素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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今回は、レシェイアが実力を隠したがる理由の説明が、本編へ少し乗せてあります。
……展開が、少々駆け足ですが。
では、どうぞ。


不死者の軍勢

 

 

 

 薄々と感じる嫌な予感、そして既知感を胸に正門前へと集まった、カズマ達パーティメンバーと冒険者の軍勢が見たものは―――先日このアクセルの街に(正当な理由で)怒鳴りこんできた、魔王幹部のデュラハンだった。

 

 今回も今回とて怒気を抱いており、最早引き返せぬ程の状況、そしてただならぬ空気を放出している事すらも容易に窺えた。

 そして先日よりも度合いが上なのか、後ろには大量の死骸の兵・アンデッドナイトすら連れている。

 

 剣持ち、槍持ち、弓持ちまで居る彼等を前に、一度目の来訪の際は余裕だったアクセルの街の冒険者達の顔は、個人差はあれど皆一様に青ざめていた。

 数多くのモンスターを引き連れているのだから、アンデッドであろうと無かろうと、これが当然の反応だというべきだ。

 

 

 己が名指しされている以上隠れていても仕方ないと取り、名を呼ばれたカズマは嫌々ながらに覚悟を決め、件のそもそもの発端となっためぐみんを連れて、冒険者集団の中から数歩前に出る。

 このまま隠れていた所で、洒落にならない巻き添えが降りかかる危険性の方が、前に出る事よりも高いからだ。

 

 彼等の姿を見つけるや否や、デュラハンはこれまた前の件の怒りを否応にも彷彿とさせる、震えた様子で指を突き付けてきた。

 

「何故だ……」

「……な、なにがだよ……?」

「何故城に来んのだ! この人でなし共がアアアァアアアァア!?」

 

 思いもよらぬ問いかけを投げつけられた所為で、カズマも少しばかりの余裕が生まれ、めぐみんを庇う形で半歩前に出た。

 

「ア、アンデッドナイトがひしめいてるんだろ? お前の城。何で行かなきゃいけないんだよ。何より人でなしって爆裂魔法はもう撃ち込んで無いんだから―――」

「爆裂魔法を撃ち込んで居ない……? 何を白々しい事を!! 撃ちこんでおるわ! アレから毎日欠かさず! 性懲りも無く! そこの頭のおかしい紅魔の娘が! 我が城にな!!」

えっ

 

 カズマが呆気にとられたのと同時に、めぐみんはフイッと顔を逸らした。

 そんな所作を取れば、見られていようといまいと“答え”は確実で……。

 

「行ったのか!? 行きやがったのか!? わざわざ藪を突いて蛇ところかドラゴンを呼び出しに! アクアが活躍したのを良い事に! マジふざけるなよお前っ!!」

「ひたいひたいひたいのれす!? はにゃ、はにゃしれくらさい! ……ち、違うのですよカズマ! 今までなら平野に放つだけでも良かったのですが、古城の一件以来大きくて硬くないと我慢出来ない体に」

「何も違わねぇよ!! モジモジしながら言ったとこでバカやった事に変わりねぇよ!! 弁明の余地あるかボケぇ!!! …………まて、オマエ魔法放つと動けなくなるんだったよな?」

 

 そうなると必然的に、協力者が居る事になる。

 

 まずダクネスは有り得ない。

 何度か実家に帰っていたのだから手伝えても昨日だけだ。何より自分が受けたがる為、碌な事にならない。

 そして騎士は騎士なのだし、余り侮辱に値し過ぎたり、卑怯な戦法となるのは好まないだろう。

 

 次にレシェイアだが、彼女もまた有り得ない。

 幾分か常識があり、撃つなと忠告されているのに実行したがる酔狂にまで、態々付き合う筈でも無いのは明白。

 何より、頼んだ所で「ヤダ」と真正面から断られるのがオチだ。

 

 即ち……連日付き合えるだけの暇があり、卑怯も侮辱も喜んで行い、忠告をされてもコントの前フリだとばかりに実行する常識の無さを持ち、爆裂魔法を放つ日課を手伝うに十分値する理由を備えた人物は―――ただ一人。

 

「…………」

「オイ」

「……あ、チョウチョが飛んで」

お前かコノ駄女神がぁあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!

