前回の宣言通り、今回の更新の際に「フィーア外伝」の章を作成しVIER1は移動させて頂きました。――と、言いたかった所ですが、すでに移動させた後、たったいまこの文章を打ち込んでる際に脱字により「第2章と第3章の間に」が「第2章と第3章に」になってた件が発覚し修正しました。
新年早々、皆さまに迷惑をお掛け致しました事、お詫び申しあげます。
2020/01/02(23:02):
一部カードの効果テキストを修正しました。(詳しくは後書きにて)
2020/01/03(00:00):
デュエル中の描写を一か所加筆しました。(詳しくは後書きにて)
これは、確か私がまだ中学に通ってた頃だったと思う。
レズだったけど、まだいまほど性欲に生きてなくて、視野が狭くて、少しだけ厨二病な思想を患った、そんな幼く青臭い思春期の最中。
そう。いま私がみてる夢は、そんな頃に起きた実体験である。
◆◆◆
「嬢ちゃん嬢ちゃん、そこの嬢ちゃんだよ君ぃ」
それは、中3の3月に起きた、ある事件の前日だった。
小母さんの門前払いを喰らったため、梓の家でご飯にありつけられなかった私は、仕方なく街で食費稼ぎという名のカツアゲやスリに及ぼうと夜の街に出ていた。そんな時だった。
「ん?」
振り返ると、建物と建物の小汚い隙間に、これまた小汚い男が私を手招きしてた。痩せ細った体にボロボロのシャツ。帽子とサングラスで顔を隠してるが、見るに多分40~50代だ。
「嬢ちゃん人生つまらないって顔してるね。幸せになれるいいクスリあるよ」
ああ、そういう類ね。私はすぐ、この男は私にドラッグを売りつけようとしてるのだと分かった。
「悪いけど手持ちないから」
私は立ち去ろうとしたけど、男は私の腕を掴んで、
「サービスだよ、さ、あ、び、す」
とか言いながら、私の手に注射器と白い粉の入った袋を握らせてきたので、
「っ」
何するのよ!
って、口には出さずとも私は、振り向き様に男を蹴り飛ばした。
「ぎゃふ!」
男は地面に転がりながら、
「へへ。足りなくなったらまたここに来いよ。俺はいつもこの時間にいるからさ」
なんて言って、しかし私に怯えるように逃げ去っていった。
そんなわけで私の手元には警察に見つかったら即アウトなブツが渡ってしまう。男の目論見は分かっている。私に興味本位で一回使わせ、中毒にしてから金をとる気なのだ。全く、こんな物に興味を示す人間に映ったと思うと凄く不快だ。そもそも自分が人間かどうか怪しいわけだけど。
そんな所に。
「君、ちょっといいかい? 警察だけど」
って言葉が耳に届き、私は咄嗟にブツをポケットに隠しながら周囲を確認。見ると、私のすぐ傍でギャル風の女が警察の補導を受けていた。
「君だよね? いま、この場所で喧嘩をしてたのは」
「ハッ? してねーし、勝手に決めんなクズ」
どうやら、さっき私が男を蹴った問題が、警察の耳に届いて駆けつけてきたらしい。
私はちゃらちゃらした服装も濃いメイクもしてなかった為、白と判断したのだろう。警察は完全に無実のギャルを疑っていた。
数年後の私ならギャルを体目的で助けたはずだけど、この頃の私は、まあ自分がレズって自覚はあったけど、そこまで性欲一本で生きてなかった。だから、残念ながら目の前のギャルには何一つ魅力を感じなかったし、助けるメリットもなかった。
なので、
(ご愁傷様)
私は助け船を出さず、その場を後にする。
その際、誰かが私を見ていた気がするが、そこまで神経質に気にする必要もないので無視することにした。
ただ、途中クスリを捨て忘れてしまい、結局ブツは家にお持ち帰りする形になってしまった。
翌日、事件当日。
私はクスリを制服のポケットに隠し持って学校に顔を出した。
一晩経って、ただ捨てるのは勿体ないと気づいたのだ。勿論、自分で消費する気は毛頭ない。しかし、例えばこのブツが誰かの机や鞄から発見されれば、きっと大問題に発展するだろう。特にいまは受験シーズン。この時期に前科がつく事が何を意味するかは想像に難しくない。それを、いけ好かない優等生、特に過去に梓を虐めたり陰口叩いた前科持ちをターゲットに仕込んでやろうと思ったのだ。
「おはよう、沙樹ちゃん」
教室に入り、とりあえず鞄を机に置いた所、先に登校してた梓が私の席の前まで歩み寄ってきた。
「ん、おはよ」
ぶっきらぼうに私は挨拶を返す。梓は前の席の椅子を借りて座り、
「昨日はごめんね。ご飯食べれた?」
「抜いた」
私は正直にいった。勿論、夕食の話で、昨日の晩から胃袋に食べ物を入れてないという意味だ。
「あ」
途端、視線を落とす梓。
「ごめんね」
「別に。でもまあ、あの様子だともう二度と家に行くの無理っぽいわね」
元々私は幼い頃よく梓の家に
梓曰く小母さんは、今まで虐められる梓を私が助けた一連が全て、私が裏で虐めっ子と手を組んで起こしたマッチポンプと思ってるらしい。勿論、私はそんな事してないけど、小母さんからすれば正否は関係ないのだ。私が梓の平和を保つヒーローになる事自体が、もはや私が梓を人質にとってる事とイコールで繋がってるみたいだから。
じゃあ、何故今回、飯をたかろうとした私を小母さんが追い出したのか。
私は、9月から年始頃まで行方不明になっていた。
その内容は、ある日フィール・ハンターズによるバス爆破事件に巻き込まれ、フィールを使って脱出した所を、フィール・カードの回収のために殺され、何の因果か地縛神の眷属に選ばれて
だから私は、自分が本当に鳥乃 沙樹である自信もないし、少なくとも人間ではない。自分が消えれば梓が悲しんでくれるのを知ってるから、泣かせない為に生きている。それ以外に自分の存在に意味を見出せないから、梓に手をあげない以外は完全に自暴自棄になっていた。
結果、元々問題生徒だった所ここにきて余計に喧嘩に粗暴な態度、万引きやスリ等素行が悪化したので、ついに小母さんも危険を承知で私と梓を引き剥がそうとしたのだろう。または私が数か月間いなくても梓が無事だったのも影響してるのかもしれない。
