FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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6話:選択肢

 

「マスター、もう一杯だ!」

「ランスロット卿、飲み過ぎです。これ以上は……」

「飲まねばやっておられん!」

 

 情けなく飲んだくれる私に、トリスタンが注意する。

 だが、今の私に止めるという選択肢はない。

 バーのカウンターに突っ伏しながらさめざめと涙を流す。

 

「娘が他の男のもとに行こうとしているのだ! 納得などできん!」

「私には分かりませんが、素直に娘の成長を喜ぶべきでしょう」

「あのように女性の扱いに慣れた者が相手では不安ではないか!!」

(これはブーメランというものでしょうか? いえ、今言うのはダメですね)

 

 マシュはキスまでしたというのに、まだ付き合っていないなど不誠実だ。

 お父さん、結婚までキスなんて許しません!

 

「では、マシュ殿に別れるように告げるのですか?」

「それではマシュが悲しんでしまうではないか!?」

(私にどうしろと……)

 

 しかし、マシュが藤丸君のことを慕っているのは事実。

 無理に引き離せば、マシュの心に大きな傷を残すことになりかねん。

 

「あなたはあの立香君のことをどう思っているのですか? 見たところ、いたって普通の好青年でしたが」

「む……それは、確かに悪人ではない。マシュへの対応も丁寧なものだった」

「それならば認めてあげてもいいのでは?」

「それとこれとは別問題なのだ!」

 

 空になったグラスをカウンターに叩きつける。

 ああ、確かに彼は好青年だろう。仮にマシュでなければ素直に応援できる子だ。

 だが、自分の娘となると感情が暴走するのだ。

 言葉に表すことのできないこの感情。一体どうすればいいのだ。

 

「どうぞ、スコッチウイスキーです」

「む? 私は頼んでいないが…」

「あちらのお客様からです」

 

 差し出された身に覚えのないグラスを尋ねると、マスターから隣の客を示される。

 

「わかります、よーくわかりますぞ。娘を思う、その気持ち!」

「あなたは?」

「これは失礼。私、ジル・ド・レェと申します。高校生の娘を持つ身です」

 

 がっしりと握手を交わす。

 本質的には合わない部分もあるかもしれないが、今この時だけは分かり合える。

 そんな気がした。

 

「私の娘達も思春期に入り恋をするのも当然。しかし、どうしても認められない。あの小さかった子どもがと……」

「昔は『パパ大好き』と言ってくれていたのが、今となっては『お父さん、最低です』に……」

「わかります、わかりますぞ! 私も下の娘は反抗期真っ盛りで『ちょっと! 下着を一緒に洗わないでよ!』と」

「なんと、恐ろしい…! いつか我が身に訪れる時が来ると思うと夜も眠れない…ッ」

 

 年頃の娘を持つ、父としての悩みが湧くように出てくる。

 マシュも最近は、冷たい目を向けてくることが多い。

 その度に私のガラスのハートは傷つきひび割れていく。

 

「乙女が恋を楽しむのは本来ならば喜ばしいこと。さらに相手も善良な人間ならば何も悩むことはない。だというに! 娘のこととなると相手を許せなくなる!」

「娘婿を殴る父親の気持ちが今になって分かるとは……あの頃は思いもしませんでした」

(二人の話が進んでいるので、私は愉快な曲でも弾いていましょう)

 

 例え素晴らしい相手であっても、一度徹底的にぶつかりたくなってしまう。

 それが娘を奪っていく男に対する素直な気持ちだ。

 

「しかし、このような身勝手な気持ちをぶつけていいのか……できれば穏やかな気持ちで話したいというのに」

「思い通りにならないのも親心というものです。私もジャンヌ、娘に好きな相手ができたときは、剣を持って全力でぶつかり合いたいと思っています」

「なんと! それは名案だ! あ、いや、しかし、それでは余りにも物騒すぎる気も」

 

 剣を持って語り合えば、自ずと彼のマシュに対する気持ちが見えてくるだろう。

 しかし、私と彼が戦えば単なる蹂躙にしかならない。

 円卓最強の騎士の名は伊達ではないのです。

 

「……しかし、色々と言ってきましたが、最後は娘の気持ち次第でしょう。本当に愛し合っているのなら、私達に止めるすべはありません」

「それは……分かっているのですが」

「見守りましょう。それが私達にできる唯一のことです」

 

 彼の言う通りだろう。親とは子を見守る存在だ。

 いつまでも支えていては独り立ちができない。

 

「もちろん、相手が遊び感覚であればしかるべき対処はしますが」

「しかり」

 

 だが、相手の気持ちを陰ながら確認するのは構わないだろう。

 というよりも、これは義務だ! ……おそらく。

 

(私は不安です。友が犯罪者になってしまわないか)

 

 その後もトリスタンの演奏の中、愚痴を語り合い、夜は更けていったのだった。

 

