素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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タイトルで若干ネタバレみたいな……。


思わぬ乱入者

 

 

 理不尽にも始まった、魔王幹部戦。

 剣と己れの頭部を手にし、駆け寄ってくるベルディアへ一早く反応したのは……意外にもカズマらではなく、周りの多数の冒険者達だった。

 

「ほう? ……俺の目的は其処に居る小僧とそのパーティなんだがな……まあ良いわ。それに、万が一にでも俺を打ちとる事が出来たならば、一獲千金を得られるのは自明の理。大金を手にし、栄養を欲するのならば―――冒険者たちよ! 掛ってくるが良い!!」

 

 一攫千金。栄誉。

 集団が齎す安心と優位によりその言葉を疑う事無く吊られ、功を焦ったらしき五人ほどの冒険者達が、集団から外れより前に出た。

 

 彼等はカズマでも見覚えがあり、特に灰色の仮面をかぶった大男や、淀んだ金髪のリーゼントを持つヤンキー風冒険者は、ダクネスと軽いイザコザを起こした事もあり、彼の記憶にも濃く残っている。

 

 だがレベルは当然として、人間と化け物という根本的な差、幾年月重ねて培ってきた技、そして単純な(ジョブ)としての力量。

 たった五人ではベルディアとの開けた差を埋める事など出来ないだろう。

 それでも賞金の有無に関わらず、“必ず”誰かが矢面に立たねばいけなかった。

 

 このまま進ませれば……街の人達が犠牲になってしまうのだから。

 

 もしかすると彼等の足を進ませているのは金や栄誉だけではなく、例え酒に呑まれた荒くれ者だと認識されようと、胸中へ常に抱く―――冒険者(せんし)としての “誇り” もあるのだろうか。

 他者から見れば小さくとも、自身の中では大きく膨れ上がる、その矜持が脚を進ませる、一端を担っているのやもしれない。

 

 

 だがどれだけ覚悟しようとも一対一の決闘では確実に葬られる。

 それを既に理解している冒険者のと男達は、人数的有利を活かしてベルディアを囲み、じりじりと螺旋を描くようにして方位を狭めて行く。

 

「どれだけ強かろうと後ろに眼は付いちゃいないんだ! それにてめえの手に頭持ってるなら余計に後ろなんか向けない筈……完璧に囲んだと同時に斬り掛るぞ!!」

 

 ベルディアの後ろにいた男性冒険者が叫び、自分と同じくベルディアへ近付く者や、周りの他の冒険者達にも意識を向けて叫んだ。

 聞こえても良いから意図を伝え、すぐ連携をとれるように仕向けたらしい。

 

 ……しかし少々音量に劣るカズマの声が、その提案を否定する。

 

「相手は魔王幹部だぞ!? そんな簡単な方法で討ち取れたら世話無いだろ!」

 

 カズマの言う通り、相手は途方も無い魔物の大群の中から選りすぐられた強者中の強者。

 単に剣で斬り掛るだけが能ならば、そもそも幹部などに取り立てられないのは当たり前。

 

 何せパワーだけならば、アンデットを超える種族など幾らでもいるし、基礎能力の高さに鑑みるならスタミナが無尽蔵のアンデッドより、もっと選ぶべき者が浮かび上がるからだ。

 

 つまり、『何かしらの隠し種』を持っているという事に他ならず……。

 

「くそっ……!」

「カズマ……?」

 

 まずはめぐみんを他の冒険者へ預けるべく見回す。

 見回しながら、援護の準備をすべくと、自分の腰にさしてあるショートソードを引き抜こうとし―――固まる。

 

 理由は、当然ながら後方に居るレシェイアとは違う。

 ……彼もまた周りが知らないだけで充分《異邦人》に値するとは言えど、レシェイアの様な理由ではない。

 それは実に単純な理屈。

 

 

―――レシェイアとも違う、本当に弱い冒険者(じぶん)が行ったところで、結局どうなる?―――

 

