素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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いつもながらのQ&A

Q,そう言えば何でレシェイアじゃあなく、ダクネスがカズマに肩貸してたの?
  行動的に言って、レシェイアが肩を貸しそうなのに。

A,まず、ダクネスが罪悪感から貸したのが理由の半分です。
 これ位はしないといけない! と流石に思った様子で。

 ですが一番の問題は、心持ではなく『身長差』。
 カズマ  :身長“165cm”丁度(確定)
 レシェイア:177cmは偽りなので、恐らく身長“180cm”クラス(目算)
 ―――その差、15cm弱。
 肩貸したらカズマが歩き難くて仕方ないので。
 というかレシェイアって、意外と長身ですね。自分のキャラなのに何を言って


とまあ関係ない話はさて置き―――では本編を……と行く前に一つだけ注意点をば。
今回の話に、レシェイアやカズマ達は最後しか登場しませんのであしからず。
ゆんゆんへのフォロー(?)や、何があってそうなったのか、簡単に書き記したものです。
外伝を書ければ良いのですが、其処へ至るまでにまだ話数が存在しますので……。

 では改めて、本編をどうぞ。




ぼっちな少女の動向

 

 紅魔族の少女・ゆんゆん。

 

 彼女はとある理由により故郷・紅魔の里内では浮いていた存在で、そして極度の『ぼっち体質』の為に街でも浮いている者である。

 

 実際は実力もあるし見た目も良い。

 後はマイナス方向に考えたり『仲間・友達』というワードに反応すると見境が無くなる事をどうにかすれば良ということだ。

 ……まぁ人助けした際に「この人達で充分倒せたのに余計な事をした」と猛烈な勢いで逃げ、『彼女は一人を好むのだ』と勝手に誤解され余計に人が寄りつかないのだが。

 

 ともかく様々な要因が重なり、ゆんゆんは常に一人ぼっちだった。

 レシェイアと一応の面識もあるが、しかしソレも互いに忘れているので、やはりノーカウント状態だろう。

 

 

 そんな、『ぼっち街道』という脚を余り乗せたくない道筋一直線な彼女は、今―――――。

 

 

 

「…………」

(ど、どうしよう……気不味い……)

 

 他ならぬパーティメンバーである、とある冒険者と共に隣町行きの馬車へ乗っていた。

 

「…………ッ」

(あ、あわわわ……ももっ、物凄い顔……でも、私の所為で……)

 

 その連れは明らかに歯ぎしりでもしそうなぐらい、顔ですら悪鬼の如きとでも形容した方が良い程苛立っており、オマケに頑なに沈黙を保っている所為で、かなり話を切り出し辛い状況となっているのだ。

 

「…………クソが……!」

 

 仮に口にしてもコレ……もう滅茶苦茶イライラしている。

 親の仇でもみつけたのかと、そう問いかけられても不思議では無い形相で窓の外を凝視している―――いや睨みつけている。

 

 しかも連れは『男』で、二m代はあるだろう『高身長』。

 三白眼や顔の傷に、少々逆立った濃薄ニ色の短髪など『人相も悪い』為に、傍目からの威圧感が半端無いのだ。

 

 かなり短い袖や丈のベルト付きジャケット、肌にはりつくようなインナーも相俟って筋肉が強調され、DJ染みたズボンもジャラジャラとアクセサリーが付いている為、更に元から持っている威圧感から二倍増し。

 

 ―――ぶっちゃけ容姿と視線の、二重の意味でかなり恐ろしい。

 

(で、でも仕方がないよね。謝ったぐらいじゃあ……)

 

 ゆんゆんは、恐らくはこうなった原因であろう、とある出来事の経緯を思い出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 元々の発端は、久方ぶりにアクセルの街を訪れ、とあるモンスターの討伐クエストを受注した時まで(さかのぼ)る。

 なるべく安全に冬越しの金銭を蓄えるべく、彼女的には本当なら訪れたくはなかったが……しかし背に腹は代えられないだろう。

 今回のミスは、ゆんゆんが待ち合わせ場所に戻らなかった事にあるのだが、ソコまでの経緯自体は別におかしくも何ともない。

 

 

 目印も無い雪山の中で待ち合わせをするよりは組んだままが良いのではないか? と思うであろうが、今回の相手は珍しくそこそこ程度ランクなので、別々に分かれて効率を上げる策もとれたのだ。

 それに後で合流するというやり取りが仲間らしくて良いという事もあり、ゆんゆんは是非にと頭を下げた。

 そして男の方に、終わったら待っている様にお願いしたのだ。

 

 男の方も別段文句は無いらしく頷いたが、何故だか苛々しながら虚空を睨み付けていたのは……まあ余談だろう。

 そして、モンスター生息地帯での待ち合わせは、当然というかこれが初めてだった。

 

(雪山は寒いし……早く討伐しないと!)

