私の名前は
そして、レズである。
「アンちゃん、おっぱい揉ませて」
梓のハンマー。沈む私。
「沙樹ちゃん、次いったらホームランだからね」
ちなみに現在は学校の屋上。当然、ここからのホームランは教室とはわけが違う。
「死ぬ! 梓それ死ぬって話」
「でもフィールで守れるんでしょ?」
「待って待って待ってこの高さだとそれでも死ぬって話」
だから、すでにハンマー持って素振りするのやめて。
今日は屋上の開放日。私と梓はアンちゃんを誘って空の下で昼食を食べてる所である。
木更ちゃんは今日も休み。なので、彼女の友達であるふたりに現状報告をする為、定期的にこうして集まってるのだ。
「そういえば、鳥乃さんも今日から休みとお聞きしたのですけど」
アンちゃんが訊ねてきた。ハングドのことである。
「うん」
私はうなずいた。今日は
「だからですか。今日の梓さん、とてもご機嫌がよさそうですもの」
アンちゃんがくすりと微笑みいった。他の生徒が見てるせいか、普段に増して外面がよく映る。
実際、今日の梓は凄く機嫌がいい。さっきの素振りだって、テンションの高さがさせてしまったことだろうしね。ただ、ここはクラスの外だから、私たちの恒例行事を知らない何人かが梓を見て怯えてるって話だけど。
ただ、その理由は単に私の強制休暇なだけではない。
「実はそれでね、今週末に沙樹ちゃんと久しぶりに出かけることになって」
梓は満面の笑みでいった。
元々、ここ数日徹夜で作業しなくちゃいけない事があったらしく、週明けも
結果、いま梓は二重のハッピーの中にいる。
ただその一方で、
「それで、藤稔さんのご様子は」
アンちゃんが訊ねてきた。梓の様子に気を配ってか、こそこそと小声で。
「昨日、最終手段でコーヒーに睡眠薬仕込んで強引に寝かせたらしいわ」
私はいった。
「だから私もフェンリルと共謀して寝室に忍び込もうとしたんだけど、さすがにガルム相手じゃ相手が悪いわ。なんか狙撃銃でロックされてる感じもあったし」
「そういえば、昨晩フィーアがハングドに一晩雇われて向かわれてましたね」
「え」
それ、よく私たち生きてたって話よね。前衛にガルム、後衛にフィーアとか想像しただけで失禁しそうなのに。
と、まあそんな形で、梓とは反対に木更ちゃんは現在もメンタル崩壊の最中にいる。
「そういえば、さっきのフィーアで思い出したけど、ハイウィンドはいまどうなってる? あと鷹女ちゃん」
今度は私が訊ねる。気づけば
「鷹女さんは正式に家の使用人として雇うことになりました」
「よく素直に聞いたって話ね、あの子」
アンちゃんが手綱を引いてるとはいえ、あの子は神簇にも殺意を持ってるはずなのに。
「ええ」
アンちゃんは死んだ目で虚空を見上げ、乾いた声でうふふと笑い、
「彼女が家にきた翌日、洗濯に出した私の下着がすべて新品になってまして」
「あ」
「ですから、元は取ってると思われます。まさか私如きがそういう方面の被害者側に立つとは思いませんでしたけど。ふふ、うふふふふ。あはははは」
あ、やばい。好意や崇拝に慣れてないせいで、アンちゃんの自我がゲシュタルト崩壊起こしてる。
「ちょっとアンちゃん。大丈夫? おっぱい揉んでいい?」
「せーの!」
後ろから響く掛け声の直後、
――現在時刻、午後17:35。
水曜日。
梓たちと屋上で昼食を食べた日の夕方、私はすこぶる機嫌の悪い顔をしながら、開店直後の『BARなばな』にいた。
ハングドの仕事である。
「まったく、あの司令は」
ひとり愚痴を吐きながら、私は閉店前の『喫茶なばな』時に注文したホットコーヒーを飲む。
事の発端は、放課後、梓と週末どこに行こうかと話し合いしてる途中だった。突然、司令から連絡がきて、強制休暇の一時中断と依頼の要請を言い渡してきたのだ。
もちろん、梓も聞いてる前で堂々と断ったのだけど、金銭面の問題上、私の命は司令が握ってるようなもの。かくして17:45待ち合わせで『BARなばな』に足を運ばされたわけだ。
で、私の休暇を中断してまで会うことになった、今回の依頼人というのは。
「お待たせ」
気づくと、私が座るボックス席の前でひとりの女児が立っていた。
ケアの行き届いた長い髪に、幼さを武器にしつつシェイプアップされたスレンダーな肢体。帽子とサングラスで顔を隠し、
「“レズの肌馬”鳥乃 沙樹さんね。
「久しぶり、
司令の娘である彼女が、今回の依頼人である。年齢11歳、小学生にして職業ジュニアアイドル。
ドSロリお嬢様路線で売り出しており、ライブや一部のバラエティ番組では、鞭を片手に服の下に着用したボンテージ姿でロリコンと一部のマゾ豚をぶひぶひ言わせる“芸”を持つ。反面、番組に合わせてキャラを加減してるらしく、意外にもスタッフ受けがよく地元の情報番組を中心に幅広い活躍をみせている子だ。最近ではパンク系のファッションモデルとして少女雑誌にも掲載されたらしい。
