(※下ネタ注意!!)
アクア「『ゴッドレクイエム』!!」
カズマ「や、だから打撃は利かな―――」
アクア「説明しようっ!『ゴッドレクイエム』とは! 女神の愛と悲しみの
パクッ
アクア「あっ」
カズマ「……」
めぐみん「……」
レシェイア「……」
―――暫しの沈黙―――
めぐみん「め、女神の……愛と、悲しみ……」
レシェイア「いや、愛と悲しみの……えっと……」
カズマ「女神の愛と悲しみのチ○コて」
めぐみん「ハッキリ言わないでください!?」
……はい、どう考えても “下ネタ” です、どうもすみませんでした。
では、本編をどうぞ。
アクア「ねぇ私の扱い酷くない!? この二次!!」
―――時刻は現在、朝五時半過ぎあたり―――
空は昨日と変わらず厚い雲に覆われて、外は夜の間に積もったか真白に染まっており、粉雪がちらちら上空から舞い降りて来る。
「くぅ……く、クソ寒い……」
そんな中でも、より良い依頼を気まぐれで他の冒険者に取られてたまるかとカズマは早起きし、アクアが起きるまで待つべくか厚着をして焚火へと手をかざしている。
……起こした方が早い気もするが、実際のとこ一回揺すってはおり、隣には男性冒険者が住みこんでいる。なのであまり度を超えて騒ぐと普通に怒鳴るのだ。
加えて、空気を読まない駄女神相手に静かな対応など『無謀』の一言。
なのでまずは暖まる所から始めたらしい。
「ちち、ちきしょう……中々暖まら、ねえ……ってか、て、手が痒くなって……!」
だが中世ヨーロッパに近いこの世界に置いて、魔法の存在があるからして火をおこすだけならば兎も角、身体へ熱を蓄えるのは一苦労だった。
ストーブにエアコンにコタツといった、彼の元居た世界の文明の利器がこの世界では当たり前のように存在しないので、このような原始的な温まり方しかできない。
冒険者家業が落ち付いたなら、まずはこの我慢ならん寒暖対策から何とかしようと、カズマは今だからこそ強く確固とした考えを抱いていた。
「はぁ……息、もまだ白いぜ……寒、寒っ……」
震えながらも待ち続け……暫く経っても、未だにアクアは起きてこない。
もう焚火のそばから離れる方が、余計に寒くなるぐらいの温度に達している為、カズマも頑なに立ち上がろうとしていない。
これはまだまだ時間がかかるだろう。
―――と。
「で……さ、さっきから、ずっと……ソコで何やっ、てんだ? レシェイア」
「んぅ? あぁ、ちょっろね~」
何時からソコに居たのか。と言うよりも、何時までソコに居るのか。
視線の先には、この馬小屋で下宿していない筈の、レシェイアの姿があった。
恰好はといえば、カズマとは違い普段着のまま。
……要するにノースリーブとホットパンツ。上半身の網目風タイツと、下半身の黒ストッキングのままなのである。
彼女自身は震えてすらいないものの、季節を思いっきり間違えたその格好は、見ている方が寒くなってくるだろう。
さて……そんな彼女はなにやら同じく焚火を炊いて、しかし屈んで居るのに手をかざさず、酒瓶片手に何やら碧の木材をくべては再び惚けて眺めている。
謎の行動をとってばかりなレシェイアへ、カズマが寒さに震えた声で問い掛けたのだ。
「もうちょっとで火力強くなるしれぇ、我慢我慢♫」
「……その木、一本貰ってい、良いか?」
「ほいほ~い☆」
ポイッと投げられた木材は、三本全てが見事に焚火へ命中し、取り一層紅火を燃え上がらせてくれる。
温度が相対的に上がったことで、カズマもようやくほっと一息ついていた。
純粋な良心か、それともそうしないと意味がないか、地味に“一本”と言ったのに“三本”も投げ込まれていたが。
「ふぅ……大分マシになってきたか」
ちなみに―――後でカズマが気になって聞いてみた所、なんでも木材の元はエギルの木の一種らしく、しつこく根を張り続ける太い生木の印象からは想像もつかないぐらい乾燥していて、魔力の影響による変異もありよく燃えるのだという。
