素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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NGシーン④:雷撃の乱入タイミングが違った場合。

アクア「カズ―――」
冬将軍「ッ!!」

 シュッ―――!!

カズマ「え―――」
レシェイア「はい終了ーっ!」

 ドゴオッ!!

冬将軍「“オアアッ!?”」
レシェイア「ふいー、間一ぱ」

 ガォオオオォォォォオオオオオォォォン!!←今正に通り過ぎた雷撃

レシェイア「ニャアアアアアァアアアアァァァーーー
「レ」
全員 「「「「レシェイアアアアアァアアァッ!?」」」」
冬将軍「( ゚Д゚)」←何も言えない
???「あっ……」


 と言う訳で本編をどうぞ。

レシェイア「流石のあたしもキツイんらけど……ケホッ」



帰宅途中の悲劇

 

 

 

「ただいまー」

 

 

 そう言いながらドアを開け、ギルドへと帰参したカズマ達を、ほっ……と安心した顔で知り合い達が出迎えてくれる。

 

「良かったぜ! 生きて帰って来れたんだな!」

「雪精を狩り過ぎ無かったとか?」

「運が良かったのかもね。とにかく良かった!」

 

 口々に安堵したうまを伝えて、そのまま暖かい部屋で休めとでも言おうとした時―――彼等の口が急に止まった。

 

「……まあ、カズマがダクネスに肩貸されてんのは、体力使ったとかで分かるんだが……」

 

 深刻な怪我ではない事が、彼等をポカンとさせる原因のよう。

 だが、ソレにしたって冬将軍に出会ったにしては変な汚れ方をしている事もあり、如何も其方への興味が安堵を勝ったらしい。

 

 しかし、本題はそちらではなく―――

 

 

「何でアクアとダクネスが、ドロドロのボロボロなんだ? しかもアクアはゲッソリしてるし」

 

 こっちにあった。

 

 質問されたカズマは、滅茶苦茶苦々しい顔をして、吐き捨てる様に答える。

 

「冬将軍からは逃げる事が出来たっていうか、何とか安全を確保したんだけどな。けど、帰路に着いた時コイツがやらかしやがって……」

 

 カズマの弁を繋げると、曰く―――

 

 

 実は帰路へ突くその道すがらも、決して平和なモノではなかった。

 

 行きはよいよい、帰りは恐い、などとはよく言ったもので―――有ろう事か、帰り際に“初心者殺し”と遭遇してしまったのだ。

 強力なモンスターが跋扈する季節なのだから、別にソレ自体は居てもおかしくない。

 のだが……問題は“初心者殺し”本体ではなく、何故だか少々様子がおかしかった事にある。

 

「ちょっと弱ってたんだよ。なんか恐ろしいモンでも見たって感じでビクビクして、頭痛いのかフラフラしてた」

 

 だが弱ってはいれど致命的な傷を負っている訳でもなく、寧ろ下手に刺激したらヤバそうな雰囲気満々だったらしい。

 そしてカズマパーティの四人全員が“初心者殺し”とロクに戦えないメンバーばかり。

 レシェイアならばどうにかなる可能性があるが、それでも毛皮と脂肪の鎧はかなり面倒で、倒せる確率の方が低いだろうとカズマは値を付けた。

 

 何より遠征モドキの帰路や、対冬将軍との緊迫感でスタミナを摩耗させていたカズマ。

 背負われためぐみん。

 最初から闘う気など無かったレシェイアは、迷うこと無く放っておいての撤退を選んだのだ。

 

 ………そう、この三人は

 

「そこでよぉ……この二人がやらかしたんだよなぁ?

「「うっ」」

 

 ところがギッチョン、懲りないのがカズマパーティのポンコツ代表格。

 駄女神・アクアと、聖騎士・ダクネスだ。

 

 どうせ私の事を役に立たないとか思ったんでしょ? だから見てなさい、あんな猫如き! 冬将軍への鬱憤晴らしも兼ねて!! などと言いだして勝手に突っ込んでいったアクア。

 冬将軍では全く持って消化不良だったのだ! これは有り難い! それにアクアの援護もせねば!! と言いながら、『剣が無いのに』続いたダクネス。

 止める間もなく“初心者殺し”に立ち向かっていった二人、その結果はというと…………。

 

「攻撃当たらないからまずダクネスが、次に硬いからと諦めてアクアが齧られてましたね」

「しかもダクネスは初心者殺しを横から殴ってばっかりで、助けようともしやがらないし」

 