と、前回とうって変わり相当踏み込んだレベルで彼女の情報を知ってる私だけど。うん、まあ、実際に会ったあの日から、好きな芸能人のひとりとしてカウントしてるのだ。だからといって梓との日々を邪魔されて上機嫌なはずはないけど。
「いらっしゃいませ。こちらメニューになりますです」
苺ちゃんが席に座ったのを見計らい、マスターの水菜さんがメニュー表を席においた。
「オレンジジュースをお願い」
苺ちゃんはメニュー表を開くと、カクテルの覧だけを見ていう。その仕草は、完全にお嬢様のそれだ。別に司令の家は(親戚はともかく)普通に中流家庭のはずなのに。
でもって、水菜さんは、
「スクリュードライバーですね。少々お待ちくださいです」
「の、ウォッカ抜きよ」
という顔見知りじゃないと実現しないやり取り。加えて、苺ちゃんがアルコールカクテルのレシピを知ってるという事実。もしかしたら、スクリュードライバー(ウォッカとオレンジジュースで作るカクテル)をみて、苺ちゃんはオレンジジュースがあるとみて注文し、水菜さんも見抜いてやり取りしたのかも。
「それで、沙樹さんはブラック・ルシアンなんていかがですか?」
引き続き、こちらにも訊ねる水菜さんに、
「私、未成年だけど」
「ヴェーラがいないと、ウォッカが減らないので調子が狂うんですはい」
確かに。みると今日もBARにヴェーラの姿は見当たらない。取材先で行方不明という話もないので、近く帰ってくるとは思うけど、いつも見る顔がいないっていうのは不思議な気分だ。なお、ブラックルシアンとはウォッカとコーヒー・リキュールで作るカクテルだ。
「それに、相手は小学生ですからあなたも酔った勢いではないでしょう?」
「悪いけど仕事中。依頼人以外からお酒は受け取らない主義だから」
私がいうと、その依頼人である苺ちゃんは、
「シラフで話がしたいから、アルコールは1%未満でお願い」
って。
「分かりましたです」
渋々と引き下がる水菜さん。その後ろ姿に、私はなんとなく島津先生を思い浮かべた。奇しくも、どちらも合法ロリのアダルト勢って点で共通している。
そして、オレンジジュースが席に置かれた辺りで、
「遅いわね」
と、腕時計をみる苺ちゃんに、
「他に誰かくるの?」
「社長も一緒なのよ。私を先におろして、いま車を停めてる途中なんだけど」
苺ちゃんがいった刹那、
「お待たせ、苺ちゃん」
と、60代ほどのスーツの女性がやってきた。怪我をしてるのだろうか左腕には一部包帯が巻かれている。
女性は苺ちゃんの隣に座ると、
「“レズの肌馬”さんですね」
「うん、まあ」
「初めまして。古都プロダクション社長の
私は社長から名刺を受け取りながら、
「20年前に会いたかったわね」
「え?」
「いや、何でもないって話」
肩まで伸びた髪に整った顔立ち。背筋も伸びすらっとした体躯もあり、本来はさぞや美人であったものと思われる。
しかし、長年の苦労と無茶のツケだろう、手の甲や喉元、頬など至る所に老いが見られ化粧でさえ隠しきれてない。残念ながら今では綺麗なお婆ちゃんといった印象だった。
「早速ですが依頼の話をお願いしても」
失礼なことを考えてた自覚はあったので、私は誤魔化すようにいった。
「はい」
うなずく古都社長。続けて苺ちゃんが、
「鳥乃さんは、古都プロ所属の
「ん、知ってるけど」
私は生返事しながらコーヒーを一口。でもって、「あ」と気づき、
「ていうより、小中高と同じの元同級生よ。そっかサミサミ、古都プロって話?」
面識はそこまで無いんだけど小学校から現在通ってる高校までずっと同じという貴重な“元”同級生のひとりである。
性格は明るく健気。だけど、間が悪くドジな傾向があり、小学校低学年の頃は友達も普通にいたが、高学年辺りから彼女をわざとらしいと思う女子が現れだし、中学に入る頃には完全に虐めや無視に発展した。
高校入学後も虐めは続き、彼女に居場所はなかった。そんな折、彼女は芸能界からスカウトされて
「知り合いなら話は早いわ。実はそのサミサミが近頃クスリに手を出してるって噂されてるのよ」
苺ちゃんはいった。私は驚き、
「サミサミが?」
「あの子、気が弱く騙されやすいのは知ってるでしょ?」
「うん」
ただし、騙されやすいのは元からだけど、気が弱いのは後天だ。
以前より健気さから自分の短所を気にしてはいたけど、虐められたことで自尊心ってものを完全に失ってるのである。
「想像つくと思うけど、宇佐美は同性受けが悪いのよ。無垢で庇護欲を刺激する子だから年配や男の受けはいいんだけど、それが余計にね。学校でも虐められてたんでしょ? 居場所を芸能界に移しても彼女を取り巻く環境は全く変わってないのよ」
「でしょうね」
調べるまでなく想像通り。
「まあ、同性受けが悪いのは私も同じだけど」
と、口にする苺ちゃんに私は、
「プロ意識が高すぎて、生意気に見られてる。だっけ?」
「よく調べてるじゃない。まあ私のことはいいのよ。そういうキャラでやってきたし自分の意志で決めた道だもの。でも、宇佐美はそうじゃない。アイドルの世界に甘い夢と居場所を求め、前の世界から逃げてきたのよ」
