遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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MISSION28-輝きと陰り(後編)

 

 

 ――現在時刻、午後20:30。

 1時間のライブが終わり、着替えのため再び控室から追い出され名目上の室外警備を就いて20分。

「やあ鳥乃。他の観客はもう皆帰ったみたいだよ。あとは私だけだ」

 と、一般用の階段を登って現れたアインスに、

「サンキュ。……らしいよ」

 私は感謝を告げつつ控室にも報告。

「分かりました。入ってください」

 控室から社長の言葉。私とアインスは揃って控室に入った。

「お疲れ様。鳥乃さん、アインスさん」

 スポーツドリンクを飲みながら苺ちゃんはいった。BARなばなで再会したときの服装だった。

「見事でしたよお二方。名小屋にこれだけの実力派アイドルがふたりもいるなら、地元の未来は明るいね」

 アインスはいうと、続けてきょとんとする宇佐美さんに気づき、

「ああ。失礼、私は陽光学園高等部3年のアインス・ハイといいます。今日はサミサミのライブを見に来た所、友人で同業者の鳥乃に協力を頼まれて、客席から警備してたんだ」

「そうだったのですか。ごめんなさい」

 宇佐美さんがぺこりと謝ると、

「よしてください。こうして生の君と会話する機会を貰えたんだ。むしろ幸運に恵まれたと私は思ってるよ」

「そんな、私なんて」

 と、謙遜する宇佐美さん。すると直後苺ちゃんが、

「あれだけ大成功収めておいて、私なんてはないでしょ」

「でも、あれは苺ちゃんがゲストに来てくれたから」

「私だけであれだけ盛り上がらないわよ」

 なんて、宇佐美さんを立てる。さらに「あ、そうだった」と苺ちゃんは机のスポーツドリンクふたつを指し、

「お二人も疲れたでしょ。そこのドリンクあなたたちの分だから」

「え、いいの?」

 私が訊ね返すと、

「ここにはドリンクひとつも支給しない傲慢はひとりもいないわ」

 って、苺ちゃん。

「どうぞお受け取りください」

 と、社長がいうので。

「なら」

 私たちは素直にドリンクを受け取る。

「今日は、色々とありがとうございました」

 宇佐美さんがいった。改めてみると、彼女の普段着はラフながらキュートなデザインの服を着ており、これぞプライベートのサミサミといった感じだった。

 続けて社長がいった。

「今日は、サミサミはこのまま控室で一晩過ごしますので、私たちはこれから場所を移して反省会を行います。アインスさんは如何なさいますか?」

「悪いですが。今日は外までお見送りしてから失礼させて頂きます。家にもライブが終わったら帰ると伝えてありますので」

「分かりました」

 と、いった所で、

「ん? ちょっと待って?」

 私はいった。

「サミサミの護衛はしなくていいの? 私なら朝まで就けるけど」

 すると社長は、

「あなたを一人で彼女の下につけるほうが危険です」

「え、そんなわけ」

「ある」

 苺ちゃんが断言。

 何故だろうか、苺ちゃんが言い切ると逆らえない空気がこの場にはあり、

「残念」

 と、私は言わされてしまった。

 なので、こっそり部屋に盗聴器を設置してから私は、

「なら諦めて、今日は退散とするわ」

「ごめんなさい」

 と、宇佐美さんは苦みの入った社交笑みでいった。口裏に「もう来ないで」と拒絶されたように見えたが、たぶん気のせいだろう。

「問題ないわ。じゃ、おやすみなさい」

 私たちは挨拶をして、控室を出た。

 すでに館内の一部は消灯時間に入ったらしく、職員用通路に至っては寝室の豆電球くらいの明るさしかない。

 いまなら一般用のエレベーターを使っても良いんじゃないかと思ったが、一部階層ではまだ部屋が使われてるらしいので、素直に薄暗い職員用の階段で降りることにした。

「苺ちゃん、足元暗いから気を付けて」

 社長が苺ちゃんの隣についていった。それを見たアインスが、

「鳥乃も、大丈夫かい?」

 と、手を差し出してきたので、

「私は夜目が利くから平気」

 って、出された手を払った。アインスがウザかったのも勿論だけど、実際半機人である私の目は多少なら暗視が利く。暗視ゴーグルがあるなら、それに越したことはないけど。

「つれないな」

 アインスはいって、今度は苺ちゃんに手を差し出すも、

「私もいいわ」

「そうかい? なら社長さん」

「いえ、私も」

「ははは、みんな恥ずかしがりやですね」

 ちょっと残念そうに、アインスはやれやれとポーズを取った。

 直後、私は不意に、

「あ」

 と、声を漏らす。

「え、なに?」

「いや何でもないわ」

 私は苺ちゃんに誤魔化してから、

「アインス?」

「何だい?」

「サミサミが部屋を出た」

 小声で私はいった。

 お手洗いだろうか? それならいいのだけど、もしこの後控室以外で誰かと接触するとしたら危険だ。極力真面目に、アインスにふたりを任せ、いますぐ宇佐美さんの無事を確認しに行きたい所。

 私は、一般フロアに戻れる4階の職員用通路出入り口に辿り着いた所で、

「ごめん、ちょっとお花を摘みに」

 と、一言断ろうとした所、

「待ちなさい」

 社長がいった。

「そういって、サミサミの下に行くつもりでしょう?」

「ま、まさかそんな事は」

「ダウト」

 そして苺ちゃんの宣告。

「ちょっと待って、騙して行こうとしたのは正解だけど今回は真面目に」

「どう真面目なのよ。行くわよ皆さん」

 と、社長が階段を降りようとする。その時だった。

「きゃっ」

 社長が、足を踏み外したのだ。

 いや、ただ転んだわけではない。何かに足を掬い上げられたように、不自然に宙を舞ったのだ。

 しかも階段の上から一段目で跳ばされたせいで、このままだと社長は踊り場の床に落ちるのではなく、その上の窓ガラスを突き破り4階から転落する可能性があった。

 私は即座に、片腕をもう片方の手で隠しながらワイヤーを射出。社長の腰に巻き付かせて引き寄せる。

「大丈夫、社長?」

 私は社長を抱きかかえる形でキャッチし、いった。

「え、ええ」

 社長は茫然としながら何とかうなずき、

「私も歳かしら? ありがとう、助かったわ」

 いや、違う。

 社長の転び方は明らかに普通じゃなかった。あんな高く弧を描いた軌道は、スポーツ選手でもなければトランポリン辺りを使わないと不可能。何より階段の一番上から、踊り場の窓に向かってジャンプするような行為は転倒とはいわない。これは、社長を狙った明確な殺人未遂。

「そうね。気を付けて頂戴」

 とはいえ、これを社長に伝え余計な心配をかけるわけにもいかない。

「みんなも薄暗いから、足元気を付けて歩きましょ」

 と、私がいった所、苺ちゃんが5階側の踊り場を見上げてるのが分かった。つまり、社長が落下したのとは逆の方角。

「苺ちゃん?」

 訊ねた所、

「付いてきて! 鳥乃」

 突然、苺ちゃんは元来た道を駆けだしたのだ。しかも、さりげに呼び捨て。

(え?)

 と、私は一瞬なるもすぐ、

「アインス。社長をお願い」

 言われるまま、苺ちゃんを追いかけた。

「何があったの?」

 苺ちゃんに追いつき、横について並走しながら改めて訊ねると、

「宇佐美がいた」

「え?」

「宇佐美がいたのよ、さっき上の踊り場に。そのうえデュエルディスクを装備して何かカードを発動してるように見えたわ」

「それって」

 まさかフィール・カード?

 つまり、社長を殺そうとしたのは宇佐美さん? 嘘?

