遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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MISSION4-レズとゲイとロリコンと巻き込まれしアイドル

 私の名前は鳥乃 沙樹(とりの さき)。陽光学園高等部二年の女子高生。

 そして、レズである。

 ――といつも名乗ってたけど。

「もしかして、私がレズ名乗るって、他のレズに失礼?」

 なんて、弁当をぱくつきながら私がいうと、

「やっと気づいたの?」

 対面の席で梓はいった。

 昼休み。現在私たちは互いの机を連結させ一緒に教室で食事をしている。

 貞操帯は《ハンマーシュート》で気絶してた間に、木更ちゃんに解除してもらった。曰く鈴音さんが頼んでくれたらしい。

 おかげで気分はもうハッピー。次の日には学校サボって街へナンパしに行きましたとも。レズナンパしに逝きました(て全滅でした)とも。

「じゃあ次回はレズですと名乗るのはやめたほうがいっかあ」

「次回?」

「あー。う、うん」

 解放感で浮かれてたせいだろうか。つい口を漏らしてしまい私は慌てて、

「今週末、一日バイトすることになってね。警備バイト」

「今月、厳しいの?」

「うん。レズ系のソープにハマっちゃって一気に」

「そっかー。今度パンの耳を分けてあげるね♪」

 満面の笑みで割とのたまう梓。なんか今日は一言一言がキツいなぁと思ったら、そういえば生理の周期ど真ん中だっけ。

 なお、ソープ通いしたというのは嘘。実際には木更ちゃん関連で立て続けに二度も報酬が入らなかった為の金欠である。うん……木更ちゃんの依頼、無報酬で受けちゃったのよ。

 で、私ちょっと事情があって毎月ぶっ飛んだ額のお金が消えてくのよね。それがハングドで所属してる原因のひとつ。合法な手段ではとてもやっていけない。だから、さっきのバイトってのも本当はハングドで受けた依頼。

「それで、どうして今更突然そんなことを? 普段気にしなさそうなのに」

 と、訊ねる梓。私は笑顔で、

「そりゃあ勿論……そういうことよ」

「また美少女絡み?」

「そ、グヘヘヘ」

 とはいっても、今回の目的は依頼人でも警備っていうか護衛対象でもないんだけどね。

「もう」

 梓は一回すねたように言うと、

「そんな笑いするから、おしおき」

 と、梓は私の弁当から卵焼きをひょいぱく、から揚げも続けてひょいぱく。

「あああああ!!」

 貴重なタンパク源が!

「梓~。なんてことを」

「だって、お腹がすいてたんだもん」

 えっと今日の梓の昼食は。重箱の弁当に、購買で買ったやきそばパン、ジャムパン、フルーツサンド。Kasugayaカップ麺まで。

「え、この量を完食? それでまた食べたりないと?」

「変かなー?」

 正直変です。しかし、笑顔の梓にそんなこと言えるはずもなく、

「へ、変じゃないけど勘弁して。せっかく木更ちゃんが用意してくれたのに」

「え。木更ちゃん?」

「梓にも紹介したでしょ、最近知り合った後輩の子」

 そうそう、木更ちゃんだけど某ゲイ兄弟共は安全でも次の刺客がいつ狙ってくるか分からないという配慮で、いまも事務所で寝泊りして貰っている。もちろん形式上は住み込みのアシスタントとして。

 最初決定を聞いた時、さすがに私も驚いた。確かにハングドはカオスな組織だけど、それは人が良すぎるだろうと。

 しかし、蓋を開けてみると表稼業限定とはいえ木更ちゃんの参入は、貴重な雑用手伝いに鈴音さんが万歳、給湯要員の増員に深夜組が万歳、若い女の子の登場に男衆&私も万歳と士気向上効果が物凄かった。特に反応を示さなかったのはロリコンでエロゲーマーの増田くらいだったけど、そんな彼も深夜のホットコーヒー1杯で万歳勢に堕ちた。

 そして、今日私がどうして木更ちゃんの愛妻弁当なのかというと、実は週末の依頼も関わってて。

 

 ――前日。深夜2:20

「え?」

 私は目をぱちくりさせていった。

「私に指名で依頼?」

「そっ」

 と、スタジオミストの代表にしてハングドの司令代行、高村 霧子(たかむら きりこ)(37)はビール片手にいった。

 適当に切り揃えた感のあるセミロングの髪にドライな眼差し。黒のライダースーツに身を包み、胸の膨らみは全くみられないが、逆にそれが彼女のスレンダーで無駄のない肢体をより印象的に際立たせる。

 鈴音さんと違いこちらは歳相応に熟し、というより格好良さの滲み出るアダルティな魅力をかもしだしてて、基本タチ専の私だけど、この人には関しては「抱きたい」より完璧に「抱かれたい」かな?……中身を知ってさえなければ。

「いや鈴音から聞いたんだけど、アンタ任務失敗に加えあの木更の件無償で引き受けたじゃん。今月かなりピンチじゃないの?」

「まあ。だからこうして今日ここにいるわけですし」

 この日、私は少しでも賃金を稼ぐために普段は専門外の調査や支援などの事務についていた。

 今日、任務にあたってたのは、まさに目の前にいる高村司令直々、しかもパートナーに同じく鈴音さんをつけてという錚々たるメンバー。なお、任務自体は「デュエルギャングの殲滅」と数こそ多いものの他の構成員の手に余るようなものではない。スタジオミストのほうで入稿が終わったらしく、その打ち上げの肴に嫌がる鈴音さんを引っ張って討伐任務で出かけちゃった。そんな人間の下に動いてる組織なのだから、ハングドがカオスなのは必然というもの。

 そんな周りの胃がやられそうな任務が終わり、増田と鈴音さん、そして私の三人で情報整理をしてた所、司令に呼ばれて現在に至る。

「って、もしかしてだから私に仕事回してくれるってご贔屓?」

「まあご贔屓半分適材半分ってトコ?」

 高村司令はいった。

「依頼内容は護衛。今週末、名小屋市クレイン公園にて襲撃が計画されてることを先の任務中に偶然確認したから、あなたには当日までに詳細を調べあげた後、警備スタッフに紛れて現場へ侵入、園内の無事を確保しつつ襲撃犯を未然のうちに潰して」

「ふんふん。……あれ?」

 私は頷くも、程なくして違和感に気づく。

「その言い方だと、まだ他所から依頼が届く前よね? どうしてそんな金にもならない慈善事業みたいな事を」

 その件については、私も事務側で関わってた以上知っている。普段事務サイドにいる鈴音さんも初耳っぽかったし、間違いなくこの類の依頼はなかったはず。

「問題ないわ」

 高村司令は煙草を1本咥え、

「これ、依頼人は私だから」

「え?」

 司令からの!?

「私の娘のことは、少しくらい知ってるわよね?」

「まあ。……ジュニアアイドルやってるんでしたっけ?」

 確か名前は高村 苺(たかむら いちご)(11)。たまにテレビにも出演するので顔くらいは知っている。洋服の下にボンテージを着用し鞭を振るうドS系の我侭ロリお嬢様路線で売り出してて、唯我独尊ってイメージが強く残っている。

 ぶっちゃけ、レズだけどロリコンじゃない私にとっては、ただの悪ガキだ。

 高村司令……いや、親馬鹿はいった。

「その娘が今週末クレイン公園でロケ」

「あ」

 察し。

「けど、どうしてその護衛に私が適任なのよ。司令が直接行くなり他の構成員だって」

 と、訊ねると、

「いや私が行ったら娘の仕事に茶々入れそうで邪魔じゃん」

「……親馬鹿」

「それに鈴音とかも顔見知りだし苺に見つかりかねないわ。あの子目星99%だし」

「それC○C版」

 なお元々95%だった所、1クリ成長でカンストしたとか。

「あとウチの子可愛いから下手なメンバー送ったら性犯罪起こしそうだし」

「デ○ノネタ言っていい?」

「その点アンタなら幼女は対象外だから問題ないでしょ」

「この依頼断っちゃ駄目?」

 正直、公園がどうなってもアイドルひとり死んでも構わない。いま私、馬鹿親の娘自慢から逃げたくて仕方ないんだけど。

 しかし、唯我独尊の遺伝子元。高村司令には知ったこっちゃなく。

「で、おまけにアンタあのテスタメント兄弟牧師と友好的な関係でしょ」

 あちらからの一方的にね。

「アンタには、あのゲイ牧師に接触してそれとなく今回の襲撃に黒山羊の実が関係してるのか探って欲しいのよ」

「断るって選択肢はないの?」

「ん? 平社員同然のいち構成員にそんな権限があるとでも」

 酷い!