 

 気温の事もあり、手早く標的のモンスターを倒すべく、ゆんゆんは油断なく杖を構えて辺りを見回す。

 

 キッチリ作戦を考えれば、今の実力に鑑みれば例え一撃熊だろうと、ゆんゆんならばどうにか討伐できる。

 ―――というより、紅魔の里では一撃熊は寧ろ接近戦しかできない分美味しい獲物である為、魔法の種類をキッチリ考えて撃ち込めば討伐ぐらい苦もなくこなせるだろう。

 

 そして今回の依頼はその一撃熊ではなく、それよりもランクの低いモンスターの討伐なので、むしろゆんゆんならば“楽勝”だと言い直せる。

 

(そういえば……此処まで連れてきちゃったこと、怒ってないよね……?)

 

 不安に思いながら、雪山をひた進む。

 ……パーティなんだから着いて行くのが普通なんじゃ?という疑問が先に立つが、実は連れて来たのは理由の半分で、もう半分は彼が自ら望んで付いて来たのだ。

 

 しかし彼女が不安に思うのなら、実力の程があやしくなる。

 仮にレベルが低いとするなら―――余りに危険極まりないその行為は、ゆんゆんに迷惑を掛けているようにしか到底見えず、本来なら怒鳴られる方が当たり前と言える。

 彼女に守られる側なら、苛々する権利すらないかもしれない。彼の行いは最早ただのチンピラだ。

 

(でも、“初心者殺し”を放物線を描く勢いで殴り跳ばしたりしてたし、身体能力は高いからなぁ……)

 

 が、どうもそれなりの信頼があって同行の承諾、及び散開をさせた様子。

 ……そして、地味に男のとんでもない腕力が開かされた。

 

 なまじ力があるとすれば、何に苛ついているのかが余計に分からない。

 

 

 

 ―――兎も角、何とか目的のモンスターを討伐し、先に待ち合わせ場所へ到達して、ゆんゆんはソワソワしながら待っていた。

 

(なんて言ったらいいかな……大丈夫でした? とか……いや、でもあの人ならどんな事言ってもイライラしたまま返しそうな……)

 

 今一度言おう。

 何でそんな怒りっぽい奴と組んで居るのだろうか?

 …一人ぼっちが故に脱却したく、『友達』『仲間』等のワードに敏感なので、同じく仲間がいなさそうな彼と出会い、その時はうまが合ってパーティ編成に至ったのかもしれないが。

 

 

 まあソレは気になるがさて置き。

 

 失敗談の本題はこの後……ゆんゆんがふと視線をずらして()()()()事にある。

 

(……あれ? 他にも来ている人が……)

 

 遠くに見えた人影を珍しく思い、若干だが覗き込む様な形でゆんゆんはその一点を見た。

 と、どうじにその人影の内一つが此方を見た事に反応し、咄嗟に視線を体ごとずらす。

 

 まじまじ見ている事で、変な人だと思われる事を避けたいがための行動なのだが……そもそも体ごと捻っているせいで、十二分に『変』である。

 もし目撃されたなら、努力の甲斐無く変な人認定されていたのは、想像に難くない。

 

(ど、どうしよう……?)

 

 この場所を動こうか、でも約束があるから、と狭間で揺れていたその時だった。

 

(えっ? な、何かこっちに来る……?)

 

 なんとその人影達が向こうから近寄ってくるではないか。

 流石に無視する訳にも行かず、意を決して彼等の方に向かって―――刹那、硬直する。

 

「!? め、めぐみっ……」

 

 出会ってしまったその人物こそ、ゆんゆんがアクセルの街をまだ訪れたくない最大の理由、彼女の自称ライバルである “めぐみん” その人だったのだ。

 『上級魔法を覚える為、決着を付ける為に修業に出る、それまでは貴方とは出会わない!』

 そう高らかに宣言したクセにまともに出会ってしまっては、約束はどうなったかと問い詰められるは必定だ。

 

 ……めぐみん本人はその約束を彼女と再会するまで忘れていた上に対して重要視もしていないのだがソレをゆんゆんが知る由も無い。

 

「ごめんなさい!」

 

 結果ピューっと逃げ去ってしまい、一刻も早くめぐみんから遠ざかりたくて、アクセルの街へと足早に戻っていった。

 

待ち合わせ場所に向かっているであろう、パーティの男を置き去りにして

 

 ……その事に気が付いたのは、手遅れも手遅れ、アクセルの街に付いて少し経ってからである。

 

「あっ……ど、どどどどどど、どうしよう……っ!?」

 

 実の所、すっぽかし自体はこれが初めてではない。

 ―――すっぽかす時点でもう可笑しいのだが、今は置いておこう。

 

 されどゆんゆんも約束を破りたくて破った訳ではない。

 待ち合わせをする事が仲間らしいと彼女は思う半面、それが故に待ち合わせに対して彼女は一々考えてしまうのだ。

 

―――変な仲に見られるんじゃあないだろうか?

