遊☆戯☆王THE HANGS   作:CODE:K

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今回の話は、水姫とフィーアを主役においたスピンオフになります。本編未読の方はMISSION24まで読んでおくことをお勧めします。
時系列は、MISSION24~MISSION25の間くらいを想定しつつも、あえて明確に設定してはいません。その為、漫画でいう別雑誌掲載版程度に本編との差異が生じる可能性があります。
次回更新時に第2章と第3章の間にフィーア外伝の章を作成して移動する予定です。

※ フィーア外伝だけを別のページに移す予定はありません。そこまで話数を伸ばす予定がないのと、本編を未読のまま読まれることを想定してない故です。


フィーア外伝
VIER1-転校生は処分人(スローター)!?


 ボクの名前は藤稔 水姫(ふじみのり みずき)。陽光学園小学部の六年生。

 そして、藤稔唯一のかすが様ライク勢らしいよ。

「今日は転校生を紹介します」

 朝のホームルーム。

 この日、担任の先生は、いつものように教卓に立つと、挨拶もそこそこに言ったんだ。

 途端、クラスはざわめきだし、

「どんな子だろ?」「変人が増えなければいいけど」「ドーブラエ ウートラ。おはよう、ヴェーラだよ。どんなフィーアがくるか楽しみだね」

 って、色んな反応が飛び交います。

 そんな中、ボクだけ(3人目はいつもの事だからスルーするよ)は知ってるんだ。今日、フィーア・ヴィルベルヴィントこそフィーちゃんがボクの学校に転入するって。

 どのクラスに入るかは分からなかったけど、この様子だとボクのクラスに転入するみたい。よかったー。

 ボクは昔から体が弱かったんだ。

 髪も短めだし、一人称ボクだし、木更ちゃんや深海ちゃんみたいな淑やかさもないから、自分でいうのもあれだけど見た目は割とボーイッシュなほうだと思う。男子とつるんでたら、性別を間違われたことも数回あるよ。でも、体育の授業はほぼ全部見学だし、体力もないし、季節の変わり目には大抵体を壊して数日入院しちゃう。髪が短いのだって長いと病院でケアできないし手術の邪魔だろうからって理由だし、髪型が左右非対称(アシンメトリー)なのはボクの精一杯のお洒落。酷いときには一か月の中で通学した日より病院に通院・入院して休んだ日のほうが多いときもある位だった。つい、この前までは。

 そんなボクに健康をプレゼントしてくれたのがフィーちゃんでした。

 フィール・カードっていうんだっけ? 彼女から貰ったカードをロケットペンダントに入れて首にかけてから、あまり体調を崩さなくなったんだよ。カードの効果で常にちょっとずつ回復が掛かってるだけだから、カードを手放すとすぐ前の体に戻っちゃうんだけど、それでも体育の授業に参加できるようになったおかげで、少しずつ体力も付き始めてるのが分かるんだ。

 フィーちゃんとは前にちょっと色々あったけど、危ない所を二度も助けてくれて、いまではボクの救世主で大親友!

 そんな彼女が今日から同じ学校の同級生になるのだから、嬉しくて嬉しくて、ふわあ、興奮しすぎてちょっぴり寝不足かも。

「それでは、新しいお友達を呼びますね。入ってきてどうぞー」

 と、先生は教室の扉を開け、外で待ってた転校生を中に招きます。

 すると、入ってきたのは。

 まるで氷上みたいにくるくる回転しながら教卓の傍まで移動し、サタデーナイトフィーバーのポーズを決めるひとりの女の子。

「オウ、イエー! 私の名前はクワトロ・ベルで~す! みんな、よろしくーっ♪」

 

「誰ーーーーっ!!!!!!」

 

 この日ボクは、人生で初めて喉が潰れそうってほどの大絶叫をあげました。

 まあ、クワトロ・ベルがフィーちゃんの偽名なのは知ってるんだけどね。

 

 

 1時限目の授業は、フィーちゃんとの自己紹介や交流を兼ねて名目上自習に変わりました。

「クワトロさんってドイツ人だったの?」

「そーだよー。ジャパンには何年も住んでるけど、う~ニホンゴムズカスィー」

「好きな食べ物って何?」

「甘いお菓子! ジャパンにはショートケーキにマンジュウに美味しいスイーツが多くて理想郷だよー」

「好きな芸能人は?」

「ゲイ、ノージン? うー私ドイツ人だから分からないネー」

 次々に出されるクラスメイトからの質問に、ハイテンションのまま答え続けるフィーちゃん。正直、最近まで休みがちだったボクよりずっとずっとクラスに溶け込んじゃってる。

 髪留めこそ変えてるけど、いつも通りのポニーテールに、日本人とは違う顔立ち、そしてボクたちよりちょっと白めの肌。間違いなく見た目はボクの知ってるフィーちゃんなんだけど、性格が正反対。一瞬、双子か何かだと疑いそうになっちゃったけど、

(甘いお菓子が好きって、やっぱりフィーちゃんだよね?)