「おはようございます。あずちゃん、沙樹さん」
ここで、私と梓は横から生徒に声をかけられた。
見ると、立っていたのは、間違いなく過去一度も染めた事ないだろう黒髪をヘアゴムでふたつ結びにした、真面目で明るい雰囲気の女子生徒。
梓は笑顔で、
「おはよう、りんちゃん」
対し私は席を立ち、
「じゃ、面倒なのがきた所で私は退散するわ」
と、梓にいった。直後、女子生徒は私の足が向く先に回り込んで、
「待ってください。私、沙樹さんに用事があるのですけど」
「私は用事ないから。じゃ」
私は、半ば遠慮なく女子生徒を突き放して道を開け、教室を後にした。
この当時、校内で私に積極的に話しかけてくる物好きは三人だけだった。
ひとりは梓、続けて担任の島津 鳳火先生、そして最後の三人目が、先ほど私に話しかけてきた
りんは、俗にいう私たちの学年で委員長に類する生徒で、小学部の頃からクラスが一緒になる度、何かと私に世話を焼いてくる存在だった。それは素行が悪くなりすぎて梓と先生以外まともに接触してこなくなった中でも変わらず、さっきのように粗暴に扱われ一度か二度肩や腰を打ったこともあるのに未だ避けようとしない。私が人間だった頃は、煩い煩い思いながらも学年が上がってクラスが別になると、どこか物足りなさを覚えるような、一周回って悪友のひとりみたいに捉えていたが、いまは梓以外が敵にしか見えなくなっていたため、りんの存在は目障り以外の何物でもなかった。
いや、本当はもっと別の感情を彼女に覚えていたのだが、この時は自覚してなかったのだ。
(登校早々りんに絡まれるなんてついてないわ)
何かで憂さ晴らしできないか考えながら廊下を歩いてると、ふと私は空き教室に人の気配がするのに気づいた。
こっそり覗いてみると、男女混合の不良が誰かを囲んで虐めてる現場だった為、
「あ、憂さ晴らし発見」
言いながら現場に乱入。数分後、教室には股間を蹴られ蹲る男子生徒と、私に殴られた挙句身ぐるみ全て窓の外に投棄された女子生徒が各1~2名ずつ転がっていた。虐められていた生徒は
教室を出ると、ちょうど当時イケメン先生で話題の
「あ、吉月先生。この空き教室に宇佐美さん虐めてた不良を転がしたから、後処理お願いします」
なんて言ってこの場を後にした。その際、妙子が私に助けを求める目で見てた気がしたけど、残念ながら私はスルーしてしまった。勿論、数年後の私は思い出す度これを後悔している。
それから、他のクラスを幾つか見て回りクラスを忍ばせるターゲットを探したが、めぼしい相手がいなかったので、私は諦めて屋上で授業をフケることにした。
人気の無い屋上。
私は、影になってる場所を適当に探し、壁にもたれて休んでた所数分。昨日の晩から水以外を口にしてないのを思い出し、
「お腹、すいた」
「菓子パンでしたらありますけど?」
「頂戴」
横から差し出されたあんパンを奪うように取り、袋から出して数口頬張った辺りで、
「ん?」
何故、隣に人がいるのだろう。違和感に襲われた私は隣に視線を向けると、
「実は私も朝ごはんがまだで、教室でこっそり食べる不良行為を働かなくてはいけない所でしたので、助かりました」
なんて私と同じあんパンをぱくつくりんの姿が見えた。
「ところで、いつから居たのよ」
私が訊ねると、
「沙樹さんが来る前ですよ? 遅かれ早かれ屋上に来ると思ってましたから、沙樹さんが喧嘩されてる間に先回りしました」
「ここ、立ち入り禁止区域なんだけど。いいの優等生の委員長さん?」
「別に構いませんよ」
りんは当然のようにさらっといった。
「あのさ」
私は白い目でいった。
「いまの時期に不良行為を働けば、りんなら入学取り消しはないでしょうけど、それでも高校の地位に支障出るでしょ?」
基本的に学園の生徒は優先して高等部に在籍できるとはいえ、極端に成績や素行が悪かったりすると、若干ながらエスカレーター式から外される危険性はある。この時期に不良行為を働くことは自殺行為にも等しいのだ。
なのに、この優等生は、
「お節介は趣味ですから。趣味を優先しただけです」
って。悪びれる様子なくのたまったのだ。
趣味はお節介。
それは、彼女の口癖だった。
先ほど彼女は、私がどれだけ素行悪くしても世話を焼いてくるといったが、それは別に私が特別なわけじゃない。りんは彼女の目に留まる全員に対して、相談に乗ったり、揉め事の仲裁を買って出るなど世話を焼き続ける。その結果、自然と私と接する機会が多かっただけのことなのだ。
でもって、感謝されたり理由を求められると毎度「これは趣味だから」というのである。
そのうえ、
「自分の立場顧みず趣味でお節介とか、どこの聖人君子よ」
と、称すれば、
「やめてください、聖人扱いは嫌いなんです」
なんて返事がくるまでがデフォルトだった。
「なら、いっそ大馬鹿者?」
「そう言ってくれたほうが、私には褒め言葉ですね」
冗談で言ったのに、何故かりんは嬉しそう。
「相変わらず、わけ分からないわ」
「何がですか?」
きょとんとした顔で訊ねるりん。
私は呆れて、
「謙遜はいって意味ある相手と意味ない相手で分けたほうがいいって話」
「別に謙遜で言ってるわけじゃないんですけどね」
「なんて言いながら慎ましく善人アピールして、そんなに良い人って見られたいの?」
「いえ、別に全然です」
「だからそういう所よ。誰これ構わず人の顔色伺って八方美人に聖人君子目指して」
「あ、また聖人扱いした」
りんはそこには強く反応し、
「さっきも嫌いだって言いましたよね? それに本当に八方美人な聖人目指してたら、今頃真面目に授業してますよ。趣味に生きてるだけなんです、私は。たまたまそれがお節介とか世話焼きだっただけで、好きに生きてるだけなのに、優等生だとか聖人だとか真面目に見られてるだけなんです」
「まず、世話を焼くのが趣味って時点で理解不能よ」
言い捨てながら、私は立ち上がった。
「沙樹さん? どこに行くのですか?」
