素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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……漸く投稿出来た!
やっぱり日が開くと怠け癖が付いて駄目ですね。
感覚が戻るまでまだかかりそう……。


では一つ、愚痴に近い余談を。

 オリジナルキャラとして主人公のレシェイア、まだ名称不明なゆんゆんの連れが居ますが、名有りのオリキャラはこの後もまだ出てきます。
 人数自体は2ケタにすら行かないし、かなり濃いと思うので、メッチャメチャにはならないかと。
 で、何故にこんな話をしたかと言いますと……実はそのキャラの中に、早く出したい奴が居るんですよね。

 日本からの転生者達みたいにチートで鼻高になりたいが為に暴れるかと言えばそうでもなく―――まあ要するに、兎に角厄介なタイプのキャラ。
 ただ、その人が出れば意外と話が進んだり、派手な方向へむけるのも簡単なので、その人の能力も含めて出したいと思っているんです。



―――では、改めて本編の紹介をば。
 今回は軽くオリジナルのエピソード。ウィズさんが久しぶりに登場します。
 ちょっとだけ、真面目(?)な要素も入れました。

 ……その前後で台無しになってるかもですが。


ではどうぞ。





ちょっとした休日

 パーティ交換事変(カズマ・ダスト命名)から、早五日。

 

「ん~……」

 

 珍しく一人で街の中を歩く、レシェイアの姿が見受けられた。

 相変わらず酒を飲み飲みフラついているが、最近はカズマ達といる事が多いため珍しい光景かもしれない。

 

 その肝心のカズマ達は今一獲千金を求め、洞窟系ダンジョン探索に出かけていた。

 

 何故一緒に行かなかったのかと言えば―――カズマ自身が『今回は勝算があるし、迷惑ばかりかけてはいられない』と断った為だ。

 元を辿れば金策に困っているのも、身内の不始末が招いた事なのだから。

 更にダンジョン探索にはダクネスの元パーティメンバー、以前パンツを剥がれた盗賊娘・クリスも付いて行くことになったので、レシェイアが必要ないという面もある。

 

「やる事あったら、やっちゃおっか♫」

 

 ――それにレシェイアもレシェイアで今までは余裕があるからと、放置していた『街の散策』に改めて手をつけるチャンスと捉えていた。

 故フリー状態になった今、目的を求めてぶらついているのである。

 

 

 

 ――が。

 

「ングッ……プハァ♫ ……ウン、図書館(とひょかん)はもうぜぇんぶ見ちゃっらしぃ? かと言っれ、良い依頼なんて一つも無い? うぅ~ん……」

 

 いざフリーになったらなったで、有意義に過ごす方法など見つからない。

 

 借金は勿論なく、武器も元から要らないので新調する気など無く。

 なにかしら高級な料亭に行くよりは近くの酒場で飲んでいる方が、彼女にとっては楽しく美味しい。

 更に言えば、今は酒場で飲みたい気分でもない様子。

 

 そしてアクア達の補助に回したとは言え、逆に言えば『賞金を全額回せるぐらい』金に困っている訳ではなく、切羽詰まって依頼を探す必要も無い。

 手元にいくつか保持した分はあるが、いずれも時間を置いてから執行した方が双方の為になる物だ。

 

 して元々の根本たる目的『元の世界に帰る為の情報集め』だが……実の所、カズマ達の補助と並行して街の中で書物を読み漁ってはいた。

 されど初心者の街らしく“日本語で書かれたモノ”を含めて芳しい書など無かった。

 つまり今やる必要性は皆無である。

 

 

 ―――つまりやる事がない の一言に尽きた。

 

「…………よひ! 仕方ない、いつも通りウィズのお店に寄っちゃお♫」

 

 結局いつも通りなサイクル落ち着き、レシェイアは意気揚々とウィズの営む魔道具店へと足を進め始めた。

 『何時も通り』という発言からするに、どうもカズマ達に構ってばかりではなく、個人的な付き合いもそこそこ進めていた模様。

 彼女とて人だ。

 そう同じ人間にばかり構っている訳じゃあないのは、ごく当たり前のことだろう。

 