「話は後よ、それよりも宇佐美を捕まえないと」

 しかし、苺ちゃんに言われてしまい、これ以上情報を聞き出すことはできなかった。

 職員用通路を抜け、苺ちゃんは控室の前に立ち、戸を数回叩く。

「宇佐美! 苺よ、ちょっと開けて!」

 その間、私は手掛かりを求め辺りに視線を張り巡らせながら、

「宇佐美さんはいないわ。護衛のため部屋に盗聴器を設置したんだけど、私たちが部屋を出て程なくしてあの子も部屋を出たのよ。で、まだあの子は戻ってないって話」

「盗聴器って」

 そこへ、

「ひぁっ」

 と、宇佐美さんの声が聞こえた。

「いまの声。あっちのほうから聞こえたわ」

 方角を指さし、苺ちゃんに伝えると、

「エレベーターのほうよ」

 と、苺ちゃんの案内で向かった先に、宇佐美さんはいた。

 尻もちをつき、痛そうに額を撫で、その間にエレベーターが閉じると、

「ああっ」

 涙目でドアにすがりつくも、エレベーターは下の階へと動きだす。

 これはつまり。

「私たちから逃げようとエレベーターに乗ろうとしたけど、開き切る前に駆け込んだせいでドアと衝突。尻もちをついて痛がってる間にエレベーターは他の階に行っちゃった。って所ね」

 と、苺ちゃんがいった。

「うわ」

 まさしく宇佐美さんだ。

「宇佐美!」

 苺ちゃんが呼んだ。宇佐美さんは一度びくっと驚きながら、恐る恐るこちらを向いて、

「苺ちゃん。鳥乃さん」

「宇佐美さん、社長を殺そうとしたのはあなた?」

 私は、まっすぐ彼女に向かって訊ねる。

「だって、だって」

 宇佐美さんは、涙声になりながらいった。

「私が悪いのは分かってるよ。私が口を滑らせたから、皆が私を引退させようとしてるって。でも、だからって、社長まで私を干そうとしなくてもいいでしょ!」

「社長がサミサミを?」

 初めて聞いた話に、私はちらっと横目で苺ちゃんに伺う。

 苺ちゃんは、首を小さく振って応え、

「そんなの初耳なんだけど。社長が宇佐美に何をしたのよ」

「だって、突然薬物検査をしなさいって。風邪薬を飲んだ翌日に」

 確かにドーピング検査なら風邪薬だって引っかかる。しかし、普通の薬物検査なら風邪薬が違法ドラッグとして検出させる可能性はほぼないはず。混同したのだろうか。

「いま噂になってるから。だから、風邪薬を利用して薬物反応が出たって言おうとしたんでしょ? 違うの?」

「風邪のことは、社長知ってたの?」

「分からない。でも、狙ってああいう事をしたんだから絶対」

 必死に嘆きを伝える宇佐美さん。相当疑心暗鬼に陥ってる様子だ。

「なら知るわけないじゃない。私だって宇佐美が風邪ひいてたなんて知らなかった位だもの。社長が知るはずないでしょ、偶然よ」

「でも、でも」

「むしろ社長は宇佐美の潔白を証明したいから検査を勧めたのよ。宇佐美、その時あなた社長を刺したでしょ。幾ら社長でも、あなたが大事じゃなかったらその場で解雇よ。傷をマスコミに公表すれば薬物反応を待たずに逮捕にだって持ち込めるわ」

「でも、でも」

「“でも”はもう十分よ!」

 苺ちゃんは、強めの口調でいった。

 そして、一転優しい声で、

「宇佐美。私も社長もあなたの味方よ。悪いようにはしないから、私たちを信じて」

「苺ちゃん」

 宇佐美さんは、一回すがりつくように苺ちゃんを見るも、すぐ首を振って、

「だけど、社長は干されそうな私を助けてくれないじゃない」

 と、いって、

「あのね。この前、緒方ミリタリーって会社の人が今度芸能プロダクションを開くって私を誘ってくれたの。社長を事故に見せかけて殺せば、緒方プロに移籍できて、いまの干されそうな流れも全部何とかしてくれるって」

「は? アンタそれで社長を?」

 苺ちゃん。いまの“アンタ”って呼び方すっごく高村司令っぽい。

 宇佐美さんは目を輝かせて、

「苺ちゃん。私たち友達だよね? 一緒に移籍しよ?」

 そんな言葉を聞かされた苺ちゃんは、

「そうね。私たちは友達よ、宇佐美」

「うん、だから」

「だからこそ断るに決まってるじゃない!」

 激昂した様子で言った。

「え?」

 まるでこの世の終わりみたいな顔をする宇佐美さんに、苺ちゃんは、

「アンタね、自分が何言ってるのか自覚ある? 人殺そうと言ってるのよ? 殺人よ? アンタ自分の手を血に染めながらファンの前に立つつもり? ほら、その甘ったれた根性修正してあげるからいらっしゃい」

「苺ちゃん、どうして」

「道踏み外してる子を叱らないで何が友達よ。私はあなたのイエスマンになる気はないわ」

 すると、

「もう、いい」

 宇佐美さんはいった。直後、彼女の体を黒い瘴気が包み込む。これって!?

「分かってくれないなら、苺ちゃんも友達じゃない。社長と同じ、私に酷いことする敵です」

 見る見る内に、死者のように青白い肌へと姿を変える宇佐美さん。って、そっちできたって話!?

「な、なによ。これ」

 普通ありえない変貌に驚く苺ちゃん。

「闇のフィール・カードの力よ」

 私はいった。

「フィール・ハンターズが作った特別なカードでね、所有者の心の闇を増大させて支配しちゃうって話」

「心の闇って、デュエルモンスターズのアニメで定番の?」

 訊ねる苺ちゃんに、私はうなずき、

「そ。最近クスリ使ってるんじゃってほど躁鬱が激しかったのも、あのカードが原因だったみたいね。いま宇佐美さんは正常な判断ができなくなるほどのネガティブやマイナスな感情に囚われてるわ」

 ただ、先ほどセクハラしたとき、私はこれの線も疑ってチェックしたつもりだった。

 しかし、あの時点では闇のフィール・カードの反応がひとつもなかったのだ。恐らくカードを護身具やフィール発生装置と認識してない関係で身に着けてなかったのだろう。

 カードからの反応なら、それだけで十分隠蔽できる。迂闊だった。

「助ける手段はないの?」

「一応、デュエルで闇のフィール・カードを少しでも倒しながら、被害者に想いを届かせればいいわ」

 だけど、苺ちゃんにそのデュエルをさせるのは危険だ。

「苺ちゃんは下がって。デュエルは私がするから」

「分かったわ。って言いたいんだけど」

 苺ちゃんが一歩前に出る。

(何してるの?)

 私は言いそうになったけど、みるとすでに苺ちゃんのD・パッド(ZEXALタイプのデュエルディスク)が勝手に起動してしまっている。

「何の原理か知らないけど、強引にデュエル仕掛けられたみたい」

 苺ちゃんはいった。

 って、え? 何の原理か知らないって、もしかして強制デュエルを知らない?

「どっちにしても、あの子に声を届かせなくちゃいけないなら友達の役目よね。いくわ、デュエルディスクセット!」

 苺ちゃんが、D・パッドごと着ていた上着を脱ぎ払う。すると、ステージの時より少し布面積の多いボンテージ衣装が顔を出し、D・パッドが宙を舞いつつ展開され、苺ちゃんの腕に装着されデュエルディスクとなる。

 さらに、かけていたサングラスを胸元のベルトにかけてから、

D・ゲイザー(ZEXALのモノクル型ゴーグル)、セット」

 と、D・パッドとセットになってるゴーグルを左目に装着。

『デュエル!』

 そしてふたりは同時に叫んだ。

 

 

LP4000

手札4

[][][]

[][][]

[]-[]

[][][]

[][][]

宇佐美

LP4000

手札4

 

 

「私の先攻」

 先攻は宇佐美さんに決まった。彼女の性格からして元々決闘者だったとは到底思えないけど。

「私は手札から永続魔法《ナイト・ゲート》を発動。このカードは、私が悪魔族のナイトモンスターを召喚した時、さらにデッキからレベルが+1以下の悪魔族のナイトモンスターを特殊召喚できるの」