なんて、相変わらず小学生離れしたことをのたまう苺ちゃん。が、直後社長はプッと吹き出し、
「そういう苺ちゃんだって、最初はお金貰ってもてはやされる素敵な職場♪ みたいに甘い夢求めてたじゃない」
「ちょっと、社長」
途端、赤面しながら「げっ」て顔にだす苺ちゃん。
「へえ。最初はちゃんと見た目通り人生勘違いしちゃった子供だったのね」
「寧ろスカウトされる前からね」
つまり、高村司令に相当甘やかされたわけか。納得。
「って、だから私のことはいいでしょ」
どうやら、昔の話は相当黒歴史らしい。慌てる姿は幾分か年相応に映った。
「それよりも宇佐美よ。あの子は現在、今時珍しい位掏れてない感じが評判を呼んでちょくちょく知名度が上がってきてるわ。だけどその分、敵意を持った共演者や、悪意をもって接触する人間も異常に増えてきてるのよ。先輩アイドルからは私以上に虐めの矛先に遭い、男性アイドルがヤリ捨て目的で接触し、60過ぎの大御所が愛人って名の性奴隷にしようと家に招待し、事務所を通さず彼女に仕事の話が舞い込んだと思ったら不当なギャラで枕営業させられそうになってたり」
なお、こんなお下劣な業界の闇を吐露してるのは現役の小学生である。
横目でちらっと伺うと、社長が「もう少し言葉を選んで苺ちゃん」と項垂れてたので、私は助け船を出すつもりで、
「そこへ今回のクスリね」
「そうよ」
苺ちゃんは頷いた。
「実をいうと、宇佐美はこのままだと芸能界から干されるわ。理由は先日、番組の収録中にあの子某男性アイドルや大御所に襲われかけたエピソードをつい口を滑らせたのよ。勿論、その内容は放送されなかったけど、天然でやらかした分、危機感を覚えた人が大勢いたんでしょうね。多くの芸能人があの子との出演を暗にNG指定し、過去に枕営業を求めた監督の関わる番組からも降ろされ始めてるわ」
「文〇砲のひとつも出てないってことは、マスコミは口止めされされてるって話?」
「そ。と言いたい所だけど、そこで変な噂があるのよ」
苺ちゃんがいった。で、ここでやっと社長が、
「口止め。いえ、口封じにドラッグの密売組織が一枚噛んでるらしいと」
「ドラッグの密売組織?」
訊ねると、再び苺ちゃんが。
「私たちも最初はヤリチン共が各々、もしくは一致団結してマスコミ各社に口止め料を払ったものと思ったわ。だけど、いまの時代いくら口止めしても野次馬がネットに拡散するものでしょ。それさえもなかったのよ。そこで探偵をひとり雇って調べてもらったんだけど、どうなったと思う?」
「どうなったって」
まさか、死―ー。
「数日後、探偵は警察署に侵入し、銃を盗んだうえで乱射。数人の警察官の命を奪った後、射殺されました」
社長がいった。想像以上だった。
「司法解剖の結果、探偵からはロストというドラッグが検出されました。聞いたことのない名前でしたので調べてみた所」
「フィール・ハンターズが占有するシ〇ィハンター版のエンジェル・ダストに類似した幻覚剤。ただの人間を死さえ恐れぬ狂戦士に変え、一度でも使えば脳が破壊され人格に異常をきたす」
「っ」「っ」
驚くふたり。どうやら、そこまで詳細は知らなかったらしい。
私はいった。
「使ったの? そのロストをサミサミが」
「そこまでは分かりません」
社長はいった。
「ですが、近頃人が変わったように躁鬱が激しくなったのは確かです。それで、先日薬物検査をお願いした所」
そういって、社長は包帯の巻かれた腕を私の前に出す。
「刺された?」
「はい」
社長は頷いた。
苺ちゃんが憤慨して、
「鳥乃さんも知ってるでしょ? あの子が人に危害を加える子でなければ、そんな度胸もない子だって」
そういえば、この苺ちゃんは意外と熱く面倒見の良過ぎる一面があるのだった。たぶん、苺ちゃんにとって宇佐美さんは手を焼かずにはいられない子だったに違いない。
「そうね」
私は頷いた。
「話を戻すけど、みた所ロストの詳細はそこまで知らなかったように見えるけど、ふたりはどこまで把握できてるか教えて頂戴」
「フィール・ハンターズという名前の組織が扱ってるという所までです」
社長は視線を落とし、
「その、調べてくださったスタッフも口封じに殺されましたので」
「ドラッグで?」
「いえ、パソコンのモニターから機械族かサイバース族と思われる黒くシャープな見た目のモンスターが貞子のように現れて、私たちの目の前でグサッと」
フィール・カードか。
「ただ、亡くなったスタッフは調査の中偶然ハングドの情報を見つけていたらしく、書き残されたメモを元に今回『BARなばな』を介して連絡を取りました」
「え?」
私は、聞かされた経緯を前に苺ちゃんの顔を見る。
「そしたら、この前私を助けてくれた変な人がハングドで“レズの肌馬”の通り名で活動してるっていうじゃない。驚いたわ」
苺ちゃんは、察した顔でいうけど。そこじゃない。
もしかして苺ちゃん、自分の母と姉がそのハングドで働いてること知らない?
