素晴らしき世界にて“防”は酔う   作:阿久間嬉嬉

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お待たせしました!

全く爽快感もカタルシスも無い、レシェイアVSミツルギ!

レディー……fight!!


酒酔いと魔剣

 戦闘意欲をコレでもかと増幅させ、闘気を纏うミツルギを前に、レシェイアは内心げんなりしていた。

 闘う気なんて更々ないのだが……次から次へと話を進められた所為で、最早逃げ道をほぼ塞がれた状態に陥っている。

 

 

 闘わないという選択肢はミツルギが許してくれないだろう。しかし逃げようにも馬車がある所為で絶対に追いつかれる。

 

 口での誤魔化しだってもう聞く耳を持ちそうに無く、先延ばしを続ければカズマ達へ多大な迷惑がかかる。

 

 悲鳴を挙げた所で酔っ払いの言動など受け流されるのがオチ。

 

(私自身にも問題があるしねぇ)

 

 かといってやる気など絞り出せもしないのはレシェイア本人が理解している為、本気で闘うなど以ての外。

 加えて相手の実力が曖昧な上、速攻し過ぎると自分の身上を怪しまれる可能性が『大』。

 また例えレシェイアが勝とうと負けようと、待っている結果はほぼ固定されているありさま。

 

 彼女が今口に出せる言葉など『めんどくさい』以外見当たらないだろう。

 自分が行った事を知られていないのを良い事に、他人を笑ったバチがあたったのかと、レシェイアは内心で頭を抱えていた。

 

(まあむこうもむこうで厄介だけど……)

 

 同時にミツルギの融通の利かなさと、過剰な自己完結も重責を乗せる一端だ。

 

 自分の見てきた景色だけが世界の真実で、第三者視点での確証は極端に少なく、オマケにレシェイアを“悪”だのと断定している。

 そしてその悪党へ辿り着かせた証拠は、酔っ払いへの偏見と自己価値観を主軸に置いての照らし合わせしかない。

 最早コレは、自分の強さと立場に酔い、周りがそれを自制させなかった結果だとしか思えない。

 

 しかも本人は善意でやっているのだから、悪党がどうのこうのとぶっ飛ばすワケにも行かず、尚更にタチが悪すぎた。

 よってレシェイアがするべきと考えている行動は一つ。

 上記の確定要素と、起こり得るだろう不確定要素を考慮に入れて『どうやってこの場を損害少なく収めるか』に尽きる。

 

(この人何というか、実力面でも面倒臭そうというか……)

 

 しかしながらそれすら問題があった。

 単純明快《何処まで加減するのか》である。

 

 ミツルギはレシェイアがこの世界で出会ってきた、名を知る人間達の中でも、現時点で一番強い部類に値する。

 だからこそ面倒なのだ。

 モンスターならば力加減などそう考えなくても良いし、自分より弱ければ手加減しまくっても問題はない。

 

 けれどもある一線を越えて強い者は、加減の有無問わず高い技量を要求される。

 彼女の側に立つのならだが、仮に『やってられない』と逃げても咎められなかろう程に面倒な状況だ。

 

 せめてもの抵抗か、俯きながら首をゆるく横に振る。

 ……するとソレを目ざとくミツルギが拾った。

 

「今まで好き放題やって来れて、いざ時が来れば面倒臭いと言うのか? 良く生き残って来れたな貴女は」

 

 鋭い目つきで放たれた、ミツルギによるこれまで行使してきた悪行(推定)への簡素な説教。

 そして呟きの後に付け加えられた僅かな侮蔑の視線。

 

 レシェイアの顔へ明らかに“イラッ”とした物が浮かぶ。

 

「図星みたいだね。それとも、浅ましくも逆ギレかい?」

「………………」

 

 途端、レシェイアの表情が“”に変わった。

 もう別の意味で一杯一杯だと分かる。

 

「あ、そーら……」

 

