素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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今回は、あのボッチ少女と頭が可笑しい人が登場し(というか絡まれ)ます。
……ちらっと顔見せ程度で終わっちゃいますけど。

そして、あの脱がせ魔な鬼畜(ガチ)と、水色のチンパンジー(仮)もちょこっとだけ。

では本編をば。


身勝手な酒宴、開幕

 彼女は何時も一人だった。……というより、今現在進行形で一人だ、とでも言うべきか。

 

 

 彼女は別段、近寄りがたい何かがある訳ではない。

 寧ろ、可愛げな容姿、10代前半という歳に似合わぬスタイル、紅魔族特有の綺麗な赤瞳もあり、正しく美少女と言っても過言ではない為、お近づきになりたい人の方が比率的には多かろう。

 

 

だが運命の悪戯か、彼女は未だに一人ぼっちだった。

 

 

 冒険者ギルドに朝早く通っては、挨拶程度でも良いから声を掛けて貰えないかと期待しながら待ち、結局誰にも見向きされず、ソロでも十分に通用するランクの討伐クエストを選んで出かける。

 

 討伐自体は順調に終わり、多少服が汚れる事態は有ったものの、怪我は無く冒険者ギルドへと無事帰還する。

 ……しかし、魔法職な所為で筋力ステータスが足りず、持ちかえった換金できる素材は掌に乗る分だけ。

 近接前衛クラスが居ればいいのになと思いながら、交換に渡されたエリス硬貨を手に大人数掛けのテーブルの端っこに座る。

 

 運良く少女の傍を通りかかった店員へと注文すべくと行動する……が、控え目に上げられた手と、ボソボソ呟かれる声は、近くの冒険者パーティーご一行の大声注文に見事なまでにかき消される。

 

 結局注文が通ったのは彼等が引き揚げてから。

 しかも自分から声を掛けたのではなく、不思議に思った店員に声を掛けられて。

 その様子から何かを悟ったか、少女から数歩離れた位置まで来た際、店員が耐えられないと言った感じで沈痛な表情を浮かべる。

 

 やがて運ばれてきたリザードステーキの定食を前に、柑橘系のジュースを片手に呷りながら、もくもくとフォークとナイフを動かして行く。

 食器を片づけに来た店員へと今度はクリムゾンビアーというお酒を一杯注文し、軽くながら酔いが回ってきて尚……声を掛けてもらえるのではないかという期待を胸に、座り続ける。

 無表情から一向に変えず、ただジョッキを片手に座り続ける。

 

 ……顔見知りとなった店員の眼頭が熱くなる。

 

 

 ―――少女は冒険者登録してから、時は其れなりに経っており、しかもパーティー募集の張り紙まで作ったのだが、やはり運命は彼女に味方せず、誰も声など掛けてはくれない。

 アークウィザードという上級職にも拘わらず。そして登録時に其れなりに期待されたと言うのに。

 ……もう、不憫にも程があった。

 もう夜も遅い。

 ここ等が潮時かと見定めて、少女はその重たい腰を上げた。

 

 

 

「一人で飲むらんて、ちょ~寂しいのでふ! だから付き合うが良いろさ、お嬢ちゃん!」

「ひゃいっ!?」

 

 唐突に後ろから大声を掛けられ、DVDの逆再生みたく―――エキゾチックでエキセントリックな動作で、瞬く間に座りなおしてしまった。

 

「あ……あ…………あ」

 

 ギギギ…………そう音が聞こえそうな位、油を刺し忘れたブリキ並のぎこちなさで、少女は恐る恐る背後へ振り向く。

 

「ラリホーラリホゥ! 酒盛りなんれのは沈んじゃノンノン!、もっと楽しくいくんらよ?」

 

 そこに居たのは一人の女性。

 灰色に近い髪を結って折って留めてあり、もう既に酔いが回りきったか片目が半眼で、顔もトマトの如く真っ赤。

 しかも妙なまでに酒臭かった。

 

「店員さぁん!! クリムゾンビアー30杯! 超至急、お願ひま~す! それcome ON! come ON!!」

(そっか、一度に頼んでそれから飲むん―――ってえ!? まって30杯? 聞き間違えじゃなく30杯!? 3杯じゃなくて!?)