 いや、この組織は平気で権限あります。と言いたいけど、この司令は「なら今日からアンタ限定で権限ないことにするから」とか言っちゃう人だからなあ。

 上がこんな感じで自由だからこそ、こっちも普段自由にさせて貰えるわけでもあるけど。

「まあいいわ。一応聞いておくけど」

 と、司令は改まって、

「なにがそんなに不満なわけ、今回の任務」

「まず親馬鹿のモンペ級娘自慢に巻き込まれたくないから」

 私は、はっきりといった。続けて、

「あと、私はレズだけどロリコンじゃないから。ぶっちゃけ護った所で夜のライディングに誘う価値もないガキの子守をしたって、ねえ」

「ちなみに美人キャスターとグラビアアイドルも共演」

「受けます!」

 さっすが司令。私にこんな最高のお仕事を与えてくれるなんてハングド所属してて良かったわ。

「了解。ってワケでいまから依頼書作成してアンタ指名で提出するから、手伝いなさい」

「ヒャッハー。悦んでご主人様」

 そんなわけで、ビールとつまみで自堕落な仕事開けを過ごす司令の手となり足となりで私は仕事をし、1~2時間の仮眠を取るともう早朝。

 朝のコーヒーでも飲もうと給湯室へ向かった所、木更ちゃんが朝食の準備をしてて、今日は事務所から直接登校すると伝えると、

「でしたら、先輩のお弁当も一緒に詰めておきますね」

 と、いってくれたのだ。曰く、最近では朝のうちにメンバーの昼食も弁当の形で作り終えて登校してるらしく、ひとり分増えた所で手間にさして問題はないのだそう。

 そんなわけで、私は「じゃあ、遠慮なくお願いするわ」と、美少女の愛妻弁当持参で登校にありつけることができたわけだ。

 

「ふーん、あの子が作ったんだー」

 話は戻って、梓との昼食の時間。

「今日、沙樹ちゃんどころなく嬉しそうだったけど。そういうことだったんだねー」

 梓はなぜか半眼だった。って、どうしてそんな反応?

「ま、まあそりゃあ可愛い子の弁当だし嬉しいことは嬉しいけど」

 すると、

「えい」

 と、梓はまさかの右手に箸、左手にフォークで白米と焼き鮭まで取ってっちゃった。私の弁当、これにて空。

「私の昼食」

 がっくり項垂れる私。一方梓は幸せそうに、

「美味しかったーごちそうさまー」

 と、手を合わせてた。

 

 

「同志よ。それは恐らく嫉妬ではないでしょうか?」

 と、ゲイ牧師の兄、ボブ・テスタメントは私の前に一杯の紅茶とケーキを置いた。

 私はいま、教会内の食堂にお邪魔している。学校の帰りにテスタメント兄弟と連絡を取り、時間を作ってもらったのだ。

「嫉妬?」

 私は聞きながら、ケーキをぱくり。ああ、昼食殆ど取られたから、胃が泣いて喜んでりゅううう。

「はい。聞いてる限りではその幼馴染様、あなたが他所の女性の愛妻弁当で嬉しそうにしてるのをみて気分を害されたように窺えます」

「いや、さすがに無いでしょ。その幼馴染、ノーマルよ? それに、普段から他の女の話を性欲丸出しでしてるし」

「だからこそでしょう」

 ゲイ牧師の弟、バイブル・テスタメントはいった。

「普段、他の女のことを情欲で語るあなたが、情欲なしで他の女性の話をしたんですよ? 木更さんが本命なのではと勘ぐられても不自然ではありません」

 この兄弟、双子なだけあって見た目も第一印象も全く同じながら、接してみると兄は理性的、弟は逆に情熱的と性格に違いがみられる。

「例え彼女がノーマルであろうと、おふたりは今日びまで姉妹のように過ごした幼馴染。恋愛感情はなくとも『あなたを取られる』危機感を覚えたのでしょう」

「いや、そうなの……かな?」

 梓が私に、ねえ。正直想像できない。梓はなんていうのか、白馬の王子様を待ってる夢見る乙女って感じのイメージだから。

「仮に、他の女性の話をしたら機嫌が悪くなる事例が何度かあるなら、疑ってみたほうが良いですね」

「ん」

 確かに、今日の私はレズソープに行ったと言って、週末バイトで他の女狙いグヘヘと言って、そして木更ちゃんの愛妻弁当。その度に梓は気分を害したように取れなくはない。

 とはいえ、今日の場合は梓が生理の真っ最中。それだけで断定するには早すぎる。

「まあ、幼馴染の件はこれ位にしておきましょう」

 私がひとり悩みはじめたせいだろうか、兄のボブは弟を制止するようにいい、

「それよりも、同志には要件が別にあるのでは?」

「あ、そうそう」

 助かったわ。ボブがいなかったらすっかり忘れる所だった。元々幼馴染の件は本題の前の雑談のつもりだったのに。

 私は鞄から校内図書室で借りたモテる本やナンパテク本諸々をテーブルの上に出して、いった。

「今週末だけど、クレイン公園でグラビアアイドルがロケに来るらしいのよ。それで警備バイトすることになったんだけど、何とかしてお近づきになれないかなって」

 そんなわけで、現在私は必死に調査してます。

 どうすれば美人キャスターやグラビアアイドルと夜のライディングデュエルできるのかを。

 いやだって、先日のレズナンパではガチレズの人にも「ないわー」言われちゃったし、登校前に事務所のパソコンで調べたら私のレズ感って一般的なレズとズレてるっぽいしね。

「それは難しいですね」

 しかし、ボブの第一声は非情そのもの。

「恐らくはロケのスタッフでさえ大半は挨拶止まりでしょうから、警備のバイト程度となると」

「百も承知よ。でも、レズには犯らなければイけない時があるの」

「それは分かります」

 反応したのはバイブルだ。

「私も以前、公園のベンチに立ち寄った時思いました。ここには青いツナギで来て、ベンチで予備校生を誘わなければと」

 続けてボブまでも。

「それでしたら、私にも経験がありますね。そう、あれは岡山の北部に足を運んだ時でした」

 どちらも糞尿の臭いがしそうなエピソードなんだけど。なにこれ。

 そして、ふたりは口を揃えていった。

『ですので、週末は予定を開けて可能な限り、あなたに協力致します』

「え?」

 私は、一瞬頭が真っ白になる。そうだった、この兄弟同志への協力はどこまでも惜しまない人たちだった。

「では我々は悪役となりましょう。バイブル、こんなのはどうかな? 当日、アイドルたちをブリーフと仮面姿で襲撃しよう」

「なるほど、ではその際にアイドルたちに群がるドルオタの殿方に一言伝えるとしようか」

『私はゲイヴンだ……それ以上でも以下でもない、ハメさせてくれ』

 どうしてこうなった。

「どうせでしたら、オスカル兄さんも呼びましょうか」

 と、ボブはいった。……って、この人長男じゃなかったんだ。そもそもこの双子の兄もゲイなの?

