素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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この話で、第一章は最後となります。

ベルディアは最後くらい活躍できるのか?
では、どうぞ!


魔王幹部との決戦、終息

 

 

 

『局地的大洪水発生中』

 

 

 

 ―――現在の状況を表すのに、これ以上ピッタリな言葉は無いだろう。

 

 

 “洪水クラスを起こすなど余裕” とは本人の弁。

 そして今の状況から、それがペテンにかけた訳ではないのはもう明白。

 

 だが、《~が出来る》ことと、《~を実行する》事には大きな隔たりがある。

 必要性、利便性、後の体力温存などを考えなければいけないからだ。

 

 即ち、()()()()()()ならば、起こし得ない。

 

 ダクネスの耐久性と微弱な神聖属性に、カズマの悪知恵と頭の回転の速さ。

 レシェイアの要所での妨害、更に後ろへ控えた冒険者達という数の利。

 

 明らかな『善戦展開』で大洪水を起こしても、一発逆転など絶対ありはしない。

 そして、優位だからこそ冷静になる必要も皆無であり、思いつく事すら有り得ないのだ。

 

 

 ―――たった一人の駄女神(れいがい)を除けば。

 

 

 ……まさかこの有利にも程がある状況で痛み分け(イーブン)にもっていこうとする愚行を行うなど、誰も予想だにしなかったであろう。

 

 現に幹部のベルディアは脇目も振らず威厳を捨てて逃げ出したのだし、レシェイアは腕をクロスして石を構え『両方に向けて』投げようとしていた。

 

 方向性こそ違うとは言え、まずあり得ない行動を取らせているのだ。この愚策がどれほど異質なのかが分かる。

 アクアの駄目子っぷりは底がしれない。

 

「うわああっ!?」

「た、助けガボガボボボボ」

「溺れるうぅうーっ!」

 

 突如として発生した要らんほどの膨大な量を誇る水は、有り得ない勢いと規模を持つ鉄砲水と変わり、当然ながら備えなどまるで無かった冒険者達を残らず押し流して行く。

 

「あ、あぶぶあばううあうぶあうぶぶぶばうぶあぶぶぶぶぶ!」

「おいめぐみん大丈夫か!? 変な声でてんぞ!?」

 

 カズマは運良く外壁にしがみつき、溺れかかっているめぐみんへ手を伸ばし、背中へより引き寄せる。

 

「こ奴等―――いや、あの青髪のプリーストは本物のアホか―――どぅああぁあっ!!」

「なんという行きなりな攻めっ! これこそ! ……あ、やっぱりマズなあああっ!?」

 

 ベルディアは水量も相俟ってすぐに飲まれていき、ダクネスは最初こそ強がっていたがすぐに撃沈。

 

「あっ―――のぶへぇああああ!」

 

 果ては、発端者……否、“真の黒幕” であるアクアでさえもいっしょに流されていく始末。

 

……ひっで~ねコレ

 

 ―――そして何処からかレシェイアの声が聞こえるが、まさか水の中でも声を発せる特技を持つのだろうか?

 

 

 しかし彼等の悲鳴や怒号、叫び声など天には届かず、水流はどんどん凶暴さを増す。

 おまけに正門が水門の役割を果たしてしまい、流れはより加速していく。

 

 その威力を前に爆裂魔法で崩れかかった一部の壁が耐えきれず、音を上げて盛大に砕けちる。

 重い崩壊の音と共に分別無く流され、または流れに抗い弾き返されていった。

 

 

 

「お、収まった……クソッたれ……」

「うぅ……あんまりだぁ……」

「……魔王幹部以外の要因で死に掛けるって……」

 

 やがて、即席(?)の水門と平原である事が功を奏し、誰ひとり溺水させることなく水は引いて行ってくれた。

 

 ……その代わり、半分以上の冒険者が大通り地点でぶっ倒れており、もう半分も正門近くにいるだけでみんな体力を使い果たしてグッタリ状態だ。

 

 勿論、全員びしょ濡れである。

 

「…………」

 