「またですかレシェイアさん! 昼間からあれだけ飲んでまだ足りないなんて……ハァ、どうせ追加するんでしょう?」

「すごいすごぉい! そー、また飲むの……だからおー当たりぃ! おつまみも込み、ゲコちゃんの唐揚げっ♫ ニャハハハハハハハ!」

(しかもまだ頼むのこの人!?)

 

 おそらく今までは運悪く入れ違いになり続けていたのだろう、今まで見聞きした事すら無い酒豪女を前に、ビックリ仰天目を皿にする少女。

 

 其処から立ち直る間もなく、手慣れたものか次から次へとジョッキが運ばれてきて、レシェイアと呼ばれた彼女もまた次から次へと飲み干して行く。

 気持ちのいい飲みっぷりではある。

 しかしその量が問題で、気が遠くなりそうなくらい量もスピードも半端ではない。

 

 少女は青ざめてもう飲む気が無くなってしまい、まだ半分以上中身の残ったジョッキを静かに置いてしまった。

 

「おっほ♫ 飲まないならちょーらいっ?」

「え? あ、はい、どうぞ」

Thanks(ありがと)! んぐっ……コクッ……!」

 

 ―――それを目ざとく捉え……しかし律儀に了解を得てからもらうレシェイア。

 豪快に喉を鳴らして、止める時間もあっという間もなく、中身を腹へと流し込んでいく。

 

……あっ

 

 ……と、何かに気が付いたらしく。

 お間抜けに口を充てて片手を所在なく浮かした格好で、少女はちょっとばかしの間、ピクリとも動けず固まっていた。

 

(まさか……い、今のって関節キスなんじゃあ……!?)

 

 いや気にする所がおかしい。

 それ以上に追及すべき事態が、あるのではなかろうか。

 だが、少女がソコに気が付く前に、女性はどんどん話を先へ進めて行ってしまう。

 

「あ、そーいえば名前を聞いれなかったのれふ……ねぇおじょーちゃん、名前なぁに?」

「ふぇっ!?」

 

 またも裏返った声を上げて、少女はびくっと跳ね上がる。

 ……しかし酔ってろれつの回らない言葉では有るが、ちゃんと間が開いていたし、聞き取れない物でもいきなりな物でも無かった。

 

 まぁ、確かに質問自体は突飛過ぎるが、それでも飛び上がるほど驚く物でもない筈だ。

 オマケに難しい顔をして、警戒の空気を目いっぱい噴出させ、キョロキョロと決して目線の焦点が定まらない。

 

 様子からして……どうも自分の名前に対して良い思いを抱いていない様子。

 そのせいか片方は一人でどんちゃん騒ぎしながら自己紹介を促し、片方は陰鬱な空気を湛えたままドンドン沈んでいく。

 対称的な近寄りがたい雰囲気が数分ほど続く。

 

「まぁいっか! 今はぁ、楽しく飲むのが大事な事らよっ♫」

「は、はぁ……」

 

 多分、空気を呼んだのではなく気紛れからであろう。

 ……というか酔っ払いに空気が読めるとは到底思えないが……最後はレシェイアの方が折れる事で、どうにか少女は自分の名前を言わずに済む。

 

 ほっと一息ついて、されどレシェイアからどうにか距離を取ろうと、ほんのちょっとだけ腰を浮かせた。

 そのまま両手を椅子に置き、ゆっくりと体をスライドさせて

 

「キャァアァァアァーッチ! タッチアウトォ!」

「ふやぁっ!?」

 

 レシェイアにコンマ数秒で捕まった。

 無理矢理に肩へと手を回されて、顔と顔の距離が詰まり酒臭い息が間近に迫る。

 

