FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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四話:勉強会

 

「これは……どういうことだ? ぐだ男」

『何って、勉強会のメンバー六人を連れてきただけだよ、エドモン。それからこれお土産』

 

 土産の饅頭を受け取りつつ、ぐだ男の後ろにいるメンバーを見て顔を引きつらせるエドモン。

 彼はぐだ男が昨日送ったラインに対し、何なら自分の家でやってもいいと返事をした。

 彼の家は豪邸と言っても差し支えなく、どれだけ人数が増えても問題はない程に広い。

 そのため誰が来るかなどは全く確認していなかった。

 

「ジャンヌ・ダルク…!」

「なによ。こっちはぐだ男と姉さんにしつこく誘われたから来ただけであんた何かどうでもいいんだけど」

 

 自分が拒絶されているのかと思いガンをくれるジャンヌ・オルタ。

 しかし、エドモンが言ったのは彼女の方ではない。

 

「お前ではない! 姉の方だ!」

「私が居ると何か不味いことでも、エドモン君?」

 

 存在が気に食わないと姉のジャンヌの方に敵意を向けるエドモン。

 一方のジャンヌの方は特に気分を害した様子もなく真っすぐに見つめ返す。

 

「俺が貴様の存在を疎んでいるのは知っているだろう。優等生ならば優等生らしく俺になど関わらねばいいものを」

「エドモン君は悪い人ではないと知っています。この間も捨てられていた子猫を―――」

「貴様の見間違えだ! 俺は子猫にエサなどやっていなければ連れて帰ってもいない!」

 

 ジャンヌの言葉に被せるように叫び返すエドモン。

 だが、それは誰が見ても自爆であった。

 

「なるほど、捨て猫を拾ったのですか。それは素晴らしいことです」

「違うと言っているだろう、天草!」

「では、あちらにいる猫は一体?」

 

 悪意ゼロの聖職者スマイルでエドモンを追い詰める天草。

 エドモンは友人の100%善意の裏切りに汗を流しながらこちらに向かってくる子猫を見る。

 

「ふ、偶々迷い込んだ猫であろうよ」

「でも、すごい甘えてきてるよ。可愛いなぁ、もう」

 

 彼はあくまでもしらを切り通すつもりなのか他人のフリをする。

 しかし、アストルフォの無邪気な言葉の示すとおりに子猫はエドモンにだだ甘えである。

 

「ふふ、きっと飼い主にたくさんの愛情を注がれているのですね」

「ぐッ、うぅ……」

 

 そしてジャンヌの親友マリー・アントワネットからの止めがエドモンに突き刺さる。

 学園のアイドルとも呼ばれる彼女は純粋で愛情深い。

 故に彼女の言葉は時として刃物よりも鋭利なものとして突き刺さる。

 

『エドモン。俺はエドモンを信じるよ』

「―――慈悲などいらぬッ!」

 

 温かい眼差しのぐだ男に肩を叩かれやけくそに認めるエドモン。

 情けをかけられることは彼にとっては地獄よりも苦しいことなのである。

 

「ええい! もういい、さっさと家に上がれ! 場所はエデに聞け。俺はこいつをケースに入れてくる」

「ええー。せっかくだしボクとも遊ばせてよー」

「お前は何をしにここに来たのか思い出せ、アストルフォ!」

「あ、そっかー。それじゃあ、またね子猫ちゃん」

 

 エドモンに連れられて消えていく子猫を見送り家に上がる。

 そこからはメイドのエデに案内されて広い部屋に向かう。

 因みにこの中でぐだ男と天草はエドモンの部屋に来たことがあるが、今回の場所は別だ。

 

「それにしても広い家ですね」

「あら、ジャンヌは広いお家が好きなの? それだったら、今度わたしの家へ来てみませんか。勿論、皆様も」

 

 部屋に着き落ち着いたために簡単な話を始める。

 エドモンは勿論、マリーの家も一般家庭ではあり得ない大きさをしている。

 しかし、性格はボンボンというわけではないので多くの者から好かれているのだ。

 

「それにしても……あいつのあの追い詰められた顔! 惨め過ぎて最高だったわね!」

 

 エドモンがまだ来ていないためかジャンヌ・オルタは残忍な笑みを浮かべ笑う。

 それに対して特に思うことはないぐだ男だが、エドモンが来た時に喧嘩が始まっても困るので話題を反らす。

 

『ジャンヌ・オルタの笑顔も最高だよ』

「ええ、お姉様の最高の魅力の一つです」

「ばッ!? 何ふざけたこと言って……え?」

 

 場に沈黙が走る。ここにいるのは六人。

 ぐだ男、ジャンヌ、ジャンヌ・オルタ、天草、アストルフォ、マリーのはずである。

 もう一度確認をする。

 ぐだ男、ジャンヌ、ジャンヌ・オルタ、天草、アストルフォ、マリーそしてブリュンヒルデ。

 

