているのならば、かなり変だと思える点が一つ。

 先に説明した、彼の “連れ人” だ。

 

「ねぇカズマ。これから何処へ行くのよ?」

「いいから、まずは着いて来いって」

 

 そう。

 アンデット等からすれば触れるだけでも浄化されかねない天敵であり、同時に我らとは相容れぬ存在だと激しく嫌悪してくるプリースト―――アクアが同行している事。

 ダンジョンリッチーの件では需要と供給が成り立っていたので(こじ)れも後腐れなかったものの、何かと悶着のあった気弱なウィズ相手でどうなってしまうか、ソレこそ想像に難くない。

 

 理不尽に怒るだけ怒って消滅・浄化・ターンアンデットの理不尽三択なアクアと、少しはキレても良いのに平謝りを続けてしまうウィズとの相性は、文字通り“最悪”としか言えぬだろう。

 なのに何故、アクアなど連れて来ているのだろうか……?

 

 

 

「よし、ここだ」

 

 歩くこと数分掛け、ウィズの店の前に辿り着いてから、カズマはドアを開ける前に振り向きアクアとしっかり目線を合わせて……真剣な様子で口を開いた。

 

「いいか、アクア。今の内に言っとくが―――暴れるな、魔法使うな、喧嘩するな、相手の話を聞け、無駄にいびるな―――これを絶対に守ると約束してくれよ? じゃないと最悪この日だけじゃ話が進まん」

 

 カズマの言い分に、アクアは予想だにしていなかったのか暫し呆然。

 ……なんとか我に返って反論し始める。

 

「ねぇカズマ。本当に私の事何だと思ってるの? チンピラとか悪ガキとか、クセの悪い犬か何かなの? 理由も無くそんな事する筈ないじゃないのよ、私女神よ?」

 

 普段からトラブルばかり起こしておいて、それを繰り返し続けているのに未だに半分も反省しないタチの悪さ存分に見せておいて一体どの口が言うのかとツッコミが入りそうな言い分で文句をたれながら、カズマを睨み付け唇を尖らせるアクア。

 

 そんな彼女を引き連れて、カズマはウィズの店の扉を開けた。

 カウベルがカランカランと軽快に鳴り、来客を告げ、ソレに気付いた店主がニコニコ顔で奥から出て来た。

 

 

「ウィズ魔道具店へようこ……あぁっ!?

「ん? ―――ってぁああああーーーーーーーっ!!!

 

 

 ……何時ぞやのクエスト失敗をデジャヴさせる、とてもけたたましい騒音を口から迸らせる。

 そして暴れ回るように地団太を踏むと、音を立ててアクアはウィズに詰め寄り胸倉をつかみ上げた。

 

「店を開いてるってのは前に聞いたわ! 聞いたけど……何なのよこの店!?」

「な、何なのと言われましてもぉ!」

 

 カズマの警告を破るまでの記録、実に『1秒弱』。

 これでも、日頃を考えればもった方……なのだろうか?

 

「どうせボロっちくて、カビだらけでコケ生えまくって、変な音が夜な夜な聞こえる妙にクッさい小屋かと思えば!」

「えぇっ!?」

 

 実に理不尽極まりない理由で喧嘩をふっ掛られ、ウィズは混乱もあってまともに反論できず、涙目であたふたしている。

 

 カズマは静かに、無言で剣の柄に手を掛けると、鞘ごと引き抜……こうとして、途中で止めると棒立ちになった。

 何故なのか―――。

 

「それがっ……それがこんな、立派な一戸建ての店ですってぇ!? あんたリッチーのくせに生意気よ!! こんな店、女神の名の下に燃やして」

 

「営業妨害!!」

「やるノブゲホゴッ!?