「一人なんか寂しいのれす! 一緒に飲む仲間が欲しいんれす! だから逃がしてあげましぇん! ウヒャヒャヒャヒャハ、ニャハハハハハハハハ♫」

「な、仲間……!? うっ、お酒臭……でも、仲間って……!(な、仲間)…………(仲間)……」

 

 一方的に肩を組んだ状態でユッサユッサと揺らされて、黒髪の少女は多少別の意味で良いかけているが――解してくれようはずもない。

 

「ほぉらならまずは乾杯らよ! 仲間の証を打ち合おうではないか~っ」

仲間っ…… 証……

 

 強引に渡されたグラスを―――何やら呟きながら確りと握り、やや躊躇いながらもレシェイアに中てられたか力を込めて、真正面からガシャァン! と打ちつけた。

 

 

 

 ―――その後、殆ど一方通行などんちゃん騒ぎは深夜……暗いまま日が変わるまで続き、結局のところ受付嬢に追い出される形で、やっとこさお開きとなった。

 

「うぃ~……ひくっ……しけてんらしけてんら。確かにクリムゾンビア-、アルコール度数がちょびっと低いろ? けれろ、味気に入ってるから、まだまだガンガン行こうぜ! って思ってたのに酷い人達らよ!」

「……そ……そう、ですね」

 

 人付き合いの悪さ故の弊害が此処で出たか、どのタイミングで別れた方が良いかを判断できない様で、しかも宿が同じ方向に有る為、少女とレシェイアは一緒に歩いている。

 

 ……しかし、抱く温度には決定的なまでの “差” があった。

 

 冷静に思い返してみて、自分達がどれほど悪目立ちしていたかを判断できたらしい。

 そんな訳で今現在の少女は、酔いが回っているとは到底思えない真っ青な顔をしていた。

 

 折角仲良くなった店員に嫌われてしまったらどうしよう、話しかけてくれる人が居なくなったら(元から居ないが)どうしよう、そもそも悪評が出回ったらどうしよう……ネガティブな考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えて行く。

 

 何よりも、

 

(もしかしたら……め、めぐみんにッ……『酒に惑うなど三流以下。笑わせないでください、臭いですよゆんゆん』とか……! そんな感じで、情けないライバルはいら、要らないって言われちゃうかも……!?)

 

 ニックネームで呼び合う程に仲が良い、恐らくは同郷の者だろう人物の名を強く思い浮かべる。

 少女は差し詰め 『ずぅ~ん』 と効果音が付いても何ら可笑しくない様相で、それぐらい深い深い後悔の海の真っただ中に居た。

 

 ―――実際のところ、レシェイアの酔い方の色んな意味でのひどさは、既に冒険者ギルド内部どころか、関連組織にまで噂が至たる周知の事実。

 

 オマケにあの騒ぎは日常的なモノとなり果てており、精々『ああ、あの子も絡まれた可哀想な達なんだな』としか思われておらず、悪目立ちしていたのは一人だけ。

 寧ろあのお陰で、彼女へ少しばかり好意的な注目が集まっていたのだ。

 が……ギルド内の残っていた人数の少なさと、他者と話す事が極端に少ないという事情上、これから先すぐに知る事も無かろう。

 

「あ、そうら、言い忘れてたら」

 

 暗い影を落としながらトボトボと歩く少女の内情など露知らず、レシェイアはまだ不満が残りながらも、あらかたは様気に戻った声色で、斜め後方を歩いていた少女へ振り向く。

 

(もう何を言われても、素直に頷いたりしないんだから! 確固たる意志を持って、私……!!)

