春キャベツがあったり、夏秋キャベツがあったり、冬キャベツがあったり。
このすば! は時期的に言って夏秋キャベツですかね?
平たかったり、真ん丸だったりで、どの品種かは分かりませんがね。
……異世界のキャベツに、こっちの常識を当てはめようとする時点でおかしいんですけど。
では本編をどうぞ。
※以前よりちょっと改変しました。
途中から、レシェイア寄りの視点に変わっています。
ギルドから緊急連絡の放送が流れたのと時を同じくして、アクセルの街は街中が大騒ぎになっていた。
致命的なパニックこそ起きていないものの、住民達も商人達も、腕の覚えのない旅人達までも、皆慌ただしく行き交い声を飛ばしている。
ある者は子供の手を引き、ある者はこけそうになりながら、例え買い物の途中でも慌てて自分の家へと走ったり知り合いの家へ駆け込む。
家屋全ての窓は大小問わずに締め切られ、どこか重苦しい空気を漂わせていた。
小さい露店は商品を滑り落とさせてすぐさまたたみ、大がかりな物はたたむ事を諦め商品だけ持って路地の方へと走り込む。
荷馬車を引く者もまた慌てて馬に鞭を打ち、限界を超えて急き建物の影へと消えて行く。
それ即ち、最低限の物のみ確保せねばならぬ事態が迫っている証左でもあった。
とにかく奥へ、街の奥へ。
住民達も商人達もみな告げられた『脅威』から遠ざかろうと逃げていく。
……そんな流れに逆らう団体が、一つ。
緊急伝達に促されて集いこの『驚異』に立ち向かおうとする冒険者達だ。
「装備は整えているな!」
「今回も来たのね、この時が……」
ソードマンは剣を持ち、ウィザードは杖を抱え、大柄な男は斧を片手に、小柄な少女はナイフを腰に、荒くれ者としか思えない姿の男性が、水晶まで持ち占い師そのものな恰好の女性が。
和風洋風中華風、装備も背丈も色も性別も、十人十色に個性を見せる冒険者達が正門へ向け駆けて行く。
「腰入れてけよ! 生半可はお断りだぜぇ!」
「よーし! うん、やってやるっ!」
「大丈夫だろうかなぁ」
個人的でかき消えそうな小さい呟き、周りと自分を尚も鼓舞する大声。
ある場所はカラフルに、ある場所は地味に、動き続ける独特な空気を放つ団体。
その中にはカズマとアクア、めぐみんやダクネス、そしてクリスにレシェイアの姿もある。
……何故かアクアは籠を背中に負っているし、レシェイアは酒瓶を握ったまま。
ちらほらと網籠を持ちながらに走る者も見受けられ、そこら一帯だけは何処となく緊張感が薄れて来る。
「気合を入れろぉっ!!」
(これは、だいぶヤバいのが来るってのか……!?)
しかし鶴の一声で、カズマが抱いていた雰囲気はギュッと引き締められた物へ変わった。
仮面をかぶる大男と並走するカズマは当然ながら、この街どころか、この世界に来たばかり。
故この事態の “原因” を知らず、興奮状態にある周りの冒険者たちとは違って、不安の方がより募る。
正門に辿り着き、痺れを切らしたカズマは場所を変え、ダクネスへ囁くように問いかけた。
「なぁ緊急クエストって一体何なんだ? 何かとんでもない物が、この町を襲撃しに来たのか?」
「いやそうじゃない、キャベツのことだ。もうそんな時期が来たものなのかと、放送を聞いて思い出した」
「………………え?」
聞き間違ったのだろうか。
嬉々として答えてくれたダクネスの口から、カズマの耳へ入った言葉に、緊張感にそぐわぬ可笑しな単語が入っていた気がした。
一方。
「今、キャベツって、言ったよれぇ……?」
耳が良いらしく、ダクネスの返しは後方に居たレシェイアにも届いており、その内容に此方もまた首を傾げていた。
確かに、確かにダクネスはその単語を口にしたのだ。
“キャベツ” と。
和名は甘藍で、
バラ類アブラナ目アブラナ科アブラナ属、
ビタミンCとUを多く含み、