 ―――レシェイアは壁近くの地点で片膝座りの体勢を取っており、なにかしら体力を使ったのか一言も発そうとしない。

 何故だか不自然なまでに少ししか湿っていないのだが、誰も問える状態ではなく、レシェイアも対してアクションを起こそうとはしていなかった。

 

「ぐ、グフッ……!」

 

 更に弱点だから当たり前ではあるものの、ベルディアも倒れ込んで居る。

 上半身だけ起こしながら、激流の中でもちゃんと握っていたらしい剣を支えにヨロヨロ立ちあがり、己の頭をカズマ達―――正確にはアクア目掛けて弱々しく突き出した。

 

「バ、バカなのかっ……!? 俺が言うのもなんだが、コテンパンな状態だったであろうに……何故に、何故にイーブンにしてしまうのか……本物の馬鹿が居るのか、この街には……!

(ええ、ご尤も!)

 

 カズマパーティの皆や、レシェイアだけに留まらず、残っていた他の冒険者達の心の声が、全て綺麗にぴったりシンクロした。

 

 ともかく味方から送られた予想外の、ド派手で盛大な『援“誤射”撃』ではあるがそれでも本来の目的自体は達しており、即ち絶好の好機に変わりはない。

 

 それは敵味方問わずこの場に在る全員が解している事だ。

 

「ほら今がチャンスよカズマ! だから倒れてないで戦って。ほら早く、早く闘っちゃって!! ダクネスにレシェイアも! この絶好の機会を逃したらモノホンのお馬鹿さんよ!」

 

 ……無論この駄女神さえも例外ではない。

 

 自分が起こした洪水に呑まれながらも、しかし腐っても水の女神なのか大してダメージなど見られなかった。

 

 周りの恨みの視線を受けているにも拘らずケロリとしている事も、彼女への恨みを溜めさせる結果を作っている。

 

 ミツルギと変わらない―――いや、ミツルギとはベクトルの違う自己中心さを存分に発揮されれば、当然士気など上がる筈もなく。

 

「……あんのクソアマ……っ!」

 

 カズマは至極もっともな怒りで睨みつけながら、ベルディアと同じく剣を杖代わりにヨロリと復活し、

 

「……は、激しい攻めは良かったのだが、何故だろう……何かムカつくというか……」

 

 言いようのない苛立ちを覚えながらに、ダクネスが一つ大きく息を吐いてから完璧に起き上り―――

 

「…………ふざけないれって」

 

 ―――レシェイアは未だ酔いつつブツブツ呟き、異様に威圧感のある鋭い目のまま立ち上がった。

 

 そんな状況でも尚……戦闘が、止まる訳ではない。

 

「あの馬鹿が要らん事したけどな! 俺達の方がまだ俄然有利だ……けど慢心はしねえ! このまま意地悪く食い下がってやる!」

「駆け出し冒険者風情が調子に乗るなよ! 仕切り直したならば、スタミナのある俺の方に優位が傾くのだっ!!」

「そーはさせないっれっ♫ うん」

「フ……体力の面を誇るのなら、まだまだ私とてやれるぞ? 当然にな!」

 

 カズマはヤケクソ気味に一歩前出て、その横へダクネスがつき、後ろにはレシェイアが待機する。

 ベルディアも己の頭を抱え、自分より下位にも拘わらず翻弄し続けた、侮れぬ三名を睨みつける。

 

「全身全霊だ! もう怯まぬ、屈さぬ、退避せぬ!! 腐り堕ちた我が血を煮えたぎる程に注ぎ込んでくれるわあッ!!!」

 

 

 咆哮―――刹那、投擲。

 

 投げると同時に魔力を爆散させ、高々放りあげられられたベルディアの頭部は、下を向き続けている事に驚きを感じるほど勢いが凄まじい。

 

「わっ……!?」

 

 それはレシェイアの投石すら弾き、技を“完成”させるべく、中空へと漆黒の魔方陣を描きだす。

 遂に始まるのだ―――――驚異なる、惨酷なまでに鋭利な連撃が。

 

「させん!」

 

 スピードに劣り体力を消耗しているとは、とても思えない速度と迫力をもって、ダクネスがベルディアへと詰め寄っていく。

 