 

 

 (………スヤァ)

 

 

 

 

 

『なあ…マシュが可愛いんだ。最近グイグイ押してくるんだ』

「それを俺達に言ってどうするつもりだ……」

『いや、相談をしたくてさ』

 

 寒風が吹く屋上でエドモン、天草、ジークフリートのいつもの男友達に相談を持ち掛ける。

 アストルフォは……うん。男の娘だから今回は除外しておいた。

 

『マシュって俺のことが好きなのかなって……』

「…………」

「…………」

「…………」

 

 三人が今更何を言っているんだこいつ、という視線を向けてくる。

 俺が一体何をしたというのだろうか。

 

『ほっぺにキスまでされたら、もう確実だよね?』

「そこまでされてようやく気付いたのか、お前は……」

「マシュさんも大変なのですね……」

「すまない、当の昔に気づいているものだと……」

『え?』

 

 三人の非難するような視線が俺の心に突き刺さる。

 まさか、周知の事実だったとは……。

 

「あれだけアピールされて気づいていないとは思っていなかったぞ」

『てっきり、甘えてきているだけだと』

「……普通は好きな相手でもなければ甘えないと思いますが」

 

 今更ながらにマシュの行動を思い出してみる。

 ……うん、なんで気づかなかったんだろうな、俺。

 

「それで、相談というのだからこれからの関係性で悩んでいるのだろう?」

『あ、うん。今までずっと妹みたいに思ってたから……急に女の子に見え始めてどうしようって』

 

 女性として意識しだすとどうしても、距離感がつかめなくなる。

 今までのように頭を撫でるのも失礼だろうし、ふとした瞬間に見せる色気は目の毒だ。

 そのせいか、最近はどうしてもよそよそしくしてしまう。

 

「物事は単純に考えるべきだ。お前はマシュのことが好きなのか?」

『……えっと』

「お前が好きならそのまま告白すればいいだろう。成功率100%以上は固いぞ」

『マシュのことは……』

 

 どうなのだろうか。大切な後輩。ずっと傍に居てくれた存在。

 嫌いなはずがない。でも、異性として見たときは分からない。

 

『俺はジャンヌのことが……』

 

 好きのはずだ。だというのに、最近は彼女のことを考えるとマシュの顔がチラつく。

 自分の心が分からない。ジャンヌのことが嫌いになったわけではない。

 不純だけど、マシュもジャンヌも好きだ。

 

「あの人間要塞を選ぶのなら、マシュにはハッキリと別れを告げてやれ」

『でも……』

「ぐだ男君、希望を絶たれることは確かに辛いことです。ですが、希望をチラつかせながら絶望させないというのは、それ以上に残酷なものです」

 

 天草の言葉に何も言い返せなかった。

 希望と絶望を交互に与え続ける。それは最も残酷で不誠実なことだ。

 

「仮に絶望するのだとしてもだ、一度底につけば後は上に上がるだけだ。その原動力が復讐(・・)か愛かはわからんがな」

 

 エドモンがため息をつきながら語ってくれる。

 絶望の果てに生まれる希望もあるのだと。

 

「俺の勝手な考えですまないが……。何かを選ぶということは、他の何かを切り捨てるということだ。選択の連続を繰り返し、本当に大切なものを守っていく。諦めるということはしたくないが……何も失わずに得ることができないというのは真理かもしれない」

 

 ジークフリートの重い言葉が脳裏に刻まれる。

 どちらか片方を選べば、もう片方は捨てるしかない。

 これが正しいこととは思いたくない。でも、選ばないことは許されないだろう。

 

『一人を選ぶか……』

 

 この世に一人しかいないどちらかを選ぶ。

 そう、それが俺に迫られた選択だ。

 

『ありがとう、三人とも。しっかり考えて答えを出すよ』

「フ、なるべく早くするんだな。相手が待ってくれるとは限らんぞ?」

 

 ニヒルな笑みを浮かべながら、エドモンが肩を叩いてくる。

 確かに、急がないとどうなるかはわからない。二人ともすごく可愛い子なのだから。

 

「この時期ですと、クリスマスパーティーがあるので、そこまでに決めるのはどうでしょうか?」

『そうだね、ありがとう、天草。ところでなんでクリスマスを押してるの?』

「サンタには縁がありますので、ええ」

 

 どこか怪しげな笑みを浮かべる天草に首を傾げる。

 まあ、特に悪いことにはならないだろうので見て見ぬふりをする。

 

「クリスマスパーティーか……」

『何かあるの、ジークフリート?』

「いや、そのだが……クリームヒルトという女性に誘われていてな。俺のような冴えない男が連れ立って、彼女の評判を下げてしまわないか心配でな」

『いや、ジークフリートはイケメンだから自信持ちなよ』

 

 何やら既に予定が入っているらしい、ジークフリートの背中を押す。

 相手の女性がどんな人かは分からないが、ジークフリートなら大丈夫だろう。

 