 彼女の傍の床に、不気味な暗闇の渦が出現。

「私は手札から《ヒドゥン・ナイト-フック-》を召喚。さらに《ナイト・ゲート》の効果でデッキの《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》を守備表示で特殊召喚」

 宇佐美さんの場に、両手足に鉤をつけたモンスターが出現し、床の暗闇から別のヒドゥン・ナイトが出現。

「さらにカードを1枚セットしてターン終了」

 

LP4000

手札4

[][][]

[][][]

[]-[]

[][《ヒドゥン・ナイト-ダーク-(守備)》][《ヒドゥン・ナイト-フック-》]

[][《ナイト・ゲート》][《伏せカード》]

宇佐美

LP4000

手札1

 

「なら私のターンよ。ドロー」

 間髪入れず、苺ちゃんはターン開始を宣言し、カードを1枚引き抜く。直後、辺りは急に暗転した。

「喜びなさい。スーパーアイドル高村苺様が、あなたの為だけに最高のデュエルライブを見せてあげるわ」

 苺ちゃんがいうと、まずはその序幕とばかりに、光が辺りを細切れに切り裂き、暗闇を破りながら1体のモンスターが出現。

「私の場にモンスターがいない場合、このカードは特殊召喚できる。来なさい《フォトン・スラッシャー》!」

 それは、かつてミストランも使ったカードだった。

「続けて魔法カード《フォトン・サンクチュアリ》を発動。私の場に攻撃力2000守備力0のフォトントークン2体を守備表示で特殊召喚。続けて、開け! 私のステージ!」

 さらに、無数の光の粒が出現すると、苺ちゃんの周りで8つの銀河の渦に変わり、リンクマーカーの配列で並んでいく。

 辺りが薄暗いのも演出にマッチし、まるでプラネタリウムの中にいるようだ。

「召喚条件は光属性モンスター2体。私はフォトントークン2体をリンクマーカーにセット! リンク召喚。苺の御前よ、跪きなさい! リンク2《輝光子(きこうし)ガラティオス》」

 出てきたのは一本のSFチックな西洋剣。さらに、苺ちゃんが鞭で床を打つと、鞘が分解されて各部位のプロテクターに姿を変え、その内側で発生した光の粒子が肉体となり、西洋剣を握る人型のモンスターとして場に降臨した。

「《輝光子ガラティオス》はリンク召喚したターンに続けてリンク素材にできない。ガラティオスのモンスター効果! 1ターンに1度、このカードのリンク先に《フォトン・サンクチュアリ》のものと同じフォトントークンを1体守備表示で特殊召喚する」

 苺ちゃんの場に光の球体が出現し、

「まだまだいくわ。このカードは通常召喚できず、私の場にフォトンかギャラクシーモンスターがいる場合のみ、1ターンに1度手札から特殊召喚が可能。《フォトン・バニッシャー》」

 苺ちゃんはさらにモンスターを展開し、

「《フォトン・バニッシャー》の特殊召喚に成功した場合、私は《銀河眼の光子竜》を手札に加える」

 《銀河眼の光子竜》といったら、これもまたミストランが使っていたカード。やはり、苺ちゃんのデッキは一部ミストランとテーマを共有している。ミストランはギャラクシーとタキオン軸、苺ちゃんはフォトン軸か。

「そして、私のフェイバリットは攻撃力2000以上のモンスターを2体リリースすることで特殊召喚できる。私は《フォトン・バニッシャー》とフォトントークンをリリース」

 2体のモンスターが光の粒子に変わり、上空で混ざり合いひとつの巨大な紋章に姿を変える。

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我がステージを彩りなさい! 特殊召喚! 輝け、レベル8《銀河眼の光子竜》!」

 苺ちゃんの口上に併せて、紋章は渦巻き銀河を生み出しながら分解され、中から1体の竜が出現した。その攻撃力は3000。

 すると宇佐美さんは軽く怯え、

「あ、苺ちゃんのエースモンスターがこんなに早く」

 って言ったのだ。さっき苺ちゃん自身もフェイバリットと言ってたし、ミストランは《銀河眼の光子竜》をX素材兼サブアタッカーという形で運用してたけど、苺ちゃんはこのモンスターを主軸にしたデッキ構成のようだ。

「カードを2枚セット、そしてバトルよ。《銀河眼の光子竜》で《ヒドゥン・ナイト-フック-》に攻撃! 破滅のフォトン・ストリーム!」

 苺ちゃんが宣言すると、銀河眼はその口に光の粒子をため込む。

「で、でも。ヒドゥン・ナイトは負けな、ひゃっ!」

 攻撃の余波を避けるため後ろに退こうとして転びながら、宇佐美さんはいった。

「ひ、ヒドゥン・ナイトは負けない。フックのモンスター効果。攻撃表示のこのカードが表側守備表示になったとき、お互いを表側守備表示に変更」

 銀河眼がブレスを吐こうとした瞬間、ヒドゥン・ナイトの腕が伸び、鉤を首に引っ掛けることで攻撃が中断。

「そして、《ヒドゥン・ナイト-フック-》の表示形式が攻撃表示から守備表示になったとき、相手に800ダメージを与える。これで終わり!」

「終わり?」

 不思議がる苺ちゃん。直後、彼女の足元に立体化した影の鉤が床から伸びる。

「苺ちゃん、足元! 避けて!」

「えっ?」

 言われるまま足元を見て気づいた苺ちゃんは、咄嗟に足をあげて避けようとする。その際、鉤が靴に引っかかり、脱げて舞い上がった。

 

苺 LP4000→3200

 

「ソリッドビジョンが実体化してる?」

 驚く苺ちゃん。え? その反応って、まさか。

「苺ちゃん、もしかしてフィールって知らない?」

「都市伝説のことでしょ? その位小学校でも」

 苺ちゃんは言いかけ、

「あ、闇のフィール・カードってそういう。ってことは」

 やっぱり。強制デュエルを知らない時点でその線も考えておくべきだった。苺ちゃんは、フィールを持たない完全な一般人だったのだ。

「フィールは都市伝説じゃないのよ。実際に私たちの業界では、カードが武器として使われるし、持ち主は漫画やアニメの魔法使いみたいになってる。ごめん、今まで私たちに依頼する人って大体フィールには携わってるから苺ちゃんが知らないって可能性を忘れてたわ」

 そこまで聞くと苺ちゃんは、

「なら、相手が宇佐美で助かったわ。噂だとフィールって相手を手札事故にさせるって言うじゃない」

「え?」

 反応する宇佐美さん。もしかして、彼女もドロー運を操作できることを知らなかった? いや、彼女の場合は単に忘れてたって可能性が高いか。

 まあ、とはいえ。

「気を付けて苺ちゃん。本来フィールを持つ者同士のデュエルは、互いにフィールでバリアを張ってリアルダメージを防ぐことを前提に行われてるわ。でも、あなたはそれができない。私もサポートはするけど、万一モンスターや魔法・罠の攻撃を受けたら、最悪死ぬって話よ」

「大丈夫よ。もう覚悟してるわ」

 言いながら苺ちゃんは結構足がすくんでるように見えた。それでも、まるで銃を向けられるような事態を前に、取り乱さずにいられる一般人がどれほどいるだろうか。しかも、苺ちゃんはまだ小学生、子供もいいとこなのに。

「バトルフェイズ続行。フックの効果を聞くに、すでに守備表示ならさっきの効果は使えないんでしょ? 続けて《輝光子ガラティオス》でフックに攻撃。ガウェイオンズ・スラッシュ!」

 ガラティオスが飛び掛かり、フックにモンスターの本体である剣を振り下ろす。しかし、

「《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》のモンスター効果。このカードをリリースして発動。フックを攻撃表示にして戦闘を続行。さらにフックの効果でお互いに守備表示に」

