彼女の髪型そのままに、もうちょっと髪を長くすればレシェイアの髪型かな……。
顔の造形とか体型とかは全然違いますけどね(当たり前だ)
今回はちょっと意味深な言葉が最後に登場してきます。
では、本編をどうぞ。
ウィズとカズマらの邂逅、そしてゾンビメーカー討伐クエスト失敗から、約数日後。
今日も今日とて冒険者はクエストを受け、酒場でジョッキを傾けつつ駄弁り、また情報を交わし合っていた。
その中には当然の如く、クリムゾンビアが並々注がれていたジョッキを、もう既20杯以上は空にしたというのにまだ飲み続けるレシェイアの姿もある。
そんな武器と酒が交互に行き交う変わらない日常の中で……しかし昨日とは打って変わった、多少物騒な新情報が聞こえるようになった。
曰く―――。
「魔王の幹部らってぇ?」
それはこの世界に住む人間ならば誰しもが知っていて、児童向けの本の中でも数々の伝書でも、恐れられる存在として描かれ語り継がれる存在。
数多の魔物を率い、今も人の世を浸食しようと謀略を繰り広げ、王都を最前線としてぶつかり合っている敵軍の大元。
数多の魔を率いる王の幹部は、多種多様な種族からなっているらしく、八人居ると言われているその全員が、上級職ですら並の冒険者ではボロ屑のように殺されてしまう…………そう、畏怖と共に語られている程。
そしてその幹部が、なんと駆けだしの街・アクセル周辺にやってきているという。
普通なら目に掛ける必要性すら無いこの地にだ。
「そうさ、この街よりちょっと離れた場所に古城があるんだが……どうやらソコに、堂々と居を構えてやがるらしい」
「でも、あたし達からすれば縁遠い話よねぇ」
「つうか縁遠い方がなんぼかマシだぜ。幹部とやりあうなんて、命が幾つあっても足りないっての」
違いない、と禿頭の筋肉質な男性を中心に、冒険者達が互いに笑いあう……そんな中。
「……」
レシェイアだけは酒を飲みながらも古城のあるらしい方角へ目線をやり、酔っているからか据わっている感情の読めぬ瞳でじっと見詰め続ける。
その所作に気が付いた者はいなかったらしく、皆それぞれ会話へ戻っていった。
彼等の笑いに何か不快感を感じた訳ではなく、単に興味があっただけの様子。
そしてこのギルド内にすら、彼等の横で賛同して頷く紅眼の少女はいれども、しかし無責任だと非難する者などまるでいない。
駆け出しの街故に、敵わないなと笑い飛ばしてしまうのは至極当然の反応だ。
―――更に言うならば、その話題以上にこのギルド内を今満たしている、大きな熱の影響もあった。
「あぁそうだ……レシェイアよぉ、お前さん『キャベツの報酬』はちゃんと貰ったのか?」
禿頭の男の言う通り、例の『キャベツ狩り』の際に捕まえたキャベツが売りに出された事で、漸く今日ちゃんとした報酬が舞い込んでくる事になっているのだ。
「んぅ? ん~……ん? ……あ、まだらった」
「だと思ったぜ。万年酒びたり過ぎちゃあ、根っこを固められねぇぞ」
「けど、今は行かない方がいいんじゃない? ほら……」
弓使いらしき格好をした女性冒険者がチョイチョイと受付の方を指差した。
報酬目当てとばかりに今のギルド内は、受付が冒険者連中でごった返しているのである。
受付周辺は特にひどく混雑していて、幾ら筋力値や耐久値に自信がある者でも、迫力に負けて尻込みしてしまいそうな程。
最初に受け取れた人物も後ろの冒険者達をかき分けなばならないので、果たして辿り着けたのは幸か不幸か……。
「ちょっと間を置いた方が良いらねぇ。汗泥まみれの押しくら饅頭って洒落にならないら」
「うんうん。こうやって近くに酔ってもちょっとキツいんだから、回避できるのに好んで男臭に巻き込まれたくはないし、なら最初よりも最後がいいわよ」
「……地味に傷つくぜ? 否定も出来ねえから仕方ないけどよ」