「ミギイイィイッッ!?」

 

 数秒前のデュラハンもかくやの絶叫を伴って、カズマはアクアの頬を遠慮無しに引っ張った。

 地味にどころか本格的に痛い事この上ない。

 

「だって仕方ないじゃないのよ! あのデュラハンの所為で碌なクエストが受けられない腹いせがしたかったんだもの!! あいつの所為でバイトする羽目になって、店長に怒られるんだし!!」

「お前ホント碌な事しないな! あとサラッと自分の能力の無さを棚に上げてんじゃねぇっ!」

 

 本格的に悪いとちゃんと理解しているが故に逃げようとするアクアの襟首を、カズマはガッチリ掴んで止める。

 次いでめぐみんの方を睨み付けるが、名指しされている所為で逃げ道も無く、アクションは起こさずその場に立っていた。

 ……彼女は厄介事を招いてしまった他ならぬ中心人物なので、逃げようとも他の冒険者に捕獲されて終わりかもしれないが。

 

 されど、そんなやり取りの傍ら、どうも彼等の内で交わされた会話に納得がいかないらしく、デュラハンは怒りをさらに増させて行く。

 

「俺が頭にキているのは爆裂魔法の一件だけではない! 寧ろ俺が呪いをかけたクルセイダーと冒険者の女を見捨てた事、それが爆裂魔法の件よりも腹立たしい!! 今こそアンデッドに身を堕としたが、コレでも生前は真っ当な騎士のつもりだった……だからこそ! 呪術より仲間を庇った騎士の鑑の様なクルセイダーを、そして尚護り切れず非業の運命を科せられた冒険者を! 己の身可愛さに見捨てるなど言語道断で―――」

 

 と……不意に、金属音を鳴らしながら一人の冒険者が前に出てきた。

 申し訳ない、気不味いという空気をコレでもかと纏い、それが無機物である筈の金属にすら伝播し、如何にも言われぬ物悲しさを湛えていた。

 

 そしてその冒険者は、そっと手を挙げた。

 

「…………ど、どうも?」

あれえーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?

 

 響き渡るは、怒りなど微塵も無い、素っ頓狂な叫び声。

 鎧兜により表情こそ見えないが、目はパッチリ見開れている。

 

 他ならぬそのダクネスが其処に居るのだから。

 

 今の今まで破られなかったであろう、確実なる必殺の呪いが解かれていたと知った、今のデュラハンの心境は如何程の物なのか。

 

 兎も角、言葉を選ぶ必要はありそうというのは確実だ。

 

「な……な、ぜ…………な、なななな何故あああのクルセイダーが生きているぅぅうっ!? ちょ、ちょっとまて……ならば今ここに姿は見えないが、まさかあの女冒険者も……!?」

「その通り! この私が解いちゃったのでした! なにアンタ呪いを解いて貰おうとカズマ達が城に来ると思ってたわけ? 一週間もの間ずーーっと城にこもってたの? 確認もしないって自信過剰過ぎなんですけど! ウケル! チョーウケルるんですけど! 無駄なカッコ付け乙! プークスクス!」

 

 ……なのに自分が解いた、だけで終わらせておけば良い物を、要らない挑発を重ねに重ねたアクア。

 例え自分は良くとも、周りのカズマ達や後ろの冒険者達に、予期せぬ被害が飛び火する可能性を、まるで考慮に入れていない。

 アホの子がアホの子たる由縁をシリアスな(筈の)場で存分に見せつけてくれる。

 

 だがそれでも彼女の解呪があったのだから必然カズマの取った行動は正しい。

 罠だらけで必要レベルも圧倒的にたりない、そんな魔窟へ必要無い徒労を負うべく向かう者はいないのだから。

 

「……ん? 待て、アイツなんつった……? 『姿が見えない』 女冒険者……?」

 

 ―――ここで、カズマはデュラハンの台詞に違和感を抱いた。

 周りを見て、集団を見て、遠くを見て、呟く。

 

「あ……レシェイアが、居ねぇ……?」

 

 

 

 

 

 

 冒険者集団からは離れず、けれども最前線からは僅かに後方。

 “彼女”の聴力を持たずしても、普通に会話を捉えられる、そんな微妙な最後方地点。

 

「ふぃ~……やっぱりぃ、あのデュラハンなんらぁ……」

 

 レシェイアは其処に居た。

 一応飲んではない様だが……手には確りとワインボトルが保持されており、隙を見て飲む気満々にも見える。

 

「……たーすかって無かったらぁ……うへぇ」

 

 幾らシリアスが壊れかかっているとはいえ、未だデュラハンの背後には不死兵の騎士団がこれでもかと大量に構え、他ならぬ魔法軍幹部本人のカンを余計に刺激しているのだから、呑気に酒盛りしている余裕などない筈。

 

 ソレを理解しているのだろうか?