 

 そうして今日の大まかな目的を決めて、歩く事、十数分。

 

「よほ~♫ またお邪魔しちゃうらよぉ!」

「あ、レシェイアさん。ようこそ、いらっしゃいませ」

 

 リッチー等アンデッド特有の血色の悪い顔からくる負のイメージ、それ吹き飛ばすほどに柔和でふんわりした笑顔を浮かべるウィズ。

 

 当然というべきか、彼女の経営するマジックショップは『元凄腕アークィザードな、現・美人店主の経営する店』として意外と有名で、ちょこちょこ男性冒険者が顔を見に来てくれるのだとか。

 

 ……ちなみに売り上げの方は言わずもがなである。

 

「えーと……いつものポーション、でしょうか?」

「ハイ!」

「……アレ、本当は飲み物ですらないんですけれども」

「でも美味しいよ♫」

「飲める人間なんて貴女ぐらいしかいませんから……」

 

 出したお金を、ウィズが受け取るのを見てからレシェイアは店内の物品の内、爆発物専門の棚に近寄ってポーションを複数手に取る。

 そして今回も今回とて指でポォンと押し開けごくごく喉鳴らし流し込んだ。

 

 ―――しつこい様だが、彼女が飲んでいるのは危険性の高いれっきとした爆発物

 だというのに平気で飲み干して行くその様は、ちょっとしたホラーでしか無い。

 そして本人がそのロジックを明かさないのだから、余計に謎が深まっていく。

 ……ある種 “悪循環” の完成である。

 

 一応、ウィズは収入が入るし、レシェイアもお気に入りの味を堪能できるので、これも一種のWin―Winなる関係と言えば、そうなのであろうが。

 

「ウィ~ズ~、儲かり具合はどな感じぃ?」

「昨日と似た様な物です……。レシェイアさんが時々買っていってくれる分以外は、かなり細々とした金額しか入らないんですよ……うぅ、商品の質は良い筈なんですけど……」

 

 商品の質は確かに重要だが、今あなたに一番必要なのはトレンドを知るより、効果的な棚の並び替えより、それらよりも何よりも―――基礎中の基礎。

 

 『街で安定して必要とされている物は“何か”を調べる』。

 まず初心者だからこそ、『売れない方の可能性に鑑みて軍資金をある程度は残す』。

 商売が軌道に乗るまでは『妙な品で冒険心を出したり、一攫千金の博打などしない』。

 

 と、上記の様な商売初めにおける基本的な常識であろう考えである。

 決して、この街に気紛れを起こして寄ってくれるかもしれない大魔法使いを待つという、道楽家すら真っ青な極限の運試しを続けることでは“断じて”ないのだ。

 

「―――――うふ♡」

 

 ……それを何回言ってもウィズの理解が追い付いていないのは、今レシェイアが生温かい笑顔で不気味に声を洩らしたことからも、充分推測できるだろう。

 仮に軌道に乗りかけても、調子が出てきた今なら大丈夫だと根も葉もない根拠だよりに散財購入し続けてしまう為、まるで意味がないと言える。

 

 付け加えるなら、これ以上世話になる訳にはいかないと志だけは立派な思考を抱き、自分一人で何とかしようとした結果が意図せぬ大博打に繋がってしまうのも、商才の無さに拍車をかけているのかもしれない。

 

(この前なんか、1個十万三千エリスのジャイアントトード用トラップ、何十個も買ってたしね……うん)

 

 ウィズ曰く『何かと嫌がる冒険者も多いですし、これさえ持っていけば魔法職の方々も安全! 効果のほども良いですから元手は十二分に取れますよ!』とのこと。

 

 ……ちなみにその装置は使い捨てで、ジャイアントトードの買い取り価格は一匹辺り大体『五千エリス』前後。

 一匹だけ狩ろうとも、実に九万八千エリスの大赤字である。

 初心者の街である事、輸送費こみである場合に鑑みた事や、クエストを受けずに討伐する可能性がある事も考えると……洒落にならない。

 