訊ねるりんに、
「早退。今日はもうフケるわ」
どっかの優等生様の相手をして疲れたしね。クスリを忍ばせる件も、もういいや。
「待ってください。用事があるって言いましたよね?」
そういえば、教室でそんな事いってた気がする。
「だから私にはないって」
私はそのまま背を向けて屋上を去ろうとすると、
「昨日、沙樹さんドラッグを買ってましたよね?」
りんは言ったのだった。
「っ」
驚き、私は振り返る。
「見ましたよ。昨日、街で売人から袋を受け取るのを」
「見間違いじゃないの?」
「残念ですけど、私が沙樹さんを見間違えるはずがありません」
妙な自信をもって言い切るりん。直後、私はチクリと胸が痛んだ。
彼女にさえ私がクスリをやってる人間だと思われたことが、そして正解とはいえ昨日クスリを受け取った人間を疑いなく私と認識してる事がショックだったのだ。
「沙樹さん、ドラッグだけはやめてください。あれだけは駄目ですよ。ドラッグがどれだけ危険か知ってるのですか?」
「煩い」
忌々しさのあまり私は呟く。だけど、りんは更にボルテージを上げ、
「煩いとは思います。でも、あのクスリだけは、たとえ一回でも使ったら駄目なものなんです。お願いします」
「だから煩いって」
振り返り様に、私はフィールで拳圧を飛ばし、直接触れずに殴りつけた。
「っ」
突き飛ばされ、宙を舞うりん。
しかし直後、彼女は衝撃を殺すように自ら床を転がり、私から距離を取りながら素早く起き上がったのだ。
一応、りんは人並の運動神経は持っているが、それを超える能力は持ってないはず。なのに、先ほどの彼女は私の知る身体能力を遥かに超える身のこなしをしていた。
りんは驚きながらいった。
「その力、フィール!?」
その言葉に、私も驚き、
「知ってるの? なんでりんが、それを」
すると、
「それは私の台詞でもありますけど。ともあれ、フィールが使えるのなら、デュエルしかなさそうですね」
りんの言葉に私は、
(は? なんでここでデュエル脳?)
と思った。
当時、私はすでに鈴音さん等から一応のフィールの概要を聞いていたが、フィールを持つ者同士が相対したときの定石やあるあるをまだ体感してなかったのだ。
だから、
「知ってると思いますけど、デュエルで負けたほうはフィールを一時全損します。お互い折れる気がないようですから、下手に交渉を長引かせるよりはスマートだと思いませんか?」
という、りんの提案も、当時の私にはただ「リアルファイトはしたくない」という意志表示にしか感じなかった。
だけど、私はあえて交渉に乗った。
「なるほどね。いいわ」
片方のフィールがなくなってしまえば、勝者は割とやりたい放題になってしまう。ここで、積年言われ続けた小言の分、叩きのめしてやるのもいいかもしれない。
何故だか私は、先ほどから無性に腹が立っていたのだ。
「交渉成立ですね」
私とりんは、それぞれポケットからデュエルディスクを装着し、展開。
『デュエル!』
私たちは叫んだ。
沙樹
LP4000
手札4
[][][]
[][][]
[]-[]
[][][]
[][][]
りん
LP4000
手札4
「じゃ、先攻は貰うわ」
私はデュエルディスクの結果に従って宣言しながら最初の手札を引き、
「手札から《幻獣機メガラプター》を召喚。さらにカードを1枚セットしてターン終了」
と、手早く最初のターンを終える。
沙樹
LP4000
手札2
[][《セットカード》][]
[《幻獣機メガラプター》][][]
[]-[]
[][][]
[][][]
りん
LP4000
手札4
「私のターンですね。ドローします」
りんはカードを引く。
「こちらも、まずは様子見から入ります。手札から《ブンボーグ003》を通常召喚。このカードの召喚に成功した時、デッキから003以外のブンボーグを特殊召喚します。私はデッキから《ブンボーグ001》を特殊召喚」
出現したのは、まさしく彼女らしい文房具を模した小型の機械族モンスター。
「そして、レベル3《ブンボーグ003》に、レベル1《ブンボーグ001》をチューニング。フラット展開完了。エネルギー重点完了。飛行甲板、発進! シンクロ召喚。いきます、レベル4、シンクロチューナー《リアクターズ・フラット》!」
出現したのは小型の空母だった。守備表示で召喚されたが、その守備力も2000とまずまず程度。
りんは、そんなモンスターを出しただけで、
「ターン終了」
と、宣言したのだ。
「なら」
私は伏せカードを表向きにする。
「永続罠《空中補給》を発動。このカードは」
言いかけた所、
「《リアクターズ・フラット》のモンスター効果」
さすがにシンクロモンスターを出して、攻撃もせずただ終了ではないと思ったが、りんはここで動いてきた。
「このカードは1ターンに1度、手札・デッキ・墓地から通常召喚可能なリアクターモンスターを1体選んで、フィールドに表側表示で存在するものとして効果を適用できます。私は《トラップ・リアクター・RR》の効果を適用。この効果は、発動した罠カードを破壊し、800ダメージを与えます」
りんの空母から機械族モンスターが射出され、上空からの爆撃で《空中補給》が破壊される。けど、私は無視して、
「《空中補給》は1ターンに1度、幻獣機トークンを1体特殊召喚するわ。守備表示で特殊召喚」
と、いって特殊召喚の宣言。しかし、起動しない。
「え?」
何がどうなってるの? 私は困惑し、すぐりんの不正を疑って視線を向けると、
「ルール上、基本的に永続罠カードはフィールドに存在している場合にのみ効果を適用します。ですから、通常罠と違って効果が処理される時にフィールドに存在しなければいけないので、俗にいう最強サイクロン戦術が通用するんですよ?」
「ちっ」
私は舌打ちした。そういえば、確かにそんなルールがあった気がする。
沙樹 LP4000→3200
で、おまけに爆撃によるダメージが私のライフを削る。すると、
