FGOで学園恋愛ゲーム   作:トマトルテ

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二話:宿題

 

『直流の利点欠点と具体的利用例について1000文字以上で述べるように……』

「エジソン先生らしいと言えばらしい宿題がでたな」

 

 帰りの会も終わり開放感が漂う教室。

 その中でぐだ男は先程出されたばかりの宿題についてジークフリートと話していた。

 

『正直、交流のネガティブキャンペーンでも書かされるかと思った』

「その点に関しては流石に教師として踏みとどまったのだろう」

「でも、その場合だとテスラ先生から逆の宿題が出されそうだよね」

『確かに』

 

 そこへ入ってきたアストルフォの言葉に二人揃って頷く。

 科学のエジソンと同じく科学のテスラ。

 この二人は事あるごとに直流か交流かで喧嘩を行う名物教師だ。

 

「しかし、これを提出すれば今度のテストで最大10点加点されるというのはありがたい」

「つまり赤点になり辛いってことだよね。よーし、がんばるぞー!」

『そうだね、苦手だからやって損はないか』

 

 ぐだ男はどちらかというと文系寄りである。

 そのため理系科目の成績があまり良くないことがあるので今回の宿題は非常に助かる。

 

「あ、そろそろ帰ってヒポグリフの世話をしないと、ばいばーい!」

『じゃあね』

「ああ。さて、俺も今日は用事があるのだ。すまないが帰らせてもらおう」

『うん、またね』

 

 手を振るアストルフォとジークフリートに手を振り返しながら周りを見る。

 テスト週間になったので部活に行くこともなく帰る同級生達。

 かくいう自分も特にすることがないのでどうしたものかと考える。

 

「おい、何ボーっとしてんだよ?」

『あ、モードレッド』

 

 掛け声と共にポンと頭を叩かれ振り返る。

 勝気な釣り目と金のポニーテールと共に悪戯気な笑みが目に映る。

 クラスメイトのモードレッド。気性は荒いが面倒見が良い男友達(・・・)だ。

 

『いや、これからどうしようかなって』

「なんだお前、そんな下らないことかよ」

 

 呆れたとばかりに溜息を吐いて見せるモードレッド。

 しかし、声をかけてきたのはモードレッドなりの気遣いなのでぐだ男は気にしない。

 

『モードレッドはこれからどうするの?』

「オレか? オレは今から図書室に行くぜ。さっき出された宿題をやりにな」

『俺もそうしようかな……でも、モードレッドが図書室なんて意外』

「うるせぇな! 今回のは…ほら、あれだ。テストの点を上げられるからな。それに」

 

 恥ずかしそうに叫び返しながら理由を述べるモードレッド。

 しかし、そんな理由よりも何より。

 

 

「今回順位を上げたら父上が褒めてくれるからな!」

 

『なっとく』

 

 

 父親(・・)に褒めて貰えるチャンスだからである。

 心底嬉しそうに語るモードレッドにぐだ男は生暖かい目を向ける。

 そこでモードレッドの頬によく見ると引っ掻き傷があることに気付く。

 

『怪我してるよ、モードレッド』

「ん? ああ、猫にやられたやつだ。まあ、こんなもん唾でもつけとけば治るだろ」

 

 昼休みに木から降りられなくなった猫を助けた時につけられた傷だ。

 恩知らずな猫もいたものだと思い出してムッとしながらもぐだ男が気にしないように振る舞う。

 だが、この学校で怪我というワードを出して無事でいられる者はいない。

 

 

「怪我人ですか? 直ちに処置します」

 

 

 扉を開け放つ音が教室に響き渡る。

 ちょうど扉を背にしていたモードレッドは顔を引きつらせブリキ人形のように振り返る。

 

「か、母ちゃん……」

「モードレッド、学校では先生と呼びなさいと言ったはずです」

 

 モードレッドが母と呼んだ女性はナイチンゲール。

 保健室の先生として学校中の人間から恐れ、尊敬されている。

 美しく、仕事も真面目な彼女がなぜ恐れられているのか、それは。

 

「怪我をしたらすぐに保健室に来なさいと何度言えば分かるのですか?」

「うわあああ、母ちゃんごめんよー!」

「謝罪は後です。すぐに消毒・殺菌を行わないと……」

「もうオキシドールのバケツで、顔面ザブザブはいやだぁぁぁ!!」

 

 ずるずると奈落の底へ引きずり込まれていくかのようにモードレッドは引きずられていく。

 溺れる者のように藁をも掴もうと手を伸ばすがその手には何も掴めない。

 ただ、静寂だけが教室を支配するのだった。

 

『美しい家族愛だったね……』

「とてもそうには見えませんが…あれも一種の愛情表現なのでしょうか」

『きっとそうだよ、そう思うしかないよ、天草』

 