 『クリエイト・ウォーター』からの『フリーズ』なら足止めになるだろうが、それでも効果が薄く、他の搦め手が利くとも思えない。

 『クリエイト・アース』からの『ウィンドブレス』で目隠しをしようにも……相手の頭は腕で抱えられ別個所にあるし、眼を潰しても力任せに振り回されれば厄介な事この上ない。

 大前提として近付く必要もあり、向こうから挑みかかってくる事も考慮に入れれば、前に出るなど無茶、無謀。

 

 元より手を前に掲げて頭を狙えば警戒されるし、放たれる僅かな間隙を見逃してくれようはずも無い。

 防御が薄く速度も持たず、筋力も無いカズマでは、比喩なく瞬く間に“おしまい”だ。

 

 仲間に頼ろうにもレシェイアは彼からは姿が見えないし、見えたとしても先の異邦人の件が故力を貸すかは微妙な所。

 ならばとパーティメンバーを頼ろうにも、めぐみんは戦闘不能状態。

 アクアの魔法は致命打にならず、ダクネスの攻撃はそもそも当たらない。

 打つべき一手がまるで見あたらないのだ。

 

(このまま、逃げた方が良いんじゃ……?)

 

 善意と身可愛さから葛藤するカズマを察したのか、冒険者の内一人が声を挙げる。

 

「なぁに大丈夫だ! すぐにやってくるさ! ……あの街中に響いた緊急放送を聞いた、この街の切り札がな! アイツが来れば魔王幹部なんざ一捻りさ! それまでに時間稼ぎが出来れば良い!!」

 

(……切り札だって?)

 

 カズマの脳内に浮かんだその疑問は―――

 

 

(……へぇ……強い人がいるの?)

 

 ―――奇しくも、後方のレシェイアも同様に思考していた。

 

 魔王幹部が出てきて見過ごせなくなったか、彼女は今現在集団からこそ外れてはいるが、城壁付近に腰を据えている。

 前方に出て、闘いがある程度は直に見える場所まで進んで来ているのだ。

 更にあの『翠色の奇怪なマン・ゴーシュ』も取り出していて、陰ながらに何やら仕出かす気でもあるらしい。

 

 

 ……だが、頑なにそこから動こうとはしない。

 一見すればまごう事無き“薄情”なのだが、しかしちゃんと理由もある。

 

 前に出た冒険者達は、この件にはち当たってから恐らく命のやり取りを覚悟し、故に一攫千金をも夢見て一歩進み出た者達。

 更に言えば常日頃から、生殺を繰り返す者達。

 何の罪も無い、『護らなければいけない』か弱い民間人などとは断じて違う。

 周りにすら幾人もの戦士が居て、彼等とてそれ相応の覚悟を持っている筈。

 なればこそ……『護る必要性が曖昧』で、過保護なまでに突出する必要が薄いと言う現状が、レシェイアの脚を止めていた。

 

(カズマが不安だけど……異物が我が物顔に踏み潰して行くのは、ね……)

 

 彼女が目を伏せた―――それと同時。

 

 

「よし……一気に襲いかかっちまえ!!」

 

 勇気あるリーゼントヘアの冒険者が躍りかかったのを見て、僅かながらの時間差で五方から次々に斬り掛っていく。

 

 対するベルディアは本気で相手をする為なのか、頭を上にポォンと無造作に放り投げる。

 それは不気味なまでに“無回転”なままに、ある程度の高度まで到達すると、顔を“下”に向けて不自然に制止した。

 

 それはまるで―――――高空より狙いを定める、『猛禽』が如く。

 

「止めろ! 行くな!!」

 

 カズマの制止の声が、寧ろ合図となったかのように、冒険者達は続々と地を蹴り、ベルディアへ突貫した。

 

「てぁああっ!!」

 

 正面から掛る一人目。

 ……少し横にずれて回避される。

 

「やあぁ!」

 

 僅かな間を縫って襲いかかる二人目。

 ……体を揺らして剣線から外れ、少し大きく一歩踏み出す。

 

