私の名前は
そして、レズで評判の沙樹ちゃんの幼馴染です。
「レズはホモっていうけど、あれ絶対違うと思うのよ」
ある日の週明け。
今日も席が後ろの沙樹ちゃんは妙なことを言い出します。しかも月曜の登校直後、さすがにちょっと辛いかもー。
「一応聞くけど、どこが違うの?」
とりあえず私はいつものように相槌を打つけど、たぶん。
「レズはあんな糞塗れでヤらない!」
「例えが極端すぎるよー」
やっぱりこうなっちゃった。私、普段は天然担当とか言われるくらいで、ツッコミ役とか無縁なはずなのに。
「尿はまだいいのよ、私もカテーテルとか使って女の子の直腸に放尿したいって思ったことあるし」
「その時点で同類の自覚は?」
「ない!」
沙樹ちゃんは腕を組んで、うんうんと、
「私、上にも下にも飲ませたいけど飲まされるのはノーサンキューの攻め専だからセーフでしょ」
「アウトの上ってどういえばいいのかなぁ?」
「アウトの上? 一周まわってセーフとか」
「じゃあもうアウトでいいよ」
だからその「つまり私もセーフなのよ」とばかりのドヤ顔やめてー。
「えー」
「えーじゃないよー」
私、そろそろ心折れそうー。毎日折れそうだけど。
「いや。これ本気だから、私なんてホモと比べたら月とすっぽんよ」
「沙樹ちゃんが月?」
「ホモが月。月経とかないけど」
そういうの、もういいよ。
「あいつらの○交なにあれ? 『お前俺のケツの中でションベンしろ』なんてまだ可愛いほうよ。ス○トロで糞がドバーで塗りたくって茶色い○ーションで公衆トイレを清掃員さえ近寄らない魔境にして。……もうSAN値下がりそう」
げっそりした顔で沙樹ちゃん言うから、もしかしてと思って、
「もしかして、目撃しちゃったの?」
「週末のロケの裏側でね」
「うわー」
それはさすがに同情しちゃうよ。
「鳥乃、徳光、はよー」「沙樹ー梓ー、おはよ」「フッ……
そんな辺りで、後から登校してきたクラスメイトたちが私たちに挨拶してきます。
あ、最後の人は気にしないで。「英語とドイツ語を混ぜた我が挨拶こそ至高」とか言ってる人だから。沙樹ちゃんと同じくらい可哀想な人だけど、いつものことだから。
「おはよー」「おはよー」
そんなクラスメイトたちに、私と沙樹ちゃんは挨拶を返します。
ところで、まずは沙樹ちゃん続けて私の順番でみんな挨拶してるように、実は沙樹ちゃんってあれで結構人気があるの。
レズで変態で下半身に生きてる感じの子だけど、意外と快活で人当たりがいいって評判で。程良いさばさば系女子って評価も聞いたことあるくらい。
見た目だって、ポニーテールがチャームポイントの明るい顔つきにしなやかで健康的な肢体、バストも程ほどの大きさで羨ましい。私なんて無駄に大きいせいで男子の視線はすぐ胸にいくし女子はすぐ嫉んでくるもん。
人気がいい証拠に、実際に今日も。
「鳥乃悪い、科学の課題写させてくれね?」
と、そのうちの男子生徒が話しかけてきて、
「あ、じゃあ私逆に日本史やってないから交換ってことでどう?」
「それ午後の授業じゃないか。まだ十分時間あると思うけど」
「んーそんな時間あるなら梓と駄弁ったりクラスメイトと駄弁ったり、はたまた校内俳諧して可愛い女子視姦してたい」
