素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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第一章である、いわば邂逅編に当たる部分も終わり、今回から第二章へとはいっていきます。
……まあぶっちゃけて、第一巻部分、第二巻部分と記すのと、大差ない現状なのですが……。

第二章では、もう少しばかりオリジナル設定が絡んできます。
ネギま二次の方では設定も半分以上出てますが、しかしやっぱり設定が同じでも、話が別モノに変わり無し。
ということで、此方は此方でオリ設定にレシェイアの事情にと、徐々に説明を重ねて行くつもりです。

 また、今回の章では小さいながらも『思わぬ出会い』や、原作との相違点も……?


 それでは第二章・“盗賊少女と神器の行方” ―――開幕です!!




第二章:『盗賊少女と神器の行方』
雨の降る中で


 小雨が降っている。シトシトと、静かにあたりを濡らして行く。

 

 辺りは薄暗い。

 満月の夜よりも明るいというのに、曇の所為で何処か不気味にも見える。

 そんな薄寒い景色の中で、灯る温かな光が幾つも浮かび上がっていた。

 

 集合地も家の造形もとりわけ目立たないが、今この瞬間だけは自然と目に留まる温度を宿している。

 

「本当っ!」

 

 ―――そんなとある町の、とある家屋集合地域の内一つから、とても、とても明るい少女の声が聞こえてきた。

 

「えぇ本当よ。これからは貴方がお姉ちゃんになるのよ?」

「お姉ちゃんかぁ……! 呼ばれるのも、生まれて来るのもっ、すっごく楽しみ!」

「ははは、嬉しそうだなぁ。まあ、人一倍兄弟を欲しがっていたから……」

 

 母親の膨らんだお腹と、父と娘の会話から容易に察せる様に―――この家のとある少女が“姉”となるのだ。

 彼女の言い方からソレを強く望んていた事も分かり、うら若い父母も『頑張った甲斐があった』とばかりに頷いていた。

 

 …………一体なにを頑張ったのか などは、踏み入って詮索しない方が絶対に良かろう。

 

 まぁ当然のことではあるが少女がその『詮索すべきではない事』を知る由もなく、弟妹どちらかが生まれる事を素直に喜び、笑み、とび跳ねるばかりだ。

 灰色に近い髪を揺らし、後ろでポニーアップに束ねた髪が、元気よく動くたびにピョンピョン揺れ、引っ切り無しに創作ダンスをしている。

 

「弟かなぁ! 妹かなぁ! ニャハハハハハ、うっれしいな~っ♫」

「相変わらずその笑い方なのね、うふふ」

「まあ僕なんか及ばないぐらい、御袋似だから仕方ないさ。……幾つになってもあの笑いが似合う人だったしなぁ」

 

 新しい家族が増える事もあってか、懐かしむ様な声音で少女の父親は呟く。

 尤も寂しげな印象こそ拭えなくとも、しかし“その場所”へ届くようにと、祈るような色の方が多分に含まれている。

 

「戦火からは遠い街とはいえ、やっぱりこの安寧は、治安が良い証かな。いい領主の元に引っ越せたものだ」

「だからこそ、こうして新しい家族を迎えられるもの」

「ああ……娘の笑顔を見ていられるのも、平和だという証拠だしね」

 

「ニャハハハハ♫ おと~とかなぁ、いも~とかなぁっ♪」

 

 娘は踊り、父親は笑み、母親は腹を撫でる―――家族全員が新たな命を待ち望む中で、そのに見える雨は未だ止まず静かに振り続けている。

 

 

 街道には誰も通らず、しかし不穏な気配など微塵も感じさせない、安息の時が流れている。

 

 

 ソレはまるで喜びをかき消さない様にと、天すらもその『家族』を祝福しているかのようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降っている。

 風が轟々と音を立て、斜めから飛沫を叩きつけて来る。

 

 

 周囲全ての音を漏れなく、一切合財かき消す程に、バケツをひっくり返したが如く、とめどなく降り注ぐ水の大粒。

 辺りは暗く、今の時刻が昼間だという事実を欠片も悟らせない。

 月灯りの無き暗夜と変わらぬ不気味さを含み、只の小さな嵐だというのに、事件の予兆かと不安をかきたててくる。

 

 そして場所が朽ちた巨大な城と、ソレ等を囲う城壁前だという事もあり、重苦しさはより一層増しているかのように思える。

 

 

 人影など見当たらず、だからこそ人も動物も誰も何も通らず、虚しく豪雨の音だけが響く中で…………

 

 

 

「―――――」

 