イベリア人の原種を起源とし、ケルト人の元に渡り、イタリアで改良され、日本に伝わったとされる植物の名前を。
レシェイアは、首をいっそやり過ぎなぐらい捻って考える。
耳をそばだてた先にいるカズマが口にしたのは、聞き間違えから来る疑いの言葉だった。
「なあ。キャベツってもしかして、俺の知らない貴重なモンスターの名前だったりするのか?」
すると二人の目に宿る情が、恰も可哀想な人を見るかのような、頭のおかしい人を見るような、呆れる様な物へ変わった。
「カズマは何を言っているのですか。キャベツはキャベツですよ。丸い緑色の葉物野菜で、食べるとシャキシャキするアレです」
声音も変わらず。少々呆気に取られたレシェイアは目線を確り彼の方へ向ける。
目を向けられたカズマはと言うと、何でそんな反応をされるのか納得いかないとばかりに眉間へしわがよる。
「いや、そんなのは知ってるんだよ。だとするとなんだ? こんなに大勢集めて農業の手伝いでもさせようってのか?」
「……カズマ、君は一体何を言っているのだ?」
「頭が可笑しくなりましたか、とうとう?」
呆れの色濃い溜息を吐かれ、変人を見るソレで眺められてカズマの顔が赤くなっていく。間違っても“羞恥”ではないだろう。
だが怒りが吐き出される事は無く、アクアが彼の方をチョンチョンつついて注意をそらさせる。
「えーと、カズマさんちょっといい?」
レシェイアの方からは見えにくいが、いつもチャランポランなアクアにしては珍しく、ちょっとだけ申し訳なさそうな顔をしている。
その様子に気概をそがれたカズマの様子をチャンスとみて、早速とばかりに口を開いた。
「ごめん、カズマは日本人だから知らないのも無理ないわよね。実はこの世界の野菜はね……」
「き、来た! 来たぞぉ!!」
アクアの説明を受け止めきる暇も無く、束の間の静寂は一人の叫びでかき消される。
キンパツリーゼントの冒険者が指差す遠くをつられて見てみれば、そこには―――【緑色の雲の様な物】が蠢き、段々と此方へ近付いてくるではないか。
ムクドリの群れの如く編隊飛行するそれらが何なのか、確認しようとレシェイアが目を凝らし…………酒瓶を手からすり落とした。
「……キャベツが、“飛んで”いる……?」
余裕をかなぐり捨て、茫然としてしまう彼女の口から、またも信じられない言葉が飛び出した。
それこそ酔っている時以上に彼女が正気を保っているのかを疑う。
やがて数分と経たずに緑色の雲は大きさを増して行き、どんどんどんどんアクセルの街方面へ近付いて来た。
レシェイアの言と眼前の光景。
仮にここへ日本人が居たとしたならば、まず間違いなく正気を疑うだろう。
されどその疑いは覆さざるを得ないだろう―――
『キャベキャベキャベキャベキャベキャベ! キャベキャベツ!』
―――かなり奇怪な鳴き声と共に『飛来』した、“キャベツ”の大群がいるのだから。
眼前に広がる……絶句せんばかりの珍百景。ほんとうにキャベツが飛んでいる。
レシェイアは無言で落した酒瓶を拾いつつ、茫然の表情で顔を固定してしまった。
「……何で、飛ぶんら……偽器でもあるまいに……何で……」
ごく当たり前の驚愕を含み、されど聞き覚えのない単語が呟かれる間にも、珍妙な野菜はこちらへ接近中だ。
しかも声を上げるばかりが珍妙ではない。
デフォルメされた可愛らしい目が付き、更に例えるならば頭頂部と思わしき部分に翼状の葉まで生えている。
まるで一種のモンスターのようだった。
『収穫だあああぁぁああぁっ!!』
「超食べ放題よっ!」
「マヨネーズにドレッシングも持ってこぉい!!」
「ななな、なんじゃこりゃああぁぁああああぁぁぁぁああぁ!?」
キャベツを目の前に、皆一気に士気が高まった。
冒険者たちは歓喜の声が。一部から食欲万歳な声が。カズマから悲鳴に近い声が。
