「…………」
事務所サイドは、しーんと静寂に包まれていた。
原因はもちろんマイケルの裏切りだ。
現在、高村司令たちはモニターから公園の様子を見ている。そこには、ヴェーラに加え木更の姿もあった。
満智子の独白でフェンリルが若干使い物にならなくなっていたが、いま事務所にいる総員がそれぞれ手分けしてパインをサポートする手筈になっていた。しかし、マイケルがあのタイミングでパインを撃ち殺すのは予想外だったのだ。
というのも、満智子とマイケルの会話をみて、高村司令を除くほぼ全員がマイケルへの心配は杞憂、もしくは直ちに影響は出ないものと警戒を忘れてしまい、その高村司令でさえ、マイケルがあまりに流れる手つきでパインを撃ったものだから対応が間に合わなかったのである。
「ボク、行ってくる」
静寂を破ったのはフェンリルだった。
デュエルディスクを装着し、近くの椅子の角から瘴気を出し始めた彼女に、
「待ちなさい。どうやって行くつもり?」
高村司令がいった。
「アンタの角と角を繋げる能力がクソチートとはいっても、まだモニター先のどことも繋がってないでしょ」
フェンリルの能力は、事前にフィールを仕込んだ鋭角同士でのみ発生する。さほど離れていない視界内であれば、その場ですぐ遠隔で仕込むこともできるのだが、モニター越しであっても距離が離れすぎてると話は別だ。加えて、フィールも一度仕込めば一生有効というわけでもない。残念ながら、高村司令のいう通り現在公園内でフィールが仕込まれてる鋭角はひとつも存在しなかった。
「木更ちゃん、協力して」
フェンリルはいった。
「いますぐ、パインさんか満智子のデュエルディスクにハッキングして、ボクのフィールを届けて欲しいんだ。それで、デュエルディスクの角をゲートに繋げる」
「でも、いまの私は」
自信がない。そして、できない。木更は口裏に自らの不能をフェンリルに伝えた。
木更のハッキングはプログラミング知識を完全に無視したクリフォートによるフィール能力である。そして、木更は現在ゼウスの一件で気が動転して以後うまく行使できずにいたのだ。
フィールの扱いはメンタルの状態に左右される場合がある。これはフィールの特色でもなんでもなく、スポーツでも勉強でも心が弱ってると100%の力を出し辛いのと同じ。そして、一度失敗がクセになると中々抜け出せないのも同じだ。
しかし、フェンリルは。
「早くして! このままだと満智子は、ボクの妹は!」
フェンリルが焦る中、モニターの先ではマイケルに怯えた満智子がデュエルディスクを構えるも、マイケルが撃った銃弾でディスクが破壊される様子が映し出された。
これで、満智子のディスクへのハッキングは不可能になった。
「ああ、そうだったな。これが俺様の本当の任務だった」
モニター先でマイケルがいった。満智子は怯えながら、
「だ、騙したの? 私やパインを」
「ああ。悪いな。てめぇのパパ、ハーゲンの指示だ」
いまやマイケルは完全にハーゲン側として動いている。フィール・ハンターズたちは満智子が座ってたベンチを取り囲み、その中をマイケルがじりじりと歩み寄る。
そんなモニター先の状況を見て、鈴音はいった。
「木更さん、パインのデュエルディスクをプログラミングでハッキングしてくださいませ」
「え?」
木更は驚き、
「だけど私、正規の手段でハッキングはできませんけど」
「あなたが仕事の合間に増田の遺したデータを元に訓練していたのは知ってますわ。他所の組織のネットワークならともかく、同じ仲間のデュエルディスクになら何度か潜入に成功してるはずでしょう?」
「それは」
「大丈夫、私も協力しますし、あなたにならできますわ」
鈴音がやさしく諭し、木更の頭を撫でる。
「分かりました」
木更はいった。
「パイン・サラダのデュエルディスクにハッキングして、最後だけフィールを使ってフェンリルのフィールを送ればいいのですね? やってみます」
失礼しますと一言断り、木更はモニターの正面に座ってキーを打ち込む。
近頃の機械じみた顔とも、普段の絶やさぬ笑顔とも違う真剣そのものな顔で、フェンリルからすれば目にも止まらぬ速さでタイピングする姿に、高村司令も、
「やるじゃない」
の一言。
最後にエンターキーを押して、木更はいった。
「潜入成功。フェンリルさん、モニターにフィールを流してください」
「うん」
言われるまま、フェンリルは手をかざす。すると、モニター先の画面で、パインのデュエルディスクから一筋の瘴気が伸びる様子が映る。
「フェンリルさん、どうですか?」
木更が訊ねる。フェンリルはいった。
「成功したよ。ありがとう木更ちゃん」
「任務を伝えるわ」
高村司令がいった。
「救出任務よ。フェンリルと鈴音は直ちに現場に直行、満智子を無事救出して帰還。敵対勢力の生死は問わない、むしろ殺せ。後方サポートは私と藤稔で行うわ」
「鈴音さんと?」
驚くフェンリルに、高村司令は、
「不満?」
「ううん。責任重大すぎて肝が冷えたけど」
「なら1秒以内に慣れて仕事を果たせ」
一見無茶ぶりにいう高村司令。その隣で鈴音はいった。
「自分の身は自分で護れますわ。ですから、あなたは自分の為すべきことをしてくださいませ」
「う、うん……」
「では、私はゲートの防衛を中心に立ち回りますわ。フェンリルは満智子さんを救出しながら敵を殲滅ください」
そんなハングドの様子をみて、ヴェーラはいった。
「ハラショー。そろそろ三人称の描写をやめていつもの冒頭に入って貰っていいかい?」
わかりました。地の文はいった。
ボクの名前はフェンリル。プライドこと
そして、間違いなく病んでる人だよ。
「満智子を脳姦するのはこのボクだぁッ!!!!!!」
『こいつ、いきなりシリアス壊しやがった!』
通信先で高村さんが驚く中、鋭角を通って公園に飛び出したボクは、いままさに満智子に手が伸びかけたマイケルに、腕の毛穴からフィールで作った触手を伸ばして刺貫きにかかる。
「なっ」
咄嗟に避けるマイケル。そのままボクは触手を満智子に絡ませ、ワイヤーのように引き寄せてキャッチする。
「満智子、大丈夫だった?」
「時子? どうして」
恐怖で泣きそうになった顔で、だけどボクがここに来たのを信じられなそうに茫然とする満智子。
「当たり前じゃないか」
ボクはいった。
「洗脳されるならボクにヤらせてよ(ボクは満智子の姉だもん)」
しまった、逆!?