「ホント欲求に素直だなお前、っていうか眺めるとかじゃなくて視姦かい!……まあいいけど。はいよ日本史のノート」
「交渉成立ね。はい、化学のノート」
なんて、課題の写しあいしちゃってたり、
「ねえ沙樹、私にもあとで科学のノートおねがぁい」
「ひゃっほい。いいねいいねその媚びた言い方、もう一声」
「おねがぁい♪」
「持ってけドロボー! あ、花寺ごめん女の子優先」
「お゛い!」
女子生徒の露骨な色仕掛けに乗って、さっき渡したばかりの科学のノートを奪いその生徒に渡し、
「鳥乃。……おねがぁい♪」
『キモッ』
その奪われた男子生徒が声真似をし、私を除いた周囲全員に言われちゃう。内心、私もちょっと気持ち悪かったけどね。
「まあごめんごめん。花寺って数学も苦手だったでしょ。購買の焼きそばパンかあんぱんで手打ってあげるから」
「さりげに無償じゃないのな」
「百円玉ひとつで数学の単位に1ポイントなら安いもんでしょ」
「ホント遠慮ないのな鳥乃は。了解りょーかい。昼休みにはどっちか確保しとくから、貸してくれ」
「ん。ほい」
「サーンキュ」
沙樹ちゃんから数学のノートを受け取る男子生徒改め花寺くん。
「まあさっきの花寺もキモかったけど、ああいう媚び媚び大好きな沙樹も十分キモいからね」
って、媚びた本人が言うと、
「え、嘘。さすがにその程度じゃキモくないでしょ」
「じゃあさっきの沙樹の反応を男子がやったら?」
すると沙樹ちゃんは笑って、
「あ、キモいわ。前言撤回」
そしてみんなが笑います。
気づけば、沙樹ちゃんは沢山のクラスメイトに囲まれてました。さっきまで私と喋ってたのに、いつの間にか私ひとり輪から外れてる感じで、なんだか疎外感。沙樹ちゃんは私だけのものじゃないって分かってるし、私自身そんなこと望んでないはずなのに。
沙樹ちゃんと私は、お互い物心ついた頃からいつも一緒でした。それこそ同じ歳だけど姉妹みたいに。
昔の沙樹ちゃんはいまよりずっと我侭で自己中心で図々しかったかな。だけど、いつも私の傍にいてくれて。そういえば小学校の頃、私がクラスの男子に虐められた時、沙樹ちゃん私の代わりに喧嘩してくれたっけ。それで沙樹ちゃん私を護るためにクラスのガキ大将になって、逆らえなくしちゃったの。
やり方は横暴なことも多かったけど、沙樹ちゃんはいつも私の味方でした。
「(だから、かなー?)」
沙樹ちゃんを中心とした空間で私だけがハブられてるのは、なんだか凄く嫌なの。
何かないかな? 私はそう思いながらふと時計に視線を送って、
「あ、そうだった」
気づけば、もう結構な時間。私は急いで弁当と水筒を机に出して、
「沙樹ちゃんごめん私朝食べ損ねてきちゃったから、早弁していいかな?」
「え?……うん、別にいいけど。予鈴に間に合うようにね」
「うん♪」
沙樹ちゃんから許可を貰ったので、私はクラスメイトたちに「ごめんね」と一言謝り、自分の机を沙樹ちゃんのと連結させてから弁当を開けます。すると沙樹ちゃんは「あれ?」って。
「白米だけ?」
弁当の中身は一面ご飯。だけど私は「ううん」と首を振って、水筒を前に出しました。
「これを上からかけるんだよ。ドバーって」
「ど、ドバー?」
どうしたのかな、突然顔を青くする沙樹ちゃん。カレーライスって嫌いだったっけ?
