アクア「「ははははははははは! 自然の摂理に反する存在、けがらわしき邪悪なるアンデッドの大本、リッチー! 神の意思に背く外道は、この女神アクアの名の元に綺麗に浄化してあげるわ! あはははははははは!!」
レシェイア「はい終了っ!!」
グバッ! ←拳がめり込む音
アクア「―――――」 ←悲鳴にならざぬ悲鳴
バグオオッ!! ← 墓石を次々砕く音
ピューーーッ…………… ← アクアが飛んでいく音
カズマ「ア、アクアが水平に吹っ飛んだああぁアァアァっ!?」
めぐみん「おおおお星様になっちゃいましたああぁああッ!?」
ダクネス「私にもどうかその一撃をオオオォォォォオオッ!!」
ウィズ「……ふぇ?」
レシェイア「あ」
……では本編をどうぞ。
レシェイア「……お酒飲んで忘れよ☆」
アクア「ビドブィッ!?」(訳:酷いっ!?)
どうも皆さんこんにちは。
アホの子、爆裂ロリ、ドM騎士、三馬鹿揃い踏みなパーティーのリーダー・カズマです。
本日は雲一つない青空が広がり、いわば快晴と言っても偽りない良き日和。
鳥のさえずりが耳を優しく通り抜け、冒険者達の声が興奮で心奮わせ、武器や鎧の擦れる音が微かに緊張感を齎してくれます。
ああ、何時もこんなに平和だったらな……そんな風に、思ってしまう今日この頃です。
「俺は、つい先日この街近くの古城にひっ化してきた、魔王軍幹部の者だ……!!」
―――すいません嘘つきました、現実逃避してました。
今絶賛ピンチです。
窮地の真っただ中です。
―――そもそもの発端は、キャベツの報酬を受け取った一日後、一週間前まで遡る。
魔王幹部の所為でモンスター討伐クエストが受けられない状態に陥った俺は、やる事も無く街をぶらついていた。
ここから来月までどうしようかと考えて居たその時、めぐみんがこう言いだしたのだ。
“私の
俺が最初に聞いた直後、バカみたいな表情を晒したのは言うまでも無い。
単語とルビとがミスマッチ起こしてんじゃねぇか、と。
…………詳しく聞くと、めぐみんは一日一回必ず爆裂魔法を撃つ事を日課としており、戦闘であろうが何であろうが撃たないと落ち着かないんだと。
で、少し前まではアクセルの街の近辺で爆裂魔法を撃っていたのだが、苦情が殺到し衛兵にこっぴどく怒られ、平原を前に撃つのは止めたと、めぐみんはしょんぼりしながら言っていた。
……俺にしてみれば、衛兵や街人の方に同情するが。
しかし、遠くへ行くにしたって、一発撃てば倒れてしまうので危険が高すぎる。
即ち、背負って帰る相手が欲しいのだとか。
今までは背負ってくれる人が一応はいたものの、今はパーティーメンバーが居るのだし、バイトで余裕の無いアクアや、筋トレをするとか言って実家に帰ったダクネスには気が回せず、よって俺にお鉢が回って来たという訳らしい。
兎も角めぐみんの悶々とした気分を解消するため、そして俺は暇つぶしになるため、その頼みを引き受ける事にした。
街近くで撃つと衛兵に怒られるのは承知なので、俺は渋々散歩ついでにと遠出をし―――その途上で、大きな古城を見つけたんだ。
盛大に破壊しても誰も文句は言わなそうだし……興奮して杖を振り回すめぐみんへ俺も賛同して、その古城を目標に決める。
で、長閑ま空気を一瞬で切り裂く爆音を轟かせ、その日の日課は終了したって訳だ。
その日から、早朝、夕方、午後、食前、晴天の
兎に角古城まで向かって爆裂魔法を打ち込み、めぐみんを抱えて戻る事を、一週間ぐらいは続けてた。