 少し困り顔でぐだ男の言葉に反応したのは天草四郎。

 同じクラスで生徒会の副会長を務める真摯な友人だ。

 時折100%善意でとんでもないことを起こしそうになるが本人に悪意はない。

 

『そうだ、天草これから暇? 今から宿題をやりに図書室に行くんだけど一緒にどう?』

「お誘いは嬉しいのですが、生徒会で今日中に片付けないとならない仕事があるので」

『そっか、ごめんね』

 

 どうにも今日は他の人との都合が合わない日らしい。

 ただ、ぐだ男は偶には一人で静かにやるのもいいだろうとすぐに切り替える。

 

「いえ、また機会があれば誘ってください」

『ありがとう。それじゃあ、そっちも頑張ってね』

 

 天草と別れ図書室に向かう。

 部活が休みになったせいかいつもよりも校舎が静かに感じられる。

 そのせいか不思議とやる気が湧き出てくる。

 この調子で手早く終わらせてしまおう。

 そう、ぐだ男は意気込みながら図書室のドアを開けた。

 

 

「お姉様、この本を読みましょう。きっと新しい扉が開けます」

「ちょ、そんなのどこで見つけてきたのよ! 主人公×ヒロインってこの主人公どう見ても女じゃない!?」

「愛さえあればどんな壁も乗り越えられます。そうです、例え性別の壁だとしても」

「その壁は超えちゃいけないやつでしょ!」

 

 

 そっとドアを閉めるぐだ男。彼は何も見ていない。

 そう、絵本のような柄でどこか見覚えのある少女とマシュに似た少女が絡み合った本など。

 丸の中に刻まれた18という文字など見えなかったのだ。

 

「どうされましたか。こんな場所に立ち止まって」

『うわ! ……よかった、メドゥーサさんか』

 

 突如として後ろから声を掛けられて飛び跳ねるぐだ男。

 そんな様子に無表情で首をひねるのは三年生のメドゥーサである。

 女性らしい体つきと大人びた見た目からは想像できないが三姉妹の末っ子らしい。

 もっとも、二人の姉の話をするときは何故か遠い目をするのだが。

 

「入らないのですか? 鍵はすでに開けられているはずですが」

『中に入りづらいというか……入るのを戸惑うような人が居るような』

「図書室で騒ぐ人ですか? それはいけませんね。図書委員として叱っておかなければ」

 

 ぐだ男と入れ替わりメドゥーサが扉に手をかけ勢いよく開ける。

 

 

「はぁはぁ…お姉様の体温…お姉様の鼓動…もう我慢できません」

「押し倒すな! どけ! 今すぐどけ! そして変なところを撫でるなッ!」

「あぁ…そんなに激しくされたら……困ります」

 

 

 二人の絡み合う美少女。どちらが上でどちらが下かは言わなくともわかるだろう。

 必死に抵抗するジャンヌ・オルタだがブリュンヒルデはそれすらも快楽として受け入れる。

 その百合の咲き誇る光景に顔を赤らめながらも目を離せないぐだ男。

 一方のメドゥーサは無言で二人に近づき眼鏡を外す。

 

「図書室ではお静かに」

「うっ……」

「あ……」

 

 背を向けられた状態なのでぐだ男には理由が分からないが二人の体が固まる。

 まるで蛇に睨まれた蛙のような二人。

 その様子にもう大丈夫だろうと考え溜息を吐きながら本を探しに入る。

 ジャンヌ・オルタの肌蹴たシャツの下に覗く白磁の肌をチラリと見ながらだが。

 

「因みに私はそちらもありだと思いますが、時と場所を考えてください」

「はい。今度は誰にも邪魔されない場所でお姉様と…はぁはぁ」

「少しは私の気持ちを考えなさいよ!」

 

 何やら会話が聞こえてくる気がするが自分は何も聞いていない。

 地蔵のような悟った顔を浮かべて、自分にそう言い聞かせながらぐだ男は本を探すのだった。

 

『これでも読んでみよう』

 

 適当な本を見繕い窓際に備えられた机に座る。

 そこから先は沈黙での作業だ。本を読み進め、必要な部分を紙にメモしていく。

 ペンが走る音と時計の針の進む音だけが静寂に響く。

 そんな作業を一時間ほど続けたところで隣に誰かが来た気配を感じ顔を上げる。

 

「隣座るわよ」

『どうぞ』

 

 自分と同じような本を抱えているので目的は同じなのだろう。

 しかし、先程まで別の場所で作業をしていたはずだと首をひねるぐだ男。

 その理由は続いて隣に来た人物で明らかになるのだった。

 

「隣……」

『どうぞ』

「…お姉様の隣を取るなんて……困ります」

『え?』

 

 ブリュンヒルデの凍えるように冷たい言葉に反射的に隣を見る。

 してやったりといった顔のジャンヌ・オルタ。

 ジャンヌ・オルタが座っているのは机の端。そして隣には自分。

 要するにブリュンヒルデはジャンヌ・オルタの隣に座れないのだ。

 