「ぜぇええっ!」

 

 大股になった事を隙と見た、豪快な三人目。

 ……だが距離が足りず、僅かに歩いたそれだけで斧は空を切る。

 

「どらああぁ!」

 

 今度こそ隙が出来たと四人目。

 ……背後から襲った筈なのに、体を反転させて回避される。

 

「ぞおぉおりゃっ!!」

 

 五人目の圧倒的スピードを誇る一撃。

 反転させた先から一歩後方に踏み出せば、それだけで影響は0。

 

 ―――彼等の刃々がほんの少しの動作だけで、かする事も無く全て見事に空振った。

 

「見降ろし視点のゲームかよっ……!?」

 

 アクションゲームの中には、カメラが上から見下ろしている形でキャラを映すタイプの物がある。

 それらは総じて少し先の隙間や、背後の敵すら容易に確認でき、本来なら驚愕モノな回避技術すら可能とする。

 ベルディアはあろう事かその反則をリアルにぶち込んできたのだ。

 

「あっ」

「……え?」

 

 瞬間、ベルディアの動きが余りに速かったからか、彼等の元を疾風が駆け抜けたと、皆そう錯覚する。

 

「フッ……!」

 

 ……そして、彼等がポカン口を開けているその間に、圧倒的な剣術を持った彼の手により、瞬く間に斬られて―――

 

 

 

「どぅおああああぁぁっ!?」

 

「「「は?」」」

 

 ―――否、何故だかガイン! と耳障りな音が聞こえ、更にベルディアが素っ頓狂な声を上げて、バカみたいに大ぶりな動作で剣を払っただけ。

 それだけだった。

 

 直後に聞こえるのは、カランコロンとした何かが落ちる音。

 良く眼を凝らしてみれば……それらは何の変哲もない、単なる石ころだった。

 

 だが、ベルディアが驚いたという事は、それ即ち…………。

 

「だ、誰だ!? 今とんでもない勢いで石が飛来してきたぞ!? 魔法か何かと錯覚したぞ!! 誰が投げおった!?」

 

 今、上から降ってきた頭をキャッチした事により、泡を食って叫ぶベルディアの言った通り。

 それらの石ころを誰かが投げつけ、ベルディアの視界を塞ぐ……どころか兜越しに一発当てて見せたのだ。

 

 されど誰も名乗り出ない。

 

「あ! ぶ、武器が真っ二つに!?」

「鎧も切れちまってる!」

「逃げろ! これじゃ戦えねぇ!!」

 

 代わりに叫んだのは先の五人の冒険者達。

 

 囲んで居た地点から突撃したので、見事に回避された後も囲んだままだったらしく、全員が武器を斬られて使い物にならなくされていた。

 鎧にまで大きな傷が付き、次の一撃に耐えられなくなったオマケ付き。

 

 しかし逃げる隙を見逃すまいと、ベルディアは彼らへ追いすがるように狙いを定め、脚へと音が鳴るぐらいの力を込める―――!

 

 

 

「ぬおおっぉぉああぁぁっ!?」

 

 ……そして目の前に着弾した岩石により奇妙な体勢ですっ転ぶ羽目になった。

 

「あ、また石振ってきた」

「今度はデケェぞ。あいつの頭よりデケェ」

 

 今度の石は中々の大きさで、先に砂飛沫を上げたのも納得の大きさだ。

 そしてベルディアが前兆を察知できなかったという事は、結構高々と放りあげられていたに違いない。

 

「ええぇい!! またか! 卑怯な事ばかりしおって! こうなれば貴様等集団へ突撃し…………ん?」

 

 またも叫ぼうとしたベルディアの言葉は―――――しかし。

 

 

「それは、見過ごせないな?」

 

 

 ダクネスが前に出てきたことで、強制的に途切れさせられる。

 