それはもう、爆裂魔法の制度や良さが俺にだって分かるまでになるぐらい、しつこくしつこく続けていた。
―――今考えてみれば、魔王幹部が古城に来ているという情報と、どの方角に一番モンスターが出没し辛くなっているかを記すマップとか、何でその中身を思い出さなかったのだろうかと……自分の馬鹿さ加減に腹が立つな
そしてその馬鹿さ加減が古城に住んでいた、一人の魔王軍幹部の、鈍色の甲冑を着込んだ騎士。
頭を左わきに頭を抱える、コレまた魔物の中でも代表格な存在・デュラハンを呼び出すに至り、ギルドの冒険者呼び出しアナウンスを受けて今ここに居る訳だ。
折角アクアのバイトも早めに切り上げられ、ダクネスも久しぶりに帰ってきて、パーティーが揃ったと思った途端にこれとは。
……いや、十中八九、意図的じゃあないとはいえ挑発ばっかしてた、俺等に非があるんですけども……。
「何なのだ!? 誰なのだ!? お、大馬鹿者は……ままま毎日毎日飽きもせずにばっ、爆裂魔法を打ち込んでくる頭のおかしい大馬鹿者は!! だだだ、だれ、だっ、誰なのだああぁああああぁッぁああっ!!」
……そりゃあもう、体をぶるぶる振るわせて、壊れたステレオコンポでも思い起こさせる様な、ドモり気味な絶叫をほとばしらせてる。
ずっと耐えていた感情を、たった今我慢の限界が来て、一気に噴き出して爆発させたみたいに。
けど当然、俺ら以外事情を知らないもんだから、皆きょとんとして理解が追い付いていない。
さて、呼び出された原因は分かったものの……これから、どうすりゃいいんだ……?
「今、爆裂魔法って言ったか?」
「ああ確かに言った。でも爆裂魔法を使える奴なんて」
「一人しか、いないよな……」
「というか爆裂魔法っつったら、もうあの子だろ」
呟きがドンドンと広がって行き、自然と俺の隣に立つめぐみんへ向けて冒険者達の視線が集まる。
「……」
めぐみんは何かしらの弁解をする事も無く、フィッと顔を逸らして自分の隣に居た女性を見る。
俺もつられて其処へ視線が向いてしまい、結果みんなの視線がめぐみんから女性へと―――――
「んぅ? 何でアタシ見てるろぉ?」
「ってレシェイアじゃねぇか!」
「ジョブは冒険者だし、魔法スキル取ってないだろ!?」
「そもそもエクスプロージョン何か使えない人じゃない!」
「なに罪押し付けてんだよオイィ!?」
……そして総スカンを喰らってやがった。
当たり前だ、往生際の悪い。
「……うぅ……」
「諦めろ、めぐみん……」
コイツもコイツでとっくに何が原因かなんて気が付いているらしく、冷や汗を流しながら呻き声を洩らす。
やがて深く溜息を吐くと、覚悟を決めたように一歩前へ出た。
と……
「ストップ。めぐみん、一緒に行くらよ?」
「え―――」
ポンポンと肩を叩いてから、レシェイアが小さな声でそんな事を言いだした。
コレにはめぐみんも驚愕せざるを得ず、俺だって目を丸くして言葉を失ってしまう。
「体力には自信あるかられ~。それにリッチーを
「無論私も行くぞ。仲もを守る事こそがクルセイダーの務めであり、そしてエリス教の聖騎士であるからこそアンデッドに背を見せてやるなど有りえない」
「ま、レシェイアの言う通り、いざとなったら私も要るしね。あんなザコアンデット、一発で消してやるわよ」
……うわぉ、俺の知り合いの女たちの頼もしい事。
まあ俺も着いて行く気だったけどな……だって原因の一端俺だし。これで見て見ぬふりってのは色々とキツイ。
そうやってめぐみんを先頭に、隣にレシェイアが、少し後ろをダクネスとアクアと俺が着いて行き、街の正門前に佇むデュラハンの十メートル程前で立ち止まる。