その特殊性もあり、エギルの木の一種本体は秋初め頃からでなければ巨大な物が見当たらないらしく、必然的にエギルの木の薪は冬の雪降る期間にしか出回らない。
生きて植わっていなければ、本当によく燃えて『しまう』木々なので、よって面倒な事に買い溜めも不可能なのだ。
気温の高い夏は勿論ながら、春でも需要が限りなく低いので、だからこそ
そして気になるお値段は、1本1万2千エリス。先の件からしてみれば、確かに仕方無かろうが……でも薪にしては高過ぎである。
「あ。つーか寒くないのか?」
温まったことで余裕が出てきたのか、カズマの言葉は既に震えてはいない。
だからこそ、彼女の寒げな装いがどうにも気になった様子。
顎に手を当てて少しばかり目線を上へと傾けてから、レシェイアは問いへ返答する。
「寒くないって言うと~、まァ嘘なんらけろぉ、ヒック……あ、でもアラシ寒くないとか言って無いひ、てことはちょっとおかしい? んな訳ないか! ニャハハハ、ニャハハハハハ♫」
「そんな一人芝居は良いから質問に答えてくれ」
「へ?」
「ちょ、話聞いてたよな? 今さっき聞いたばっかだよな?」
そんな小芝居を挟みつつレシェイアは改めてカズマへ向き直り、指を立てニヤッと笑った。
「前に言ったれしょ~術式の事。“耐寒”を使ってるんらよォッ」
「あーたしかに……あの、才能が底辺で俺が使えない奴……」
その時を思い出したか、ズゥンと落ち込みかけるカズマ。
が、しかしそんな事やったって仕方がないと、すぐに立ち直り大きな溜息を吐く。
「するってーとアレか。その便利な術式があるから、レシェイアはこの冬でも寒くないと」
「そうそうそのとーりぃ! 耐寒のお陰で、薄着でも肌寒くて風邪ひくぐらい温かいんらっ」
「いや、それ温かいって言わなくね?」
されども、厚着して火加減の強い焚火に当たって尚ガタガタ震えているカズマに対し、レシェイアはカズマよりも焚火から離れていてしかも薄着なのに肌寒いレベルまで緩和できるとくれば……それは確かに便利だろう。
そうしてまで今の服装を続ける理由がよく分からないのは、まぁとりあえずさて置き。
「お! よーしよし、今の火加減が丁度良いれぇ、それよ~しよしよしよしよしよしよしよしよしっと」
「……網乗っけるだけだろ、その長い言葉いるのか?」
「
「……何で疑問形なんだよ、聞いてんの俺だろ」
どこぞの断末魔の人が如く、余計な長文を呟きながら簡易七輪を用意したレシェイアは、先から手に握っていたままで全く口を付けていない小さく白い酒瓶を上に乗っけた。
と、同時に隣へ魚介の乾物らしきモノも乗せている。
……どうやら
両方いっぺんに欲張るのは、個人の勝手なので別段止める事でも無かろうが、火加減は大丈夫なのだろうか。
一応見極めるつもりなのか、レシェイアはじーーーっと再び睨めっこを始め、必然的に両者の間へ沈黙が下りた。
そうして干物の先が丸まり、完全にひっくり返るのを待たずにレシェイアが出来あがった熱燗を手に取った……正にその時。
「ん~……なによカズマ、もう起きてたの?」
「寧ろもっと早よ起きろや、お前は」
アクアが目をこすりながら、対して寒そうにもせずに現れた。
昨日の会話をレシェイアも聞いていた為、早起きした理由も勿論察している。
だからか小さく苦笑していた。
「アークア……ヒック、カズマ~っ」
「「ん?」」
「よいしょ―――んぅ、ほれっ」
そして苦笑いしながら二人へ向けて、先に準備していたらしい焼き上がった干物をポイッと投げた。
「……おっと……お、なんか温かいな」
「わととっ……良いの貰っちゃって?」
「ん。アタヒは焼き上がりがバッチグーらしぃ、サービスサービス♫」
言いながら熱燗を素手でつかみ、
「んぐっ……プハぁ~♡」
オマケに何にも注がずに口付けて飲むという荒技を披露したが、二人の視線は干物に釘づけなままで見逃している。