 

「……ヒック……うぅ~ん……」

 

 しゃっくりを一つかまし、前方を覗きこむその姿には、緊張感などまるで感じられない。

 ただ呑気にニヤケているかと言えばそうでもなく、この上なく複雑な感情を混ぜた難しい表情をしている事から、彼女なりに考えがあって下がった模様。

 ……だがしかし魔王幹部の二度目の到来という、遠慮すべきでない事態を迎えて尚、後方へと下がる意図は一体何なのか。

 

 

 役に立たないのなら未だしも、レシェイアは純粋に強い部類だ。

 

 周りに明かしている力だけ上げても、未だに勘付かれていない力を加えても、未だ一部一部でしかなく、詳細が明かされない。

 女神から貰える怪力や超魔力、遍く物を切り裂く魔剣グラムなど、かすむ程の反則と言っても良い。

 

 そして例え後者の能力を使わなくとも身体能力だけで十二分に役立て、アンデットの物理防御力を考慮に入れて尚、前に出ない理由の方が上がらない。

 だから普通に考えたならば、後方に退いてしまう理由など皆目(かいもく)見当がつかない。

 

 

 

 ……“普通” に当て嵌めて、彼女の行動の理由を考えたならば。

 

「この世界一番の驚異に、(こぞ)って異物が絡むのは……さぁ……」

 

 彼女は他ならぬ“異邦人”。

 レシェイア自身もほぼほぼ気付いている、既に明かされたアクアの正体や、カズマやミツルギ等“名前が少々奇妙な黒髪の者達” 以上に、この世界に来る筈の無かった異質な存在。

 それはチート持ち転生者達よりも、ある意味“異様”な立ち位置にいるといっても良い。

 本来は部外者も部外者なのだから、余り大手を振って動きたくなかったのだろう。

 

 そして最初からこの世界に骨を埋める気も無く、元の世界へ帰還するつもりで、深層まで関与する気も無い。

 言いかえれば中途半端に無責任である立場。

 なればこそ『旅の恥はかき捨て』すら真っ青な、余りに自分勝手な暴挙に及ぶ事などできなかった。

 

 故に最低限の爪後も残さない様、頑なに日常(酒浸り)を貫こうとしていたに違いない。

 

(何よりさぁ……大きな力が必要とも思えないしねぇ、この世界は……)

 

 更に言うなら、ドラゴンやグリフォンにマンティコアやら、魔王軍やらの驚異相手に日々尋常でないほど脅えているのならレシェイアとて手を出しただろう。

 

 だがこの世界の何処に、そこまで必死になる要素があるのか?

 

 アクセルの街は魔王軍との戦の最前線からは遠いとはいえ、誰も彼もが呑気に暮らしている。

 依頼ですら、出来れば討伐して欲しいというのばかりで、必死に懇願している様子など微塵も窺えない。

 最前線の王都の様子を新聞で見ても、魔王軍との交戦がほぼ日常と同義。

 死者が出ていない事から、寧ろ士気を高める一行事としか見ていない節すらある。

 

 まるで魔王など初めから存在しない者のように、敵国との小競り合いでしか無い様に、皆が知らん顔でのんびり冒険を続けている。教会ですら、悪魔や魔物は嫌悪しても、しかしそれだけ。

 ―――ましてや “英雄” の存在など、誰も求めていない。

 煩わしくも突撃してくる魔王軍という休息の時間を削る者達が、目の前から消えさって欲しい、ただそれのみ。

 

 この世界に来た事を何かの縁だと思わせる、そして部外者ですら拘わらねばと決起させるだけの要素が、そもそも存在しえないのだ。

 逆に言えば、例え何も無かろうとも世界を順当に、正確に回せる事に他ならない。

 必要性すらないのに過ぎた力を振り回し、周りの秩序を振り乱す事が良いか悪いか、それは言うまでも無い事。

 保たれている均等を、逆に崩しかねない危険性もはらんでいる。

 

 

 ―――そうこうしている間にも状況は進み。

 

「……駆け出しの街のアークプリースト如きが、何時までも見逃してもらえると思わん事だ。この街の者等を皆殺しする事すら、俺にとっては容易いことなのだ。無尽蔵の体力を持ち、腐れ落ちた肉体だからこその怪力を合わせた、この体を前には貴様等ひよっ子など相手にもならんぞ」

「見逃してあげてるのはこっちの方よ! アンデッド如きが此処へ攻め込むなんて許されざる事だわ! さっさと消えなさい、『ターンアンデッド』!!」

「ふん! この俺は魔王幹部、そして背後の者等もその直属の兵士! 神聖魔法への対策など特に出来てぎゃああああぁああぁ!?