それぞれ迸り、ソレを合図としたかの様に……キャベツの大群は冒険者たちへと突っ込む。
「ゆけえええぇええぇぇえっ!」
「「「おおおおおおおおおっ!!」」」
挑んでくるならそれこそ上等と、冒険者達もキャベツの大群へ突っ込んでいった。
……対照的にレシェイアは後方へと更に下がって様子を見守る。
「この! こいつ!」
「喰らえぇ!」
「っ……はぁ!」
気合い一発声を上げながら、剣が振るわれ、杖が瞬き、斧が振られて矢が放たれる。
キャベツが真っ二つにされ、キャベツの葉が飛び散り、まだ無事なキャベツの鳴き声が辺りに響く。
その様を茫然と眺めるカズマの後ろから、先の説明の続きだとアクアが声を掛けてきた。
答えが分かっても尚気になるかレシェイアも耳はそばだてる。
「カズマ。もう見て分かったと思うけど、この世界のキャベツは―――飛ぶわ」
「ああ、飛んでるな。つーか地面跳ねてるのもいるな」
コミカルな音を出しながら普通ならグシャッと潰れそうな勢いでキャベツが走り、羽ばたきが遅い所為でもうどうしても飛べるようには見えないキャベツが飛行する。
ソコへ冒険者たちが次々群がっていく。
「キャベツはね……味が濃縮してきて一番美味しくなる収穫の時期が近付くと、簡単に食われてなるかとばかりに、ああやって敵を弾き飛ばしながら逃げて行くの」
「みたいだな。あの人、キャベツにぶち当たってノビてるし」
説明しているその左わきで、女性の冒険者がキャベツの体当たりを受けて気絶した仲間をかばっていた。
更に奥では、ちょっとツリ眼気味で、気合充分な事を示していたキャベツに矢がヒットし、貫通して穴が開いたと同時に目が元に戻っている光景もある。
右前方では、キャベツの突進と短剣で必死につばぜり合いし、拮抗を図っている冒険者すらいた。
「彼等は街や草原、山々を疾走し、大陸を渡り海を越え……最後は人知れぬ秘境の最奥部で、誰にも食べられる事無く、また知られる事も無く、ひっそりと息を引き取ると言われているわ……」
「キャベツなのに?」
もう何処からツッコんで行ったらいいか分からない、最早ツッコミ所しか無い説明の所為で、カズマの言い方にも余りキレがみられない。
レシェイアは同意しうんうん頷いているが、後方な為に気が付いて貰える訳も無い。
だが再三続くカズマの言葉を半ば無視して、アクアは両手を広げつつ、浮遊するキャベツの群れの中で天を仰ぐ。
「それならば! 私達は彼等を一玉でも多く捕まえて、美味しく食べてあげようって訳なの!」
その言葉に続くかのように、劣勢だった場所からも次々とキャベツ捕獲の歓声が上がってきた。
剣で切ったり矢で貫けば当然地に落下し、羽を切り落とせば無傷なまま捕まえられ、中には凍結系の魔法で新鮮なまま保とうとしている冒険者すら見られる。
そんな彼らへの檄代りにと、受付嬢のルナが好ましい連絡をメガホン越しに告げて来た。
『みなさーん! 今年のキャベツは出来が良く、一玉一万エリス! 無傷で捕らえられればそれ以上の金額を保証いたしまーす! 出来るだけ多くのキャベツを捕獲し、檻の中の水槽へと納めてくださーい!』
「「「うおおおおおおおっ!!!」」」
キャベツ一玉――と言うか一匹で、日本でいえば一万円がもらえる。
そんな好条件のクエストとあって、冒険者の士気は天井知らずに高まっていく。
アクアも、めぐみんも、ダクネスも、クリスまでも拳を掲げて歓声を上げ、皆と自分を強く鼓舞。
……けれどもカズマと、ある一人の士気だけは底辺知らずに下がっていく。
「別にお金に困っている訳じゃないしぃ、ソレにアラシは酔っ払いらから多分……あ~、なーんかやる気で無いんらけどなぁ……」