 これで五匹、七匹討伐を受けるなど頭が痛い以外の何物でもなく。

 道行くトードにフリーハントで使うことなど――ソレこそ考えたくも無かろう。

 

「……ねーウィズ? この前の指輪とかも危険だひさ~、処分しちゃわなぁい?」

「何を言っているんですか! 装備するだけで魔法の威力を高めてくれる凄い指輪なんですよ! ……今こそ皆さんが買わないだけで、きっと大ヒット商品に―――」

 

 ちなみにその指輪には使用制限があり、魔力が一定以上減るまで使うと脆くも四散する。

 残量値はかなり低めなので、常に限界まで魔法を使うと仮定するなら概ね変わらないのだ。

 ……それだけならばまだ良いが問題はその魔力を高める『ロジック』にある。

 

 何でも本来なら人が無意識にかけている制御に干渉し、それで力量以上の魔力を引き出すのだとか。

 魔力量の大小に拘わらず、平均以上のラインを越して高めてくれるので、当然元の力量に多少左右されるがどんな人でも使えるメリットがある。

 本人の生命力を使った限界魔法にも原理が等しいそれは、破格の威力を叩きだしてはくれるだろう。

 しかも自動で魔法を認識してくれるので、使おうという意識を持つ必要も無い。

 

(―――引き出すだけなら、まだ良いんだけど……)

 

 ……もう欠点がお分かりだろう。

 つまり本来使えない力を無理矢理、しかも強引に限定的にして使っていると言える。

 即ちリミッター解除にも近いのであり、徐々にとはいえ引っ切り無く魔力残量を吸い上げているも同義。

 なので―――その日最高3発でも撃ったらめぐみんよろしくぶっ倒れて終了なのが目に見えているだろう。

 

 魔力が少ない者や駆け出しだと金銭面は当然として、本当に命に関わるため装備しようと思えるわけがない。

 膨大な魔力量を持つ者ならそもそも要らない。

 仮に使っても無駄な消費でオーバーキルを強制させられるし、本来ならソロで戦える相手にも仲間が必要になる & 逃走する羽目になる。

 

 更に誰だろうがその仕組み上、最悪の場合一週間以上も身動きが取れないと、もう正にデメリットだらけ。

 

(……しかも、何か詐欺じみたもっと酷いデメリットがねぇ)

 

 しかも魔力が無くなるまで効果が続くので、指にはめたが最後行使限界を迎えるまで指を斬らない限り絶対に外れないというあんまり過ぎる仕様

 魔力がMAXまで溜まったその時点から効果が発生するのは……一応の救いかもしれない。

 

 どうしても外したいなら初級魔法でも使って体力消費を抑えるか、そもそも冒険に出ない事のみ。

 されどご存じの通り、前者は覚えている者が少ない上に常識と実力のある魔法職なら元よりスキルを取ってもいない。

 そして後者はその日暮らしが基本な冒険者等にとってほぼほぼ論外。

 オマケに実質使い捨て。一体何の役に立つのだろうか?

 

 ウィズ曰く『普段よりも高難易度を受けられるので実質儲けの方が多くてデメリットも苦ではないですし、倒れてもパーティメンバーにプリーストが居れば大丈夫ですよね!』とのこと。

 

 

舐めてんのかテメェ

 

 

 ―――レシェイアが思わず脳裏で、彼女らしからぬツッコミを入れたのも、まあ仕方がないのかもしれない。

 そんな感じで彼女が過去の事を思い出しつつ、今度はどうやって進言しようかなと悩んでいた時だった。

 

「ウィズさん、お邪魔しまーす」

「あっ、いらっしゃいませ!」

 

 珍しく、レシェイア以外の冒険者がウィズのマジックショップを訪れたのだ。

 ……若い男性の冒険者、魔力が余り要らないバリバリの戦士職、手ぶら過ぎる―――とどれに鑑みても何かを買いに来たようには見えないが。

 やはり彼も前述通り、ウィズ目当てで来たのかもしれない。

 