 一体、どうしちゃったんだろう。ボクがうーんうーんと考えこんでると、

「どうしたのよ、さっきから」

 と、眼鏡をかけた女子生徒、旗枷 紫水(はたかせ しすい)ちゃんが声をかけてきました。

 ボクたちのクラスの委員長で、同時に生徒会長。おまけに、さっき「変人が増えなければいいけど」って呟いたのも、この子。

 紫水ちゃんは続けて、

「さっきもあの子を見るなり大声出して。知り合い?」

「うん」

 ボクはうなずき、

「フィー……じゃなかったクーちゃんが転校してくるのも知ってたんだけど。ボクの知ってるクーちゃんと全然違うんだよ」

「私も気になってるのよ」

 紫水ちゃんは難しい顔で、

「どっかで見たことある気がするのよね、あの子。ところで水姫、さっきフィーとか言いかけてたのは?」

「あ、うんえっと」

 ボクがつい、本名をばらしそうになった直後、

「ああー。マイフレンド水姫ちゃん。ちょっと暗いぞー?」

 って、フィーちゃんがボクの前までひとっ飛びできました。言葉通り、座ったままジャンプでぴょんっと。

 直後、

「おーっ」「なにこれ」

 って、周囲から動揺と歓声。フィーちゃんはピースサインを掲げて、

「椅子に座ってどこでも移動。これぞゲルマン忍術。ぶいっ」

 クラスメイトが拍手する中、

「で、マイベストフレンド水姫ちゃん、どしたのー?」

 って、無邪気な笑みでフィーちゃんはいいます。

 ボクはよく分からないネガティブな感情に胸がチクリとなりながら、

「ううん。フィ、クーちゃんすごいなあって」

「なにが?」

 きょとん、とするフィーちゃん。そこに、

「ねえ、さっきのゲルマン忍術どうやったの?」

「教えて教えてー」

 って、質問責めしてたクラスメイトたちが、ボクの席ごとフィーちゃんを再び取り囲んじゃって。

「いいよー。じゃあまずはガ〇ダムファイターになろー?」

「お-っ」

 普段のフィーちゃんとは正反対の陽気な話術も相まって、ボクを輪の中心に巻き込みながらも、ボクの存在を全く無視した質問フェイズに、ボクのテンションはどんどん沈んでいったのだった。

 みんなにフィーちゃんを取られたみたいで。でも、同じくらいフィーちゃんにみんなを取られたみたいでもあって。

 何よりボクの知ってるフィーちゃんがいなくなっちゃったみたいで。

(っていうか)

 努力してもガン〇ムファイターになるって無理だよね? 何で誰もツッコまないの? そもそも、どうしてフィーちゃんG〇ンダム知ってるの?

 ボクは、余計にフィーちゃんが分からなくなったんだ。

 

 フィーちゃんへの質問フェイズは、二時限目の授業開始ギリギリまで続いた。

 ボクは、それを否応なしにずっと聞かされ続けてたんだけど、おかげで少し気づいたことがあるんだ。

 元々フィーちゃんは、無知で世間ズレしてる所がある。

 いまの彼女も、本質的には変わらないみたいで、よくよく観察してると、ちょくちょく「ドイツ人だから分からない」って返事したり、頓珍漢なことを言ったのに気づけば「ゲルマンジョーク」と誤魔化してるのが分かった。それも、双方とも頻繁に。

 フィーちゃんは最後まで笑顔とハイテンションを保ってた。嫌な顔ひとつせず、愚痴や拒否の言葉も漏らさずに。

 けど、ボクの目はしっかりと捉えてたんだ。彼女が段々疲れていくのを。

(もしかして)

 フィーちゃんは、わざといまのキャラを演じてるの?

 

 

 そんなボクの疑問は、次の休み時間に明らかになったんだ。

 三時限目・四時限目は体育の授業。ボクたちのクラスは、まず女子が一旦廊下で待機して、男子が先に着替える。その後、男子が全員教室を出てってから女子が着替えるルールになっていた。

 他の女子が着替える中、ボクは普段着のまま、閉めたカーテンの隙間から窓の外を眺める。運動場では先に着替え終えた男子がドッジボールをして遊んでいた。

「どーしたのー?」

 フィーちゃんが声をかけてきた。ボクは首を横に振って、

「ううん、何でもないよ」

 実際、本当に何の意味もなかった。ただただ、フィーちゃんが別人になってる原因が分からなくて、不満なのか不安なのか色んな感情で滅茶苦茶になってて、何となく外を眺めてただけなんだ。

 本当はいますぐにでも理由を聞きたい。でも、いまフィーちゃんが接触してきても。

「クワトロさん、一緒に行こ」「運動場まで案内してあげる」

 ほら、やっぱり。

 ふたりで話したくても、すかさずクラスメイトが数人やってきたわけで。これじゃあ、聞きたいことも訊けないよ。はあっ。

 それに、今日ずっとボクひとりだけが蚊帳の外みたいで。もうほんと気分が駄々下がりだよ。

 ホントは今日、すっごい楽しみにしてたのに。なんでこうなっちゃったんだろ。とか、口には出さないで考えてたら、

「ごっめーん。実は水姫と先に約束しちゃってー」

 って、フィーちゃんはいったんだ。ボクそんな約束ひとつもしてなかったのに。

 しかも、フィーちゃんがボクの名前を出して断った途端、

「ああ、そういえば水姫ちゃんと前々から友達だっけ」「なら仕方ないっか」「水姫ちゃんのほうが適任だものね」

 とかいって、驚くほど簡単に引き下がっちゃったんだ。嘘ぉっ!?

「だから水姫。早く着替えよー?」

 フィーちゃんは笑顔でいった。しかも見ると、フィーちゃんもまだ普段着のままだったんだ。質問責めに遭いながらでも、着替えようと思えば着替えれるのに。そういえば外国の人って他人とお風呂も入りたがらないんだっけ? 裸見せるの抵抗あるのかな?

