遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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 今回の話は、 MISSION4内の回想シーンの時系列になっております。
 諸事情により緊急で用意したので、次の話の長い前書き兼補足回と思ってください。


MISSION4.5-フィール・カードを護れ!2(幕前)

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

 

 ―ー話は少し遡り、高村司令によりアイドル護衛の依頼を持ちかけられるよりほんの少し前。

 現在時刻23:10。この日、私は少しでも賃金を稼ぐために普段は専門外の調査や支援などの事務についていた。

「といっても、何もないんだけどね」

 と、私は椅子にもたれながら半身伸びの欠伸すると、

「そう思う前に、ちゃんと手を動かして?」

 アシスタントの女の子がペンを走らせていった。細身で小柄ながら私の見立てでは間違いなく着やせするタイプで、脱いだら中々のプロポーションを持ってそう。一度剥いで確認してみたいけど、残念ながら彼女は今年15になる中学生。宗教上(?)(義務教育以下は対象外)の理由で夜のライディングに誘うにはあと1年待たなくちゃいけない。名前は確か(すみれ)ちゃんだったかな? セミロングの髪に控えめなフレアワンピース姿の、どこか憂いを感じさせる子だ。

 

 まあ、実はあの子も高村司令の娘だから手を出したら殺されるん(私の命はあと1年)だけどね。

 

 現在、ハングドは仕事不足なのにどうしてこうもスタジオミストは修羅場なんだという話題を構成員仲間たちと話してたのだ。

 スタジオミストのアシしながら。

 なお、木更ちゃんはお客様待遇の為、すでに休ませている。

「まあ、世の中を考えればハングドが閑古鳥なのはいい証拠じゃないかな」

 増田がいった。ハングドの仕事がないせいか、今日は彼も臨時アシスタントに参戦している。なお、現在の原稿はコミックL〇という成年向け雑誌に掲載するロリ物。

「うん。平和が一番、だよね?」

 さっきの女性アシがいうと、

「いやそういう意味じゃなくてな」

 と、否定する増田に、横から私が、

「まあでも平和が一番なのは違わないでしょ。私たちみたいな変態でキャラ濃すぎる人間は動いてくれないほうが世の中安心するんだから」

「あ……そういうことだったの」

 と、菫ちゃんは納得しつつ苦笑い。そこへ別の席で作業してた鈴音さんが、

「自覚してそれなのですから世話ありませんわ」

 なんて言いながら背景の完成された原稿を何枚か私たちの席に置いた。

 副代表なだけあって、原稿作業の大半を水準以上にこなせる鈴音さんだけど、彼女は特に背景のスペシャリストだ。これは業界でも有名な話らしく、スタジオミストの評判のひとつである細部に行き渡った高い画力は鈴音さんなしでは成立しないとされている。

 もっとも、製作現場に携わる側としてはもっと別のことで鈴音さん必須と思われてるんだけどね。

「鈴音ー。冷蔵庫のレッドブル取って」

 その原因筆頭である高村司令がいった。鈴音さんは困った顔で、

「位置的に霧子さんのほうが近いじゃないですか」

「嫌、メンドい」

「まったく」

 鈴音さんはため息一回に冷蔵庫へ歩いていった。そして中を確認して、

「霧子さん、レッドブル切れてますわ」

「じゃあ買ってきて」

 当然とばかりに言い放つ高村司令。鈴音さんは、さすがに半眼で、

「木更さんが作り置きして下さったお茶か水出しコーヒーで我慢してくださいませ」

「いや飲み飽きたし」

「少しは感謝というものを覚えてください」

「いや感謝はしてるってば。で、鈴音レッドブル」

「……」

 鈴音さんは頭を抱え、

「私だってまだ作業が残ってるのに。ここで私が持ち場離れたらどうするつもりなのですか」

 霧子さんは煙草をふかし、

「どうにもなんない。遅れた分だけ鈴音の負担が増えるだけ」

「嫌ですわ!」

「てか、駄々こねてる暇あったらさっさと行ったほうが得じゃん。早く用事済ませればアンタの負担も済むし。それとも私が行ってもいいけど、立ち読みで1時間は粘ってくるけど」

 さすがにスタジオミスト代表が1時間抜けるのは作業遅れるレベルなんかじゃない。その間に高村司令なしで進めれる作業を済ませるって考えもあるけど、鈴音さんはとにかく間に合う人なのだ。そんな作業、もう殆ど終わっている。

「もう分かりましたわ! 行けばいいのでしょう行けば」

 鈴音さんは血涙で嘆きながら、ロッカーからバッグを取り出す。そんな鈴音さんに私はいった。

「お疲れ、鈴音さん」

「沙樹……」

「じゃ、私コーラね」

「沙樹までですか!?」

 同情でもして貰えたと思ったのかな? 嘆き悲しむ鈴音さん。すると増田も便乗し、

「なら俺はスポーツドリンクで。……君は?」

「え、じゃあミルクティーで……あ!?」

 つい言ってしまった菫ちゃんは慌てて、

「わ、私は大丈夫だから……」

「もういいですわ。もうここまできたら3つも4つも同じですもの」

 鈴音さんは疲れた様子で玄関のドアノブに手をかけ、

「あ、鈴音。ついでに玄関前のゴミ袋出しといて」

 霧子さんまさかの追い討ち。私より酷い。

 結果、鈴音さんはちゃんと買出し前にゴミ出しを済ませていった。それも、作業の邪魔にならない程度の掃き掃除と飲み終えたペットボトルの回収までして。

 おかげで机の上が片付き、みんなの作業効率はグンとアップ。

「そんな風に雑用にも気を利かせ過ぎるから」

 私は作り置きの水出しコーヒーをコップに人数注ぎながら思った。

 鈴音さんってとにかく間に合う人なのよね。それも仕事に限らず雑用や経理にすべてに至って。背景描写の画力を除けばどれも特化してるわけではないんだけど、何でも任せられ、痒い所に手が届く。いや届きすぎちゃう。

 だから、みんなついつい鈴音さんに甘えちゃうのよ私含めて。それがさっきの「もっと別のことで必須と思われてる」部分。

 実際、高村司令は鈴音さんをあごで使ってるし、便乗して私や増田もパシリに使ってる。だけど、誰ひとりとして彼女を本気で下にみてたり嘗めてかかってる構成員はいやしない。

 だって、みんな一度は彼女に相談に乗って貰ってるし、数えきれないくらい借りを作ってるもの。そもそもハングドやスタジオでの必要性は高村司令より鈴音さんと思ってる人多いんじゃないかな、高村司令が無茶苦茶に組んだスケジュールを調整・管理するのも鈴音さんだし、金銭の出入りも実質鈴音さん管理、高村司令の浪費や暴走を最後の一線でコントロールしつつ構成員の福利厚生に手をまわすのも鈴音さん。

 私たちにとって、鈴音さんは給仕から副代表・秘書・会計まですべてこなす実質的な組織の裏ボスなのよ。

 何より、ほんとハングドの常識人って彼女だけだし。仮に目の前の菫ちゃんや木更ちゃんを含めたとしても。(特に後者は「MISSION2」でご存知の通り)