 再び発動するフックの効果。そして、今回も苺ちゃんの足元に影の鉤が出現。

「っ」

 すると苺ちゃん。なんと自ら影の鉤を踏み、足場にしてジャンプしたのだ。

 しかし、相手もこれでは終わらず、彼女の足を追いかけ、床下から影の正体でである巨大な《ヒドゥン・ナイト-フック-》が姿を現し、執拗に腕の鉤を伸ばす。

「苺ちゃん!」

 そこを私は懐から銃を抜き、しっかりフィールを込めて鉤に数発撃つ。結果、鉤の軌道はわずかに逸れ、苺ちゃんは足を負傷せずに済んだ。

 

苺 LP3200→2400

 

 加えて、私はひとつの推測が頭をよぎる。

「もしかして宇佐美さん、この《ヒドゥン・ナイト-フック-》で社長を床下から弾き飛ばした?」

 訊ねた所、

「それだけじゃない」

 と、ここでアインスが駆けつけてきて、

「会場に向かう道中、彼女は私のバイクの車輪にその鉤を引っ掛け、社長の車にぶつけて事故死に見せかけようとしたんだ」

「え?」

 私と苺ちゃんが驚く中、

「実はあの時、その鉤を避けようとしてスピンしたんだ。もし避けれなかったら、今頃スピンどころかクラッシュしながら車に衝突。社長と苺ちゃんに命はなかったかもしれないね」

 と、アインスはいったのだ。

「なんて恐ろしいことを」

 私はつい呟く。

「アインスさん、社長は?」

 訊ねる苺ちゃん。

「心配ないよ」

 アインスは微笑み、

「すでに1階で私の仲間が保護している。それよりも、ここで闇のフィール・カードか」

 アインスは、過去に自分の妹が被害にあった経験(MISSION21参照)をしている。闇のフィール・カードの恐ろしさは誰より一番分かってるはずだ。

「苺ちゃん、一応聞いて頂戴?」

 私はせめてもの情報を渡す。

「最近、私たちの業界ではある学説が広まりつつあるのよ。それは、命はフィールって話。つまり、合気や気合、超能力や直感もすべてフィールに通じる。理論上、苺ちゃんはサミサミのフィールに対抗できるわ」

「でもそれ、熊や武装した兵士に生身で勝てるかって言ってるようなものよね?」

 さすがは苺ちゃん。たったいま私たちの世界に踏み込んだばかりなのに、口裏に隠された絶望をしっかり読んでくれる。だからこそ、私はあえて伝えたのだ。

「でも十分よ。その位には窮鼠猫を嚙む余地があると分かったんだもの」

 って、苺ちゃんは真の意図まで分かってくれると信じてたから。

 彼女は確実に高村司令の血が濃い。つまり潜在的にスペックがチート級。じゃなければ、敵の凶器を自分から踏んづけてジャンプするなんて回避行動、普通じゃ辿りつかないはずだ。しかも直前まで足がすくんでたのに、一瞬で恐怖を振り切って。そんな彼女が窮鼠になったら、一体どんな形で猫を噛むのだろう。

「罠カード《エナジー・ナイト》を発動」

 が、ここで宇佐美さんは1枚の伏せカードを起動してきた。

「このカードは私の場の悪魔族のナイトモンスターが表示形式を変更した場合に発動。デッキからカードを1枚ドローします」

 なんだ、ドローカードか。とりあえず、いきなり窮地に立たされるわけではないと私はほっとするも、

「そして、このカードがフィールドから墓地に送られた時、私はデッキの《エナジー・ナイト》を1枚セット」

「うわ、そういう事ね」

 確かに、使われてすぐ窮地に立たされるわけではない。しかし、上手く《エナジー・ナイト》を素引きすることなくデュエルが進めば、デッキを圧縮しながら最大3枚のドローを許してしまう。しかも彼女のデッキは主に表示形式を変更して戦うデッキのようだから、発動条件は容易に満たしてくるだろう。

 彼女のデッキは、一種のロックバーンデッキなのだと理解した。

 

LP2400

手札0

[《伏せカード》][][《伏せカード》]

[《フォトン・スラッシャー》][《銀河眼の光子竜》][]

[]-[《輝光子ガラティオス(苺)》]

[][][《ヒドゥン・ナイト-フック-》]

[][《ナイト・ゲート》][《伏せカード(《エナジー・ナイト》)》]

宇佐美

LP4000

手札2

 

 まだ、苺ちゃんの《フォトン・スラッシャー》の行動が終わってなかったが、

「そして私のターン。ドロー」

 宇佐美さんはいい、カードを引く。

 《フォトン・スラッシャー》は自分の場に他のモンスターが存在すると攻撃できないモンスター。その為、このままターンが宇佐美さんに移ったのだ。

 ここで、苺ちゃんは早速伏せカードの1枚を表向きにし、

「メインフェイズに入る前に、私は永続罠カード《フォトン・チェンジ》を発動。このカードは1ターンに1度、フォトンかギャラクシーのモンスターを墓地に送って、別のカード名のフォトンを特殊召喚するか、《フォトン・チェンジ》以外のフォトンを手札に加える。私が選択するのは前者! この効果で場の《フォトン・スラッシャー》を墓地に送り、デッキに眠る別のフォトンモンスターにチェンジするわ」

「別のフォトンモンスターって」

「決まってるじゃない」

 苺ちゃんはにやりと笑い、《フォトン・スラッシャー》が紋章へと姿を変える。

「闇に輝く銀河よ、希望の光になりて我がステージを彩りなさい! 特殊召喚! 輝け、レベル8《銀河眼の光子竜》!」

 上空に浮かび上がった紋章は2体目の《銀河眼の光子竜》へと姿を変えた。これで苺ちゃんの場に攻撃力3000のモンスターは2体。

「また、ギャラクシーアイズ!?」

 1体だけでも怯えてた宇佐美さんだ。それがもう1体現れ、足がすくみ目が逃げ場所を探して泳いでいる。

「サレンダーは許すわよ。その場で闇のカードを全部破り捨ててくれるなら」

 なんて苺ちゃんの勝気な言葉に、

「そんな事しない。えっと、まず《ヒドゥン・ナイト-フック-》を攻撃表示に変更。そして《エナジー・ナイト》を発動して1枚ドロー。デッキから《エナジー・ナイト》をセット」

 おどおどしたプレイングながら、これで宇佐美さんの手札は4枚。すでに手札を使い切った苺ちゃんと違い、手札アドがどんどん広がっていく。

「魔法カード《ナイト・ショット》! 効果で苺ちゃんのもう1枚の伏せカードを破壊。そして、《ナイト・ショット》の発動に対して相手は対象のカードを発動できない」

「別にいいわ。だって」

 カードが破壊される中、苺ちゃんはまさに予定通りとばかりに、

「ブラフだもの」

 それは《ギャラクシー・サイクロン》だった。このカードは相手ターンでは発動できない通常魔法。加えて墓地から除外する事で表側表示の魔法・罠カードを破壊する効果を持っている。

 しかし、このカードは普通に発動することでも裏側表示の魔法・罠カードを破壊できる。結果的には《エナジー・ナイト》に使わずに済んだとはいえ、さっきの場面では普通発動しそうなものなのに。

「嘘、どうして」

 宇佐美さんも同様の反応する中、苺ちゃんはあえて、

「演出よ」

 と、言い切った。

「言ったでしょ、あなただけに向けたライブデュエルだって。アイドル高村苺のデュエルはエンターテイメントよ。宇佐美のデッキ的に《ナイト・ショット》が入ってる予感はしてたもの、せっかくだから使わせてあっと驚く流れに持ち込んだほうが愉快じゃない」

「そんな為に、使っても損がなさそうな場面で《ギャラクシー・サイクロン》を伏せたのかい?」

 訊ねるアインスに苺ちゃんは、

「それがプロよ。アイドルの伊達や酔狂(プライド)よ」

 言って、宇佐美さんをビシッ指さす。

「嘗めてかかってると憤るなら憤ればいいわ。悔しかったら、マイナスな考えなんかに閉じ籠らないで、正面向いてぶつかってきなさいよ」

「う」

 宇佐美さんはたじろぎ、足が一歩後ろに向く。しかし、

「それができるなら、とっくにやってるよ」

 嘆くように、宇佐美さんはいった。

「みんな苺ちゃんみたいに、ひたむきにまっすぐ動き続けれるわけじゃないの。想いだけあっても行動できなくて、無理して頑張ったら頑張った分だけ失敗して体調も崩して心が折れて、そんな気持ち苺ちゃん分からないでしょ!」