 ……1人、ずぶ濡れになりながら微動だにもせず立っている、ドイツの物にも似た軍服を着こんだ女性。

 その姿はこの場にいる『とある事情』を知らぬのならば―――まず間違いなく、そして途轍もなく “異質” に見えることだろう。

 

 

 彼女は口を開きながら一言も発さず、厚く暗い雲が覆った曇天を見上げ、力なく手を下げている。

 そして何の意味があるのか、只管にソコを見つめ続けている。

 

 天空の先にあるモノを、届かないからこそ穴が開くほどに睨みつけ、狂おしく求めるかのように。

 或いは、雨雲の先に彼女にしか理解できないモノを、それでも見出そうとしているかのように。

 

「兵士長! 撤退の準備、整いました!」

 

 背後から声を掛けてきた、同じ装いでしかし色違いな軍服姿のうら若い男性に対し、女性は緩慢(かんまん)に振り向き聞こえるかどうかの小さな声で返した。

 

「ありがとう。すぐ行くから、隊列を整えて置いて」

「はっ!!」

 

 部下であろう男性が立ち去った後、その背にまたもや声を掛ける人影があった。

 

「ねぇ?」

 

 驚くべき事にその人もまた女性であり、先に答えた女性よりも頭一つ以上低い。

 大型レイピアの様な剣を腰へさしているものの……鞘が透明な所為か、暗い茜色に染まった異様な刃が良く見える。

 

 だが、彼女等の間ではそんなものなど日常の一つなのか言及すらせず、代わりに声を掛けてきた背の低い女性が、背の高い女性へと質問を繰り返す。

 

「ねぇ、何でこんな空なんか見ているの?」

「…………」

「ここまで厚い曇天で、しかも大雨の中で、見ていて面白いものなんて何もないでしょ?」

「…………」

 

 背の高い女性は、髪が濡れては絡み付くのを、されど全く気にせず質問に対し沈黙を保ち続けている。

 背の低い女性は髪が雨により張り付くのを払いながら、しかし向こうから返答がくるまで待っている。

 

 

 数十秒―――――余りにも中途半端な間。

 そののちに、雨音以外何も起こらぬ荒れ地の土壌で、一つの声が響く。

 

「否応にも、思い出すから」

「へ?」

 

 背の高い女性が、不意にそう呟き、背の低い女性は待ち望んだ返答ではあるものの……意図が分からず首を傾げる。

 

「小さな雨も、大きな雨も、私にとっては同じ事。……あの時を、脳裏に浮かべてしまうから」

「……? って、あ、ちょっと」

 

 結局、何が言いたいのか分からない―――分からせないまま、遠目に見える隊列を組んだ部下達の元へ歩き出す、背の高い女性。

 手に持っている、鍔が無く細すぎて殆ど防御を考えていない、“翠色”をした太刀を構えなおしながら。

 

 

「……はぁ」

 

 背の低い女性は一瞬ポカンとしつつも、すぐさま多少ながらに慌てて追いすがった。

 

 支度ができたという事もあり、僅かな為と号令の後に隊は帰参を始める。

 

 …………帰路へ着く道すがら、背の低い女性は、遠くを見やりながら一つだけ呟いた。

 

「アレだけの事をしておいて、やっぱり無表情ってのはなぁ……慣れないものだね」

 

 その視線の先には―――

 

 

 

 まるで()()()()()()()()()()()()()が如く奇妙に平たい、五つからなる山脈が鎮座していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 季節は冬間近。

 

 木々は相も変わらず確り根を張っている。

 ……ものの、枯れ葉の殆どが地上に落ちて何処か心細さを感じさせ、(かつ)ての紅葉の鮮やかさなど見る影も無かった。

 

 天を見れば薄い雲が矢鱈と多く、藍色に染まる夜空を(まば)らに隠す。

 気温の下降は限度を知らず、ソレに乗じてチラチラと雪も見え始め、見た目の景色と肌に感じる温度でより一層寒く思えてしまうだろう。

 

 自然と行動が制限されるのも自明の理ではあるが、しかしこの世界ではもう一つばかり、行動を阻害される『要素』が存在していた。

 

 

「やっぱ、高難易度の依頼しか無いんだな……」

 

 掲示板に張り出された、依頼(クエスト)が記載されている用紙を見ながら、カズマは苦しげに、鬱陶しそうに呟いた。

 

 

 そう―――冒険者達の行動を阻害する『要素』とはまさにコレの事で、要するに冬になるとレベルの高いモンスターがコレでもかとばかりに跋扈(ばっこ)し始めるのだ。

 弱いモンスターは冬眠し、または強者を恐れ隠れてしまい、必然的に高レベルの魔物しか辺りには見られなくなってしまう。

 