「う、うん」

 とりあえずボクはうなずく。気づくと、まだ着替えてないのはボクたちふたりだけだった。そして、

「じゃあ私たち先に行ってるねー」

 女子のひとりがいうと、残ってた数人を連れて教室を出ちゃったんだ。まるで、ボクに気を遣ってくれたみたいに。

 途端に、しーんと静まる教室。

「行ったみたいですね」

 フィーちゃんが小声でいった。さっきまでのハイテンションじゃなく、ボクのよく知るフィーちゃんの顔と声で。

「すみませんでした。水姫の様子がおかしいのは気づいてたのですけど、まさかここまでゆっくり話をする時間が取れないとは思わなくて」

「……。……ううん」

 ボクは、急にキャラが戻ったフィーちゃんに唖然し、数秒ほど返事に遅れてから、

「やっぱり演技だったんだ。さっきまでのフィーちゃん」

「はい。シュウから普段の私と正反対のふざけたキャラで学校にいけ(MISSION23Part2参照)と言われまして。アインスを参考に(MISSION24参照)やってみたのですが」

「そうだったんだ」

 詳しくは分からないけど。でもボクはようやく事情を聞けて、ちゃんと理由があってフィーちゃんがあんなキャラをしてたんだって分かって、ほっとなった。

「じゃあ、フィーちゃんは間違いなくボクの知ってるフィーちゃんで間違いないんだよね?」

 ボクが訊ねると、

「はい」

 って、フィーちゃんはうなずいて、

「間違いなく、私は“処分人”フィーア・ヴィルベルヴィントでイエェェェェエエイ! 水姫のベストフレンド。クワトロ・ベルだよー」

「って、突然戻った!?」

 驚くボク。その数秒後、廊下を横切る誰かの足音が聞こえて。

「え?」

 もしかして。

 ボクは、足音が遠ざかるのを耳で確認してから、

「いま、誰かが近づいてきたからハイテンションのクーちゃんに戻ったの?」

「はい」

 うなずくフィーちゃん。テンションはボクの知ってるフィーちゃんに戻ってた。

「実際にやってみると、身元を偽るのにも便利だと分かりましたので」

「そっか」

 そういえば、前にフィーちゃんが自分の仕事を明かしたときに、殺し屋とか何か物騒なことを言ってた気がする。詳しくは分からないけど、確かにクーちゃんの正体がフィーちゃんってバレたら不味いよね、たぶん。

 ところで、フィーちゃんは、さっきアインスを参考にしたって言ってたけど、確かお祭りのときに会ったフィーちゃんのお姉さんだよね? 何だか宝塚みたいな見た目とコテコテの王子様っぽい言動取る人だったのを覚えてるけど。……ってことはフィーちゃんの目にはアインスさんがあんな風に映ってたんだ。

 えっと、どうしよう。気づいちゃいけない地雷に気づいちゃった気分だよ。

「ところで」

 ここでフィーちゃんはいった。

「水姫に一体何があったのですか? 水姫の様子が普段と違うのは分かったのですが、原因が分かりません」

「え?」

 ボクは、今更そんなことを改めて聞かれ、

「ぷっ、あはは」

 って、笑っちゃった。何だろ、本当はまだ半分しか解決してなかったはずなのに、すべて終わった後みたいに感じちゃって。

「水姫?」

「ごめんごめん」

 きょとんとするフィーちゃんにボクはいい、

「多分、もう大丈夫だから。ありがとうフィーちゃん」

 嘘はいってない。フィーちゃんはちゃんとボクのことを気にしてくれたし、クラスメイトもボクに気を遣ってくれた。だから、たぶん残り半分の「フィーちゃんにクラスメイトを取られて、クラスメイトにフィーちゃんを取られた気がした」ってのも、気づいたら些細な問題に終わってそうな気がする。

 だけど。

 我儘いうなら、あともうひとつだけボクだけの特典が欲しいなーとも思うんだ。皆になくて、ボクだけに許される特別な何か。

 なんて思ってたら、窓から見える運動場では、もう体育の先生がいてボクたち以外のクラスメイトが全員集まってるのが見えた。そして、デュエルを始めてるんだ。

 これはたぶん、今日の体育はレクリエーションでデュエルになりそう。

 そうだ。

「ねえ、フィーちゃん。ボクとデュエルしようよ」

 ボクは、そっと窓を締め直していった。

「デュエルですか?」

 引き続ききょとんとするフィーちゃんに、

「身元を偽ってるんだから、学校では1軍デッキじゃなくて2軍デッキを使うんでしょ? みんながいないうちに、1軍のフィーちゃんとデュエルしたいなって」

「1軍? 2軍?」

「あ、えっと」

 しまった、通じてない。ボクたちの間ではデッキを複数持ってると1軍と2軍以下で呼称してたから。こういうのって言いかえるって何ていったっけ、えっと。

「め、メインデッキとサブデッキのこと」

「そういう事ですか」

 やっと、フィーちゃんは納得して、

「はい。水姫のいう通り、本来のデッキを使うわけにはいきませんから、フィール・カードを0枚にした古代の機械デッキを支給されてます」

「そのデッキじゃなくて、処分人フィーちゃんのデッキとデュエルしたいんだ」

 ボクだけが、フィーちゃんの本気デッキとデュエルしたことがあるんだって密かな自慢にしたいから。

「分かりました」

 フィーちゃんはいった。

「いいの?」

「水姫の頼みですから」

 そういって、フィーちゃんは髪留めの中から隠し持ってた指輪を1つ出してはめる。すると、突然指輪が光り始めたと思ったら、フィーちゃんはデュエルディスクを装備してたんだ。

「これも、フィール?」

 ボクが訊ねると、

「はい。この指輪(MISSION14参照)にはフィールが内蔵がされてて、予めデュエルディスクごと仕事用のデッキを《封印の黄金櫃》で異空間に隠してました」

「フィールって何でもできるんだ」

 なんか凄いなあ。うまく説明はできないんだけど。

 ボクは思いながら、普通に机からデュエルディスクを取り出した。

 ボクとフィーちゃんで行う初めてのデュエルが始まった。

 