 しかし鎧の所々が損傷している彼女では、受け止めるなど無理難題だ。

 剣も先の激流で離れた場所へ横たわり、取りに走る時間も無い。

 

「させるかよ! 頼むっ―――『スティール』!!」

 

 力の限り魔力を注ぎ込み、一縷の望みを掛けて、生まれたチャンスにカズマが『スティール』を割り込ませる。

 

 レベル差で成功しなかったその技を、しかし己のステータスの高い幸運値を信じ、今一度発動させた。

 果たして……彼の手にズシリと思い感触が伝わり、カズマは思わずガッツポーズをとった。

 

「……あっ?」

 

 そして、コンマ数秒で落胆した。

 その手にあったのは剣ではなく、左の“籠手”。

 見ればベルディアの左腕……アンデッドだと如実に伝えて来る、腐った黒い腕が露出しているが、されどそれだけ。

 

 剣は、奪えなかった。

 

「ぬくっ……!? ……フ、フン! これしき!!」

 

 ―――だが重さを狂わせバランスを崩す事には成功し、結果思わぬ数拍が生まれる。

 

 その間にも周りの人間はカズマと同じように『スティール』を繰り出し、または肩で息をしながらに魔法を唱え、ほんの僅かな間隙を活かそうと奮闘し始めていた。

 

 イーブンとなった件の駄女神(アクア)は万が一に備えて、魔力を溜めている所為で動けない。

 現状トドメをさせるのは確かに彼女だけ。余計な行動は慎むべきなのも事実。

 何より肝心の鎧は綺麗なままなのだから、このままではジリビンだ。

 

「もういっちょ『スティール』―――って布!?」

 

 なんという剛運かまたもカズマが成功するが、その手に握られているのは背中の“マント”。

 奪った所で何の意味もない代物で、状況は全く好転しない。

 

「まずは貴様からだ、嫌に強固なクルセイダーよ」

「い、嫌に硬いとか言うな! 確かにそれは自慢だが、はっきり言われると―――」

「ハッ!!!」

 

 ベルディアの発言にツッコんだ所為で防御姿勢が崩れた……その一瞬を狙い、首なしの騎士は数mを一気に駆け抜ける。

 

「聖騎士よ―――さらば!!」

 

 慌てたダクネスは、愚かにもまたもや何処の急所を“守る”と“守らない”かの境目で悩んでしまい、動きは一層緩慢になってしまっている。

 

 故に、今の彼女は只の『的』。

 がら空きとなった、そして鎧から生身が露出している脇腹を狙い、ダクネスの鎧をも傷つけた魔刃が豪快に叩き込まれた。

 

 

「本命は此方だっ! 酔いどれ女ぁっ!!」

「あ」

 

 ―――その瞬間、鈍い閃きが反転する。

 

 なんと剣は勢いよく、鋭角に弧を描いてダクネスを無視し、背後にいたレシェイアへと迫ったではないか。

 ただでさえ、防御の上から胴を断ち問答無用で泣き別れさせる一撃を、鎧も着込まず何の準備もしていないレシェイア目掛けて。

 

 ………考えてみれば当たり前のこと。

 

 散々妨害をしてきたレシェイアが、この優位の主軸となって居るのは誰にも理解できる事。

 しかもベルディアの頭は“上”にあり、傲慢にも戦場を見降ろしている。

 焦りから来た、余りに酷い凡ミスだった。

 

「レシェイアーーーっ!!」

 

 咄嗟にタックルで抱き付いたダクネスの身すら厭わず、音すら鳴るほど盛り上がった筋肉を駆動させ、剣で真横へ薙ぎ払う。

 

 

 耳煩く甲高い風切音を立てた刃は【ソコへ何も無いかのように】通り過ぎるぐらいの切れ味を見せた。

 力強く振り上げられた剣尖がかかる重さすら振り飛ばし、張り詰めた音を立て制止する。

 

 それは余りに唐突な展開過ぎ、だからこそ受け入れられず、刹那の間音が消えた。

 

 

 

「い、居ない……?」

 

 そして、塵一つ残さずに()()()()()()()()()()()

 