「さらに、《リアクターズ・フラット》の効果は続いています。適用したリアクターモンスターの効果で相手にダメージを与えた場合、その選んだモンスターを特殊召喚します。私は《トラップ・リアクター・RR》を守備表示で特殊召喚します」
そのままトラップ・リアクターは一時的にフィールドに存在する扱いから、実際に特殊召喚されて、りんの場に留まる。
「改めてターンを終了します」
りんは言った。
沙樹
LP3200
手札2
[][][]
[《幻獣機メガラプター》][《幻獣機トークン》][《幻獣機トークン》]
[《リアクターズ・フラット(りん)》]-[]
[][《トラップ・リアクター・RR》][]
[][][]
りん
LP4000
手札4
「私のターン、ドロー」
私はカードを1枚引き、
「まさか、りんのガチデッキがとんだ害悪デッキとは思わなかったわ」
お節介が趣味を自称するだけあって、りんのデッキはどうせ接待デッキって印象が強かったのだ。しかし、蓋を開けてみればリアクターというモンスターを使って私のカードをカウンターで破壊しながらじわじわバーン効果で追い詰めるデッキ。恐らく、さっき出されたカードが“トラップ”・リアクターな所から、十中八九マジックとかモンスターのリアクターもあるに違いない。まさか、こんな性質悪い事してくるなんて。
しかも、私の幻獣機とりんのリアクターはどちらも航空機モンスターを扱ったテーマって点で共通点がある。そんな事実が余計に私を苛つかせた。
さて、ドローしたカードは何だろうか。私は確認し、
(よし)
って、なった。
「手札から《強欲な解体》を発動。このカードは手札のレベル2以下モンスターを捨ててカードを2枚ドローする。私は《幻獣機オライオン》を墓地に送って2枚ドロー」
私は早速引いた手札交換の魔法カードを使用。りんの反応を確認したが、《リアクターズ・フラット》を使ってくる気配はない。私はそのままカードを2枚引き、
「さらに《幻獣機オライオン》の効果。このカードが墓地に送られたことで私の場に幻獣機トークンを発生。さらに《幻獣機メガラプター》は、私の場にトークンが特殊召喚された時、さらに幻獣機トークンを1体特殊召喚するわ」
と、計2体の幻獣機を模ったホログラムのデコイを場に展開。それでも、りんは《リアクターズ・フラット》を使ってこない。
《空中補給》を破壊されたせいでトークンを展開する予定が狂いかけたが、結果的には手札のオライオンを墓地に送ることが出来たことで予定通りの流れに進んだ。
「《幻獣機メガラプター》と幻獣機トークン2体をリンクマーカーにセット。召喚条件は機械族モンスター2体以上。リンク召喚。リンク3《幻獣機アウローラドン》」
私は場の3体を使ってリンクモンスターを召喚。
「リンク召喚に成功した《幻獣機アウローラドン》のモンスター効果。私の場に幻獣機トークンを3体特殊召喚」
「《リアクターズ・フラット》の効果発動」
ここで、りんは動いた。
「私はデッキの《サモン・リアクター・AI》の効果を適用。モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、800ダメージを与えます」
沙樹 LP3200→2400
私のライフが再び削れ、
「そして、ダメージを与えたことで《サモン・リアクター・AI》を特殊召喚」
新たなリアクターが射出される。ただし、このモンスターにはカードを破壊する効果はついてないらしい。
「《幻獣機アウローラドン》のモンスター効果。トークンを2体リリースしてデッキの幻獣機を特殊召喚。私は《幻獣機デスヴァルチャー》を特殊召喚」
「《サモン・リアクター・AI》の効果。1ターンに1度、モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時、800ダメージを与えます」
「っ」
沙樹 LP2400→1600
さらに削られる私のライフ。
しかも、ライフ1600ってことは、あと2回800バーンを受けたら私の負けになってしまう。気づくと、私はもうそこまで追い詰められていた。
一応、私の手札には効果ダメージを幻獣機の特殊召喚に変換する《幻獣機ピーバー》が潜んではいる。加えて、このカードで《リアクターズ・フラット》の効果ダメージを止めれば、そのままサモン・リアクターの展開も封じることができた。しかし、このカードは性質上フィールドに空きがないと効力を発揮できず、使うとフィールドを幻獣機トークンで埋めてしまう。
私は見事アウローラドンでフィールドを埋めた所を《リアクターズ・フラット》に狙われ、この後予定していたモンスターの通常召喚に必要なスペースを確保しないといけない所を、サモン・リアクターの更なるバーンで狙われたのだ。全く、狙ってたのか偶然なのかは分からないけど苛々する。
「私は手札からチューナーモンスター《幻獣機ウォーブラン》を通常召喚。そして現在、《幻獣機デスヴァルチャー》は自身の効果でレベルが3から6になってる。私はレベル6デスヴァルチャーに、レベル1ウォーブランをチューニング」
ウォーブランがひとつの光の円に変わると、中を潜ったデスヴァルチャーが6つの光に変わり、混ざり合う。そっちが地味バーン戦術でくるなら、こっちはそんな生易しいレベルじゃないバーンダメージで焼いてやるわ。
「シンクロ召喚。レベル7《ダーク・ダイブ・ボンバー》」
私は、ここで
直後。
「えっ」
突然、りんの目の色が変わり、
「そのカード、どこで」
「ん?」
「沙樹さん。どうして、あなたがこのカードを持ってるんですか? 元々の持ち主は、いまどこに?」
「……あ゛?」
私の口から、人生で一回したかどうか程ドスの利いた声が漏れる。
「知らないわよ。あんな金髪ヤンキーのことなんて」
「やっぱり知ってるんじゃないですか。行方不明なんです。教えてください」
必死に懇願する彼女に私は、