 

水姫

LP5000

手札4

[][][]

[][][]

[]-[]

[][][]

[][][]

クワトロ

LP4000

手札4

 

 

 先攻はボクに決まった。

 ボクは、最初の手札を4枚引く前に、

「早速だけど、スキル発動! 《LP増強α》!」

「デュエル開始時に発動するスキルですか」

 確認するフィーちゃんに、

「うん。このスキルの効果によって、ボクの初期ライフは通常より1000高いLP5000でデュエルするよ」

 

水姫 初期LP4000→5000

 

 宣言すると同時に、ボクの前方に表示されたソリッドビジョンのライフポイントの数値が変化する。デュエルディスクには最初から適用後のライフポイントで表示されてるんだけどね。

 ただ、フィーちゃんの名前はデュエルディスクでもビジョン上でもクワトロ名義。ここは、まあ仕方ないのかな。

「じゃあ、改めてボクの先攻でいくね」

 ボクは今度こそ手札を4枚引いて、

「あ。いい手札」

 って、ちょっと喜ぶ。まあフィールを使ったんだから当然なんだけど。

「いくよ。ボクは手札から《アロマージ-ジャスミン》を召喚、さらに続けて《アロマージ-ローズマリー》も召喚。ジャスミンはボクのライフが相手より多いときに、通常召喚とは別に1度だけジャスミン以外の植物族を召喚できるんだよ。さらにフィールド魔法《アロマガーデン》を発動」

 ボクがカードを発動すると、ソリッドビジョンによって辺りはお花がいっぱい飾られた庭園に姿を変える。

「《アロマガーデン》の効果。ボクの場にアロマモンスターが存在する場合、1ターンに1度、ボクのライフを500回復させる」

 庭園いっぱいのお花から優しい色合いの花粉が舞い上がると、

 

水姫 LP5000→5500

 

 ボクのライフはさらに上昇。

「この効果の発動後、次のフィーちゃんのターン終了時まで、ボクののモンスターの攻撃力・守備力は500アップする。さらに、ライフが回復したことでジャスミンとローズマリーの効果も発動するよ。ジャスミンは1ターンに1度、ボクのライフが回復したときにカードを1枚ドローし、ローズマリーは1ターンに1度、ボクのライフが回復したときにモンスター1体の表示形式を変更する。ボクはデッキからカードを1枚ドローして、ジャスミンの表示形式を守備表示に変更」

 

《アロマージ-ジャスミン》 攻撃力100→600/守備力1900→2400

《アロマージ-ローズマリー》 攻撃力1800→2300/守備力700→1200

 

 これで、攻撃力の低いジャスミンを守備表示にしながら、ローズマリーの攻撃力を2300まで上昇。さらにドロー。

 ボクは2枚になった手札をさらに全部セットして、

「カードを2枚セット。ターン終了」

 と、ボクのデッキ最高の初手で先攻1ターン目を終えた。

 

水姫

LP5500

手札0

[《アロマガーデン》]

[《セットカード》][《セットカード》][]

[][《アロマージ-ローズマリー》][《アロマージ-ジャスミン(守備)》]

[]-[]

[][][]

[][][]

クワトロ

LP4000

手札4

 

「私のターン、ドローします」

 フィーちゃんのターンになった。

「永続魔法《地獄門の契約書》を発動。デッキから《DDスワラル・スライム》をサーチします」

 やっぱり。

 フィーちゃんは当然のように《地獄門の契約書》を引き当て、《DDスワラル・スライム》を手札に加えた。

 前に一度だけフィーちゃんのデュエルをみたときも、フィーちゃんはまず《地獄門の契約書》から入ってたんだ。その時は、すでに手札にスライムがあったみたいで別のカードをサーチしてたけど。

「そして、手札の《DDスワラル・スライム》の効果。このカードは手札のDDと融合魔法カードなしで融合します。私は《DDスワラル・スライム》と《DDリリス》を融合」

 やっぱりきた、《DDD烈火王テムジン》! ボクはそう思ったんだけど、

「夜の名を持つ女悪魔よ、神秘の渦とひとつになって、新たな救世の触媒となれ。融合召喚! 目覚めろレベル7《DDD神託王ダルク》!」

「テムジンじゃないの!?」

 代わりに出てきたのは、1体の女戦士型のDDD。相手がテムジンだったらジャスミンもローズマリーも倒せないよって算段だったのに、ダルクの攻撃力は2800。こっちだとボクのモンスターどっちも倒されちゃうよ。

「続けていきます。ステージ解放。開け、時空の扉。召喚条件はDDモンスター1体。私は《DDD神託王ダルク》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、目覚めろリンク1《DD魔導賢者ゲイツ》!」

 そして、EXモンスターゾーンからメインモンスターゾーンにカードを移すためのゲイツ。こっちはちゃんと前と同じ。

「手札から《DDナイト・ハウリング》を通常召喚。効果によって墓地の《DDリリス》を蘇生。《DDリリス》には1ターンに1度、自身が召喚・特殊召喚した場合に、墓地のDD1体のサルベージか、EXデッキからDDのPモンスター1体を回収する効果を持ちますが、いまは使いません。そして、レベル4《DDリリス》にレベル3《DDナイト・ハウリング》をチューニング」

 うわっ! ナイト・ハウリングは読んでたけど今度はレベル7のシンクロ? サイフリートじゃないの?