 ―――そしてどういうタイミングか、それと同時。

 

『ウィズさーん! いらっしゃいますかぁ!?』

 

 裏口から恐らく商人の物と思わしき、男性の声が響いてきた。

 ウィズがどちらに対応すべくか悩むようにオロオロとし、レシェイアと男性客の方を繰り返し見ている。

 

 男性客(かも?)はレシェイアに今気が付いたらしく、内に隠す事も無く“ゲッ!”とでも言いたげな顔を見せ、対する彼女は意地悪い笑みを浮かべてポーション瓶をヒラヒラ振って見せた。

 

 こんな阿呆なやり取りをしている中でも、レシェイアは思考を止めないで居る。

 

(ここで接客をして、それでも何とかマシな商品を売り付けるか、それとも…………や、考えるまでも無いか)

 

 ―――決断は早かった。

 

「ウィ~ズ、接客お願い♡ 商人はアタヒが相手しとくから」

「そ、そんないけませんよ! 今の声からして恐らくお得意様の方でしょうし、ソレに仕入れは店主の役目で―――」

「お・ね・が・い♡ じゃね!」

「あ―――ふわっ!?」

「うぷっ!」

 

 接客を任せようとしたウィズの方を掴んでを強引に反転させ、男性客(たぶん)に向けてドン! と押しつけ、反論を許さず裏口へ駆けて行く。

 本来なら、金庫管理の問題も含めウィズの言う通りではあるものの―――『元から断たねばならぬ』とばかりにレシェイアは無理矢理突破した。

 

 余計な方向へ伸びぬ内にと、手早くコトを済ませるべくの強行だろう。

 

 ……お客(?)である彼の顔面にたわわな胸が収まるという、ラッキースケベが地味に起きていたが、レシェイアは気にしない事にした。

 

 

「ほいほ~い、どなた?」

「こんにち……っておや? 今日はウィズさんじゃあないのですか、何か用事でも?」

「ウィズは手が離せなくってれ~。アラシが代わりらのよぉっ♪」

「……はい……まあ宜しいですけど」

 

 業者的には商品をいくらで売るか、どれだけ捌けるかが重要。

 彼も例に漏れず―――つまりどうも特別ウィズに会いたい訳ではないらしく、だから代わりを立てるだけなら一向に構わなそうだ。

 否、一見構わなさげではあるが……解り辛いものの、少しばかり嫌そうな顔でもある。

 そして代わりが他ならぬ『酔っ払い』とだけあって、どうも不安を隠しきれない様子でもある。

 

「で、今日のはマナタイト?」

「あ。……はい、何時もウィズさんには最高品質のマナタイトを買って貰っていますので、今日も是非にと」

 

 そう言いながら、瞳へ若干あくどい光を宿した商人。

 ―――やっぱりウィズはその商才ゆえ、絶好のカモだとしか思われていないらしかった。

 

 ひょっとすると嫌そうな顔も、口車に乗せられるかどうかが微妙だからかもしれない。

 

「ふ~ん……確かにアラシの目から見てもぉ? ちょお凄いってのは輝きで分かるんらけどー……」

「けど、何でしょうか?」

「明らかにめちゃ高いよね、コレ」

「……ええ、言い訳はしませんとも。ちょっと調子に乗ってます」

 

 あくどい光は必要無かったから隠せなかっただけで、ウィズ『だからこそ』騙せる事を完全に理解しているご様子。

 酔っ払いといえども―――いや酔っ払いだからこそ、下手に話を長引かせたくも無いのだろう。

 

 レシェイアは棚にあった便箋をとり、恐らくは転生者が気まぐれて作ったのであろう、現代の物にも似たインクペンも取り出す。

 