 なんか、どんどん話が勝手に進んでいく。しかも相当カオスに。

「待って。ストップストップ落ち着いて」

 仕方なく、私は一回ふたりを制止し、

「ふたりがしなくても、実はすでに本物の悪役が紛れ込んでるのよ。そもそもバイトっていうのは方便で、実は警備員に紛れて行う護衛のお仕事」

「なんと」「そうでしたか」

 やっと鎮まるふたり。って、本当のこと言って大丈夫だったのかな? もし本当に黒山羊の実が襲撃犯で、私に「襲撃防ぎに来ます」と言わせる為の一芝居だったとしたら大惨事なんだけど。

 もう、こうなったら黒山羊の実が無関係なのを願って、概要の一部を吐いてしまったほうが良さそうね。

「これは偶然掴んだ情報なんだけどね。どうやら今週末にクレイン公園を狙って襲撃をかける動きがあるそうなのよ。それで、ちょうどその日ロケがあるらしくてね。アイドルを狙ってのことかは不明だけど、当日までにどこが計画してるかを特定し、襲撃前にそいつらを潰して欲しいって」

『なるほど』

 うなずくふたり。

「まあ、この際聞いてみるけど、ふたりには心当たりはある?」

「いや。申し訳ない」

 ボブは首を横に振った。その表情をみるに、どうやらふたりの知る限りでは黒山羊の実関連でもなさそうだ。

「一応こちらでも調べてみましょう」

 と、バイブル。

「いいの?」

「ええ。ただし、それでもし『手を引く』と伝えた場合は察して頂けるとありがたいですが」

 つまり、その時は黒山羊の実の仕業なのが確定すると。本人たちは善意でやってるのだろうけど、こちらとしては思いがけず優秀なスパイを手にした気分。

「わかったわ」

 私はいった。

「それじゃ、改めてどうしたらグラビアアイドルをホテルに連れ込めるか作戦を練らないと」

『本当にブレませんね、同志は』

 

 後日。テスタメント兄弟より「襲撃犯はフィール・ハンターズという組織らしい」と連絡を受けた。

 

 

 ――任務当日。朝9:20

『お待たせしました』

 現地で一足先に警備をはじめてると、私は後ろから声をかけられた。

「お疲れ。わざわざこなくてもいいのに……って、うげっ」

 振り返り、そして私は濃ゆい“4人”の姿に思わず仰け反る。

「せっかくですので」「兄弟をお連れしました」

 と、なぜか狩猟者の目でいったのはテスタメント兄弟。このふたりは知り合いだからまだいい。しかし、

「あなたが鳥乃 沙樹さんですな。私は堀尾 オスカル(ほりお ♂狩る)。普段はゲイ専門のプロレスラーをしております」

 と、意外にも紳士に挨拶するダウンジャケットを羽織ったジ○ック・O姿の男に、

「初めまして、堀尾 小杉(ほりお こすぎ)です。普段は田村崎研究施設という所で研究員をしています」

 白シャツからボンテージが透けて見える、覆面姿のダー○ホーム似の男。

 曰くオスカルさんが長男で、双子が真ん中、小杉さんが末っ子とのこと。

 確かに、今日ここで任務に出ることは話した。テスタメント兄弟が好意で協力してくれ、この時間に来るとも聞いてる。だけど。

「どうしてこうなった(どうしてこうなった)」

「ふむ。どうされましたかな?」

 あまりの光景に目まいを起こしてると、突如オスカルさんが私の額に手を当ててきた。

「ぎゃっ」

 思わず、私は飛び退くも、

「ふむ。熱はないようですな、恐らくはお疲れでしょう」

 と、オスカルさん。まあ確かに疲れてなくはない。公園には早朝4時にきてるから、もう5時間半張り込んでるわけだし。

「それは心配だなあ、となると早々に獲物を捕らえて彼女に楽させてあげましょうよ兄さん」

 小杉さんも濃ゆい服装に見合わぬ爽やかな物腰でいうと、

『そうですね』

 テスタメント兄弟はいい、そしてボブが、

「どうですか同志。いまの所、フィール・ハンターズとやらの動きは」

「いまのトコこれ位」

 私は、傍に置いてある防弾ボックスを開けて4人に見せる。中にはすでに解除済の時限爆弾が2~3個。

「おおう」

 驚くオスカルさん。

「まさか、あなたがひとりで解除したのですか? なんて危険な」

 と、心配してくれる小杉さん。

「大丈夫よ。これがあるから」

 私はデッキホルダー内のサイドデッキから《アポクリフォート・カーネル》を4人にみせる。どうやら木更ちゃんがセキュリティ解除に使ったのはこのカードの力らしく、前日に頼みこんで借りてきたのだ。

「ところで」

 今度は私のほうから彼らに話しかけてみる。オスカルさんが見た目に反して紳士で、小杉さんも中身は好青年だったので、案外4人の濃さに早く慣れることができたのだ。

「オスカルさんも小杉さんも『堀尾』よね? なのにどうしてボブとバイブルはテスタメントなの?」

 するとボブが、

「元々私たちも堀尾姓だったのです」

 続けてバイブルが、

「ただ、前の牧師様からお願いしてテスタメントの洗礼名を頂きまして、以後『堀尾』を省いて名乗っております」

「なるほどね」

 しかし、いまは腹の底では黒山羊の実。ふたりが再び堀尾を名乗る日も近そうだ。

「ところでして」

 オスカルさんがいった。

「今回の獲物フィール・ハンターズというのはどういう組織なのでしょうか?」

 そういえば、テスタメント兄弟も組織の詳細はあまり分かってないらしい。

「簡単に言うと、フィール・カードを手段を選ばず回収するハイエナ共の代表格よ。日本中に支部が散らばってるけど、活動する方針や目的がそれぞれ違ってるから支部同士で対立することも珍しくない。そんな組織」

 で、調べた限り今回の相手は組織内でも末端に位置するような小規模支部。すでに敵支部長の顔は特定済でテスタメント兄弟にもフォトデータを送信してある。

 名前は緒方 銃(おがた ライフル)。年齢は30代前半。迷彩の軍服に眼帯、ベレー帽姿の軍オタで、部下にも軍服を着せて、自分たちの支部を小隊と名乗らせてるらしい。なお、これらの情報はすべてボブにメールで送信済だ。

「うーん、トップの顔は覚えてるけど、もう少し情報が欲しいですね」

 と、小杉さんがいうので。

「じゃあ捕虜捕まえとく?」

 私はいった。

『え?』

 4人が聞き返す刹那、

「うわあああ!」

 私たちの背後。雑草の影に隠れた位置から男の悲鳴が聞こえた。

 4人が雑草をかきわけて確認すると、そこには実体化した《幻獣機テザーウルフ》の鎖で拘束された軍服の若者がひとり抵抗していた。

『これは』

 訊ねるテスタメント兄弟。

「この人、ずっとあなたたちを後ろから追跡してたのよ。撃ち殺すのは簡単だったけど、小杉さんの言う通り捕虜にしたくてね。テザーウルフでそーっと後ろから狙ってたってわけ」

 そういって、私は男の手から転げ落ちたライフル型の改造エアガンを拾い、

「命拾いしたわね。あなたがさっさと引き金を引くタイプだったら、今頃命はなかったわよ」

 と、エアガンを小杉さんに投げ渡す。

「はい。研究施設にお土産」

「あ、ありがとう」

 小杉さんはいった。私は続けて。

「そんなわけで、来てもらって悪いけど、フィールの扱いに心得のない人は正直邪魔なの。ボブとバイブルは戦力に数えてるけど、おふたりは」

 と、伝えた所で。

「それなら問題ありませんな」

 オスカルさんがいった。

 そして、ジャケットを裏返すと、一転して衣服と一体化したデュエルコート(クロノス教諭が使ってるやつ)へと早変わり。

「僕も最初からつけるべきでしたね」

 続けて小杉さんはシャツの内側からD・ゲイザー(ZEXALに出てくるスカウターのような片眼鏡)D・パッド(ZEXALタイプのデュエルディスク)を出し、装着する。そして、

「元よりこういう場なのは百も承知。その上で私は女性を危険に晒すまいとこの場におります」

 と、オスカルさん。

「鳥乃さんとは面識なかったし初対面ですけどね。僕はこれでもハングドの外部協力者なんですよ」

 と、小杉さん。

「嘘……」

 私は驚いた。主に小杉さんに。

「さて」「改めて二手に分かれませんか?」

 テスタメント兄弟がいった。

「二手に、ですか?」

 訊ねるオスカルさんに、ボブは。

「はい。具体的には同志鳥乃と共に警備員に紛れて芸能関係者を護衛する組と、小杉と共に捕虜から情報を聞き出す組です」

「でしたら、私は鳥乃について護衛にまわりましょう」

 オスカルはいった。じゃあテスタメント兄弟はというと、

「では、兄さんは同志鳥乃についていてください。私は小杉と一緒に情報を聞き出します。“その体に”」

 と、バイブル。……その体に?