 

 胸の前で両拳を握り、まるでこれから戦場へ赴く千篇の様な表情と気迫を湛え、勢いよく顔を上げてレシェイアの方を真っ直ぐに見た。

 

「酒盛りに付き合ってくれる何れ、お嬢ちゃん良い人ら! ん、決めた……!」

「決めた、とは?」

「ジョッキを打って、酒を酌み交わしたんら! これでもうじょーちゃんとアタシは、絆で繋がる友達らよっ♫」

「と、友達っ……!! 良いんですか、私なんかが……!?」

 

 ……決意が数秒で揺らいでいた。

 

「なーに言っへる! 酒は確かに謀略(ぼーりゃく)にも使われる悪の薬ぃ……けどぉ絆の象徴でもあるっ! 善意を持って酌み交わせば、文字通り親友となれるんら!!」

「しん、ゆう……っ!!」

 

 そして更に数秒で呑み込まれていた。

 心なしかギルドで飲んだ―――というより飲まされた酒の良いが、少しずつ戻り始めている様にも見える。

 

「じゃあまた会おうおじょーちゃん! アタヒの親友っ! ニャハハハハハハハハハハ!!」

友達……親友…… やっと、二人目の……

 

 そうやってボソボソ聞こえない声でぼやく少女を余所に、上機嫌で高笑いしながら、去っていくレシェイア。

 少女も少女で立ち尽くしたまま、数分を其処で過すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ? ……どうしたのめぐみん、こんな所で」

「……どうした? はこっちの台詞なのです。 ゆんゆんこそ何故にこんな所で惰眠を貪っているのですか」

「そ、それは昨日! ……昨日…………親友?」

「……遂にボケましたか」

「ちち、違うってば! 違うんだけど……あ、あれ? 思いだせない……?」

「ボケましたね」

「だから違うってばぁ!?」

 

 ……ちなみに酒に酔っていたことと、状況に酔っていた所為なのか、後日お互いにその事を、かなーり曖昧にしか記憶しておらず、ほぼほぼ何もない状態に戻りましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 親友宣言(忘却済み)から早、1週間と数日。

 

 

 今日も今日とて騒がしい冒険者ギルド。

 

 

 ザワザワやガタガタどころか、ワイワイ、ガヤガヤという表現が実によく似合う盛り上がり様を見せている。

 平時でこれほど喧騒を出せるなら、祭りどきだと一体どれほど盛り上がるのか、いっそ楽しみになって来てしまうぐらいだ。

 

 そんな、ちょっとした音なら飲まれかき消されしまう建物の中で、なお異様な存在感を放つ “声” が響き渡った。

 

「たぁ~っだいまぁ! いま帰ったよぉ!!」

「お、今日も赤いなレシェイア!」

「そりゃもう、景気が良いもんで良いもんで、酒がちょ~進むんら!」

「何時もの事でしょう?」

「ニャハハ、まーそうなんだけろれっ♫」

 

 流石に有名になり過ぎたか、レシェイアは声も掛けられるようになっていた。

 

 ちなみにだが、あの“ゆんゆん”とニックネームで呼ばれていた少女は、やっぱりそう言った星の元に居るのか端っこで静かに一人座っている。

 ……まだ若いのに、かなり年季を重ねた哀愁を纏っている。

 

 が、レシェイアの目には当然止まらない。

 何だかちょっぴり理不尽である。

 

「きょぉーも頑張ったろぉ、って訳でぇ~精算してちょーらいっ♫」

「……またジャイアントトードにランナードバード、ビッグ・デロワームにお化けカボチャ、ウォーキングフィッシュの稚魚……おつまみの品ばっかりですか……?」

「ん! おいしーのは正義れす! ニャーハハハハハハハハッ!!」

 

 何かと酒の肴になる物しか倒さず、依頼ですらそればっかり選ぶレシェイアと、その偏り様に頭を抱える受付嬢とのやり取りは、彼女の奇々怪々な酔っ払いっぷりも相俟って、知る者の方が多くなってきていた。

 

 

 しかも冒険者として有名になっているかと言えば勿論そうではなく、比較的ながら弱い部類のモンスターばかり相手取っているのだとか。

 その上に、偶々見かけた他の冒険者たちの証言によれば『弱い中でも更にに弱い個体をおっかけ、すっ転んでいた』との事もあって、未だ謎という名の渦中にある本人の実力は噂にすらなっていない。