 

 余裕を持ってふんぞり返っていたデュラハンが悶え苦しみ、なのにアクアが何故か驚愕の顔で慌てる様を見て……レシェイアは嘆息した。

 

(ほら、やっぱり要らないじゃん?)

 

 加えて既に彼女の様な存在が出しゃばる事が、本当に必要か疑わしいのもある。

 アクアのような強力な力を持った冒険者が在るのなら、態々レシェイアが腰を上げるなどもうオーバーキルだ。

 

 何も無くともこの世界に根を張った者らで協力し成し遂げられる目的を、横から邪魔する事こそ忌避すべき行いだ。

 

(……でも、後ろのアンデッドナイトの大群がなぁ……ちょっとは覚悟しとくべき?)

 

 そうは言いつつも、手を貸す気が無い訳ではなく時と場合によるのも、また分かり切った事。

 人脈は要るからと培ってきた手前普通に心配なのだろう。

 手を伸ばせば届く最良を、自分からはたき捨てるなどソレこそ言語道断の所業だ。

 

「ク、ククク……話は最後まで聞くモノだ。俺は魔王軍幹部、デュラハン《ベルディア》。当然装備もそんじょ其処等のものではない。この鎧には魔王様から授かりし特別な魔の加護があってな。神聖魔法へ確りと耐性を持っているのだ!

 ……だが今のお前のレベルぐらいは聞いても良いか? というより、ここは駆け出しの集まる街なのだよな?」

 

 自信満々に威風堂々としていても、やっぱりアクアの魔法が利いたのは予想外だったか、結構引け腰気味に問うてきた不死者の騎士・ベルディア。

 だがその及び腰も数秒で元に戻る。

 

「まあ良いか……この街に来たのは此処へ強い光が落ちてきたと、軍の占い師が血相変えて騒ぐから調査しに来ただけだ……結局、この街ごと無くしてしまえば万事解決か。おいアンデッドナイト共! コイツ等に地獄を―――」

「そんな事させるものですか! 喰らえクソアンデッド―――『セイクリッド・ターンアンデッド』!!」

ぎゃああああぁあああぁああぁ!!

 

 またも地面をゴロゴロと転がりながら、必死に叫び悶えるベルディア。

 なのにアクアは必死に利いてない、利いてないと連呼するのみ。

 ……本来なら一発で浄化する魔法の使用上、耐えられているという事態そのものが異常なのかもしれない。

 

「この! 台詞ぐらい最後まで…………ええいもう良いわ、かかれ! この街の連中を皆殺しにせよ!!」

「うげっ!」

「「「!?」」」

 

(……やっぱり来たか……)

 

 そして、事態は一気に進展する。

 

 ベルディアが右手を振り下ろしたと同時に、ゾンビ系モンスターの上位系統である、神聖属性が無ければ驚異中の脅威に値するモンスター、アンデッドナイトが大群で押し寄せてきた。

 襤褸(ボロ)の鎧を着込んだ程度とは言えども、駆け出ししかいないアクセルの街では、その厄介さから十二分な脅威となり得る。

 

 皆一様に慌てふためき、プリースト職を求める怒声や、聖水を欲する悲鳴があちらこちらで飛び交い始めた。

 それを愉しむかのように、ベルディアの交渉が響き渡る。

 

「ハーーーッハッハッハッハ!! さぁ! この俺に絶望の声を聞かせて……く、れ……?」

 

 訂正。

 アンデッドナイト達は、何故だか街へは行かずにギュルッと突撃の向きを変える。

 その所為で響いた哄笑は途中で止まり、ベルディアの戸惑うような視線の先には―――

 

「わあああぁああっ!? ちょ、ちょちょちょちょ、ちょちょっ! ちょっとちょっと来ないでよぉおおおおッっ!?」

 

 ―――アンデッドナイト達から一斉に集られ追いかけ回される、アクアの姿が。

 

「何で私ばっかり狙われるの!? 私は神様なのに、女神なのに!! 女神だから日頃の行いだって良い筈なのに何でよおーーーっ!?」

「ア、アクアばかりずるいぞ!! 私だって日頃の行いは良いんだからアンデッドナイトに集られて良い筈だ!!」

(……そんなことばっかり言ってるからじゃない?)