―――そうなると相手に失礼ではないか?

―――そもそも装備品はこれで大丈夫か?

―――用意周到にしなければ、時間を有意義に使えていないと言われないか?

―――約束事だからもっと早く行くべきか?

―――それとも相手の都合を考えてもう少し時が経つまで待つべきか?

 ……そんな事を考えている内に時が過ぎて、結局パーティの男がゆんゆんを迎えに来てしまうのである。

 その度に『何時まで悩んでやがんだテメェはぁ!!』『ごごご、ごめんなさいぃっ!?』のやり取りが定番になってしまった。

 

 

 また、彼女は生来『友達ができる』という言葉にとても弱く、待ち合わせまでの時間を近辺でつぶそうとして、変な勧誘に引っ掛かる事も普通に合った。

―――言わずと知れた邪悪集団・アクシズ教

―――先生と慕わせようとしてくる、ただのたかり屋

―――どう見ても胡散臭い、自称15歳のおっさん

―――1日彼氏を頼んでくる青年

―――数年来の友達のフリをして近寄ってくる女性

 そんな、誰が引っ掛かるのかも分からない彼等の無駄話に付き合っていたら、いつの間にやら横に男が仁王立ちしていた―――なんて事になってしまうのである。

 その度『さっさと受け流しやがれ、んな阿保!!』と怒鳴られるのもお決まりであった。

 行い故かそれと同時に、お相手を容赦なくぶん投げたりもしているのだが。

 

(でも……ここ、今回は……!)

 

 とはいえオマケすれば確り反省すべき点はあれども、頭を抱えるほど悩む点はこれまでは無かったのだ。

 されど、今回だけは話が別。

 待ち合わせ場所がモンスター跋扈する場所で、しかも今回も自分から提示して、更に自分から有り得ない形で破ったのである。

 

(さ、最悪……パーティ解散なんて言われちゃうかも!?)

 

 中々メンバーが集まらず、悩んでいた折にようやく出来た仲間なのだ。

 しかも失敗を続けても怒りはすれど、ずっと解散せずに付き合ってくれる人間だ。

 けれども此処までの事をされてしまえば流石に……!

 

(は、早く迎えにいかないと!!)

 

 ゆんゆんは焦り、くるりと踵を返して走り出そうとした。

 

 

「おい」

 

 ―――瞬間、何者かに呼び止められた。

 

「す、すみません! 重要な要件かもしれませんが、各言う私も重大な事を考えている途中で!」

「へぇ。で、その“事”っつぅのは?」

「大切な仲間を! パーティメンバーを雪原に置いてっちゃったんです! だから彼を迎えに行かないと行けなくて! は、話はあとで聞きますからソコで待っていて貰えると助かります!」

 

 律義にそう言い残し去ろうとするのだが……何の嫌がらせかその声はゆんゆんを解放しようとはしない。

 

「熱心じゃあねぇか? だがよ、雪原に向かうなんざしなくていいと思うがなぁ、俺は」

 

 今の彼女に、その言葉は禁句だった。

 大切な仲間との繋がりを断ち切れと言われたも同然で、少しムキになってゆんゆんは振り返る。

 

「なっ……何を言っているんですか!! 大切な仲間を置き去りにしておいて今更私だけ報酬を……」

 

 ―――刹那、再び硬直。

 何せそこに立って、先の言葉を発していた者こそが…………

 

「オイ、何やら大分焦燥中みたいじゃあねぇか? なぁゆんゆんよぉ……?」

「…………」

 

 件の、男だったのだから。

 

「…………」

「…………」

「……で、言う事はあるか?」

「ほ、ほほほ、ほっ本当にごめんなさいっ!!」

 

 腰が折れるんじゃあないかという勢いで、ゆんゆんは思い切り良く謝った。

 

 

 

 

 その後。

 