苦笑いしながら、バンダナを巻いた無精髭の青年がソーセージを口に放り込む。
レシェイアも一つ取って二口で食べ終えると、ジョッキが片付けられたのを見計らい、席を立ち彼らに手を振った。
「じょーほーありがとっした! またお酒よろしくぅ!」
「おう! こっちもモンスターの情報を頂いたし、お互い様だぜ!」
男性冒険者の声を背に受けながら、レシェイアはスキップしてとあるテーブルを目指す。
それは当然カズマ達一行の居るテーブルだ。
―――しかしその歩みはすぐ近くでピタッと止まり、彼らから少しずれた位置のテーブルに腰をおろしてしまう。
どうも直接会話に参加するよりも、近くで間接的に聞く事を選んだらしい。
そしてそれは珍しくも、気まぐれから来るものではなかった。
勿論……とは彼女の普段の行いからしてとても言えないが、座るテーブルをずらした『理由』自体がちゃんと存在している。
「はぁ……はぁ……この艶ぁ……っ! この輝きぃ……っ! なんと言う芳しき香りぃ……た、堪らない、堪らないですっ!」
その理由足る『変態』が今、財布が目立って膨れているカズマと、鎧を新調したらしいダクネスの目の前で、ポールダンスみたく妙に艶めかしい動きで腰をくねらせていた。
「こ……これがマナタイト製の杖! 爆裂魔法を更なる域へと押し上げる杖えぇっ!」
杖を腕で抱え込むようにして持ち、頬ずりし続けている変態―――。
―――またの名を めぐみん という少女である。
流石の
されど変態に好んで近寄りたくも無いのか勤めて沈黙を保っていた。
そんな中、ふとレシェイアはある事を思い返した。
(そう言えばカズマ達の報酬金額どうなってるんだろ?)
……まずカズマ達一行は、パーティー内で賞金を分散させるのではなく
《個人がキャベツを倒したり捕まえて得た分だけ貰える》
というルールの下今回のキャベツ狩りを実行しており、そしてその件をレシェイアも耳には挟んでいる。
ちなみに発案者はアクア。
途中からその制度を導入した事から察すれば、恐らく一個一万エリスは固い、その価値が
(でも、アクアの姿が見えないねぇ……って事は換金待ち?)
カズマ、めぐみん、ダクネスはホクホク顔なので報奨金の有無は言わずもがなであろうし……となると残りの一人であるアクアを待つだけとみえる。
そしてアクアはカズマに次ぐ収穫量であったのだから、一玉一万の価値を前提に置くとすると、それなりの大金が懐へ転がり込んでくるに違いない。
―――と。
「なんでよ!? なんでなのよ! どういうつもりよぉっ!?」
「ん?」
「今のは、アクアの……」
「何やらかしたんだ? アイツ」
いきなりギルド内に大きな悲鳴が響き渡り、その声の主を一瞬で看破したカズマ達がそちらを見やる。
レシェイアも聞き耳を立てながら目線を追い、予想通りギルド職員に掴みかかっているアクアの姿を目に映した。
どうやら、結果に納得いかないからか抗議という名のいちゃもん付けをし、激情露わに揉めている様だが……。
「何でたったの五万なのよ!? 私がどれだけキャベツを捕まえたと思っているわけ!? 何で五万になるのよバカにしてんの!?」
「そ、それが……アクアさんが捕まえたのは、殆どがレタスでして……!」
「何でレタスが混じってんのよぉぉお!? 似てるだけで同族認定しちゃったわけええぇええぇぇえ!?」
ある意味運が振り切ったアクアの収穫結果に、レシェイアは以前ギルド内にて教えて貰った彼女のステータス―――『他者と比べてすら平均より低い知力と、ぶっちぎって哀れなまでに最低な幸運値』の事を思い出していた。
「まぁ、アクアの袋の入ってた奴はなんか違ったしなぁ」
「ええ……レタスってのが妥当でしょうね」
「ん~ぅ? ありゃ、じゃあ何れアクアに教えなかっらの?」