 カズマ達の前に背を向けて立ちふさがり、大剣を正眼へと構えるその姿は、日ごろのドMな変態の面影をかけらも感じさせない。

 立派なクルセイダー、聖騎士の姿を現していた。

 

 何よりカズマ達のパーティだという事を認知しているからか。

 桁外れの力を持ったアークプリースト(アクア)、爆裂魔法を操るアークウィザード(めぐみん)同様、何かしら異様なモノを持っているのではと警戒し、ベルディアの足も止まってくれている。

 

 だが冒険者達の鎧が、中途半端かつ無鉄砲な一斬で切り裂かれた事から、ベルディアの実力もまた窺い知れ……止めるべきかとカズマは悩んでいた。

 

「なーに、私の頑丈さは知っての通りだし、何よりスキルは持っている武具にも影響する。ベルディアが鍛えられた冒険者達の鎧やら武器を、宛ら紙の様に切り裂いたのはその攻撃スキルの所為だ……だからこそ、私の防御スキルとどちらが上なのか、試してみたくもなった!」

 

 そんな彼を安心させようと、ダクネスが自信満々に言い放つ。

 

「いや、お前じゃ攻撃当たらないだろ!?」

 

 ……カズマの不安は余計に強くなった。

 

 事実、五人がかりで斬り掛っても全く歯が立たなかったのだ。

 本当に不器用ここに極まれりなダクネスでは、まずベルディアの回避力について行けない。

 本当、どうやって攻撃を当てる気なのだろうか?

 

「聖騎士として、守護を主軸へ置く者として……そして、首なし騎士相手だからこそ、どうしても譲れない者があってな……いざ参る!!」

 

 大剣を構え、ベルディアへ向けてかけ出すダクネス。

 

 そのスピードは決して速くは無く、それでもある種の迫力をもっていた。

 ベルディアもベルディアで迎え撃つつもりなのか、剣を片手で構えたまま、回避重視の姿勢を取っている。

 つまり、今のベルディアは止まっている“的”だ。

 

 流石のダクネスも目測を誤る事無く、二段目を想定していて尚、鋭い一斬を振り降ろした!

 

「は?」

あっ……

 

 ……ベルディアのちょっと前に。

 止まっている相手にすら外し、二段目も想定していない豪快な一振りに、皆の間で生温かい空気が流れて行く。

 

「……アイツ、ちょっと“あっ”とか言っ」

「せえぃっ!!」

 

 カズマの要らないツッコミを遮るみたく、ダクネスは赤い顔を隠すように伏せ、強引に声を上げて剣を横薙ぎに振るった。

 

 距離が近い事もあって今度こそ当たる距離ではあったが、豪快過ぎてひょいっと軽く避けられてしまう。

 

「何たる期待外れだ、もう良い」

 

 それだけ言うと興味を無くし、ベルディアの剣が無慈悲に一閃され、

 

 

 

「あがはっ!? ちょ、またかオイィイィ!?」

 

 脇腹に石がクリーンヒット。

 ダクネスへと向けた一撃も、やっぱり情けないモノに落ち着いてしまう。

 

 それでもダクネスとは明らかに違う剣線は、見事にダクネスの鎧を捉えて、でもやっぱりギャリッ! と引っ掻いただけに留まった。

 

「わ、私の鎧が……ッ!」

 

 耳障りな金属音に思わず驚くベルディアから、ダクネスは数歩距離を取りちょっと場違いな悲鳴を上げる。

 確かに驚いてしまうぐらい傷は大きいが、それでも彼女の体を傷つけるには程遠かった。

 

 しかも不作法な一撃ですら鎧を切り裂いたベルディアの剣を前に、どうどう平気で耐えきった功績も大きい。

 

「……駆け出しの街にこれほどの防御力を持つ者が……………あのアークプリーストと言い、紅魔族と言い……貴様等は一体…………?」

 

 驚くベルディアを前に、カズマもめぐみんも、ダクネスでさえも笑む。

 ……アクアは何故か後方に陣取ったまま、何もしてないクセしてドヤ顔で腕組みしているが、皆無視。

 

 が、その笑みは次の一言で消える事になる。

 なぜなら……強い希望を含んだ声で、女の子がカズマ達にとっては、余りに惨酷な事実を告げてきたからだ。

 

「頑張ってクルセイダーさん! そんなやつ、今に“ミツルギさん”が来たら一撃で斬っちゃうんだから!」

 

((((なっ!?))))