空気を呼んでくれたのか、それともこんなに怒り狂うアンデットが珍しいだけなのか、あのアクアも大人し気だ。
すぐ近くまで来た俺達を―――正確にはアークウィザードであるめぐみんを見て、デュラハンは体をプルプル震わせ、鎧をカタカタ鳴らしつつめぐみんを指差し更に叫ぶ。
「お前か……!? お前が、お前がっ……! ……懲り無くポンポンポンポン! 爆裂魔法を打ち込んでくる頭の中がどうしようもなく狂っているとしか思えない大馬鹿者は!? 俺が魔王幹部と知っての攻撃ならば堂々と城へ挑みにくれば良い……その気が無いのならば街で恐怖に震えていればいい! 何もしないのならば、俺とて今回は闘いに来た訳でもなく、何の行動も起こさないのだ! それなのに……………!!」
脇に抱えた頭部から、相当頭にキているのかギリリと歯を食いしばる音が、俺の耳にすら確かに届いた。
うん、察してたけどね? やっぱりマジでガチギレ状態だわ、コレ。
「なのにっ! 毎日飽きもせずに我が古城へエクスプロージョンの雨霰! なぁ、何故にこんな嫌がらせをするんだ!? 低レベル冒険者しかいないからと放置しておけば調子に乗りおって!! やっぱり頭可笑しいんじゃないのかそこな爆裂娘ぇっ!!」
正直に言って、
が……売られたケンカは買うのが紅魔族、と言った所もまた変わらない訳で。
「フッ、我が名はめぐみん! 紅魔族随一、そしてアクセル随一の魔法使いにして、最強の位置を不動のものとする、爆裂魔法を操りし者っ……!!」
俺達と出会ったときにもやった、正直恥ずかしいんだか呆れるんだかよくわからん自己紹介を、どうどうと決める。
数秒、数十秒と時が流れ、やがてデュラハンの方が口を開いた。
「……なんだめぐみんて、馬鹿にしてんのかお前」
「ち、ちがわい!?」
だよなー、普通はそう思うよなー。
でも残念ながら、大真面目なんだよなー……。
「ゴホン! ……貴方の城へと魔法を放ち続けていたのは、こうやってこの街に貴方をおびき出す為の策! 幾ら駆け出しの街とは言えど大勢の冒険者が集っているこの地に、まんまとおびき出してやったのです!」
杖を突き付け、乗りノリでそう言い放っためぐみんに……俺達は後ろでボソボソ会話を交わす。
「……何で作戦になってんだ。アイツが駄々こねたから爆裂魔法打ちに行っただけなのに」
「しかもさりげなく、この街随一の魔法使いになっているな」
「あれよ、今日は魔法撃ってないし後ろに人も沢山いるから強気なのよ」
「うは! なっさけ無いれぇめぐみん! ペテンも過ぎれば大恥かくらよぉっ」
一人だけ大声で発生した所為か、めぐみんの顔が赤くなった。
でもデュラハンには届いていなかったみたいで、納得した様に少しばかり怒りを納めている。
「紅魔のものか……なるほど、その珍妙な名前はオレを馬鹿にしていた訳ではなかったと」
名前に文句をつけられてヒートアップし、真っ赤になって憤るめぐみんとは対照的に、デュラハンは何処までも冷静なまま。
けどそれは当たり前だ。
何せここは駆け出しの集う街だし、相手は魔王軍の幹部、なら警戒なんてそもそもする必要が無い。
「兎に角、先にも行ったが俺は貴様等に用など無い。ある調査の為に来たのだ。暫く城に滞在するが故、もう爆裂魔法は使うなよ?」
「それは私に死ねと言ってるも同義なのですが。なにせ、紅魔族は爆裂魔法を一日一回撃たないと死ぬんです」