(あ)

 私は気づいてしまった。小杉さんとバイブルの股間がおっきしてることに。

 このふたり、拷問と称して犯る気だ。捕虜の若者と。

「わかりました」

 ボブはいった。その顔はどことなくしょんぼりしてるように見える。

「ボブよ。しょんぼりしてる暇はありませんぞ」

 オスカルはそんなボブの肩を叩き、

「テレビ局のお出ましですな」

 その言葉に、私もハッとなる。

 いつの間にか公園には数人のカメラマン、正規の警備員たち、そして美人キャスター、グラビアアイドルらしき美少女、そして高村 苺の姿がそこに立っていた。

「あっつーい。誰かスポーツドリンク買ってきて頂戴」

 と、グラビアアイドルがいった。ハーフパンツにブラウス1枚という薄着もあって抜群のプロポーションが目立ち、さらさらの黒髪ロングに清涼感を出すように仕上げられたナチュラルメイク。

「貴方、アタシに何いやらしい目で見てるのよ。さっさとドリンク買ってきて、じゃないと訴えるから」

 グラビアアイドルは適当にスタッフを指さし、脅す。間違いない、この人は天狗鼻もいい所な性格ブスの勘違い女だ。いいねいいね、その鼻ヘシ折りながらベッドの上で飼育するの大好きよ私。

「あー嫌だ嫌だ。あんな風に他人をパシって何様のつもりなのかしら。ねえ、監督さん」

 と、いったのは美人キャスター。七三分けのショートヘアに白を基調としたシャツとフレアースカート姿で接しやすそうな外見を取り繕ってるけど、こっちはこっちで他人を蹴落とし掻き分けて進む野心と腹黒さを隠しきれてない。事実撮影監督に猫撫で声で媚売ってるし。

 まあ私は大好きだけどね。もしここがフィールを用いた戦場になったら真っ先に自分が生きることを考えて私みたいに護ってくれそうな人に媚を売る。フィール・ハンターズを利用して私に媚びて貰おうかなハァハァ。

「こらこら、ふたりとも。苺ちゃんが文句ひとつ言わないのに、なに大の大人がぎゃーぎゃー言ってるんだ」

 しかし監督は美人キャスターの誘惑に目もくれず、大人しく出番を待つ苺ちゃんを指してふたり窘める。

『チッ』

 直後、ふたりが同時に舌を打つのが見てとれた。

 で、ここで苺ちゃん。

「でも確かに暑いことは暑いのよねえ」

 なんていうと、ポケットからスマフォを出して、

「監督? 収録って何時からだっけ?」

 こうしてリアルで見ると、司令が親馬鹿になるのがわかる。確かに可愛い。

 蠱惑的でかつ生気に満ちた勝気な瞳。ケアの行き届いた長い髪。母親譲りのスレンダーな肢体はシェイプアップで魅力が上乗せされ、パンクロックなゴスロリという今日のチョイスも妙に似合っている。

「10時からにしようかなって思ってるよ。何か用事?」

「そ、なら間に合いそうね」

 苺ちゃんはスマフォをしまい、

「ちょっと自販機でジュース買ってきてもいい? スタッフをひとり荷物持ち兼ボディーガードにつけたいんだけど」

「あ、じゃあ僕が」

 若く冴えない顔した男が挙手した。さっきグラビアアイドルに指名された男だった。

「一花ちゃんにドリンク買って来いと言われてますしね」

 しかし苺ちゃんは、

「駄目」

 と、一蹴。

「あなたは今から機材する点検する仕事があるじゃない。撮影を遅らせる気?」

「い、いえ」

 引き下がる冴えない男。

「いーじゃない少しくらい遅れても」

 しかし、そこでぶーたれるのはさっきのグラビアイドル。確か一花ちゃんだっけ?

「それに、こいつにとっても私たちにコキ使われるほうが幸せでしょ。ねえモブ夫クン」

 恐らくモブ夫ってのは本名じゃないだろう。うわあ、酷い有頂天ぶり。性的に心折ってやりたい。

「ははは、ソノトオリデス」

 モブ夫(仮)もモブ夫で逆らえないのだろう棒読みで話を合わせる。テレビの裏って見るもんじゃないわねぇ。

「どうするのよ監督さん。一花ちゃんと“苺ちゃん”のせいで収録遅らせる気ぃ?」

 美人キャスター。さりげなく苺ちゃんの株も落とそうとしてるよ。ほんと狡猾。

 そんな嫌なやりとりを苺ちゃんは見事にスルーし、

「確かあなた、撮影まで暇よね? ちょうどいいわ。来てくれる?」

 と、スタッフの中からサングラスをかけた無骨なオッサンを指名していた。

「わかりました」

 オッサンから許可を得ると。

「じゃあ、ついでに一花の分も買ってくるわ。遅れても本番10分前には戻るから」

 と、苺ちゃんは輪から離れ、オッサンを連れて移動を開始する。

(あれ?)

 オッサンが私の前を横切った時、何だか妙な感じを覚えた。

 スタッフにしては妙にガタイが良く、サングラス越しに凍えるような眼力を放っている。とても堅気とは思えない。それに、あの顔どこかで見たような。

 そんなオッサンが一瞬ニヒルな笑みを浮かべたのを見て、私は本能的に「やばい」と確信。

「ボブ?」

 小声で私はいった。

「私はあの子を追跡するから、あなたは引き続きテレビ局を監視してて。オスカルさん、ついてきてくれる?」

『わかりました』

 ふたりが答えると、その横で小杉さんとバイブルが、

「では僕たちも拷問を開始しましょうか」

「そうですね」

 いつの間にか軍服の若者は本物の縄と猿轡による亀甲縛りで拘束され、うーうー唸ってる。

「全ては私のシナリオ通り、残るは肉膜による肉膜だ」

「恐れるな、掘られる時間が来ただけさ」

「う゛ーーーーー!!!!!」

 若者は顔を真っ青にし、必死で暴れるも、バイブルに縄を掴まれ引きずられていく。向かっていく先は公衆トイレ。

 どうしてか脳裏でドナドナが流れる。ご愁傷さま。

 

 苺ちゃんが向かっていったのは、公園の外れにある木陰に隠れた自動販売機だった。撮影場所から割と近くに一台あるというのに。

「なぜ、わざわざこんな遠くに」

 それには、オッサンも軽く首をかしげる。

「ちょっと用事があったのよ」

 苺ちゃんは軽く周りを一回見渡し、いった。

「突然だけど。あなた、一体だれ?」

 だれ? と聞いた相手は間違いなくスタッフのオッサンである。

「だれと言われても、今日あなたと一緒に仕事をするスタッフですが」

「嘘ね」

 苺ちゃんは断言する。

「私はね、これでも前日にはスタッフ全員の顔・名前・担当をすべて把握してるのよ。トップアイドルを目指すんだから、まず自分の周りを把握しておく位当然のことでしょ、ってね」