 

 剣を収めたその理由が、今正に理不尽の極致をお披露目しようとしたアクアの頭へ落ちてきた。

 

「はーいお客さ~ん。酔って絡むのも大概らけどぉ、奇妙な私怨で絡むのは、も~っろ駄目よ? ダメダメよぉ? アヒャヒャヒャ……ウィッ」

 

 無駄に飛びあがってから繰り出された、嫌に威力の高い、酔いどれの頭突き。

 カウンターの奥にいたらしいレシェイアの、ウィズをも沈めた一撃が。

 

 

(あ~ビックリした、何処のチンピラが来たのかと……いや、ある意味チンピラだね、うん。っていうかカズマも居るのに、こりないねぇ)

 

 実はレシェイアは先ほどから、今日も用事がないからとポーション買いのついでにと整理を手伝っていたのだ。

 ……どうもウィズは本当に商才関連が底辺らしく、物品も結構乱雑に置いてあったため、偶には良いかとレシェイアが並べ替えていたらしい。

 そして、けたたましい声が聞こえて覗き込んでみれば……案の定アクアがウィズにからんでおり―――先の落下式の頭突きに繋がったのだろう。

 

 

 彼女が駆けて来る姿を見たから、カズマも自分でぶっ叩くのを止めたのだろう。

 この店の常連らしい事はカズマも聞いていたので、今居ても何ら不思議に思う事はない。

 

(まあ、ちっとは驚いたんだけどな……まさかカウンターの向こうから来るとは)

 

 それでも言葉を浮かべた通り。

 店の奥から出て来る事自体は、予想外だったであろうが。

 

「~~~~~ッ!!?」

 

 一方で頭突きをモロに受けたアクアは、変な声を上げてバッタリ床に倒れ伏す。

 以前の共同墓地でも見切れなかったその差に加え、ウィズに注視していた今では受け身や準備すら出来なかったようす。

 

 だからこそ声も上げられないぐらい痛かったらしく、頭を抱えて一言も発さない。

 

「え、えーと……へ?」

 

 未だポカンとしているウィズに……カズマは苦笑しながらも、気さくに声をかけた。

 

「ようウィズ、久しぶり。この前のスキルの件で話に来たぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 店内に備え付けてある椅子に座り、テーブルに頬杖を突きながら、納得がいかない雰囲気をぷんぷんさせるアクア。

 

「……ふん。お茶すら出ないのかしら? この店は」

 

 かと思えばスカした笑みを浮かべ、陰湿なイビリ文句を口にする。

 

 

 ―――が。

 

「や、ここ魔道具店らって。お茶の飲みたいなら喫茶店行ってちょ~らい♫」

 

 ウィズが素直に受け止める前に、レシェイアがきっちり先回り。

 更に、チッチッと指を振っている方と逆の腕でウィズを掴んでおり、ウィズの焦燥からの先走りすら見事に潰されていた。

 

「ちなみにお隣れす……ビックラこく程近かった!」

「言いたいこと先回りするのやめてくれない!?」

 

 そんなやり取りをしている横で、カズマはポーションを手に取ってみる。

 魔道具店など初めてなのか、その表情には隠しきれないワクワクが浮かんでいた。

 

「あっ、そのポーションは開けると爆発するので気を付けてください」

 

 ……レシェイアからひとまず解放された、ウィズの一言で台無しになった。

 そっと棚に戻してから、別の赤いポーションを手に取り……。

 

「あ、それは水につけると爆発するのですが」

 

 ……静かに戻してから、今度はニ色に彩られた瓶を手に……

 

「あぁ、それは暖めると爆発を―――」

「爆発物しか置いてねぇのかここは!?」

「い、いえ! 爆発ポーション専門の棚というだけです! 他の物もちゃんとありますよ!」

「…………爆発専門て何だよ」

「レシェイアさんが良く買って行って下さるので、別に専門でも大丈夫といいますか……」

「は? ……って、いやいやこんな事してる場合じゃなかった」

 

 一体何しに買っていくのか気になったカズマではあるが、途中で本来の目的を思い出す。

 まさか『味が気に入ったから飲む為に買っている』など聞いたら、もう話が膨れ上がって止まらない可能性が高く、幸運だったと言えよう。

 

 そして自分で入れたのか茶をすすっているアクアと、ここまで香る程に強い麦酒を飲んでいるレシェイアを横目で見ながら、改めてウィズへ話を切り出した。

 