「改めて、詳細と経緯は以上になります」
社長がいった。
「あなた方への依頼は、
「了解。一応、依頼の期限日は?」
「できれば今月末までに解決をお願いします。こういう問題は長引くほど深みに嵌ってしまいますから」
「証拠もどんどん減るものね。了解」
私は、それでもまだ気が乗らないながら依頼を請けることを決める。
「あ、ついでに横からいい?」
そこへ苺ちゃんが口を挟んできた。
「どうしたの?」
と、社長が訊ねる中、
「本来ここは私が口出す所じゃないけど、何とな~く今月末どころか来週まで延びたら手遅れになりそうな気がするのよね」
「可能性はあるわね」
主に、私と梓の週末が。
「だからさ、子供から玩具のお札でも受け取った気持ちで、これ前金に受け取ってくれない?」
そういって苺ちゃんがバッグから取り出したのは2枚のチケット。まさかライブチケットじゃないだろうなと思って確認してみると、とんでもない。渡りに船か不幸中の幸いか、なんとそれは温泉宿へのペア2名様無料招待券だったのだ。
「これって」
「貰ったはいいけど、ちょうど収録と重なって行けなくなった代物よ。ペアが不満なら2~3名くらいの宿泊費なら負担するわ。交通費も請求書で送って頂戴」
「いいの?」
訊ねると、
「良いも何も貰い手を探してる位よ。でもまあ、多分間に合わないような日付だから、気休めにもならないわよね」
見ると招待券は今週の土日になっている。つまり金曜、明後日までに事件を解決できれば梓と温泉旅行に行けるわけだ。
「すみません、この子が勝手なことを」
社長が頭を下げるも、
「十分よ。むしろモチベーション爆上がりって話?」
私はいった。
交渉が終わると、私たちはなばなを出て、苺ちゃんと共に社長の運転する車に乗り込んだ。
曰く、今日これから宇佐美さんのライブイベントに苺ちゃんがゲスト出演するらしい。
場所は、なばなから車で30分ほどにある市内の公民館。昼と夜の二回公演が行われ、今回向かうのは夜の部。
「スカウトし、売り出しておいて言える言葉ではありませんけど、あの子をデビューさせるべきではありませんでした」
道中。運転しながら社長はいった。
「あの子の心は綺麗すぎて、芸能界の闇に適応できるはずがなかったんです。苺ちゃんだけは真っ先に危険性に気づき何度も警告してくれたのに、どうして我々は耳を傾けなかったのか」
「なら今でも遅くないわ。どうして契約を打ち切らなかったの?」
私が訊ねると、苺ちゃんが、
「もう遅いのよ。その契約を打ち切るタイミングを狙って、あの子をAV女優にしようと企む輩が目を光らせてるわ」
「ああ」
そういう事か。社長は続けて、
「それに、古都プロは彼女をデビューさせてしまった責任があります。彼女が引退を望んでない以上、私たちは彼女のアイドル人生をサポートする必要が、きゃっ!」
突然の急ブレーキ。
何事かと前方を窺うと、飛び出してきたと思われる一台のバイクが衝突寸前の所で停止していた。
辺りを確認すると、ちょうど現在地は橋の下で薄暗く、加えて植栽が立ち並び見通しが悪い中を幾つもの歩道と車道が交錯しあう、いかにも事故を起こしやすそうな坂道だった。
運転手がバイクから降り、こちらに歩み寄ってきた。
運転席の窓に立つと、相手は被ってたヘルメットを外す。
その顔を見て私は、
「アインス!?」
衝突しかけたバイクの運転手は、なんとハイウィンドの長女。“
「知り合い?」
訊ねる苺ちゃんに私は、
「友人、兼組織の違う同業者」
ここで社長は車の窓を開ける。アインスはすまなそうにのぞき込み、
「すみません、大丈夫でしたか」
「ええ」
「良かった。とはいえ、危険に晒してしまったのも事実。お詫びを兼ねて、どうでしょう。よろしければこの後、BARでワインでも一杯奢ります」
と、相変わらず王子様は流れるように社長を口説きだしたので、
「はい悪いけど仕事中」
私は懐から銃、は危険なのでシャーペンを出し、アインスの喉元でカチカチする。
「おや、鳥乃?」
ここで初めてアインスは私に気づいた模様。私は社長と苺ちゃんに一言断ってから一度車から降り、
「危ないじゃない。もう少しで大切な依頼人を事故に遭わせる所だったんだけど」
「申し訳なかった」
謝るアインスに私は、
「言葉じゃなく行動で示してほしいって話なのよね。アインス、いまそっちは仕事中?」
「いや、フリーだよ。いまから、あるアイドルのライブイベントに顔を出す所さ」
とのアインスの言葉に、
「まさか、サミサミ?」
「よく分かったね、その通りだよ。まさか鳥乃の仕事っていうのは」