……レシェイアはコレと言って支障がある様には見られず、寧ろ嬉々として中身を飲み干しながら、次の一杯を準備しようとすらしていた。
そんなやり取りを交わしてから……大凡、十数分後辺り。
「ちょっとは体が温まったか……うし、じゃ早速クエスト探しに行くか! もう開いてるだろうし、めぐみんとダクネスにも一報入れたから、一応の気紛れを防ぐ為に早めに行って、良いの見つくろわねえと」
言いながら名残惜しそうに焚火を消し、薪と朝食をくれたレシィエアへ一言のお礼とお辞儀し、レシェイアはニャハハ♫とした何時もの笑いで手を振って返す。
「そう言えばそうだったわね、早起きの理由。クエスト探しに行かないと」
「……………」
「え~……?」
何ともまぁ、
一番忘れてはいけない人間(?)が実に阿呆な発言をし、カズマから無言で頬を抓られたのは言うまでも無い。
普通、借金の大本となってしまったのなら、罪悪感から否応にも
ともあれギルドへと向かう二人の背中を見やり、レシェイアは少しだけ考え込むそぶりを見せると、熱燗を一気にグッと
追いかけようか悩んでいた模様だが、今回は取りあえず、彼等に任せて見送ることにするらしかった。
……また背中のバッグから酒を取り出し、明らかに冷やされていそうなソレを躊躇なくラッパ飲みし始めたのは……何時もの事なので言及せずとも良かろう。
「あてっ……かき氷みたいにキーンて……」
そう言いながら頭を押さえ、また苦笑いしながらスキップし始めた。
何故熱燗は平気でそれは普通に感じるのだろうか
全く持って謎である。
・
・
・
・
・
場所は切り替わり、ギルド内。
流石に冒険者たちがたむろし、様々な人種、職種が行き交場所とあってか暖房設備は一級品であり、中に入った途端心地よい熱気に包まれた。
寒ければギルド職員にすら作業に支障が出るのであり、温度管理に力を入れるのは至極当然のことだろう。
その分か怠け者達が集まって、酒に肉に汗に油に香水にと、常日頃以上に匂いを漂わせては要る。
だが、今が冬だということとこれ位は日常茶飯事だという事に鑑みれば、また自分もその一員であるなら非難する気など起きもしないだろう。
……何より今は朝一な為、入り浸っている人物など、彼と見知りあった僅かな者しかいなかった。
「えーと、クエストクエスト……っと」
そんな朝早い彼等からの挨拶へ律義に手で返しながら、カズマはアクアを引き連れて、クエストの依頼書が張り付けてある掲示板近くまで向かった。
―――すると。
「早いですね、カズマ。仕事を探しに来たのですか?」
「熱心な事だ。まあ、私もそのクチなのだが」
「ああ、お前らも早起きしてたのかよ」
声を掛けられ利き覚えがあるからと目を向けてみれば、そこにはやはりというべきか彼のパーティメンバーである、めぐみんとダクネスの姿があった。
彼女等もまた、保持しておける手頃なクエストを朝一番で探しに来たらしい。
カズマも一報こそ入れてはいたが、大方その前からすぐに来る予定だったのだろう。
めぐみんは何時もの通り大きな魔女帽子に赤い服、色の濃いマント姿にマナタイト製の杖なのだが、ダクネスの装いは少し違う。
なんでも先の闘いにおいて鎧が損傷してしまい、今は修理に出しているのだとか。
流石に大きく破損した訳ではないので日数自体はかからないらしいが、かといって鋭利に幾重も切り裂かれた傷跡は一週間そこらで出来あがるモノでもなく……今の彼女は黒シャツ黒タイトスカートの私服に大きな剣を吊ったスタイルとなっていた。
「しかし、やっぱり早く来たのは競り過ぎだったでしょうか?」
「の、ようだな。皆も懐は潤っているのだし、借金も無いとくれば依頼を受ける理由も無かろう」
「……ああ、本当に、な?」
「(ビクッ!)」
やいのやいの会話しつつ依頼を見て行くカズマ達だが…………表情は暗い。やはり更新すれども内容は芳しくない様子。