 それから30分以上が経過し、

「すみません戻りましたわ」

 と、鈴音さんが戻ってきたのと、

『終わったーーーっ!!』

 パソコンからの入稿を終え、メンバーが一斉に叫ぶのはほぼ同時だった。

 現在時刻23:55、締め切りが23:59なので何とかギリギリ間に合ったって所。

「間に合ったのですか。お疲れ様ですわあ」

 そして、鈴音さんもまた修羅場からの解放をきいて心底ほっとしたようにいう。

「遅かったじゃん、なにかあったの?」

 高村司令がいった。確かに、生真面目な鈴音さんがわざと時間を潰して戻ってくるとは考え辛いのよね。

「ええ、仕事に捕まってしまいまして」

「仕事?」

「はい。入ってくださいませ」

 誰かを外で待たせてるらしい。鈴音さんは戸を開けると、奥からひとりの女性が入ってきた。

「失礼する」

 黒のロングヘアに凛とした風貌。長身で上からトレンチコートを羽織ってるも下はへそ出しのタンクトップで、割れた腹筋と豊満なバストのアスリートじみたわがままボディを見せつけてくれる。年齢は恐らく20代前半かな。まだ若いけど、学生ではなさそう。

「最大討伐対象発見」

 高村司令がボソリといった。その瞳にはゆらめく闘志が濁って映る。そして、奥の指定席から立ち上がると、

「巨乳撲滅、氏ねええええええ!!!」

 と、いきなり客に殴りかかりだした。

「そうくると思いましたわ」

 鈴音さんが《ハンマーシュート》を発動し振り被る。が、それより早く女性は一歩前に出て、クロスカウンターで逆に殴りとばす。

「ごふっ」

 高村司令は背中から作業机に衝突し、反動で前方へヤムチャ倒れ。

「……。…………申し訳ありません、大丈夫でしたか?」

 鈴音さんは、一度呆然と立ち尽くした後、女性に頭を下げる。

「問題ない。ハングドの司令が一部の女を前にすると迎撃に走るのは有名だからな」

「寛大な配慮感謝しますわ」

 鈴音さんはほっと胸を撫で下ろした。

 高村司令の趣味は巨乳狩りである。

 大まかな基準は目視と気分次第ながら大体Dカップ以上の女性を見つけると、司令は真正面から飛び掛るか、気配を消し背後から物音立てず近づいて奇襲をしかけようとする。とはいえ、大抵は怪我を負わせるのではなく背後から怨恨込めて胸をもぐ程度。私がいうのも変だけど、その辺の分別はできてるみたい。

 鈴音さん曰く、本気で殺意を持ってるわけではなく、あくまで性質の悪いライフワークらしいのだけど。胸部の膨らみが皿ほどもない司令だし、たぶん過去に何かあったのだろう。

 まあ、とりあえず私がすべきことは。

「すごいわね、司令を返り討ちにするなんて。事前に知ってたとはいえその様子だと初見でしょ?」

 と、女性の前に駆け寄り、まじまじとそのえろい肢体を眺めつつ、

「けど相当血の気が強そうね。どう? 用事はあると思うけど、まずはその昂ぶりを静めてかない、ベッドの上で」

「その様子だと、貴方が鳥乃 沙樹か?」

「知れ渡ったものね私の名も。そ、大正解」

 なんていって、私はおもむろに女性のおっぱい鷲づかみ――。

「うん。ナイスおっぱい」

「天誅!」

 ――した所で、女性は私の脳天にげんこつ一発。

「あぎっ」

 私は殴られた衝撃であごから床に崩れる。な……なんて馬鹿力。

「おや、永上(ながみ)じゃないか」

 増田がいった。すると女性は、

「お、久しぶりだな。噂には聞いていたがやはりハングドに所属してたか」

「まあね」

「え、増田知り合い?」

 たんこぶを撫でながら起き上がり聞くと、

「まあ。前の職場でペア組んでたんだ」

「そういえば、増田てこっちくる前何してたの? 今更だけど」

 すると女性こと永上さんは、

「刑事だ」

 と、いった。

「え?」

 予想を超えすぎた答えにきょとんとする私。永上さんは続けて、

「どたばたして自己紹介がまだだったな。私は警視庁特捜課の永上 門子(ながみ かどこ)。そこの増田とは以前までペアを組み、共に事件に立ち向かいあった元相棒の関係にある」

『えええええええっ!』

 室内に驚愕の声があがる。発してないのは当事者ふたりと、鈴音さん高村司令の計4人くらい。

 増田が不満そうにいった。

「みんな俺のことどう思ってるんだよ」

 なので、私たちは思い思いに、

「ロリコン」「エロゲ廃人」「性犯罪予備軍」

「おい」

 増田はさらに不満気だ。

「とりあえず永上様お座りくださいませ」

 鈴音さんが来客用のソファを指していった。

「すぐにお茶を用意しますわ」

「ありがとう」

 永上さんがソファに腰かけると、

「悪かったわね、用件を聞くの遅れてさ。ウチのモンみんなカオスだから」

 と、対面の席に司令が座りいった。

「いや真っ先に用件聞くタイミング消し飛ばしたの司令じゃ」

 私はいうも、

「で、早速特捜課がウチにきた理由を聞いても?」

 完全にスルー。

「ハングドに依頼したいことがある。それも緊急で」

「詳しく話を聞かせて? 増田、鳥乃。録音と調査の準備お願い」

『了解』

 指示を受け、増田は即座にノートパソコンを広げて司令の隣に座る。同時に私も録音機を起動。

 永上さんはいった。

「ルートは不明だが、ある近辺のデュエルギャングがフィール・カードを手にしてしまったらしく、悪戯に力を行使して暴動を始めている。ハングドには、民間人に被害が及ぶ前に至急彼らを殲滅及び鎮圧して欲しい」

 すると、司令は鈴音に買わせたレッドブルを飲みながら、

「なるほどね。特捜課が動けるのを待ってるのでは間に合わないと」

「ああ。しかも私たちでは鎮圧はできても殲滅はできないからな」

「ま、そういう意味では確かに私たちのほうが適任ね」

 司令がうなずく。そこへ鈴音さんがお茶と茶菓子を持ってやってきたので。

「鈴音、早速だけど大急ぎで依頼書作成して」

「分かりましたわ」

 うなずく鈴音さん。そこへ増田が、

「もう大体は済ませたけどね。いま立花(鈴音さんの苗字)さんのパソコンにデータ送ったから最終確認だけお願いしても?」

「助かりますわ」

 鈴音さんは自分の席に戻り、パソコンをちょちょいと操作。程なくしてプリントを1枚永上さんの前に出し、

「こちらが今回の依頼に関する規約になりますわ。一度目を通して頂き、問題なさそうでしたら続けて値段の交渉に――」

 こうして、増田、鈴音さん、高村司令3人による依頼の交渉フェイズが始まった。その間、私は少し暇になってしまったので木更ちゃんの寝室に堂々侵入しようかなと考えてた所、