「あっ」

 途端、苺ちゃんから自信に溢れた顔が一気に失せる。図星だったらしい。

 そして、理解しようとする姿勢があるだけに、致命的な所で「分かってなかった」ことに気づかされ、一気に余裕のない顔に変わっていく。しかし、今更苺ちゃんも黙ってられない。

「なら、初めからちゃんと言いなさいよ。人を殺そうと思う位なら、胸の内を全部ぶちまけなさいよ!」

「出来るわけがないよ。そんな怖いこと」

「人殺しのほうが余程怖いわよ。手を血に染めて警察の前で平然とできるの? 殺した人が夢に出てきて正気でいれるの?」

「それは」

 お互い精神的に追い詰められあい、たじろぎあう中、宇佐美さんが嘆く。

「考えられるわけないよ、人殺してその先の私なんて。私はただ、助けてほしかっただけだもん」

 互いの主張は平行線。しかし双方の言葉がしっかり相手に伝わり、それが余計複雑なものを生んでいる。そんな気がした。宇佐美さんの心の闇に言わされた言い訳も、一見クズに聞こえるが、その実誰しも経験しうる要素が詰まってる。

 苺ちゃんに至っては、程度は違えど似たような言い訳した直後だしね。

「デュエル続行。2体目の《ヒドゥン・ナイト-フック-》を召喚。《ナイト・ゲート》の効果で《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》を攻撃表示で特殊召喚」

 これで、宇佐美さんの場にはフックが2体とダークが1体。これを正面からの戦闘で突破するのは相当困難に思える。

「カードを1枚セット。そしてバトル。《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》で苺ちゃんに直接攻撃。このモンスターは相手プレイヤーに直接攻撃できる」

 ダークの攻撃力は800。しかし、それ以上に宇佐美さんはダークの攻撃をリアル化し苺ちゃんを直接傷つけにいくだろう。

「苺ちゃん! 避けて!」

 私は指示しつつ、苺ちゃんを庇おうと前に立つ。しかしダークは私を確認すると、苺ちゃんの背後へと瞬間移動し闇のエネルギーボールを飛ばしてきた。

 アインスが庇いに向かうも一歩届かない。私は自分のデュエルディスクにカードを差し込み、

「《空中補給》を発動」

 と、トークンを呼び出し、苺ちゃんの盾にする。ホログラムのデコイが消滅する中、

「助かったわ」

 と、苺ちゃん。しかしデュエル上ではしっかりダメージを受けている扱いのため、

 

苺 LP2400→1600

 

 残念ながらライフは減少した。

「私はこれでターン終了」

 宇佐美さんはいった。

 

LP1600

手札0

[][][《フォトン・チェンジ》]

[《銀河眼の光子竜》][《銀河眼の光子竜》][]

[]-[《輝光子ガラティオス(苺)》]

[《ヒドゥン・ナイト-フック-》][《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》][《ヒドゥン・ナイト-フック-》]

[《伏せカード》][《ナイト・ゲート》][《伏せカード(《エナジー・ナイト》)》]

宇佐美

LP4000

手札1

 

「えげつない構図だね、鳥乃」

 アインスがいった。私はうなずき、

「全くよ」

 しかし、私たちの誰かが状況を口にする前に、宇佐美さんが自分から説明しだし(フラグし)た。

「私の場には、攻撃対象になったとき互いを守備表示にして、攻撃表示から守備表示になったときに800ダメージを与える《ヒドゥン・ナイト-フック-》が2体。そして直接攻撃能力を持ち守備表示になったフックを攻撃表示に戻す《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》が1体いる。対して苺ちゃんの手札は0枚ライフは1600。フックの効果かダークの攻撃が2回発動した時点で私の勝ちが確定する。もちろん、フックのバーン効果は次のターンに普通に表示形式を変更しても発動できるよ。さらに教えてあげるね。《ナイト・ゲート》にはもうひとつ効果があって、私の場に悪魔族のナイトが2体以上いると、相手が攻撃する攻撃対象を私が選ぶことができる。そして私にはフィールがあるから、苺ちゃんは逆転のドローもできないよ」

 つまり、先にダークから攻撃することはできず、戦闘で全滅させようとすればフックの効果が最大3度発動する。だからといって、次の宇佐美さんのターンに回せば確実に苺ちゃんのライフを削りきる布陣になってると。

 しかも魔法などでモンスターを効果破壊できても2体以上除去しないと結果は変わらない。

「苺ちゃん、これが私の見えてる世界。私の恐怖だよ」

 宇佐美さんがいった。

「右の左も足元さえも暗闇ばかりで、どうすれば正解か分からない。苺ちゃんみたいに勇敢に踏み込んでも、いまの苺ちゃんのライフみたいに耐えられない。私はそんな恐怖からサレンダーしたいの! 全てから護ってくれる新しい事務所の中で、安全に輝きたいの!」

 これが彼女の深層なら、希望のない世界もいい所である。しかも、

(何か分かるわ)

 私だって根っこの性格は人間不信だ。幼少期からして見える世界に希望はなかったし、自分が半機人になった直後は尚更だ。

「サレンダーするなら、苺ちゃんだけは許してあげる。そして、私は社長を殺して緒方プロに行く」

 勿論、それは私とハイウィンドが絶対にさせない。正直いうと苺ちゃんにはサレンダーして貰って、改めて私がデュエルでフィール抜きしたほうが安全で楽だ。苺ちゃんはフィールがない以上フィールを全損させれない。もし彼女の心の闇を解けれないなら、残念ながら勝利してもメリットが薄いのだ。

 しかし、

「デュエルは続行よ。そして、私に手がないなんて勝手に決めないで」

 苺ちゃんはいったのだ。

「私のターン。ドローフェイズにスキル《未来の選択-トライロード・ドロー-》を使用」

「スキル!?」

 驚く宇佐美さん。しかし、

「でも、奇跡のドロー率を上げるスキルなら例え3分の1でも2分の1でも外させる」

「ところが、そうはいかないのよ」

 苺ちゃんは強気な笑みで虚勢を張った。

「私はこの効果で、ドローする代わりにデッキからカード名が違う3枚のカードを選び、相手に見せる。そして、宇佐美? あなたは3枚のうち1枚を選んで私にドローさせるのよ。勿論、ランダムじゃなくね」

「相手にドローカードを選ばせるスキル?」

 なるほど。多少でもランダム性があれば、相手はフィールをもって自分に有利な結果を導いてくる。だけど、相手にカードを見て選ばせる以上そこにフィールの絡む要素は皆無。

 これなら奇跡の1枚を引くチャンスがあるって話。

「私が選ぶのは《融合》《銀河眼の光子竜》《破滅のフォトン・ストリーム》の3枚。この内、私の読みが当たってれば、逆転の1枚はたったひとつよ」

 ここにきて、再び演出重視のリスキーな選択。それとも、本当に苺ちゃんのデッキで逆転のカードがその1枚しかないのか。

 果たして正解は、彼女の切り札《銀河眼の光子竜》か、カードを1枚除外させる《破滅のフォトン・ストリーム》か、それとも。

「だったら、私は《融合》を選択。手札が1枚なのに《融合》なんて絶対ありえないもん」

「いいのね?」

 苺ちゃんはいい、

「なら私は《融合》をドロー。そして、残りの2枚をデッキに戻すわ」

 こうして苺ちゃんの手札にやってくる《融合》。そして、苺ちゃんはいった。

「宇佐美、ひとつ教えてあげるわ。明けない夜なんてない。幾ら何もかもが暗闇でも、いつかは光が差すのよ。……引かせて貰ったわ、逆転の1枚」

「えっ」

 宇佐美さんが驚く中、続けて苺ちゃんは墓地からカードを1枚取り除き、

「幕を下ろす準備は整ったわ。まずは墓地から《ギャラクシー・サイクロン》を除外して効果発動。宇佐美のフィールドから《ナイト・ゲート》を破壊」

 先ほど《ナイト・ショット》で破壊させられた魔法カードだ。これにより攻撃表示のダークを守りフックへの攻撃を誘発するカードが消えるも、

「馬鹿にしないで! その位読んでた。ここで永続罠《安全地帯》をフックを対象に発動。これにより《ヒドゥン・ナイト-フック-》1体は効果の対象にならず、戦闘・効果では破壊されない!」