「さてね。今頃お星さまにでもなってるんじゃないの? 無事昇れてたらだけど」
私は口裏に強い憎悪を込めていった。
彼らは私の人生を狂わせた張本人なのだから。彼らさえいなければ、今頃私は死を経験なんてしてないし、半機人にもなってないのだ。ヤンキーとワカメは死の際、肉体ごと私の地縛神の生贄に取り込まれた。だから、もし死後の世界というものがあり、彼の魂が未だその何処にも行けず苦しんでるのだとしたら、私にとっては正に「ざまあみろ」だったのだ。
しかし。
「殺したん、ですか?」
顔を青ざめ、りんはいった。
「殺したんですか? 沙樹さん、あなたが殺したっていうんですか?」
「だから?」
すると、
「ッ」
りんは私を睨みつけたのだ。まるで大切な人の仇をみるような強い憎悪を露にして、次第にその瞼から涙を滲ませて、
「許さない」
とまで言い出したのだ。
「なによ」
私は虚勢を張って睨み返す。
「結局、お節介が趣味とか何だ言いながら、人が本当に助けを求める所はきっちり足蹴にするんじゃない」
気づくと、私は彼女の眼差しに強いショックを受けていた。
りんに、ここまで強い敵意や憎悪を向けられたのは初めてだった。それだけでも意味不明にショックを受けてるのに、原因が金髪ヤンキーである事実が心の激痛を加速させる。
私はいった。
「この、人殺しが」
「人殺しはあなたでしょう」
「あいつの味方ならりんも人殺しも同然よ」
叫びながら、私はやっと、りんに向けていた真の感情に気づいた。
私は、りんの事を数少ない味方だと思っていたのだ。
勿論りんのお節介は私だけに向けるものではない。目に見える全てに対し世話を焼き手を差し伸べる。到底、私の理解できる行動ではない。でも、誰かではなく全てにお節介焼く機械みたいな存在だからこそ、私のひねくれた感情でさえ一周回って信頼できたのだ。
もし、周り全てが私の敵でも、彼女なら助けを求めれば応えてくれるはずだ。伸ばした手を振り払わず、いつでも力になってくれる馬鹿はきっと彼女の他にいない。
私にとって彼女は、私が本当にどうしようもない時に切る最後のジョーカーだったのだ。
しかし、現実のジョーカーは私より私を殺そうとした敵を選んだ。私は裏切られたのである。
「くっ」
私は、一度歯を食いしばってから、
「《幻獣機ウォーブラン》がシンクロ素材になったことで、私の場に幻獣機トークンを特殊召喚。さらに幻獣機トークンをリリースして墓地の《幻獣機デスヴァルチャー》のモンスター効果。このカードを墓地から特殊召喚。さらにデスヴァルチャーはこの方法で特殊召喚する場合にレベルを1つ上げることができる。私はデスヴァルチャーのレベルを幻獣機共通効果もあってレベル3から7に変更」
実は。
現在私とりんは、互いに自分が金髪ヤンキーとの間に何があったのかを伝えあってはいなかった。だから、多分にお互い、自分の背景を相手が知らない事に気づかず、相手が知ってるつもりで言葉をぶつけあい、誤解しあい、失望しあい、憎しみあっていた。
そんな状態でデュエルを続けた結末を、2年後の私は深く深く後悔することになる。
「《ダーク・ダイブ・ボンバー》のモンスター効果。メインフェイズ1に1度、私のモンスターを1体をリリースし、そのレベル×200ダメージを相手に与える。私がリリースするのは《幻獣機デスヴァルチャー》。レベル7×200ポイントのダメージを喰らえ」
直後、デスヴァルチャーはその姿を7つの爆弾に変え《ダーク・ダイブ・ボンバー》に搭載される。
《ダーク・ダイブ・ボンバー》は一度大きく上空へと舞い上がると、一気に急降下しながらりん向けて爆弾を投下。
「きゃっ」
怒りと一緒に込めたフィールの攻撃は、彼女のいた場所に大きな爆炎を巻き上げる。あまりの火力に攻撃した私も腕で顔を隠し、目を細めて爆風と炎熱に耐えた。
りん LP4000→2600
程なくして煙が消える。中から顔を出したりんは、制服が焼け焦げて半裸になり、膝をつき、煙に喉をやられ激しく咳き込んでいた。
が、その体は記憶よりずっと細く華奢な肉付きをしており、火傷こそ防いだ肌は綺麗なままだったが、私はふと違和感を覚える。
彼女はこんなにガリガリな体型だっただろうか。
「う、ぁ」
唇を涎で濡らし、苦しそうに顔をあげるりん。汗と涙で化粧が剥がれ落ち、隠していた目の隈が顔を出す。
「りんも、案外平気で校則違反するのね」
とは勿論化粧を指していった言葉だ。
りんは、
「あっ」
と反応し、すぐに顔を隠す。
「あなたが、ーーを、殺すから」
りんが呟いたが、一部声がかすれて聞こえなかった。ただ、りんが金髪ヤンキーのために目に隈を作り、痩せ細るに至ったのだと気づくには十分な内容で、
「このっ」
私は、怒りのままに手札を握ってないほうの手で握り拳を作る。
「そんなに、あいつに会いたいならすぐ会わせてやるわ。カードをセットしてバトルフェイズ! 《ダーク・ダイブ・ボンバー》で《サモン・リアクター・AI》に攻撃」
私は攻撃を宣言するも、
「バトルフェイズ開始時。手札から速攻魔法《リアクトライ・サモン》を発動。このカードは私の場にリアクターが3種類以上もしくは《ジャイアント・ボマー・エアレイド》が存在する場合に相手ターンでも手札から発動可能です」
りんはいった。
「このカードは、私の場にサモン・トラップ・マジックのリアクターがそれぞれ1体以上存在するように、手札・デッキ・墓地からリアクターを1体特殊召喚します。私はデッキから《マジック・リアクター・AID》を特殊召喚」
これで、カードの効果通り、りんの場にサモン・トラップ・マジックの3体のリアクターが揃う。
「さらに、《リアクターズ・フラット》の効果。私は相手ターンにこのカードを素材としたシンクロ召喚を行います」
「相手ターンでシンクロ?」
「私はレベル3《マジック・リアクター・AID》にレベル4《リアクターズ・フラット》をチューニング!」
《リアクターズ・フラット》が4つの円に変わると、マジック・リアクターが中を潜り3つの光となって混ざり合う。