「ありゃ? ならあのおさげな紅魔族のおじょーちゃんは何れ死なないの? ゆんゆんとか言う名前らったんらけど、爆裂魔法を撃つとこ一回も見た事無いんらけど?」
「……影で爆裂魔法を撃っているからです」
「れもさ~、アタシが来てから数日後に響きだし、変な爆発音は、毎日一つずつだったんらけど?」
「…………その日まで偶々重なっていたのでしょう」
「れもさぁれもさ―――」
「如何でも良いわ!! 嘘だという事などくらい理解している、俺は其処まで馬鹿ではない!! あと取り繕えなくなるなら嘘など吐くな!!」
多分めぐみんの奴、レシェイアの追及でだんだんと眼が泳いできたんだろう。
で、その事を正面に居るからこそ、デュラハンの奴に一番に見抜かれたのか。
……だからって、状況は全く好転しねえけど。
ダクネスは敵意に視線を向けたまま不動の構えだし、アクアの奴はウキウキしながら事の成り行きを見守っている。
レシィエアは、酔っててやっぱり分からん。
そうなると、真面目に、そして穏便にどうにかしようと考えているのは……恐らく俺だけ。
なけなしの知恵を振り絞ってどうにかしようと考えていると―――デュラハンが抱えていた首を、肩と同時に器用にすくめて見せる。
「今までの話を総合して理解したぞ。どうあっても、爆裂魔法の放出を止める気はないのだな?」
「無論、言うまでもなムググ」
「はいはいりょーかい…………ヒクッ」
余計な事を言うなとばかりに、レシェイアが呆れ顔でしゃっくりしながら、めぐみんの口を押さえる。
手遅れだけども。
っていうか、しゃっくりも十分余計な事だけども。
「俺はアンデッドに身を堕としたとは言え、元は騎士の身でな、弱者を狩る気など毛頭無い。だが……これ以上迷惑行為を働くというのならば、此方とて容赦はしないぞ?」
先程の純粋な怒りが、近所迷惑な若者を叱る年配者のような雰囲気が消えうせ、剣呑な空気を纏い始めやがるデュラハン。
めぐみんもこれには耐えきれないみたいで、おっかなビックリと一歩下がってしまう。
……でもレシェイアは動かず、俺はちょっとビックリしたが、何か影響を及ぼした訳でもない。
しかしめぐみんの表情は、次の瞬間には不適な笑みへと変わった。
「迷惑なのは此方とて同じ! あなたがあの城に居座る限り、私達は碌な依頼が受けられないのですよ! それに余裕ぶってられるのも今の内……と言う訳でアクア先生! お願いします!!」
って結局人任せかよ。
いや、しょうがないのは分かってるけど、自信満々に人任せかよ。
……俺でもそうするとはいえ!
「もう、仕方ないわねぇ? でもまあ魔王の幹部だかなんだか知らないけど、アンデットなんてちょちょいっと退治してやるから、ドーンと任せておきなさい! それに力の弱まる昼に出て来るとか、愚かにも程があるこんなアンデッドはもっと楽勝よ……覚悟しなさい!!」
大嫌いな敵対種族を浄化できることと、めぐみんに先生と呼ばれてまんざらでもないからか、アクアの奴は何時もよりもっとやる気満々に前へ出て来る。
何時も早く立たずだけど、ウィズの件もあるし確かに頼りになるな。
……どうかすぐ『ターンアンデッド』だけ唱えて、変な事しませんように。
「ほう……貴様、プリーストではなくアークプリーストなのか……。だが、コレでも俺は魔王幹部の一人。こんな街でうろつく低レベルのアークプリーストなど、歯牙にもかけん自身がある。しかし何もせずに帰るのも滑稽よな……ならば!!」
アクアが呪文を唱える世に早く、デュラハンが手を突き出す。
刹那、背筋に走る、ゾクリとした不気味な感触が……!