 まさか、こんなカードまで仕込んでたなんて。

「《ギャラクシー・サイクロン》を使ったから、もう苺ちゃんはこのカードは破壊できないよ? これも普段の私が通ってる道。やる事成す事が全て裏目に出るの。お願い、サレンダーして? じゃないと私」

「する位なら、アンタに殺されるほうを選ぶわ」

 苺ちゃんはいい、

「続けるわよ」

「どうして? この時点で《融合》を使っても勝てるはずがないのに」

「だから勝手に舞台を降ろさないで。永続罠《フォトン・チェンジ》の効果。1ターンに1度、フォトンかギャラクシーのモンスターを墓地に送って、2つの効果から1つを宣言して発動。そして、《銀河眼の光子竜》を選択した場合、私は両方を選択できる。私は《銀河眼の光子竜》を墓地に送り、1つ目の効果で《クリフォトン》にフォトン・チェンジ! さらにもうひとつの効果でデッキから3枚目の《銀河眼の光子竜》を手札に加えるわ」

 苺ちゃんの銀河眼が別のモンスターに変わり、最後の銀河眼が手札に行ったことで苺ちゃんの手札が増える。

「さらに、開け! 私のステージ! 召喚条件は攻撃力2000以上のモンスターを含む光属性モンスター2体。私は《クリフォトン》と《輝光子ガラティオス》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン!」

 再び、苺ちゃんの周りで8つの銀河の渦がリンクマーカーの並びで現れる。

「逆巻く銀河よ、今こそ、夜闇に終わりを告げる曙となれ! リンク召喚、輝きなさい、リンク2《銀河眼の煌星竜》!」

 2体のモンスターがリンクマーカーに取り込まれ、現れたのはフォトン・ギャラクシー・サイファーともどこか違う紅い輝きをした銀河眼。

「《銀河眼の煌星竜》のモンスター効果。このカードがリンク召喚に成功した場合、墓地のフォトンかギャラクシーのモンスター1枚を手札に加える。私が手札に加えるのは《銀河眼の光子竜》! これで、私の手札には《銀河眼の光子竜》が2体。魔法カード《融合》を発動。私は手札の《銀河眼の光子竜》2体を融合」

 まさか、手札を使わずにここまでぶん回して手札融合まで持っていくなんて。正直私も驚いた。

「輝く銀河よ。いまこそ混ざり合い、二つ首を持つ我が愚民に宿れ。融合召喚! 跪きなさい、レベル6《ツイン・フォトン・リザード》!」

 ここまでやって場に出現したのは、一見攻撃力2400とむしろ銀河眼より打点が低い融合モンスター。

「そして、《ツイン・フォトン・リザード》は自身をリリースすることで、疑似的な《融合解除》能力を持つわ」

「《融合解除》ってことは、え? あれ? 確か素材モンスターって」

 宇佐美さんが、ちょっと信じたくない状況に動転する中、

「私は《ツイン・フォトン・リザード》をリリースし、《銀河眼の光子竜》2体を特殊召喚」

 こうして、苺ちゃんの場には、1体だけで宇佐美さんが怯える《銀河眼の光子竜》が合計3体も。しかも、聞くにこのモンスターは苺ちゃんのフェイバリット。なるほど、これはエンターテイメントだ。

「そして、私の可愛い銀河眼3体の効果を使ってフィニッシュ!」

「っ」

「って、行きたかったんだけど。予想通り伏せカードが《安全地帯》だったから、このままだと突破できないのよねぇ」

 何気に苺ちゃんは《安全地帯》を読んでたとか言ってきた。

「だから、こうするわ。喜びなさい、私の奥の手の登場よ。私は《銀河眼の光子竜》3体でオーバーレイ! 3体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 苺ちゃんが言った途端、上空にエクシーズ召喚の演出特融の銀河の渦が出現。しかも渦は辺りの光景を一気に飲み込み、まるでフィールド魔法のように周囲を宇宙空間のビジョンに書き換える。その中を、3体の銀河眼が霊魂へと姿を変え、銀河の中に取り込まれていく。

 苺ちゃんは、例の紋章に似た投げ槍を一本握っていた。

「逆巻く銀河よ、今こそ、怒涛の光となりて舞台の終幕を彩りなさい」

 苺ちゃんは手に持つ槍を銀河の中へと投げ込む。

「これが苺の、魂の輝きよ! 《超銀河眼の光子龍》!」

 銀河がビッグバンを起こし誕生したのは、両の翼にも首を持つ変則的な三つ首の銀河眼。その攻撃力はあの《青眼の究極竜》と同じ4500。

 宇佐美さんが、その超銀河眼を眺めながら、静かに闘志の炎がポキンと折れたのが、私の目に映った。

「綺麗」

 宇佐美さんは呟く。

「やっぱり、私じゃ敵わない。こんな輝きを持ってる苺ちゃんには、デュエルでも舞台でもどこでも」

「そんな事ないわよ」

 苺ちゃんがいった。

「私がアイドルになろうと思ったのは、自分の可愛さに自惚れてアイドルになれば沢山ちやほやされると思ったからだし、今も根底は変わらないわ。ただ、ふんぞり返った元同類を見て自分の性格ブスさに恥ずかしさを覚えて、あいつらとは違うんだって言いたくて努力しただけ。気づいたら元同類がみんな干され代わりに顔と声と名前の違うそっくりさんがそこにいたわ。私はそれを見て、アイドルは消耗品で、私の代わりなんて後から幾らでも生えてくるって知ったわ」

 それを小学生で悟るってどんな気持ちなのだろうか。

 幼くして闇に触れすぎると人格が歪む。それは私自身が身をもって知ってる。だけど苺ちゃんは、

「だから私は、私が考える理想の高村苺を目指して日々自分を磨くことにしたのよ。煽てられたいなら煽てられるだけの価値を、我儘言いたいなら我儘が許される位の格を、アイドル続けるなら起用したいって思われるだけの人間になるってね。ファンを大事にしない人にファンはついて来ないし、いくらドSお嬢様路線でも独り善がりで振るう鞭はただの暴力。その中で崇拝されたいなら? って具合に、結局私は可愛い自分が輝きたいだけなのよ」

 と、熱い言葉をもって言い切る。

 そして、こんな自己満足で腐りきった理由でアイドルしたいなら、どこまでも高潔に意識高くストイックに、だろうか。

「だから私は、みんなに笑顔を届ける宇佐美には敵わない。私がどこまで輝いたとしても、人と人の繋がりの中で、本当に愛されるのは私じゃない。宇佐美のほうよ。《超銀河眼の光子龍》のモンスター効果。このカードが《銀河眼の光子竜》を素材にX召喚した時、このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果、いえ違うわね。あなたを蝕む暗闇を無効にするわ」

 《超銀河眼の光子龍》の輝きが辺りを包み、宇佐美さんのモンスターや《安全地帯》がその(かがやき)を霞ませる。

「宇佐美、私はあなたの見えてた世界を知らずに、あなたを止めようとしてしまったわ。だから、さっきの私の理屈でいえば、だから宇佐美を救いだせないんでしょ?」

「苺ちゃん」

「だけど、どうしても言いたい文句がもうひとつだけあるのよ。この言葉が届かなかったら、もう諦めてあげるから。あとひとつだけ言わせなさい」

 苺ちゃんは断りを入れると、鞭を床に打ち付け、いい音を鳴らす。

 そして、叱りつけるようにいった。

「私だって、宇佐美が羨ましいのよ。何でも受け止めてあげるから、いい加減自分の魅力自覚しなさい! 《超銀河眼の光子龍》で《安全地帯》のついた《ヒドゥン・ナイト-フック-》に! 《銀河眼の煌星竜》で《ヒドゥン・ナイト-ダーク-》にそれぞれ攻撃!」