 オマケに武器無しのクセに一向に退こうとしないダクネスや、キーキー喚くアクアを煩わしく感じたのか、なまじ苛立っていた“初心者殺し”の勘を刺激してしまい、岩だの樹木の破片だのアクアだのが飛んできて、なんと不幸にもカズマに直撃してしまったのだとか。

 

 直前でめぐみんをレシェイアに預ける事こそ出来ていたが、意識を失うわ、怪我は結構深くて洒落にならないわ。

 アクアはカズマに気が付かず“初心者殺し”に向かおうとするわ。

 最早、まるで出来の悪い喜劇の様だったという。

 

 

 どうすればよいのか? 途方に暮れた時に―――状況は動いた。

 

「レシェイアが私を降ろしたと思ったら、何時の間にやら“初心者殺し”の傍に居てですね……」

 

 脚刀一発ぶち込んで、岩に頭をぶつけさせて大きな隙を作ってくれたのだという。

 

 そしてダクネスとアクアの脚を掴んで徐に引き摺りながら逃げ始めた。

 あっちにガリガリこっちにゴンゴンぶつけ、時折ガッツンガッツン跳ねる。

 全く慮らない、容赦のないその引き摺り方にさしものダクネスも声を上げたが、当のレシェイアは知らんぷり。

 

 そのままめぐみんを背おいカズマを脇に抱え、片手で残り二人の脚を掴んで先程以上の速度と乱暴さで引き摺り逃げる。

 尤も、別に乱暴にしたくてしているというよりは、必死過ぎて其処に鑑みれないだけの様だったらしいが……。

 カズマの状態もある為、焦っていたのだろう。

 

 

 漸く逃げ切った後で……まぁダクネスは兎も角、当たり前ながらアクアから抗議の声があがった。

 『何であんなことするのよ! 貴方にはこの女神の尊さが分からない訳!? もうボロボロじゃない!!』

 ―――その、お馬鹿な言葉に対するレシェイアの反応は―――。

 

『黙って。早くカズマ治癒しないと砕くよ』……って。ガチで言ってましたね、アレ」

「……おだぶつ一歩手前だった俺にも聞こえてたぞ、冬将軍なんて目じゃなかったぜ……」

 

 まさかの―――否、当然の酔いすら抜いた静かな『ガチギレ』。

 

 さしものアクアも真っ青になっていたのだとか。

 まあ疲れている者達を放っておき、しかもうち一人がヤバい状態にもかかわらず、自分勝手に吠えれば……怒りが湧いてもおかしくは無かろう。

 後でテンションを戻す為か酒を飲んでいたが、誰もツッコめる者などいなかったという。

 

 そんなお間抜けな紆余曲折を挟み―――何とかギルドに戻ってきた、という訳らしかった。

 

ブツブツブツブツブツブツブツ……

 

 げっそりしながらも何やら不満を呟いているアクアに、むっとした顔でレシェイアが珍しく酒を飲まず保持したままに言ってくる。

 

「ら~ってさぁ? めぐみんが動けらいのに話わざわざ危険を呼びに行ってさぁ。しかもカズマからドクドクドクッ、って血が流れてるろに自分勝手にギャーギャーと……酷いったらありゃしないんだッれば……ヒック、うん」

「冷静になれば、私も何と言う愚かな事をしたのかとは思ったが……しかし引き摺られれば誰でも」

「引き摺らなきゃイケない面倒くさいトコまで粘ったのはぁ……ウィッ、誰らっけ? えぇっ?」

「……す、すまない……」

 

 まずダクネスが撃沈。

 反論も出来ずに俯いた。

 

「……だって私蘇生魔法使えるし、回復魔法だって超凄いし、手遅れなんて状況有り得ないし……」

「くだらない私欲の口論と、今助けられる刻一刻を争う命。どっちが大事かなぁ~? ん?」

「……後者です、はい」

 

 続いてアクアも撃沈。

 言い返せないのもあるが、よっぽどレシェイアの『極寒モード』が怖かったようだ。

 それとも気が付いていなかったとはいえ、怪我人を放置し掛けた事を少なからず反省しているのか。

 ……まあ気が付いていようといまいと、ほっぽり出しかけたのは事実なのだが。

 

「……そもそも、原因はアタシみたいなもんらし、だったら尚更必死になるしさぁ……うん」

「途中で刺激したのを放置した結果だっけか?」

「ですがあんなとこに出て来るなんて普通分からないですよ。途中でレシェイアが道案内をし出したのも、“初心者殺し”を避ける為だったのでしょうし」

「敵探知スキル使ってなかった、俺も悪いしな」

 