「汝等に死の宣告を! 彼女等は、一週間後に死ぬであろう!!」
「やばい、呪いだ!!」
その手はめぐみんとレシェイアの前で、素早く往復する。
俺は咄嗟に叫ぶも、時すでに遅し。
「っ!!」
「だ、ダクネス!?」
「にゅお?」
そしてダクネスがめぐみんとレシェイアの襟を掴んで後ろの放り投げるのと、
ダクネスの体が一瞬黒く光った事、
そしてもう一つの黒い光がレシェイアの前で弾けたのは……ほぼ同時だった。
「ダクネス!? 無事か!?」
「あ、ああ……何ともないが……」
だが俺は、俺達は聞いている。
一週間後に死ぬであろうと、デュラハンが叫んだ事を。
そして体が黒く光ったのが見間違いじゃないとするなら……めぐみんをかばったダクネスと、そして先の光からするに此方も掛けられたのだろうレシェイアは―――
「ああ、今は何ともない。少しばかり予定違いではあるが、しかしこの方が紅魔族の娘にはより苦痛を与えるだろうな? ……紅魔族の娘よ、其処のクルセイダーと冒険者は一週間後に死ぬ。お前が下らん意地を張った所為でな。……精々死の恐怖におびえる仲間を見ながら、自分の仕出かした事を重さをかみしめるが良いわ!! 俺の言う事を素直に聞けばよかったと、後悔するんだな!! クハハハハハハハ!」
「そん、な……ダクネスが……レシェイアまで……!?」
青ざめてブツブツとつぶやき、膝をついて絶望するめぐみんを、デュラハンの奴は満足げに見降ろす。
レシェイアは受け入れ難い真実を突き付けられたからなのか周りを見渡していて、そして止めとばかりにダクネスが悲痛な喚きをあげた。
「なんと……つまり、つまり……呪いを解いて欲しければ貴様の言う事を聞き、辱められろと、そう言う事だな!?」
……こんな状況でも何時も通りなのかよ、このドM。
理解したくないのに理解出来ちゃってるよ、如何してくれんだこの野郎。
「えっ」
しかもデュラハンの人何か困ってるし!
いや、そりゃ困るよな……行き成り恍惚として悶えて、変な事口走れば。
「……アタシ、流石に辱めとか嫌なんらけど」
レ、レシェイアが無表情で返してる! ダクネスの方本気で睨みながら言ってる!
……うん、まあそれが普通なんだけど。
「くぅっ……カ、カズマ! 私達は呪いになど屈しはしないぞ、ああ屈するモノか!! 見よ、その兜の下から除く、変態オーラが滾々とわき得るいやらしい眼を! このまま城へ連れて帰られれば、呪いを解いて欲しくば言う事を聞けとハードコアな要求をされるに違いない!! ははは、ハードコア、ハードコアぁッ……♡」
「えっ……」
「変態ってぇのはそっちじゃあらいの? てかそっちれしょ?」
勝手に変態認定されたデュラハンさんが困ってる、もう超困ってる。
つーかもう完全にレシェイアが“無”だよ、酔ってるのに酔いの痕跡全くないよ。
「この体は好きに出来ても、心まで堕とせるとはゆめゆめ思うなよっ……! ああ、予想外に燃えるシチュエーション、行き成り振って来たこのシチュエーション……!! 行きたくはないのだが、ああ本来は行きたくなどないのだが、呪いの手前仕方ない!! ギリギリまで抵抗してやるぞ……では、行ってくるぅ!!」
「えぇっ!?」
「もうやめれ」
もう完全に引いてるデュラハンの元へ、目をグルグルにして行こうとするダクネスを、レシェイアが妙にすわった瞳を向けつつ肩を掴んで止めていた。
何この混沌。