「ウィズ。実は今日は買い物に来た訳じゃない。前に共同墓場で言っていた、約束の件で来たんだ」

「約束、と言いますと……」

「ああスキルの事だ。ポイントへ余裕ができたし、リッチーのスキルを教えてもらお」

 

「ブフゥーーーーッ!!!」

「わ! 汚いっ!?」

 

 カズマが一言いいきる間もなく、アクアが盛大にお茶を吹きレシェイアが素面に近いリアクションで大袈裟に飛びのく。

 ……それでも数秒後には酒を飲み始めるあたり、変な所で切り替えが早い。

 

 だが、酒を飲むだけでは済まないのがアクアの方だ。

 

「ちょちょちょっとカズマ! あんたリッチーのスキルを覚えるって、なに考えてんのよ!? コイツらのスキルなんて碌でも無い奴ばっかりなんだからね!? 何せナメクジの親戚みたいなやつらなんだから、それだけでも理解できるでしょ!?」

「ヤクザの直系みたいら人にぃ、言われたか無いだろうけろね~」

「誰がヤクザよ誰が!!」

 

 アクア自身は必死に否定して……いるものの、今までの行いから想像したカズマは賛同するように小さく頷いていた。

 

「それに!」

「分かった分かった。ナメクジでもカタツムリでも何でも良いよ。兎に角リッチーのスキルなんて普通は覚える機会すらないんだし、アンデッドの王ってならそれだけでも結構強力そうだしな。お前だって今のパーティじゃ、強い敵が複数で出てきたらもう終わりなの分かってるだろ?」

 

 カズマの言い分自体は理解できるのか、アクアは珍しくムキになって反論せず、唇を尖らせ始める。

 

「…………女神である私としては、その神の従者がリッチーのスキルを覚えるなんて、全く見過ごせるものじゃあないんですけど……」

「誰が従者だ、誰が」

「どっちかというと飼い犬と飼い主らね」

「なんで例えが犬なのよ!?」

 

 未だそうグズるものの、カズマとレシェイアに取りなされ、渋々ではあるがアクアは引きさがってくれた。

 

 ……が、今度はウィズが少しばかり驚いた顔で、カズマへと質問し始めた。

 

「女神としては、って……以前のターンアンデッドの威力もありますし、まさか、本物の女神様と?」

「えーと、それはだな……」

 

 他ならぬカズマ自身が、アクアの余りの駄目っぷりに神である事自体を信じられなくなってきているのだが、流石にリッチークラスともなれば神聖なオーラぐらいは見抜けるのだろうか。

 

「ええ、そうよ。あなたなら言い触らしたりしないでしょうから、特別に名乗っておくわ。私こそアクシズ教が崇め讃えし御神体にして水を司る女神、アクアよ!!」

「ひいいいぃぃぃぃ!?」

 

 名乗っただけにも拘らずウィズは大袈裟に驚き、先のお茶吹きの件でアクアからそれなりの距離を取っていた、レシェイアの背にサッと回り込んだ。

 カズマの方が近かったのにそちらを選ばなかったのは、別に彼が信用ならないという訳ではないだろう。

 ……念の為。

 

「おいおいそんなに驚く事か? 別に俺やレシェイアもいるんだし、幾ら水と油の関係だからってそこまで退け腰になる事は……」

「い、いえその……確かにそれもあるにはあるのですが、一番は、えっと……アクシズ教団の方々は頭のおかしい人や犯罪未遂者が多く、関わり合いになってはいけない等世間の認識がありまして、その元締め様なのですから思わず…………」

 

 ウィズが言い終わったと同時にアクアが、宛ら烈火のごとき勢いで立ちあがり……!