 

 心の声がシンクロするぐらい、全く持って洒落にならないその一言。

 

「おうそうだ! 希望はまだあるぞ!! あの魔剣の兄ちゃんが来るまで持ちこたえようぜ!」

「おい、お前ベルディアとかいったな? 居るんだよなこの街にも! 高レベルの魔剣使い! 凄腕の冒険者がな!」

「そうよ……そうよ! 彼が来てくれれば、今以上にきっと……!」

 

 ミツルギ―――正しくは御剣響夜。

 尋常ならざる膂力を齎す魔剣グラムを持ち、どんな敵でも一撃で切り裂いてしまう、巷では知らぬ者の居ない『魔剣の勇者』。

 最近ではエンシェントドラゴンすら一刀の下に葬ったとの噂もあり、株が大上昇している冒険者。

 

 周りの冒険者達は、例え自分が犠牲となろうとも街を救うべく、そしてここぞ冒険者達の力の見せ所、自分達のより輝ける合戦だとばかりに、どんどん士気を上げて行く。

 だがカズマは、レシェイアは、めぐみん、ダクネスは一様に青い顔に変わり、そのままだ。

 

 

 だって彼の魔剣はレシェイアが結果的に1/3圧し折ってしまったのだから。

 

 

 即ち、茫然自失となっている彼がこの場に来る可能性は限りなく低く、また訪れたとしても力が落ちている為に希望となりえず散っていく最悪の展開すらあり得てしまう。

 

 再三言うが、ミツルギの件に関しては、レシェイアは全く悪くない。

 

 ……にも拘らず自身の異常さが軽く露見し掛けていることと言い、アクア達に詰め寄られたことと言い、そしてこの現状の最悪さと言い。

 ―――ミツルギの “自業自得” のツケが、全部 “彼女” に回ってきている。

 

 余りに、余りな、余り過ぎる不運。

 

「やばい、マジでヤバいって……!?」

 

 またカズマもカズマでボソボソ呟きながら、何故もっと早く出て行って止めなかったのかと、深く後悔して焦っていた。

 

 彼が見ていたのはミツルギとレシェイアの決闘が始まる前からで、つまり彼は自分の身可愛さにレシェイアを放っておいたという事であり……決闘を受諾せざるを得ない状況にした、悪い意味での『陰の立役者』でもある。

 

 レシェイアが後悔と理不尽の渦に巻き込まれているのはカズマでも容易に想像できる事。

 だからこそ、冷や汗をダラダラ滝の如く流す羽目になっていた。

 

 

 ……どんだけ頑張ってもミツルギは『来ない』のだから。

 

「ダクネス! やっぱりヤバかったら引き返せよ!!」

「大丈夫だ! まだまだいける!」

「ヤバかったらって言ったろ!? 今は良いって!」

 

 最早誰かに頼ってばかりではいられないと、ダクネスに命令しながら、アンデッドの弱点を付ける何かは無いと思考を巡らせ始める。

 

 しかし、運命はまた惨酷。

 

 カズマが叫んだ時と……奇しくも同じタイミングで、ベルディアも叫ぶ。

 

「では魔剣使いとやらが来る前に……本気で試すとしよう! 類稀に強固なるクルセイダーよ!!」

 

 己の頭を放り投げて止まった位置は、やはり戦場を見降ろす高空域。

 上空から戦場を見降ろす視点へと変更することで、死角を一切なくしてしまう、その恐ろしさは武器や鎧程度とは言えど、皆十分身にしみている。

 