「だ、大丈夫か鳥乃」
花寺くんが聞くけど、
「う、うん。たぶ――」
私は水筒を開けて中のルーをかけます。真っ白だった弁当の中身はすぐ茶色一色に。美味しそう♪
「ぎゃあああああああご飯がスカ○ロで犯されるううううおげえええええ」
突然絶叫そしてトイレに駆け込みだす沙樹ちゃん。
「え……?」
カレーがうの付いた汚物に見えたんだって気づいたのは、カレーを完食して程なくでした。
「はい。沙樹ちゃん食べれそう?」
お昼休み。
今日は沙樹ちゃん、お弁当は持ってきてないみたいだから、私は購買で買ったパンをひとつ分けてあげることにしました。
現在、沙樹ちゃんはカーテンコールで囲った保健室のベッドの上で、布団を被ったまま半身起こした状態です。
「ありがとう、梓」
沙樹ちゃんは嬉しそうに受け取るけど、すぐ表情をなくして、
「……。みそかつ…サンド?」
「あれ? 沙樹ちゃんってみそかつサンド嫌いだったっけ?」
私の記憶ではそんなはずはなかったのに。
「くそ“みそ”……サンド(♂)」
「ごめんね」
私はすぐパンを買い物袋に戻しました。体力つけなくちゃと思って選んだんだけど、今日の沙樹ちゃんは週末のトラウマでそれっぽいワードや光景に敏感すぎて駄目だったみたい。
「他には、何かないの?」
って訊ねる沙樹ちゃん。
「あ、あるにはあるけど……」
でも今日私が食べるつもりで買ってきたパンって、
「チョココロネ」
「とぐろ巻いて黒くてドロドロしてるのピュッて出る。アウト」
「濃厚クリームシチューパン」
「せめてビーフシチューだったら……あ、駄目だ茶色い」
「丸ごと一本バナナロール」
「今だけはバナナが男性器に見える」
「白子パン」
「直球すぎる無理!」
「カレーメロンパン」
「またカレー!!!!!!」
分かってたけど見事に全滅。一応、あと一個残ってるけど、あれだけは。
そこへ沙樹ちゃんが、
「ん、あれ? 梓、さっきチラっと見えたんだけど、まだ一個残ってなかった?」
うわあん、見つかっちゃった。
「え、そ、そんなことないよ」
「動揺してるのが余計怪しいんだけど。だったら中身一度出してみてもいいわよね?」
「そ、それは……」
「梓のスリーサイズ、学校裏サイトにバラするのとどっちが希望?」
「や、やめてよー。そんな事したら私虐められちゃう」
「およよ? 余程自分のカラダに自信があると見える」
「もう沙樹ちゃんの馬鹿、意地悪」
仕方ないので私は買い物袋の中をベッドの上に全部開けます。中にはさっきのパン6種類の他にもうひとつ。
数量限定!サイコロフレンチ。
切り分けず型から出したそのままのサイコロ食パンを丸々1個使った超ビッグサイズのフレンチトーストが重量感たっぷりに布団の上を転がります。
「梓、これ……買“え”たんだ」
買った、ではなく買えた、という沙樹ちゃん。実はこのサイコロフレンチ。見た目に反して女の子でもペロリと食べれちゃうのと比較的安価な値段もあって、購買の目玉商品のひとつだったりするんです。
その上1日10個限定だから、授業が終わって真っ先に購買部に行っても売り切れの場合が殆どで。
「ねえ梓」
沙樹ちゃんの目がキランと光った。い、嫌な予感が。
「それ、頂戴」
やっぱり。私は上目遣いで、
「は……半分なら」
「ううん、全部」
「だめぇぇぇぇっ」
私は両手でサイコロフレンチを抱え、拒否します。だって、だって、食べたかったんだもん。滅多に食べれないんだもん。
「私、誰のために保健室送りになったんだっけ?」
沙樹ちゃん痛い所を突いてくるけど、
「そ、それでも駄目」
私はぶんぶん首を振って、
「それに沙樹ちゃん、いま顔色いいもん。途中から授業さぼる為に休み続けてたんじゃないの?」
「……うっ」
その反応。やっぱり!
「こ、こうなったら」
沙樹ちゃんは、いきなりデュエルディスクを展開していいました。
「梓、久々にデュエルで決着つけない?」
「嫌。早くご飯食べたい」
即答しました。
「そんな。
わざとらしく「がーん」ってする沙樹ちゃん。
確かに、沙樹ちゃんとの付き合いでデッキは持ってるよ? でも私、そこまでデュエル脳じゃないもん。同級生にもカミングアウトしてないライトユーザーだもん。
「それに私が勝ったら沙樹ちゃん何かしてくれるの?」
「心の童貞をあげる」
「いらない」
「ド○クエで『それをすてるなんてとんでもない!』って出るくらい貴重品よ。私の108番目の心の童貞」
「どこから突っ込んであげればいいの?」
「え!? 心の童貞じゃなくて処女が欲しいの?」
「そういう意味じゃないよ。それに処女なの?」
あんなに普段から下半身で生きてて。
「仕方ない、そんなに言うならこれ分けてあげるわ」
話を逸らした!?