 

「アンタなんですっ―――」

「あぁ納得、うん。ちょお納得……うん」

「―――ねぇレシェイア。気の所為かさっきから扱いが酷くない?」

 

 酔っ払いの言動で即行、鎮火させられる。

 されど話は一向に進まない状況に変わりはなく……カズマは頭を抱えていた。

 

 

 

 ―――そんなこんなで何とかアクアをウィズから引き離すと、レシェイアに監視を頼んで店内を見て回らせる事にし、カズマは漸く本題に入れたと安堵の溜息を吐く。

 

 そんな彼の対面に立ったまま、ふと思い出した様にウィズが口を開く。

 

「そういえばカズマさん達、あのベルディアさんを倒されたそうですね?」

「まあ、めぐみんの爆裂とかダクネスの堅さとか、レシェイアの妨害とかのお陰だけどな」

 

 ……オマケに借金負ったし。

 その一言を何とか呑み込んで、ウィズの言葉に耳を傾けた。

 

「しかし、あの方は魔王軍の中でも1、2を争う程の剣術を誇っていた筈です。多人数だったとはいえ、アクセルの街の人達がベルディアさんに勝つのは凄い事ですよ?」

「……なぁ、ウィズ。さっきからベルディアさんとか、あの方とか、なんかアイツを知ってるみたいな言い分なんだけど……」

「ああ、言ってませんでしたっけ? 私は魔王軍幹部の内一人なんです」

 

 カズマが抱いた疑問に対し、ウィズは世間話するような気軽さでニコニコしながらそんな事を宣い……刹那に凍る場の空気。

 

 更に背後からドタドタドタッ! と喧しい音が鳴り響き―――!

 

「確保ブヘェッ!?

 

 その音源(アクア)がブチュッと頬を潰されつつ、見事に壁へはり付けられた。

 

「どういう事らの? ウィズ?」

 

 暴れに暴れどそのはり付けている張本人、レシェイアの方が強いのか全く抜け出せていない。

 そしてそのレシェイアは未だに酔いの抜けないままに……しかし幾分か真剣な様子で彼女を見つめていた。

 

 カズマも少し目を細めながら、しかし油断なく口を開く。

 

「……幹部ってどういう事だ? 事と次第によっては、俺も冒険者の端くれだし見逃せないんだけど……」

「ちょっもカジュマ! ションな事聞いぺないれ、早く捕まえましゃいよ! 宿らいと借金へんぶ返しぇるわよ!? ……ってかはやくおろひてレシェイア!!」

「嫌ら」

「やっぱ扱い酷くやい!?」

 

 発音のせいで可笑しな会話文となっているものの、自分が何を事を口走ったかを今更に自覚したようで、ウィズは慌てて説明し始めた。

 

「ス、スパイ何かじゃありません! 城を守護する結界維持にと魔王様に頼まれたんです! もちろん今まで人を襲った事もありませんし、殺したことだってありません! そそ、それに本当の幹部じゃなくて、賞金すら掛ってない “なんちゃって幹部” みたいなものですから!!」

「にゃに言っへるか良く分かんないひ、この街の為の浄化してやるわ! ……らから降ろしへっれば!!」

「嫌ら」

 

 無情に突っぱねられる懇願。……アクアが出張ると話がなかなか進まなそうなので、レシェイアの判断は強引だが正解とも言える。

 うっかり彼女が速攻で浄化魔法を唱え、店主消滅では目も当てられないだろう。

 それにウィズからちゃんとした説明を聞かねばならないので、尚更こじらせる訳にはいかない。

 

「えーと……つまりはアレか? 幹部全員を倒さないと城への道が開けないとか……で、その為の結界維持をしてるって、そういう事なのか?」

「そ、そうです。人里で店を経営する事自体は止めないから、せめて結界の維持を頼めないかと、そう魔王様に言われまして……に、人間に倒されないだけでも十分に助かるからと」

「ちゅまりアンタを倒しゃなければ魔王城へは永遠に(しぇ)め込め無いっへことね! ほれレシェイア! 手を離す理由が出来たれしょ!」

「…………」

「ちょ、遂に言葉を発しゃ無くなった!?」

 

 だが返したくないというより内容の詳細気になる……というのが正しいようで、レシェイアが少し細めた眼でウィズの事を見ている。

 アクアの言も正しい事を理解したうえでの反応なのだろう。

 それに気が付いたウィズは、一旦落ち着いた焦燥を再燃させ、必死に言葉を紡いできた。

 