「……」

 ひとり、眠たそうに首をこっくりこっくりさせる子を見つけた。例のアシスタントの女の子、菫ちゃんだ。

 私は鈴音さんが買ってきたミルクティーを彼女の前に置いて、

「菫ちゃんて、確か今日ハングドは非番だったよね?」

「うん……」

 菫ちゃんは消え入りそうな声でうなずいて、

「原稿が終わったら、お母さんか鈴音さんに家まで送ってもらうはずだったんだけど……」

 と、交渉に入っちゃった自分の母親をチラと見ながら。

「送ろっか?」

「え?」

「いやまあ私もあの交渉が終わるまで暇だろうし、何より可愛い女の子が辛そうなのにノータッチなんて無理でしょ。私レズだから」

 と、私は高村司令に、

「司令、鈴音さん、私ちょっと菫ちゃん家まで送ってくわ。任務開始までには戻ってくから」

 そこでふたりは初めて思い出したのか、

『あ』

 って、なって。

「じゃあ頼むわ鳥乃、そう高くは出せないけど一応依頼扱いって事にしとくから」

 つまり小遣い程度の金銭は発生すると。ラッキー。

「司令、助かるわ。じゃ菫ちゃん行こう」

 私は菫ちゃんの手を引き、

「あ、うん。……じゃあ、私はお先に失礼するね。おやすみなさい」

 菫ちゃんは一回メンバーに挨拶してから、事務所を後にした。

 既に0時を過ぎた深夜。繁華街の外れに位置してるせいか、外は明かりも車の通る気配もなく暗闇が広がっている。

「沙樹ちゃん、お家まではちょっと歩くけど大丈夫?」

 菫ちゃんはいった。私は笑って、

「大丈夫よ。車より早く移動するから」

「え?」

 首をかしげる菫ちゃん。私はデュエルディスクにカードを2枚読み込ませ、いった。

「召喚、《幻獣機レイステイルス》! そして装備魔法《巨大化》!」

 私たちの前に一機のエイ型のステルス機のモンスターが出現し、《巨大化》によって実際の小型航空機程度のサイズに変化する。

「あ!?」

 ここで意図に気づきはっとなる菫ちゃん。

 私はコクピットを開けていった。

「じゃ、乗って」

「う、うん。じゃあ、お邪魔します」

 おずおずとモンスターに搭乗する菫ちゃん。とはいえ、

「中々浪漫でしょ、飛行機に乗って帰るって」

「うん……」

 と、首を振る菫ちゃんは、控えめな態度ながら興奮を抑えきれてない。

 私は「1年後だったら夜のフライディングできたのになあ」なんて思いながら、レイステルスを運転した。

 

 菫ちゃんを送り届け、同じレイステルスで事務所に帰還した私。

 そこで見たのは、駐車場でまさにいまDホイール(デュエル機能を搭載したバイク)に跨ろうとする高村司令と鈴音さんの姿だった。

「え、ちょっと待って司令どこ行くの?」

 私は慌ててコクピットを開けふたりに訊ねると、

「何って任務に決まってるじゃん」

 当然とばかりに言い放つ高村司令。

「いや決まってるって言われてもあなた組織のトップじゃない。鈴音さんどういうこと?」

 さすがに動揺しちゃった私は、今度は鈴音さんに聞いてみる。常識人の彼女なら私の心情を察してちゃんと説明してくれるはず。

「あ、沙樹。霧子さんの暴走を止められなかった私を許してくださいませ」

 鈴音さんは生気のない瞳でいった。

「いまから私たちは、修羅場開けの打ち上げに行ってきますわ。あなたは直ちに事務所に戻り、支援に入ってくださいませ」

「……。…………って、いやいやいや待って待ってちょっと。もう少し概要教えてよ」

 アカン。鈴音さん心がポキポキに折れて説明能力が欠けちゃってる。大体、司令が暴走し鈴音さんが止めに入るも失敗し巻き込まれたんだな、といったことは分かるけど。

「ってわけで、ちょっと行ってくるわ」

 司令に至ってはこれ以上説明する気さえなく、エンジンをかけ走り出してしまう。

「あ、待ってくださいませ。ごめんなさいですわ、余裕があれば移動中に通信で説明しますけど、無理そうでしたら増田さんより聞いておいてくださいませ。行ってきますわ」

 そして、鈴音さんもそう言ってからDホイールで司令を追いかけた。

 私は、ほんの数秒ポカンと立ち尽くすも、

「ただいまー」

 と、事務所に帰還。

「おかえり」

 パソコンに向かったまま増田がいった。

「早速だけど、永上からの任務がもう始まってる。至急準備してくれ」

「あー。やっぱり任務ってあれだったのね」

 見ると、すでに永上さんの姿はなかった。ハングドとしての内側を簡単に見せるわけにはいかないので、今日の所はお引取り願ったのだろう。

 と、思ったら。

「ああ、ちなみに永上は、マスク姿のナガカド仮面を名乗って現地で集合、加勢してくれるらしい」

「……え?」

 ……。…………ま、まあいいや。

 私もまた自分の席に座ってパソコンを起動した。「mokkori」とパスワードを打って専用のプログラムを起動すると、鈴音さんを背後から追いかけた映像が映し出される。

「鳥乃 沙樹。いまから任務支援に入ります」

 映像先とは無線マイクで繋がってる。私はマイク連結型のD・ゲイザーを装着していうと、

『鳥乃構成員からの受信を確認。よろしくお願いしますわ、沙樹』

 と、鈴音さんからの返事が届く。

『増田さんから話は?』

「まだ。現地で永上さんが加勢するって聞いたくらい」

 すると、

『逆にそれこっちが初耳なんだけど』

 と、高村司令から返事が。

「あ、悪い。言ってなかった」

 増田はいった。鈴音さんは呆れた声で、

『次回からは情報共有をしっかりお願いしますわ』

 それに対し私は、

「私への概要説明を疎かにしたのは誰だっけ?」

『ゴフッ』

 鈴音さんのDホイールが右に傾き、危うく事故になりかける。

「って、おいおい大丈夫ですか鈴音さん」

 増田がいうと、

『え、ええ。連日の修羅場と霧子さん相手のストレスで発狂寸前ですけど、何とかギリギリ踏みとどまってますわ』

 そこへ司令はしれっと、

『だからストレス解消に連れ出したんじゃん』

『素直に休ませてくださいませえええええ』

 無線越しに鈴音さんの嘆き絶叫が響き渡った。

「とりあえず増田、司令。一応どうしてこうなったのか概要を教えて。なんで緊急の任務で組織のトップ組が直々に出撃してるのか」

 私が改めて訊ねると、司令は『ああ』と。

『いやマジで修羅場から生還した打ち上げに任務という肩書きの下、ギャングを殲滅してストレス解消しようってだけなのよ。他意はない』

「え、本当にそれだけで組織のトップが直々に動いちゃってるの?」

『ええ。阿呆らしいことに』

 疲れ通り越して死にそうな声で鈴音さんはいった。

「少なくともうちらのボスにとってはな」

 と、増田も同意しながらいう。……ん? 司令にとっては?

「じゃあ司令以外にとっては?」

「相手はデュエルギャングとはいってもフィール・カードの持ち主。それを殲滅しろとなると、どう考えても多勢に無勢だ。となれば、それなりに多くフィールを持ち高い実力を持った精鋭が向かわないと数の暴力でじわじわフィールを消費させられ返り討ちになってしまう。だから、非番のメンバーに救援を呼ぼうとしたんだけど」

『私が司令の権限で却下し、鈴音連れて今に至るわ』

 司令は鈴音さんの前を走り、彼女に向けてグッと親指を立てる。

『ふ……フフフ……』

 あ、やばい鈴音さんが壊れた。

「まあ、そんなわけだ。司令と鈴音さんならこれ以上ないほど問題ないしな」

 増田は言いながら「そう納得しとけ」と目で訴える。ああ、鈴音さんと一緒で彼も「説得の末に心がポキポキ」なのね。

『霧子さん、確か先ほどストレス解消のために連れ出したと(のたま)われましたわよね?』

 って、なんて増田の話を聞いてる間に、鈴音さんいまにもDホイールで司令にアタックでもしそうな程接近してるんだけど。

『いや、まあ、否定はしないけど』

 と、司令はいいながらも速度を落とし逃げようとするけど、すぐさま鈴音さんも同じようにして司令を追いかける。確かにさっき鈴音さん壊れてたけど、想像以上にヤバい状態だった。