『なんだ、ブリュンヒルデさんか』

「なんだじゃないわよ! なんであんたがここにいるのよ!?」

「そこにお姉様が居るからです」

「そこに山があるからみたいに答えるんじゃないわよッ!」

 

 本来ならば今回の勉強会にはブリュンヒルデは呼ばれていない。

 と言うよりもジャンヌ・オルタが意図的に誘わないようにしていた。

 だが、そんな小細工など歯牙にもかけぬとばかりに彼女はここにいる。

 

「まぁまぁ、心強い味方が増えたのはいいことではありませんか」

「そうそう、マリーの言う通りだよ。あ、ブリュンヒルデ。お菓子持ってきたんだけど食べる?」

「ありがとうございます」

「なんで誰も驚かないのよ……」

 

 何事もなかったようにニコニコと微笑むマリー。

 持ってきていたお菓子を開けてみんなに分け合うアストルフォ。

 余りにも自然に馴染むブリュンヒルデの姿にジャンヌ・オルタは重い息を吐く。

 

『いつものことだし』

「ええ、毎度驚いていては疲れてしまいますよ」

「賑やかなのはいいことですし」

「ああ……頭痛い」

 

 まるで実家のようにくつろぐ、ぐだ男と天草に微笑むジャンヌ。

 ひょっとしてこの中では自分だけが常識人になるのかと戦慄し頭を抱えるジャンヌ・オルタ。

 そこへエドモンがやってくる。

 

「……一人増えているようだが?」

「うるさいわね…私が聞きたいわよ…」

「そうか……お前も大変なのだな」

「初めてあんたに同情された気がするわ……」

 

 普段から友人に振り回される者同士伝わることがあったのか疲れた視線を交わす二人。

 

『みんな揃ったし、そろそろ始めようか』

「どのように勉強を行うのでしょうか? 皆で同じものをするのですか」

『うん。その形で毎日教科を変えていこう。それから。その教科が得意な人は教える係になるとかどうかな?』

 

 ぐだ男の提案に全員が頷く。

 後は今日やる教科を何にするかだけだ。

 

『取り敢えず、今日は何をする?』

「予定では初めに来るテストは世界史ですね」

「なら、テストの順番通りにやっていこうよ」

『それでいいよ。みんなもいい?』

 

 アストルフォの提案に乗り、尋ねるがこれも全員が頷いてくれる。

 

『じゃあ、今日は俺が教える役に回るよ。俺、世界史得意だし』

「あら、それでしたら私もお手伝いしますわ、ぐだ男さん」

『ありがとう、マリー』

 

 ぐだ男の一番の得意教科は世界史である。

 そしてマリーは全教科の点数が高い教養の高いお嬢様である。

 因みに、天草とエドモンも全教科で非常に優秀である。

 

「ぐだ男ー、早速だけどどういう風に覚えたらいいの? ボクすぐ忘れちゃんだよね」

『暗記だけだと疲れるから歴史上の人物と実際にあって話をするイメージを持つとかは?』

「例えば?」

 

 言われて少し黙り込んだ後に口を開く。

 

 

『例えば、リチャード獅子心王と会って“激討、朝まで騎士王トーク”で盛り上がったり、サラディン強すぎじゃない? とか、遠征期間長すぎて英語話せなかったってホント? て、質問したり、弟のジョン失地王があんなに下手な外交策したのは実は自分の十字軍遠征の借金のせいとか話すイメージをする』

 

 

 ぐだ男が話し終えると素直に感心するグループとおかしなイメージに笑うグループが出来上がっていた。

 

「あははは、おもしろーい!」

「なるほど、だからぐだ男君は歴史が得意なのですね」

「いや、後半はともかく“激討、朝まで騎士王トーク”ってなによ」

 

 爆笑するアストルフォに感心するジャンヌ。

 そして意味不明なワードにツッコミを入れるジャンヌ・オルタ。

 

『いや、アーサー王大好きらしいから』

「ハッ、何? 何でもかんでもエクスカリバーとか名前付けちゃったりするわけ?」

『かもしれない』

 

 まさかー、と冗談で笑いあう彼らは知らない。

 平行世界ではまさにそのような宝具を扱いかの王が戦っているなど。

 誰も知ることはない。

 

「でも、確かに印象に残りますね」

「ええ、ぐだ男君はある意味で達人ですね」

『いや、上には上がいるよ』

 

 ブリュンヒルデと天草の言葉に首を振るぐだ男。

 そう、彼の身近にはさらに上がいるのである。

 

『俺の知り合いに武器を見ただけでどんな人物がどんな風に武器を使ったとかわかる人がいる』

「それは……もはや手品に近い気が」

「おい、そろそろ始めるぞ。時間は限られているからな」

 

 ぐだ男が日頃世話になっている人物の話をすると若干引かれる。

 しかし、エドモンの言葉でそれ以上追及されることなく終わるのだった。

 

『そうだね』

「では、みなさん頑張りましょう」

 

 マリーの言葉を最後にそれからは全員が静かに机に座る。

 紙に書いて暗記する者や、問題集を解く者のペンが走る。

 しかし、黙っていては集まった意味がない。

 