「それはそれは。年齢に見合わぬ大層な志をお持ちで」

 うん。やっぱりおかしい。このオッサンの物言い、苺ちゃん……いや子供相手に完璧上から目線だ。

「まあね。だから分かるのよ、今日のスタッフが1名入れ替わってるってくらい。1名だけ担当が全く分からないスタッフがいるってくらいね」

 そして、苺ちゃんは改めていった。

「もう一度聞くわ。あなた、一体だれなのよ。撮影スタッフの富田 啓(とみた けい)はどこにいるの?」

 するとオッサンは、

「……ククッ」

 と、笑った。

「そいつなら今ごろトイレで寝ているだろうさ」

「!?」

 奴の言葉がなにを意味してるのか悟ったのだろう。苺ちゃんの顔が蒼白になる。まあ、命はないだろうね名前的に。

「あなた、目的は一体何なの?」

「これから死ぬ者に教えると思うか?」

 奴は懐から銃を取り出し、いった。

「……冥土の土産って言葉があるでしょ」

 自分も命を狙われてると知り、恐怖に唇を、そして全身を震わせながら。

 普通の人なら腰を抜かすなりパニックを起こすなりして命乞いをしそうな所を、苺ちゃんは必死に踏みとどまり、立ち向かっている。

「勇敢だな」

 奴はいった。私も同意だった。

「貴様の度胸に免じて教えてやる。俺の目的は……」

「あなたの目的は……」

 勿体ぶるように数秒の間を開け、奴はいった。

 

「貴様のカラダだ。ハメさせてくれ」

 

「はいアウトー」

 私は咄嗟に駆け出し、苺ちゃんの盾になりながら奴のサングラスと銃目掛けてそれぞれ弾丸を1発ずつブチ込む。

 今回もフィールでコーティングしたそれは、見事に奴の銃を弾き、しかしもう片方の弾丸は、本当は目玉一個潰したかったものの回避行動を取られ、残念ながらサングラスを破壊するだけに留まった。

 そして、奴の素顔が露になり、

「あ」「お」

 私、そしてオスカルさんは同時につぶやいた。

 だって、だって。

 そこにいる変態ロリコンレイパーさん、今回のターゲット緒方 銃(おがた ライフル)だったんだもん。

「貴様。どこから銃を、いやどこに銃を隠し持っている」

 レイパー緒方は怪訝そうな顔していった。

「さあね」

 私は、手首の煙を払う。

「迂闊だった。まさかNLT(ナルツ)に計画が知られてたとは」

 おろ? おろろ? もしかして私を治安維持組織NLTの構成員と勘違いしてるっぽい?

 するとオスカルさんが、

「おや、確か鳥乃さんの組織はハ―ー」

 言いかけた所を、私は人差し指を立て「しーっ」する。勘違いしてくれるなら、してくれたほうがこちらとしては都合がいいのだ。

 というよりも何だかんだいってフィール・ハンターズは桁違いに規模の大きい組織。因縁を避けれるなら他所を売ってでも避けたほうがいい。

「だがしかし、こちらも小隊の総力をあげて予てより計画していたアイドル集団もっこり計画、貴様らの安い正義感で潰されるわけにはいかない!」

 ド真面目な顔で言い放つレイパー緒方。って、そんな計画だったの!?

 もうね、一見かっこよく聞こえること言ってるのに、内容があれだったり、股間がおっきしてて色々台無しよ。

(しかし)

 アイドル集団もっこり計画。もしこれに協力すればあのグラビアアイドルも美人キャスターも犯りたい放題できるんじゃ。いやだけど、男も一緒かあ。究極の選択ね。

 なんて一瞬迷ってる隙に、私のデュエルディスクはレイパー緒方によって強制デュエルモードへ移行されてしまう。

「NLTよ。ここは正々堂々デュエルで決着をつけよう。命は頂かない、しかし負けたほうは部下協力者一同速やかに撤収して貰う」

 レイパー緒方はいった。……あれ、これってもしかして。いいこと思いついた。

「いいわ。ただし、ただ撤収するだけじゃ面白くないわ。条件を変更させて貰ってもいい?」

「言ってみろ」

「私が負けたら、生殺与奪に抵触しない範囲であなたの計画に協力してあげるわ。……もちろん、苺ちゃんの初めてもあなたの物よ」

「え……。…………ちょっと、え!?」

 苺ちゃんが数秒遅れて反応する。どうやら私という助け船が入ったことで緊張の緒が切れて放心状態に逆戻りしてたみたい。

「ちょっと、勝手に決めないでよ。そっちのロリコンもそうだけど、アンタも一体、それにNLTって?」

 その混乱した様をみるに、苺ちゃんは母親から“こっち側”の世界を知らないみたい。まあそうだろうね、この私ですら知らないなら知らないほうがいい世界って思ってるくらいだし。

 だから、私はいった。

「ん? ただの警備員のバイトだけど? 区域内で騒動が起こったんだから、仕事だし動かないとね」

「……そう。警備員なら仕方ないわね」

 あれ? てっきり興奮してる手前「お前のような警備員がいるか」ってツッコミ入ると思ったのに。銃弾だって撃ったしね。

 どうやら苺ちゃんは、この歳ですでに自分が踏み込んでいい境界線をわきまえてるらしい。さすが回避99%。

「だけど人の貞操を勝手に差し出さないで頂戴。警備員にそんな権限はないでしょ!」

「いや、あのね」

 とはいえ、命の危機に冷静を欠いてるのは間違いない。私はいった。

「いちいちツッコミ入れてる暇があるなら、私がロリコンと対峙してる間にさっさと逃げたらどうなのよ」

「え?」

「オスカルさん、苺ちゃんをロケ地まで護衛してあげて。ついでに途中、もう片方の自販機に連れてってあげると嬉しいわ」

「承知した」

 オスカルさんは飛び出すと、筋肉質の巨体で苺ちゃんを覆うようにし、

「さあ戻りましょうぞ」

 と、苺ちゃんを誘導する。

 苺ちゃんは、一回こちらを見るも、素直に従い、何もいわずこの場から離れてった。

「兎も角にも人命優先、ということか」

 辺りが落ち着いた所で、レイパー緒方はいった。

「そういう事だろう。撤収では面白くないから協力するというのは方便。己の部下・仲間を撤収に巻き込むのを防ぎ、協力するといいながら、その実彼女らが殺害されないよう監視を続ける。といった所か」

「半分大正解」

 私は彼の推理にこう返す。

「真の目的。それは全責任をフィール・ハンターズに押し付け、公然と美人キャスターとグラビアアイドル相手に3Pレイポゥ。私、レズなのよ」

「貴様。……NLTではないな?」

「あ」

 バレた。しまった、NLTのフリするなら終始真面目にしないといけなかったんだった。

「そして趣味嗜好から察するに、恐らく貴様はハングド一の性犯罪者“レズの肌馬”鳥乃 沙樹と見受ける」

「なにその二つ名。大正解だけど」

 私もいつの間にか知られるようになったのね。性犯罪者扱いだけど。

「ともかく、俺のやる事は変わらない」

 私がNLTじゃないと知ってなお、レイパー緒方はデュエルディスクを構え、いう。

「俺の情報においてハングドは性癖も仕事の質も変態級、となるなら我々に対峙するなら脅威以外他にない。貴様にはここで任務失敗の引導をくれてやる」

「ま、そうなるわね」

 私もまた、デュエルディスクを構え。

 そして、私たちは同時に叫んだ。

 

『デュエル!』

 

 

“レズの肌馬”沙樹

LP4000

手札5

 

“レイパー”緒方

LP4000

手札5

 

 