「…………」
鈴音さんが無言でゴム弾を撃ってきた。狙いはボクの頭。咄嗟にフィールで防御したけど、痛い。
通信先から高村さんが、
『鈴音。この場で仲間割れはやめなさい。ガチでアンタも裏切り者ってありえる流れだから』
「同じ年ごろの娘を持つ母として、満智子さんに性欲丸出しで近づく輩を放っておけませんわ」
言いながら、鈴音さんは非殺傷用のゴム弾の銃を懐に仕舞う。っていうか、「妹から離れろっ!」とかいって登場するつもりだったのに。なんで早速性癖爆発させちゃったんだろ、ボク。
これじゃあ、まるで鳥乃さんだ。
ボクは満智子を胸元に寄せ、
「改めて、怪我はない? 満智子」
「ひっ」
どうしよう。満智子、ボクをみて怯えてる。
「鈴音さん、どうしよう」
ボクは本気で困り、助けを求めると、
「仕方ないですわ。彼女をこっちに渡しなさい」
と、鈴音さんはいった。しかし、そこへ。
『フェンリルさん、後ろ!』
通信先から木更ちゃんの声。気づくとフィール・ハンターズが数人ほどボクに向かって飛び掛かっていた。けど、ボクが何かする前に鈴音さんが腕から内蔵銃を出し、ひとり残らず撃ち落としていく。
そういえば、鈴音さんは鳥乃さんと同じく半機人だったっけ。
「ありがとう鈴音さん」
言いながら、ボクは辺りのフィール・ハンターズたちをひとりずつ目で追う。
「1、2、3、4、5、……喰らえ!」
ボクはその内の5人ほどにターゲットを絞り、デュエルディスクなりナイフなり奴らの鋭角と、わざと鋭角にしたボクの服の襟を繋げる。そして、今度はさっきの触手を襟の鋭角を通して奴らの鋭角に出現させ、それぞれ耳穴なり眼球なりを貫いて脳ミソを物理的にシェイクしてやった。
直後、
「いやあああああああっ!」
全身を震わせ、満智子が悲鳴をあげる。
『フェンリルさん、脳狙いの攻撃は控えてください。満智子ちゃん、先ほどあなたに脳姦して洗脳したいって聞かされた直後なんですよ?』
「あ」
しまった。そりゃそうだよ、目の前で実例見せたら、次は自分がされると思って怯えるに決まってるよ。
ボクは居た堪れなさに目を泳がせて、
「大丈夫。満智子にそういうことしないから」
「ひぐっ、ひぐっ」
どうしよう。完全に泣いてる。今更ボクが何か言ったところで、満智子は余計に怖がるだけだ。
多分、もう二度とボクを頼ってはくれないんだろうなあ。こうなったら、いっそ本当に満智子の脳をくちゅくちゅして「お姉ちゃんだいしゅき」って言わせちゃっても。
通信先で高村さんがいった。
『藤稔アンタよくアイツを受け入れたわね。監禁されたうえアレされそうになったんでしょ?』
『逆に受け入れないと、本当にされる所でしたから』
と、通信先で木更ちゃんの返事。当時のエピソードを思い出しボクの心が勢いよく抉れる。でも、そんな抉れた心が魔が差しそうになったボクの心を正常に戻してくれた。
『でもまあ良かったじゃん。これで危険人物のターゲットが他所に移ったわ』
『いいえ』
木更ちゃんは否定し、
『フェンリルさんは惚れっぽいうえに衝動的なんです。たぶん、鳥乃先輩のパターンと同じでターゲットが増えただけだと思いますよ』
うん、ごめんね木更ちゃん。その通りなんだ。
『あー。ドンマイ』
音声だけなのに、高村さんが木更ちゃんの肩を叩いて同情する様子が映像付きで想像できた。
ところで。
辺りを確認した所、もうフィール・ハンターズはボクたちを包囲できるほど数を残していなかった。それどころか、触手を怖がってデュエルディスクを手放す人もいる始末。
だから、ボクは堂々と鈴音さんに歩み寄り、満智子の身柄を引き渡す。
「満智子をお願い」
「分かりましたわ」
鈴音さんが満智子を優しく抱きしめた。
「離して」
満智子はいうも、
「大丈夫ですわ。怖くないから、よく頑張ったわね」
と、鈴音さんが頭を撫でてあやすと、ボクより安全と思ったのか満智子はすぐ鈴音さんにしがみついた。
なのでボクは鈴音さんに満智子を任せ、続けて実父疑惑のあるハーゲンに向かって、ボクはいった。
「ハーゲン! 満智子は渡さない。ボクたちハングドの下で保護させてもらうよ」
「あれだけ危険人物晒してよく言えたな」
半眼の呆れた顔でハーゲンはいった。うん、我ながらごもっとも。
「そのうえ、ドエルとの想い出も忘れておいて」
「でも、ボクは時子なんでしょ?」
「ふんっ」
ハーゲンは鼻をならし、
「ああ、そうだ。お前はかつて時子だったデュエル兵士、フェンリルだ。そして、俺のもうひとりの娘でもある。たったいま、それを激しく後悔したが」
「だったら記憶がなくても妹を護るのは、姉として当然じゃないか」
「妹に欲情する姉がいるか!」
「義理でも娘から自我奪おうとしたやつに言われたくない!」
ボクは、そこだけには全力で言い返す。
そしてボクは、満智子に向かって本気で真面目に全力でいった。
「ごめんね満智子。でも、ボク全部本気だから! 満智子を助けたいのも、護りたいのも、時子として姉でいたいのも!」
「私の脳みそ、穿りたいのも?」
「それは……」
満智子は一度ボクに目を向けるも、すぐにそっぽを向いて、
「何も覚えてないくせに」
「ごめん」
「さっき、人違いって言い切ったくせに」
「それもごめん」
「本当は厄介事に巻き込まれたって思ってるくせに」
「それは無いよ!」
ボクは、そこだけはしっかり否定した。
「ボクだって、ずっと思い出したかったし、取り戻したかったんだ。ボクが、“プライドの作品”フェンリルになる前のことを。やっと舞い込んできた手掛かりなのに、厄介事だなんて思うもんか!」
「時子?」
「だから、チャンスが欲しい。絶対、思い出すから。満智子の知ってる時子を取り戻してみせるから。だから、もう一度だけ、ボクを信じて!」
実をいうと、いまも全然実感がわかないんだ。
ボクが本当は時子だったってことも、満智子って義理の妹がいることも、両親の名前も、ボクの一度目の末路を聞いても、全部自分のことのように感じないんだ。
それでも、やっと掴んだ手掛かりで、やっと巡り合えた家族だもん。
手放したくないに、決まってるじゃないか!
「分かった」
満智子はいった。
「あと一回だけ、信じてみる。一回だけよ? 次は絶対ないから」
「うん」
ボクはうなずき、再びハーゲンに向き合った。
「この通りだよ。満智子はボクたちが連れて行く。妹を自我のない道具になんかさせるもんか!」
「そうか」
ハーゲンは、一度冷静な声でいった。だけど、すぐに激昂して、
「ならば力ずくでも連れて帰る! ドエルはお前の性欲を満たす玩具じゃない!」
う、あ、当たり前じゃないか。
「しないよ、そんな事。絶対我慢してみせる!」
「制御が必要な時点で問題外だ馬鹿娘が! マイケル、やつらをデュエルで倒せ、いいな!」
ハーゲンは怒鳴り声で命令を下し、その体が光ったと思うと公園から姿を消した。
だけど、ボクにはそれが、まるでマイケルを倒せば見逃してやるって言ってるように聞こえたんだ。だって、本当に連れ帰るならここで立ち去る必要なんてない。
もしかしたら、本当はハーゲンも満智子を再改造なんてしたくないのかもしれない。立場上そんなこと口が裂けてもいえないだけで。
「げっへっへ」
ハーゲンにかわり、にたにた笑ってボクの前に立つマイケル。その姿は、もうボクたちの知ってる彼じゃない。
「俺様の長い長い下準備をフイにしてくれた後始末。キチンと払って貰うぜ! フェンリル」
「最初からフィール・ハンターズだったっていうの?」
「ああ。愉しかったぜ、パインやお前たちとの友情ごっこは」
マイケルはデュエルディスクを構える。
「やるしかないみたいだね」
ボクも諦め、デュエルディスクを構える。すると、ディスクは自動的にデュエルモードに移行し、ボクたちの足元で紫色の光が模様を描く。しかもこれって、地縛神の?