「と、兎に角!! そこの二人の呪いを解いて欲しくば、我が居城へ来い! 俺のいる部屋までたどり着けたのならば呪いを解いてやる! ……まぁ、アンデッドナイトひしめく階下の激戦区を、通り抜ける事が出来たのならば、だがな? ……クハハハハハハハハ!!」
デュラハンは哄笑一つ上げると、首なしの馬にまたがり、古城の方角へと消えて行った。
……後に残された俺達に出来るのは、茫然とたたずむ事だけ。
微妙な空気ではあったものの、しかし命の危機が迫っているのは事実なんだ。
……ガチで、どうしろってんだよ。
ん? めぐみんのやつ、杖握りしめて震えて―――って、
「おい、何処行く気だよ!」
「あのデュラハンの元へ、です。今回は私の責任で、パーティーメンバーのダクネスは勿論、知人であるレシェイアすら巻き込んでしまいました。ならば、私が示しを付けなければならないのです。爆裂魔法をぶち込んで、呪いを一発で解かせてやるのです」
……全く、コイツは。
「俺も行くに決まってるだろが。お前じゃあ、一発魔法撃ったらそれで終わりだろ?」
「カズマ……」
「それに俺も、城を見かけながら何にも疑わず支持しちまったわけだし……責任取らなきゃな」
俺の言葉に、最初こそ顔を渋い物へ得ていためぐみんも、自分の事を分かっているからこそ否定できなかったか、諦めたように頷いた。
「ええ、一緒に行きましょう。……ですが、城はデュラハンの言う通り、アンデッドナイトの巣窟です。こんな時だからこそ、私の出番でもあるのですよ」
「なら、俺は敵感知スキルと潜伏スキルを活かして、アイツへ一直線に向かわせてやる。それが厳しいなら、毎日一回ずつ内部へ打ち込んで数を減らしてやろうぜ。一週間はあるんだ、ギリギリいけるかもしれない」
「……はい!」
ああ、希望はある。まだ希望は繋がってる。
やってやるさ……パーティーメンバーの為、そして親しき人の為、勇気ぐらい振り絞ってやるよ!
「ダクネス、レシェイア! みてろよ、俺達がきっとお前らの呪いを」
「『セイクリッド・ブレイクスペル』!!」
俺達の声を遮り、突如としてアクアが魔法を唱えた――――瞬間。
「あ、ああぁ……っ………あぁ……!」
俺等の目が変になったのか、何故か一切合財の邪念が洗われた様な顔をしてダクネスが震え、《何故か天から光が差し込み、何故か天使に髑髏が抱えられ昇っていく様》を幻視する。
怪奇現象が閉じると共に、ダクネスはしょんぼりとした顔になり、レシェイアは何時も通り酒を飲み、アクアが嬉々とした様子で話しかけてきた。
「ダクネス達の呪いをサクッと解いてあげたわ! コレぐらい私にとっては片手間で十分の所業よ! ……どう? どうどう? 偶には私だってアークプリーストらしい活躍するでしょ? でしょっ?」
「「え」」
……先までの盛り上がりを返しやがれ。
俺は、本気でそう思い、この空気の読めない女神へやるせない怒りの視線をぶつけてやった。
しかもダクネスの奴は本気で呪いが解けたのを残念がり始め、アクアがまだデュラハンを倒して無いのに勝利の宴会芸を披露してきた所為で、俺達はもう佇むしかねえ。
「更なる『花鳥風月』~っ」
「「「おおお!」」」
「……シチュエーションが……
ホントに、ちゃんとシリアスさせてくれよ……コイツら。
もう何も聞きたくないと、耳をふさぎながら俺等はアクアの横を通り過ぎるのだった。
「でも変ねぇ……呪いを受けてたはずなのに、何でレシェイアの体は光らなかったのかしら?」
「アクアさん、何か言いました?」
「別に何も?」 (ま、気の所為よね!)
……最後の最後で、何だか怪しい空気が……。