 いつの間にやら巻き添えを恐れ、離れて行っていた数少ない周りの人達を気にしながらも、レシェイアはそ~っといった感じで手を挙げる。

 どうしても聞いておきたい事でもあったのか、恐る恐る口を開いた。

 

「え~と……ルールとかぁ、ある?」

「負けを認めさせるか、気絶させるかを除けば、何も。後で言いがかりをつけられるのも、ね……だから搦め手でも卑怯な手でも、何でも良いよ」

 

 尤も――と、言いながら剣を捻り、傾きかけた陽光でギラつかせるミツルギ。

 そして溜めた言葉を、目をゆっくり開きながら言い放つ。

 

「どんな卑劣な手段で来ようとも、負ける気なんか……無いけどね」

「……りょーかい」

 

 こめかみ辺りをポリポリ掻きながら、やはりミツルギと対極のやる気加減を見せるレシェイア。

 

 彼女はバックから“とある物”を取り出すと、ダクネス目掛け、バックを片手でポイッと放った。

 ここでボケをかませば碌な事にならないと承知しているが故、ダクネスはしっかりキャッチした。

 

「っぐぅ!?」

「ど、どうしましたダクネス?」

「か、角が当たって……! あ、ああ……なっ、何という幸運!

「……さいですか」

 

 お馬鹿な返しをされて、めぐみんはそれ以上の追及を止める。

 角が当たったのは本当だったが……実のところ、ダクネスは半分ほど嘘をついていた。

 

(予想より……重い……!?)

 

 バッグはトレーニングを欠かさず筋力を上げている聖騎士である彼女でさえ、キャッチの瞬間の衝撃を『重い』と感じる異様な重量を持っていた。

 無論ダクネスとて悠々持てる重さだが、重要なのはそれに伴うレシェイアの動作だ。

 

 中には相変わらずお酒が入っているが、量がとてつもなく多い。

 キッチリ整理してあるためか見た目以上に詰まっていて、酒瓶だけで重さは相当なものだろう。

 

 最低レベルの最弱職(ぼうけんしゃ)にも拘わらず、ソレを普段からヘラヘラ顔で持ち歩き、あまつさえ片手で()()()()()()()()()が如く楽々と……。

 

(私を突き飛ばしたことといい……やはり……!)

 

 けども今話して場をゴチャゴチャさせるのは、脳筋に近い彼女でも望まぬ事。

 だらしなくニヤけた顔を直したり元に戻したりを繰り返して、気分を誤魔化す。

 

 その様子に、やはり何かがおかしいと思っているめぐみんではあるものの……違和感は胸の内に留めて置くことにしたらしく、先程と同じく追及はしなかった。

 

 

「……何だいそれは?」

 

 一方。

 ミツルギもミツルギで、レシェイアが取り出した“モノ”に、少なからず驚き、怪訝な表情を浮かべていた。

 

 だがそれも当然だ。

 濃淡以外の何も無い緑ならぬ『翠』一色。バックラーより多少サイズがありそうな、六角形の盾型ハンドガード。

 刀身すらも厚過ぎる。―――こんなマン・ゴーシュを取り出せば、奇怪だと思っても仕方あるまい。

 

「アクア様、まさかこの人にはアクア様だけでなく、神器を? 確かにアクア様をお守りするのなら、彼女の実力では余りに不甲斐ないとは思いますけども……」

 

 ミツルギの質問に、アクアは片眉をつり上げてはっきりと言い放った。

 

「何言ってるのよ、アンタ馬鹿なの? それが神器な訳無いじゃない。魔力なんか微塵も感じられないし、神気何か言うまでも無いし」

「はい、アレってただの変な武器ですね」

「輝きが鈍すぎる……鉄というよりも骨に近いし、業物という訳でもなさそうだな」

 

 紛れもない本心から不思議そうに発言している辺り、レシェイアを援護している訳ではないのは明らか。

 即ち目の前に有るのは、 “形だけ整えた” か “武器をくっ付けただけ” の贋作。

 頷きようからするにミツルギもそう断定したようだ。

 