「これって?」
なんだか衝撃の真実を有耶無耶にされた気がするけど、一応私は食いついてみます。
沙樹ちゃんが出したのは一枚のチケット。
「『都市伝説~フィールとデュエルモンスターズ展~』の最終日無料入場券。倍率高くて1枚しか入手できなかった正真正銘の貴重なアイテムよ」
……。…………どうしよう。
実は私も1枚だけ持ってる、ううん。持て余してる、なんて言えない。
というのも、本当は2枚注文するはずだったの。ここの所沙樹ちゃんとは校内でしか会えてないから、久々にふたりで外出したいなぁって。
だけど、その最終日は完全予約制、無料チケットは抽選式で、平日チケットなのに手に入ったのは1枚だけ。有料チケットは学生には高くて、どうしようかなって思ってた所だったんです。
「(あれ?)」
ふと、私は気づきます。
これって、チケットを2枚にするチャンスじゃないのって。
別に沙樹ちゃんからのアンティで手に入れたチケットで、沙樹ちゃんを誘ったらいけないわけでもないんだもん。
「……ゴクリ」
「お、まさか梓が食券じゃないのに食いつくなんて」
「酷いよ、沙樹ちゃん」
まるで私が胃袋で動いてるみたいに。
「さすがに吉○屋の牛丼並50円引きレベルでは食いつかないよー。特盛じゃないと」
「梓が思ってた以上に胃袋で動いてる件について」
どうしよう、何か言われちゃった気がする。
「もう。それよりデュエルするんだよね? 早くしないとお昼終わっちゃうから、すぐ始めよ?」
って、なんとか私は誤魔化してみるけど、
「あ、うん。そうね……いまのやり取りの後だと異質の意気込みを感じるわ。時間の問題的に」
とかなんか変なことを言われます。それはともかくとしても、すぐにデュエルするって意図は伝わったみたいなので、私もデュエルディスクを装着。
オプション画面でソリッドビジョンを小型化。これでカーテンレールの中でもデュエルができるはず。
そして、私たちは同時にいいました。
『デュエル』
暴食
LP4000
手札5
色欲
LP4000
手札5
とりあえず、私はいいます。
「沙樹ちゃん。デュエルディスクに名前チェンジして貰ってもいいかなぁ?」
「奇遇ね、私もいま確認取ろうと思ってた所よ」
ということで改めて。
梓
LP4000
手札5
沙樹
LP4000
手札5
今度はタブレット画面から直接名前を打ち込んだので、正常に起動してくれました。
「あ、先攻♪」
デュエルディスクを用いたデュエルでは基本公平にランダムで先攻が決まるんだけど、今回は私のほうに先攻がきてくれました。
逆に、私の手の内を知ってる沙樹ちゃんは「あ。やば」って顔をしてます。
私は手札を眺めながら、どうしようか考えます。
うーん、あの手もいいしこの手もいいなぁ、でも。サイコロフレンチとチケットのために、やっぱり。
「じゃあ、沙樹ちゃんいくね」
「うん」
「ファイナルターン♪」
「ああ、やっぱり」
沙樹ちゃんがガクッと項垂れるけど、私は気にせず、
「まず私は手札の《ヘカテリス》を墓地に送って効果発動。デッキから永続魔法《神の居城-ヴァルハラ》を手札に加えて、そのまま発動するね」
《神の居城-ヴァルハラ》は私の場にモンスターがいない場合に、手札の天使族を特殊召喚できる効果を持ってるの。そして、私が出すのは。
「《神の居城-ヴァルハラ》の効果。手札から《アテナ》を特殊召喚」
フィールドに降臨したのは、大きな杖と盾を装備した戦いの女神。
「そして《神秘の代行者 アース》の召喚。その効果で《創造の代行者 ヴィーナス》を手札に、さらに《アテナ》の効果も発動するね」