「苺、ちゃん」

 2体のモンスターがブレスを吐いたとき、辺りは一面光に包まれる。

 眩い光に私もさすがに目を閉じそうになる中、

 

宇佐美 LP4000→1100→0

 

 彼女のライフが一瞬で尽きるのを目撃した。

 

 

 デュエルが終わり、ビジョンの光が消えていく。

 周囲の光景が現実に戻ったとき、宇佐美さんから青白い肌は消えていた。

「苺ちゃん」

 大粒の涙を頬に垂らし、宇佐美さんはいった。闇のフィールの浸食が完全に祓われたかは分からないけど、苺ちゃんの想いは確かに彼女の心に届いたのだ。

「ごめんなさい。苺ちゃん、私」

「謝る相手が違うわよ」

 苺ちゃんは近づき、宇佐美さんに手を伸ばす。

「ほら、社長に謝りに行くわよ。私もついて行ってあげるから」

「うん」

 宇佐美さんがうなずいた。その時だった。

 私の後ろから、光線が3発ほどふたりに向かって放たれたのだ。

「危ない!」

 咄嗟に宇佐美さんは苺ちゃんを抱えるように庇い、フィールのバリアで弾こうとする。が、光線のフィールのほうが数段強く宇佐美さんは苺ちゃんごと床に転がった。

「宇佐美さん、苺ちゃん」

 私は呼んでから、後ろを振り返る。

 そこには、軍服を着て、某赤い彗星を思わせる仮面で顔を隠した子供がひとり、走ってこちらに向かってきていた。

 服装から察して緒方ミリタリー、つまり緒方 銃(おがた ライフル)の下で活動するフィール・ハンターズと思われる。

 その子供は、握っていた“串に刺した魚”の形をした機械をこちらに向けると、光線を発射する。

 私はふたりを庇うように前に立ち、手首から出したナイフを盾にフィールのバリアを展開。しかし、恐らく相手は闇のフィールを使っており、思った以上に威力があって相殺しきれない。

 やっと防ぎ切ったときには、すでに子供は私を横切ろうとしていた。

「鳥乃、伏せて!」

 アインスがショットガンを向けていった。私が伏せると同時に散弾が子供を襲う。

 相手は攻撃を防ぎきるより、移動を優先したらしい。多少フィールのバリアは張っただろうが、服が何か所か裂け、かすり傷で血を滲ませる。そして、私たちの目の前で仮面が割れ、素顔を私たちに晒す。

「え」

 私たちは言葉を失った。

 だって、そこにいたフィール・ハンターズの子供は、あのゼウスちゃんだったのだから。

 そこに馬鹿面を晒した笑顔はなく、感情のない顔と冷たく濁った瞳が印象的に映る。

 ゼウスちゃんは、そのまま私の前を横切ると、倒れた宇佐美さんの体を抱え、窓に向かってさらに走る。

 その片手間に、ゼウスちゃんは何やら光を宇佐美さんの目に当て、直後宇佐美さんは意識を失った。

「宇佐美!」

 苺ちゃんが手を伸ばすも当然届かない。そうだった。いまの私の仕事は宇佐美さんを護る事。

 私は腕からワイヤーを伸ばし、なんとか宇佐美さんの体に巻き付け、引き寄せる形で奪還。しかしゼウスちゃんはそのまま窓を突き破って外へ脱出。

 宇佐美の身柄をアインスに預け、ゼウスちゃんを追いかけ窓から外を見ると、モンスターに乗って飛び去るゼウスちゃんの姿があった。古都プロのスタッフを口封じに殺したという、機械族かサイバース族と思われる黒くシャープな見た目のモンスターという特徴に合致している。

「宇佐美! 宇佐美!」

 一方、室内では、苺ちゃんが宇佐美さんの体を抱え何度も呼びかける。程なくして、宇佐美さんは目を覚ますも、いうのだった。

「苺ちゃん? ここ、どこ?」

 って。

 

 

 翌日。

 ――現在時刻、午後19:00。

 私は、社長から呼び出され再び『BARなばな』にいた。

「サミサミが記憶喪失?」

 ボックス席で対面に座り、私はアイスコーヒーを飲みながら、先ほど社長から聞かされた事実に訊ね返す。

 社長はいった。

「はい。彼女に薬の噂が流れた辺りから昨晩までの記憶が一切消えてました」

「そう」

 つまり、記憶処理。殺さない形で口封じされたのだ。

 事実すでに宇佐美さんは闇のフィール・カードを持っていない。推測するに、ゼウスちゃんが彼女を誘拐しようとしたとき、一緒にデッキを回収したのだろう。

 なお、そのゼウスちゃんに関しては、すでに司令に報告済だ。恐らく、当時北海道に向かっていた大依さんの手によって、同時に行方不明になった津紬という子共々誘拐され、闇のフィール・カードによる被支配を受けたのだろうというのがハングドの推測だ。ロストを使われた可能性もある。

 そういえば、アインスとの決闘のとき、炎崎曰く大依さんが報酬を家に持ち込んだ(MISSION28参照)と言ってた気がする。ゼウスちゃんの行方について、私たちは最初から大ヒントを貰っていたのだ。

 まあ、それよりいまは宇佐美さんだ。

「つまり、サミサミは社長の腕の傷のことも、薬物の疑いをかけられてたことも、緒方プロに移籍させられそうになってたことも全部覚えてないと」

「その通りです。緒方プロに至っては存在しない架空のプロダクションですから、いまの宇佐美には調べようもないでしょう」

 ああ。まずプロダクションを開くって話から詐欺だったわけね。あのロリコンの事だから、フィール・ハンターズによるアイドルグループ誕生をガチで狙ってるのかと思ったけど。

「けど、本当に記憶がないのなら私はそれでいいと思ってます」

 との社長の言葉に、

「同感ね」

 私はうなずく。

 彼女は闇のフィールに心を蝕まれ、最終的には社長を何度も殺害しようとしたのだ。人道的に、そして法的にはどうか知らないけど、その全てが無かったことになるのなら、きっと宇佐美さんにとってはハッピーエンドだろう。

「それと緒方プロを名乗る差出人からメッセージを頂いております。曰く宇佐美の勧誘は中止したと」

「なら、多分もう宇佐美さんは狙われないわ。それを含めての記憶処理だろうし」

「ええ。私や苺も同じ意見です。最後にひとつお願いを聞き入れて頂ければ、私たちからの依頼はこれで終了にしたいと思います」

「お願いって?」

 私が訊ねると、

「苺の記憶も同じように消して頂けませんか?」

 社長はいった。

「これは苺本人からの要望です。自分が事件を覚えてると宇佐美が記憶を取り戻すトリガーになってしまうのではないかと」

 確かに、ありえない話ではない。しかし、その為に自分の記憶も消そうとは本当に意識の高い子だ。思えば、ここまでストイックになれる事こそ子供故なのかもしれない。

「分かったわ。警察と連携してるNLTって組織に連絡を取ってみるわ。そこはフィールが都市伝説の域を出ないよう隠蔽にも力を入れてる所だから、高性能な記憶処理ができると思う。一応、脳検査のために宇佐美さんも連れて行ったほうがいいわ」

「ありがとうございます」

 社長は頭を下げた。

 こうして、今回の依頼は一応無事に終わりを迎えた。

 

 

