一つだけ言い訳をするのなら、ポケモンが、とだけ言っておきます。
ウルトラビースト捕獲までは進めました。
―――でも、同じ種類が複数匹出るとか、予想外でした。
複数出るのは三種ありまして、内一匹はそのバージョンでは出ないウルトラビーストとGTSで交換しました。
そしてもう一種と、四匹も出るとあるウルトラビーストは、上と同じようにバージョン限定の方のウルトラビーストと一匹づつ交換し、限定ではないのを含めた残り三匹は自分のバージョンでは出ない『一般のポケモン』と交換しました。
こういう時珍しいポケモンって便利です。
では、本編をどうぞ。
珍しく、雪も少なく雲も薄く、薄らと晴れた空の下を 美女と美少女に囲まれ、ウキウキ気分で彼女達の後ろを行くダストと、一日限定パーティメンバーであるアクア・めぐみん・ダクネス一行。
今現在の季節は過酷な冬で、そして弱いモンスターにとっては人里など戦士達の集まる恐怖の場所でしかなく、アクセルの街周辺の地やダンジョンにゴブリンはいない。
なので―――彼そして彼女等は今、少し遠くへと足を延ばしていた。
「確か、中途半端な人工物を探せばよいのでしたね」
「ああ。ゴブリン達の簡易的な住み家だな」
ゴブリンは弱い事は弱いが数が多く、其れなりに知能も持つ為に、単に自然そのものの中にワラワラ立っている訳でもないのだとか。
当然狩りに出かけた際、移動する際など例外こそあるが、基本はすみかを探していぶりだし、隙を付くのが基本戦術と言えよう。
(いやぁ、それにしても眼福眼福! こんな素晴らしい境遇にいていい女が居ないとか、あの冒険者やっぱおかしいんじゃねぇのか?)
時折だらしなく顔をニヤつかせながら歩くダストは、半ば夢見心地にも近い状態だった。
確かにレシェイアもいい女とは言えるだろうが、酒臭さや普段の奇行は充分なマイナス要素となり得る。少なくとも、ダストにとってはそう受け取って然るべき対象だ。
だからこそ職も優秀、見た目も良い、しかも三人揃っているという余りに恵まれた環境の中に居る事が……必然、彼の心をハッピーな気持ちで浮きだたせている。
例え雑魚とは言えど油断は禁物だというのに、もう見た目からして油断しまくりなのが良い例だ。
希少な回復役まで備えた、上級職が三人も居るのだから―――という余裕もその油断の理由足る一つなのだろう。
……しかしながら、それでは済まないのが彼女達と言う問題児。
「それにしてもやっぱり納得いかないわ。ゴブリンだなんて私からすればイチコロリンなのに。今の血が少ないカズマでも倒せるような奴じゃあ、私達がどれだけ頼りになるかなんて教えられないと思うんですけど」
「最悪、私の杖でも何とかなりますから、やり方次第なのです。まあ我が魔法を打ち込めば、塵すら残る筈も無いのですが?」
「二人ともそこまでだ、油断は禁物だぞ? 何せ油断なんてしていたら、かのオークには劣るだけで充分に性欲を携えたゴブリンにか、囲まれて成す術なく捕まりぃ……♡……ハァ、ハァ……そっ、そして代わる代わる―――」
何だかとんでもないワードが飛び出しかけたので強制的に切るものの、彼女等もまた油断に更なる油断を重ね、うち一人はツッコミ役が居ないのを良い事に妄想にふけり始めた所為で、ダストの方がまだ大丈夫そうな状態と化している。