 

 受付嬢も最初の内は規則を忘れているのか中々カードを見せず、漸く確認できても殆ど全部が嗜好品目的の仮だったので、ヘベレケ者を追っ払う為にも流れ作業の如く対応している。

 

 ……真面目で有れば誰だって、臭い・危ない・面倒くさいと見事に三拍子そろってしまった、所謂悪名で有名な酔っ払い相手に長々対応したくは無いのだし。

 

「はい……換金いたしまして、締めて三万九千二百エリスです」

「せんきゅ~べりまっちぃ。んふぅ、おれー()に投げキッス上げちゃう!」

「要りません」

 

 兎も角―――お決まりのやり取りを一通りこなしてから、レシェイアは無駄に大きな音を立てて席に着き、無駄にギルド内へ響く大声でクリムゾンビアーを注文する。

 冒険者達の内、荒くれ者気質な者は苦笑いし、また良識ある者は少しながら顔をしかめる。

 受付嬢とウェイトレスが溜息を吐く。

 

 ……ところで今は何時かというと、地球の時刻で言えば正午を少し過ぎたあたり。

 飲んでいる客や冒険者だって確かにちらほら居はすれど、彼女並に腰を据えて酒に浸る者は居ない。

 景気付けに一杯だけ飲んでいたり、食事を流し込む為の水代わりが殆どだ。

 

 故、やっぱり目立つ。必然的に目立つ。

 

 

 そんな、異様な光景ではあるものの。

 ……彼女(レシェイア)が加わってからは日常的になり、基本的に誰かを害するような騒ぎ方をする訳ではないので、関わらなければ安心だと皆放って置いていた。

 

 だからこそ―――次の彼女の一言で、ウェイトレスは凍りつく。

 

「お待たせしました、お化けカボチャの裏ごしクリーム風と、クリムゾンビア-最初の5杯―――」

「あ、今日は5杯で十分らよ? やりたい事あっ()から」

「え」

 

 誰かが空間に凍結系の魔法でも掛けたのではないか、もしくは時間を操る能力者でも現れたのではないか、と真剣に疑ってしまっても可笑しく無い……それほどの静寂が彼女の周囲に流れた。

 

 そんなウェイトレスなど、もうレシェイアの眼中にない。

 おつまみ片手に豪快な所作でクリムゾンビア-を1杯、2杯、3杯と超速で呷ると、スキップしながらとある掲示板の方へむかっていく。

 

 

「んぅ……そろそろ仲間が欲しいんらよれぇ」

 

 何時も通りの片目半眼ではあるものの、どことなくといった曖昧な物ながら、その吟味する目は真剣味を帯びていた。

 

 掲示板を見てみれば、ソコには意外にもあるわあるわ、~を募集! ~求む! ~でお願いしますといった、パーティーへの勧誘を促す自作の記事。

 

【新規として、ウィザードとプリーストを募集中。現在のメンバーは剣士、弓使いの二人です。興味ある方は“コチラ”まで】

【現パーティーメンバー:ウィザード1名・剣士1名。募集メンバー:ナイト・盗賊】

【盗賊とクルセイダーでパーティーやってます。引きこもりとサディスト気質を持つダメ人間攻撃的な前衛職か、支援スキル持ちの後衛職を募集!】

 

 多種多様な字、文面、イラストで、掲示板の一角を彩っていた。

 当然ながら求める人材も多種多様であり、その中でもプリーストや魔法使いを求める声がかなり多い。

 

 前者はゲームでも必須な回復や支援のスキルにひいでて、後者は選択さえ間違えなければ安定した火力を誇る事もあり、そう考えると確かにそのクラスは一人欲しくなる。

 