 

 レシェイアの実に尤もな呟きは、しかし心内で呟かれたモノであり当然聞こえる筈も無い。

 

「こ、コラお前達! 何故そんなアークプリースト一人にかまけているのだ! そんな奴は良いからさっさとこの街の者達を阿鼻叫喚の渦に……!」

 

 ベルディアの焦りの命令も、やっぱり届かない。

 もしかするとアクアが本当の女神だから、意思を持たぬアンデッド達は本能的に救いを求め、集まっているのかもしれない。

 

 ……まぁ傍から見れば、日頃好き勝手やっているアクシズ教のプリーストに、バチがあたってザマァミロとしか言えないのだが。

 

 走行している間に打開策を練るべくと、集団のざわめきの中で微かにカズマの声が飛ぶ。

 

「オイめぐみん、エクスプロージョンは撃てるか!?」

「う、撃てますけど、あんな集団の中では巻き込みますし流石に……!」

「カズマさああああぁあぁん!! 助けてええぇえッ!!」

「うげっ! コッチくんな! …………いや、待てよ?」

 

 そこで何かを考え付いたのか、めぐみんに一声かけてから、ちゃんと命令を聞いた数少ないアンデッドナイトと戦闘を行う冒険者達の脇を通り抜け、アクアを誘導しつつカズマも逃げる。

 

 逃げて逃げて逃げ続けて、一体どれぐらいの時間、どれぐらいの距離逃げただろうか。

 

 門を抜け、草原地帯との境目に降り立ち、カズマとアクアはとある方向目掛けて曲がる。

 

 

 その先に居るのは―――――めぐみん。

 

「めぐみん!! 準備は良いか!?」

「バッチリです!!」

「ならやれえええぇえっ!!」

(わ、惨酷)

「ちょ、ま、まだ私が居る―――」

「最高のシチュエーション、感謝しますよカズマ………魔王幹部ベルディア、我が力を見るが良い!!『エクスプロージョン』!!」」

 

 アクアのアンデッド誘因体質を見事利用して、城壁に巨大な罅傷を付けながらも、何とかアンデッドナイトの大群を討伐する事に成功した。

 巨大なクレーターが見事に刻まれ、赤く焼け焦げ、アンデッドナイト達は欠片も見受けられない。

 

「……むぅ…………!?」

 

 これには流石の魔王幹部も、驚きを隠せない様子だ。

 腰を浮かせかけていたレシェイアは、この光景を見てやはり自分は必要なかったと溜息を吐いた。

 

「!」

 

 ―――否。吐きかけて、何故か止まった。

 

 彼女のそんな所作とは裏腹に、周りは超が付いても良いほど盛り上がる。

 転がったアクアこそ無視されているが、結局彼女も加わってお祭り騒ぎだ。

 

「流石じゃねぇか!!」

「やるな頭の可笑しい子!!」

「見直したぜ、頭のおかしい爆裂狂!!」

「格好良かったわ!!」

 

 爆煙を切り裂きあげられた歓声は、少々不名誉な物が多かったが、それでもめぐみんを一様に湛えていた。

 遠めな所為で良く見えず、聞こえないのだが、カズマに背負われためぐみんは何やらもぞもぞ動いている。

 

 ……恥ずかしいというより、ムカついているように見えるのは、恐らく気のせいだろう。

 そうであってほしい。

 

 一方、部下達を全滅させられたベルディアはというと…………何やら肩を震わせており、もしや怒りを抱いたのかと一番近くにいるカズマが恐る恐る振り返った。

 

 ベルディアはアンデッドナイトを全滅させられた怒りを込め、怒声をコレでもかと発し――――

 

「ハハハハハハハハハハ! 我が精鋭たちがこうもあっさりと破られるとは!! 流石じゃあないか紅魔族!!」

「え」

「此処までのやり手が居るのならば……ああ! この剣を掛けても良かろう!!」

「えっ……!?」

 

 ―――違う、彼は喜んでいた。

 喜びながらに、戦士として強者を求む姿勢を見せながらに、驚愕の一言を言い放つ。

 ベルディアの発言で、皆の士気は一気に下がる。

 

 何を言ったのか。

 理解できない。

 いや、理解したくない。

 

 皆の思考がそれで埋め尽くされる中。

 

 そして、“異邦”が故の決意を新たにしていたレシェイアの顔に、言い様の無い『何か』が浮かび上がる中。

 

さあ行くぞ冒険者たちよ!! この俺自らが相手してくれよう!!

 

 ……魔王幹部は、駆け出した。 

 




次回、どうなる……!?

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