 アンデッド故の物理防御力、無尽蔵のスタミナ、そして首なしという特徴……それらがあるからこそ出来る、魔なる芸当。

 

 加えて強力な攻撃スキルと、彼の剣術の存在が痛い。

 片手間の一撃でダクネスの鎧でも大きく傷を付けられたのなら―――最悪、二回目の連撃を迎えるどころか、初手の連撃でその身を……。

 

「……っ!!」

 

 されど彼女にとて意地、矜持がある。

 何より背後には、傷付けさせる訳にはいかない、大切な仲間達が居る。 

 

 だからこそ―――ダクネスは回避できないならと剣を盾にするべく構えて、ベルディアを真正面から睨みつけた。

 

 その蛮勇、いっそ潔しと、ベルディアは鎧の隙間から見える瞳を笑むように細めさせ、帯剣を両手で握り直した。

 

「ぜえぇえええぇぇぇええええぇぇああぁっ!!」

 

 最初の一撃。しかし絶望の始まり。

 その早業に、またもや鋼の疾風が駆け抜ける。

 初手にも拘わらず、数させる事も許さぬ神速に至り、ダクネスに襲いかかる。

 

「耐えて見せる!!」

「無駄だああぁああっ!」

 

 黒を纏う漆黒の騎士と、橙を纏う白銀の騎士が、今交錯する―――――!

 

 

 

 

 

「ほいっ」

「ぬふぇっ!?」

 

 ―――こと無く、ベルディアが何者かのヒザかっくんを受けて、バッタリ無様に倒れ込んだ。

 

「え?」

「「「「「あ」」」」」

 

 唐突過ぎる乱入に、何も言えずにあんぐりと口を開け。

 

 そして原因の人物を見て……更に絶句する。

 

「「「「!?」」」」

 

 その人物を前に、皆がいっそ笑える位マヌケな顔で、それこそ漏れなく一様に目を見開く。

 

 その人物とは…………

 

「やっぱりさ? アタヒも人だから……“例外”ってあると思うんらよね?」

 

 泥酔知らずの異名を持つ大酒飲み―――レシェイアだった。

 

「き、貴様! 背後から襲うに飽き足らず戦場で酒を喰らうなど……! というか何時の間に―――」

「カズマ! めぐみん! ダクネス! ……アラシはサポート、援護、それが十分で、それが一番!」

「え?」

「レ、レシェイア?」

 

 ベルディアの言葉を無視し、カズマ達の方を指差すレシェイア。

 言っている言葉の意味が分からず、カズマ達は首を傾げてしまう。

 

「……貴様等……オレを目の前にしながら、放っておきながら一体、何を言っている?」

「この手が何で思いつかなかったら? 灯台下暗し?」

「この……話を聞かんかぁ!! ……はっ! まてよ? さては先までの石コロでの妨害は……! いや、だとするならソレはソレでおかしい……?」

 

 ベルディアの尤もな質問にも答えず、のらりくらり喋っていた彼女は……しかし行き成り倒れ込む彼の元に目線を降ろし、

 

「まあいいか―――これ位は関わろうって、決めたんらし。昔は、昔何らから」

 

 酒瓶を握ったままに片手を腰にあてた、実に大胆不敵に堂々とした所作でびしっと指差す。

 

「……だからさぁ―――こっから参戦するらよ? 酒飲みレシェイア、ヘベレケレシェイア、このアラシが酔っ払いとしてねっ♪」

「オイ貴様、一体何者―――は? な、なに? なんだと?」

「「レ、レシェイア……!?」」

 

 絶句する面々を前に、レシェイアはケロリとしたまま酒を飲み、そして……

 

「さっ、レッツ☆パーリィらよっ♫ ニャハハハハハハハハ!」

 

 再び、酔っ払いの加わった、波乱満載な戦闘が幕を開ける―――!

 

 




いよいよレシェイアも参戦!
そこに至った理由と、彼女の心境は次回。


でもこれだけは確実に言えます―――サポート要員の範囲ですが、大暴れします!

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