少なくとも、モンスターが飛び出してきた時点で慢心せず構える戦士職と、自信満々に挑発を重ねて墓穴を掘りそうな上級職と並べれば、まだ前者の方が脅威を認識しているだけマシだろう。
残念な事にそんな彼女等のやり取りすらも、ダストは見逃してしまっている。
これもまた……一種の “油断” に分類されるのだろうか。
第三者から見れば何とも不気味……いやいや、“ある意味不安”な一行は己々個人欲が全快な思考を巡らせつつ、ひた歩いて狩り場を目指す。
そして雪の積もった道を音を鳴らして進み、開けた場所に差し掛かった時だった。
(そういや、聞いとかなきゃならない事あったか)
道すがら―――ダストはふと彼女等の得意技や、それぞれが保持するスキルをまだ教えて貰っていない事を思い出す。
仮にもリーダーとなったのだから、聞いておかねばならないだろう。
(そういや、このパーティではあの
先刻辺りに一応確認するべくと、彼等の元のパーティの陣形構成、及び役割分担を聞いてはいた。
そして理解こそしたものの、カズマがこの中で司令塔の役を担っていた事をダストは如何も信じられない様子だ。
何せ冒険者と言えばつく者こそ珍しく、居たとしても荷物持ちが精々。
後はそのスキルの自由さを利用して、冒険者としての本職よりも、端々にずれて行くことの方が多いからだ。
……そして大概、上手くいかないのが常である。
まあ、今はそんな事さして重要でもないので、ダストはすぐに思考を打ち切り彼女らへと問い掛けた。
「なあ……聞き忘れてたんだけどよ。それぞれ得意技とか、スキルってどんな感じになってんだ?」
「スキル、か?」
「いやまあ、攻撃魔法や回復魔法、防御に特化してるって事は分かるんだけども、個人で習得するモンも違うしさ……だから聞いとこうと思ってな」
その言葉を耳に入れた途端、何故だかめぐみんがウキウキとし出し、何やら高揚した様子でぶつぶつ呟き始めた。
が、肝心のダストの視界にその珍妙な行いは残念ながら映っていない。
「そんで、それぞれ何が使えるんだ? スキルどうなってんの? 全部じゃなくて良いから教えてくれよ」
冒険者にとって、自分のスキルは重要な生命線であり、人へとホイホイ教えてはバカを見る羽目になり収拾が付かなくなる事もある為、そう簡単に教えるものではない。
……とはいえど、今はパーティの組んでいるのだし、そも全部教えなくても良いだけ。
それに三人共―――まあめぐみんはちょっとばかしニュアンスや種類が違うのだが、兎も角少し頭が足りない為、、ダストの質問へすんなり答える。
まず先陣を切り、自信満々に教えたのはアクアだった。
「私は当然、僧侶系の全スキルよ! 回復だって御手の物、というか寧ろ十八番。蘇生だって出来ちゃうから、失敗を恐れる必要も無いわよ?」
「ま、まじかよっ……!?」
「あと此処からが重要なんだけど……聞いて驚きなさい! なんと宴会芸スキルだってコンプリートしてるわ!」
「……そうっすか」
蘇生魔法まで使えると聞いて驚愕し高揚が最高潮までしたダストの心根は―――その次の残念な発言で一気に最低ランクまで落ちた。
アクアは小首を傾げ、『何で驚かないの?』とでも言いたげな表情だ。
……必要も無いくせに、戦闘に一切合財関係ないモノを上げられては、そりゃ萎えて当たり前である。