「というか私は上級職のアークプリーストよ? 接近戦もイケるっていうのに、護衛が必要な訳無いでしょ! 蛙野郎だって拳一つでノックダウンよ!」

「……すみません、確かに失言でした。今までの事情もそうですし、上級職なのだから当たり前ですよね」

 

 アクアのイエスマンと疑いそうな従順さでミツルギは納得し、後ろの少女二人―――クレメアとフィオは嫉妬の意思を含んだジト目でアクアを見ている。

 恐らく気のせいではあるまい。

 そしてめぐみんとレシェイアに、何の役にも立ってないじゃん? と言いたげな眼を向けられている。

 ……それらも決して気のせいでは無かろう。

 

 

 女性陣の間で交わされる視線越しの有事はつゆ知らず、改めてミツルギは魔剣グラムの切っ先を後ろに向け、更に下段に構え、レシェイアを見据えた。

 開始の合図など無く刻一刻と時が流れて行く。

 

 レシェイアが最初に溜息を吐いた時からもう既に闘いが始まっている事は、この場に居る誰もが理解していよう。

 

『……』

 

 だが両者とも動かず、にじり寄る事すらしない。

 お互いの温度差もあるが、一番の理由は思考の違いにあった。

 

(両手剣と闘った事は何度かあるけど、剣術とか違いあるだろうし……そうなると参考にしない方が良い?)

 

 レシェイアは何分初見の相手故に一旦様子見をするつもりらしい。

 付け加えるのなら、再三感じるミツルギへの違和感から動き辛いというのもあった。

 

 対するミツルギは一向に進まない状況が予想外だったらしく、よく見ればちょっとばかしソワソワしていた。

 もしや後の先や後の後など、カウンターを狙うタイプのスタイルなのだろうか?

 

(おかしい……彼女は明らかに先程の弁を挑発だと誤解して、それにノっていた筈だ。何でかかって来ない?)

 

 全然違った。

 

 しつこい様だがレシェイアはそもやる気が皆無に等しく、自身から攻めるタイプでもないらしいので突出する理由がない。

 

「先手は譲るよ。レディーファーストだ」

「いららい」

「……後悔しないね? 行くよ」

 

 焦れたミツルギの発言に、レシェイアは即答。

 是が比でも攻めて欲しい訳じゃないらしいミツルギはそこで口を噤み、静かに眼を閉じる。

 そうしてレシェイアがマン・ゴーシュを構える様に下げ、ジャリッと砂が噛み鳴った。

 

 ―――刹那。

 

「はあっ!!」

 

 ミツルギの姿が、発声から間断なく掻き消えた。

 同時に何かを叩く音が大きくそして鈍く響く。

 ……かとおもえば、一瞬と表すも烏滸(おこ)がましい内に、レシェイアの約3メートル後方に佇んでいる。

 

「あっ……!?」

「なんと……!」

 

 めぐみんは抑えきれず驚愕の声を挙げ、ダクネスも素直な感嘆の声を洩らした。

 アクアは一応見えていたのか、へぇ~とでも言いたげな顔で二度ばかり頷いていた。

 少し遅れて吹き荒れた突風で砂煙が発生。

 レシェイアの姿が見えなくなり、ドサリ……とも聞こえる何かが耳を付く。

 

 めぐみん達が身を乗り出すその傍ら、クレメアの目には当然といった色が浮かび、フィオは何かを期待する様に眼を輝かせている。

 

「心配しなくていい。加減はしてあるし、峰打ちだ。側面だから本当の意味とはちょっと違うけど」

 

「速い……そして、正確な一撃だな……!」

「これぞソードマスター……とでも言うべきですか」

 

 そのまま振り下ろしていた魔剣をくるりと一回転させて鞘におさめ、ミツルギはアクアの方へと爽やかな笑みを浮かべて振りむいた。

 

「勝ちましたよ、アクア様」

 

 ミツルギの柔らかな視線を受けて、アクアは胸元へ手をゆっくり、優雅な所作で持っていき…………

 

 

え? まだでしょ?