さらに、ボクたちごと模様を囲むように蒼い炎があがり、すでに暗い空が瘴気に包まれる。
「デスデュエルだ。負けたほうは地縛神の生贄になるぜ」
マイケルはいった。ボクは驚き、
「地縛神!? まさか、マイケルが地縛神の眷属に選ばれたっていうの?」
「いいや、俺じゃない。だが、フィール・ハンターズには1名いる。もちろん、そっちのクソレズとは別にな」
クソレズって、鳥乃さんだよね? 酷い言われだけど擁護できない。
「だったら。デュエルに勝って吐いて貰うよ。その正体が誰なのか!」
「できるものならな!」
マイケルが攻撃的に笑う。ボクたちはいった。
「デュエル!」
フェンリル
LP4000
手札4
[][][]
[][][]
[]-[]
[][][]
[][][]
マイケル
LP4000
手札4
先攻はマイケルに決まった。ボクのデッキ、リバースを多用する以上後攻は苦手なのに。
「俺のターン。まずはこいつだ。俺は手札からフィールド魔法《スクラップ・ファクトリー》を発動だ。効果によりフィールドのスクラップモンスターの攻守は200アップする」
事前情報通り、マイケルのデッキは【スクラップ】。
フィールド魔法のソリッドビジョンによって、辺りの光景は溶解工場の中に切り替わる。
「さらに《スクラップ・リサイクラー》を通常召喚。効果発動だ。デッキから《スクラップ・グライダー》を墓地に送る」
確か、この《スクラップ・リサイクラー》は、召喚時にデッキの機械族を墓地に送るモンスター。だけど、実はこのモンスターはスクラップとは全く関係ないカードだったりするんだ。
このカードは、元々スクラップっていうテーマが出る前に登場した汎用機械族サポートモンスター。だから、一応スクラップのサポートを共有できるものの、機械族テーマでさえないスクラップとはさほど相性が良いわけでもない。デッキをテーマ内で統一したり、一般的に流通しているカードで組む範囲内ならば。
テーマ外のカードも取り込んだ構成なら、鳥乃さんの使う《幻獣機オライオン》と組み合わせる事でデッキの展開力が跳ね上がるらしいし、《スクラップ・グライダー》は流通しているカードの記録にはない。たぶん、マイケルが過去にフィールで誕生させたモンスターだろう。
「いくぜ。俺の場にスクラップモンスターがいる場合、手札から《スクラップ・オルトロス》を特殊召喚。そして《スクラップ・オルトロス》はこの方法で特殊召喚された場合、フィールドのスクラップモンスター1体を破壊する。俺はオルトロス自身を破壊。そしてオルトロスの第2の効果だ。このカードがスクラップカードの効果で破壊された場合、墓地のスクラップモンスターを手札に戻す。自身を除く制限がない以上、オルトロス自身の効果だろうとスクラップカードによる破壊に違いはない。俺は《スクラップ・グライダー》を手札に戻すぜ」
そういって、マイケルは《スクラップ・リサイクラー》で墓地に送った《スクラップ・グライダー》を手札に。
「それだけじゃない。俺は《スクラップ・オルトロス》が破壊された時、《スクラップ・ファクトリー》の第2の効果も発動していた。この効果は、1ターンに1度、フィールドのスクラップモンスターが効果で破壊された時、デッキからスクラップモンスター1体を特殊召喚できる。俺はデッキから《スクラップ・ゴーレム》を特殊召喚だ。さらに《スクラップ・ゴーレム》の効果を使用。1ターンに1度、俺の墓地からレベル4以下のスクラップモンスターを特殊召喚する。俺は墓地の《スクラップ・オルトロス》を特殊召喚だ」
どんどん展開されていくスクラップモンスター。
このスクラップデッキというのは能動的に破壊とサルベージ、破壊と蘇生などを繰り返しながら盤面を制圧していくテーマらしいんだけど、情報だけ見るのと実際に目の当たりにするのは全然違う。
「来い! 俺様のサーキットよ」
しかもリンク召喚まで。
「召喚条件はスクラップモンスターを含むモンスター2体。俺は《スクラップ・リサイクラー》と《スクラップ・オルトロス》をリンクマーカーにセット。リンク召喚! 暴れろ、リンク2《スクラップ・ワイバーン》!」
出てきたのは飛龍タイプのスクラップモンスター。その攻撃力は1700だったけど、フィールド魔法の効果で攻撃力は200上がる。
《スクラップ・ワイバーン》 攻撃力1700→1900
「《スクラップ・ワイバーン》のモンスター効果だ。1ターンに1度、墓地のスクラップモンスターを蘇生し、その後俺のカードを1枚破壊する。俺は《スクラップ・オルトロス》を蘇生し、オルトロスを再び破壊する。そして《スクラップ・ワイバーン》第2効果と《スクラップ・オルトロス》の効果を同時に発動だ。《スクラップ・オルトロス》がスクラップモンスターの効果で破壊されて墓地に置かれたことで、墓地の《スクラップ・リサイクラー》を手札に加える。そして《スクラップ・ワイバーン》がすでにモンスターゾーンに存在する状態で、フィールドのスクラップモンスターが効果で破壊された場合、デッキからスクラップモンスター1体を特殊召喚。その後、フィールドのカードを1枚破壊する。俺はデッキから《スクラップ・ゴブリン》を特殊召喚し、《スクラップ・ゴブリン》を破壊する。《スクラップ・ゴブリン》の効果。このカードがスクラップカードの効果で破壊された事で、墓地のスクラップモンスター1体を回収する。俺は《スクラップ・オルトロス》を手札に加える」
何だよこれ。本当に破壊と再生を繰り返しながらアドバンテージを取りすぎてワケわからない。
「さらに、《スクラップ・ゴブリン》が破壊されたタイミングで手札のチューナーモンスター《スクラップ・グライダー》を特殊召喚する。このカードは、俺のスクラップモンスターがスクラップカードの効果で破壊された場合、手札から特殊召喚できる。その後、《スクラップ・グライダー》のレベルを破壊されたスクラップモンスターのレベルと同じにできる。俺は《スクラップ・グライダー》のレベルを《スクラップ・ゴブリン》と同じレベル3にする」
下手な決闘者より丁寧に効果内容を説明してくれてるのに、言ってることが全く分からない。
とりあえず、《スクラップ・ワイバーン》の効果ふたつと他のモンスターとのコンボで、最終的に墓地に《スクラップ・ゴブリン》が送られ、墓地の《スクラップ・オルトロス》と《スクラップ・リサイクラー》が手札に戻り、チューナーモンスター《スクラップ・グライダー》がレベル3として特殊召喚された、でいいのかな?
そして場には、《スクラップ・ワイバーン》と《スクラップ・グライダー》の他にレベル5の《スクラップ・ゴーレム》がいる。この流れだときっと次は。
「俺はレベル5《スクラップ・ゴーレム》にレベル3《スクラップ・グライダー》をチューニング。捨てられしガラクタ共よ、いまこそ竜の擬態へと組み上げ、命の息吹を模造しろ! シンクロ召喚! 暴れろ、レベル8《スクラップ・ドラゴン》!」
現れたのは口上通りスクラップで組み上げられた一匹の竜の姿。その攻撃力は2800だったけど、フィールド魔法で200アップした結果。
《スクラップ・ドラゴン》 攻撃力2800→3000
攻撃力3000に突入。
「カードを1枚セット。ターン終了だ」
さらに場に伏せカードが1枚敷かれ、やっとボクの1ターン目がまわってきた。
フェンリル
LP4000
手札4
[][][]
[][][]
[]-[《スクラップ・ワイバーン(マイケル)》]
[][][《スクラップ・ドラゴン》]
[][《伏せカード》][]
[《スクラップ・ファクトリー》]
マイケル
LP4000
手札2
「ボクのターン、ドロー」
言いながらボクはカードを引き、
「早速だけど、あのカードは真っ先に対処しないと。速攻魔法《サイクロン》! 《スクラップ・ファクトリー》を破壊するよ」
ボクはまず今後も展開の要になりそうなフィールド魔法を対処し、
「永続魔法《ナーゲルの守護天》を発動」
代わりに今度はボクが永続魔法を場に展開。
「《ナーゲルの守護天》がフィールドに存在する限り、ボクのメインモンスターゾーンのティンダングルモンスターは戦闘・相手の効果では破壊されない。さらに、ボクのティンダングルモンスターが相手に戦闘ダメージを与える場合、1ターンに1度だけそのダメージは倍になる」
だけど、EXモンスターゾーンのモンスターは護れない。このデッキはボクがフェンリルとして生まれてからずっと使ってるけど、何度も何度も忘れてしまうこのカードの抜け穴だ。忘れないようにしないと。
「そして、ボクは手札から《ティンダングル・イントルーダー》を捨てて、手札の《ティンダングル・ジレルス》の効果発動。デッキから《ティンダングル・ドロネー》を墓地に送って、自身を裏側守備表示で特殊召喚」
このカードは、いうなら手札とデッキのティンダングルカードを1枚ずつ墓地に送ることで特殊召喚できるモンスター。
「さらに、モンスターが裏側守備表示で特殊召喚された事で、墓地から《ティンダングル・イントルーダー》を裏側守備表示で特殊召喚。さらに手札から《ティンダングル・ベース・ガードナー》を特殊召喚」
これで手札は0になっちゃったけど、ボクの場にセットモンスターが2体とベースガードナー。
そのうちセットモンスターの1枚をボクは場から取り除き、腕を高く伸ばす。辺りが急に闇色に染まる、はずなんだけど元々夜かつ瘴気に覆われてるから殆ど変わりない。
ボクはいった。
「木更ちゃんに―ー」
ボクが本当に催眠術、洗脳、薬物、監禁、憑依、寄生、暗示、傀儡化、チキチキ、耳姦、書き換え、マインドブラスト、SAN値直葬、あらゆる手段で脳姦したいのは君なんだって想い。
「――届け、ボクのサーキット!」
直後、
『あのー。フェンリルさん、そこは気を遣って満智子ちゃんに届けって言ってあげたほうが』