 同時にダクネスへ追撃しようとしたベルディアの剣も、高く掲げられた不自然な位置で止まっている。

 

 何が起きたのか咄嗟に悟れず、皆が硬直する中で―――二つの声が同時に響いた。

 

「やっほぅ!」

「あ、頭を返せえぇえッ!?」

 

 上空から一つ、楽しげな。

 地上から一つ、狼狽して。

 

 音を立てて落下してきたレシェイアの脇には、何とベルディアの頭部が“抱えられて”居た。

 即ち―――先程振り切った剣を利用して飛び上がり、頭部をキャッチしたに他ならない。

 

「まだ、だ! 景色が見えるのならばっ……例え一人でも奈落へ引きずり込んで見せよう!!」

 

 だがあちらも異常極まりなく、ベルディアは僅かに見える光景と覚えた場景を合致させながら、剣を掲げダクネス目掛けて詰め寄ってくる。

 不意を突いた相手が『不意を突いてくる』という前代未聞に事態に、ダクネスも防御態勢を取れずに硬直してしまっていた。

 

 やはり万事休すか……そう思われた、その時。

 

 

「これできまらなかったらホントに恨むぞコンチクショウ! ―――『スティール』ゥゥッ!!」

 

 カズマの手へと、三度(みたび)薄青い光が灯る。

 再び感じるずしりとした感触に―――今度こそ歓喜の声を上げる。

 

「どうだデュラハン! 俺の運も捨てたもんじゃないんだよ!」

「つ、剣をっ……ぬ、あああぁああっ!!」

 

 ――どこまで喰らい付くのか。

 ベルディアは腕を掲げて、突進を止めない。

 腕に宿る漆黒の光が、それがただのアームハンマーで無い事を、そして単なる悪あがきで無い事を如実に伝えて来る。

 そしてスティールに残る全魔力を使った所為か、カズマは思わず膝をついてしまう。

 

 慌ててアクアが何かしら呪文を唱えようとしているが、その時にはもう……遅かった。

 

「ハイ、シュート!」

「ぬごぁああっ!?」

 

 レシェイアによってベルディアの頭部が蹴られ、頭へ足への重い撃で思い切りずっこけさせられて居たのだから。

 

「ダクネェス、今らよっ」

「! ああ!」

 

 ベルディアが転がっているその隙に剣を持ち上げ、卑劣な手からか多少の罪悪を感じながらも、背中目掛けて思い切りのよい一斬を命中させて見せる。

 

「せええいっ!!」

「ぐはあっ!?」

 

 今度こそ、彼女の渾身の一撃がベルディアを捉える。

 

 鎧が削れ、満身創痍となったデュラハンに―――待っている道は、もう一つだった。

 

「さあ、消えちゃいなさいなクソアンデッド! 『セイクリッド・ターン・アンデッド』ォッ!!」

「ま、まさかこんな事が……っ! グワアアアアァアアァァ……―――」

 

 アクアが召喚した魔方陣と、ソレに続く特大の極光により、ベルディアは成す術なく浄化されていく。

 同時に転がっていた頭部と、カズマの抱えていた剣や籠手も、一緒になって粒子と化し、聖なる光に導かれながら中空へ散っていく。

 

 

 

 ……こうして、爆裂狂の手により結果的にアクセルの街に来る羽目となった、途轍もなく強い筈の魔王幹部は―――理不尽な五人の手で終ぞ何が目的なのか明かすことなく、初心者の街(こんなとこ)で浄化されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ベルディア討伐の翌日。

 

 

 

「さあドンドン飲んでくれよレシェイア! 今日は俺達が奢っちまうぜ!」

「そーれ! いっき、いっき!」

「ニャハッハハハハ! 言われなくてもドンドン飲んじゃうんらぁ♫」

「相変わらずねこの人は……ウフフフッ」

 

「いや~、今回はよかったぜ! 紅魔族!」

「爆裂魔法がなかったら危なかったですよね!」

「ふふふ、もっと褒めても良いのですよ?」

 

「恰好良かったわよダクネス……正にクルセイダーの鑑ね」

「最後の一撃が勝敗を決めたもんな!」

「自分はやれる事をしただけだ。ソレに個人的にはもう十分満足したさ」

 