「……はい?」

 

 手をアゴに当てて、(さす)りながら首を傾げた。

 彼女以外の全員が言葉の意味を理解できなかったようで、手こそ添えないものの皆一様に同じ仕草をしている。

 

 そんなミツルギ達には構わず、アクアは砂煙の中をチョイチョイと指さした。

 煙の中には人影が見える……それが誰かなど間違い様も無い。

 

うん、まだらよ?

「「「はい!?」」」

 

 煙が晴れると同時に見えたのは、レシェイアが普通に立っている姿だった。

 よく見ると右手を左肩側に突き出しており、受け流していたのだと窺える。

 ドサリという、倒れる様な音は地面に落ちている奇妙なマン・ゴーシュが上げたものだろう。

 

「まさか見切られるなんてね……」

 

 ミツルギ自身はそう判断したらしい先の一幕。

 しかし傍で見ていたカズマ側の者達、特にめぐみんの内心はあまりに異様だと戦慄(わなな)いていた。

 

(おかしいでしょう、何でそれだけなんですか!? アレほどの大音量です、あのスカしたエリートは手加減でも相当な力で叩いて……加えて職業補正もあるなら、受け流す事それ自体が無理で……!)

 

 アワアワと口を震えさせる彼女とは違い、ミツルギは己に過失があったかと構えを変更してきた。

 先までと異なる部位を狙うつもりなのだろう。

 

「なるほど。一定の実力がなければ弱みも握れず、優秀な彼女達が従う筈も無いものね」

「あのさ」

「ここから僕も本気を出そう! 魔剣の勇者・御剣響夜の本気を!!」

「……」

 

 その台詞に口を閉ざしたレシェイアは、落ちたままのマン・ゴーシュを拾い上げて軽く正面に掲げた。

 

 されど彼女の所作を見たミツルギの表情へ、何故だか幾分かの余裕が生まれる。

 更に後方のクレメアはアチャ~といった少しニヤけた表情をし、フィオに至っては勝負は決まったとばかりに軽くガッツポーズをしていた。

 

「あ、レシェイア! その痛い人の魔剣は―――」

 

 アクアにはその所作の意味が分かっているらしく、手で輪を作り呼びかけようとして……その前にミツルギは地を蹴り、レシェイアの1m手前に出現する。

 

「せぇあぁっ!」

「む」

 

 振り下ろされる剣に対し、レシェイアは防御すべくマン・ゴーシュを掲げた。

 そして魔剣グラムの刃と、翠色の盾が打ち合うギリギリまで迫った―――その途端。

 

「おっと……!?」

 

 一瞬金属音を鳴らして、レシェイアは思い切りマン・ゴーシュを後方に引き、体を半身にして数歩ミツルギから距離を取る。

 

 件のミツルギは剣を構えなおすとレシェイアへ向けて不敵な笑みを浮かべた。

 

「女性の勘は恐ろしいモノだね。初見で見抜かれるとは思って無かったよ」

 

 それに一拍遅れ、アクアが大声で言い損ねた分を、彼自身が付け加えて来た。

 

「女神アクア様より賜りしこの魔剣グラムは、装備した者へ人間の限界を超えた膂力を与え、岩石だろうと鋼鉄であろうと紙同然に切り裂ける。エンシェントドラゴンすら一撃で葬ったこの剣の前には、防御なんて無意味だよ」

「ちなみにその人専用でもあるから、レシェイアが奪っても使えないからねー」

 

 どっちに味方しているのか分かりずらい台詞はそれ故にミツルギへの応援とも取れ、彼はより士気を高めて行く。

 

 俯き、マン・ゴーシュを眺めながらもちゃんと説明を聞いていたレシェイアは、明らかに『ヤバい』と言いたげな表情だ。

 チートにも程があるその剣の実在が信じられないらしく、マン・ゴーシュと魔剣の間で、目線を絶えず行き来させている。

 そして漸く魔剣グラムの方で固定された。

 

下手すると折れる……!