「次元の扉よ、疾風の速さを触媒に新たな王を生み出せ。シンクロ召喚! 目覚めろレベル7《DDD疾風王アレクサンダー》!」

 出てきたのは風属性のDDDモンスター。攻撃力は2500とサイフリートやダルクより低いけど、それでもちょうどジャスミンを戦闘破壊できちゃう数値。

「《DD魔導賢者ゲイツ》のモンスター効果。このカードは自身をリリースして墓地のDDモンスターを手札に加える。かつ、それがエクストラデッキに戻る場合、かわりに特殊召喚が可能。私はゲイツをリリースし、墓地の《DDD神託王ダルク》を特殊召喚」

 ここでフィールドに舞い戻ってきたダルク。

「そしてアレクサンダーのモンスター効果。このカードが場にいて、DDが召喚・特殊召喚された場合に発動。墓地からレベル4以下のDDを特殊召喚できる。墓地の《DDリリス》を特殊召喚」

「うわっ」

 テムジンが来ないと思ったら、こっちも蘇生効果持ちだった。効果の範囲はアレクサンダーのほうがずっと弱いけど、《DDリリス》っていえば、さっきフィーちゃん嫌なモンスター効果の使用を後回しにしてたような。

「《DDリリス》のモンスター効果を今度は行使。私は墓地の《DDナイト・ハウリング》を手札に加えます」

 だよね。うわあ、ボクの知ってる展開とは別の手順でガンガンまわしてるよフィーちゃん。

(でも)

 他に効果が隠れてないなら、実はテムジン&サイフリートの盤面より助かってるんだよ。フィーちゃん、それ。

「カードを1枚セットしてバトル。《DDD疾風王アレクサンダー》で《アロマージ-ジャスミン》に攻撃」

 結局、フィーちゃんはボクのセットカードに無警戒なまま攻撃してきた。

 ボクはちょっと得意げに、

「甘いよフィーちゃん。罠カード《ドレインシールド》!」

 と、カードの発動を宣言した。

「この効果でアレクサンダーの攻撃を無効にして、攻撃力分のライフを回復」

「ならダルクで」

「それだけじゃないよ」

 ボクは続けていった。

「ボクのライフが回復したことで、ジャスミンとローズマリーの効果も発動。デッキからカードを1枚ドローし、ダルクには守備表示になってもらうね」

「2体とも止めるための《ドレインシールド》でしたか」

 フィーちゃんは納得しながら、《DDD神託王ダルク》を守備表示にする。ボクはさらにカードを1枚引き、

「さらに永続罠《潤いの風》を発動。1ターンに1度、1000LPを払ってデッキのアロマモンスターをサーチするよ。ボクは《アロマージ-マジョラム》を1枚デッキから手札に」

 結果、さっき手札を全部消費したのに、ボクの手札はもう2枚。しかも1000ライフを払ったはずなのに、

 

水姫 LP5500→8000→7000

 

 ボクのライフは、ほとんどフィーちゃんのライフの倍。

 フィーちゃんやフィールを使うみんなが強いのは、ドロー運を強化して毎回「完璧な手札だ」ができるのが多いと思うんだ。だからボクも同じ土俵で闘えば、もしかすればフィーちゃんにだって勝てるはず。

 いまのところ、ボクの推測は正解に向かって動いてる。フィーちゃんにも勝てたら、いままで体のせいで不利だったかすが様争奪戦(MISSION20.5参照)だって勝てる。だよね?

「私はこれでターン終了です」

 フィーちゃんがいった。やった! フィーちゃんを相手にこのターンを耐えきったよ。

 

水姫

LP7000

手札2

[《アロマガーデン》]

[][《潤いの風》][]

[][《アロマージ-ローズマリー》][《アロマージ-ジャスミン(守備)》]

[]-[]

[《DDリリス(守備)》][《DDD神託王ダルク(守備)》][《DDD疾風王アレクサンダー》]

[][《地獄門の契約書》][《セットカード》]

クワトロ

LP4000

手札2

 

「ボクのターン、ドロー」

 調子を良くしながら、ボクはカードを1枚引く。

「そして、1000ライフ払ってもう一度《潤いの風》の効果を使用。今度は」

 って、デッキの中を確認しようとしたら、

「永続罠《誤封の契約書》を発動。この効果によって、ターン終了時までフィールドの罠カードの効果は無効になります」

「あっ」

 サイフリートがいないから安心してたら、そんなカードを伏せてたなんて。

(まあ、仕方ないかあ)

 なんて思ってたら、

 

水姫 LP7000→6000

 

 ボクのライフが減少してたんだ。あれ?

「どうしてボクのライフ」

「《潤いの風》のコストは発動するために払われたものです。発動直後に効果が無効にされても払い戻しはされません」

「うそっ」

 そうなんだ。ボクは一瞬思ったけど、そういえば木更ちゃんの《スキルドレイン》も直後に対処されても払ったライフは払いっぱなしだったっけ。

 でも、まあいっか。ライフはまだいっぱいあるもん。それに、

「こっちは大丈夫だよね? 《アロマガーデン》の効果を再び発動。ボクのライフを500回復して、ボクのアロマモンスターの攻守を再び500アップ。さらにジャスミンとローズマリーの効果も発動。カードを1枚ドローして、アレクサンダーも守備表示になっちゃえ」

 

水姫 LP6000→6500

 

 ボクのライフは再び回復し、これでフィーちゃんのモンスターが2体とも守備表示に。

「いくよ。ジャスミンの効果で手札の《アロマージ-カナンガ》を召喚。そして、照らして! ボクのサーキット」

 天井から一筋の光が降り注ぎ、床にリンクマーカーが描き出される。

「リンク召喚ですか」

 フィーちゃんの言葉に、ボクはうんとうなずき、

「召喚条件は植物族モンスター2体。ボクはジャスミンとカナンガをリンクマーカーにセット。リンク召喚! 咲いて! リンク2《アロマセラフィ-ジャスミン》!」

 こうして、ボクの場に現れたのは《アロマージ-ジャスミン》に翅が生えたモンスター。攻撃力は1800。

「《アロマセラフィ-ジャスミン》のモンスター効果。リンク先のボクのモンスター1体をリリースして発動。デッキから植物族モンスター1体を守備表示で特殊召喚するよ。ボクは《アロマージ-ローズマリー》をリリースしてデッキから《ローンファイア・ブロッサム》を特殊召喚。さらにローンファイアの効果で自身をリリース。《アロマージ-ベルガモット》を特殊召喚!」