 明らかに危険な状態の鈴音さん。一体何をする気なのかと思ったら、

『でしたら霧子さん、永上さんと合流する前に一度デュエルしませんか?』

『は?』

 意外な言葉に、司令だけでなく私や増田もきょとん、としてしまう。

 鈴音さんは続けて、

『スパーリングですわ。沙樹たちと違って私たちは毎度毎度出撃してるわけではありませんもの、いきなり実戦の前に一度肩慣らししたほうがいいのではないですか?』

『あ、ああそういえばそうね』

 司令は怪訝な顔を残しつつも頷き、

『じゃあ、ちょっと付き合ってくれる? 鈴音』

『分かりましたわ』

 と、ふたりはDホイールに搭載されたデュエルディスクを起動しだした。

 私はどっと疲れを感じながら、

「増田。止めなくていいの?」

「緊急デュエル終了プログラム。いつでも起動できるようにしておこう」

 増田はいった。そして、もう諦めた様子で、

「普段限界以上に溜め込んでる鈴音さんが爆発したんだ。俺たちに止められるはずがないだろう」

 

 

高村 霧子

LP4000

手札5

 

立花 鈴音

LP4000

手札5

 

『先攻は頂きましたわ』

 デュエルが始まった。鈴音さんはDホイールを走らせたままいうと、

『私はモンスターをセット、さらにカードを2枚セットしてターンを終了しますわ』

 恐らくオートパイロットに切り替えてるとは思うものの、鈴音さんはDホイールを片手運転しながらデュエルディスク部分にカードを3枚差し込み、残りの2枚をDホイールのホルダー部に挟む。

 そういった動作をモニターから確認した際、私は鈴音さんのフィールドに《スピード・ワールド-ネオ》が発動されてるのに気づいた。

 Dホイールに乗って行うデュエルには、通常のルール以外に、Dホイールに内蔵されてる専用のフィールド魔法を用いて行う決闘疾走(ライディングデュエル)というものが存在する。《スピード・ワールド-ネオ》はその内の1枚であり、現状最も制約のないスタンダードな決闘疾走を行うためのカードだ。

 例えば今回の決闘疾走ルールだと。

 ・レースのように同時にスタートし、デュエルの先攻後攻の決定権は指定されたラインを先に通過した者が取る。

 ・勝利条件は「相手LPを0にすること」「指定のゴールを先に通過すること」「相手のD・ホイールを走行不能にすること」とする。

 ・スピードカウンターの代わりにターン数を参照として「Sp(スピードスペル)」魔法カードを使用できる。

 ・決闘疾走に命を賭ける伝説の痣を持つ者を5D'sと呼ぶこと。

 といった感じだったはず。いや、まあ最後のはあってもなくてもいいんだけどね。

「(あれ?)」

 私はふと気づいた。ってことは鈴音さん、先に指定されたラインを抜けたってこと? 司令って確かバイク技術すっごく高いのに。

『私のターン、ドローするわ』

 そしてその司令のターン。

『私はまず手札から《光波追走(フォロー・サイファー)》を発動するわ』

 司令がまず使ったのは1枚の永続魔法。

『このカードは、1ターンに1度、私が光波(サイファー)モンスターを召喚・特殊召喚した時、デッキから同名カードを1枚手札に加えるわ。続けて手札から《光波翼機(サイファー・ウィング)》を召喚。《光波追走(フォロー・サイファー)》の効果でデッキから2体目の《光波翼機》をサーチ。そして《光波翼機》は私の場に光波(サイファー)モンスターがいるなら手札から特殊召喚できるわ。この効果で2体目の《光波翼機》を特殊召喚』

 司令の場に、一気にレベル4のモンスターが並んだ。

『更に永続魔法《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》を発動。そしてバトルフェイズ! 1体目の《光波翼機》でセットモンスターに攻撃』

 2体のうちの1体が、鈴音さんのセットモンスターに飛び掛かる。裏側のカードのビジョンから機械武装した二足歩行のサイが姿を現し、モンスターの衝突を受け破壊される。

『セットモンスターは《TG ラッシュ・ライノ》。守備力は800ですから、攻撃力1400の《光波翼機》には敵いませんわ』

『なら、続けてもう1体の《光波翼機》で鈴音に直接攻撃。ここで《光波干渉》の効果発動、このカードは同名の光波(サイファー)が2体以上いるならその内1体の攻撃力をバトルフェイズ終了時まで倍にするわ』

 

 《光波翼機》 攻撃力1400→2800

 

 ここでいきなり攻撃力2800でダイレクトアタック。しかし、鈴音さんは伏せカードを1枚表向きにして、

『通しませんわ。罠カード発動、《バトル・スタン・ソニック》! 相手モンスター1体の攻撃を無効にし、手札のレベル4以下のチューナー1体を自分フィールド上に特殊召喚しますわ。私は《TG サイバー・マジシャン》を特殊召喚』

 鈴音さんのフィールドに、鎧にもなりそうな機械のローブを身に纏った少年モンスターが出現し、《光波翼機》の攻撃が止まる。

『さらに、手札の《TG ワーウルフ》も特殊召喚。このカードはレベル4以下のモンスターが特殊召喚に成功した時、手札から特殊召喚できるカードですわ』

 続けて、左腕が肩まで機械に変わった人狼が姿を現す。

『チッ、バトルフェイズは終了よ』

 少し不機嫌そうに司令はいった。そして、

『まあいいわ。じゃ先にフェイバリット出させて貰うから』

 え、ここで!?

『私は永続魔法《二重露光(ダブル・エクスポージャー)》を発動しその効果を使うわ。同名モンスター《光波翼機》2体のレベルを倍の8に。そしてレベル8となった《光波翼機》2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!』

 Dホイールで移動したまま、その前方に銀河の渦が出現すると《光波翼機》は霊魂となって取り込まれ、光の柱が夜空に伸びる。

『闇に輝く銀河よ。狩猟の鬼神に宿りて我がしもべとなれ! 巨乳撲滅、慈悲はない! エクシーズ召喚!殺れ、ランク8!《銀河眼の光波竜》!』

 光の中から出撃したのは1体のドラゴン。その攻撃力は3000。

 って、鈴音さん相手なのにその口上なのね。っと思ったら。

『鈴音。最初のレースで私から先攻をもぎ取ったり、私に1キルされないよう運命力を操作したり。使ったわねフィールを』

 えっ!?

 最初のレースを見逃してたのもあって、私が驚いてると。

「うん、彼女はほんの少しだけどフィールを使ってたよ」

 と、増田がいう。

『ええ。私とあなたの実力の差は昔から開く一方、フィールを使わないと練習相手にもならないでしょう』

 って鈴音さんはいうけど。フィールを用いだした時点で、このデュエルは敗者のフィールが空になっちゃうのに。

「鈴音さん何やってるのよ。まだ本番前なのに仲間割れみたいなこと、らしくない」

 私がいうと、

『仲間割れ、か。……なるほどね』

 と、司令はつぶやく。そしていった。

『やっぱそういう事なのね、鈴音』

『ええ』

 と、鈴音さんはうなずく。いや一体どういうこと?