 

 呟かれたその言葉は聞き取れないものの、恐らく焦りの台詞で相違なかろう。

 盾を持っているのに、“斬られる”ではなく“折れる”、と聞こえたのが気にかかるが……。

 

「まだまだ行くぞっ!!」

「え、ちょ……」

 

 前後左右に目まぐるしく移動しながら、ミツルギは次々剣撃を打ち込んでいく。

 

「はっ! やっ! せやあ!!」

 

 乾竹割を右から、下段切り上げを真正面から。

 かと思えば反時計回りに1転しながら、瞬時に袈裟掛けに斬りおろす。

 更にまたも切り上げ……僅かな溜めを入れてから横振り。

 剣尖を使った一撃は尚も鋭く、思い切り良く薙がれる。

 

「わ、ちょ、まずっ……!」

 

 対するレシェイアも見事な物で、受け止めたかと思うとすぐ受け流し、または体を半身にしながら脚を下段へ突き出して牽制し、リンボー回避から片手で跳躍しつつ距離を取る。

 胸中でつぶやいた『防御が得意』宣言も事実なようで、慣れているのが窺えた。

 

 早々斬られる事は無かろう。

 なのに、何故焦っているのだろうか。

 

折れる、折れるって……!

 

 しかもまた聞こえる “折れる” の単語。

 魔剣グラムの力からして “斬られる” が正しい筈だ。恐らく、間違えるぐらい焦っているのだろう。

 

「逃げる事だけは一人前なのか? 掛ってきたらどうだ!」

「アタシは防御専門なんらってば!」

「見苦しい……言い訳をした所で、事実が変わる訳でもないんだぞ!」

 

 地味にこんな状況でもホロ酔うレシェイアだったが、言葉へ強い感情が込められているあたり、焦燥に駆られているのも事実。

 加えてやる気ゼロの状態から発進した所為で、ギアを挙げるのにかなり手間取っている印象だ。

 

 最初の戸惑いもどこへやら。ミツルギの顔にはすっかり余裕の笑みが浮かんでいた。

 

(よし、ここで確実に……)

 

 ミツルギはより力強く踏み込み、派手な音を打ち鳴らす。

 そのサウンドに(たが)う事無い俊足にて、レシェイアの斜め前へ現れた。

 マン・ゴーシュで僅かでも、死角が生まれているだろうその位置へ。

 

 ギュッと鍔近くで柄を握りこみ、柄尻を使った打撃が叩き込まれる。

 脇腹を狙ったその一撃は、気絶させるのに十分な力を含んだ一撃。

 当たったが最後、意識を狩り取られるに違いない。

 

 

「邪魔」

「へぶっ!?」

 

 無論“当たれば”である。

 レシェイア自身、死角を突いてくる可能性は織り込み済みだったようだ。

 

 結果、至近距離まで寄っていた所為もあり、ミツルギは平手をダイレクトに食らう。

 行き成りすぎた為か、無表情のまま転がっていくというシュールな絵面が生れる。

 かなり痛ましげな音を挙げながらも、双方のコンディションが絶妙に影響したらしく、頬は赤く腫れるに留まっていた。

 

 すぐに互いに距離を取り、お互いのパーティメンバーの近くに陣取って様子見を始める。

 

「キョウヤ!?」

「だ、大丈夫だよクレメア。痛いだけだって」

「ほっ……」

「後で治療するからね! ……何なのよ、あの女!」

「許せない、ホント!」

 

 ラブコメ一歩手前なやり取りが行われるミツルギ陣営。

 

「ものっ凄いスカッとしました。それと―――」

「勘違いされ続けたまま加減して終わるのは良くないと思うの。だから―――」

「寧ろだ。御前は被害者なのだから、つまり―――」

「うーん……元よりぃ、ヤル気が無いんらけど……」

『大丈夫!』

 