通信先から木更ちゃんの反応がくるけど、
「駄目なんだよ、木更ちゃん。この想いだけは満智子にぶつけたら駄目なんだ」
『フェンリルさん?』
「だって、満智子に届けたら、妹に脳姦も洗脳も監禁もしたいって意味になっちゃうじゃないか」
『何を私に届けようとしてたんですか!』
普段大人しい木更ちゃんから凄い声が。だけど、
「木更ちゃん。ボクは、ボクは、Yesロリータ脳タッチは絶対しない!」
『誰が上手いこといってと』
「召喚条件は裏側守備表示モンスターもしくはティンダングルモンスター1体。ボクはセット状態の《ティンダングル・イントルーダー》をリンクマーカーにセット。リンク召喚! 来て、鋭角に住まう猟犬の友、リンク1《ティンダングル・ドール》!」
出現したのは、《ティンダングル・イントルーダー》によく似たミミズのモンスター。そして、このモンスターをみて満智子は、
「ティンダングル……ドール?」
と、反応。そういえば満智子のデュエル戦士の名はドエル。スペルが違うから別の種族って説もあるけど、少なくとも、この《ティンダングル・ドール》とドエルは同じなのだ。
「満智子がボクの前から逃げたとき、気づいたらボクの手元でこのカードが生まれてたんだ」
ボクがいった所、マイケルが、
「見ないカードと思ったら、創造されたばかりの天然モノか」
『それを出すなら、やっぱり満智子に届けのほうが良かったのでは』
さらに木更ちゃんがいった。うん、言われてみるとボクもすっごくそう思う。
「《ティンダングル・ドール》のモンスター効果。1ターンに1度、リンク先のモンスターの表示形式を変更する。ボクはこの効果で《ティンダングル・ジレルス》をリバース。そしてリバース効果を発動。デッキから《ティンダングル・エンジェル》を手札に加える」
ボクは手札を1枚補充してから、
「続けていく。満智子に届け、ボクのサーキット!」
今度はちゃんと妹の名を呼び、リンク召喚に入る。
「召喚条件はティンダングルモンスター3体。ボクは《ティンダングル・ドール》《ティンダングル・ジレルス》《ティンダングル・ベース・ガードナー》の3体をリンクマーカーにセット。リンク召喚! 来て、リンク3《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》!」
こうして出現したのは、三つ首のティンダロスの猟犬。ボクのエースカードだ。
「ちっ、1ターン目から出してきやがったか」
マイケルが舌打ちする中、
「バトル。《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》で《スクラップ・ワイバーン》に攻撃。さらに《ナーゲルの守護天》の効果によって戦闘ダメージは倍になる」
攻撃力2800の《スクラップ・ドラゴン》も怖いけど、《スクラップ・ワイバーン》がほぼノーリスクで展開と除去を両立する以上野放しにするわけにはいかない。それに、《スクラップ・ファクトリー》を破壊したんだから《スクラップ・ドラゴン》の攻撃力がまた3000に突入することはないはず。
アキュート・ケルベロスの三つ首から放たれる炎のブレスを浴び、《スクラップ・ワイバーン》は破壊される。さらにスクラップの爆発を伴ってか、ブレスはより強い炎となってマイケルに襲い掛かる。フィールはかけてないからダメージはないけど、
マイケル LP4000→1400
一撃でマイケルのライフは半分以下に。
「くっ、このターンで《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》は無いと思ってたのが不味かったか」
「さらにバトルフェイズ終了時アキュート・ケルベロスの効果発動。このカードが攻撃したことで、ボクの場にティンダングルトークンを1体特殊召喚。さらにリンク先に特殊召喚したことで、さらなるアキュート・ケルベロスの効果。このカードの攻撃力は、リンク先のティンダングルモンスターの数×500アップする」
《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》 攻撃力3000→3500
こうして、ボクのエースがさらに火力を上げたところで、
「ボクはこれでターン終了」
フェンリル
LP4000
手札1
[][《ナーゲルの守護天》][]
[][《ティンダングルトークン(守備)》][]
[《ティンダングル・アキュート・ケルベロス(フェンリル)》]-[]
[][][《スクラップ・ドラゴン》]
[][《伏せカード》][]
マイケル
LP1400
手札2
と、ここで。
「フェンリル、マイケル。鈴音さんまで」
仕事終わりの鳥乃さんが公園にやってきた。私服の上にトレンチコートを着て、さらにバッグをひとつ肩に下げている。元々普通にしてれば男女問わず受けのよさそうな容姿をしてる人だけど、今日は加えて多少大人びたハイティーンって印象を覚える。
その驚いた顔から、誰かが呼んだわけじゃなく、本当に偶然現場を通りかかった様子だった。
「げ、クソレズ」
マイケルが嫌そうな顔していった。鳥乃さんはさらに鈴音さんの傍にある惨状に気づき、
「パイン? まさか死んでるの? ちょっと、何が起きてるって話だけど」
「裏切り者だよ! 鳥乃さん」
ボクはいった。
「マイケルが撃ったんだ。あいつはフィール・ハンターズだったんだよ」
途端、鳥乃さんの表情が険しくなり、
「この蒼い炎、地縛神ね。マイケルが眷属とは思えないけど」
言いながら鳥乃さんはボクたちを囲む炎に足を踏み入れた。直後、鳥乃さんの足元にも紫の光で別の模様が浮かび上がり、その模様で炎を一時的にかき消しながら進んでいく。
「そんな事できたんだ、鳥乃さん」
ボクが訊ねた所、鳥乃さんは自分の頭を指でつんつんし、
「私のほうの地縛神が話しかけてきたのよ、”できる”って」
そして、鳥乃さんは数秒ほど目を閉じ、
「こちら“レズの肌馬”。応答をお願い」
って、いった。すると事務所のほうから、
『こちら木更。現在、フィール・ハンターズから脱走した少女の救出作戦を行ってる所です』
どうやら、鳥乃さんは半機人なだけあって頭の中に直接通信機を仕込んであるらしい。しかも、
「木更ちゃん!? 大丈夫なの、いま」
『少なくとも現在は』
「なら了解。現在状況の詳細をテキストファイルで送って頂戴」
『分かりました』
って。脳がコンピューターと繋がってるから可能なんだろうけど、改めてハングドの半機人が人間と機械のいいとこ取りなんだって思い知らされる。
「状況把握。で、その救出対象の子っていうのが」
言いながら鳥乃さんは満智子に視線を向け、
「ガキか。残念」
と、言い切った。
「なにこいつ」
しかも満智子も満智子で反発しちゃって、
「しかもクソガキときたって話ね」
鳥乃さんもすっごい嫌そう。
ボクはいった。
「悪いけど鳥乃さん。この子、ボクの記憶に関わる重要な手がかりで、妹だから丁重にお願い」
「了解。フェンリルってロリコンから彼女の脳ミソ護ればいいって話ね」
「待って! 木更ちゃんからどんな詳細貰ったの? ねえ?」
すると木更ちゃんから、
『ごめんなさい。高村さんがそこもしっかり伝えろと言いまして』
「ああ」
高村さんのキャラなら仕方ない。
鳥乃さんがいった。
「まあ後輩弄りはそこまでにして、いまから私と地縛神でデスデュエルに対する解析と干渉を行うわ」
『分かりました。では、現段階の解析データを送信次第、フェンリルさんのデュエルのサポートに入ります』
木更ちゃんの言葉に、
「お願い。ぶっちゃけマイケルは私よりずっと強いって話だから、二人掛かりでデュエルする意気込みでお願い」
鳥乃さんはいい、直後、彼女の肌が死者のように青白くなり、瞳孔が開き白目が黒く染まる。同時に彼女から霊園の空気にも似た異質なフィールが迸った。
「相談はもう十分か?」
マイケルがいった。見ると、まだドローフェイズのままメインフェイズに移っておらず、わざわざ待ってくれてたのが分かる。今じゃ敵なのに、どうして気を遣ってくれたのか。
「うん、大丈夫」
ボクはどう返事すればいいのか困りながらいうと、
「了解だ。俺のターン、ドロー」
ここで、やっとマイケルはカードを引いた。
「《スクラップ・ドラゴン》の効果を発動だ。このカードは1ターンに1度、自分と相手のカードをそれぞれ1枚ずつ対象にとって、破壊する。俺は《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》と俺の伏せカードを破壊する」
「うわっ」
もうアキュート・ケルベロスが破壊されるなんて。でも《ナーゲルの守護天》があるのに、なんで。
「確か《ナーゲルの守護天》はメインモンスターゾーンのティンダングルモンスターは破壊を防ぐが、EXモンスターゾーンのティンダングルは防げないはずだな」
「うっ」
その通りだよ。また忘れてたよ、ボク。今回はしっかり気を付けてたのに。
「なら破壊させて貰うぜ。が、ここで俺はさらに破壊対象になったリバースカードをオープンだ。罠カード《メタバース》を発動。このカードはデッキからフィールド魔法を1枚選び、手札に加えるか発動するかを選ぶカードだ。俺は2枚目の《スクラップ・ファクトリー》をこの場で発動」
「そんなっ」
さっき《サイクロン》で破壊したばかりだったのに。
再び辺りは溶解工場の中に切り替わり、さらに《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》が破壊される。だけどボクの場には《ナーゲルの守護天》とティンダングルトークンがいる。アキュート・ケルベロスは護れなかったけど、このティンダングルトークンは《ナーゲルの守護天》が存在する限り、どんな方法だって破壊されない。今回は間違ってないはず!