 こっちもこっちで落ち込んで居るレシェイアだが、流石に彼女へ非が無いとは言えずとも。直接の原因ではないからか別に責められてはいない様子。

 まぁ本当なら放置して帰路に着けたモノを、二人が私欲で突かなくても良い藪を突いたのだから、非は少ないだろうが……。

 

「う、うむそれなら!」

「そう、なら私達は悪くな―――」

 

「「「悪いわ、反省しろ」」」

 

「「……はい」」

 

 三つ分の怒りを受け、いよいよ二人は轟沈。

 されどこれとはまた話が別。

 確り反省して貰いたいものである。

 

 

 すぐ忘れそうな予感がするのは、果たして気のせいなのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――暫くして―――

 

 漸く落ち込みから回復した者等を連れ、報酬を受け取り分け合う。

 本人の好意もあり、レシェイアは要らないと言った為、四人での山分けだ。

 そしてその作業を終えたカズマの顔は……あまり芳しく無かった。

 

「アレだけやって百五十万エリスじゃあ、贅沢だろうがちょっとなぁ……焼け石に水だ」

 

 報酬額だけ見れば確かに高いとは言えるが、受けた被害に鑑みるなら結構痛い金額だ。

 ―――まあ、被害の大元は冬将軍ではなく、“初心者殺し”なのだがソレはさて置き。

 

「あ、そう言えば……」

 

 カズマはふと思い出す。

 冬将軍に出会ったウマを伝えると、大雑把な情報とニ億エリスという報奨金が告げられ、強いのにも納得だと頷いた先のやり取りを。

 

「なあめぐみん。冬将軍を―――」

「爆裂魔法では倒せませんよ。人型でも精霊、魔力の塊みたいなものですから。そして精霊の王クラスともなれば、魔法防御力だって最高位。流石の爆裂魔法でも一撃では止められないでしょうし、というかあんな奴に撃ちたくありません」

「……だよなー」

 

 二億さえあれば借金の帳消しに蓄えともなるが、しかしそれもまたとらぬ狸の皮算用、または絵に描いた餅に過ぎない。

 何より殺されかけた後だからという事もあって、その判断は愚か過ぎると、カズマはすぐに頭を振って消していた。

 

 これであと十万でも重ねられればいいのだが、どうも雪崩や雷撃にモロ影響を受け、アクアは逃がさず保持しておいた雪精を全部放り出してしまっていたらしい。

 よって、追加の報酬も期待できない。

 

 

 が、良い事が無かったかと言えば、実はそうでもなく……。

 

「……そう言えばカズマ。ちょっとニヤけてますけど、何かあったんですか?」

「ああ、臨死体験してた時に、凄い人と出会ってな?」

「凄い人?」

「女神だよ! 女神エリス様!」

 

 何でもカズマが言うには―――気が付くと自分は黒い大地に立ち、目の前には神殿のような部屋が広がり、しかし見えない壁があるかの如く通れなかったのだとか。

 

 そしてその向こう側から『貴方はまだ死んでいません、だから此処は通れませんよ』という、清楚さを感じさせる女性の声が聞こえ……その人物こそ、エリス教の元締め足る女神・エリスその人だったのだ。

 

 自分が死にかけた不幸を悲しみ、そしてまだ先がある事を喜んでくれたその女神に、初めてまともな人に出会ったとカズマは感動したという。

 レシェイアも性格はまともな方だが、やっぱりテンションの落差や酒臭さの為、内外共に真面な人―――厳密には人ではないのだが、兎も角そういった女性に出会ったのが始めてなのだからより感動しただろう。

 

 そして現世に還る寸前、エリス様は嬉しそうに『御武運、心から祈っていますね、冒険者カズマさん』と言いながら微笑んでくれたのを見て、カズマは見事にハートを撃ち抜かれた……という顛末らしかった。

 

「幻覚じゃあないのですか?」

「有り得るな。でも、それでも俺はあの人に心奪われたぜ! あの人こそメインヒロインだ!」

「……?」

 

 ちょっと言葉の意味が分からないのか首を傾げるめぐみんに構わず、カズマはアクアとダクネス、レシェイアの待つテーブルへ向かい、腰掛ける。

 

 テーブルの上にはメニュー票が広がっており、もう既に食事を頼む気満々の様子だ。

 