 何やら怪しげな現レシェイア陣営なカズマ陣営。

 

「よし!」

「しょーがないれぇ」

 

 二人は歩き出す。

 ミツルギは仲間の信頼の激を胸に主人公の如きキリッとした眼差しで。

 レシェイアはある一つの覚悟を胸にした多少はやる気のある眼差しで。

 

 同時に数歩、数歩とまた詰め寄り、歩く速度も次第に遅くなり、同じタイミングで一歩踏み出した……それが次戦開始の合図だった。

 

「ああああっ!! ―――せいっ!」

「っと……」

 

 ミツルギは極シンプルに、右肩から袈裟掛けに斬り降ろす。

 

 

「やっ! はあっ!」

 

 半月を描いた剣は本人が回転しながらの横薙ぎに変わり、追加とスコップで掘り起こすかの様な動作で同軌道を戻っていく。

 

「あい?」

 

 コミカルな斬撃に多少ながら体勢が崩れた……その時を、ミツルギは待っていた。

 

「はあああぁあああっ!!」

 

 構えから即座に突き出される魔剣グラム。

 途轍もない気迫を伴い、レシェイアの顔面目掛けて、閃く刃が襲いかかってくる。

 これにはアクアとめぐみんの顔も青ざめ、ダクネスも庇うべく身構えた。

 

 だがレシェイアはさして驚く事も無く、スィッと軽く屈みながら左にスウェー。

 軸を移動させ、スムーズにミツルギの真横へ位置取り。

 そして突き出された剣は―――先まで彼女の眼があった場所の、ギリギリで寸止められていた。

 

「う……えっ?」

「お!」

 

 息つく間もなくレシェイアからの掌底が叩き込まれた。

 まるで対処すらしておらず、脇腹にクリーンヒット。

 

「ふんぐっ!?」

 

 状況にそぐわぬキテレツな声を上げてミツルギはまたも転がる。

 鎧を着ているからといっても当然隙間や薄い部分はあり、そこをモロに打たれたらしい。

 意外と痛かったようでプルプル震えながら立ちあがった。

 

「く、くそっ見誤」

「ドーン」

「ごおっ!?」

 

 瞬間に顔面を殴られた。もう一度弾かれ、後転しながらより遠ざかっていく。

 まあ吹っ飛ばしただけなのだから、これぐらいは余裕があって当り前である。

 

「クッ……レホイ・レシェイア! 不意打」

「もいっぱつっ」

「へぶらぁーー!?」

 

 喋くっていたからかまた一発貰い三度跳んではゴロンゴロンと転がって行く。

 どちらもそれなりに真面目にやっているのだが、微妙にかみ合わないせいで若干コントの様になっている。

 

「まだ、まだまだぁーっ!!」

「わ……!?」

 

 そんな可笑し気な状況は……されども不意に一変した。

 地面を激しく叩いて起きあがり、ミツルギが血気を込めて咆哮する。

 同時になんと魔剣グラムが青く輝き始めたではないか。

 

「僕はアクア様を救って見せる!! いや、こんな理不尽な状況から、救わなければ行けないんだ! あなたの様な私利私欲ばかりを重んじ、酒池肉林を地で行く、他者を道具としか思っていない人間に何か渡せない!!」

どんな悪人なの、アタシ?