「夜間襲撃、準備完了。爆撃機発進準備3、2、1、――作戦開始! シンクロ召喚! 舞い上がれ、レベル7《ダーク・ダイブ・ボンバー》!」
口上と共にりんの場に出現したのは、いま私も場に出している《ダーク・ダイブ・ボンバー》だった。しかも、私は直感で察する。あのカードは、いま私が召喚している《ダーク・ダイブ・ボンバー》を複製コピーしたカードだって。
「進行がフェイズ開始時まで巻き戻ったことで攻撃の順番を変更。《幻獣機アウローラドン》でサモン・リアクターに攻撃」
「その《サモン・リアクター・AI》の効果を発動。サモン・リアクターが効果を使用したターンのバトルフェイズ時、相手モンスターの攻撃を1度だけ無効にします」
「ちっ」
サモン・リアクターを破壊したあと、《ダーク・ダイブ・ボンバー》同士をぶつけて破壊しようと思ったのだけど。
「なら、改めて《ダーク・ダイブ・ボンバー》でサモン・リアクターを攻撃」
私は執拗にサモン・リアクターに攻撃宣言。
確かに《ダーク・ダイブ・ボンバー》も凶悪なバーン効果を持ってるものの、現状先に破壊しなければいけないのは、サモン・リアクターだと思ったからだ。
私の爆撃機の攻撃を浴び、サモン・リアクターは今度こそ爆破四散。
「ターン終了」
私はいった。
沙樹
LP1600
手札1
[][][《セットカード》]
[《幻獣機トークン》][][《ダーク・ダイブ・ボンバー》]
[《ダーク・ダイブ・ボンバー(りん)》]-[《幻獣機アウローラドン(沙樹)》]
[][《トラップ・リアクター・RR》][]
[][][]
りん
LP2600
手札3
「私のターン、ドローします」
りんはカードを1枚引き、
「これで終わりにします。《ブンボーグ003》を召喚! 効果でレベル9《ブンボーグ009》をデッキから特殊召喚して、《ダーク・ダイブ・ボンバー》で射出!」
「なっ」
再び、りんの場に小さな文房具を模した機械族モンスターが現れるも、デッキから何さらっとレベル9なんて出してバーンダメージに変換してるのよ、こいつ。
あのバーン効果はレベル×200の数値なので、ダメージは1800。こんなもの喰らったら一溜まりもない。
「手札から《幻獣機ピーバー》を墓地に送って効果発動。このターン、私が効果ダメージを受ける場合、代わりに幻獣機トークンを特殊召喚できる」
りんの《ダーク・ダイブ・ボンバー》が落した爆弾が途中で光に包まれ、9体で1組の小型のデコイに姿を変える。
「それなら。座標確認、私のサーキット。展開!」
りんの前方にリンクマーカーが出現すると、
「召喚条件は機械族モンスター3体。私は《ブンボーグ003》《ダーク・ダイブ・ボンバー》《トラップ・リアクター・RR》の3体をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン! リンク召喚! いきます、リンク3《
あの《ダーク・ダイブ・ボンバー》をリリースまでして現れたのは、一隻のヘリ空母の姿。
「そしてハーミーズのモンスター効果! 自身をリリースして、墓地から《サモン・リアクター・AI》《トラップ・リアクター・RR》《マジック・リアクター・AID》を1体ずつ特殊召喚します。さらに、この3体を墓地に送り《サモン・リアクター・AI》の効果。手札・デッキ・墓地から《ジャイアント・ボマー・エアレイド》1体を特殊召喚します」
確か、そのカードは《リアクトライ・サモン》の効果の中で名前だけ出てきたカード。
3体のリアクターが合体するようにして出現したのは、1機の半人型爆撃機。その攻守は3000/2500で、
「このモンスターは通常召喚できず、《サモン・リアクター・AI》の効果でのみ特殊召喚できます」
と、りんが言った所から、間違いなくりんの切り札。むしろ、いままで使ってきたりんのモンスターを考えると、デッキ自体がこのカードを出す事を中心に組まれてる可能性まである。
「《ジャイアント・ボマー・エアレイド》のモンスター効果。1ターンに1度、手札を1枚捨てて相手モンスターを1体破壊します。私は手札の《ブラック・ボンバー》を捨てて《ダーク・ダイブ・ボンバー》を破壊」
直後、りんのモンスターから機銃が乱射され、蜂の巣にされた《ダーク・ダイブ・ボンバー》が破壊される。
「カードをセット。《ジャイアント・ボマー・エアレイド》でアウローラドンを戦闘破壊します」
さらにミサイルが3発発射され、幻獣機の共通効果を持たない《幻獣機アウローラドン》は破壊され、
沙樹 LP1600→700
ついに、リアクターの効果が1発でも発動すれば終わってしまうライフに陥ってしまう。
「ターンを終了します」
りんはいった。
沙樹
LP700
手札0
[][][《セットカード》]
[《幻獣機トークン》][《幻獣機トークン》][]
[]-[]
[][][《ジャイアント・ボマー・エアレイド》]
[][《セットカード》][]
りん
LP2600
手札1
私のターンが回ってきたわけだけど。
(まさか、りんにここまで追い詰められるなんて)
私の場には幻獣機トークンが2体と、伏せカード。しかし、このカードは単体で何か別のカードを対処するような効果は持ってない。
りんの場には伏せカードが1枚と、攻撃力3000の《ジャイアント・ボマー・エアレイド》。いままでのりんの傾向から、こいつも何かしらバーン効果を持ってるはず。加えてこのターンを乗り切ったとしても、バーン主体のデッキ相手に残りLP700で次があると考えるのはさすがに甘い期待もいい所だろう。
正直いって現状は絶体絶命だった。
(負ける?)
そんな言葉が、私の脳裏を過った。
(嫌だ)
また、奴らに殺されるなんて。しかも相手は、人間不信の私に近づき、心を開きかけるまで待ってから正体を現した相手だ。そんな奴に負けたくないし殺されたくない。
(読み込め。何を引けば突破できる?)