誰も来ないので依頼はソレこそ選び放題ではあっても、報酬の良さが難易度の高さに繋がっているのは自明の理だ。
なによりカズマ達では到底履行できなさそうな依頼が、何の嫌がらせか半分以上も存在している。
尤もコレは、カズマ達のパーティの内情とステータス、全てに鑑みた場合の話。
アクア、めぐみん、ダクネスが普通の上級職だと仮定すれば、受けられる依頼はもっと増加する。
……そう、せめて彼女達が、《普通》であったならば。
「白狼の群れの討伐か……か、囲まれて窮地に陥った様を想像しただけで……ジュルリ……」
「コレにしましょう、一撃熊の討伐! 我が爆裂魔法とどちらが上か、是非干戈交えるべきです!」
「ってゆーかどれでもいいんじゃないのー? 私達なら余裕だし、報酬高いのにしましょうよ!」
「……この馬鹿共……」
だが現実は非情である
三馬鹿トリオと単語を並べてもまだ足りなそうな彼女達の手綱を握り、クエストを吟味するしかカズマに道はないのだ。
取りあえずダクネスとめぐみんの意見を却下し、アクアは意見など言っていないのでスムーズに無視して、彼自身が掲示板へと顔を寄せる。
「高速機動要塞・デストロイヤー接近中につき偵察部隊求む……なんだこりゃ? デストロイヤーって何だ?」
「デストロイヤーはデストロイヤーだ。高速で機動する、全てを踏み越えて行く要塞だ」
「こうワシャワシャワシャッ! と動いて瞬く間に蹂躙していく、一部男性や子供達から妙な人気を得ているヤツです」
彼女等の説明を聞いたカズマが思ったのは、たった一言―――『分からん』、ソレに尽きた。
そもそも説明とは知らない者に対し、脳裏へ像を結ばせながら理解を得つつ行うモノであり、間違っても “知っている前提で抽象的に話す” 事ではないだろう。
現にカズマは、
『Q.デストロイヤーとは何なのか?』
と確り質問形式で聞いたのだ。
……それなのに返ってきた答えが、
『A.デストロイヤーはデストロイヤーなんです』
などあんまりではなかろうか。
二人に問題があるのか、デストロイヤーがそうとしか形容できないのかは分からないが、それにしても説明が下手糞過ぎである。
しかし今重要なのはそんな訳も分からない要塞より “金” だと、カズマは特に考える事もせず掲示板を眺める作業へ戻る。
「ん? この『雪精討伐』ってのは……?」
難しい顔をして眺めていた折、いっそこの高難易度の中では奇妙に浮いている、とある一つのクエストが目に飛び込んでくる。
《雪精》
雪で出来た精霊か、雪を司る精霊だろう。
その名前からして強そうではないが、されどその金額自体は一匹討伐するだけで十万エリスもの大金が転がり込んでくる事が記されていた。
そうなると、やはり冬のモンスターの例に漏れず、吹雪を起こしたりとやたら強いのだろうか。
気になったカズマが彼女らへと問い掛ける前に、意外にもめぐみんの方から説明をふってきた。
「雪精ですか? 雪精はこの時期には珍しい、とても弱いモンスターですよ。剣出来ればとても簡単に試算し、魔法とて相性の悪い下級魔法でも倒せると言われています。あ、ですが―――」
めぐみんが何やら言いかけた後半の台詞を遮り、カズマは勢いよくクエスト容姿をはぎ取った。
アクアやダクネスも覗きこんでくるが、その際、カズマは不安そうな顔をする。
金額の面からいってまずアクアは文句ないだろう。
問題はダクネス。弱いモンスターなんか嫌だ! もっと痛い思いがしたい! などと言いださないか心配なのである。
実に酷い言い方だが、上記の文でも全く間違っていないのがとても哀しい所である。
が、しかし。
「へぇ、雪精かぁ。一匹倒すたび春が半日早まるとか言われてるけど、弱いことには変わりないし良い獲物じゃない!」
「まあ、爆裂魔法が撃てない訳ではありませんので、別に良いですよ」
「一辺に吹き飛ばすなら寧ろ可じゃない? あ……あ、そうだ……ちょっと準備するから待ってて!」
「雪精か……うむ、了解した」
(ん?)