「才能だけに頼り切って何もしない、典型的な愚か物に! アクア様から勇者と激励されたボクが、負ける訳にはいかないんだっ!!」

「いや多分アクア、それ適当に言ったんらと……」

 

 そして、レシェイアが吊られてツッコんでしまったのと―――。

 

「レシェイア!! それは武器の射程を強化するソードマスタースキルだ!」

「へ?」

 

 ダクネスの悲鳴に近い声が重なったのは、ほぼ同時。

 

「『スラッシング・クレイモア』!!」

「おととっ……あ」

 

 流石に斬れては不味いと剣の腹で脚を狙って来たミツルギに、レシェイアは跳躍して対処して、すぐ“失敗”を悟る。

 リーチを強化した剣線相手に、レシェイアはそれなりの高さまで跳んでしまったのだ。

 

 上から抑えつけようとすれば、刃部分に当たる所為で危険な以上こうするしか無かったのだが、彼女は選択を間違った。

 

「これで、終わりだああぁ!!」

 

 裂帛の怒声から横殴りに叩き付けられる魔剣グラムを前に、レシェイアは成す術など無い。

 膂力が上がっているのなら、防御など斬られるか否かに問わず無意味なのだから。

 下手に迎え撃てば怪我を負うなど必定だ。

 

 なのにレシェイアはそこそこの期間を闘ってきた所為か、それとも防御自慢の性からか、思わずといった感じで咄嗟に盾を構えてしまった。

 

「レシェイアっ……!」

 

 今度こそ本当に危ない。

 ダクネスはそう判断してせめて受け止めるべく落下予測地点へと猛ダッシュする。

 それでも遅く、途中でアクアの支援魔法によりスピードが上がっても間に合うかどうかが分からない。

 めぐみんは、慌てふためくのみ。

 

「いっけええぇ!!」

 

 無慈悲なその一撃が、遂にレシェイアの構える盾を“バキャッ!”と派手な音を伴って捉えた。

 それは決して肉を切る(きわ)のモノなどではない。

 

 続いて耳に聞こえて来る、ヒュンヒュン! と何かが空を舞う音。

 サクッ、とした何かが突き刺さる音。

 

「悪いけど、君の武器は……破壊させて貰ったよ。恐らくその武器に秘密があったんだろう。僕の攻撃を見切る、秘密がね」

「あっ……」

 

 この状況ですら、ミツルギは剣筋を曲げていたらしく、余裕たっぷりに告げて来る。

 音源の正体とは勿論レシェイアの―――――。

 

 

 

 

あの、盾の破片がサクッて刺さりますっけ?

「え?」

 

 ―――いや、少し待って欲しい。何だかおかしい。

 

 めぐみんが言った通り、盾の破片が飛んだ所で刺さる訳がなく、マン・ゴーシュの刀身部分も厚過ぎるので実現は不可能。

 何より音は “スパン!” でも “ガスッ!” でもなく “バキャッ!” としたもの。

 明らかに()()()()()()音であり、レシェイア以外の皆の目線がそちらへと集中する。

 

「……アレって剣の破片っぽくない?」

「というかこの上なく剣だな」

「剣ね」

「うん剣みたい」

「で、この場だと当てはまるのは一つね」

 

 そしてミツルギの持つ魔剣グラムへと、物凄く気まずそうに目線を逸らしたレシェイア以外の瞳が突き刺さり……。

 

「あ、魔剣折れてる」

 

 七人中の誰かが平坦に、ぽつりと言い放った。

 

「ぼぼぼぼぼぼ僕の魔剣!? 僕のま、魔剣ーーーーーーっ!?」

 

 非業なるミツルギの絶叫が響く。それはもう悲壮感たっぷりだ。

 

「三分の一ほどポッキリ行ってます」

「全部じゃないなら良いわね」

「……まぁ、いい薬になった……んらね?」

「うむ、そうだな。それで良いぞレシェイア」

「ニャ、ニャハハ、ニャハハ、ハ……」

 

「笑うなあああぁッ!!!??」

 

 もうシッチャカメッチャカになってしまい、余裕をコレでもかとかなぐり捨てて、ミツルギはレシェイアへ向けて突進してくる。

 

 流石に不意を突かれたのか、背後のアクア達含めて驚いた表情へと変わる。

 怒りにまかせて振りかぶられた剣はもう誰にも止められない―――!

 

 

 

 

 

「『スティール』!」

「へ」

「からのドーン!!」

「はふん」

 

 止まった。




……はい、魔剣折れちゃいました。

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