「この箱からネロイドを―――ほーいっ!」

「お、おい!? いま箱よりでかいの出てきたぞ!」

「相変わらずどないなっとんのか……」

「アクアさーん! もう一回! でも、別のでも良いから!」

 

 魔王幹部のデュラハン・ベルディアを討ち取った記念にと、皆がそれぞれ手にした報酬で宴を開き、年齢性別の制限なく飲みまくっていた。

 ギルド職員はこれを予想していたようで、横断幕や宴用の飾り、果ては臨時のコックやウェイトレスの姿も見え……準備は端から万端だった。

 

 ある所では興が乗り過ぎたか酒瓶が飛び交い、色んな人の頭に降り注いでは小競り合いが起き、しかし瞬く間に収まり。

 

「ダクネスの防御力は凄かったよなぁ! 魔王幹部相手なんて、俺だったら一撃でのされてら」

「いや、紅魔族の嬢ちゃんも中々だろ? 爆裂一筋は傷過ぎるが、火力に限っては恐れ戦いちまう」

「アークプリーストのあの人も凄かったと思いますよ。……色々やらかしましたけど……」

「やらかしたよねぇ。あれがなければなぁ……だからやっぱり、レシェイアの妨害が凄かったんじゃない?」

「冒険者の小僧も良いもんだったぜ! 下級職の俺等にもちょいとした希望が見えるってもんだ!!」

 

 ある所では一番活躍した、カズマ達の湛える会話を交わしながら、彼等の欠点について同意しあったり、また悩みあったり。

 

「位置について―――よーいどん!」

「「「オオオオオッ!!」」」

「おうら、喰え食えぇっ!」

「アンタに掛けてんだから、負けんじゃないよ!」

「吐くほど食っちゃえー!」

 

 ある所では何故か大食い大会が始まって、オーダーを受けたコックが忙しそうに手を動かし、ウェイトレスが半ば呆れ気味に苦笑いして次々料理を運び、賭けごとが発生してオッズ調整の冒険者が札束を数えていた。

 

 一番多いのはカズマ達の活躍を湛える声だが、そのなかでもめぐみんやダクネス、カズマを上げる声が大きい為、レシェイアの陰ながらのもくろみは成功したといっても良いだろう。

 何せ上記の三人は異様な硬さと、爆裂狂ぶりと、冒険者ながらの奮闘で目立っていたのだから。

 必然、一人でクエストをこなしていたレシェイアより、注目が集まるのかもしれない。

 

「懐も潤ったし、魔王の脅威も遠ざかった! 一石二鳥って言葉があるが、正にその通りだぜ!」

「んだんだ。吃驚したダヨ、今回は駄目だとまで思ったのに」

「結果オーライって奴? ま、それでも恐ろしいより、ビックリの比率の方が大きいっしょ」

 

 魔王討伐に関わった者達は漏れなく皆が報酬を得ているが、その中でもカズマ達のパーティーは直接かかわったという事で、多額の報奨金が払われる事になっている。

 だが……まだこの場にはいない。

 だというのに盛り上がりの熱は収まる事もしぼむ事も知らず、寧ろどんどん増長していく。

 

 素直に祝いたいモノ。

 ノリが良いモノ。

 奢りを期待するモノ。

 主題は違えどみんなが、今か今かと主賓の登場を待ちわびている状態でコレなのだ。

 カズマが現れたが最後、爆発したかのように盛り上がるだろう。

 

 

 ちなみにレシェイアはどうなのかというと、

 

「にしても確かに討伐したのは上級職連れた少年のパーティだろうけどよ? 個人的にVIPはレシェイアだと思うぜ?」

「そうそう! 一人でクエストこなせるから薄々思ってたけど、やっぱり凄いじゃないレシェイア」

「魔王幹部に堂々張り合えるってだけでも、随分な胆力ですもんねぇ……なのに賞金は要らないなんて……」

「んにゃ~、夢中だっただけらよだけらよって。だから要ららいの♫ うんうん!」

 

 今口にした通り。

 