この《アテナ》ってカードは、天使族が召喚・特殊召喚・反転召喚された時に相手に600ダメージを与える効果を持ってるの。だから、
「《神秘の代行者 アース》が召喚されたことで、沙樹ちゃんに600ダメージだね」
「待って」
沙樹ちゃんは、手札を1枚墓地に送っていいます。
「一応、手札の《幻獣機コウライデン》の効果を発動するわ。このターン、私は効果ダメージを受ける場合、代わりに幻獣機トークンを1体特殊召喚する」
《アテナ》が手に持つ杖から電撃を放つと、コウモリの特徴を持ったホログラムの航空機が現れて、その電撃を機銃で撃ち落とします。
「これで私は、このターン5回までならアテナバーンを防ぐことができるってワケ。あー、手札にあって良かったわ」
ほっとする沙樹ちゃん。
「ふーん」
私は数秒ほど考えてから、
「でも、6回目からは《アテナ》の効果が入るんだよね?」
「まあそうね」
「だったら」
私は笑顔でいいました。
「12回アテナバーンすれば問題ないよね?」
「……」
あ、沙樹ちゃんの顔が青ざめてく。
ごめんね沙樹ちゃん。サイコロフレンチのために犠牲になってね。
「魔法カード《トランスターン》。このカードはモンスター1体をデッキの同じ種族・属性のレベルが1高いモンスターにチェンジするカード。私はフィールドの《神秘の代行者 アース》を墓地に送って、デッキから《創造の代行者 ヴィーナス》を特殊召喚。そしてアテナバーン」
「幻獣機トークン生成2回目」
「《創造の代行者 ヴィーナス》のモンスター効果、ライフを500払ってデッキから《神聖なる球体》を特殊召喚。そしてアテナバーン」
「幻獣機トークン生成3回目」
「ヴィーナスの効果は回数制限がないよ。そして私のデッキにはまだ《神聖なる球体》が2体残ってる。ヴィーナスで2体目特殊召喚、そしてアテナバーン」
「4回目」
「そしてもう1体」
「5回目……って、もう終わった!?」
梓 LP4000→2500
梓
LP2500
手札2(うち1枚は《創造の代行者 ヴィーナス》)
場:《アテナ(攻撃表示)》《創造の代行者 ヴィーナス(守備表示)》《神聖なる球体(×3/全部守備表示)》
沙樹
LP4000
手札4
《「幻獣機」トークン(×5/全部守備表示)》
すでに私たちのフィールドはモンスターでいっぱい。でも、
「次からはダメージだね。私はレベル2《神聖なる球体》2体でオーバーレイ、2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚! ランク2《
「うわっ」
沙樹 LP4000→3400
ついに沙樹ちゃんのライフを削ることに成功。私は続けて、
「《
《神聖なる球体》をデッキに戻すと、デュエルディスクは自動的にオートシャッフルするけど、私はすぐ《神聖なる球体》をデッキから抜き取って、
「そして、《創造の代行者 ヴィーナス》の効果でライフを払って再び特殊召喚。そしてアテナバーン」
梓 LP2500→2000
沙樹 LP3400→2800
「これでフィールドの《神聖なる球体》は2体だから、2体目の《
沙樹 LP2800→2200
「もちろん、この《
梓 LP2000→1500
沙樹 LP2200→1600
「で」
ここまでアテナバーンのサンドバックに徹した辺りで、沙樹ちゃんが口を開きます。
「いままでの梓だと、この方法ならあと2回しかアテナバーンできなくて私のライフ削りきれないよ?」
あれ、さっきまで絶望的な顔してたのに。目が虚ろだったのに。もしかして演技?