 基本的に《アロマセラフィ-ジャスミン》の効果で特殊召喚しようとするとモンスターは守備表示になっちゃうんだけど、実はこの効果には《ローンファイア・ブロッサム》を経由することで攻撃表示で出せるっていう裏技があるんだ。

「上手いですね、水姫」

 フィーちゃんがいってくれた。ボクは嬉しくって「えへへ」って笑いながら、

「でも、まだボクのターンは終わってないよ。ボクは手札から《クレーンクレーン》を通常召喚」

 ここでボクはアロマでも植物族でもないモンスターを場に出す。

「《クレーンクレーン》は召喚成功時、墓地からレベル3のモンスターを蘇生できるんだよ。ボクは《アロマージ-カナンガ》を蘇生」

「レベル3のモンスターが2体ですか」

「うん」

 ボクはうなずいて。

「ボクはレベル3の《クレーンクレーン》と《アロマージ-カナンガ》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築」

 場に銀河の渦が出現し、2体のモンスターが霊魂となって取り込まれる。

 直後、銀河ではなくボクの胸元で49の数字が描き出され、服の内側に入れてたロケットペンダントが浮かび上がった。

 フィーちゃんが「え!?」て顔で驚く。

「水姫? もしかして、いまから召喚するモンスターは」

 訊ねられる中、返事の代わりにボクはペンダントを開き、中で光り輝いてる1枚のカードをデュエルディスクの上に置く。

「ボクの命を護り続ける幸せの青い鳥、いまこそ羽ばたけ! エクシーズ召喚。開け、No.49! ボクとフィーちゃんの絆、秘鳥フォーチュンチュン!」

 ボクの場に守備表示で出現したのは、まさに1羽の青い小鳥。そして、ボクとフィーちゃんの友情を語る(MISSION18参照)にかかせない、フィーちゃんから貰ったボクのフィール・カード。その攻守は400/900と凄く低いけど、いまは《アロマガーデン》の効果で900/1400とちょっとだけ強くなってる。

「まさか、デュエルで出されるとは思いませんでした」

 フィーちゃんはいった。

「私にはデュエル中での使い道が浮かばないカードでしたから」

 それはちょっと聞きたくなかった事実かも。

「でも、水姫のデッキなら確かに相性の良いカードですね。《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》」

「うん」

 このカードは自身が破壊される際にオーバーレイ・ユニット1つを身代わりでき、ボクのスタンバイフェイズ毎に500ライフを回復する効果を持っている。今回はカナンガを使ったけど、《ローンファイア・ブロッサム》を使って出すこともできて、ボクにとってはデュエルでも大活躍なんだよ。

 あ、このフォーチュンチュンはデュエルディスクにはちゃんとEXデッキの1枚として登録させてあるから、ルール違反はしてないよ? そんなプログラムを作る技術もないしね。

「カードをセット。バトル! 《アロマセラフィ-ジャスミン》で《DDD神託王ダルク》に攻撃」

 ジャスミンが羽ばたくと、辺りに優しい色合いの風が吹きなびき、神託王ダルクはその風を浴びる。すると、モンスターは浄化されたように穏やかな顔を見せながら消滅。その際、風はフィーちゃんにまで届いて、

 

クワトロ LP4000→3700

 

 守備表示モンスターと戦闘したのに、彼女のライフがちょっと減る。

「貫通ですか」

「うん。でも、ただの貫通じゃないよ。《アロマージ-ベルガモット》で《DDD疾風王アレクサンダー》に攻撃!」

 続けてベルガモットもフィーちゃんの守備表示モンスターを戦闘破壊すると、

 

クワトロ LP3700→2800

 

 フィーちゃんのライフがさらに減少する。

「どちらも貫通効果を? これは」

 不思議がるフィーちゃん。ボクが見たかった通りの驚きをしてくれるフィーちゃんに、ボクはすっごく嬉しくなりながら、

「ベルガモットの効果だよ。ボクのライフがフィーちゃんのライフより高いと、このモンスターはボクの植物族モンスターすべてに貫通効果を持たせてくれるんだ」

「そういう事ですか」

「そして」

 ボクはビシッと指さして、いうんだ。

「フィーちゃんの契約書カードは、フィーちゃんのターンの初めに1000ダメージを与えるはず。これでボクがターン終了すれば、フィーちゃんのライフはもうたったの800!」

「その通りです」

 肯定するフィーちゃんに、

「やった。ボクはこれでターンエンド」

 と、ターンを明け渡したんだ。

 

水姫

LP6500

手札1

[《アロマガーデン》]

[][《神の恵み》][《セットカード》]

[《アロマージ-ベルガモット》][《No.49 秘鳥フォーチュンチュン(守備)》][]

[]-[《アロマセラフィ-ジャスミン(水姫)》]

[《DDリリス(守備)》][][]

[][《地獄門の契約書》][《誤封の契約書》]

クワトロ

LP2800

手札2

 

「私のターン、ドロー」

 フィーちゃんはカードを1枚引き、

「スタンバイフェイズ。私は契約書1枚につき1000ダメージを受けます」

 

クワトロ LP2800→800

 