 取りあえず “持ってきたモノ” もあるので説教は後だと言われ、ギルドの中に入ってクエスト達成報告をしてくることにしたゆんゆん。

 ……だがしかし、彼女のぼっち気質は先の件から分かる通り、パーティを組んでも中々治ってはおらず、冒険者達が行き交う事もあって受付嬢に話しかけられないでいる。

 結局、最後まで話しかけられなくて……受付嬢がゆんゆんが居る事に気が付き、クエストが終わったのだと見抜いて呼んでくれたお陰で、漸く精算作業に入る事が出来た。

 

「では占めて215万エリスです。どうぞ!」

「え? ……今回の報酬は……」

「ああ、状態が悪いですが一撃熊の素材が回されていたんですよ。お連れさんが持って来ていたみたいで」

「は、はぁ……?」

 

 彼の言っていた “持ってきたモノ” とは即ちそれの事らしいが、ゆんゆんは何故だかちょっと理解できていない様子。

 その様子を見てどう思ったのか、受付嬢が付け加えてきた。

 

「謙遜しないでください! 貴女のお陰でしょう?」

「え? い、いやその……」

「流石、紅魔族のアークウィザードですね! ……でも、もう少し火力を抑えて、素材の状態を良くして頂ければ幸いですよ?」

「あ、あの、だから……」

「ではクエスト達成、お疲れ様です! 今後の武運、願っておりますね……次の方!」

 

 人が待っている事もあってゆんゆんはその場から退かざるを得ず、一方的に話は打ち切られてしまい、撤回も出来ずに口を閉ざさざるを得なくなる。

 

「……終わったな?」

「は、はい」

 

 そしてめぐみんと合わない内にさっさとギルドを出て。

 目の前にいた彼から来る何時もの“アレ”に耐えるべく準備をし……。

 

「ふざけんじゃあねぇぞゆんゆん!! 何先に帰ってやがる!?」

 

 カズマ達も聞いたやり取りに繋がったのだ。

 

 

 

 

(……あんな事があったなら、何も言いたくなくなるよね……)

 

 10回も約束を守れず、しかも今回は自分から放りだした結果だと来たならば、最早組んでくれているだけでも上出来。

 寧ろこんなパーティでやってられるかと、その場の勢いで解散宣言をしても不思議ではないというのに。

 

「…………」

「…………」

 

 自身の思考が終わってしまい、実全的に沈黙の帳が下りる馬車内。

 御者が振う鞭の音と、馬の蹄音、他の冒険者達の談笑だけが、辺りを満たしている。

 

 すると―――

 

「……おい、ゆんゆん」

「ひゃいっ!?」

 

 均衡を破る声が、隣からする。

 行き成り声を掛けられ、素っ頓狂に叫んでしまった。

 

「声掛けただけだろうが……何変な声出してやがんだ、あ゛?」

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」

「…………チッ……」

 

 ゆんゆんへ向けてというより、彼女以外の何かに向けた感じで舌打ちを一つし、何やら若干いらつきを抑えた声で彼は話を続けてきた。

 

「もう慣れてんだよ、一々脅えるんじゃあねぇ。即断で許すとまでは行きゃしねぇが、それでも反省はしてんだろが」

「は、はい」

「なら次に繋げやがれ。無駄に焦んな」

 

 その後でクソッ……! と呟いていたりと、どうもイライラしっ放しなのは変わらない様だが、それでも励ましてくれたのに変わりはないだろう。

 

「あの……その……あ、あり…………有難う、ご、ございます……

「あ゛ぁっ!?」

「す、すすすすすすすっすみませぇん!?」

 

 本人的には声が小さ過ぎて良く分からなかっただけらしいが、変な所で食い違いが起きてしまい、結局ゆんゆんは謝ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 ギルド内では何やら悩むめぐみんと、傍に付きそうカズマの姿があった。

 

 

 ちなみに今日の仕事(クエスト)自体は半ばお休み状態。

 

 なんでもカズマが血を思った以上に失い過ぎた為、絶対安静とまでは行かずとも、余り激しい運動をしたり怪我を伴いそうな事は避けた方が良い―――とアクアより告げられた為である。

 それでもお金があるに越したことはないので、荷物運びのクエストなどをこなしてはいるのだが。

 

 そうして生活を続けていた……とある日。

 

「むぅ……」

「……? おいめぐみんどうした?」

「……ああ、カズマですか……」

 

 めぐみんが何やら悩んでいる様子だったので、カズマは気になり声を掛けてみることにした。

 

「なあ、めぐみん。先日からずっと悩んでいるみたいだけど、何かあったのかよ?」

「……あったと言いますか、あると言いますか……」

 

 奥歯に物が挟まった様な言い方をする彼女に如何も違和感を感じ、カズマは思い当たる節を口にしてみる。

 