「うぉっ! ……あ、あぁレシェイアか……」
杖をポール代わりにした気味の悪いダンスを漸く止めてくれためぐみんを避けながら、気になったらしくレシェイアがカズマに問い掛ける。
死角から声をかけられたカズマは驚くも、すぐ人物を特定し答えを返してきた。
「いや教えようとはしたんだけどよ……」
「その後ですね、アクアは顔をしかめて
『何近付いて来てんのよ。まさかキャベツを欲してる訳じゃないでしょうね? 私の大切な物は絶対貴方に何か上げないから! あんたなに変な顔してんのよ、そんなんで同情引こうって訳ぇ? あーキモイキモイ、キモイわー、顔みたくないわー……だからあっち行って、分かったならほら! あっち行って!!』
……とか言い出しまして」
「その後カズマがアクアに膝カックンして、結局何も言えなかったのだ」
「うっひょ、同情出来ないれぇ。寧ろ殺意湧きそう……なんてね、有り得ない有り得ない、ニャッハハハハハ♫」
殺意の下りはどうも普通に冗談らしいが、カズマはその時の事を想い浮かべたか、若干殺意混じりの怒りで顔をしかめている。
続けてレシェイアがレタスに関し、植える場所をずらしたりと工夫しないのかと問う。
が、ダクネス曰く「それでもやはり二十玉以上は混ざってしまうのだ」とのこと。
今年は特にレタス交じりだったとのことで、他の冒険者からも納得いかないとの罵声すら聞こえてくる。
尤もアクアよりは諦めも理解も早く、謝ってから立ち去っている者達も居て…………そんな中アクアは依然としてギャーギャー揉めていた。
―――やがてどう足掻いても無理だと漸く折れ、カズマの元へあからさまにゴマを摺りながらにこやかな笑顔ですり寄ってくる。
「カ・ズ・マ・さぁ~ん。今回の報酬、お幾らほど?」
「百万と少し」
「「「ひゃっ……!!?」」」
小金持ち間違いなしな驚愕の結果に、アクア、めぐみん、ダクネスは言葉に詰まった。
パーティ間で分け与えない今回のルール上、カズマとて他者の金額を知りようがないと言う小さな秘匿状態が、この状況を作り出したらしい。
「カズマ様ぁ♡」
「金なら貸さんぞ。もう使い道は決めた」
全部言いきる前に先んじてピシャリと言われてしまい、アクアの笑顔が不自然に凍りつく。
やがて段々と崩れていき終いには半泣き膝立ちでカズマに縋りついてきた。
「カズマああぁぁぁ! お願い、お願いだから貸してえぇぇっ!! 私、今回の報酬が相当なものになるって踏んでギルドに借金しちゃってるのよおぉっ!! 十万近いツケがあるのおおぉぉ!!」
「……皮算用しすぎです。後先考えないにも程がありますよ」
カズマはその計画性の無さにと散財癖にこめかみを押さえ、ダクネスは呆れたの色濃い目で一瞥し、レシェイアは口の端だけ吊りあげ何も言わない。
本人の自業自得や、人の意見を罵倒に近い言葉で返した経歴もあり、同情など全くして貰えていなかった。
何より『それぞれが手に入れた報酬そのままに』というルールは先にも行ったがアクアが決めたもの。
発案者が発案者故、文句を聞く気すら起きないのだろう。
「いい加減拠点を手に入れたいからな。馬小屋ぐらしじゃ何れ来る冬に耐えられないし、しっかりした拠点だって欲しい」
「外から空っ風来るかられぇ~、下手すると凍えるだけじゃあ済まなそうら! ……いやちょーヤベェ」
口調こそ可笑しいがレシェイアの声色には確りと忠告が含まれており、めぐみんもダクネスも同意するように頷いて、カズマの意見の後押しをする。
そもそも否定する要素が見当たらない計画なら、アクアへ天秤が傾く事は―――。
「五万! 五万でいいの!! そりゃ早くプライベートな空間が欲しいのは分かるけど! 夜中のごそごそしてるの知ってるから切実なのは分かるけどぉ! 五万でいいのお願いよぉおおおおお!!」