「無理言った引き受けたからアタシがどうにかするとして、後で払って貰えば良いし……じゃあ十数個を、えーっろぉ……ん、うん! これ位でどぉ?」

「……いえ。いくら今はそう買って貰えない前提でも、流石に安過ぎます」

「じゃ数割のこれで」

「いえいえもう少しばかり引き上げて貰わないと。怪しいと思ったかもしれませんが商売内容や心内は兎も角、モノとしては一級品! こればかりは偽らぬ様にしてますので!」

「信頼無くなるしねぇ~」

「ハハハ、まあ当たり前のことですからね」

 

 そんな会話を繰り広げつつ値引き交渉を続け、結果レシェイアが勝ったらしく、どうにか本来の値段より幾分かの安値で譲ってもらえる事になった。

 

「よっひゃぁ! アタヒの勝ちら勝ちら、ニャハハハハ!」

「……一見ギリギリなのに、普通に利益が出るのが憎い……」

 

 商品を棚に並べながら、持っていた金銭の大数を取り出して支払い、一先ず仕入れ(仮)は終わる。

 

 が……もう少し話があるのか、それとも単に愚痴が口から出ただけか、商人はこんな事を言い出した。

 

「言い訳臭くなるかもしれませんが、軽く騙そうとしたのも訳があるんですよ、これが」

「グビッ……ングッ……んぁ? 訳?」

 

 もう既に早業で酒を飲み始めていたのだが、それを一旦無視して切り出した商人の語り口に、レシェイアも思わず吊られて聞き返す。

 

「ええ……今の王都周辺ではあまりマナタイトが売れなくて。危険なモンスターも減っているので、常備する必要も減っているんですよ」

「もしかして、『不思議な名前の黒髪黒眼』?」

「そう、正に仰る通りの理由でして」

 

 どうもレシェイアともまた違う異世界から転生させられてきた、カズマと同じ出身地の者達が我先にと手柄を競う所為で難度の高い敵が減少。

 必然的に早急に狩る必要も無くなっている為常備の必要性が薄くなっているのだとか。

 

 それでもまだまだ需要はあるのだが、そこまで高い物を欲する冒険者が少なくなっているのは否めない。

 何せマジックスクロールの方が安いし、転生者達のお陰で強いスクロールが手に入りやすくなり、良い手札も確実に増えている。

 

 自分の魔法の魔力を肩代わりするだけだと、どうしても連戦や想定外の自体でも考えなければ常備が厳しくなってしまう。

 命大事にが基本が故、早々 “冒険” する者もいないのだから。

 

「もっというなら、今はもう亡き存在ですが……より良い商品や既存の物をより強化した品を開発する黒髪黒眼の職人も居てですね。彼等の残した遺産の所為で、前より収入や仕入れが僅かながら減っているんですよ、コレが」

 

 モンスターが居なくなる。対処しやすくなる。

 それはそれで万々歳だが、冒険者専門―――もしくは冒険者達を主に相手する商人達にしてみれば、障害が増えていい迷惑でもある。

 

 『病気を完全に治す特効薬が出来てはいけない』とは、またよく言った物だ。

 

「ちょっと前には……何でしたかね。もう数がかなり少ない上に所在不明となったらしいですが、小型の大砲? みたいな物を作った人もいまして。クルセイダーにも突発的に傷を負わせられるなど結構上物でしたよ」

「らいじょーぶなの、それぇ?」

「ハハハ。残念ながらさっきの通り数が少なく、職人もすぐに居なくなってしまったので何も変わってはいませんよ」

 

 商人の話を聞きつつレシェイアは先のぐちに対してか溜息を吐く。

 本人等にその気は無くても、こうして確実に影響を残しているのは無視できない要因かもしれない。

 同時にどれだけ考えようと、他の商業に疎いレシェイアにはどうにもできないのも、また事実であった。

 

「それではまた。こっちもこっちで商売なんでね、また少しずつペテンを入れるかもしれませんが、止める気はありませんよ?」

「……態と言ってるれ? それ」

「フフフ、ばれましたか」

 