「あの、ゆんゆんて子か?」

「……まあ、その通りなんですが……」

 

 先日のゆんゆんの件は記憶に新しい。

 

 ギルドでも、噂が飛び交っており、『あのアークウィザードはやっぱり優秀なんだよな』とか『一撃熊をついでに倒すとかやるな!』とか話しているのを見るに、どうもかなり凄腕の魔法職らしい事ぐらいは、カズマも認知している。

 

 ソレと同時に、『外で怒鳴られてたゆんゆんて子、一体何したんだろうな?』との会話もあった。

 同一人物の筈なのに、何故か分けられているのが、どうにも気になったが……。

 

「で、その子がどうしたんだよ?」

「あの子、紅魔の里では友達が全く居なくて、この街に来てから別の街へ行くまでも殆どパーティを組めていなかったのです」

「……なら良い事じゃないか。ソレに口調は凄かったけど、別に悪人て訳じゃあ無いと思うぞ?」

 

 会話の内容からして悪いのはゆんゆんの方である為、ソレ自体はめぐみんも察せているのか悩む事も無く大きく頷いた。

 

 そして、続ける。

 

「だからですよ」

「だから、って……」

「あの子は『友達』『仲間』なんてワードでホイホイつられる、とっても危ない子なのです。少し前にも、15歳のクルセイダーを名乗る、頭頂部の禿げた脂ぎったおじさんに声を掛けられ、話を律義に利いた挙句……」

「うん、何が言いたいか完璧に分かった」

 

 要するに『ころっと騙されるような子が、口調が粗いだけで根は良さそうな人間と組めて、しかも失敗続きでも見限られない』事にめぐみんは違和感を抱いているのだろう。

 

 付き合い自体は長いらしく、ならば余計に不可思議だと思っても、何ら可笑しい事はない。

 

「……何で知り合えたんでしょうか……あの子に限って自分からとかはあり得ませんし……そうなると変な想像ばかりしちゃいますよ……」

「心配なんだな、ゆんゆんって子の事」

 

 何気なくそういったカズマ。

 だがしかし。

 

「心配なんてしてませんよ?」

「あれっ!?」

 

 めぐみんの方も余りにサラッと、何気なく返して来て、呆気にとられる。

 

「……ですが族長の娘ですからね。何かあると彼が悲しみますし、それに付き合いが長いなら動向が気になって当然です。私を超えるなど、爆裂魔法の名に掛けて許すまじ行いですから―――なにニヤけているんですか、カズマ」

「別にぃ?」

 

 ……だがソレも数瞬のことだった。

 ムニムニと唇を動かしている辺り、本当はかなり心配しているのだ。

 

 要はツンデレ。素直になれないだけなのである。

 

 カズマがニヤニヤしながら眺めているのが気にくわなかったか、めぐみんは掴みかからんばかりの勢いで喰ってかかり、何とか軌道修正しようとする。

 

「おや、今日も遅いじゃないかカズマ、めぐみん」

「おっダクネスか。 ……しょうがないだろ、備品とか買ってたんだし。な?」

「……そうですが……」

 

 しかしダクネスが現れた事で問い詰め切れず、めぐみんはブスッとした顔で座り込んだ。

 

「あ、いたいたカズマ~! レシェイアが良いの見つくろってくれたわよー」

「丁度保持してたんらぁ……ウィッ……けが人にはピッタリらって♫ うんうん!」

 

 その後、クエスト用紙を持ったアクア、クエストを譲ってくれたらしいレシェイアも合流し、漸く今日の活動は本格始動となるだろう。

 

 地味に何時の間にやら、カズマパーティの日常にレシェイアが高確率で加わっているのだが、カズマにとっては寧ろありがたい事だ。

 

 ……最近では無償でクエストの手伝いをしてくれている事もあって、カズマの中の好感度ランキングではエリスに次いで2位に浮上していた。

 

「うっし、じゃ今日も今日とて荷物運びと行きますか!」

 

 

 気合を入れて、カズマは少し大きく息を吐いた。

 どれだけ収入が少なくとも、無いよりはマシ。

 

 そう考えて、カズマは立ち上がった。

 

 

 

 

 ―――その時だった。

 

 

「はっ! 荷物運び? おいおい最弱職さんよ、笑わせんじゃねぇよ! 何やってんだかなぁ、ホント最弱職は!」

「……あ?」

 

 ―――外野から、バカにしているとしかとれない、とある男の声が聞こえてきたのは。

 

 




次回、ダストさん一行が登場です。
……地味にあの人、上級職のテイラーが仲間なんですよね。
まあ彼がリーダーなんですけども。

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