「ちきしょう……良い依頼は無いのかよ、お手頃な奴が……」

 

 やるせない思いを声に含み、悔しそうにつぶやくカズマ。

 意外と仕事熱心な発言だが、ソレは周りの現状のみ考えれば、少し空回りしているといっても良い。

 

 季節による一種の風物詩と化したそれは、この初心者の街であるアクセル周辺でも例外なく起こり、カズマら以外の冒険者達は皆依頼を受けられないならと、先日のキャベツ狩りやベルディア討伐で潤った懐を頼りに飲んだくれていた。

 

 レベルが高めなものもチラホラ見え、そんな上級職の彼らですら、命が惜しいと昼間から酒に酔っている。

 

 ならば……取り分けレベルが低く、パーティメンバーの(ジョブ)構成は兎も角―――

・まるで学習しない駄女神(アークプリースト)

・一つ覚えの爆裂狂(アークウィザード)

・敵陣へ突っ込む超ドM(クルセイダー)

 ―――とまぁ内面がコレでもかとズタボロな彼らであれば、別に適当なテーブルで駄弁を交わして居てたとしても、何ら文句は言われない筈だ。

 

 

 ……なのに依頼を受けようと、必死になって目をひんむき手頃な難易度を探す、その理由はただ一つだけ。

 

 

「金が欲しいっ!」

 

 

 これに尽きる。

 正しく吐血するが勢いで吐き出された言葉。

 

 対し、カズマのすぐ後ろで椅子に腰かけていたアクアが、馬鹿にするような、呆れた様な……あるいはその両方を含んだ表情で、せせら笑うように声を掛けてきた。

 

「はぁ? そんなの誰だって欲しいに決まってるでしょ? 今更何言ってんのよカズマ、バカなの? というか馬鹿でしょ? なんてったって、女神足るこの私を安宿どころか馬小屋で寝泊まりさせて、オマケに甲斐性も無いのかお金すら無いんだから」

 

 アクアの発言にカズマの方が、不自然にピクリと動くのだが、彼女は眼を閉じて喋っている為か気付く事はない。

 

「……お前、何で俺が金を欲してるか知ってるか?」

「知る訳ないでしょ、アタシは女神よ? それこそ、濁りに濁ったカズマの頭の中なんか、清く美しい私に分かる訳がないわ。ま、どうせ引きこもれるだけの金額が欲しいと」

 

「借金だよ」

 

 何やら世迷い言を連ねようとしていた矢先……カズマがド直球に放った一言により、アクアの口が止まり、先までのカズマの生き移しみたく不自然にビクリとはねる。

 

 隙を逃さず、カズマは更にたたみかけた。

 

「お前が作った借金の所為で魔剣の奴から巻き上げた金も無くなって! 今日も今日とて馬小屋で過ごさなきゃいけないんだぞ!? というか今日起きたらまつ毛も鼻毛も凍ってたんぞ!? 他の冒険者なんかもう既に宿を確保してる! つーか最悪明日にも凍えちまう!! そうなったら魔王どころじゃあ無いだろうが!?」

 

 カズマの至極尤もの非難に―――しかし生来自分中心で反省をせず、素で困ったちゃん街道を爆進するアクアはソレに耐えかねたか、机を思いっきりたたいて反論し始めた。 

 

「だって! だってだってしょうがないじゃないの!! 私のあの活躍が無ければ、超凄い活躍が無ければ街は壊滅してたかもしれないのよ!? アッデッドナイトもあのクソデュラハンも、私の活躍が無ければどうなってたか! 感謝されど、借金を負わせられるなんて不当でしょ!? 寧ろ抗議してしかるべきで」

「アンデッドナイトの方はめぐみんの活躍でベルディアの方はイーブンにしやがった完全な妨害行為だろうが!! 完全優位に運んでいたクセに洪水起こして死人出しかけて、只でさえ罅入ってた壁ぶっ壊して家々を押し流して、本人の好意とはいえレシェイアにまで金を払わせる!

 これの一体どこに感謝される要素があるって言うんだ!? 俺には非難される要素しか浮かばねぇよ!!」

 

 そもそも差し引きでマイナスになっただけで、カズマ達だって一応高額な賞金自体は貰っている。

 上記のどうやっても無視できない要素を、本当に譲歩を重ねて何万歩かゆずって抜きにしたとしても『街を守る為に街を壊しちゃったw サーセンww』など完全に受け流せる容量を越えているだろう。

 ……この言い方は酷いが、しかしアクアの反省のなさに鑑みれば概ね間違いなさそうであり……驚愕モノなところだ。

 

 兎も角、要りもしないのに大量の水を呼び込み、街を破壊したのは事実。

 流石にお咎め無しの扱いに持ち込むのは、(はなは)だ “無理” というモノだ。

 

 

 だが何という往生際の悪さか―――アクアは涙目になりながら、しつこく喰らい付いて来る。

 

「なによっ!! カズマなんて何度も何度もスティールして、やっと剣を取った程度の活躍でしょ!? それに比べたらアタシがした事なんて、もう並の神格の域を超えてるわ!!