「一応説明してくれないか? プライベートならともかくいまは任務中だ。差し障りがなければ俺や鳥乃も事情を知る権利がある」

 増田がいってくれた。良かった、私も気になってたし状況が意味フ状態だったけど上手い聞き出し方が浮かばなかったのよね。

『いいわ。じゃあ教えてあげる』

 司令はいった。なぜか鈴音さんに敵意を向けながら、

『コイツは……立花 鈴音は。寝返ったのよ、巨乳派に』

「……へ?」「……へ?」『……へ?』

 私たちは全員変な声をだした。増田も、そして当事者である鈴音さんも。

 しかし、司令はスルーして、

『そして鈴音は、依頼に同行する口実を作って私を外に連れ出し、助けが入り辛いライディングデュエルで私を始末しようとしてる。巨乳の狩猟者であるこの私を』

『い、いえちょっと待って下さいませ』

 鈴音さんは慌てて、

『どうしてそうなるのですか? 確かにライディングデュエルに誘ったのは私ですけど、依頼に連れ出したのはあなたじゃないですか。それも強引に』

『黙って、髪型だけ豪華な凡人』

 ひ、酷い。

『思えば、そのデュエルを誘った際の不可思議な態度。アンタがあの程度でキレた時点で察するべきだったのよ』

『ただの眠気とストレスと深夜テンションのトリプルパンチなだけですわ!』

 あ、深夜テンションも混ざってたのねアレ。

『それに……』

 と、鈴音さんは何か言いかけるも、

『そう……。鈴音アンタ、昨日冷蔵庫にあったコンビニのプリンパフェを勝手に食べたのをそんなに』

『関係ありませんわ! って、やっぱりそれ貴方だったのですのね!』

『じゃあ、一昨日アンタが仮眠取ってる間に財布から福沢諭吉1枚を死ぬまで借りたこと?』

『え? あ、本当ですわ1枚足りない!?』

『なら。……ま、まさか。気づいてたっていうの? 今回のL○に出す漫画のモデル、アンタの娘の紗瑠(しゃる)だってことに』

『んなあああアア■■■■■■■■■■■ーーー!!!』

 あ、鈴音さんついに狂戦士(バーサーカー)に。

 さすがの司令もそれには驚き(?)

『す、鈴音? だだ、誰よ鈴音をこんなにしたのは』

■■■■■■■(あなたのせいだ)ーーー!!!』

 再び咆哮をあげる鈴音さん。うん、まともな発音はしてないけど、なんとなく意味や意図がすっごく分かる。

『とりあえず鈴音をデュエルで鎮めないと。カードを1枚セット、ターンを終了よ』

『■■■■■■■■■■■ーーー!!!』

 鈴音さんは咆哮をあげると、場に破壊された《TG ラッシュ・ライノ》が半透明の姿で出現し、デッキから《TG ストライカー》を1枚引き抜かれる。

「要約すると、《TG ラッシュ・ライノ》の効果発動。このカードは破壊され墓地へ送られたターンのエンドフェイズ時に、ラッシュ・ライノ以外のTGをサーチする。この効果で《TG ストライカー》を手札に加えた、かな?」

 増田が解説すると、鈴音さんは首を縦に振って同意する。どうやら少しずつ冷静に戻ってきてるらしい。

 って、鈴音さんのデュエルディスクあの咆哮から正しく音声認識したの!?

『■■■ーーー、私ノ…ターン! ですわ!』

 そして、まともな発音を取り戻し、ぜえぜえと息をする鈴音さん。よかった、何とかバーサーカーから脱却できたらしい。

 司令はほっとした顔で、

『やっと戻ってきたわね凡人』

『戻ってきた途端それですか!?』

『いやあんな簡単にバーサーカー堕ちした裏切り者の小物なんて凡人で十分でしょ』

『ですから別に裏切り者でも何でも』

『ところで、「おれは しょうきに もどった」とか言わないの? 立花 カイン』

『もう裏切り者でいいですわーーーーっ!』

 再び嘆き叫ぶ鈴音さん。不憫。

『とりあえず続けますわ。私は手札から《TG カタパルト・ドラゴン》を召喚、効果で《TG ストライカー》を特殊召喚ですわ!』

 《TG カタパルト・ドラゴン》には、1ターンに1度、手札からレベル3以下の「TG」チューナーを特殊召喚する効果を持っている。

 しかし、これで鈴音さんは一気に手札を2枚全部使い切ったことになる。さっきまでの鈴音さんを見たせいかな、何だかヤケクソに展開してるように見えたのは私だけ?

『いきますわ。私はレベル3《TG ワーウルフ》にレベル2《TG ストライカー》チューニングですわ!』

 《TG ストライカー》の体が2つの光の輪に変わると、その間を《TG ワーウルフ》が潜る。ワーウルフの体は3つの光に変わり、輪と交わって強く発光した。

『リミッター解放、レベル5!レギュレーターオープン!スラスターウォームアップ、OK!アップリンク、オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモンですわ、《TG ハイパー・ライブラリアン》!』

 こうして出現したのは、一冊の本を持った魔術師の姿。

『続けてリバースカードオープン! 《TGX3-DX2》を発動しますわ。私の墓地から《TG ストライカー》《TG ワーウルフ》《TG ラッシュ・ライノ》をデッキに戻し、私はカードを2枚ドローですわ』

 ヤケクソな展開に見えてそうでもなかった。鈴音さんはシンクロ召喚を利用して墓地のモンスターを肥やし、《TGX3-DX2》の発動に繋げてきたのだ。

『そして《TG サイバー・マジシャン》は、TGモンスターのシンクロ素材に使用する際、手札のTGを使うことができますわ。私はレベル1《TG ドリル・フィッシュ》にレベル1《TG サイバー・マジシャン》をチューニングですわ』

 今度はサイバー・マジシャンが光の輪に変わり、手札から出現したドリル・フィッシュが潜って混ざり合う。

『リミッター解放、レベル2!レギュレーターオープン!ナビゲーション、オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモンですわ、《TG レシプロ・ドラゴンフライ》!』

 立て続けに2度目のシンクロ召喚。そして、

『ここで《TG ハイパー・ライブラリアン》の効果発動。このカードは誰かがシンクロ召喚に成功した場合に、カードを1枚ドローしますわ』

 と、鈴音さんはカードを1枚引き抜く。

『まだまだいきますわ。私は《TG レシプロ・ドラゴンフライ》の攻撃力を1000下げ、手札から《TG ギア・ゾンビ》を特殊召喚。そしてレベル2《TG レシプロ・ドラゴンフライ》にレベル1《TG ギア・ゾンビ》をチューニング。GO、シンクロ召喚!カモンですわ、レベル3シンクロチューナー《TG デジタル・シードラ》! ハイパー・ライブラリアンの効果で1枚ドローですわ。そしてレベル2《TG カタパルト・ドラゴン》にレベル3《TG デジタル・シードラ》をチューニング、GO、シンクロ召喚!カモンですわ、レベル5シンクロチューナー《TG ワンダー・マジシャン》! ハイパー・ライブラリアンの効果で1枚ドローですわ』

 うわあ、ひとりでやってるわ。これだから回り始めたシンクロってやつは。

『そして《TG ワンダー・マジシャン》の効果ですわ。このカードはシンクロ召喚に成功した時、フィールドの魔法・罠カード1枚を破壊しますわ』

 鈴音さんが宣言すると、小さな魔女のようなモンスターは、生やしてる4枚の翼を羽ばたかせフィール込みの超音波を発し、司令のDホイールがぐらぐら揺れる。

『ちょっ、鈴音危ない』

『デュエルギャングはもっと危ないことしてきますわよ。私はこの効果で《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》を破壊』

 と、鈴音さんは永続魔法の破壊にかかる。けど、

『やっぱアンタ裏切者決定』

『どうしてですか、それに本気で危険な目にあわせるつもりなら霧子さんのDホイールをスピンさせにかかりますわ』

『その時はスピンしながらフィール全開でアンタに突っ込むだけだから。とりあえず《光波追走(フォロー・サイファー)》の第二の効果。このカードは光波(サイファー)と名のつく魔法・罠1枚が破壊される場合、このカードを強制的に身代わりにするわ』