「さてこっからどうするの? もしかしてノリノリでアテナバーンやって手順間違えたとかじゃないわよね」
一転して煽りだす沙樹ちゃん。その様子だと、私に調子付かせてミスを誘う作戦……ううん、そこに賭けてたみたい。確かに今までの私のプレイングだと、ここから《アテナ》の「場と墓地の天使族を1体ずつ入れ替える」っていうもう1つの効果でヴィーナスをアースにして1回、場の《神聖なる球体》とエクシーズして3体目の《
だけど。
「大丈夫だよ沙樹ちゃん」
私は笑顔で返しました。
「えへへ、実はちょっと気づいちゃったの。このルートから更にもう少し多くアテナバーンする手段」
「え、このルートで問題ないの?」
「うん」
私はいって、
「《アテナ》のもうひとつの効果を発動するね。この効果は《アテナ》意外の場の天使族1体を墓地に送って、《アテナ》以外の天使族1体を墓地から特殊召喚する効果」
「そこは前と同じで」
「うん」
でも、ここから違うんだよ。
「私はこの効果で《
「あ」
この手段は沙樹ちゃんも気づいてなかったみたい。びっくりする幼馴染を愉しみながら私は、
「そして、墓地から《神聖なる球体》を特殊召喚。そしてアテナバーン」
沙樹 LP1600→1000
「《神聖なる球体》2体で3体目の《
沙樹 LP1000→400
「そして、《
梓 LP1500→1000
沙樹 LP400→0
最後のアテナバーンが沙樹ちゃんのライフを削りきる。良かったあ、沙樹ちゃん相手に先攻1ターンキル成立。
「……」
沙樹ちゃんは、今度こそ本当に目を虚ろにしてました。
「私が勝ったからサイコロフレンチは私のものー」
デュエルが終わり、ソリッドビジョンが解除されます。
私は放心してる沙樹ちゃんの目の前で袋を開け、サイコロフレンチに齧り付きました。
「ん~程よく甘くて美味しい♪」
「私の……私のお昼」
恨めしそうに沙樹ちゃんはいいます。
「ごめんねー。他のパンなら食べていいから」
「その他のパンが食べれないからサイコロフレンチ一択だったんじゃない」
「あ」
言われて、ハッてなりました。本当に私、言われるまで全く気づかなくって。
私がしゅんってなると、
「何? もしかして梓の楽しみを悪戯半分で奪おうとしてた、とかと思ってた」
「うん」
だって、本当にいつものノリだったんだもん。
沙樹ちゃんは乾いた笑みでいいました。
「まあ半分正解だけど」
「私の罪悪感が台無しだよー」
もういいもん。私は一気にサイコロフレンチに貪りついて、数分で完食します。
「早っ」
驚く沙樹ちゃん。そこへ。
「失礼します。……あら?」
誰かが保健室に入ってきたみたい。カーテンコールで顔は見れないけど、あれは女性の声。それも以前聞いたことがあるような。
「あれ?」
すると、沙樹ちゃんはベッドから出ると顔だけカーテンの外に出して。
「木更ちゃん?」
「あ、鳥乃先輩こちらでしたか」
ああ。聞いたことあると思ったら藤稔さんだったんだー。
「早朝に倒れたと聞いたのですけど、大丈夫ですか?」
「厳密には違うんだけど、まあうん。午後の授業には出れそうかな。今からだと食堂も購買も難しそうだから、お昼抜きだけど」
「だと思いました。少しお邪魔してもよろしいですか?」
「ん。まあいいけど」
「では、失礼します」
と、藤稔さんが入ってきた。柔和な微笑みと長い髪の似合う、清純そうな子。実は腹黒いってわけでもなくて、そんな子がどうして沙樹ちゃんと絡んでるのか不思議なくらい。
私はペコリと一回。
「こんにちは」
「あ、こんにちは徳光先輩」
藤稔さんはペコリと返すも、すぐ私のパンの入った袋を見つけて、
「あれ?」
となるのが見えたので、
「実は私もいくつか沙樹ちゃんにパンを持ってきたんだけど、見事に全部沙樹ちゃんのトラウマ刺激しちゃって」
て、私は藤稔さんに中身を見せます。
「変態糞ゲイヴンのくそみそ事件のね」
沙樹ちゃんが補足すると、藤稔さんは「ああ」と納得します。
「あれ、藤稔さん知ってたの?」
「はい。とても酷い光景を見たと、その日の夜に」
「そっかー」
藤稔さんのほうが先に、しかも当日に耳に入れてるんだ。ふーん。
「どうしたのですか?」
「ん、なんでもないよ?」
むしろ逆にどうしたの?