そう、思ってたんだけど。
「さて、動かせて貰うぜ」
マイケルはいった。
「永続魔法《補給部隊》を発動。このカードは1ターンに1度、俺のモンスターが戦闘・効果で破壊された場合に1枚ドローするカードだ。さらに手札から《スクラップ・オルトロス》を特殊召喚。自身の効果で《スクラップ・オルトロス》自身を破壊する。《スクラップ・ファクトリー》《スクラップ・オルトロス》《補給部隊》それぞれの効果を発動だ。《補給部隊》の効果で1枚ドロー。《スクラップ・オルトロス》の効果で墓地の《スクラップ・グライダー》を手札に加える。《スクラップ・ファクトリー》の効果でデッキから2枚目の《スクラップ・ゴーレム》を特殊召喚する。《スクラップ・ゴーレム》の効果を発動。墓地の《スクラップ・ゴブリン》を特殊召喚。さらに《スクラップ・ゴーレム》と《スクラップ・ゴブリン》の2体をリンクマーカーにセット。暴れろ! リンク2《スクラップ・ワイバーン》! 今回はアキュート・ケルベロスがいたEXゾーンに召喚だ。《スクラップ・ワイバーン》の効果を発動。墓地の《スクラップ・ゴーレム》を蘇生して破壊。《スクラップ・ワイバーン》と手札の《スクラップ・グライダー》の効果を発動。まず、手札の《スクラップ・グライダー》を特殊召喚し、レベルを5に。続けて《スクラップ・ワイバーン》の効果で《スクラップ・キマイラ》を特殊召喚。その後、《ナーゲルの守護天》を破壊する」
またマイケルのソリティアが始まり、再び《スクラップ・ワイバーン》を出されたうえ、その効果で早速《ナーゲルの守護天》を破壊されてしまった。これでティンダングルトークンは戦闘でも効果でも破壊されてしまう。
「そして、レベル4《スクラップ・キマイラ》にレベル5となった《スクラップ・グライダー》をチューニング。シンクロ召喚! 暴れろ、レベル9《スクラップ・ツイン・ドラゴン》!」
さらにSモンスターが1体増えて。って、
《スクラップ・ツイン・ドラゴン》 攻撃力3000→3200
そのモンスターの攻撃力は元から攻撃力3000もあって、フィールド魔法の効果でさらに上昇。こうなってしまうと、ボクの《ティンダングル・アキュート・ケルベロス》で即座に対処するのは無理に近い。もう墓地に行ってるけど。
「手札から《スクラップ・リサイクラー》を通常召喚。デッキから《スクラップ・ハルバード》墓地に送る」
ここでやっと、マイケルはこのターンの通常召喚権を行使。
「そして俺はこのままバトルと行きたい所だが、《ナーゲルの守護天》には確か墓地から発動できる第3の効果があったはずだ」
マイケルに指摘されたので、ボクは。
「《ナーゲルの守護天》は自身を墓地から除外し、さらに手札を1枚捨てることでデッキから新たな《ナーゲルの守護天》を手札に加えることができる」
「そうだ。次のターン、お前は再び《ナーゲルの守護天》を発動する可能性が極めて高い。その上で再び俺の《スクラップ・ワイバーン》を攻撃されたら今度こそお陀仏だ」
「くっ」
実際、それを狙ってたんだけどね。
「対する俺の答えがこれだ。来い! 俺様のサーキットよ」
再びリンク召喚!?
「召喚条件はS・リンクモンスターのいずれかをを含むモンスター2体以上。俺は《スクラップ・リサイクラー》とリンク2《スクラップ・ワイバーン》をリンクマーカーにセット」
ってことは、出してくるモンスターはリンク3。
「闇に沈みし機巧の怨霊よ。その無念残したまま鹵獲され、俺様の道具へと生まれ変われ! リンク召喚! 暴れろ、リンク3《
出現したのは、全身に錆びた艤装を身に纏った人型の機械戦士。手には日本刀と西洋刀がそれぞれ握られている。そして、
「この反応。闇のフィール・カード!?」
ボクは驚く。どうしてマイケルがって一瞬思ったけど、そういえば彼の正体はフィール・ハンターズだったんだ。持っていてもおかしくはない。
ただ、スクラップ・スチュワート自体の攻撃力は2000。フィールド魔法の効果併せても2200。これなら《ナーゲルの守護天》とアキュート・ケルベロスでライフを0にできちゃう。ってことは、たぶんまだ何かあるはず。
「かつて存在した駆逐艦スチュワートを知っているか?」
マイケルはいった。
「スチュワートはかつてアメリカの艦だった。太平洋戦争の中で日本軍に倒され、鹵獲を避ける為に自沈処分で轟沈したはずの艦だ。しかし、後に米軍の航空機が日本の勢力圏内を偵察していた所、奴は未だ航行してた。沈んだ駆逐艦が幽霊船となって今も作戦を続けている。一時期アメリカではそう噂になったそうだ。何故そんな事が起きたか分かるか?」
ボクは無言で対峙し続ける。程なくしてマイケルは続きを語った。
「結果的に自沈処分は失敗し、スチュワートは日本軍に鹵獲されたんだ。その後、奴は第102号哨戒艇と名を改め日本の軍艦にされちまったわけだ。つまりスチュワートは無念の中、敵国の艦として故郷アメリカと闘わされた。そんなエピソードがある艦だ」
「何がいいたいの?」
ここでボクが訊ねると、マイケルは攻撃的な笑みを向け、
「ミチコの未来を教えてやってるんだ!」
高笑いするように言ったんだ。
「こいつは近い未来、“デュエル兵士”ドエルとして無念の中ミチコの心を失う。そして、操られるままかつて護りたかったものに銃を向けるんだ。俺とお前どちらが死んで、ミチコがどちらの道に進んだとしてもな」
「そんな事ない! 満智子をフィール・ハンターズから救出すれば」
「お前が性欲のまま脳ミソ弄るんだろ?」
「しない!」
ボクは断言したけど、
「それでも未来は変わらない」
マイケルはいった。ボクが満智子を欲望のまま操るって確信してるみたいだ。すっごく、いらっとする。だって、本当は制御しきれる自信がないから。
「《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》のモンスター効果。このカードのリンク召喚に成功した場合、俺の墓地もしくはゲームから除外されている中からレベル3以下の機械族を守備表示で特殊召喚する。俺は《スクラップ・リサイクラー》を蘇生する。そして《スクラップ・リサイクラー》の効果で《マシンナーズ・フォートレス》を墓地に送るぜ」
「マシンナーズ? なんでマイケルがそんなカードを」
ボクは言いかけ、ハッとなった。元々マイケルはパインとタッグを組んでる人だ。タッグデュエル用にパートナーのカードをデッキに入れてもおかしくはない。
そう、マシンナーズはパインが使ってるカードだったんだ。
「そして、《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》の攻撃力はリンク先のモンスターの数×300アップする。《スクラップ・リサイクラー》はリンク先に特殊召喚した。これで効果は適用だ」
やっぱり。何か攻撃力を補強する効果を持ってるとは思っていたよ。これでアキュート・ケルベロスが《ナーゲルの守護天》込みで攻撃してもギリギリ届かない。
《
「さらに、俺はスキル《粉砕》を使う」
「えっ」
《粉砕》だって!?