「私は騎士系スキルの内、防御関係の物を優先して取っている。故に、鎧が無くとも頑丈なのだ。状態異常にも耐性があるから、確りと壁役を果たせるぞ?」
「おお! そりゃあ何とも頼もしいぜ!」
「だから逃走する際は、私が最後尾のおとり役を引き受けよう! ……寧ろ遠慮せずに脱兎のごとく逃げて置いて行ってくれ。軽く罵ってくれると尚の事、捗るぞ」
「……は、はぁ?」
途中までは良かったのに、何故だか後半になるにつれて可笑しな単語が混ざり始める。
しかも明らかに良くない理由で頬を染めつつ言い続けているので、ダストは興奮よりも先に不安と違和感を覚えて生返事を返していた。
ともあれ……最後になっためぐみんがマントをバサッ! と翻してポーズを決め、声を高らかに上げて、自分の覚えている必殺のスキルを宣言した。
「我がスキル、己が身に宿し習得せし奥義は『爆裂魔法』!! 全てを灰燼へ帰す妙なりし紅蓮の爆炎! ―――我が魔法の前には、ゴブリンなどたった一発でも蒸発させることが可能なのですよ?」
「すっげぇじゃん!! 爆裂魔法を使えるのかよ! そりゃまたやばいじゃねぇか!!」
確かにダストの言う通り、爆裂魔法を使えるアークウィザードは稀。
覚えること自体も困難を極める。
そして、それ習得しているアークウィザードは皆、すべからく強大な魔力の持ち主なのだ。
つまり彼女の発言は、看板に偽り無しと言えるし、それを習得する程のスキルポイントを持っているとなると、レベルは高いと見るのが自然。
更に、爆発系の魔法は火と風の両方の深い知識が必要なので―――後は言わずもがなと言う奴だろう。
「なんだよあのカズマって奴は見る目が無いな! 爆裂魔法なんてすごいモノを使えるなら、そりゃもう最強じゃねえかよ!」
「ふふふ、そうですか……我が力に興奮しますか?」
「当たり前だろ? 爆裂魔法なんて単語すら滅多にお目にかかれないんだぜ? それを習得できるレベルとくれば、もう凄いとか陳腐な言葉しか浮かばないって!」
そうやって褒めちぎるダストを、影から見つめる人間が一人。
「褒めたらヤバいと思うんらけどなぁ~? うん―――カッポカッポ」
毎度おなじみな大酒飲み、レシェイアである。
ダスト達に付いて行く! と宣言していた通り、尾行して追い付いてからは、草むらからこっそりのぞいているらしい。
ウォッカの酒瓶を咥えながら、そのまま器用に音を鳴らし、ブツクサ呟く。
瓶がその傾いた勢いで大量に酒が流し込まれているが、蒸せたりしないのが驚きである。
「爆裂魔法が凄いってさぁ……それソノモノの事じゃ~ないれしょぉ?」
閑話休題。
今はめぐみんを褒め称えたダストに、レシェイアが突っ込んだ件が最優先だ。
今しがたレシェイアが言った様に、恐らくダストが爆裂魔法を褒めた理由は『爆裂魔法そのもの』ではあるまい。
何せ爆裂魔法は魔力の消費の高さの所為で、効率や使い勝手を含めた何もかもが“劣悪”な代物。
最早《スキルポイントに余裕ができたから一応取ってみよう》的な感覚ですら習得を拒むネタ魔法でしかないのだ。
無駄に範囲と威力の大きな魔法を使う位なら、ソレと比べればまだ燃費の良い爆破魔法か、複数の上級魔法を使い分けた方が断然良かろう。
(けどあの喜び方からして、受け取る理由間違えてるよね?)