 ボクがいった通り、クーちゃんのライフが一気にフォーチュンチュンでも倒せる圏内に入る。《DDリリス》がいなかったら、フォーチュンチュンも攻撃してボクの勝ちだったのに。

「強いですね、水姫」

 フィーちゃんが褒めてくれた。

「ほんと? フィーちゃん?」

「はい。驚きました」

 フィーちゃんの言葉に、ボクは素直に「やった」って喜んでると、

「ですが、おかげでこのスキルを使うことができます」

 って、なんかフィーちゃんの口から不穏な言葉が。

 どういうこと? ボクは言おうとしたけど、その前に。

「スキル発動。《新規雇用の契約書》!」

 フィーちゃんがいい、直後辺りの光景が急にブレだしたんだ。

 ボク自身やフィーちゃんは変わらないのに、《アロマガーデン》のビジョンとか、机とか窓とか黒板とか、どれもこれも二重三重に見えだして。これって一体。

「このスキルは私のライフが1000以下の場合に使用可能。相手のフィールドまたは墓地からモンスターを1体選び、元々の攻撃力が同じDDモンスターをランダムに1枚エクストラデッキに加えます」

 直後、フィーちゃんの前に1枚の契約書が出現すると、ジャスミンのブレた中の1体が他のブレから離れ契約書の中に入っていく。直後、契約書は光を帯びながら小さくなっていき、辺りが元の光景に戻ると同時に1枚のカードになってフィーちゃんの手元に渡ったんだ。

「契約完了。私の力に、アロマの力を持つ新たな王が加わりました」

 フィーちゃんはいった。その意味は、ボクにはまだ分からなかったけど、

「お待たせしました。デュエルを再開します」

 って、デュエルを再開するフィーちゃんから、たぶんフィールだと思う何かがごっそり消耗してるのだけは分かったんだ。

「手札から永続魔法《戦神との不正契約書》を発動します」

 ここでフィーちゃんは3枚目の契約書をフィールドに出して、

「手札から《DDナイト・ハウリング》を通常召喚。墓地から《DDD疾風王アレクサンダー》を特殊召喚します」

 うわ、せっかく倒したアレクサンダーがまたフィーちゃんの場に。

 そんなボクの気持ちが顔に出てたみたいで、

「安心してください。《DDナイト・ハウリング》の効果で特殊召喚したモンスターの攻守は0となり、破壊された場合に私は1000ダメージを受けます」

 と、フィーちゃんは解説。

「ほんと? 良かったー」

 ボクはほっと喜ぶ。

「ですが、効果は無効にされません。ステージ解放。開け、時空の扉」

 あ。

「召喚条件はDDモンスター2体。私は《DDリリス》と《DDナイト・ハウリング》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、目覚めろリンク2《DDD深淵王ビルガメス》!」

 フィーちゃんの場に新たなDDDが降臨。しかもアレクサンダーの効果が無効になってないってことは。

「《DDD疾風王アレクサンダー》の効果を発動、墓地から《DDリリス》を蘇生し、効果で墓地の《DDナイト・ハウリング》を再び手札に戻します」

「げっ、また!? 強いよナイト・ハウリング! 何でそれを毎回使いまわしちゃうの」

 ボクの嘆きに返事がくることはなく、

「いきます、水姫」

 フィーちゃんは改めていってから、

「ステージ解放。再び開け、時空の扉」

 このターン2度目のリンク召喚。しかも、改めていったってことはもしかして。

「召喚条件は効果モンスター2体以上。私は《DDリリス》とリンク2《DDD深淵王ビルガメス》をセット! 契約を請けし我が友水姫の僕よ。光の癒しを触媒に、新たな王に覚醒せよ。リンク召喚、目覚めよリンク3《DDD救護王フローレンス》!」

 フィールドに現れたのは、ボクの《アロマセラフィ-ジャスミン》の特徴を強く残しつつも似て異なる女性型の悪魔。ジャスミンと見比べてみると仮面ライダージ〇ウって番組のアナザーライダーに近い感じで、その攻撃力もスキルでいってた通りジャスミンと同じ1800。

 そして、フィーちゃんのスキルの意味が何となくわかった。

 フィーちゃんは、ボクとのデュエルを利用して自分のフィールで新しいフィール・カードを生み出しちゃったんだ。アニメでよくあるカードの創造そのものの形で。

 しかも、アロマの力を持つ王ってことは、絶対ライフ回復に関係する効果を持ってるはず。

「フローレンスの効果はまだ使いません。《地獄門の契約書》の効果を使用。デッキから《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》を手札に加えます。さらに墓地の《DDスワラル・スライム》の効果。このカードを墓地から除外する事で、手札のDDを特殊召喚できます。私は《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》を特殊召喚」

 このモンスターも確か、前にみたフィーちゃんのデュエルでも使ってたモンスター。攻撃力2200でレベルは8。実際に出されるとこれ恐ろしいよ。

「アビス・ラグナロクのモンスター効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合、墓地のDDDを1体蘇生します。私は《DDD神託王ダルク》を呼び戻します」

 うわ、これでさっき倒したアレクサンダーとダルクが両方とも場に戻ってきちゃった事になるんだ。きっついよ。

「続けてアビス・ラグナロクの2つ目のモンスター効果。自身以外のフィールドのDDモンスター1体をリリースして相手モンスター1体を除外します。私は《DDD疾風王アレクサンダー》をリリースし《アロマージ-ベルガモット》を除外します」