『それでも本番なら。……ああもういいですわ。とりあえず《光波干渉》は無理でしたけど、これで霧子さんのハンドアドサポートは断てましたわね』

 鈴音さんはそう言うと、突然Dホイールのアクセルを全開にし、一気に司令を追い抜く。その速度は間違いなく法廷速度を超えて、

『って、ちょっ、鈴音。こんな所でアレする気?』

 あのフリーダムで唯我独尊な司令さえ「ファッ」と反応。鈴音さんは叫んだ。

『それだけあなたの相手で日々ストレスを溜め込んでるのですわ! いきますわ、クリアマインド!』

 鈴音さんの体がDホイールごと光に包まれ、さらに速度が増していく。

『私は、レベル5《TG ハイパー・ライブラリアン》にレベル5シンクロチューナー《TG ワンダー・マジシャン》をチューニングですわ』

 グングン正面を突き進む鈴音さん、その先は突き当りの曲がり角になってるというのに。

『リミッター解放、レベル10!メイン・バスブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進みなさいませ!GO、アクセルシンクロ!』

 衝突する! そう思った刹那、鈴音さんを追いかけてたモニターはまばゆい光一色に切り替わり、

『消えた!』

 と、司令の声が聞こえる。

『カモンですわ、《TG ブレード・ガンナー》!』

 比喩じゃなく光を抜けて再び鈴音さんと夜の風景がモニターに映ると、そこには何故か前方に司令の姿が見えた。

 鈴音さん、司令のずっと前を走ってたのに。

「え、あれ?」

 私が状況が読めず驚いてると、増田がいった。

「鳥乃は見るのは初めてか? 決闘疾走での鈴音さんのアクセルシンクロは」

「ん、まあ」

 私はうなずく。

「クリアマインド。その名の通り明鏡止水や無○の境地に達するフィールの高等技術。その状態でシンクロモンスター同士をシンクロ召喚するのがアクセルシンクロだ」

 と、説明しだす増田に私は、

「いや。その位は知ってるから」

「まだ話は続いてる。この技術を決闘疾走(ライディングデュエル)で行う場合、アクセル全開のフルスロットルで行わなければならないんだ。このとき、Dホイールは機体性能の限界を超えてスピードが出る。そしてアクセルシンクロする際、光速を抜けてワープするように世界一周して相手の隣へと追いつく。先程モニター画面が光一色になってたのは文字通り光速で移動してたからだ」

「 」

 ……え? さっき、さらっと光速とか世界一周とか聞こえなかった? ま、まあいいわ。それはともかく。

「演出上の理屈は理解できないけど分かったわ。けど、鈴音さんはどうしていまそんなクリアマインドをしたの? それだけ聞くとフィールの無駄じゃない?」

 フィールは半有限で、使えば使うほど不利になっていくのだから。そんなものを、ただの演出の為だけに使うとは到底思えない。

「分からないか? クリアマインドは明鏡止水なんだ」

 増田がいった。けど、残念だけど私って教養高くないのよね。

 首を横に振ると、鈴音さんがいった。

『クリアマインドで行うアクセルシンクロには、心身をリフレッシュさせ万全な状態に戻す効果があるのですわ』

「つまり鈴音さんは、霧子さん相手に疲弊した精神やストレス、眠気などを回復させ万全な体調に戻す為に行ったというわけだ」

 と、増田の言葉に私は「ああ……」と納得する。さっき狂戦士(バーサーカー)化するほど発狂してたしね。

『ついでにクリアマインドはフィール補給っていうチート効果があるわ』

 と、司令。さらっと本当にチートが聞こえた気がした。

『だから、デュエルディスクの充電、Dホイールの燃料補給、デュエル中に消耗したフィールの回復などを一度に行うってワケ。これが今回鈴音を呼んだ理由の一部よ。フィール回復能力持ちなんて無双デュエルの最終兵器投入しない手ないでしょ』

「なるほどね……」

 私は頷くも。

『けど、ヤツは裏切った』

「…………」

 司令、まだその認識続いてたの?

 とりあえず、鈴音さんのフィールドに降臨したのは片手にビーム銃、片手にブレードが内蔵された1体のサイボーグ。その攻撃力は3300で、《銀河眼の光波竜》を超えている。

『バトルですわ。《TG ブレード・ガンナー》で《銀河眼の光波竜》を攻撃!』

 鈴音さんが宣言すると、ブレード・ガンナーは光の残像を残しつつ一瞬で光波竜の背後へとまわり、そのブレードで両断。ビーム銃で分断された体を纏めて飲み込んだ。――はずだった。

『罠カード《光波分光(サイファー・スペクトラム)》を発動』

 司令が罠を発動すると、ビームに飲まれた光波竜から虹色の光が伸び、その先から《銀河眼の光波竜》がそれぞれ1体ずつ。

『このカードは、素材を持った光波(サイファー)モンスターが破壊された場合に発動するカード。その効果で破壊された《銀河眼の光波竜》を即座に蘇生し、さらにエクストラデッキから同名モンスター、つまり《銀河眼の光波竜》をもう1体特殊召喚する』

「うわっ」

 私は、自分がデュエルしてるわけじゃないのに露骨に仰け反ってしまう。すると再び増田が、

「もしかして鳥乃、司令のデュエル見るのも初めてか?」

「ううん、むしろ1回デュエルしたことはあるけど。その時は《銀河眼の光波竜》を最後まで倒せないまま負けちゃって」

 その時点で、司令のデュエルの強さは痛感してたけど。まさか倒しても2体に増えるカードまで持ってたなんて。

 増田がつぶやいた。

「もしかしたら」

「え?」

「いや、もしかしたら鳥乃に一度見せておくって意図もあったのかもしれないなと。本番前にいまのふたりのデッキの動きを」

 確かに、今日の私の仕事はふたりの支援だから。事前に手の内をじっくり拝めるのは凄く助かる。

「なるほどね」

 そういえばデュエルを仕掛けたのは鈴音さんからだっけ。だとするなら、増田の推測はより現実味を帯びてくる。だって鈴音さんだもん。

『私はカードを2枚セットしてターン終了ですわ』

 鈴音さんの場に2枚のカードが敷かれ、《銀河眼の光波竜》を結局除去できないままターンは再び司令に。

『私のターン、ドロー』

 ここでふたりは突き当たりの曲がり角に入り、モニターからはDホイールを傾かせてカーブしながらも器用にカードを引き抜く司令がみえる。

『鈴音、私は何もしないでバトルフェイズに入るわ』

 一瞬「え?」と思ったけど、そういえば司令の場には《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》が発動しているんだった。

 このカードは光波(サイファー)モンスターが同名で2体以上いるなら片方の攻撃力をバトル中倍にするから、司令はすでに鈴音さんに対してのワンショットキルの準備が整ってたのだ。

『なら、そのメインフェイズ終了時に動かせて頂きますわ』

 鈴音さんがいった。

『まずは墓地の《TG ドリル・フィッシュ》を除外して《TG ブレード・ガンナー》の効果を発動。このカードは相手ターンに1度、除外ゾーンに一時退避することができますわ。そして私はこの効果にチェーンし速攻魔法《ダブル・アクセル》を発動ですわ』

 鈴音さんの伏せカードが1枚表向きになる。

『このカードは、私の墓地のシンクロモンスターを場のシンクロモンスターの素材としてゲームから除外し、デュアルのようにもう1度シンクロ召喚を行うカードですわ。クリアマインド! 私はレベル2《TG レシプロ・ドラゴン・フライ》とレベル5《TG ハイパー・ライブラリアン》に、レベル3シンクロチューナー《TG デジタル・シードラ》をチューニング。リミッター解放、レベル10!メイン・バスブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進め!GO、ダブルアクセル!カモンですわ、《TG ブレード・ガンナー》!』