このドローに残りのフィールをほぼ全部ぶち込む覚悟はある。ただ、どのカードを引き当てるつもりでドローすればいいのかが分からなかった。
そんな時だった。
『暗キ力』
突如、私の奥深くから声が聞こえた気がしたのだ。当然、それが幻聴でなければ地縛神によるものだって確信はしてたけど。
「暗き力」
私は呟く。すると、私のフィールが指先一か所に集まり、闇色に輝きだしたのだ。
直後、デュエルディスクに登録していたスキルが別の名称に書き換わり、頭の中にその使い方が刻み込まれる。
私は刻まれた情報に引き寄せられるように、叫んだ。
「暗き力はドローカードをも闇に染める! ダークドロー!」
闇色に輝く指先でカードを引き抜く。すると、私の目の前でドローカードが闇に染まり、別のカードに書き換わった。
それ自体は丁度デッキから外してただけの市販されてるカードだったのだけど、同じくして私のEXデッキが光り輝き、EXデッキの枚数制限を超え、かつデュエルディスクがエラーを起こすことなく、たったいま誕生した天然のフィール・カードが1枚そこに加えられていた。
ドローした指先の闇が消えると同時に。私のフィール残量は一度ゼロになる。しかし、同時に入手したフィール・カードによって即座に私のフィールは回復。
「沙樹さん、いまのドローは? それに、嘘。新しいフィール・カードがこんな時に」
激しく動揺するりんを、私は一度冷たい目で見てから。
「《幻獣機レイステイルス》を召喚。さらに、フィールドのトークンをリリースし墓地の《幻獣機デスヴァルチャー》を特殊召喚」
私の場に1体のトークンと2体の幻獣機が揃う。ここで私は伏せカードを表向きにし、
「リバースカードオープン! 永続罠《マーシャリング・フィールド》の効果を発動。2体のレベルを9に変更」
「まさか、ランク9を?」
反応するりんに、
「まだよ」
私はいった。
「《幻獣機レイステイルス》のモンスター効果。フィールドのトークン1体をリリースし、魔法・罠カード1枚を破壊」
私は宣言し、りんの伏せカードを破壊。その直前、
「罠カード《深すぎた墓穴》を発動。次の私のスタンバイフェイズ時、沙樹さんの墓地に眠る《ダーク・ダイブ・ボンバー》を私の場に蘇生します」
と、その伏せカードを発動したものの、もう遅い。次のターンなんて来ないんだから。
「フィールドにトークンは消えたものの、《マーシャリング・フィールド》の効果は継続中。2体のレベルは9のまま。私はレベル9の《幻獣機レイステイルス》と《幻獣機デスヴァルチャー》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」
私たちの上空に銀河の渦が出現すると、2体の幻獣機は霊魂となって中に取り込まれる。
私は、この時はじめて手に入れた天然のフィール・カードを場に出す。
「エクシーズ召喚! ランク9《幻子力空母エンタープラズニル》!」
それは、巨大な空母のモンスターだった。
しかし、ここでりんは動く。
「でも、このモンスターは幻獣機ではありません。《ジャイアント・ボマー・エアレイド》のモンスター効果。1ターンに1度、この効果は、相手がモンスターの召喚・特殊召喚またはカードのセットを行った際に発動でき、そのカードを破壊し相手に800ダメージを与えます。これで今度こそ」
力強く宣言するりん。なるほど。いままでその効果を使わなかったのは、私がいくらモンスターを召喚しても、場にトークンが立ってる以上破壊する機会がなかったのだ。対し、いまはトークンもいなければ、出したXモンスターは幻獣機でさえない。でも、
「《マーシャリング・フィールド》の効果発動」
私はいった。
「自分フィールドの機械族Xモンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを墓地に送る」
「あっ」
りんの動きが止まり、一瞬激しい動揺を見せる。しかし、彼女はまだ折れずに、
「ですけど、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の攻撃力は3000です。エンタープラズニルの攻撃力2900には」
と、吠えるりんを横目に、私はすぐさまX素材を1つ取り除く。
「オーバーレイ・ユニットを1つ使い《幻子力空母エンタープラズニル》の効果を発動。相手フィールドのカード1枚を選んで除外する!」
「除外!?」
驚くりん。
「私が除外するのは《ジャイアント・ボマー・エアレイド》」
直後、空母から何故か主砲のビームが放たれ、りんのモンスターが跡形もなく消滅。
「あ、あ」
絶望に染まるりんの顔。私は、吐き捨てるようにいった。
「《幻子力空母エンタープラズニル》で直接攻撃。死ねッ!!」
エンタープラズニルからフィールの籠った虹色の光が放たれ、りんの体はその光に飲み込まれた。
りん LP2600→0
デュエルが終わり、ソリッドビジョンが消える中、モンスターの攻撃を直接浴びたりんは、直立し目を開けたまま意識を飛ばしていた。
《幻子力空母エンタープラズニル》は、1ターンに1度、手札・場・墓地・デッキの1番上からどれか1枚カードを除外させるとんでもない効果を持っている。そんなモンスターの攻撃をうけ、りんは一時的に意識を除外されてしまったのだろう。
やった私でも「多分」としか言えないけど。
「あ、いいこと思いついた」
私は、りんに意識があれば聞こえるようわざと声に出していい、ポケットからあるものを取り出し、彼女の傍に歩み寄った。
それはドラッグだった。
私は気絶中のりんの腕をとり、注射器を使って薬物を注入。さらに使い終わったブツをりんの手に握らせた。
(これで、りん。あなたの人生も終わりね)
そうだ。せっかくだから教師を呼んでこよう。屋上に人がいるって。
これでりんは、気絶してればドラッグを握った状態で、起きていてもドラッグのキマった状態で教師に発見され、どちらにせよ大問題に発展するはずだ。
私は、心のどこかで泣きながら、だけど上機嫌を取り繕って屋上を後にしたのだった。
◆◆◆
私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。
そして、レズである。
――現在時刻、午後6:30。
土曜日。旅行当日。
夢の中で屋上の扉を潜ると同時に、私は自室のベッドで目を覚ました。
(夢、か)
トラウマ物の、嫌な夢を見てしまった。私はベッドから半身起こすと、
「わふ、サキ起きた?」
って声が。
「え?」
まだ寝ぼけてるせいで状況が分からず、何事かと声の方角を向くと、そこにはドアの傍で毛布に包まってるガルムの姿があり、
「サキ、おはよう」
と、屈託ない笑顔でいった。
そうだった。
昨晩、私は安眠を確保するために就寝中の警護をガルムに頼んだのだった。
「おはようガルム」
言いながら私は顔をそらす。夢の中に、助けられなかったあの子がいたからだ。
「どうしたの、サキ?」
ガルムが訊ねる。私はいった。
「夢を見たのよ。中学の頃の、実際にあった夢」