……そんな当たり前を吹き飛ばして『爆裂魔法一択』を選んだのがめぐみんである。
爆裂関連で褒められればそっちの方にばかり気が行くのは必然だ。
つまりこれから起こる事は想像に難くなく。
(う~~~ん……ま、いっか☆ それはそれで面白げだ
レシェイアは笑顔のまま、実に酷い理由で判断を降した。
元々の経緯が『ダストの暴言(見当違い)』関連にあるが故、ソレを見送った後でないと動けず、幾分か仕方がないというのもある。
だがしかし……今の意見は流石に酷過ぎた。
単独となって尚、良識人なのか単なる酔っ払いか、変に判断が付かない。
妙な女である。
それとも―――やはりカズマが見当違いの理由で貶され、更にその理由である三人がまるで自覚していない事に、『もう少しぐらいは反省せい』と笑顔の裏で腹を立てているのかもしれない。
まあ外見からだと本当はどんな感情を抱いているのか、全く分からないが。
「そんじゃ~軽く様子見っと―――ングッ……ングッ……」
未だ手を使わず、瓶を口に咥えたまま酒を飲み続けているレシェイア。
使っていない両手を隠れている茂みの上に置き、ひょっこりという擬音が似合いそうな感覚で顔をのぞかせている。
こんな馬鹿な事をして居る間に、様子見とレシェイアが口にしてから数秒もおかず、緩やかに進んでいた状況が急に動いた。
「フフフ……其処までの熱望を受けて、我が力を見せぬのは恥。……良いでしょう!! パーティ内で最高火力を誇りし私の力が一端、その目に焼き付けてください!」
めぐみんが先の爆裂魔法が使えると宣言した際よりも、更によくに通る声を持ってして高らかに言い放った。
そして何の葛藤も無く詠唱し―――
「『エクスプロージョン』!!!」
何の躊躇も無く何も無い平原へ爆裂魔法をぶっぱなった。
一日一回限定の魔法を、敵どころか獣の気配すらない平原へ向けて
目算20m以上のクレータを刻むと共にめぐみんはバッタリ倒れ伏し、これで早々に一人目が撃沈。
アークウィザードから動けぬお荷物へとめでたくクラスチェンジしたのである。
「オーウ……」
余りにもお手本通りな駄目っぷり、余りにも予想の範疇内しか突っ切らないその行いに、レシェイアは一言エセ外国人風に告げると生温かい笑顔で肩を震わせていた。
……笑いをこらえるのに必死らしい。
介入を優先しない状況だという事も相俟って、余計に笑いの方がこみ上げて来るのだろう。
「いや、すっげぇ……すっげぇ―――けどよ? なんで今あんなデカイのを、何も無いトコに向けて放って……」
ネタ魔法としか言われない爆裂魔法の威力に驚きつつ、実にもっともな疑問だけは失っていなかったらしいダストが、めぐみんに向けて質問を投げかけようとする。
だがしかし。
「む……何か来るな」
「ホント、足音がするわね」
「へ?」
優れたステータスをこんな時に充分発揮し、ダストでは聞こえぬ忍び寄る主の気配を感じ取った、上級職らしい所作を見せるアクアとダクネス。
もしカズマが見ていたとすれば、何時もこうならどれだけ助かったか、とでも呟いていたかもしれない。
「“グルルルゥ……”!!」
そして草木を掻き分け、のっそりと現れたのは―――さながら猫科の猛獣の様な牙を携え、それらと比べ物にならない巨体躯を持った、威圧感を放つ黒い獣。
「しょっ……“初心者殺し”ぃっ!?」
今のダスト達には荷が重
爆音を聞き付け、おびき寄せられてしまったらしい。
実はゴブリン狩りの際の一番の脅威とは『個体数』ではなく『奴』の事であり、“初心者殺し”はゴブリンなどの弱いモンスターを追い立てて住処をを移動させ、見つけた人間がかろうと油断しているその隙に狩るという、嫌に策士な一面を持つのだ。
「“ォオォオオッ……”!!」
先の冬将軍の時に出会った個体より小さく、別個体だと分かるが……されどそんな事など今は何の安らぎにもならない。
先の個体より小さい分、素早さという面では厄介な事に相違ない。
ダストは焦燥に駆られ冷静さを失いかけるものの、寸前で先のめぐみんの爆裂魔法を思い出す。
(そうだ落ち着け、あんな事をしたのにも訳がある筈だ。 ただ目立ちたいとか、放ちたいとかで大魔法を使うバカなんかいる筈がないからな。 ……そうだよ! 紅魔族ならきっと残りの魔力でだって……!)
そうして何とか持ち直し、希望に満ちた目で、ダストは指示を飛ばすべくめぐみんの方へ振り向いた―――!