「お、おいおい……まさか今回の金を使う訳じゃ無かろうな? アレは冬を越す為の……」

「だいじょーぶらよぉ」

 

 レシェイアが苦笑しながら、己を指差し手をヒラヒラ振って見せる。

 そして彼女が続ける前に、アクアが大丈夫である訳を口にした。

 

「レシェイアが奢ってくれるんですって! 疲れた体を充分に休ませる為に、栄養を取らなきゃって提案してくれたのよ!」

「何から何まで……すまないな、本当に」

「なら好きなモノを頼んでも良いのですか?」

「ん! どーぞどーぞ♫」

 

 笑顔で促すレシェイアは、次にカズマの元へと近寄ってくる。

 耳元でそっと呟く。

 

「カズマもぉ血を失っちゃってるし? それにこうでもしないとさぁ、また借金が増えそーだし、ね?」

「……マジサンキュー……っ!」

 

 こんな二人の心内など露知らず、好き勝手に御馳走を頼んではナイフとフォークを鳴らすアクアとめぐみん、先の件を気にしているのかそれとも分を弁えているのか一応遠慮しているダクネスを見て、カズマは大きく溜息を吐いた。

 

(……ホントにさ、もうちっとでいいからレシェイアの優しさを見習ってくれよ、マジでさぁ……)

 

 あと少し、ほんの少しでも取り入れてくれれば、アクア達も信頼できる者となるだろう。

 

 かなり厳しいのが現実なのだが

 

 

 と、料理を待ちながらギルドの中を見ていた……その時だった。

 

 

「あ。あれはさっきの子じゃないか? めぐみん」

 

 カズマの視界の先。

 其処には雪山で出会った、紅魔族らしき少女が居たのだ。

 

 そう言えば詳細を利いていなかったと、改めてカズマはめぐみんに問う。

 

「さっき? ……ああ、ゆんゆんの事ですか」

 

 もう名前にはツッコまねぇぞ、と口が動きそうになるのを我慢して、別の言葉を絞り出す。

 

「ごめんなさい! とか叫んで逃げてたけどよ、あの子に何かしたのか?」

「してませんよ。しいて言うなら学校時代に、あの子の前をウロチョロして居るとゆんゆんの方から喧嘩を吹っ懸けて来て、その際の勝負で彼女のお弁当を巻き上げていた事ぐらいですか」

「……どっちが悪いのか微妙な言い方すんなよ」

 

 喧嘩をしかけるゆんゆん、弁当を巻き上げるめぐみん……確かにどちらに味方したら良いのかが分からなくなる。

 

 だが、本題の答えにはなっていない。

 そもそも、そんな事ではごめんなさい! 等と言う筈も無いだろう。

 

「そうなると……後は前に『私は上級魔法を覚えるまで、めぐみんとは再会しないから!』とか何とか言っていたけれども、アレを律義に守っていたりは……」

「いや、マジでそれじゃねぇの?」

 

 寧ろそれ以外に思い付かず、カズマは改めて聞こうとして……その紅魔族の少女・ゆんゆんが、もう既にギルドの扉をくぐった事に気が付く。

 

 そして扉が閉まるその直前、何やら向こうから声が―――

 

 

『ふざけんじゃあねぇぞゆんゆん!! 何先に帰ってやがる!? 待っとけっつったのは他ならぬテメェだろが!!』

『だ、だだだだって、本来なら出会わない筈の私のライバルと―――』

『待ち合わせする方が仲間らしくて良いー、とかいってあんな目印もクソもねぇ雪山ん中に放置してぇ!? 阿呆な案を通した挙句ぅ!? 個人の感情ですっぽかすなや、もうコレ何回繰り返したと思ってんだコラァ!!』

『え、えーと…………十回?』

『回数なんざ聞いてねぇよ、つぅかそれだけでも反省するに値する数だろうが、しかもコッチに聞くんじゃあねぇ馬鹿かテメェは!!?』

『つつ繋げて言わないでくださぁい!?』

 

 ―――否、怒鳴り声が聞こえて来て、その苛立ち具合と剣幕に、カズマは思わず肩をすくめてしまった。

 

 アレはどういう事なのかと、めぐみんに聞こうとして……何故かめぐみんは固まっており、何も聞けない状態だった。

 

 

 結局その硬直は食事前まで続き、一旦は話を打ち切って、後で聞くことにしたカズマであった。

 




カズマが無事なままなので、アクアもダクネスも少し軽薄になると思います。
……というか、話が全然進んで無いし……。

ではまた次回!(オイコラ

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