「ここが使い時だ。《粉砕》の効果により、俺のレベル5以上のモンスターの攻撃力は、ターン終了時まで俺の場のレベル5以上のモンスター1体につき300アップする」
いま、マイケルのレベル5以上のモンスターはSモンスター2体。
《スクラップ・ドラゴン》 攻撃力2800→3000→3600
《スクラップ・ツイン・ドラゴン》 攻撃力3000→3200→3800
モンスターの攻撃力が一気に跳ね上がった所で、
「カードをセット、バトルだ。《スクラップ・ドラゴン》でティンダングルトークンを戦闘破壊」
使い捨ての壁を倒すには豪華すぎる攻撃力で、ボクのトークンは粉砕される。
「続けて《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》で直接攻撃だ」
二本の刀のうち、西洋刀でボクを狙うスクラップ・スチュワート。ここでボクは、
「墓地の《ティンダングル・ドロネー》を除外して効果を発動。墓地から3種類のティンダングルモンスターを1体ずつ裏側守備表示で特殊召喚する。ボクが特殊召喚するのは《ティンダングル・イントルーダー》《ティンダングル・ジレルス》《ティンダングル・ベース・ガードナー》の3体」
この効果によって、ボクの場は一気に裏側表示のティンダングルモンスターで埋まる。だけど、ここで。
「だと思ったぜ。だが《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》のリンク先にモンスターが増えたことで、スクラップ・スチュワートの攻撃力はさらに300アップだ」
「あっ」
そうじゃないか。《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》のリンクマーカーは上・左下・右下に向いている。だから、上に向いたリンクマーカーはボクのフィールド。いま《ティンダングル・ベース・ガードナー》が特殊召喚された場所に向いていたのだ。
《
「改めて《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》でセット状態の《ティンダングル・イントルーダー》に攻撃だ!」
スクラップ・スチュワートは同じく西洋刀を用いて、裏側表示のカードのビジョンを串刺し。剣を引き抜くと中から貫かれた状態のイントルーダーが姿を現す。
「《ティンダングル・イントルーダー》がリバースしたことで効果発動。デッキからティンダングルカードを1枚手札に加える。ボクは」
カードを宣言しようとした所で、
『フェンリルさん』
通信先から木更ちゃんが話しかけてきた。
『たぶん、このターンの間にフェンリルさんのライフが0になることはありません。ここは次のターンに備えたカードを補充しましょう』
そういえば、さっきボクのデュエルをサポートしてくれるって言ってたっけ。
分かったよ。心の中でボクはうなずく。
『サーチするカードはジレルスです。ジレルス自身の効果でサーチすることができない以上、あのカードをサーチするチャンスはここだけです』
分かった。
「ボクはデッキから2枚目の《ティンダングル・ジレルス》を手札に」
「ならここで《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》の効果を発動だ」
マイケルがいった。その言葉にボクが身構えてると、
『大丈夫です。たとえスクラップ・スチュワートが貫通の2回攻撃だったとしても、いまのフェンリルさんの場ならライフが残るはずですから』
と、木更ちゃん。
マイケルがいった。
「《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》はダメージステップ終了時に、自身のリンク先のモンスター1体を破壊することで、もう1度だけ攻撃することができる」
良かった。木更ちゃんの推測より易しい“ただの”2回攻撃だ。貫通効果は持っていない。
そう、ボクそして木更ちゃんもたぶん安心してた所、
「俺が破壊するのは裏側守備表示の《ティンダングル・ベース・ガードナー》だ」
と、マイケルはいったんだ。
「待って。ベースガードナーはボクのモンスターだよ。どうして破壊できるの?」
「スクラップ・スチュワートが2度目の攻撃をするに必要な破壊は、このカードのリンク先のモンスター1体だ。リンク先の
『そんな!』
通信先から木更ちゃんも驚く声が。これは間違いなく木更ちゃんの想定外の事態が起こった。
「リンク先のボクのモンスターをここまで利用するなんて」
『ごめんなさい。すぐに再計算を行います』
と、木更ちゃんはいうも、そんな暇も与えられず、
「悪いな。続けてスクラップ・スチュワートで《ティンダングル・ジレルス》を攻撃だ」
《ティンダングル・ベース・ガードナー》が破壊され、その爆炎の中からスクラップ・スチュワートが飛び出し、今度は日本刀でカードのビジョンを袈裟斬りにする。
カードが2つに割れると、中から《ティンダングル・ジレルス》が現れ、破壊される。
「《ティンダングル・ジレルス》の効果。このカードがリバースした事で、デッキからジレルス以外のリバースモンスターを手札に加えるか墓地に送る。ボクはアポスト―ー」
言いかけたところで、
『ハウンドです!』
木更ちゃんがいった。
『フェンリルさん。《ティンダングル・ハウンド》を手札に加えてください』
え? でも、ハウンドだとこのターンを凌ぐ手段には。
『問題ありません。フェンリルさんのライフは問題なく200残ります。代わりに、次に来ると思われる《スクラップ・ツイン・ドラゴン》の攻撃を、フィールの防壁を全開にして防いでください。代わりに次のドローにフィールを使う必要はありません』
木更ちゃんは大胆な作戦をいってきたのだ。それってつまり、ハウンドを手札に加えてしまえば、次のドローは何を引いてもいいってこと。
信じていいんだね、木更ちゃん。
「ボクは《ティンダングル・ハウンド》を手札に加える」
言って、ボクは《ティンダングル・アポストル》をやめて代わりに《ティンダングル・ハウンド》をサーチ。これで一応、手札は3枚。
「だが、これで直接攻撃が可能になった。《スクラップ・ツイン・ドラゴン》でフェンリルに直接攻撃!」
マイケルが攻撃を宣言すると、スクラップ・ツインの片方の口からビームブレスが放たれる。それも木更ちゃんが読んだ通りフィールでリアル化した状態で。
だけど、ボクは前もって防壁を準備していたおかげで余裕をもって攻撃を防ぐ。しかし、直後もう片方の口から同じくビームブレスが放たれたのだ。
満智子に向かって。
『あ』
これも、木更ちゃんの想定外の事態だったみたい。だけど、
「満智子ッ!!」
ボクはすぐに腕の毛穴から触手を出し、襟の鋭角を通して満智子の壊れたデュエルディスクに出現させる。
「ぇ」
満智子が驚く中、ボクは満智子を護るバリケードとして、触手を満智子の前方に全力で展開。
結果、ボクの防御が手薄になったけど、なんとか防壁を突破される寸前で攻撃は終了。同時に触手を出していたほうのボクの腕は限界を超え、だらんと垂れさがった。
フェンリル LP4000→200
そして、《スクラップ・ツイン・ドラゴン》の攻撃によりボクのライフは、木更ちゃんの想定通り200まで低下する。
「防がれた、だと」
驚くマイケル。
「嘘だろ、おい。俺はこいつの攻撃にかなりフィールを注いでやったんだ。必ずぶっ殺してやる為にライフを削りきれないと分かっていながら《粉砕》まで使ったんだぞ? お前のフィール量じゃ事前に分かっていても」
「事前に分かってたんだよ」
ボクはいったけど、
「いや。事前に分かっていても防ぎきれないフィール量をぶち込んだんだ。俺は」
と、いったのだ。直後、ボクは思い出す。
「《ティンダングル・ドール》」
「あっ」
ボクの呟きに、マイケルも目を見開き驚く。
《ティンダングル・ドール》を手に入れたおかげで、ボクのフィール量はマイケルの想定より高くなってたんだ。しかも、このカードは間違いなく満智子のおかげで手に入ったもの。
ボクは妹に助けられたんだ。
「畜生、ターンエンドだ」
マイケルはいった。
フェンリル
LP200
手札3
[][][]
[][《セットモンスター(《ティンダングル・ミスト》)》][《セットモンスター(《ティンダングル・イントルーダー》)》]
[《
[《スクラップ・ツイン・ドラゴン》][《スクラップ・グライダー(守備)》][《スクラップ・ドラゴン》]
[《補給部隊》][《伏せカード》][]
[《スクラップ・ファクトリー》]
マイケル
LP1400
手札0
『フェンリルさん、大丈夫ですか? いえ、返事はしなくて大丈夫です』
木更ちゃんがいった。
『勝利の方程式は解析済です。これから私のいうようにデュエルを行ってください』
わかった。ボクは心の中でうなずく。
『まずは通常のドローを行ってください。引いたカードは確認しなくても構いません』
「ボクのターン、ドロー」
使い物にならなくなった腕の代わりに、もう片方の腕から出した触手を伸ばしてデッキトップのカードを引き抜く。
ここで、
「墓地の《スクラップ・ハルバード》のモンスター効果。相手ターンの間俺のスクラップモンスターの攻守は400ポイントアップする」
マイケルはいい、