『席、代わろうか?』

「あら、その必要はないわ。席はまだ空いているんですもの」

『いや、でも殺意のこもった視線が……』

「い、い、か、ら! あんたは黙ってそこに座っておきなさい!」

 

 身の危険を感じサッと立ち上がるぐだ男。

 しかし、ジャンヌ・オルタは余程自身が作ったアドバンテージを崩したくないらしく。

 ガッチリとぐだ男の右腕を掴んで放さない。

 密着する肌に思わずぐだ男の心臓は跳ね上がる。

 

「ぐだ男さん…?」

『不可抗力です。離してください!』

 

 ジャンヌ・オルタから触れられたことが余程羨ましいのかブリュンヒルデの目から光が消える。

 ぐだ男の左腕を掴んで引き離すように引っ張る。

 明確な殺意を込められた腕の力にぐだ男の心臓がさらに跳ね上がる。

 

『メドゥーサさん、助けて!』

 

 助けを求め縊り殺される鶏のような声を出す。

 美少女二人に腕をひかれ奪い合いをされる夢のシュチュエーション。

 しかし、その実態は生贄or想い人につく蟲扱いである。

 

「どうかしましたか?」

『体がさけるチーズになる五秒前』

 

 声を聞きつけて来てくれたメドゥーサに簡潔に状況を伝える。

 それだけで状況を理解したのかメドゥーサは頷いて口を開く。

 

「なるほど、先に離した方が母親というわけですか」

『大岡裁き!?』

「はぁ!? だ、誰がこいつの母親なのよ!」

 

 メドゥーサのジョークなのか真剣なのか分からない言葉に思わず手を離すジャンヌ・オルタ。

 そのことにしまったという顔をするがもう遅い。

 しかし、ブリュンヒルデは固まったまま動くことはなかった。

 

「お姉様の子供…? つまり―――私達の息子」

「なんでそうなるのよ!?」

『斜め上の解釈だなぁ』

 

 想像をはるかに超えるリアクションに場が騒然とする。

 

「ごめんなさい。痛かったですよね」

『ごめん、急すぎる方向転換についていけない』

 

 自分が今まで握っていた腕を優しく擦ってくれる姿に嬉しさ以上に狂気を感じ顔が引きつる。

 今までも遠くに感じていた存在が今や地球の裏側レベルにまで遠く感じられるのだった。

 

「……ふふふ、冗談ですよ。お姉様の慌てようが面白かっただけです」

『ああ、安心した』

「それに…お姉様の隣にいられないのなら、こうすればいいだけですから」

 

 そう言ってブリュンヒルデはジャンヌ・オルタの背後から抱き着く。

 隣が無ければ後ろに立てばいいじゃない、という考えである。

 

「だから、鬱陶しいって言ってるでしょ!」

「大丈夫です。私はお姉様の後ろに居ます。朝も、昼も、夜も、ずっと、ずっーと」

『守護霊かな?』

「どっちかと言うと背後霊でしょ、これ!」

 

 堂々とした後方警備の宣言に肝を冷やしながら払いのけようとするジャンヌ・オルタ。

 しかし、どう足掻いても離れないのに諦めたのか大きく息を吐き肩を落とす。

 

「ああ…もういいわ。今日は帰るわ。それと隣でいいから背後にいるのやめなさい」

「お姉様……そういうところが素敵です」

「抱き着くのは認めてない!!」

 

 今度は隣から抱き着いてくるブリュンヒルデを引きはがしながら今度はぐだ男を見る。

 何事かと首を捻る彼に対して彼女はぶっきらぼうに目を逸らして呟く。

 

「その……悪かったわね」

『なにが?』

「何って……腕引っ張ったことよ…」

 

 酷く苦々し気な顔をしているのはやはり彼女が素直でないからだろう。

 しかし、腕を引っ張られたことは嬉しかったので問題はない。

 

『いいよ、別に。気にしてないから』

 

 笑って気にしていないと告げるぐだ男。

 その笑みに彼女はどういった顔をすれば分からないような表情を浮かべそっぽを向く。

 

「そ……なら、いいわ」

 

 それだけ言い残しブリュンヒルデと共に図書室から出ていく。

 そんな彼女の首筋が心なしかいつもより赤いような気がしたのは彼の気のせいだろうか。

 

 

「良い話のところ悪いですが、図書室で騒ぐ人にはそれ相応の罰を」

「「あ―――」」

 

 

 彼らは綺麗に纏まる話など滅多にないのだとこの日メドゥーサに教わったのだった。

 





書いていると何故かApo勢が生徒に多くなってしまった。
いや、ジャンヌとの関わりといい、年齢的にも生徒として扱いやすいんですよね。
次回はジャンヌメインで大人枠が多く出ます。

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