「正解。サミサミ絡み」
私はいい、続けて、
「丁度良かった。私たちも、いまからその会場に向かう所。で、ものは相談だけど」
「事故未遂のお詫びで手伝ってくれ、かい? 分かった」
すぐに承諾してくれるアインス。
「話が早くて助かるわ。現時点で言えるのは、さっきアインスと話した貴婦人が今回の依頼人で、サミサミの事務所の社長。残りの詳細は現地で隙をみつけて話すわ」
その後、二言三言話してから私は車に戻り、
「アインス。事故未遂のお詫びに協力してくれるって」
「そういって強引に交渉してたの聞こえてたけど?」
呆れた顔で苺ちゃんがいった。
「いいの社長。勝手にあんな事させて」
「本当は第三者を巻き込ませたくないのだけど」
困った顔をする社長に、
「私にスピード解決を求めたのはあなたたちって話よ」
「だからってお客様信用ってものがあるでしょ」
苺ちゃんはさらに反論するが、
「だからこそ人手が欲しいのよ」
私はいった。
「ただの麻薬密売人が相手なら、いくらアインス相手でも依頼人の許可なしに交渉までしないわ。でも、フィール・ハンターズが関わってるなら話は別。監視の目は多いほうがいいわ」
言ってから、私は一拍置いて、
「苺ちゃん。先日クレイン公園で遭遇したロリコン覚えてる?」
「それは勿論」
「あいつもフィール・ハンターズよ。あの日、奴は公園に数十人規模の部下を配置し、あなたを含む3人をメインディッシュに強姦目的の襲撃を計画していたわ。今回も規模はともかくライブ会場に人員を紛れ込ませて監視してる可能性は十分にあるって話」
すると、苺ちゃんは一度ゾッとした顔をみせ、
「そいつらがロストっていうのを隠し持って、観客やスタッフに打ったりしたら」
さすが苺ちゃん。私の想定する最悪のケースをすぐ把握してくれた。
「大丈夫よ」
だから、私はいった。
「その心配をするのは私の仕事だから取らないで頂戴。例え奴らが最悪なシナリオを用意してても回避できるよう手は打つから」
車は動き出した。
件の坂道を登りきると、程なくして私たちは目的地の公民館に辿り着いた。
驚いたことに、建物は想定よりずっと大きかった。茶色を基調とし、横も奥行きも広い会館が窓から推測して3階ほど。さらに数階、面積を減らしタワー状に伸びている。
当然、駐車場も大手ショッピングモール並に広々としているのだが、なんと見た限り満席。
「もしかして、駐車場の全部サミサミが?」
「それはないわ」
言い切る苺ちゃん。
「今日は確か、1階の大小両方のホールで夕方から別のイベントが行われるから、きっとそっちね」
曰く、苺ちゃんは昼の部でもゲストで顔を出してたそうだけど、そのときはここまで駐車場が混んではなかったそうだ。
しかも1階のホールが別で使われてるってことは、
「サミサミのライブってホールじゃないの?」
「確か5階の会議室よ」
「会議室?」
「ステージはあるけど、宴会なり講習会に呼ばれたような場所だから、期待はしないほうがいいわ」
苺ちゃんはいった。
自動ドアを潜りエントランスに入ると、すぐ見つかる場所に公民館の利用予定を記した掲示板が貼られてあった。
確認した所、1階大ホールは演歌歌手のコンサート。そして小ホールはKasugaya勉強会。
「いるわね、フィール・ハンターズが」
「え?」
反応する社長に私は、
「Kasugaya本店の店長はフィール・ハンターズよ」
「それ、本当?」
苺ちゃんが反応。私はうなずく。
「とりあえず詳しい話はエレベーターで話すわ。アインスもそれでいい?」
「分かった」
と、ちゃんとこの時点まで付いてきていたアインスが返事。だけど、
「悪いけどエレベーターは使わないのよ」
苺ちゃんがいった。続けて社長が、
「私たちは職員用通路の階段で5階に向かいます」
そっか。エレベーターだと他の人たちと一緒に密室に入ってしまうことになる。そこで変質者に襲われたり、ファンの襲撃に遭う可能性だってなくはないのだ。
「了解」
私はうなずき、4人で関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアの奥へと進んだ。
そこは廊下と階段のみならず、ホールイベント等の控室も何部屋か併設されていた。この様子だと、この通路から各ホールのステージ裏にも行けるものと思われる。
「――のだ」
ふと、私は聞き覚えのある声を聴いた気がした。声の方角を横目で確認すると、Kasugayaの控室が見えた。
「どうしたんだい、鳥乃」
訊ねるアインス。私は「何でもないわ」といい、