 アクセルシンクロで再びモニター画面は光一色。

 そして、光を抜け《TG ブレード・ガンナー》再度召喚を決めるも、すぐ自身の効果で除外される。

『再度召喚した《TG ブレード・ガンナー》は即座に先程の自身の効果で除外。ですけど《ダブル・アクセル》は、再度召喚したモンスターがフィールドを離れた場合、ゲームから除外されている素材一組をフィールドに特殊召喚しますわ。カモンですわ、《TG レシプロ・ドラゴン・フライ》《TG ハイパー・ライブラリアン》そして《TG デジタル・シードラ》!』

 《TG ブレード・ガンナー》が時空に姿を隠すと、入れ替わりに鈴音さんの場に3体のシンクロモンスターが出現する。

『そして、《TG デジタル・シードラ》のモンスター効果。このカードは相手メインフェイズにシンクロ召喚を行いますわ。私はレベル2《TG レシプロ・ドラゴン・フライ》に、レベル3シンクロチューナー《TG デジタル・シードラ》をチューニング。リミッター解放、レベル5!ブースターランチ、OK!インクリネイション、OK!グランドサポート、オールクリアー!GO、シンクロ召喚!カモンですわ、《TG ワンダー・マジシャン》!』

 相手ターンなのに再びソリティアを始める鈴音さん。

『ハイパー・ライブラリアンの効果で1枚ドローですわ』

 しかもドローまで。

『《TG ワンダー・マジシャン》の効果、このカードがシンクロ召喚したとき、フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。私は《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》を破壊ですわ』

 上手い。わざわざ相手ターンに強引な分離と再シンクロを繰り返したのはそういう事だったのね。

『……ふぅん』

 ついに《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》を破壊された司令。なのに、あまり堪えてるように見えない。むしろ余裕そう。

『そして《TG ワンダー・マジシャン》も相手ターンでシンクロ召喚する効果を持ってますわ。私は続けてレベル5《TG ハイパー・ライブラリアン》に、レベル5シンクロチューナー《TG ワンダー・マジシャン》をチューニング。――クリアマインド!』

 またもやモニター画面が光一色に。もう見慣れて飽きたわ。

『リミッター解放、レベル10!メイン・バスブースター・コントロール、オールクリアー!無限の力、今ここに解き放ち、次元の彼方へ突き進め!GO、アクセルシンクロ!カモン、《TG ブレード・ガンナー》!』

 と、今回3度目のアクセルシンクロで《TG ブレード・ガンナー》が再び出現すると、

「このターンを耐え抜けば、次のターンにはブレード・ガンナーが最大2体か」

 増田が感心した様子でいった。

 そっか、最初と2度目のアクセルシンクロで出したブレード・ガンナーと、いま出したブレード・ガンナーは別個体だっけ。

 自身の効果で除外したブレード・ガンナーは次のスタンバイフェイズ時に特殊召喚される。このターン、場のブレード・ガンナーを護り抜くことができれば増田のいう通り、今度は鈴音さんが切り札2体で自分のターンに入ることになるのだ。

 しかも、司令がブレード・ガンナーを倒すのに必要な《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》は破壊済。

『これで全部?』

 司令が聞くと、鈴音さんは、

『ええ、私の行動は以上ですわ』

『なら行かせて貰うから』

 司令はホルダーに挟んだ手札から2枚引き抜き、

『前言撤回、メインフェイズ続行。私は手札から《光波双顎機(サイファー・ツイン・ラプトル)》を通常召喚し、効果発動。手札を1枚捨て、デッキから光波(サイファー)モンスターを特殊召喚する。私は《光波異邦臣(サイファー・エトランゼ)》を捨てて効果発動。2体目の《光波双顎機》を特殊召喚』

 司令の場に2体の《光波双顎機》が出現すると、

『《光波異邦臣》は墓地に送られた場合に、デッキから光波(サイファー)魔法・罠を1枚手札に加える。私はデッキから2枚目の《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》をサーチ』

 うげっ、せっかく鈴音さんが除去したのに。

『そして《二重露光(ダブル・エクスポージャー)》の効果で《光波双顎機》2体のレベルを倍の8にして、この2体でオーバーレイ! 殺れ、《銀河眼の光波竜》!』

「ちょっ」

 私は驚いた。

「嘘、司令あの《銀河眼の光波竜》を、ランク8モンスターを3体揃えちゃったんだけど」

『よくあることですわ』

 鈴音さんがいった。ってよくあるんだ。あんな悪夢みたいな光景。かつて私が攻略した《堕天使ルシフェル》《堕天使アスモディウス》《堕天使ディザイア》の攻撃力3000堕天使勢ぞろいとはワケが違う。使い手が司令な以上、一体一体の対処難易度が段違いなのだ。

『鳥乃アンタ、もしかして自分の組織の司令を過小評価してる?』

 しかも司令からもそんな反応を貰ってしまう。とはいえ私は一応正直に、

『んーそうかなのも。まさか鈴音さん相手にここまでやれちゃうとまでは思ってなかったから』

『じゃあ鈴音を過大評価しすぎたのね』

 と、司令。

『霧子さん酷すぎですわ』

 鈴音さんは軽く嘆くも、

『なら光波竜3体の攻撃も余裕で対処できるのよね? 《光波干渉(サイファー・インターフィアー)》を発動。X素材を持ってる《銀河眼の光波竜》で《TG ブレード・ガンナー》を攻撃』

 司令はスルー。そして遠慮なく司令のドラゴンから光のブレスが放たれ、

『当然、《光波干渉》で攻撃力を倍にするわ』

 ブレスの質量は一気に倍に。鈴音さんは何もすることなく《TG ブレード・ガンナー》は簡単に破壊された。

 

 立花 鈴音 LP4000→1300

 

 しかし、鈴音さんはここでもう1枚の伏せカードを使う。

『永続罠《リビングデッドの呼び声》! これで《TG ブレード・ガンナー》を蘇生しますわ』

 即座に墓地から舞い戻るブレード・ガンナー。元々の攻撃力は司令のドラゴンより300高いので、

『バトルフェイズ終了』

 と、司令はいう。さすがにここから追撃はできなかったようだ。

 しかし、ここで増田は小声で、

「鳥乃、アレの準備に入るぞ」

 それは、デュエルが間も無く終わるという合図だった。

「あ、うん」

 私は“例のプログラム”のプロテクトを解除し、あとはエンターキー1回で起動できるようにしておく。

 って、え? ということは、増田は司令の攻撃がまだ終わらないと読んでるってこと?

『対処させて貰いましたわ、霧子さん』

 鈴音さんはいった。しかし司令は、

『いや。もう終わったから』

『え?』

『永続魔法《エクトプラズマー》を発動。ターン終了時に《銀河眼の光波竜》を射出。1500ダメージよ』

 増田の判断は正しかった。

 バトルが終わったかと思った刹那、《銀河眼の光波竜》が1体、だらんと項垂れるとそこから霊魂が出現し鈴音さんに襲い掛かったのだ。

「な……え……?」

 私は、思いもよらないカードの登場に目をぱちくり。

「鳥乃!」

 増田の声。私はハッとなって、慌ててエンターキーをクリック。

 

 鈴音 LP1300→ERROR

 

 霊魂の直撃を受けた鈴音さんのライフは0に、ならなかった。

 増田が司令、私が鈴音さんのデュエルディスクにそれぞれ「緊急デュエル終了プログラム」を起動したからである。

 なんとか、間に合った。

 増田がいった。

「決着が確定した所で、このデュエルは強制終了させて貰ったよ。これで、司令と鈴音さんは10分ほどデュエルできなくなるが、フィールはどちらも空にはならないはずだ」

 それをきいて鈴音さんは、

『ご迷惑をおかけましたわ』

 なんて、ほっと安堵していた。

 正直、鈴音さんも弱くはないはずだった。むしろ相手ターンも使ってあれだけ展開しつつ司令のプレイングの対処に出る様は、間違いなく私より高度なプレイングをしてるように見えた。