「あ、アクア様の力なら! 女神そのものであるアクア様の力を持ってすれば! 二、三人程度で維持する結界なら充分壊せます! そ、それに結界維持をしている魔王軍幹部は私含めて八人も居ましたし、私を倒しても後六人待っています!! せめて、せめて! 結界がアクア様の力で破れる程度になるまで、見逃してくださらないかと……っ!」

 

 顔を押さえ本気で泣きだしたウィズに、カズマ、アクア、レシェイアの三人は微妙な表情を浮かべた微妙な顔を見合わせた。

 

 そして、やっとこさ開放されたアクアではあったがやはり良心が痛むのだろう……そのままウィズには飛びかからない。

 答えを下さいとばかりに、チラチラとカズマとウィズの間で視線を行き来させている。

 レシェイアは―――。

 

「見逃してあげない? アタヒもさ……目の前で友達が消えるのはちょっとぉ……」

 

 珍しく、うっすらと笑みこそ浮かんでいるが、静かながらに真剣に頼みこんでくる。

 そして……カズマは決意し、頷いた。

 

「まあ、良いんじゃないのか? ウィズを倒す必要が特別に有る訳じゃあないんだし、それにアクアのお陰で幹部全員を倒さなくても良いんなら、誰かが倒すまで気長に待てばいいんだし……俺も知り合いを討つなんてやっぱ嫌だしさ」

 

 実の所、カズマの中には単なる良心だけでなく、打算的な思考もあった。

 

 自分のパーティが魔王軍幹部八人が内一人・ベルディアを倒せたのは単純に運が良かっただけだろうと、彼は推測している。

 今回の様なラッキーが毎回起こり得るわけじゃあない以上、ミツルギの様なチート能力を持った転生者達に幹部を減らして貰う方が無難と言える。

 

 そして自分のパーティでなければ中途半端な結界を破れないというのなら、情報さえ漏らさなければ、一番先に魔王城へ乗り込む為に他者と競う必要も無い。

 

 よって、魔王を倒せるレベルとなるまでは今の状態を維持した方が良いと、カズマはそう考えているのである。

 

 

 それにここへ来たのはそもそもスキルを覚える為。

 なのにそのスキルの元となる人物に消えられては、カズマのこの時間と道のりが無駄骨となってしまう。

 

「あ、ありがとうございます……有難うございます!!」

 

 ……そんな見方によってはちょっと姑息ともいえる考えなど当然知らないウィズは、涙をポロポロ零しながらに笑顔を浮かべた。

 

「でも良いのか? ベルディアが魔王軍幹部って事は一応ウィズの知り合いなんだろ? 倒した事とか他の奴等が倒される事に恨みとか、そういうのは……」

 

 流石に即答できず、ウィズは少しだけ悩むように俯いてから……しっかりとした口調で答えを出す。

 

「特別に仲が良かった方は2人ぐらいしかいませんし、どちらも簡単に倒されるような人でもありませんし……それにベルディアさんは手が滑ったぁ! って頭を転がしてきて、私のスカートの中を覗いて来るような方でしたから」

「オイ、何やってんだデュラハン」

 

 カズマ、アクア、レシェイアの声が見事に重なり、綺麗なハーモニーを奏でた。

 ……そりゃあ、アレだけ騎士道精神全開に見えたデュラハンが、その実ただのスケベ親父であったらツッコミが飛び出して当たり前。

 あの時のダクネスの眼も、多少誇張が入ってはいたが強ち節穴でもなかった訳だ。

 

「それに、ですね……」

 

 自分の胸に手を当てて、ウィズは何かを思っているのか少しだけ拍を作り……、

 

「私はアンデッドですが、心はまだ人間のつもりですから」

 

 ほんの少しだけ、寂しそうに笑いながら、そう呟く。

 

 ……様々な悶着を挟みに挟み。

 これで漸く、本題のスキル習得の方へ進む手はずとなったのであった。

 

 

 

(……ん? そう言えばウィズは『結界維持をしている』幹部は八人て言ってたよな? つまり『維持をしていない』奴が居るのか? ……ハハ、まさかな。ウィズの言い方の問題だよな)

 

 ―――カズマの心の中に少しだけ、棘となる疑問を残して。




次回は、スキル習得と幽霊屋敷の話になる予定です。

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