その『ある一人』であるレシェイアが、飛来するキャベツの大群や各所で矢継ぎ早に変わる状況と、前方で剣を振るっているダクネスを見ながら一人ごちた。
彼女もお金の問題のほか、カズマと同じ理由でどことなくやる気が出ない様で、他喉の冒険者達よりも後方に陣取っている。
遂には四方八方全ての位置に冒険者が居ない、局地的に過疎となった大通りの隅っこへ座り込んでいた。
「んぐっ」
……そしてどうでも良いとばかりに酒を呷り始めた。
血気盛んに戦う冒険者達よりも、あわよくばとお零れを狙う者達よりも、彼女は碌に働かず座っているだけ。
カズマとて何とか策を見出そうとしている傍この堂々としたサボタージュ。
他が頑張っているのに酒盛り。何と言うダメ人間なのか。
当然ながら彼女の周りにある、収穫しただろうキャベツの数は堂々の『0』である。
「って、何やってんだよレシェイア!?」
そんな彼女を見かねたか、スティールと潜伏スキルの併用でキャベツを取っていたカズマが、彼女の傍へと駆けよってくる。
皆が雄叫びを上げて走るなか、一人呑気に座り込んでいれば、誰だって声をかけたくなるだろう。
「何やってるかって? 酒盛りらけど」
「いや何で酒盛りやってるかって理由を聞いてんだよ!」
「……む」
と―――いきなりレシェイアは立ち上がり、顔の笑みが消えた。
「へ? ……ってどわぁ!?」
束の間。
行き成り頭をがっしり掴まれ、石畳へ叩き付けんばかりに伏せさせられたかと思うと、彼の頭上スレスレを幾玉ものキャベツが風鳴りを起こしつつ通り過ぎた。
笑みが消えた訳はどうもこれだったらしい。
「後方注意らよ~……あ、こう言うのって、普通は“前方注意”らよねぇ? あ~、でもそれって馬車とかそっち系らし、キャベツ関係らいし~。うん! じゃこの件は無しら、無し!」
「何の話をしてるんだアンタは!?」
冷静な時は冷静で、しかしヘベレケな時はとことんヘベレケなのだと、酔っ払いの酔っ払いたる由縁を見せつけられて漸くキレのあるツッコミを放ったカズマ。
「で、アラシがキャベツ狩りに参加しない理由……らっけ?」
「ちょいちょい話が飛ぶな。……ああ、そうだよ。何で前線まで行かないんだ?」
グビリと一度、カップ酒を飲んでから指でそっと唇を拭い、レシェイアはニヤリ笑いながら答えを告げて見せた。
「面倒臭い、面倒なのでぇふ♫ ニャハハハハハ……と言う訳でぇ~いじょ!」
「ひど過ぎるだろソレ!? なんだよ、お前はどこぞの駄女神かよぉ!?」
門の向こう側から「誰が駄女神なのよおォォっっ!!」という叫び声が聞こえた気がしたが、カズマもレシェイアも聞こえていないとばかりにスルー。
かすれた声を出しながら呻くカズマを余所にレシェイアはまたも酒を一口飲んだ。
「って言うのはぁ、ホントのとこ理由の《一部》らね」
「……一部?」
思わぬ返しが続けられた所為で、カズマは素っ頓狂と言う単語が実に似合う、ボヘッとした顔を晒してしまう。
だがレシェイアは笑わずに、中身の酒を揺らしながら、面倒だという理由が全体の一部である “理由” を説明しだす。
「実はって言うか……酔っ払いが前線に出ると、いーろいろ視線集まるっちゃうんらよねぇ~。それがアイドルへ向ける羨望ならアタシって大歓迎! ダンスだって披露しちゃうらよ~」
動作がふざけているので、気を抜くと呆れそうになる。
されど……途中まで真剣だった内容のお陰で、ここでカズマも、レシェイアが此処に居る理由を察する事が出来た。
「でも
「あ~……」
至極当然のことだった。
血気盛んに臨時報酬を得ようとしているのに、酔っ払っている奴がふらふら横に並んできたら、邪魔されないかと心配を抱くには充分だろうし、そもそも言動が支離滅裂な人物など精神的に疎ましくなる。
活躍するしないに拘わらず、観衆の好ましくない目線に晒されるのは自明の理。それだけでなく、彼女自身が意図的にしろ偶然にしろ、予期せぬ妨害を行って士気の高まりを崩してしまう恐れもある。