別段文句はなさげのめぐみん、予想どおりなアクアに続き、ダクネスまでもが普通に頷いた。
予想を裏切られ、カズマは拍子抜けを喰らう。
もっと強いモンスターが良いと反対するかと思われた矢先、別にこじらせず素直に頷いたのだから、呆けてしまっても何らおかしくはない。
……しかし何だか嬉しそうなのは、一体何故か。
カズマは違和感を覚えるも、日頃ドMかどうかを追求するとしらばっくれる彼女の事だからどうせ答えないだろうと、この場では胸へしまい込む事にした。
地味に何処かに準備しに行ったアクアも気になるが、どうせ後にトラブルを呼び込むか自滅して終わりだと、止める気も無いのか溜息を吐くカズマ。
そうして準備が整い。
コートを着たカズマは、ケモ耳付きローブを着込んだめぐみん、流石に寒かったか防寒着を着こんだダクネス、着物自体は文句ないが何故か虫取り網と瓶を持って来たアクアと共に、雪精討伐を実行すべくいざ雪山へと赴いた。
それから、ちょうど三十分後の事。
「ほいほ~い! きょうもきょーとてレシェイアさんとーじょー!」
時間がかなり開いているが、カズマ達と入れ替わる形でレシェイアがギルドに現れた。
アレから三十分しかたっていないというのに、既に中は冒険者達であふれかえっている。
しかし、羊皮紙にモノを書き写していたり、物資の経路を確認していたりと、あながち無職ばかりでもない様子。
これだけの冒険者達が逆転した生活を送り、しかしその中でもちゃんとサイクルを考えているにも拘らず……彼女だけは相も変わらずの酔いどれぶりだった。
「ホワイトホップちょーらい♫ あとクリムゾンビア~とチーズ系おつまみ各種! バッチコイ!」
「ははは! やっぱりこんな早くから飲んじまうんだなお前さん!
「ま、俺等が言えた事じゃねーけどな?」
「全く持ってその通りだぜ! それに、今年の冬は何時もよりも快適に過ごせてるしな!」
ジョッキを片手に笑う男達へレシェイアも笑みを返しながら、酒盛りの準備が整うのを今か今かと待っている。
「んぐっ、んぐっ……」
待っている過程でワイン瓶を一つ空にした。
その上でまだ飲む気とは、正に他者が呆れるほどの酒豪である。
アルコールの蓄積量も、胃も底無しなのであろうか。
「お待たせしました、ご注文の品です」
「おほー♫」
半ば慣れた様子でウェイトレスが料理と酒を彼女の前に置く。
まるで子供のように目をキラキラ輝かせる。
……そんな彼女に、席が近いからか、カウンターからルナが声を掛けてきた。
「あのー、レシェイアさん?」
「らーに?」
「噂の端っこでしかないとはいえ、貴方の強さをベルディア戦で理解した人も増えたでしょうし……その、クエストを受ける気は……」
「やら☆」
「……ですよねー……」
即行で断られ、ルナはがっくりと肩を落とす。
確かに噂の上では、初級魔法やスキルによる耐久性と言う、実行も出来て分かりやすい対象があるからか、カズマやめぐみんにダクネスの方が目立っている。
そしてアクアの善悪入り乱れた評価もあり、必然的に受け入れ難いレシェイアの方は段々落ち込む下火なのだ。
しかし理解している者がいるのもまた事実。
だからもしかして―――と言うダメもとでかけあってみた様子だが、結果はご覧の有り様だった。
まあ、ベルディアの報酬を全てカズマ達の方へ回したとは言っても、彼女自身が溜めてきた金銭はそれなりなので、働く必要がないというのも理由になるだろうが……。
「ナハハハハハ! ベルディア戦では活躍してたのになぁ!」
「やっぱこっちが似合うかもな、レシェイアは」