私がきょとんと藤稔さんに返すと、
「そうですか」
それ以上は何も聞かずに藤稔さんは沙樹ちゃんに向き合って、
「実は今日、ちょうどお昼を別に衝動買いしてしまって。私のお弁当、よろしければ食べて頂けますか?」
と、藤稔さんが出したのはひとつの風呂敷。中を開けると、ポリスチレン製の弁当箱がひとつ。先日沙樹ちゃんが食べてた彼女が作った弁当と同じ箱。
「え? いいの? ホントに?」
「はい。さすがにこれとKasugayaカップ麺両方は胃に入りませんから」
と、藤稔さんはカップ麺をひとつ出していいました。
え? 片方しか入らないの? 藤稔さんってそんなに小食だったんだあ。
「じゃあ、ついでにデザートも貰っていい?」
「デザート、ですか?……今日は持ってきてはいませんけど」
「ここにあるじゃない。ここに」
沙樹ちゃんは藤稔さんを指して、
「藤稔って確かぶどうの品種よね? ちょうどベッドの上だしとびっきりのぶどうと昼に行う夜のライディングでも」
「お弁当、要らなかったみたいですね」
藤稔さんが弁当箱を下げると、
「ああ、ごめんごめん。普通に頂きます」
沙樹ちゃんは改めて弁当を受け取ると、がっつくように食べ始めました。
「ん、美味しい。ああ~胃が喜ぶ」
「お口に召したみたいでよかったです」
藤稔さんはほっとしたように言い、
「ところで、あのパンですけど残った分はどうされるのですか?」
「もちろんここで全部食べるよ?」
「え?」
藤稔さんは驚いて。
「徳光先輩、大食いなんですね」
「そんな事ないよー」
みんなから言われるけど、どうしてだろう?
「ところで鳥乃先輩。デュエルモンスターズ展のチケットありがとうございます」
突然、藤稔さんがいったから。
「え?」
今度は私が驚きました。
「沙樹ちゃん、どういうことなの?」
もしかして私がアンティで貰う予定のチケットって。
「あれ? 徳光先輩にまだ話してなかったのですか?」
藤稔さんがいいました。
「鳥乃先輩、今週の水曜日に徳光先輩と私と三人で美術館に行かないかって計画してたんですよ」
「え、でも沙樹ちゃんチケットは1枚だけだって」
「“無料”入場券はね」
沙樹ちゃんはいいました。
「残りは自腹切って確保しましたともふたり分」
「嘘……」
確か有料って1枚6千円とか、前日までの4倍くらいしたはずなのに。
「まあ、実際に払うのは当日だけどね」
って沙樹ちゃんは言うけど。それでも1万2千円払うつもりだったってことだよね? びっくり。
それに。
「沙樹ちゃん、デュエルモンスターズ展になにかあるの?」
「え、どうして?」
「だって、どうしてわざわざそんなに高いお金を払ってまで。それにメンバーだって、私と藤稔さんってあまり面識ないよ?」
「んー。まあね」
沙樹ちゃんは、ちょっと困った様子をみせた後、藤稔さんに、
「言っちゃってもいい?」
「私は構いませんけど」
「了解」
と、一回確認取ってからいいました。
「木更ちゃんさ、実は少し前に不審者に襲われて、いまは私の安全な知り合いのトコに匿って貰ってるのよね。そんな立場だからさ、ちょっと息抜きとか外の空気を吸わせてあげる機会ないかなって思ってて。そんな時、ある筋から無料招待券を1枚貰っちゃって。いい機会だからって誘ったのよ、1枚自腹で買うつもりで。で、有料チケットがアホみたいに高いのに気付いたのは誘った後」
「じゃあ、私も一緒なのは?」
「木更ちゃんの要望。私とふたりきりは身の危険だから信頼できる人をひとりつけてくれって。なら、私が一番信頼してるのって梓一択じゃない」
……。どうしてかな。納得からくる同情と、嬉しい気持ちと、寂しいような煮えたぎるような変な気持ちが、三つ同時に襲ってきちゃう。
確かに沙樹ちゃんと女の子同士ふたりきりでお出かけは間違いなく危険。たぶん安全なのって小学生くらいの子供か、もしくは私くらいじゃないかな?