「Kasugayaの控室から声が聞こえたわ。どうやら私の知ってる誰かが配置されてるみたい」
「そうか」
「ま、これ以上気にはしないけど。いまはこっちの任務中って話だしね」
ここで踏み込むのがまさかの正解だったなんて思いもしなかった私は、そのままアインスたちと一緒に階段を登るのだった。
2階からは控室とは併設されておらず、踊り場毎に窓ガラスが大きめに貼られた階段だけが5階まで続いていた。
一応、建物は6階以後もある様子だったけど、恐らく職員用通路は同じ構造になってるのだろう。私たちは特に何事もなく会場の隣の部屋である宇佐美さんの控室に到着した。
軽く会場を覗いた所、本当に広めの会議室を急ごしらえのステージに改装した感じだった。少々扱いが雑じゃないかと思ったが、ベテランでもなく、裏で落ち目が約束されたアイドルならこんなものかもしれない。
「じゃあ、私はここで一旦失礼しようか」
控室の前に立つ寸前で、アインスがいった。
苺ちゃんが、
「ありがとう。助かったわ」
と、いうも、
「いや、手伝いをここで打ち切るわけじゃないさ。あくまで私は部外者だからね。ライブが終わるまでは客席から監視させて貰うだけだよ。詳細は聞けず終いだったけど、私の役目は大体察したつもりだからね」
「ありがとう、助かるわ」
今度は私がいった。アインスは、
「そうだ鳥乃。あとで共闘を祝して素敵なBARでも」
「島津先生の家にぶち込めばいいのね?」
「それは勘弁願いたいな」
そういって、今度こそ客として会場の部屋に入っていった。
改めて控室の前に立つと、社長が部屋の戸を数回叩いた。すると、
「はい」
と、中から宇佐美さんの声。
「宇佐美? 入るわよ」
社長は戸を開けた。
控室は、テレビで見るような楽屋ではなく、狭い会議室の形をしていた。スペースの殆どを一台のテーブルが占拠し、囲んでる椅子のひとつに宇佐美さんは座っていた。鏡も備え付けられておらず、彼女の前には外から持ち込んだと思われる卓上ミラーと化粧品セットが置かれていた。
室内でひとり不安そうに俯いてた宇佐美さんは、私たちに虚ろな眼差しを向け、
「あ、社長、苺ちゃん、それに。……え?」
私に気づいた所で目を見開き驚く、
「え、えと、たしか、鳥乃さん?」
良かった。名前くらいは覚えてくれてたみたいだ。私は一歩前に出て、
「宇佐美さん久しぶり。今日はボディガードのバイトで同行してきたわ」
「ボディガード?」
久々に見た生の宇佐美さんは、在学中よりずいぶん綺麗になったと改めて感じた。
清純派らしく中学時代より伸びた髪は手入れが行き届いてさらさらしており、顔つきこそ素朴で未だ初々しさを十二分に残してるが、白を基調とし腋の開いたノースリーブの衣装が、そこに清潔感のあるエロスを際立たせる。その上で更に胸元を薄くみせる造りになってるようで、服の上から膨らみはほとんど伺えない。
「あなたが心配だったから雇ったのよ」
包帯を隠しながら、社長がいった。
「あ、あの、ごめんなさい」
いきなり謝りだす宇佐美さんに、
「どうして謝るのよ。あなたが悪いわけではないんだから」
と、苺ちゃん。
「それより、まだお化粧済ませてないじゃない。ほら、さっさと済ませるわよ」
そのまま宇佐美さんの下に歩み寄り、化粧セットに手を伸ばす。これでは、どっちが年上か分かったものじゃない。まあ、特別トロい宇佐美さんと、特別しっかり者の苺ちゃんコンビだから当然ではあるのだけど。
「あ、ちょっと待って頂戴」
化粧直しが始まってしまったら、ライブまでに済ませておきたかったことが実行できなくなる。
「? どうしたの?」
ちょっぴり年相応にきょとん、とする苺ちゃん。私は子供には目もくれず宇佐美さんに近づき、
「いや、久々に生のサミサミに会ったら、小中高同じのよしみでちょっとやっておきたかった事があるのよ。ちょっと立って貰える?」
「え? はい」
言われるまま立ち上がる宇佐美さんに、私は続けて、
「で、万歳して頂戴」
「はい」
宇佐美さんは不思議そうな顔で両腕をあげた。
私は、すぐに抱き着いた。
「へ? きゃっ」
なんて反応されてる間に、彼女の腋に顔を押し付けてくんくんぺろぺろ。さらに彼女を抱えたままもう片方の腋から衣装の内側に腕を差し込んだ。実はこの子、巷では知る人ぞ知る腋のエロいアイドルって評判を呼んでるのよ。そのくせ、袖口が肌に密着する素材のせいで中々隙間ができないから胸チラが見れそうで見れず紋々とするファンが続出。
だけど! 私は今日ついに! 未開の奥地に踏み込むことに成功したのよッ!