「……おい、何で倒れてんの?」
そして目をまんまるにして固まった。―――肝心の魔法使いがバッタリ倒れ込んでいれば、誰だって疑問に思うだろう。
レシェイアはダストの直前までの心境を読んでいたらしく、(一_一)な顔のまま《ムリムリ》とでも言いたげなジェスチャーをしている。
そんな事など勿論知らず、ダストは若干絶望が混じった声で、めぐみんへ怒鳴り声に近い音量で悲鳴染みた問いを投げかけた。
「お、おいアンタ!? 何で倒れてんだよ!?」
「……爆裂魔法は我が奥義。使うと、問答無用で動けなくなる文字通りの秘奥義とも言うべk」
「何で動けなくなるのに使ったんだよ!? 他の魔法でも良かったろ!?」
「……いえ、他の魔法は使えません。私が使えるのは爆裂魔法だけです」
その言い分に、しかも全く反省の色が無い言い方に、ダストは絶句。
更に何かを思い出したらしく、絶叫もかくやと声を張り上げる。
「ま、まさか……まさかアンタだったのかぁ!? ギルド内で噂になってる頭のおかしい爆裂娘ってのはぁ!? ―――カズマ、ごめんなぁっ! そりゃいい女とか言えないよなぁ!!」
「おい、その噂を広めたのが誰なのか聞こうじゃないか。どれだけ頭がおかしいかとか、ソイツに知らしめてやろうじゃないか」
そう言うめぐみんだが、知らしめた所で噂が真実だと教えている様な物。
第三者からも余計に、強固に『おかしい』という価値観を植え付けてしまう。
……というか『どれだけ頭がおかしいか、爆裂魔法を喰らわせて教えてやる』発想に至る時点で、もうおかしくないと言える状態ではない。
頭がおかしい扱いされる所以を二度も見せつけられたダストは、ちょっと泣きそうになりながらめぐみんをおぶって残り二人に命令を出した。
「兎に角逃げようぜ!! 武器も無い、攻撃が利かないとか、上級職でも挑むのは無理だ! 何より“初心者殺し”は頭が良い、下手に挑んだって返り打ちだ!!」
言いながらさっさと背中を向けようとするダスト。
至極正しいその行いに、二人は当然の事ながら頷き……。
「では私が殿を務めよう! 行ってくる!!」
「攻撃役もいなきゃダメよね。ソレに攻撃が利かない? ハッ、見てなさいよダスト! あの時は調子が悪かったし、カズマも庇わなきゃならなかったから敵わなかったのよ。本調子で気合MAXなアクア様が負けるはず無いわ……頭が良いとか言ってもどうせ獣、私の様な知性あふれる女神には及ばないのが道理よ!!」
初心者殺しへ向けて駆け出して行った。
(前のとき全然及ばなくて、齧られて思いっきり泣いてたじゃん―――とかツッコんだ方が良さげかな?)
ご尤もな事を内心呟きつつ、足元にあった石を使い呑気にお手玉しながら、レシェイアは新しい酒瓶を咥えながら状況を眺める。
今度はワインの瓶なのだが、重さでつっかえたりしないのが不思議な所だ。
石を手にしてはいるし、臨戦態勢は取っている。このまま厄介な方向に流れたとなると、流石にまずいと思ったのだろう。
―――酒を飲んでいること自体はひとまず置いておいて。
「いやだから逃げようって!? アンタ等は良くても俺が一番ヤバいんだって!! 人を背負ってるしステータスは一番低いし、装備だって……それに殿なら『デコイ』使って逃げ回るだけでも十分に」
「ハハハハハハハ! なんだこの前のモノよりも攻撃が鋭いじゃあないか! 良いぞもっと来いもっと来い!」
ダストの悲鳴もなんのその、今日も今日とて我が道を突っ走る彼女等に、『反省』の二文字はまるで見られない。
日数が開いた事が問題か、レシェイアが奢った事ですぐに軟化してしまったか、それともカズマの存在が思った以上に軽いのか……。