 意外と純真さを秘めている瞳を見せながら、そう言いつつ去っていく商人。

 コロコロと眼の色、感情を変え、真意を掴ませない彼は、闇市などに向いているかもしれない。

 

(にしても、結構影響出してるんだね、黒髪黒眼の人達。まだなにかしらヤバげな問題がある訳でもなさそうだけど)

 

 別に誰かへピンポイントに迷惑を掛けている訳でもあるまいし、魔王軍と相対してもいるのでそうやって好きに暮らすのは、一応構わないだろう。

 それでも、他ならぬ本人達は魔王軍幹部に対して積極的とは思えない。

 

 あるいは積極的に思える噂がないだけで、戦場から最後方とはいえこの街が平和を保てる位に奮戦しているのだろうか。

 

「ま、アタシが出張る事でもないしね…………って、ああ。『こう言う考えの人』もぉひょっ()して、居たりするのから? な~んてれ♫ アヒャヒャヒャヒャ!」

 

 笑いながら店の奥に引き返し、店内へと戻るレシェイア。

 男性客はもう既におらず、ニコニコ笑顔なウィズが一人いるのみだ。

 しかしいつにも増して上機嫌。

 レシェイアはどうにも気になったか、一声かけてみることにした。

 

「ど~かしたろ?」

「ああ、レシェイアさん! 聞いてください、ついに今日二人目のお客さんが買って行ってくれたんですよ! 対悪魔対策なのか、聖水などを十数瓶も!」

「へぇ~」

 

 聖水に関して、アクアが何やらうわさを流している事だけはレシェイアも知っており、いつも頓珍漢なプリーストにしては珍しい事もある物だと、レシェイアも関心気に頷く。

 

「アクア様が流してくれた噂のお陰ですね。イケない方法って言うのは、意外と人を寄せ付けるのでしょうか?」

「…………」

 

 だが次の言葉でその関心は呆れへと早変わりした。

 どう考えても黄金色のアレな聖水の方だと、絶対に勘違いされているからである。

 ……どんな噂をあの駄女神は流したのか、気になる所だが……。

 

(って言うかお金持ってたんだ)

 

 件の男性相手へ地味にひどい事を考えながら、盛り上がってきたらしいウィズの話に暇だからと付き合う。

 こうして彼女の(たま)の休日は緩やかに過ぎて行った。

 

 

 

 後日。

 

 ウィズがレシェイアが代金を払ってくれていた事に謝罪―――その際に倍以上を払ってしまおうとしたり。

 マナタイトに対して『何でもっている全てを買わなかったんですか、勿体ない!』と言っていたりと、紆余曲折挟みつつ漸く強引な仕入れの件は終わりを告げる。

 

 ……結局のところ。

 いつまでも意固地にお金の倍払いと全買い取りしなかった勿体なさを言い続けるウィズを、レシェイアが

ひたいを叩き付ける頭突きで見事にねじ伏せ

 最後の最後まで強引な展開としてしまったのだった。

 

「本当にポンコツらねぇ? うん」

「ム、ムキュ~……」




この時期のクリスは、先輩の無理難題でカズマを手伝えなかった筈なのに、なんで?

 ……そう思った方。

 原作のカズマは冬将軍により死亡しアクアに生き返らせて貰っていますが、この二次でのカズマは頭打って死にかけたのみです(それでも十分ヤバい事ですが)。
 原作を知っている人ならば、これだけでも理解できると思います。
 そしてこの改変は第二章の終盤にも関わってます。章の題名から何となく推測は出来ると思いますけども。


 また、ウィズに単なる魔法無しの物理が利いた訳もちゃんとあります。
 一応、ネギま二次(京都編より後)にソレも出てます。
 だからギャグ補正では……いや、ギャグ補正である可能性も捨てきれ(ry



―――次回―――
時系列的に言えばカズマ達のダンジョン話の後なので、ウィズの店へ来訪とドレインタッチの話に入る予定です。
……原作には居ないレシェイアも関わりますが、果たして?

ソレではまた。

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