それを理解しているからこそ全方位的に安全な後方に陣取っているのだろう。
「それに―――」
言いながらまたも唐突に立ち上がる彼女に、少し驚いたのか数歩ばかり下がるカズマ。
酔っ払いがフラフラ、千鳥足一歩手前で立っているのを期と見たか、キャベツがレシェイア目掛けて勢いよく飛来する。
『キャベキャベキャベ!』
「! 危ないっレシェイア!!」
カズマが警告の為叫ぶのと……レシェイアが右腕を大きく振りかぶったのは、殆ど同時だった。
そのまま一歩踏み出し、正面から突進してくるキャベツを視界の真ん中に捉えつつ……風切音と共に豪快に腕を振り抜く。
「そぉりゃ!」
『キャベ―――ヅン!?』
バチコォーーーン!! と思い切りのよい “平手打ち” を喰らい吹きとばされたキャベツ。
オマケとばかりに他のキャベツを巻き込んで、家屋にド派手にぶつかりノビてしまう。
トバッチリに有ったキャベツは羽を痛まされ、打たれたキャベツは目をグルグルまわし飛ぶ事すらできない様だ。
他の突進し掛けていたキャベツ達も気が付くが、時既に遅し。
「せーい」
『ギャベッ!!』
「ほいっ」
『キャベン!』
「もいっちょ!」
『キャベーッ!?』
左手横薙ぎ、右手振り下ろし、右手での本気の振り上げと、三連続に平手打ちし他のキャベツ共々巻き込んで墜落させていく。
そして落ちたキャベツを手に取った傍から、ギルド職員の方へ無造作に投げつけていた。
よーく見直してみると、平手でぶっ飛ばされたキャベツがそのまま檻にぶち当たり、職員が回収しているのもちゃんと確認できた。
「ど、何処から跳んで来ているんですか!?」
どうも変な方向から飛来するため、職員は回収はできても、何が起こっているかは判断が追い付かない様子。
「更にもーいっぱぁっ! ニャハハハ♫」
『『『キャァベェーーーッ!!!』』』
かなり力が籠っていたのか、威力は勿論風圧も圧倒的で、先程以上にキャベツを巻き込み地面に叩き落としてしまった。
数多のキャベツを撃ち落とした事で、収穫数が漸くゼロではなくなった。
「もはや最強のビンタ!?」
最強の目すら見きれなかった、某大総統夫人のかくやのビンタだ。
ツッコミ際にネタが飛び出してしまっても、何ら可笑しくは無いだろう……多分。
惜しむらくはそれを振っている相手、そしてそれを確認できた最初の敵が、“空飛ぶキャベツ” という気の抜けるファンシーな輩だという事なのだが。
「更に更にぃ!」
レシェイアは一玉のキャベツをまたもビンタで地に叩き落とし、振り切った勢いを活かして回転。
左脚を振り上げて、通り過ぎようとしていたキャベツを踏みつけ羽を潰して拘束した。
だがそれで動きは鈍くなり、仲間の敵とばかりにもう一玉のキャベツがレシェイアの顔面へ飛来。
「甘い甘~い。お砂糖より甘ぁいってね、アヒャヒャヒャ!」
『キャベ!』
対するレシェイアは慌てず騒がず、リンボーの様に回避―――しながらに両腕を伸ばしてキャッチしてしまう。
そして筋力のみでバネ仕掛けの如く起き上り、一気に躍動し腕を前へと振り降ろす。
『『キャベツ!?』』
「即席ハンマー、キャベツ味らよ! ……ニャハハハハハハ♫」
更に不意打ち気味に迫ってきていたキャベツを打ち落として、見事三玉確実に捕えて見せる。
捕まえただけの一玉はもう一度別のキャベツに叩きつけ、収穫数は計五玉になった。
(……一人でクエスト回せる理由が分かったぜ。マジで身体能力凄いんだなあの人)
ヒキニー―――自宅警備員であったカズマとは初期時点のスペックから違うのだと、各言う本人にも否応なしに突き付けて来る優秀さだ。
「……いや、俺も見ている場合じゃねぇ! キャベツ捕まえないと……!」