 もっと湛えられるべきよ! もっと褒められるべき、甘やかされるべきよっ! 流石ですねって持ち上げられて、楽させて貰える素晴らしい活躍なのよっ!! 何でみんな白い目で見て来るの!?」

「弱らせろっつってんのに《完全には利かないから嫌だ、つーか知ってるくせに馬鹿じゃないのアンタw》とかいって後方で傍観して、挙句の果てに優位の流れを空気を読まずに完全にぶち壊したお前に羨望が集まるわけねえだろ!!」

 

 ご尤もである。

 というか先程から嫌に活躍したと誇っているが、思い返してみると実はアクアは、ぶっちぎりで要らないこだったりする

 というのも……要所でサポートして見せたカズマ、類稀なる防御力を発揮して見せたダクネス、アンデッドナイトを全て葬っためぐみん、妨害にて完全に流れを変えたレシェイアは、確かに活躍したといってしかるべきだ。

 

 だがアクアは最初にベルディアを弱らせたが最後、殆ど傍観に徹して最後に洪水で全員を巻き込んで弱らせただけ。

 

 確かに一番トリを飾った事は飾ったが、ソレを台無しにする駄目っぷりの方が遥かに目立つのである。

 

「でもっ!!」

「あああ煩ぇっ! 分かったもう良い分かった! お前のお陰だって認めてやろうじゃないか!!

 だから報酬も手柄もお前の物だし、当然 未だ四千万以上残ってる借金も全部お前のものな!? だからその高位なる神格の力とやらを利用してさっさと全額返してこいや!!」

「まままままままま待って待って待って―――ッ!? 分かったから、私が悪かったからぁっ!?」

 

 席を立ち、肩を怒らせて本気で帰ろうとするカズマを、アクアがマジ泣きしながら足にもすがる勢いで引き留め、この不毛過ぎる口論は漸くながら終息を見た。

 

 カズマは大きく溜息を吐くと、もう暗くなっている外を見やり、残っているクリムゾンネロイドを一気に飲み干した。

 

「……とにかく、今日は保持しとける目ぼしいクエストもないし、飯も食ったしもう帰るぞ。明日はクエストの更新が行われるらしいから、また朝一番で見に来ようぜ」

「ううぅ、良いクエストがありますように……」

 

 片方は対して期待もしていない雰囲気を醸し出し、片方は半ベソをかきつつ、ギルドの扉を開けて外へと出る。

 

 

 

 やはりというべきか……夜となったことで相対的に気温も下がり、外では既に降り始めていた雪が、更に量を増している。

 しかも何のダメ押しか雨まで混じっており、この時期にはつらい天気の代表に上がる、氷雨となりかけていた。

 

「おー。カズマにアクアー、もう帰りらの?」

「ん?」

 

 今日もまた出来るだけ暖かくして寝ようと、トボトボ歩き始めた二人の前に、酒瓶を持ったレシェイアが声を掛けてきた。

 

「ああ、目ぼしい物なんか何も無いしな……明日を待つわ」

「まーこの時期は本当に危ないって言うかられー……何かあったら、頼ってよ?」

「なら借金ムググ」

「今んとこは大丈夫だ。じゃ、雨も降ってるし急がないと……またな」

 

 これ以上心理的負担を掛けられてなるモノかとアクアの口をふさぎ、カズマは再び彼女を引き摺る形で歩き始める。

 

 

 

「……雨は、嫌いなんだけどな……思い出すから……」

 

 そう呟いてから、レシェイアもまた帰路につき始めた。

 




謎のオペレーター『山脈上部、切断! よって標高を世界第三位に下方修正!』
―――――なんて冗談はさて置き。

始まりました第二章。
この章から段々とオリジナル要素が関わってきますが、三巻~五巻辺りまではある程度ながら原作通り進めるつもりであります。
そして新たなオリキャラが、この第二章か次の第三章で登場してくる予定です。


 果たして、冒頭のやり取りは誰なのか、一体どういう意味なのか……?


―――ゑ? 名前のない人が誰か、もう分かってるって?
……HAHAHA! 何をおっしゃるウサギさん。 思い浮かべた“その人”の力は防御でしょう? 

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