そんな憶測が流れても不思議じゃあ無い空気の中で、恍惚としながら攻撃を受け止めるダクネスと、微妙な激闘を繰り広げる “初心者殺し”。
当然武器など持っていないので、攻撃されるだけのダクネスと、攻撃するだけの“初心者殺し”という、両極端な一幕を展開している。
「良いわよダクネス……フッ、見てなさいよあんな子猫如き……『ゴッドブロー』!!」
白く光り輝く拳で殴りかかったアクアの一撃は―――なんと、見事に“初心者殺し”を放物線を描いて吹き飛ばし、地面へと横向きに叩き付けたではないか。
これは勝機が見えたか……と思われるだろうが、相変わらず草陰から見続けるレシェイアの内心は違った。
(冬の“初心者殺し”って、毛皮と脂肪の所為で打撃の効果がねぇ……)
彼女の補足にダメ押しすると、馬などとも違って筋肉がとてもしなやかであり、あんな程度では逆に勘を刺激するだけがオチなのだ。
レベル差があったジャイアントトードにすら通用しなかったのだから、結果など考えるまでも無い。
ソレに気が付かないアクアは次撃を叩き込もうと杖を構え、そのままどこぞの『働きたくないでござる』に出て来る “牙〇” の構えを見せる。
「さぁ黙して喰らいなさい! 『ゴッドレクイエム』!!」
白い閃光を放ってうがたれたそれは見事なまでに――――ヒョイッとスかされ普通に外れた。
「あ」
「“……グルル……”」
そのまま何もできないままに、アクアは“初心者殺し”と至近距離で退治する。
「……そ、その牙って格好良いわね。至高って言葉では括れないくらい良いと思うの」
お世辞を言いながらにっこりと笑った。
「“アグ”」
そして残念ながら噛みつかれた。
「ウボァアアアアァッァアア!? またこのパターンてちょ痛い痛い痛い!?」
「ま、またこのパターンか! しかし此処でアクアを助けてしまえば後は極上のヘブァ」
言いながら近寄ろうとしたダクネスが、“初心者殺し”の勢いの付いた尾っぽを死角からモノに食らい、吹っ飛んだ。
以前、何処かで見聞きしたような、デジャヴしまくりな光景を作り出す。
……挙句に岩にぶつかった際、首が思い切り振られ当たりどころが悪かったのか、そのまま白目を剥いて気絶してしまった。
コレで見事に二人目が撃沈し、残りはアクアとダストの二人になるが、アクアは噛み続けられた所為で涙目状態。
とっくに戦意は喪失済みだろう……実質戦闘不能に近い。
最早余裕や希望がかけらも見出せない状況にダストは悲鳴を上げた。
「何で、何であいつ等自分の事なんにも分かってないんだよ! 何で状況とか空気読めねえの!? てかさっきの言い方だと前にも出会ったんだよな? そんで負けたんだよな!? ならもっと過敏になろうって!!」
此処に来てダストはカズマが『いい女何か一人しかいない』と言っていた、その真意にやっと気付く。
―――片や同じパーティ内にも拘わらず、リーダー役を慮らずに好き勝手行動するわ、己々のスペックや戦法の弱点に気が付かないわ、性格にも問題ありそうだわと欠点だらけな美少女達。
―――片やテンションに落差があり意味不明な行動は多いが、借金が多く問題児な仲間を連れているとは言え、お金に関して色々と手助けしてくれる、それなりに良識ある酔っ払いの女性。
……今のダストには『仲間にするならどっちが良い?』と聞かれれば、悩む間など一寸も無く数ナノ秒で後者を選ぶ自信があった。
(ど、どうにか生き延びて、せめてアイツに謝らねぇと……でも、でも、こんなドン詰まりどうすりゃいいんだっ!?)