結局捕まえて金を得る方を選んだカズマは、まだまだやってくるキャベツの大群目掛け駆け出していった。
―――キャベツ収穫クエスト開始より、十分が過ぎ―――
「今年は荒れる」と言った、モヒカン冒険者の台詞は単なる予感ではなかったらしく、依然としてキャベツ達との死闘が続き、次から次へと緑色の塊が飛来してくる。
「ちょ、まちなさぁい!?」
アクアは半泣きになりながらキャベツを追い回して。
「何故一点に集まらないのですか……この我を侮辱しているのか……!」
めぐみんは爆裂魔法を打てない事に苛立ちはじめ。
「そうだ! もっとだ! もっと来い! 来いっ! 来ぉい!!」
ダクネスは鎧が無くなっているのに寧ろ嬉々として敵軍の中に飛び込んでいき。
「よし今だ……[スティール]」
カズマはまたも盗賊スキルを応用してキャベツを自ら元に手繰り寄せ、籠に次々放り入れ。
「そいっ」
レシェイアは自分から積極的に行かず、顔へ襲いかかるキャベツを平手で落とす。
―――対処法が可笑しい人間が何人かいるが、それを気にしていられる余裕など冒険者達には無い。
だが、他の冒険者を庇い続け、鎧の大半を失っているダクネスに対しては別で、各所から反応が上がっている。
「あの人……キャベツの事を後回しにして私達を守ってくれるなんて……!」
「何て高潔な騎士だ……見返りを求めない自己犠牲!」
「同じナイト系の職として見習わなければ……あれこそ理想の形だ!」
まさか『ドМが好きこのんでキャベツの突進を受け止めに行っている』だの思いつく筈も無く、素直に冒険者各員はダクネスの行動へ称賛を浴びせた。
このまま彼等が眼前に周り、ダクネスの変に興奮した珍妙な顔を見たら、一体全体どんな反応をするのだろうか……?
キャベツをスティールし続けるカズマはソレを横目で目ながら、かなり複雑な思いを抱いていた。
(本性知ったら絶対引くかんな……化けの皮剥がれたら人望ゼロだかんな……)
兎に角キャベツ狩りは尽く“順調” の一言。
飛び回りキャベツの数も少なくなり、大半が捕まえられたか、街の向こうへ飛んでいったのだと推測できる。
そして最後のキャベツが剣士の手で捕えられ……今年のキャベツ収穫は、大成功に終わったのであった。
「お、おい! 親玉キャベツがくるぞおっ!!」
「な、親玉!?」
「親玉キャベツですとォッ!?」
「今年は豊作過ぎるぜ!!」
「バカ言ってる場合か! メッチャ苦茶に気合入れてけよぉっ!!」
「カズマ聞いた?! 親玉が来るんですって!」
「親玉キャベツとはなんという幸運……我が爆裂魔法活躍の時、ついに来たれり!!」
「親玉キャベツ……一体どのような刺激をくれるのだろうか!」
「は? 親玉キャベツ―――って……!?」
「親玉……一玉と掛けてるんら? だっさぁ……アヒャヒャヒャヒャ!!」
……否。どうもそう簡単には行かないらしく―――
「な……なん、なんじゃありゃ……なんじゃありゃあああぁああぁぁあーーーーーっ!?」
巨大な緑色の影の出現に、カズマの悲鳴が重なった。
NGシーン①:レシェイアが力加減を間違えた場合
レシェイア「そぉりゃっ」
キャベツ『ベハ―――』
グバン!
カズマ「あぁっ! キャベツがペッチャンコ!?」
レシェイア「ありゃ? ……なら、もいっぱぁつ!」
キャベツ『キャ』
グチャアッ!!
カズマ「あぁぁっ! キャベツが空中分解!?」
レシェイア「むぅぅ……三度目正直らぁーッ!」
キャベツ達『―――――』←鳴き声にならない悲鳴
ドグアアァァッ!!!
カズマ「うあぁぁっ!!! キャベツが木端微塵にぃ!?」
レシェイア「……もう良い、帰る」
―――諦めちゃうレシェイアさんなのでした。まる。
さて、次回は【親玉】襲来!
まだまだキャベツ狩りは終わらないぜっ!!
……一応、【