「中学?」
「で、そこに妙子がいた」
「タエコが!?」
反応し、食いつくガルム。
「サキ、どんな夢だったの? タエコは何かいってた?」
「ごめん。直接会話はしなかったわ」
私は言いながらガルムの頭を撫でる。
「わふふ♪」
と、笑顔を向けるガルム。中身は違うのだけど、その体は妙子。笑顔からして妙子と全然違うのに、私はガルム越しに生前の妙子を見てしまう。
そして、失った繋がりで元クラスメイトの顔までも。
夢の舞台だったあの日を最後に、りんは学校に通わなくなった。
先生は家庭の事情と言ってたけど、間違いなく原因は私がりんに使ったドラッグである。あの日、学校に数台のパトカーが停まってたから。
りんが自主的に登校を避けたのか学校が彼女を拒否したのかは知らない。ただ、りんは中等部こそ陽光学園で卒業した扱いにはなったけど、高等部に彼女の席はなく、家庭の事情で引っ越したと在校生には説明されている。実際、彼女は住所を変更してしまい、いま同級生でりんの連絡先を知る者は誰もいない。
いま思えば、金髪ヤンキーが私を殺そうとしてたことを、りんは知らなかった可能性が高い。そもそも、ヤンキーの悪事自体をりんが認知してなかったまであったのだ。しかし、全ては推測でしかない。いま私に彼女と逢う手段はないし、仮にあっても、最早彼女のこれからの人生に、私が関わっていい権利は、きっとないのだ。
妙子、そしてりん。
謝って済むなら、たとえ肉焦がし骨焼く鉄板の上でも喜んで土下座するのに。ひとりはすでにこの世にいなく、ひとりはきっと私が自害しようとも解決はしないはず。
私はあの日、友人を二人も失ったのだ。
「ッ」
さらに、私は連鎖的に苦い想い出が脳裏を過る。
それはロコちゃんの依頼の末、
あの時、牡蠣根は私に「過去に女を潰したことがあるな?」と訊き、「女をクスリと凌辱で使い潰す味を知った同類」と称してロコちゃんを追い込んだ。あの時、「違う」って言い返せなかった原因こそ、まさにりんとの一幕だったのである。
あの日、妙子のヘルプに手を伸ばしてれば、あの日、りんの人生をドラッグで潰そうとしなければ。いずれか片方でも誤ってなければ、ロコちゃんの手を血に染めることもなかったのだ。
「ガルム」
私は、訊いた。
「突然だけど、キスしていい? 裸にひん剥いてOPAI揉んで抱きしめてレズックスしていい?」
無性に人肌が寂しかった。せめて目の前にある妙子の遺品だけは護りたくて、命の鼓動と温もりに感じたくて。
「わふ、いいよ」
ガルムは満面の笑みでいってくれた。
「私にリアルファイトに勝ったらいいよ♪ キサラが、サキがキスしたいとか胸揉みたいとか、レズックスしたいと言ったらリアルファイトしてもいいって」
「ごめんやっぱなし」
すでに馬乗りになって、眼光ギラギラ両の拳でボコボコに殴ろうとするガルムに私は両腕をあげて降参したのだった。
2020/01/02(23:02):
《リアクターズ・フラット》および《
2020/01/03(00:00):
デュエルシーンにて、《幻子力空母エンタープラズニル》をX召喚した際に、《ジャイアント・ボマー・エアレイド》の効果を使用するシーンを追加しました。
●今回のオリカ
リアクターズ・フラット
シンクロ・チューナー・効果モンスター
星4/闇属性/機械族/攻1200/守2000
機械族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
(1):相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。
このカードを含む自分フィールドのモンスターをS素材として機械族モンスターをS召喚する。
(2):1ターンに1度、自分の手札・デッキ・墓地から通常召喚可能な「リアクター」モンスター1体を選んで、自分フィールドに表側表示で存在する扱いとして、その効果を適用できる。その後、この効果で相手にダメージを与えた場合、選んだモンスターを特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。
強欲な解体
通常魔法
(1):手札からレベル2以下のチューナー1体を捨てて発動できる。
自分はデッキから2枚ドローする。
幻獣機デスヴァルチャー
効果モンスター
星3/風属性/機械族/攻1400/守 400
このカード名の(4)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードを手札から墓地に送って発動する。手札から「幻獣機」モンスター1体を召喚できる。その後、自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
(2):このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(4):自分フィールドの「幻獣機」モンスターもしくはトークン1体をリリースして発動する。このカードを墓地から特殊召喚する。その後、このカードのレベルを1つ上げる事ができる。
(B-52 ストラトフォートレス。死の鳥の異名を持つ)
リアクトライ・サモン
速攻魔法
自分フィールドに「リアクター」モンスターが3種類以上または「ジャイアント・ボマー・エアレイド」が存在する場合、
このカードは相手ターンでも手札から発動できる。
(1):自分フィールドに 「トラップ・リアクター・RR」「マジック・リアクター・AID」「サモン・リアクター・AI」がそれぞれ1体以上存在するように、いずれか1体を自分の手札・デッキ・墓地から特殊召喚する。
幻獣機ピーバー
星3/風属性/機械族/攻1500/守1200
(1):このカードを手札から墓地に送って発動する。ターン終了時まで、自分が効果ダメージを受ける場合、代わりに自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果は相手ターンでも使用できる。
(2):このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(零式観測機@ピーター+ビーバ)
リンク・効果モンスター
リンク3/闇属性/機械族/攻2400
【リンクマーカー:左下/下/右下】
機械族モンスター3体
(1):1ターンに1度、自分の手札・デッキ・墓地から通常召喚可能な「リアクター」モンスター1体を選んで、自分フィールドに表側表示で存在する扱いとして、その効果を適用できる。その後、この効果で相手にダメージを与えた場合、選んだモンスターをこのカードのリンク先に特殊召喚する。この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):このカードをリリースして発動する。手札・墓地から「トラップ・リアクター・RR」「マジック・リアクター・AID」「サモン・リアクター・AI」をそれぞれ1体まで特殊召喚できる。