 詳しく言うなら―――自分はサポートしただけだし、大金なんて自分にとってはどうでも良いから―――と言う理由で高額の報酬を自ら辞退している。

 勿体ないと冒険者達が口を揃えたのはいうまでもなく……しかしレシェイア自身の信条から言えば、受け取るほうこそ勿体ない部類だろう。

 

(……手加減しまくって、サポートだけして受け取るのもねぇ…………。それに今回の“アレ”は……)

 

 最後は、自分の脳裏の事ながら強引に打ち切り、考えない様にすべくか軽く頭を振っている。

 何かしら考えたくない事でもあるらしい。

 ……内心複雑なモノを抱えながらも、しかし飲む事は遠慮せず豪快に行い―――そうして飲んで騒いで歌って踊れを繰り返すうち。

 とうとう今回の主品が姿を現した。

 

「カズマ遅かったじゃない! みんなもう飲んじゃってるわよ! ほら、アンタも早く受け取ってきなさいな! あ、めぐみんとダクネスもまだ受け取ってないから、一緒にね」

 

 

 アクアの一声で、冒険者達の視線が入口の方へと漏れなく向けられる。

 視線を一点に集めてしまっているカズマだが、しかし予測ぐらいはしていたらしく、対して驚いてもいない。

 

「先にとっても良かったんじゃないか?」

「いや、こう言うのは形式が大事かと思ってな」

「仲間一丸で得た勝利ですからね!」

「じゃあ、受け取ってくるか」

 

 一先ず近寄ってきたアクア、騒ぎの中から抜けてきためぐみんやダクネスと共に、カズマはカウンターへと向かう。

 途中団体の中を抜けてきたレシェイアが近寄ってきていたが、誰も気にすることなく放置している。

 

 やがてカウンターから受付嬢のルナが現れ……何故だか少し微妙な表情を浮かべつつ切り出してきた。

 

「えーと……サトウカズマさんとそのパーティのみなさん、お待ちしていました。では、まず今回の報酬を―――まずお二方へ」

 

 言いながら硬貨の詰まった袋を、めぐみんとダクネスへ渡すルナ。

 そうなると必然、自分のは何処へ行ったのかと不安になるものであり、カズマもまた困惑の表情を浮かべている。

 

 しかしこの続きを理解している冒険者達は、一様に嬉しそうな笑みを止めようとはしない。

 ……その一方で。

 

「うー……だいじょーぶらのかなぁ……?」

 

 こちらは少し不安げなレシェイア。何か引っ掛かる要素でもあるのだろうか?

 

「あのですね……カズマさん達のパーティには、その……特別報酬が出ています。魔王幹部・ベルディア討伐の報酬です」

「え? な、何で俺達だけに?」

 

 戸惑うカズマに対し、冒険者達から次々と大声が掛けられた。

 

「何言ってんだよMVP共! お前らがいなきゃヤバかったんだぜ?」

「そうそう! 受け取るに十分値するって!」

「つーかもっと胸張って受け取っちまえよ! それ位の活躍してんだからさ!」

 

 騒ぎ出す冒険者達の優しさを前に、これまで散々苦難を味わい迷惑を掛けられ、碌な事が続かなかったのもあってか、カズマの目尻に涙が少し浮かんでいた。

 

 そしてレシェイアの方を一瞬見て、それからカズマは満足げに頷いた。

 

「えー……サトウカズマ、及びそのパーティメンバー三名。あなた方には魔王幹部・ベルディア討伐の名誉として、三億エリスの賞金を授与いたします」

「「「「さっ……!?」」」」

 

 三億。

 実に、300000000エリス。

 

 その余りに膨大すぎる金額を前にし、カズマ達は勿論の事、ギルド内の騒ぎすらシーンと収まってしまう。

 ……レシェイアだけは変わらずにう~んと唸っていたが―――誰かが疑問を浮かべる間もなく、直後に其れすら容易にかき消す大音量がギルドの中で爆発する。

 

「オイ奢れよカズマ!」

「キャーカズマ様素敵っ! 奢ってぇ!」

「奢らないとびっくり踊りかますぜ?」

「奢れ! 奢れ!」

「奢っても大丈夫でしょーっ!?」

「何時奢るか……今でしょ」

 