「ちょっと、ぐだ男。聞きたいことがあるんだけど」

『なに?』

「このイブンなんとかって奴ら、三人も居て憶えづらいんだけど何とかならないかしら?」

『それ、ジャンヌ達にも言えるんじゃ……』

「うるさいわね! いいから何とか覚えやすい方法教えなさいよ!」

 

 イブン=ルシュド、イブン=バットゥータ、イブン=ハルドゥーン。

 いずれもイスラーム文化を語るには欠かせない偉人だが名前が同じため憶えづらい。

 なのでジャンヌ・オルタの言うことはもっともである。

 しかしながら、彼女自身姉と同じ名前であるためぐだ男にツッコミを入れられる。

 

『じゃあ、キャラ付けでもしてみたら? 年代順に並べて三兄弟にして』

「イブン三兄弟? 例えばどんなのよ」

 

 真面目なのか、ふざけているのか分からない対応にぐだ男に詰め寄るジャンヌ・オルタ。

 そのせいで彼女の顔がすぐ傍にきてドギマギとするが彼はすぐに口を開く。

 

『長男のルシュドは哲学者。次男のバットゥータは旅人。三男のハルドゥーンは歴史家とか』

「フン、そんなのじゃキャラ付けが薄くて覚えられないわよ」

『じゃ、じゃあ、どんなキャラ付けなら覚えられそう?』

 

 まるでダメダメな生徒でも見るように息を吐くジャンヌ・オルタ。

 普通であればムッとするかもしれない。

 だが、ぐだ男は首筋にかかる彼女の吐息の感触でそれどころではなかったので何とも情けない声で問い返す。

 

 

 

「そうね。私なら―――

 いつも窓辺で思想に耽っていて近寄りがたいけど実は優しい系先輩ルシュド。

 普段は無口だけど趣味の旅行の話になると夢中で語りはじめる系同級生バットゥータ。

 いつも明るくて子供みたいに大好きな歴史の話をしてくる無邪気系後輩のハルドゥーン。

 ……こんなところかしら」

 

 

 

 どうかしら、と自信満々な顔で見つめてくるジャンヌ・オルタ。

 それに対してぐだ男は曖昧な表情で沈黙し、周りの人間も何とも言えぬ沈黙を漂わせる。

 

「な、なによ。文句があるならハッキリ言いなさいよ!」

「いいえ、ジャンヌ・オルタ。みんなあなたの素晴らしい発想に驚いているだけですのよ」

 

 慌てるジャンヌ・オルタに対し天然なマリーは素直に褒め称える。

 マリーの言葉にジャンヌ・オルタは胸を撫で下ろし他の者もこれで流そうとする。

 しかし、ぐだ男に恐れというものはなかった。

 

 

『ジャンヌ・オルタって案外乙女思考だよね』

 

 

 一瞬、ポカンとした表情をするジャンヌ・オルタ。

 しかし、次の瞬間には顔を真っ赤にして反射的にぐだ男を吹き飛ばす。

 

「う、うるさーいッ!」

『バスター!?』

 

 完全に自業自得で吹き飛ばされるぐだ男。

 ハッとし、しまった、という顔をするジャンヌ・オルタ。

 このままでは倒れてしまうところで救世主は手を伸ばした。

 ポフ、という優しい音と共にぐだ男の体は柔らかいものに包まれる。

 

「もう、突き飛ばしたりしたら危ないですよ」

「ぐ……」

 

 ぐだ男の体を受け止めたのはジャンヌであった。

 後頭部に感じる温かく柔らかな存在(胸部)を必死に意識しないようにしながらぐだ男は立ち上がる。

 

『ジャンヌ・オルタを怒らないで、今のは俺が悪かったから』

「それは…そうですが……」

 

 まだ納得がいかないといった顔をするジャンヌを説得しながら何とか頭をクールダウンさせる。

 そしてどうすればいいのか分からないといった顔をしているジャンヌ・オルタに向き直る。

 

『ジャンヌ・オルタも変なこと言ってごめん』

「わ、分かればいいのよ。分かれば」

 

 頬を染めてそっぽを向きながらではあるが謝罪の言葉を受け取るジャンヌ・オルタ。

 その姿に素直じゃないとぐだ男は困ったように笑うが流石にもう口にはしない。

 

「では、勉強に戻りましょう。時間も限られていますし」

『そうだね』

 

 一件落着し自分の席へ戻っていくぐだ男とジャンヌ姉妹。

 しかしながら、この場にはまだ爆弾を投下する理性の蒸発した人物がいた。

 

 

「ところで、ぐだ男。ジャンヌのおっぱいの感触はどうだったー?」

『最高でした!』

「ぐだ男君!?」

 

 

 騒動はその後も続いていくのだった。

 

 





次回は早く物語を進めたいので一気にテスト直後まで飛びます。
六話目に夏の定番、そう―――肝試しイベントをやるためにね。

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