「よーしいいだろう、五万でも十万でも安いもんだ! だからとりあえず黙っとけ!」
―――あった。
結局手持ち金から五万ばかり引かれてしまい、しかも金を払い終えた直後にアクアはケロッとし、殆ど反省していない様を見せた為……カズマが怒り狂いかけたのは、まぁ言うまでも無い。
「はぁ、良かったよかった。お金も払えたから万事オッケーね! まったく、五万ぐらいポイッと渡せばいいのに、何てケチなのかしら!」
「そりゃあアクアに渡したらぁ? 余計な事に使っれ借金増やすだけらしねぇ? しかもよけーなトラブル持ち込んでさぁ……そんな人にお金渡ひたいと思う~?」
いう事に書いてケチ扱いし始めたアクアへ、しかしレシェイアから尤もな論が飛んできた。
その上に今回は自分が悪いだけなのでアクアは一瞬黙ってしまう。
「でもね? カズマってばむぐっ」
「ん~……ダァメ♡」
それでもと金がない腹いせなのか、未だに何やらカズマの秘密を暴露しようとするがその口を、見た目にそぐわぬ速さで抑えチッチッと指を振るレシェイア。
その際にギュッと口を掴まれて少々痛かったのか、アクアは抵抗せず普通に頷く。
ふと視線をずらせば、受付が開いていたので、レシェイアはカズマ達に一声かけるとそのままキャベツの報奨金を受け取りに向かった。
「……まあ、今回も色々と言いたい事はあるのですが……今回も、特別に省いておきますね」
「ん! せんきゅーべりーまっちんぐ!」
担当は何時ものようにルナであり、彼女のカードに記された討伐数と、何処から飛んできたかも分からないキャベツの数が一致している事をあらかじめ知っている数少ないギルド職員の一人でもある。
まさかビンタで吹っ飛ばしているとは知らない様だが、それでもお馬鹿な現象を起こされたそれ自体には、頭を抱えても良い位に悩まされているらしい。
「もうちょっと常識を考えてくださいよ……では、今回の報酬、九十七万エリスになります」
「おほ! 結構行ったれぇ! こら、びっくらこけた!」
「こけてどうするんですか」
お決まりのやり取りを交わしてから、領収書に幾つかの項目を書きこみつつ、レシェイアは一つの事柄を考えていた。
ここの暮らしに随分となじんできたなぁ……と思う中で、それでもレシェイアが不思議に思っている現象が一つだがあるのだ。
それは文字の読み書きであり、レシェアが元居た世界とこの世界の公用語は、『口語から読み書きに至るまでかなり似通っている』のである。
当たり前の事ながら全部が全部同じではないし、読めない文字や意味の違う単語、聞き取りにくい発音はあったものの、それでも読み書きや会話に不自由する程でもない。
だからこそ今のキャベツの時のように、領収書の起債が可能なのだ。
加えてレシェイアは一ヶ月などとうに過ぎるぐらい、其れなりの日数アクセルの街に居るのだからもう既に慣れてしまっている。
今ではこんな機会でもなければ思いださない程なじんでしまっていた。
「よっしお金ゲット! という訳でじゃんじゃん飲むんらよぉっ!!」
「またですか。幹部とまでは行かなくとも、せめてもうちょっと手強いモンスターぐらい……」
ルナのため息もよそに、レシェイアは大手を振ってテーブルに駆け寄ると、クエストに行こうと話し合っているカズマらの横を抜けて、ちょっと離れた場所に座り込みメニューを見る。
「……幹部、か……勝てるかもしれないけど……でも私は…………」
―――少しだけ真剣な目を作り、再び古城のある方角を睨み付けた。
しかし変わったのはそれだけで……。
「という訳で! クリムゾンビア-っ! ニャハハハハハ!!」
またいつもと変わらぬヘベレケな馬鹿笑いに戻る。
先の彼女の呟きなど喧騒にかき消され、誰の耳にも捉えられなかったのだった。