プリーストは今現在絶賛噛み付かれ中で、ウィザードは全く動けないお荷物状態、クルセイダーは白目を向いたままダウンで戦闘不能、そして戦士職の自分ではほぼ相手にならない。
万事休す、とはまさにこの事だった。
アクアがくたばってしまえば、今度こそ絶体絶命。
なまじ欲を出したが故にこんな不幸を招いたのかと、ダストはめぐみんを背負いながら世を儚む。
そんな彼の頬を伝い、塩辛い雫がこぼれた……その瞬間。
「“アグァ!?”」
―――なんという偶然か。
突如として鈍い音と共に“初心者殺し”が体勢を崩し、アクアを解放してしまったではないか。
よく見れば足元に石が転がっているが、それが原因かは定かではない。
「うきゃぁ!! ……ヴ、ヴワアアァァ!! も゛う゛イヤアァアアァァ!!」
……アクアには失礼だろうが、それでも“初心者殺し”のよだれと洟を撒き散らしながら、汚いとしか言えない状態で逃げ出した。
「お、おい自分だけ逃げんな!? ダクネスはどうなるんだよ!!」
「グスッ……う゛う゛ぅ……重いぃ……」
仲間を見捨てるまではやりたくない、というかもうヤル気がないのでトンボ返りする要因を取り除きたいらしく、アクアは文句も言わずに鼻水をたらしながらダクネスを背負う。
「“グ、グルルァ……ッ!”」
肝心の“初心者殺し”は何やら辺りを見回し警戒している様子で、ダスト達に構う暇など無いとでも言いたげだ。
それは同時に、絶好の逃走チャンスでもあった。
「そら! 今度こそ逃げるぞぉっ!!」
「……ウグッ……グスッ…………ダクネス重いよぉ……!」
こうして何とかダスト達は遁走を重ねて逃げ果せ、ゴブリン討伐クエストというボロいクエストを、有ろう事かゴブリンとは別の要因で“失敗”に終わらせてしまうのだった。
―――さて……実の所“初心者殺し”は黙って突っ立っていた訳ではなく、本当はダスト達を追いかけて食らいつこうとしていたのだ。
にも拘らず、ダスト達が逃走できた理由は、一つ。
「“! グルル……ガ―――アグッ!?”」
ダスト達が逃げ出してから、漸く“初心者殺し”が振り向いた直後……立ちふさがる『影』に邪魔されたからだ。
「ニャハハハ♫ わぁるいけどさ~、あの子
その『影』は―――茂みから出てきた、レシェイア。
ここに来て、やっとこさ動いたのだ。
「ね~? お・ね・が・い♡」
脈絡なく両手を合わせて右頬に添え、小首を傾げながら笑っている。
……何ふざけているのかと思われるだろうが、何時もより顔が赤いあたり、結構酔っ払っているらしかった。
「“グラアアァッ!”」
当たり前ながら“初心者殺し”がそんなお願いを聞く訳も無く、この邪魔者を払いのけようと爪を振り上げて間、髪入れずに力任せに振り降ろす。
或いは刃物、或いは鈍器。
どちらもを思わせる獣ならではの武器が、飛び出してきた愚か者にぶち当たる……!
「ほいっ、と」
「“……ガ”?」
だがそれはピタッと『片腕』で止められた。
其処から力を込めるのだが、押せども押せども一向に動く気配がない。
ならば! と顎を開けて思い切り噛みつき……!