「人の心配をするとは案外余裕があるな。いや、お前らしいがな」

『エドモン……それは言わないでよ』

 

 皮肉気な冗談に苦笑いしながら三人と一緒に校舎に戻っていく。

 マシュとジャンヌ、俺が本当に好きな人は……。

 

 

 

 

 

 どうしましょう、先輩に嫌われたかもしれません。

 ああ……息をするのもおっくうです。

 

「少し一気に攻めすぎたのでしょうか……」

 

 デートの後から先輩の態度がどこかよそよそしい。

 やはり、私にアドリブは早すぎたのでしょうか。

 

「でも……本当に先輩に嫌われているとしたら」

 

 考えただけで吐き気がする。

 先輩のいない世界なんて想像したくもない。

 もしも、そんな世界になるのなら、いっそ―――■■■しまいたい。

 

「…! 先輩の気配がします……」

 

 思いつめていたところで先輩が近づく気配を感じ取り、とっさに隠れる。

 

『あれ? マシュの声が聞こえたと思ったんだけどな……』

 

 キョロキョロと辺りを見回して私を探す先輩。

 よかった、きっと私は嫌われていないんだ。

 そう思って姿を現そうとした時だった。

 

「あ、ぐだ男君。何をしているのですか?」

『あ、ジャンヌ』

 

 ジャンヌさんが現れた。

 足を止め、様子を観察することに変更する。

 

『いや、さっきマシュが居たような気がして』

「マシュさんですか? 私は見ていませんが……」

『気のせいだったのかな…?』

 

 どこかぎこちない笑顔を浮かべて、ジャンヌさんと会話をする先輩。

 なんでしょうか、どこか緊張しているような。

 知らない……私が見たことのない顔だ。

 

「そう言えば、ぐだ男君はクリスマスパーティーはどうするつもりですか?」

『え? えーと……』

 

 クリスマスパーティー。カルデア学園が主催で行われるクリスマスの催し。

 毎年様々なイベントが開催され、大変な人気を博している。

 そして、そこで告白したカップルは一生添い遂げるというジンクスがあります。

 

「私はオルタを誘ったんですが、断られちゃって」

『そ、そうなんだ』

 

 クリスマスパーティー、ジャンヌさん、緊張した先輩。

 これらから道にき出される解は……ジャンヌさんを誘おうとしている。

 きっと…そうですね。―――私じゃない…っ。

 

「最近反抗期なんでしょうか。昔みたいにお姉ちゃんを慕ってくれなくて困っているんです」

『ジャンヌ・オルタは照れ屋だからね』

 

 先輩の口から私以外の女性の名前が出る。

 それも別の女性と会話をしながら。

 心の中を何かがのたうち回る。焼けるような痛みが胸を焦がす。

 ああ……ようやく分かりました。先輩は私のことが嫌いじゃないんだ

 ただ―――私を見てくれないだけ。

 

「あ、そう言えば職員室に宿題を提出しに行く途中でした。それでは」

『あ、ジャンヌ…』

「はい、なんでしょうか?」

 

 苦しい、苦しい、苦しい。

 きっと先輩は、私以外の人を……選ぶんだ…ッ。

 こんなに…こんなに…好きなのに…!

 

『………いや、何でもない。ごめん、引き留めて』

「? はぁ、分かりました。何かありましたらいつでも言ってくださいね」

 

 去っていくジャンヌさんの後ろ姿を見つめながら、先輩は何かを決めたように頷く。

 もう、決めたのでしょう。私ではなくジャンヌさん(・・・・・・)を選ぶのだと。

 私じゃない…私じゃない…ッ。私じゃないッ!

 

『……と、そろそろ教室に戻らないと』

 

 先輩が私の隠れている場所まで近づいてくる。

 だから、諦めて姿を現す。

 私が私でいられるうちに。

 

「先輩……」

『あ、マシュ。ちょうどよかった、今度―――』

「今晩先輩の家に行ってもいいですか?」

 

 先輩が何かを言おうとしたが遮って尋ねる。

 普段ではありえない私の行動に先輩も驚いているが、まだ緊張しているためか、すぐに頷いてくれる。

 

『もちろん。今日は二人で料理でもしようか』

「……はい、わかりました」

『材料は買ってあるから、後は何か必要なものあったっけ?』

「そうですね、それでしたら―――」

 

 どこか先程よりも浮ついた様子の先輩は、私の瞳を見てくれない。

 ああ…でも、それでよかったのかもしれません。

 こんな目は見せられませんから。この世の全てに。

 

 

 

「―――包丁を研いでおかないと」

 

 

 

 絶望した瞳なんて。

 

 






安心してください、遂に―――タイガー道場の準備が整いましたので。


それからジャンヌ関連の短編を投稿したのでそちらも見てくださると嬉しいです。

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