 さらに翌日。金曜日

 ――現在時刻、午前8:00。

 ゼウスちゃんの悲報で手放しに喜べない状況ではあるけど、とりあえず明日、梓と外出するためのミッションは達成できた。

 手元には、苺ちゃんから前金代わりに貰った温泉宿の無料招待券。すでに梓には伝えてあるので、明日は無事ふたりで遠出をするつもりである。

 木更ちゃんへの説明とフォローは司令たちがしてくれるらしい。むしろ、私は今後に備えてしっかり骨を休めろと司令より改めて(信用できない)強制休暇を与えられた。

 まあ、今回は妨害が起きることはないだろう。勝手に私を動かしたことで、鈴音さんの堪忍袋の緒が切れ、司令を正座させ何時間も延々と説教する姿が見えたからだ。それでも何かあれば、梓からでも私からでも鈴音さんにLINEでチクればいい。さすがに今回はその位の下克上が許されるはずだ。

 数日ぶりに仕事から解放された私は、いつものように登校し、校門前までたどり着く。

 そこへ。

「おはようございます」

 私は突如、後ろから挨拶をかけられた。振り返ると、そこには制服を着た宇佐美さんがいた。

「あれ、サミサミじゃない。おはよう」

「サミサミはやめてください。今日は普通に生徒なんですから」

 と、宇佐美さんは言いながら校門を潜ろうとし、レールに足を引っ掛け、思いっきり転ぶ。

 私は無防備なスカートをめくりながら、

「宇佐美さん大丈夫?」

「どこ見ながら言ってるんですかー」

 宇佐美さんは、一回その場でバタバタしてから起き上がり、

「もう。せっかく復学初日なのに」

「そういえば、ずっと休学してたっけ」

「はい。ちょっと芸能界が上手くいかなくて、色んな番組を降板されて暇になっちゃったんです。だから、いっそ復学したんですけど。私、休み過ぎて留年してたみたいで」

 宇佐美さんは恥ずかしそうにはにかんだ。

 上手くいかない、ねえ。

 それが生易しい問題じゃないことを知ってる私は、内心複雑な気持ちでいっぱいだ。しかし、下手に関わると記憶を呼び戻してしまう。いまの私は知らないふりするしかない。

「鳥乃さん。先日はありがとうございました」

 突然、改まっていう宇佐美さんに私は、

「あれ? 私なにかしたっけ?」

「しましたよ、ほら」

 宇佐美さんは言いかけるも、

「ん? えっと、あれ?」

 と、混乱をみせる。当然だ。だって、その「先日」はすでに彼女の記憶にないのだから。

「ごめんなさい。私勘違いしてたみたい」

「気にしてないって話。それより“ぱんつ見てくれてありがとう”ならいつでも受け付けるけど」

「い、い、い、言いませんそんな事」

 顔を真っ赤にしながら、宇佐美さんは一歩後ろに後退。そして、同じレールにまた足を引っ掛け、今度は仰向けに倒れそうになる。

「あ、ちょっ」

 さすがに後頭部はやばい。咄嗟に私は彼女の腕を掴み、腰を支えてあげることで何とか回避。構図としては抱き寄せてしまうより王子様(アインス)みたいな構図になっちゃったわけだけど、相手は腐ってもアイドル。公然の前で抱き寄せたら文〇砲の餌食になりかねない。

「全く、相変わらず超が付くほどドジね」

「ごめんなさい」

「いいから。それより立てる?」

 私は彼女の体を支え、今度は転ばないようレールから大股3歩分は離れた所で彼女を立たせる。

 すると、宇佐美さんは突然言い出した。

「鳥乃さん、しばらく見ない間に優しくなりましたね」

「そう?」

 まあ、元々宇佐美さんとは接点が殆どなかったから、中学時代の私で認識止まっててもおかしくないけど。先日はそれを正確に思い出せる精神状態じゃなかったとして。

「うん。前はもっと荒れて刺々しかったから、虐めから何度も助けて貰ったのに、怖くてお礼も言えなくて」

「あれ? そんなに虐めから助けたっけ?」

「やっぱり覚えてなかったんですね」

 宇佐美さんはくすりと笑い、

「虐められてた私にも、無視せず普通に接してくれましたし」

 別に虐めたいとも思わなかったし、保身で虐めに加担する必要もなかったしね。

「それどころか中学の頃、不良に絡まれたときに助けてくれたり」

 たぶん、それ個人的な憂さ晴らしか梓を護るついで。

「お弁当をゴミ箱に入れられてお昼無くなっちゃったときも、こっそりパンを渡してくれたり」

 あ、それガチで忘れてた。うん、言われるとやった覚えあるわ。最低でも中高共に1回以上やってる。

「だから、たったいまも含めて全部ありがとうございました。今度は勘違いじゃないはずです」

「今回は素直に受け取っておくわ」

 私はくすりと微笑み返す。が、すると宇佐美さん今度はいきなり視線を露骨にそらし、

「ただ、同時にしばらく会わない間に凄くセクハラ魔になってますけど」

「?」

 私は気づかないフリをして、彼女の転倒を防いだときからずっと彼女の胸をさわさわし続けてた手を、今度は太股向けて滑らせていく。

「だからセクハラはやめてください。そろそろ訴えます」

 慌てて私から離れる宇佐美さんに、私はとぼけた顔で、

「いや、ずっと拒絶しないから触り放題だと」

「そんなわけありません! 本当に訴えますよ?」

「警察に?」

「梓ちゃんに」

「ごめんなさい許してくださいこの通り」

 私は土下座した。程なくして、

「もう、いいですよ。それよりも」

 宇佐美さんは、透き通るように朗らかな顔で、こういうのだった。

「今日からまた普通の生徒の宇佐美 柑奈(うさみ かんな)をよろしくお願いします、鳥乃さん。あ、もう鳥乃先輩でしたね」

 アイドル業で身に着けた可愛らしいてへぺろが、とても印象的に映った。






●今回のオリカ


ナイト・ゲート
永続魔法
(1):自分フィールドに悪魔族の「ナイト」モンスターが召喚された時にこの効果を発動できる。
そのモンスターのレベル+1以下の別の悪魔族の「ナイト」モンスター1体を手札・デッキから特殊召喚する。
(2):自分フィールドに悪魔族の「ナイト」モンスターが2体以上存在する場合、相手モンスターの攻撃宣言時に発動できる。
その攻撃対象を自分が選択し直す。

ヒドゥン・ナイト-フック-
効果モンスター
星4/闇属性/悪魔族/攻1600/守 0
(1):自分フィールド上に攻撃表示で存在するこのカードが攻撃対象になった時、 このカードと相手の攻撃モンスター1体を表側守備表示にする。
(2):このカードの表示形式が攻撃表示から守備表示に変更された時、 相手ライフに800ポイントダメージを与える。
(遊戯王5D's)

ヒドゥン・ナイト-ダーク-
効果モンスター
レベル3/闇属性/悪魔族/攻 800/守 0
(1):このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。
(2):自分フィールド上に存在する守備表示モンスターが攻撃対象に選択された時、
このカードをリリースして発動できる。
そのモンスター1体を攻撃表示にして戦闘を行う。
(遊戯王5D's)

輝光子ガラティオス
リンク・効果モンスター
リンク2/光属性/戦士族/攻2100
【リンクマーカー:左/右】
光属性モンスター2体
このカードはリンク召喚されたターンにはリンク素材にできない。
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズ時に発動する。
このカードのリンク先となる自分フィールドに「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)1体を守備表示で特殊召喚する。
このトークンは攻撃できず、S素材にもできない。
(2):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
デッキ・墓地から「超銀河眼の光子龍》」1枚を手札に加える。
(ガラティーンをもじりました)

エナジー・ナイト
通常罠
(1):自分フィールド悪魔族の「ナイト」モンスターの表示形式が変更された場合に発動する。
デッキからカードを1枚ドローする。
(2):このカードが自分フィールドから墓地に送られた時、デッキから「ヒドゥン・エナジー」をセットする。

未来の選択-トライロード・ドロー-
スキル
(1):ドローフェイズ時に通常のドローを行う代わりに、デッキからカード名が異なるカードを3枚選んで相手に見せ、相手はその中から1枚選ぶ。
相手が選んだカード1枚をドローし、残りのカードをデッキに戻す。
このスキルはデュエル中1度しか使用できない。

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