ぐへへ。直に触診した所、おそらくバストはA~Bカップ。衣装に隠された神秘の内側は、イメージ通りながら慎ましくも膨らみをもっていたらしい。なお、中学時代はAAだった。
そして、サミサミ最大のセックスアピールである腋はというと。……これは! 剃ってない。天然のつるつるだ!
「きゃああああああああああ!」
直後、悲鳴をあげる宇佐美さん。どうして? ファンが当然の欲求を実行しただけなのに。
「ちょっと、鳥乃さん何してるのよ?」
「ナニしてるのよ」
私が苺ちゃんに返事すると、社長が。
「鳥乃さん、これ以上すると契約破棄して追い出しますよ」
「嫌」
即答すると、社長は静かに、しかし間違いなくブチ切れた様子で私の襟を掴んで部屋の外へと連れだした。
そして、近くの壁に投げ捨てると、
「鳥乃さん。あなた一体何のおつもりですか?」
「何って」
私は壁を背に転がりながら、見下ろす社長の視線に割と本気で恐怖を覚えつつ、
「あんな美人がセックスアピール強い服着てたら、普通セクハラするって話じゃない。レズとしては」
「普通しません」
はあっ、と社長は一回ため息を吐いて、
「とりあえず、悪いけど“レズの肌馬”との契約は打ち切らせて頂きます。その後、先ほどのアインスという方と契約を結び直しますので、そのおつもりで」
と、背を向ける社長。
「サミサミはまだクスリは使ってないわ」
私はいった。
「え?」
社長は驚き振り返る。
「彼女の汗や体臭からはクスリの気配は感じなかったわ。人間の腋は汗もかきやすいし体臭も籠りやすいから、そこで何の気配も感じないってことは間違いないって話」
「あなた、まさかその為に」
「ついでに、セクハラされて正常に怯えてたのも証拠になるわ。ロストなら尚更ね」
私は起き上がり、
「私への依頼はサミサミの無実の証明と、巻き込まれた問題の解決よね。護衛も勿論するけど優先事項を考えて早速動かせて貰ったわ」
「鳥乃さん、あなた」
「レズとしてセクハラしたかったのも事実だけど」
「感心して損したわ」
なぜか社長は頭を抱えてしまう。
「それで、結局依頼は取り消すの? 私はそれでも構わないけど」
元々司令の指示で嫌々受けさせられた話だしね。あくまで優先は梓だ。
「契約は継続します」
社長は渋々といった様子でいった。
「ただし、今後サミサミに触れることを禁止します。破った場合は、契約を打ち切った上そちらの事務所に違約金を請求しますので、そのつもりで」
「う。了解」
これは困った。幾ら大人よりしっかりしてても苺ちゃんに手を出す気にはなれないし、どうやって宇佐美さんにレズするべきか。
「それと、私がいいと言うまで部屋の立ち入りを禁止します。これ以上ライブ前にケアを妨害されても困りますので」
しかも「しばらく外で待て」ときた。ガーン。
私は、ついショックで硬直してしまい、その間に社長は部屋に戻ってしまう。おかげでお情けを頼めなかった、畜生。
――現在時刻、午後18:55。
ライブ開始時刻とされる19時から5分前になって、やっと私は控室に戻ることを許可された。
「ただいまー。社長さん酷いって話じゃないギリギリまで戻さないなんて」
私はいいながら部屋に入り、
「お」
と、アイドルふたりを見て声を漏らす。
まず何より宇佐美さんは化粧直しで一段と綺麗な顔立ちに変わっていた。そして、彼女の背中には、追い出される前には無かった天使の羽の装飾が施されていた。着ぐるみに付けるようなキュートなもので、それがまた宇佐美さんにマスコットのような可愛らしさを増長させる。
ただ。その表情はまだちょっと気分が落ち込んでるように見えるが。
でもって、苺ちゃんは、局部こそ隠しつつ肌の露出高めのボンテージ姿。こちらは羽の装飾がないはずなのに、ふたり並んで立つと対比で悪魔の翼が生えてるように見えてしまう。しかも、ワイヤレスマイクと一体化した鞭がまた。
なんでこんな過激に色っぽい姿が似合うの、この小学生。
苺ちゃんは「ふふん」と笑い、
「どうよ。このステージ衣装。ふたりで並んで立つと凄い様になるでしょ」
と、得意気。
私はうなずき、
「うん。凄く似合ってるわ」
「でしょ」
「苺ちゃんが穢れ役を全部引き受けてるから、相対的にサミサミの純白なオーラが際立つって話ね」
暗に私はガキには興味ないよアピールしたつもりだったんだけど、苺ちゃんは余計調子を良くし、