「似合うって言うか、私はあっちしか知らないんだけど」
「お? そのクチか。ならよーく聞いてけ」
何やら始まったベルディア戦の自慢語りを耳にしながら、レシェイアはチーズをかみ砕いて、ホワイトホップと共に流し込み喉をうるおす。
チーズ独特のうまみと、ホワイトホップのクセのない濃さと爽やかな後味が駆け抜け、レシェイアはうっとりする。
それらは、彼女にとっては至福の一時を齎してくれるようだ。
そうしてホワイトホップ五杯と、クリムゾンビアー三杯を飲み干し、新しい御つまみの皿が幾つか積み上がった時……不意にレシェイアがルナの方を向いた。
「そーら、れも聞きたい事はあったんら!」
「聞きたい事ですか?」
「ん! カズマ達はクエスト行けた
「あ、はい。カズマさんのパーティなら、少し前に離れた雪原へと雪精狩りへ行きましたよ」
「雪精か~……ニャハハハハハ、よわっちそう!」
やっぱり初見ならぬ初聞ではそういったイメージを抱くらしく、何時も通りにレシェイアは笑い飛ばす。
だが……ルナの表情は如何も浮かない。
見ると、レシェイアとルナの会話を聞いていた数人の冒険者も、皆少し微妙な表情を浮かべている。
「どーかしたろ?」
「知らねえのかよ、オイ?」
「?」
本気で知らないと言った様子のレシェイアへと驚きの視線が集まり、その中でルナが言い辛そうに説明し出した。
「雪精って、つおいの?」
「いえ……雪精自体は驚異ですらないのですが……問題は雪精を狩り続けると現れる、大元のような存在の方でして……」
「雪精の数が減り過ぎるか、脅威を感じるとだな、やってくるんだよ……!!」
「やってくる、って何が?」
一拍置き、割り込んできた男は神妙な顔つきで告げる―――!
「冬将軍がだよ!」
「……は?」
単語自体を知らなかったのか、それとも寒気団の擬人化を言われた所為なのか、レシェイアがポカンとする。
しかし、周りの者達はそうはいかない。
「ヤバいんだよアイツ……刀捌きは尋常じゃないって言うし!」
「人類の敵でも、好戦的でもないのに、2億もの賞金が掛ってるしね」
「前は居なかったっていうけどなぁ……」
「そうそう! 確か黒い髪を持ってて、変な名前で、凄い才能を持った男が来てから変わったんだっけか?」
(え!?)
途中の言葉も物騒極まりなかったが、反応したのは最後だけ。
最後の一人が言い放った言葉に、レシェイアは思わず目を向く。
その単語一つ一つの意味、仮初ながらの “真意” を知っている彼女は俯き、段々と顔に掛る影を濃くしていく。
会話に夢中なのか、周りの人間はその変化について、特に気にしていない。
「あの、レシェイアさん?」
しかし
その様子がおかしいと思ったのか、ルナが声を掛けようと思った―――――その途端。
「んぅ~! やっぱ雪降ってる中で雪見酒が一番ら! 暖かい中でビアー飲んでちゃ変に冷える! というわけでたいさーん! お雪様がオレを待ってるぜぃ♪」
金貨を何枚か置いて、早々に飛びだして行ってしまった。
その様子に今度はルナやウェイトレス達の方がポカンとなってしまう。
「は、心配より酒か。あいつらしいな」
「でもしょうがないわ。無事に帰って来る事を祈りましょう」
「おう。カズマ達、無事で居ろよー……」
しかし何時も通り過ぎて、別段気にする事でもないからと、それぞれの酒盛りに戻る。
……だがそんな中で一人。
(レシェイアさん……どうかご無事で……!)
別の事を考えていたのは、誰も知る由は無いだろう。
次回、まさか、まさかの展開……!?