 デュエルディスクのやつ。しっかりさっきの会話を聞き取って私の名前を二つ名表記にしやがってくれた。しかも、相手のほうは口に出してないのにレイパー表記。

「な、なんだこれはーッ!」

 あっちのデュエルディスクも同様の表記になってるのだろう。タブレット画面をみて思わず叫ぶレイパー緒方。

「クッ、まあいい。先攻は頂いた。俺のターン!」

 5枚のカードを手に、レイパー緒方はいうと。

「まずはこれだ。俺は《ヴォルカニック・ロケット》を召喚。この召喚が成功した時、効果で俺はデッキから《ブレイズ・キャノン・マガジン》を手札に加える」

 レイパー緒方はデッキから目当てのカードを引き抜くと、そのままディスクに挿し、続けてもう1枚、計2枚のカードをセットし、

「カードを2枚伏せ、俺はターンを終了する」

 相手のデッキは【ヴォルカニック】。この情報は増田と鈴音さんより既に仕入れてある。

「私のターン。ドロー」

 私はカードを1枚引く。

 あのデッキは、最近追加された《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって、相手ターンで《ヴォルカニック・バックショット》を射出することが可能になっている。と、するなら。

「私は手札から《幻獣機テザーウルフ》を通常召喚」

 とりあえず私は、今ごろバイブルと小杉に夜の強制ライディングを受けてるだろう男の拘束にも使った、1機の戦闘ヘリを呼び出す。

「《幻獣機テザーウルフ》の召喚成功時、私は幻獣機トークンを1体生成」

 さて、幻獣機はトークンが存在する間効果破壊されなくなる効果を持っている。その効果をすり抜けてテザーウルフを破壊するタイミングは、このトークン生成効果にチェーンして放つ今しかない。

 ここを逃せば、私の展開を止めるのは少々厳しいはず。

 さあどう出るロリコンレイパー。

「チェーンはない。通す」

 緒方はいった。

「了解」

 トークンを除去しつつバックショットする手段があるのか、もしくはここでバックショットは勿体ないと判断した可能性もあるけど、私はレイパー緒方の行動を「バックショットは握ってない」と判断する事にした。

 だったら。

「じゃあ、私は幻獣機トークンを特殊召喚するわ、攻撃表示で」

「攻撃表示だとっ」

 驚くレイパー緒方。私はニヤリと笑い。

「そして魔法カード発動《強制転移》!」

「なにぃ!?」

 続けてさらにレイパー緒方は驚愕をみせる。

「馬鹿な、貴様のデータは過去数回取ってるが一度もそんなカードを使った形跡は」

「私、そういう相手を驚かせたくて週1回は5枚以上カードを入れ替えてるのよ」

 まあ理由は冗談だけど、かく乱目的は本当。それに幻獣機はとても構築に幅があるから、弄るが楽しいのよね。

「そんなわけだから素直に《ヴォルカニック・ロケット》を頂戴? 私も攻撃表示の雑魚トークンあげるから」

「要らん!」

 とはいうものの効果の仕様上どうしようもなく、攻撃力1900の《ヴォルカニック・ロケット》が私の手に、攻撃力0のトークンが攻撃表示でレイパー緒方の手に渡る。

「バトル! 《ヴォルカニック・ロケット》で幻獣機トークンに攻撃!」

「くっ、永続罠《ブレイズ・キャノン・マガジン》! 《ヴォルカニック・バレット》 を墓地に送って1ドローする」

 やっぱり、手札に《ヴォルカニック・バックショット》はなかったらしい。

 手札交換するレイパー緒方を他所に、早速相手から拝借したモンスターは幻獣機トークンを戦闘破壊し、ダイレクトアタック同然のダメージをレイパー緒方に与え、

 

 “レイパー”緒方 LP4000→2100

 

「続けて《幻獣機テザーウルフ》で攻撃」

 と、連撃。これが決まれば勝利はほぼ目前だったんだけど、

「待て。俺は墓地の《ヴォルカニック・バレット》をゲームから除外し永続罠《ファイヤー・ウォール》を発動。そのモンスターの直接攻撃は無効だ!」

 と、2枚あったうちのもう片方の伏せカードで防がれてしまう。

「防がれたかあ、なら次はこれね。バトルフェイズを終了、そして魔法カード《融合》を発動」

「《融合》まで! まさか、《強制転移》の真の狙いは」

 私は、フィールドの《ヴォルカニック・バレット》と《幻獣機テザーウルフ》を墓地に送り、

「火山の力を宿しき弾丸よ、狼を模した戦闘ヘリよ、冒涜なる力にて混ざり合い、邪悪なる不死鳥を降臨させよ。 融合召喚! 飛翔せよ、レベル8《重爆撃禽 ボム・フェネクス》!」

 現れたのは炎の体に翼付きの黒き鎧、猛禽の顔と悪魔の顔のふたつを備えた炎族モンスター。その攻撃力は2800。

 ところで余談だけど、このモンスターの融合素材は《起爆獣ヴァルカノン》と同じで、増田曰く木更ちゃんとのデュエルでこっちを出してれば勝てたと言われたのを思い出した。そんなボム・フェネクスの効果はというと。

「私はカードを1枚セット。そしてボム・フェネクスのモンスター効果! 1ターンに1度、フィールド上に存在するカード1枚につき300ポイントのダメージを与える。現在フィールドにはお互いカードが2枚ずつ計4枚、1200ポイントのダメージをロリコンレイパーに与える!」

 ボム・フェネクスは空高く飛び上がると、悪魔の口から4体の爆弾を抱えた火の鳥を吐き出し、レイパー緒方へと突撃そして爆発する。

「ぐっ」

 

 “レイパー”緒方 LP2100→900

 

 一瞬、レイパー緒方の周りを光のオーラが包むのがみえた。フィールで防御行動を行ったのだ。

 対しこちらはボム・フェネクスにフィールを“全く”使ってない。警戒のしすぎか、結果的に相手はフィールを無駄遣いしてしまったのだ。

「フィールなしか……」

 辺りを確認し、レイパー緒方はいった。

「戦いが甘いな。貴様が少しでもフィールを込めてたら、モンスターが放った炎はいまごろ辺りの草木に燃え移り、俺は辺りの炎から身を護るため更なるフィールを消費しなければならなかった」

「そんな事したら、悲鳴や騒動巻き上がって、あのアイドルたちロケどころじゃなくなっちゃうでしょ」

 もしそうなったら、夜のライディングに誘うこともできない。

「そこまで考えてたか。……一本取られたな。いや、二本か」

 と、緒方はこちらを真っ直ぐ見据え、

「トークンを維持したまま《幻獣機ドラグサック》でくると思っていたが、まさか《ファイヤー・ウォール》を読んで畳みかけてくるとは。おかげで俺は《ヴォルカニック・バレット》を失ってしまった」

「いや、さすがに《ファイヤー・ウォール》は読んでないんだけど」

「何!? だとするなら何読みだ!」

「ん? あなたの驚く顔読み。自分のカードでボコスカされるって結構クるでしょ?」

 呆然する緒方。私はついでに、

「それじゃ私はターンエンド。きゃぴっ♪」

 とかやっておいた。煽るの楽しい。

「……っ」

「って、ちょっと! 少しはツッコミとか入れなさいよ。言ったこっちが恥ずかしくなるじゃない!」

 前言撤回。私がギャースとばかりに文句を言うと、

「コホン。俺のターン、ドロー」

 と、咳払い一回にレイパー緒方のターンが始まる。

「と、とりあえずアレだ。俺は《ファイヤー・ウォール》のコストを払う。このカードは自分のスタンバイフェイズ毎に500ライフポイントを払わなければ自壊するからな」

 

 “レイパー”緒方 LP900→400

 

 と、なぜか動揺しながら、緒方は残り少ないライフを更に削ってカードを維持。なんて自殺行為を、と思ったら。

「そして魔法カード《マジック・プランター》! 《ファイヤー・ウォール》を墓地に送り2枚ドローする」

 なるほど、そのための維持だったわけね。

「よし! いま引いた《ヴォルカニック・バックショット》を墓地に送り《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果を発動する!」

 ついに引いてきたわね。

「《ブレイズ・キャノン・マガジン》の効果でデッキからカードを1枚ドロー。そして《ヴォルカニック・バックショット》が墓地に送られた時、貴女に500のダメージを与える」

 しかも、「ブレイズ・キャノン」カードで墓地に行ったから。……って、あれ? こいつ私のことさっきまで貴様扱いじゃなかった?