 なのに、なのにねえ。

 終わってみれば、司令は無傷とはいえかすり傷程度のダメージしか受けてない。しかも、《銀河眼の光波竜》が対処されるのも逆手にとり、鈴音さんを更に追い込んでた。

『MY WIN PERFECT』

『パーフェクトではありませんわ。一応300喰らったではありませんか』

 Dホイールを運転しながら、立ち上がりサ○デーナイトフィーバーのポーズを取る司令に、それを必死でツッコミ入れる鈴音さん。

「ああ……。これが私たちのボスなのね」

 私は、思わず呟いてた。

 尊大で唯我独尊、野良猫みたいに自己中心でフリーダム。クール&ドライで(おっぱいないけど)おっぱいのついたイケメンに見えて、現実は巨乳狩りを趣味とし存在自体ふざけてる私たちハングドの司令、高村 霧子。

 だけど、その実力はあんなに高かったのだと私は改めて実感する。正直、頼もしい。

『とりあえず、プレイングが雑になってなくて安心しましたわ』

 不意に、鈴音さんはフフッと微笑んでいった。

『アンタもね。鈴音』

 と、司令はポーズをやめて両手でハンドルを握る。

「あれ?」

 私はふと、

「そういえば、いつの間にか鈴音さん裏切り認定消えてる?」

『あんなの、ただのノリよ』

 司令はいった。

『そういう事にしたほうが本気でデュエルできすし、燃えるじゃん』

『私が発狂したのはノリでも何でもないんですけど』

『知らないわ。そんな事は私の管轄外よ』

『まったく、あなたという方は』

 なんて、疲れた顔して鈴音さんはいうけど、同時に微笑む。そして、モニター越しに見えるふたりは互いにとても信頼しあってるように映った。

『ところで、霧子さんのほうは眠気覚ましにはなりましたか?』

『なるわけないじゃん。鈴音程度が相手じゃ生温くて』

『フィールまで使ったのに、さすがですわ。でしたら途中でコンビニに寄りましょう。事務所を出た時は忙しくて顔を洗う暇もありませんでしたから』

『賛成、レッドブル1本じゃカフェインも足らないわ。鈴音は?』

『せっかく10分デュエルできない状態ですもの仮眠でも取りますわ。いくらクリアマインド連発したからといっても限度はありますもの』

『了解』

 そういって司令は鈴音さんのDホイールの隣についた。ちょうど右側には夜の公園がみえる。

『じゃ鈴音、司令任務よ。私ちょっとコンビニ行くから、アンタはそこで休んでて』

『ええ、任務開始までには体調間に合わせますわ』

 そういって、ふたりはDホイールを運転したままハイタッチ。そのまま鈴音さんは右折して公園へ、司令は前方を走りぬけてコンビニへ向かう。

 まるで、少年漫画みたいな青春の熱さとハードボイルドの格好良さを併せたワンシーンだった。

 そういえば、このふたりって学生時代からの腐れ縁なんだっけ。

「なんか、いいわね」

 気づくと私はつぶやいていた。

「ん?」

 反応したのは増田だ。

「ああいや、あんな風に大人になっても一緒に仕事してふざけあって信頼しあう。ああいう関係っていいなって思っただけよ」

「あーレズには無理な人間関係だろうなぁ、そうなる信頼生まれる前に性欲がくるだろうし」

「全くね」

「……ツッコミなしかよ」

 ガクッとしてる増田は無視するとして、私はふとモニター越しのふたりに、昔の私と梓を重ねてみる。私が梓にも発情するようなレズじゃなかったら、10年後20年後にはああいう関係になれてたのかな?

「まあ、いずれ鳥乃にもできるよ。お前だけが築ける関係ってものが」

 突然増田はいった。

「別にあのふたりの模倣じゃなくてもいいじゃないか。背中を預けたい相手に恋しても発情しても別にいいだろ、人と人の関係ってものは十人十色なんだから」

「増田……」

「何より、特別な関係になりたい相手がいる。そういう目をしてたぞ、さっきのお前」

「うっ」

 そう指摘されるのが恥ずかしくて、なんとなく私は顔をそらす。

「大切にしろよ。特に大切な人との絆は、繋がりはな」

 その増田の言葉は、なんとなく「俺はもう切れちまったから」と言ってるように見えた。

「もしかして増田。永上(ながみ)さんと」

 特に根拠も何もないけど、電波受信っていうのかな? そんな気がして私は聞くと、

「俺が、刑事をやめて犯した、たったひとつの後悔だ」

 肯定する代わりに増田はいった。

 

 

 この日増田と交わした言葉が、今後大きな意味を持つだなんて。

 

 いまの私は知らない。

 

 

 




●今回のオリカ

光波追走(フォロー・サイファー)
永続魔法
「光波追走」の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。
①:自分が「サイファー」モンスターの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分のデッキから同名モンスター1体を手札に加える。
②:自分フィールド上に表側表示で存在する「サイファー」魔法・罠カード1枚が破壊される時、かわりにこのカードを破壊しなければならない。

光波干渉
永続魔法
①:自分フィールドに同名「サイファー」モンスターが2体以上存在する場合、
1ターンに1度、そのモンスターの内の1体が戦闘を行うダメージ計算時にこの効果を発動できる。
そのモンスターの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで倍になる。
(遊戯王ARC-V)

二重露光
永続魔法
①:1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
この効果は相手ターンでも発動できる。
●フィールドのレベル6以下の同名モンスター2体を対象として発動できる。
そのモンスターのレベルは倍になる。
●フィールドのモンスター1体を対象とし、
さらにそのモンスターのコントローラーのモンスターゾーンから、
それ以外のモンスター1体を対象として発動できる。
最初に対象としたモンスターは、次に対象としたモンスターと同名モンスターとして扱う。
(遊戯王ARC-V)

バトル・スタン・ソニック
通常罠
相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
相手モンスター1体の攻撃を無効にし、手札のレベル4以下のチューナー1体を自分フィールド上に特殊召喚する。
(遊戯王5D's/遊戯王未OCGwiki)

TG ギア・ゾンビ
チューナー・効果モンスター
星1/闇属性/アンデット族/攻 600/守 0
①:自分フィールド上に「TG」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。
この効果で特殊召喚に成功した場合、このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在する「TG」と名のついたモンスター1体を選択して、
その攻撃力を1000ポイントダウンさせる。
(遊戯王5D's/TAG FORCE)

TG ドリル・フィッシュ
効果モンスター
星1/水属性/魚族/攻 100/守 800
①:自分フィールド上にこのカード以外の「TG」と名のついたモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。
②:このカードが直接攻撃によって相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する事ができる。
(遊戯王5D's/TAG FORCE)

TG デジタル・シードラ
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星3/光属性/海竜族/攻1200/守 800
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
①:このカードのS召喚に成功した場合、自分フィールド上の他の「TG」Sモンスター1体を選択して発動する。
このカードのレベルを選択したモンスターのレベルと同じにする。
②:相手メインフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材としてS召喚する。

ダブルアクセル
速攻魔法
①:自分の墓地からSモンスターをS素材としてゲームから除外し、自分フィールド上のSモンスター1体をS召喚扱いとしてもう1度特殊召喚する。
そのモンスターがフィールドを離れた場合、モンスターのシンクロ召喚に使用したシンクロモンスター一組がすべてゲームから除外されていれば、この一組を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

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