 しかし……アクセルの街は初心者の街とも呼ばれ、若手が多く集まる街でもある。

 夢多い若者であればチマチマ頭を使うクラスよりも、武器片手に暴れる分かりやすいクラスに偏ってしまうのも仕方がない面があろう。

 更に魔法使いなどのクラスは素質がある程度ながら必要で、その上に君臨する『アークウィザード』、『アークプリースト』ともなればもはや才能の域なのだ。

 

 それ以外にも理由はあるが、基本的に最初から魔法職を選ぶ者は少ないと言って良い。

 だからこそ、彼等はパーティーメンバー募集の用紙に、こぞって魔法職募集を書き込んでいるのだろう。

 

「失礼しまーす」

 

 今横からはぎ取られた募集容姿は【魔法使いです。パーティーメンバーとして、前衛職を求めています】と書かれている。

 状況や詳しい内容こそ違えど、これも魔法職を重要視している一つの良い例だと言える。

 

 

 ……されどその傾向が、レシェイアにとっての“ネック”となっていた。

 

「【冒険者求む!】―――なんれ広告は無いんらねぇ? 一つ位あってもよさげれしょうに……うぃ~」

 

 今本人が口にした通り、レシェイアのクラスは最弱職の『冒険者』。

 

 強みと言えば、教示して貰えればどのクラスのどんなスキルでも覚えられる所にあるのだが、習得に必要なスキルポイントは最悪倍以上食うわ、クラス補正がないから適正職には絶対に劣るわ、いっぱい覚えても器用貧乏で終わるわ、本人自体が其処まで強くないわで、欲しい人間など存在すらしない。

 

 何より此処に居る冒険者の半分以上がその『冒険者』クラスのもどかしさと役に立たなさを身をもって知った者なのだし、だからこそ所謂 “要らない子扱い” は世知辛くとも妥当だと言えた。

 

 加えて彼女事態に重要性を絞ったとしても、流れている噂は良い物などほぼ無いに等しい。

 

「え~っ()ぉ……何かぁ名前聞いても笑わないとか、一緒に居て欲しいとか、詰まらない話とか……変にいーっぱい書いてあるけろ? 要訳すればぁ【前衛職が欲しい】って事らねぇ……当てはまらないら」

 

 一応広い目で見れば(必要かどうかは別として)『冒険者』も前衛職にあたる。

 が、レシェイアは先入観もあって無理だと思い、すぐさま別の用紙へ顔を映す。

 

「これはぁ……【前衛攻撃役募集!】―――って事みたいら。アタヒは壁らからなぁ……ソコが良くても冒険者じゃねーし。前衛じゃあダメらねぇ、アタシじゃ」

 

 その後も次々募集紙を眺めれど、見事に全て撃沈。

 何時も陽気な彼女にしては珍しく、肩を落としてトボトボ、出入り口へと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

「おおぉ!! 此処が冒険者ギルド―――って臭っ!? さっきの人酒臭ぇ!!」

「何か落ち込んでたみたいだし、失恋でもしたんじゃない?」

 

 入れ違いに、何故かこの世界では見かけない筈の緑色のジャージを着た青年と、水色の髪を持った何処となくアホ―――いやいやちょっと足りなさ気な少女が入って来た。

 いきなりトンデモない事を口走られた様子だったが……レシェイアは反論もせずにそのまま歩いて行く。

 

(……?)

 

 ―――ふと、かけられた酷評とは別の理由か、一瞬ばかり立ち止まって目線をずらしたように見えたが……特に変化も見せず再び歩き始めのだった。

 

 

 

 

 

 

「よぉーし! 明日頑張るらよっ!! 酒飲んで冒険れっつらごぉ!!」

 

「うおっ!? 行き成りかよ、ビックリしたぁ……」

「プークスクス、ビビり過ぎでしょヒキニートwww」

「うううるせぇっ!? ってか引きこもりとニートを足してんじゃねぇ! あともうニートじゃねぇよ!」

 

 ……何時も通りな雰囲気のままに。

 

 


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