「さらに《ヴォルカニック・バックショット》が《ブレイズ・キャノン・マガジン》によって墓地に送られたことで、デッキから《ヴォルカニック・バックショット》2体を墓地に送ることで貴女のモンスターをすべて破壊する。もちろん先ほど同様に2体分のバーンも入るぞ」

 全身炎を纏った《ヴォルカニック・バックショット》3体がボム・フェネクス向かって飛び掛かり、映像的にはどうみても効果なさそうなのに、ボム・フェネクスは爆破四散、墓地へと送られ、

 

 “レズの肌馬”沙樹 LP4000→2500

 

 私のライフが合計1500削られる。

 

「まだだ。《炎帝近衛兵》 召喚、そして効果によって墓地の炎族モンスター4体。バックショット3体とロケット1体をデッキに戻し、2枚ドローする」

 これで再びバックショットはデッキの中。そして《ブレイズ・キャノン・マガジン》は墓地にある時、除外することでデッキのヴォルカニックを墓地に送る効果を持っている。増田曰く、こうやって自他のターン問わずバックショットによるリセットを使いまわしながらバーンで削り殺すのがレイパー緒方の基本プレイングだとか。

「《炎帝近衛兵》 で貴女へダイレクトアタック。御受け頂こう」

 下半身が大蛇の魔物が私に向かって襲い掛かり、その衝撃波が私の肌を刺激する。フィールを込めてきた!

 モンスターはすぐ至近距離へと到達し、その蛇の胴で私の脇腹を薙ぎ払いにかかる。私は咄嗟にバックステップで避けつつ、それでも長い胴が私をとらえる前に手札を1枚、墓地へと送った。

「手札から《クリ瑞雲》を墓地に送って発動!」

 すると、私の前に1機の偵察機が現れ、クリボーを落とす。

「この効果によって、私のフィールドに幻獣機トークンを1体生成し、《炎帝近衛兵》には幻獣機トークンを相手にダメージ計算を行って貰う。とはいえ、この戦闘では幻獣機トークンは破壊されず、当然守備表示で出すけどね」

 クリボーは無数に増殖を繰り返しながら《炎帝近衛兵》 の攻撃を受け止め、上空から新たに出現したホログラムの偵察機がそのうち1体を吊るて回収すると、残りのクリボーは一斉に爆発。《炎帝近衛兵》を破壊はしないまでも弾き飛ばした。

「危ない危ない。この攻撃を受けたら次のバックショットでお陀仏だものね」

「貴女の喘ぎを聞きたかったが仕方ない。カードを3枚セットしてターン終了だ」

「ちょい待てコラ」

 さっき聞き捨てならない事言わなかったかロリコン。

「まあいいわ。私のターン、ドロー」

 前のターンにボム・フェネクスの火力を上げる為に伏せたカードが放置されたおかげで、既に勝利の方程式は出来かかっている。

 とはいえ、相手の伏せカードは3枚。そのうち1枚は《ブレイズ・キャノン・マガジン》を墓地に送るカードの可能性が高いから、どうにかして二度目のバックショットに耐えるかしないと。

 となると。

「魔法カード《死者蘇生》。墓地の《重爆撃禽 ボム・フェネクス》を特殊召喚」

 これでまずは、ボム・フェネクスで墓地からの《ブレイズ・キャノン・マガジン》を消費させ―ー。

「え?」

「え?」

 なにこの反応。え、嘘、もしかして。

「そして、《重爆撃禽 ボム・フェネクス》効果発動」

 

 “レイパー”緒方 LP400→0

 

 終わったぁああああああああああああああああああ!?

「え、嘘、待って? 伏せカード3枚もあって対処手段ないの? 一体、何を伏せてたの?」

 するとレイパー緒方はいった。

「《アヌビスの裁き》《魔法の筒(マジック・シリンダー)》そしてブラフ兼トークン破壊用の《破壊輪》」

「……」

 私は、そっと最初から伏せてた罠カードに心の声で告げた。

 出番なかったわね。《超音速波(ソニック・ブーム)》。

 

 

 デュエルで負けたほうは、一度フィール残量が一気にゼロになる。

 これで緒方はアイドルを襲うことが困難になった。いや、素で鍛えてるだろうし改造エアガンもあるので強行に出るのは簡単だろうけど、警察でも取り押さえられる程度には落ちた。

 私は、自分の片腕とボム・フェネクスを緒方へ狙いを定め、いった。

「じゃあ約束通り部下もろとも撤退してもらうわよ」

「……フンッ」

 緒方は悔しげに顔を歪めるも、すぐ鼻を鳴らし、

「果たしてどうかな?」

「どういうことよ」

「今から撤退指示を出した所で、すでに公園は俺の小隊たちの慰安施設と化している。……周りをみろ」

 言われて私はチラッと周囲をうかがう。この辺りが静かで、公園の外れもいいトコで中央の状況がうかがい知れない。だけど。

 明らかに、警察が数人動いてるのがみえた。警備員ではなく警察。

「もしかして!」

「そうだ。すでに『アイドル集団もっこり計画』は始まっている。いまから止めに入った所で時すでに遅しというわけだ」

「そんな……」

 じゃあ、じゃあ私の取り分は?

「ふむ」

 そこへオスカルさんが、

「ひとつお訊ねしたい。貴公の小隊たちは全員男ですかな?」

「いや。女性も混じってはいるが、この作戦に参加しているのは全員男だ」

「なら問題ありませんな」

 オスカルさんは、股間をおっきさせていった。

「この公園にはすでに我が兄弟以外にも屈強なゲイデュエリストを数名紛れ込ませてましてな。いまごろバイブルたちが快楽拷問()して得た情報を元に動き出してるでしょうぞ」

「おい、まさか!」

 緒方が叫ぶ、その刹那。

「オスカル兄さーん」

 と、現れたのは小杉さん。

「たったいま、フィール・ハンターズをボス除いて全員制圧しまして。これから公衆トイレで素敵なパーティをするんだけど。良かったらどうですか?」

「全滅……だって」

 ショックでフラッとなる緒方。

 オスカルさんは、そんな彼の腕を掴んで、

「では、メインディッシュを連れて参じましょう」

「ま、待て。何をする気だ!」

 必死に抵抗する緒方。ふたりは笑って、

「僕のイカレてりゅタワーで滅茶苦茶にできれば何でも構わないよ」

「そうだ。私はゲイヴンだ……それ以上でもそれ以下でもない」

『ハメさせてくれ』

「嫌だああああああああああああああああああああ!」

 緒方は叫び、そして私に向かって、

「そ、そうだ。負けた側は撤退のはずだ。総員撤退させてくれるのではないのか?」

 私は笑顔で、

「だから撤退してるんじゃない。公園からトイレへ」

「い、嫌だ。……俺は苺ちゃんと鳥乃さんで素敵な3Pを」

「オスカルさん、小杉さん。この人の奥の施設を破壊しちゃって。後は頼んだわ、ゲイヴン」

『悦んで』

「Nooooooooooooooooo!」

 引き摺られていく緒方。オスカルさんはHAHAHAと笑い、

「同業者の男色ディーチ、調教師クボティト、修理屋の阿部山、決闘疾走者(ライディング・デュエリスト)ジぁーん、あと岡山の変態糞汚忍はきて下さってるかは分かりませんが、我が盟友たちよ。いま向かいますぞ」