そして、沙樹ちゃんは信頼できる人に私を指名してくれた。幼馴染だからだとは思うけど、それはすっごく嬉しい。
でも。
無料券を前にして、沙樹ちゃんは私より藤稔さんを優先した。それが何だか、私よりあの子が大切って言ってるみたいで。私の特等席が奪われたような、そんな嫌な気持ちもすっごく強いの。
「というわけでさ」
そんな私の心の内側を知らない様子で、沙樹ちゃんはいいました。
「今週の水曜だけど、私に対する木更ちゃんの護衛、頼まれてくれない?」
なんて、ちょっとだけすまなそうに。
私は。
「……うん」
って、ほんの少しの間の後にいいます。
「鳥乃いるかー。約束のあんぱんと焼きそばパン両方確保してきたぞ」
花寺くんがやってきたので、この話は一旦お開きになりました。
沙樹ちゃんが変わっちゃったのはここ1~2年のことです。
前々から同性愛者だっていうのは本人から聞いてたけど、昔はいまほど変態じゃなかったし煩悩欲望に忠実な性格ではあったものの、いまほど性欲一本じゃなかったはず。
ある日数か月間くらい行方不明な時期があって、もう皆が生存を諦めてた頃にひょっこり戻ってきてくれたの。だけど、その間に相当辛い経験をしたみたいで、何があったのかはいまも教えてくれない。
ただ、戻ってきてからの沙樹ちゃんはすっごい荒れてた。完全に自暴自棄になって、人に暴力も振るって、性的にも。それでも沙樹ちゃんは私にだけは危害を加えず味方でいてくれて。程なくして、開き直ったのか居直ったのか、次第にいまの変態さんになってったの。
あ、別人に入れ替わった可能性はゼロなのは知ってるよ。実は、沙樹ちゃんには秘密だけど最近その原因知っちゃったから。―ーあんなの、私なら立ち直れないよ。
そんな沙樹ちゃんは、いまでも私にだけは手を出そうとしない。たぶん、今まで通り私のことを大切に思ってるからじゃないかな、家族や姉妹のように。
だから、私だけは性の対象外。家族や姉妹を性的な目で見ないみたいに。その分他の人には言えないくらいディープな話を包み隠さず吐露してくれる。
それは、とてもうれしいこと。だって、沙樹ちゃんにとって私は特別ってことだもん。
でも、でもね。
実は「梓だけは女の子として見れないんだ」って言われてるみたいで、ほんのちょっとだけ辛かったりします。
私はたぶんノーマルだから。この想いは恋愛じゃないけど。だけど、沙樹ちゃんの一番でいたい、沙樹ちゃんを誰かに取られたくない、私を見てほしいって気持ちは、たぶん誰にも負けないつもりだから。
「梓、帰ろ」
放課後。午後からは授業に参加してた後ろの席の沙樹ちゃんが、私の肩をトントンと叩きます。
私は振り返って、
「沙樹ちゃん、藤稔さんと帰るんじゃないの?」
「ん、どして?」
「だって、あれだけ仲がいいんだもん」
本当なら、まだひとりは危険だとか言うべきだったと思うのに、出たのはそんな言葉。
「そう? ラブホ誘っても断られるんだけど」
「普通は断ると思うよ」
「ええ? 仲がいいなら夜のライディングだって」
「沙樹ちゃんの『仲がいい』の定義どれだけズレてるの?」
「まあ、それはそうとして」
と、沙樹ちゃんは改めて、
「今日はもう少し梓とじゃれてたい気分なのよ。ベヒんもスバーガー奢るからさ」
もう。沙樹ちゃんはずるいよ。
今日の私、すっごく気が苛立ってたのに、変態な言動で振り回してからそういう言葉をかけて。
ここで機嫌直しちゃったら、さすがにチョロいかな?
でも、仕方ないよね?
ベヒんもスバーガーを奢ってくれるんだもん。
「じゃあ、ダブルもスチーズのオニポテセット、あと単品で……」
「え? ちょっ、梓少しはセーブしてくれると嬉しー―」
「そうと決まったら沙樹ちゃん。早速レッツゴーだよ」
表情の消えた沙樹ちゃんを引っ張って、私はるんるん気分で教室を出ます。
その際、扉の前で花寺くんが温かい眼差しで見送ってくれました。
「徳光、じゃあまた明日なー。鳥乃、ドナドナー」
今回は沙樹ちゃんが一番じゃなくて、私はちょっとだけ嬉しかったかな。なんでドナドナなのかは分からないけど。
最近、これレズ版シティーハンターよりもレズ版生徒会の一存な気がしてきました。
冒頭が定番なのも一存の原作小説版と同じですし、沙樹のキャラも冴羽さんより杉崎な気が……。
●今回のオリカ
幻獣機コウライデン
星3/風属性/機械族/攻1500/守1200
①:相手がダメージを与える魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。
●自分が効果ダメージを受ける場合、代わりに自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
②:このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
③:自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(雷電+こうもり)