《スクラップ・ドラゴン》 攻撃力3000→3400
《スクラップ・ツイン・ドラゴン》 攻撃力3200→3600
《
相手のスクラップモンスターの攻撃力が底上げされる。だけど、
『大丈夫です。このカードの効果も把握した上で策はできています』
木更ちゃんはいった。
『まず、手札の《ティンダングル・エンジェル》を捨てて《ナーゲルの守護天》をサーチ。そのまま発動してください』
《ティンダングル・エンジェル》はボクの最初のターンに手札に加えたカード。実質必要ないといわれたのがちょっと寂しいけど、
「墓地の《ナーゲルの守護天》を除外し、手札の《ティンダングル・エンジェル》を捨てる。デッキから新たな《ナーゲルの守護天》を手札に加えそのまま発動するよ」
ボクがカードを発動すると、木更ちゃんは続けて、
『先ほどドローしたカードと、適当なカードを墓地に送って手札の《ティンダングル・ジレルス》を特殊召喚してください』
「ボクは、《ジェルゴンヌの終焉》とデッキの《ティンダングル・アポストル》を墓地に送り、手札の《ティンダングル・ジレルス》を手札から裏側守備表示で特殊召喚」
『さらに墓地の《ティンダングル・イントルーダー》を特殊召喚してください』
「墓地の《ティンダングル・イントルーダー》を裏側守備表示で特殊召喚」
片手の代わりに触手を駆使してプレイングを続け、ボクの場にはこれで裏側守備表示のモンスターが2体。
『ここからが重要です』
木更ちゃんがいった。
『セット状態の2体をリリースして《ティンダングル・ハウンド》をアドバンス召喚してください。ただし、召喚する先は《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》のリンク先です』
えっ? ボクはどうして、わざわざスクラップ・スチュワートを強化するようなことをするのか分からなかったけど、
「ボクは2体のセットモンスターをリリース。スクラップ・スチュワートのリンク先に《ティンダングル・ハウンド》をアドバンス召喚!」
直後、
「なっ」
マイケルは途端驚き、
「だからハウンドに変えたのか。やりやがったな、フェンリル!」
と、憤慨したんだ。その意味が、実際にプレイしたボクだけが分からずにいると、
『《ティンダングル・ハウンド》第2のモンスター効果です。確認してみてください、フェンリルさん』
と、木更ちゃんに言われてボクは改めて自分のモンスターのカードテキストを確認。
ティンダングル・ハウンド
リバース・効果モンスター
星7/闇属性/悪魔族/攻2500/守 0
(1):このカードがリバースした場合、このカード以外のフィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。このカードの攻撃力は対象のモンスターの元々の攻撃力分アップする。その後、対象モンスターを裏側守備表示にする。
(2):相手フィールドのモンスターの攻撃力は、そのモンスターとリンク状態になっているモンスターの数×1000ダウンする。
(3):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、フィールドの裏側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを表側守備表示にする。
結果、やっとその意味をボクは理解した。
ボクの場に《ティンダングル・ハウンド》がいる事で、《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》はリンク先のモンスターの数×1000攻撃力が下がる。という事は《ティンダングル・ハウンド》自身がリンク先に召喚されたことで、スクラップ・スチュワートの攻撃力が下がるのだ。
例え、スクラップ・スチュワートが効果で攻撃力を上げたとしても、
《
こうなってしまうのである。
「高村司令だな? リンクモンスターの特性を利用したプレイングを咄嗟に考えやがったのは。そうか、途中プレイングが誰かに指示されてたみたいになってたのは、バックにトップがいやがったからか」
マイケルはいうけど、
「ううん」
ボクは否定し、
「通信でボクに指示してた人がいるのは正解だよ。だけど、ボクの打開策を考えてくれたのは木更ちゃんだ!」
「何……だと……」
マイケルは驚き、
「あいつがこんなプレイングを考えやがったのか」
『皮肉にもマイケルさんがリンク先の相手のモンスターを利用したのがヒントになりました』
通信先で木更ちゃんはいった。
『彼のプレイングが、私にも敵のリンクマーカーを利用するという発想を教えてくれたんです。逆にそれがなければ、このターンでフェンリルさんに決めさせる手段は浮かばなかったかもしれません』
「木更ちゃんは、マイケルがボクのモンスターを利用する戦術をしたから、いまの戦術を思いついたって言ってるよ」
「くっ」
マイケルは、悔しそうに睨みつける。
さらにここで、地面に広がる紫の模様がぐにゃりと歪み、シャチを描いた模様に変わる。
「この模様はChacu Challhua!? 貴様なにをした」
マイケルが怒りながら訊ねると、
「たったいま、生贄先の地縛神を私の地縛神に変えたって話。デスデュエルの解除は別の問題が発生して止めれなかったけど」
と鳥乃さんはいったんだ。
『鳥乃先輩の地縛神なら、いまは無理でも後に復活の目はあります。研究所では現在も生贄になった被害者を復元する研究が行われてますから』
木更ちゃんはいって、
『終わらせましょうフェンリルさん。ハウンドでスクラップ・スチュワートに攻撃です』
「うん! 《ティンダングル・ハウンド》で《幽霊戦機-スクラップ・スチュワート》に攻撃」
ボクは、今回はしっかり木更ちゃんにうなずき、攻撃宣言を行う。
ここでマイケルは伏せカードを表向きにし、
「まだ終わらない。罠カード《炸裂装甲》を発動だ!」
だけど、ボクのモンスターは破壊されない。
「《ナーゲルの守護天》の効果。ボクのメインモンスターゾーンのモンスターは、相手の戦闘・効果では破壊されない。EXゾーンにいたアキュート・ケルベロスと違って、今回は有効だよっ」
ボクがいうと、
「しまっ」
最後の言葉が発せられる前に、《ティンダングル・ハウンド》はスクラップ・スチュワートを噛み砕き、
マイケル LP1400→0
マイケルのライフポイントが0になった。
スクラップ・スチュワートは爆発し、自らリアル化してしまったらしい衝撃にマイケルは吹っ飛ばされる。
「うわあああっ!」
叫びながらマイケルは地面に倒れ、彼の体が光の粒子へと分解されていく。
直後、ボクたちの下で光る紫の模様がマイケルの足元に集まっていき、彼の体が消滅する寸前、
「俺は、一体何を」
マイケルは言いながら地縛神に取り込まれて消えたのだった。
「ねえ、さっきマイケル」
我に返ったみたいな反応してなかった? ボクはその場で立ちすくみながら、言おうとした所、
「緊急事態発生って話ね」
彼を取り込んだ結果何か分かったらしい。鳥乃さんは歯ぎしりでも立てそうな険しい顔で、
「総員報告するわ。事務所も現場もみんな聞いて頂戴。結論から言うとマイケルはハングドを裏切ってなんかなかったわ」
『どういう事ですか、先輩』
木更ちゃんが訊ねる中、
「マイケルはロストと闇のフィール・カードの併用で即席のデュエル兵士にされていたのよ。たぶん、ロストによる人格の変貌と、フィール・ハンターズが接触した瞬間スイッチが入るように洗脳されたと思うんだけど、心当たりは?」
『あるわ。メッチャクチャあるわ』
通信先で高村司令が返事した。
思えば、パイン曰く今日のマイケルは様子がおかしいといっていた。そして、ハーゲンが接触した際、一度マイケルは頭を抱えて苦しんでいた。あの瞬間、マイケルは自分をフィール・ハンターズと思い込むように変えられたんだ。
行方不明の原因はフィール・ハンターズに誘拐された為で、ずっと自宅にいたと思い込むように記憶処理を施され、自覚のないスパイとして解放されたんだろう。
ボクやガルムが
「沙樹」
鈴音さんがいった。
「本日23:00までに、中途までのデスデュエル解析結果をハングドと研究施設に送ってくださいませ。以後、次にあなたがこの件に関わっていいのは来週月曜17:00からになりますわ」
「いや、それはいいけど。さすがに状況的にどうなの? 明らかにヤバい事起きてるって話だけど」
鳥乃さんがいった所、
「だからこそですわ。恐らくこの先、地縛神を持つあなたの力が必要不可欠になりますわ。ですので、沙樹は予定通り梓さんと週末の温泉旅行で羽を伸ばし英気を養って貰います。そして、何がなんでも来週月曜17:00に万全の状態で戦線復帰を要求しますわ」
なんて、鈴音さんはいった。
元々いま鳥乃さんはダメージが蓄積しすぎている。木更ちゃんがダウンしてたのも勿論だけど、本を正せばボクも原因に一枚噛んじゃった増田さんの死から、鳥乃さんの不安定は始まったらしい。
「了解」
鳥乃さんはいった。
気づくと、残りのフィール・ハンターズも全員撤退していた。敵の増援や奇襲の気配も見当たらない。どうやら、今回はこれで一息ついたらしい。
「満智子」
ボクは、改めて妹に近づいて、
「大丈夫? もう怖くないから。怪我はない?」
しかし、満智子はボクが接近するとじっとこちらを睨んできて、