 オスカルさんが呼んだメンバー。聞いただけで吐き気がするんだけど。まあいっか、あんな男に性的な目でみられたってだけで吐き気モノだし。

「あ、そうだそうだ」

 大事なことを忘れてた。私は後から追いかけて小杉さんに聞いた。

「小杉さん、突然だけど公衆トイレに撮影スタッフの富田 啓(とみた けい)って人いませんでした?」

「え? ああ」

 小杉さんはいい笑顔で、

「とても美味しかったですよ」

「トミタケぇええええええええええ!」

 とりあえず、小杉さんたちが確認した所、個室に貼り付けられて本当に気絶させられてただけらしい。死亡フラグは回避できたみたいでよかったよかった。

 別の意味では死んだけどね。ゲイって怖い。

 

 

 ――午後16:30

 アイドルたちは11:30頃に無事撮影を終えて解散。その辺りでどうやら富田が病院に運ばれたと知ったらしく、一部のスタッフそして苺ちゃんは急いで向かったらしい。

 私たちはあれからもう少し監視を続け、問題なしと判断しゲイたちとは12:00で解散。

 ただし、私だけは公然と潜り込む為本当に公園警備の一日バイトに参加していた為、終わった頃にはすでに夕方になってしまった。

「はあ……」

 私は自販機で缶コーラを買い、一気に飲み干してはゴミ箱へポイ。

「アイドルたちとヤれなかった。それどころか挨拶ひとつもできなかったし」

 任務は満了。バイトの収入だって食費の足しと思えば十分過ぎる額が振り込まれる予定だ。けど、私の心は満たされない。

「どこで間違えた。どうしてれば、あの最高級の女体をゲットできたの」

 空を見上げ、私はつぶやく。ああ、今日の空はどうしてこうも忌々しい程に澄んでるの?

「私は飢えている!渇いている!女体に! 私は!抱ぁく!!」

「何大声で馬鹿してるのよ」

 突如、背後から女の子の声。

 振り向くと、そこにはとっくの昔に帰ったはずの苺ちゃんが立っていた。一度着替えてきたらしく、カジュアルパンツスタイルにサングラスといった服装に変わっている。

「よかった、まだ帰ってなかったのね」

「まあ、いまから帰る所だけど」

 私はいって。

「で、どうしたの? 帰ったんじゃなかったの?」

「ちょっと用事を思い出してね」

「用事?」

 すると、苺ちゃんはいった。

「朝はありがとう。おかげで助かったわ」

 まさか、この子。

「それ言う為だけに引き返してきたの?」

「そうだけど?」

「好きものね、あなた」

「感謝もひとつ言わない思い上がりの天狗鼻にだけはなりたくないだけよ。実際、共演したふたりは牧師に助けられて感謝の気持ちひとつ起こさなかったしね。助けられて当然って態度。そんなの見たら逆にね」

 牧師というのは、恐らくボブのことなのだろう。

「我儘で唯我独尊なドSお嬢様路線とは思えないセリフね」

「我儘路線だからこそでしょ」

 苺ちゃんはいった。

「心から他人を見下し誠意なく接して、人がいつまで我侭に付き合うわけがないじゃない。TVの中でもプライベートでも我侭を通しふんぞり返るには、自分がどれだけの器だって正しく知って己の価値を常に高めないと。アイドルは消耗品だもの、下からどんどん新鮮で良質な新人がやってくるのに、一時の待遇で腹の底まで思い上がってたら来年の今ごろは『あの人はいま』よ」

 私は思わず感心のため息を吐きそうになる。それはもう「アイドルにひたむきなんだな」ってレベルじゃない。現実を見据えその上で彼女は理想を追及している。私は彼女にそんなカリスマを覚えた。

 まだ、小学生の糞ガキなのに。

「だから私は、ファンもスタッフも全力で大事にする。もちろんあなたのように縁あって助けてくれた人もね。だからこそ私の鞭には有難みがあるし、ファンは踏まれて感謝を言える。私がファンを見捨てないから、ファンも私を見捨てない。そして、彼らの声援を励みに私はこれからも頑張っていける。……私さ、キャラ作りじゃなくて本当に我侭で唯我独尊が好きなのよ。だから、その為の努力は惜しまない、そんな自分らしい完璧主義者でいたいのよ」

 ああ。

 ほんと、なんで今日の空は忌々しい程に澄んでるんだろ。曇り(けがれ)さえも輝きに変える、まるで、目の前にいるガキみたいなね。

 そういえば、あの時もジュースを買いに行った理由、ただ不信なスタッフを確認しただけじゃなくて本当はスタッフ全員分の水分を用意しに行ったんじゃないだろうか。「これだけ暑くて、誰かが倒れたりしたらたまらない」とかいってね。

 何となく、彼女ならやりそうな気がした。

「まあ、私の用事はそれだけ。じゃあ、私は先に帰るから、あなたも変な男に絡まれないうちに帰るのよ」

 そういって、苺ちゃんは背を向けて駆け出して行った。

 口先だけ聞けば、憎たらしくふてぶてしい子供の言葉そのものだけど、彼女の信条を聞いた後だとそれが妙に胸に響く。

 だって、彼女は「思い上がらず」そんなセリフを言える人間になろうとしてるわけで、それだけの努力を十二分にしているんだから。

「全く。爪を煎じて飲みたいくらい、とんでもない子がいたものね」

 私はたぶん初めて子供に性欲を抱いたかもしれなかった。

 




ということで、今回は自分のもうひとつの小説、遊☆戯☆王GERICHTから高村苺をゲストでお連れしました。それも、あちらでは書いてないアイドルとしての顔で。
最後の一文は一応自分の中で意図を決めておりますが、どう受け取っても構いません。

あとがきで書くのはお久しぶりです、CODE:K(他所ではMr.Kと名乗ってます)です。
なんとか、というのか自分でも驚くペースでMISSION4まで執筆が完了し、近いうちにGERICHTより文章量超えちゃうんじゃないかと思ってる次第。まあ、実際こちらはあっちよりやりたいように書いてるので、当然といえば当然の結果なのかもしれませんけど。

実は今回、軽く捕捉しておきたいことがありまして。
本編中の。

ところで余談だけど、このモンスターの融合素材は《起爆獣ヴァルカノン》と同じで、増田曰く木更ちゃんとのデュエルでこっちを出してれば勝てたと言われたのを思い出した。

この一文ですが、実はMISSION2投下後、ある友人から指摘を受け、そこで初めてハッとなりまして。
気づかせてくれた友人に感謝と同時に、それをこのような形で表現してしまった為に一言詫びを入れたいと思い、いまこの場で捕捉を入れさせて頂きました。
この場を借りてもう一度、ありがとうございます。

さて、次回ですけど任務と関係ない日常編を一回挿入してみようか、それとも物語をちょっと動かしてみようか、という二択の中で迷っております。
もっともネタの受信次第ではどちらでもない話を書くかもですけどね。……この前TRPGのオンセで出したフリーダム響ベースにPolaをほんのり添えたような子とか出したいと思ってたりしますし。
(艦これネタすみません。いま無課金プレイ中で)

という事で、今回もここまで読んで下さりありがとうございます。
次回もありましたら、どうかよろしくお願いいたします。

09/10/20:51追記:
投稿から少し時間経って、やっぱ圧倒的に苺のシーン足りないと実感。
おかげで冷静になると最後のシーンが強引になりすぎて。
この辺調節具合、もう少し上達したいなと思う次第です。


●今回のオリカ


クリ瑞雲
ペンデュラム・効果モンスター
星1/風属性/悪魔族/攻 300/守 200
【Pスケール:青1/赤1】
①:相手が直接攻撃を宣言した時、このカードを墓地に送って発動する。
自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚し、相手モンスターの攻撃対象をそのカードに移し替えてダメージ計算を行う。
「幻獣機トークン」はその戦闘では破壊されない。
【モンスター効果】
このカードはルール上「幻獣機」カードおよび「クリボー」カードとしても扱う。
①:相手が直接攻撃を宣言した時、手札・エクストラデッキからこのカードを墓地に送って発動する。
自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚し、相手モンスターの攻撃対象をそのカードに移し替えてダメージ計算を行う。
「幻獣機トークン」はその戦闘では破壊されない。
(瑞雲+クリボー)

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