 ―――アッという間にギルドの中は“奢れ”コールで蔓延。

 しかしそんな彼等を強心臓で無視すると、カズマはアクアとめぐみんとダクネスの方へ勢いよく顔を向けた。

 

「おいお前ら! 俺は一つ、お前らに宣言しておくことがある! 俺は今後冒険の回数が減る―――いや、若しかするとゼロになるかもしれない! なぜなら、大金が手に入った以上安全に暮らしていけるし、それが一番だからな!」

「い、いや魔王討伐の話はどうなったのだ!?」

「そうですよ!? 魔王討伐の証に、私が最強の魔法使いとなる話は何処へ行ったのですか!?」

「……そんな話、してたっけれぇ?」

 

 別の意味で騒ぐ二人と、何やら重苦しい声色で呟く一人をしり目に、ギルドの中はカズマ本人含めてどんどん盛り上がっていく。

 

「……ん?」

 

 と―――そんな絶好調の彼の前に一つの紙切れが差し出された。

 

 それが、今回の報酬を示す小切手なのだろうか。

 まあ、思わぬ大金なのだし、確かに一辺に渡し切れないのかもしれないが……。

 されど、ひょこっとアクアが横から覗き込むと―――どうしてかピタリと制止してしまう。

 

 その原因を、ルナが言い辛そうに明かした。

 

「あの、ですね……その……今回、アクアさんが呼び出した洪水で家屋が流されてしまい、しかもめぐみんさんの爆裂魔法で壁に亀裂が入った所為で、粉砕の有無拘わらず余計に被害が広がっていまして……魔王幹部討伐の功績もありますから全額とは言わないので、一部だけでも支払ってくれ―――という事でして」

「みぎゃっ!?」

「ふわっ!?」

 

 ルナが言い終えた直後、カズマの背後から二つの小さな悲鳴が飛び出る。

 見ると、レシェイアに首根っこを掴まれ、吊りあげられてジタバタしているアクアとめぐみんの姿が見えた。

 逃げようとして彼女に先回りされたらしい。

 

 そして彼女の方へと視線が向くや否や、ルナは更にカズマを逃げられなくする一言を付け加えてきた。

 

「そして、ですね……今回の報酬の内、レシェイアさんの分は本人たっての希望で、借金の支払い分に回されていまして……

「なっ……!?」

「ニャハハ……その、ゴメンれ?」

 

 そう言って謝るレシェイアも、逃げ口を無くしてしまった事に今更気が付き、いたたまれなくなっている様子。

 だからこそカズマは彼女には普通に謝罪と感謝をし、そのまま二人をねめつける。

 

 まあ……めぐみんは流石に仕方が無かろう。

 だが一番擁護してはいけない、というか【擁護出来ない者】へは、カズマパーティ+α全員の視線が集中してしまっている。

 お陰で件の駄女神様はいつもより三倍小さく見えた。

 

 

 ルナはそそくさと奥へ消え、雰囲気で大体を察した冒険者達は皆スゴスゴ下がっていき、結果カズマパーティ+αが中央に取り残される事になって―――

 

「報酬三億、弁償金額は……三億八千十万か。……うん、借金(アクア)の為にも、恩人(レシェイア)の為にも、これからクエスト頑張ろうな?」

「アラシも暇なら手伝うからさ~……ねっ?」

「ち、ちくしょおおおおおおぉぉおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉぉおおおっ!?」

 

 悲痛な声で叫びながら、カズマは安定した生活から魔王討伐へと、第二声を張り上げてまで考えを切り替えた。

 

 

 

 

 

これで少しは、レシェイアさんの実力が分かったかな。……やっぱり、異常だね

 でも、アレぐらいの実力だったなら、もしかしたら―――」

 

 だからこそ、陰に隠れる銀髪の少女の存在は、その声にかき消されて行くのだった。

 




 幕間であるキャラクター紹介や、自問自答Q&A等を挟んでから、第二章へと移ります。

次回の第二章から、もっとオリジナル話が混ざる予定です。
お楽しみに!

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