「また、私の脳に触手入れたいって言った」
「え?」
「怖いのよ、いまの時子! 絶対しない絶対しない言って、本当は酷い事したいの丸分かりなのよ!」
「それは……」
否定できない。嘘でも否定しないといけないはずなのに。……ボク、やっぱりヤりたいよ。
だけど、ボクが押し黙ってると、
「でも、時子さっき助けてくれた」
ぶっきらぼうに満智子はいったんだ。
「だから今回はノーカンにしてあげる。感謝しなさいよ」
「満智子!」
ボクは嬉しさにぶわっと泣きそうになった。
「時子、聞いて!」
だけど涙が本当に出る前に、満智子は叫ぶ。
「いま、フィール・ハンターズは時子を“デュエル兵士”フェンリルとして危険視してるのよ。今回は私の回収を最優先にしてたみたいけど、あいつらは組織に引き戻すか、できないなら殺して処分まで考えてるわ」
「デュエル兵士として?」
ボクが呟いた所、
「フェンリルがハングドにいる。それだけでデュエル兵士の最新技術が全部解析できてしまうからよ」
満智子はいった。
「私たちデュエル兵士と時子に使われてる技術は基本的には全く変わらないわ。デスデュエルっていったアレの技術だって時子には搭載されてるし、何ならさっきのシャチの地縛神から作った闇のフィール・カードがあれば、今すぐにでも仕掛けられる。私はそれをハングドと時子に伝え、時子を護る道具になるために来たのよ」
「ボクを護るための、道具?」
すると満智子はふんって突き放すような態度で、
「別に、他に希望があるなら、どんな道具でも構わないけど」
「すみません、それアウトです」
突然、木更ちゃんが鋭角のゲートを通ってやってきた。
「誰?」
驚く満智子に、
「初めまして、木更といいます。先ほどからフェンリルさんが脳姦したがってるもうひとりのターゲットです。それよりも」
木更ちゃんがいともたやすく身も蓋も無い自己紹介を済ませ、
「幾つか訊ねますけど、まず満智子ちゃんは自分のことを道具と認識してるのですよね?」
「そうよ」
肯定する満智子。木更ちゃんは続けて、
「そして、フィール・ハンターズはあなたを自我のない道具として使おうとしてるのですよね?」
「そうだけど?」
「そこが原因なんですよ。フェンリルさんが、あなたに脳姦や洗脳をしたいと思ってしまったのは」
「え?」
驚く満智子。
「どういうこと?」
「失礼ですけど、記憶を失う前の自分を慕ってた子が私を道具にしてって接触してきて、断ったら他所に洗脳されに行くって。いまのフェンリルさんからすれば、まるでロリコンの下に小さな女の子が誘ってきて、断ったら別のロリコンの女になるっていわれたのと大差ない気がするんです。フェンリルさんの性癖、その位拗らせてますから」
「……」
ボクは衝撃に表情を失った。
ボク自身気づいてない満智子への劣情の正体を看破され、その上可能な限り的確かつ酷い例えで自覚させられたんだから。
ああ、そっか。
ボクは、道具と聞いて木更ちゃんの代わりに性癖の捌け口になってくれる子が舞い込んだと思って、自らフィール・ハンターズに洗脳されに行く満智子を、逃した魚に見てたんだ。
なんだよこれ。こんな目で満智子を見ておいて、ボクはお姉ちゃんだなんて言う資格ないよね?
「鬱だ。死のう」
ボクは自ら触手を自分の耳に突き刺そうとしたけど、自害の寸前で満智子が触手を掴み全力で制止。
「ちょっと、何やってるのよ時子!」
「離して満智子。せめて妹を護るために姉の務めを果たさせて、満智子の害はいまここにいるんだ!」
「訳わからないわよ。私なんて、たかが道具でしょ!」
「やめて! たかが道具とか言ったら本当に満智子の脳弄りたくなるから!」
で、ボクは勢いのまま言っちゃったんだ。
「まず満智子の脳に触手で洗脳カッコ物理して、『フェンリルお姉ちゃんだいしゅき』ってハートマークたっぷりに言わせるんだ。それから二度とボクを嫌いにならないよう深層の奥までボクを慕う心を植え付けて、ついでに脳くちゅくちゅしてアヘ顔を見せて貰うよ。監禁も素敵だよね? 満智子に首輪をつけてボクのベッドに鎖で繋げるんだ。そして任務で疲れてただいまーって部屋に戻ったボクに、ひとり放置されて寂しかった満智子が目を輝かせて抱き着いてくるんだ。最高だね! これが木更ちゃんだったら、性的にも恋愛的にも大好きだから再び脳を弄ってボクだけの娼婦になって貰ったり、新婚甘々の夫婦ならぬ婦婦になって貰ったりするけど、満智子に求めるのは妹と癒しだ! 満智子は満智子のまま、一緒にお風呂に入って、ご飯食べて、一緒のベッドで抱き合って健全に眠るんだ。拒否はさせないよ? だって、その時の満智子はボクを慕いすぎて、ボクしか見えてないし考えられないはずだもん」
「……」
「……」
「……」
「……」
今度は、ボク以外のみんなが言葉を失い、表情を失った。程なくして、満智子以外の全員が寒気を覚え全身ガタガタと震えだす。鳥乃さんでさえも。
「あれ?」
どうして、みんな怯えてるんだろう? ボクはいま、なにを口走ったんだっけ。
…………。
あ、人生詰んだ。
気づくと、満智子の手はショックからか触手から離れてるし、ボクは今度こそ自分の脳みそをシェイクして自害しようと思った。
そこへ。
「と、時子お姉ちゃん? 大好き」
満智子がいったんだ。さらに、すごく恥ずかしそうに、照れてそっぽを向きながら、
「これでいいの?」
って。
「…………」
ボクの意識は天に昇った。そこから先は覚えていない。
次回になるか分かりませんが、本編と平行して不定期に外伝を連載する可能性が発生しましたので、近いうちに各話を章分けしようと思います。
時系列的にはMISSION24~MISSION25になりつつも、連載中の漫画が別雑誌に読み切り掲載された時のような若干の設定の差異が発生する可能性があります。ただし、現時点では3話ほどで終わる予定のうえ、本編を読まれてる方を対象にした内容のため、新規にページを用意せず「遊☆戯☆王THE HANGS」内で掲載いたします。
●今回のオリカ
スクラップ・グライダー
チューナー・効果モンスター
星1/地属性/機械族/攻 800/守 300
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドの「スクラップ」モンスターが「スクラップ」カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカードを手札から特殊召喚できる。
その後、このカードのレベルを、破壊された「スクラップ」モンスターのレベルと同じにできる。
(2):このカードが「スクラップ」カードの効果で破壊され墓地へ送られた場合、
「スクラップ・グライダー」以外の自分の墓地の「スクラップ」モンスター1体を対象として発動できる。
そのモンスターを手札に加える。
ティンダングル・ドール
リンク・効果モンスター
リンク1/闇属性/悪魔族/攻1300
【リンクマーカー:下】
裏側守備表示モンスターもしくは「ティンダングル」モンスター1体
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
このカードのリンク先のモンスター1体の表示形式を変更する。
(2):このカードのリンク先に「ティンダングル」モンスターが存在する限り、
相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。
スクラップ・ハルバード
ユニオン・効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1800/守1600
(1):1ターンに1度、以下の効果から1つを選択して発動できる。
●自分フィールドの「スクラップ」モンスター1体を対象とし、このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。
装備モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊する。
●装備されているこのカードを特殊召喚する。
(2):装備モンスターの攻撃力は1000アップする。
(3):このカードが墓地に存在する限り、
相手ターンの間、自分フィールドの「スクラップ」モンスターの攻撃力・守備力は400アップする。
リンク・効果モンスター
リンク3/闇属性/機械族/攻2000
【リンクマーカー:上/左下/右下】
S・リンクモンスターのいずれかをを含むモンスター2体以上
(1):このカードの攻撃力は、このカードのリンク先のモンスターの数×300アップする。
(2):このカードのリンク召喚に成功した場合、自分の墓地のモンスター及び除外されている自分のモンスターの中から、
レベル3以下の機械族モンスター1体を選んで守備表示で特殊召喚する。
自分は、この効果で特殊召喚したモンスターとこのカードのみを素材にリンク召喚できない。
(3):このカードが攻撃を行ったダメージステップ終了時、
相手フィールド上にモンスターが存在する場合、このカードのリンク先のモンスター1体を破壊できる。
破壊した場合、このカードはもう1度だけ続けて相手モンスターに攻撃できる。
(幽霊@ガイスト+駆逐艦@デストロイヤー=ガイストロイヤー。+駆逐艦スチュワート)