「でしょでしょ。ほら、この場の全員が言ってるんだから、もっと自信持ちなさいってば」
と、宇佐美さんを立てる。口先だけじゃない。いまこの場で誰が一番輝くべきかを弁え、それを全力で支援してるように映った。
「う。うん」
宇佐美さんはいうも、まだ自信が持ててない模様。
「どうしたものかしら」
社長がいった。
「昼の部は悩む間もなく本番だから上手くいったのだけど、時間が経つほど苺ちゃんと見比べて自信を無くしちゃったようで」
「あー」
私からしたら、断然宇佐美さんのが可愛いし綺麗なんだけど、苺ちゃんの場合は実年齢疑いたくなるほど地に足がついてて、それが言動や顔つきに表れてるのよね。格が違いすぎて自信無くすのも分かる。
「今日のライブを乗り切ればいいなら手はあるけど」
私がいうと、
「本当ですか? お願いします」
社長がいったので、
「了解。サミサミ? ちょっといい?」
私はいった。
「いまからホテルに予約入れるから、ライブに失敗したらベッドの上で反省会ね」
「え? ほ、ホテ……?」
効果は抜群。いや、抜群すぎてワードだけで顔真っ赤に硬直しちゃった。
「ちょっと、あなた一体何を」
社長は顔を青くしていったけど、
「あー成程。そういうこと」
逆に苺ちゃんは、私の意図に気づいてにやりと笑い、
「いいじゃない。その時は私も一枚噛ませてよ、調教師必要でしょ?」
「い、いい苺ちゃん?」
まさか友人までもそんな事言いだすとは思わず、泣きそうな顔で3人を交互に見る宇佐美さん。
私と苺ちゃんは揃って悪い顔で、
「昼の部は成功できたんだし、失敗しなければいいって話でしょ? それより失敗して忘れられない夜を過ごすのが望み?」
「自信ないとか魅力ないとかマイナスの自己評価はいいから、練習でしてきた事を無我夢中でこなしなさいよ。同性3人に乱暴されるよりいいでしょ?」
さりげなく苺ちゃん、社長を巻き込んでる。いや、もしかしたらアインスが3人目かもしれないけど。
「うん……」
宇佐美さんは怯えながら、いった。
「鳥乃さんと関係持ったりなんてしたら、梓ちゃんに殺されちゃうよ」
まさか、ここで梓の名前が出てくるなんて。
私の天使って、他の子たちに一体どう思われてるんだろう。
「最悪よね。好きでもない男の食い物にされるのも死ぬほど辛いけど、女の子同士なんて吐き気がするでしょ。その上女の嫉妬に巻き込まれるなんて」
事情は知らないはずなのに、苺ちゃんはしっかり梓の件を話に加える。内容に無理も感じもないし、ちょっと舌回りすぎじゃないだろうか。
この子に弱点ってあるのだろうか。そう思ってたら。
「うん。苺ちゃんなら別にいいんだけど」
宇佐美さんは口を漏らしてから、ハッとなって、
「あ、えっと、ち、違うの。そうじゃなくって、大好きな苺ちゃんなら耐えれるだけだから」
「だ、大好きって」
「あ゛」
一歩二歩と後ずさる苺ちゃんに、余計やらかしたと気づいた宇佐美さん。
顔文字でいうと、まさに(><)な顔で、手をぶんぶん振り、
「ち、違うよ。LIKEだから! LOVEじゃないから! 私ノーマルだもん。いつも苺ちゃんに助けられっぱなしでも、それで女の子に恋なんてしないから、お願い信じて」
「しかも苺ちゃんに恋したらロリコンの称号も付与よね」
つい、私は言ってしまい、
「え? あああああああああああああああああああ」
パニックを起こす宇佐美さん。
「分かった。分かったから」
宇佐美さんの肩を掴み、苺ちゃんがいった。
「サミサミがノーマルなのは分かったから落ち着きなさいよ」
「い、苺ちゃん」
「大丈夫よ。もし道を踏み外しても責任持って正気の道に戻してあげるから。天と地が避けても宇佐美を嫌いになんかならないから、この苺を信用しなさい」
「やっぱり誤解されてるううううううう」
ついに宇佐美さんが泣きだした。
そして、苺ちゃんの意識が高すぎる長所は、一周回って致命的な弱点にもなってると認識した瞬間だった。
残念ながら、ライブは無事成功した。
途中サミサミが機材のコードに足を引っ掛け盛大に転んだけど、そこは不問にしておく。
MISSION4で伝えた通り、元々高村苺は遊☆戯☆王GERICHTのキャラだったのですが、正直いうとまさかまた再登場させる日がくるとは思ってませんでした。
前回は正直あまり苺を描写できなかったのですが、今回は過去の反動ってほどガッツリ苺を書いたと思います。