「あらよ」
「“……アガ”?」
添える様にして突き出された両手で、またもや苦も無く止められた。
腕の倍以上では利かない力を持つ顎での攻撃にもかかわらず、どう足掻こうが一向に閉じようとはしてくれない。
それはまるで怪力による妨害よりも『見えぬ盾により防がれている』と言った印象を受ける光景だ。
実際そこには本当に何も無いのだが、何故だかその印象を強く受けさせた。
「もー一回お願いっ♡ アラシに免じて退いてちょ~らい―――『ね?』」
「“!?”」
瞬間―――眼の中のまだ温か味あった光が消え、笑顔を浮かべているのに全く笑ってない恐ろしげな表情をレシェイアは作り出した。
その瞳の中に『何』を見たのか……“初心者殺し”はぶるぶる震え始め、機敏な動作で踵を返すと一目散に逃げ出して行く。
「……ふぅ」
レシェイアはため息を一つ吐き、これで今回やるべき事は終えたと、先とは違う安堵の表情を浮かべた。
予想通りの結果になった事は勿論嘆くべきだが、逆に言うと対処が楽になるという事でもあり、余り素直にそうするのは無理だが喜ぶべき結果でもある。
後はギルドに帰って、カズマ達の帰還を待つばかりだ。
カズマはどうも幸運の値が高いらしく、他のメンバーの幸運値の低さに鑑みれば、案外ダストのパーティだとちゃんとその高さを発揮できるかもしれない。
ならば……余計に心配など要らないだろう。
「ん! 帰ろ~かえ~ろ~♪ カーラス鳴いても帰りませ~ん♫ ……あ、帰らなかったらダメらって……ヒック、これじゃダメらね、うん」
誰も居ないのに意味不明な独り言を吐いてから彼女も帰路につき、街への道のりを悠々と何の問題も無くやり過ごし、ギルドの扉を開ける。
「お」
その酒場の中央辺り。
無事に帰ってきていたらしいカズマとダストのパーティ三人、ほぼ地面に沈みこまんばかりなダスト本人とカズマのパーティ三人が、なにやら会話しているのがみえる。
そして、目の前に広がっていた光景を見て―――
「で、何か言う事はあるか?」
「調子にノッて済みませんでしたああぁああっ!!」
やっぱり予想どおりな光景に、苦笑いを浮かべるのだった。
Q,カズマパーティと、現時点のレシェイアが戦ったら、勝ち目はある?
A,……正直、かなり厳し過ぎると思います。
まず基礎スペックがアクアよりも上で、攻撃範囲がめぐみんより広く、
防御性能はダクネスを超え、頭の回転もカズマに劣るだけで早い方。
加えてこれまでの戦闘経験と、【防】の能力、呪いをも弾く耐性がありますから、
ひどい場合には一撃加えて呆気なく終了かもしれません。
カズマの搦め手は戦闘に切り替えた頭と、理不尽な耐久力があるからまず無理。
というか敵対していた場合、手を突き出した時点で突っ走ってきます。
スティールでも、独器を奪うとカズマの方が悲惨な事になりますし。
仮に“下”を盗めたとして、離れてても投石は出来るので、其処に鑑みると余り意味が無く……というか視界に捉えたり、直に触らせて貰えるかどうかも怪しいでしょう。
めぐみんは、エクスプロージョンが有ろう事か『爆竹』扱いである事。バリアの準備も地面切れば良く、詠唱より早いので意に介しません。
そしてこれは所謂 『レシェイアが後から攻撃する』 こと前提。
他の魔法を覚えていないしステータスもカズマよりは上なだけなら、九巻時点の彼女と仮定しても咄嗟に防御されるか、着弾前の閃光を避けられるのがオチです。
ダクネスの防御も、レシェイアのこれまでの行動に鑑みると厳しいでしょう。
まず鎧ごと彼女を潰すか、拳数発で貫けてしまう可能性があります。
そして例によってこれも『レシェイアがダクネスに合わせてくれる』こと前提。
攻撃は当たらないし速さが全く足りないので、身体能力で圧倒され何も出来なくなるかもしれません。
いくら丈夫でも限度がありますし、レシェイアがまだ本気を出した事が無いとなると―――。
アクアは破魔、神聖、対不死者魔法の全てに意味が無く、ゴッドブローすらレシェイアの素にも劣るのでほぼ論外です。
この女神である私に~ とくっちゃべったが最後、速攻ガツン!! で終了。
知力が残念・無駄に自信満々・なのに対抗手段がない、オマケに回復役とくれば当然目を付けられ、他の三人以上に情けない結果に成りそうです。
即ち仮にレシェイアが魔王軍や “敵”として出てきていた場合はガチで『最悪』の一言。
カズマパーティは何も出来ない、と言うより何をしても意味がない、ほぼ“詰み”状態。
後はレシェイア自身の性格があるのでもう其処に賭けるしか……。
―――それでは、次回。