「あっ」

 ベルガモットを狙われた。ボクのデッキの攻めの要なのに。

 しかも、アレクサンダーをリリースしちゃったから、これであいつを狙って1000ダメージを与えることもできないじゃないか。

 まあ、だけど。

 アレクサンダーがいなくなったってことは、今度こそ次からフィーちゃんはアレクサンダーを使って展開はしてこな、……あ、ナイト・ハウリング。

 この時点でボクはガクッてなったんだけど。

「《DDD救護王フローレンス》のモンスター効果。1ターンに1度、私の場に契約書カードが2枚以上存在する場合に発動可能。私は2000ライフ回復します。さらに、私のライフが回復したことで第二の効果も発動。その回復したライフの数値以下の攻撃力を持つ墓地のDDモンスター1体をリンク先に特殊召喚します。私は《DD魔導賢者ゲイツ》を特殊召喚」

 

クワトロ LP800→2800

 

 ここでフィーちゃん。やっぱり持ってたフローレンスの回復効果を使用。契約書で減った分のライフが丸々回復されちゃった。

 しかも、DDって蘇生能力が凄く高いんだね。攻撃力の上限が2000以下だからアレクサンダーは来なかったけど、また墓地からゲイツが。……あれ、ゲイツ?

「さらにフローレンスは、私のライフが回復する度に、次の相手ターン終了時まで自身の攻撃力を500アップさせ、DDモンスター1体に貫通効果を与えます。私はフローレンス自身に貫通効果を付与」

 そのうえ、気づくとフローレンスの攻撃力はいまのジャスミンと同じ2300。さらに貫通効果持ちとボクのターンのときのジャスミンとほぼ同じ状態に。

 

《DDD救護王フローレンス》 攻撃力1800→2300

 

「そして《戦神との不正契約書》の効果を使用。この効果は自分と相手のメインフェイズ毎に使用でき、そのターンのバトルフェイズ終了時まで、私のDDモンスター1体の攻撃力を1000上げ、代わりに相手モンスター1体の攻撃力を1000ダウンさせます」

 

《DDD救護王フローレンス》 攻撃力2300→3300

《アロマセラフィ-ジャスミン》 攻撃力2300→1300

 

 しかも追い打ちに攻撃力吸収まで。えっと、この2体の攻撃力は同じだから、うわ。ちょうど2000も開いちゃった。

「最後に《DD魔導賢者ゲイツ》をリリースして《DDD疾風王アレクサンダー》を再び蘇生。総攻撃の準備は整いました」

「……」

 なにこれ、ひどい。

 現在フィーちゃんはEXモンスターゾーンに《DDD救護王フローレンス》、メインモンスターゾーンにはダルク、アレクサンダー、アビス・ラグナロクの計4体。魔法・罠ゾーンには《戦神との不正契約書》《地獄門の契約書》《誤封の契約書》の3枚。つまり、フィールド魔法を除けば完全にフィールドにカードを隙間なく埋めちゃったのだ。しかもモンスターはみんな攻撃力2000以上。

 加えて、

「フィーちゃん。ナイト・ハウリングのとき、アレクサンダーは攻守が0になって破壊されたら1000ダメージだから大丈夫って言ったよね?」

「言いましたけど?」

「いま、アレクサンダー完全蘇生されてない?」

「バトル。《DDD疾風王アレクサンダー》で《アロマセラフィ-ジャスミン》に攻撃します」

 うわ、スルーされた。

 しかも、口調はフィーちゃんでも、このひょうきんなノリ、これクーちゃんのキャラだよね? やっぱりフィーちゃん、ちょっと見ない間に性格変わってない?

 そんなボクのツッコミは声に出す間もなく、アレクサンダーが手に持った剣でジャスミンを斬りつける。

 ただでさえアレクサンダーより攻撃力が低いのに、弱体化した状態でまともに勝てるはずもなく、ジャスミンはアレクサンダーの剣撃をまともに受けてしまった。

 だけど、破壊されることはなく、

「ボクのLPが相手より多い場合、このカードとリンク先の植物族は戦闘では破壊されない」

「フォーチュンチュンだけでなくそちらも破壊耐性を持ってましたか。アビス・ラグナロクでこちらを除外するべきでした」

 と、少し「失敗した」って顔に出すフィーちゃん。だけど、

 

水姫 LP6500→5300

 

 と、ボクのライフが戦闘ダメージで減少したのを見て、

「確認ですが、水姫のライフが私より低ければ戦闘耐性はなくなる。そういう効果と思って構いませんか?」

「う、うん」

 ボクがうなずくと、

「分かりました。では破壊できるまで攻撃してみます」

 直後、ダルクの目がキラッと光った気がした。

「《DDD神託王ダルク》で《アロマセラフィ-ジャスミン》に攻撃」

 そのダルクがジャスミンに攻撃を仕掛け、

 

水姫 LP5300→3800

 

 ボクのライフが削れる。

「《DDD救護王フローレンス》で《アロマセラフィ-ジャスミン》に攻撃」

 

水姫 LP3800→1800

 

 さらに削れる。

「《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》で《アロマセラフィ-ジャスミン》に攻撃」

 

水姫 LP1800→900

 

 そして、フィーちゃんのライフは2800。

 アビス・ラグナロクの攻撃がジャスミンに届いたとき、ついにジャスミンは戦闘破壊されて墓地に送られちゃったんだ。

 だけど、ボクはすぐ場と手札から1枚ずつカードの効果を起動。

「ジャスミンが破壊されたことで、《アロマガーデン》のもうひとつの効果を発動。アロマモンスターが破壊された場合に1000ライフ回復。さらに手札の《アロマージ-マジョラム》の効果も使用。ボクの植物族モンスターが戦闘破壊された時に、このカードを特殊召喚して500ライフ回復」

 

水姫 LP900→1900→2400

 

 場にひとりのお姉さんが出現し、加えてボクのライフが再びガンガン回復していくのを確認してから、

「さらにマジョラムのモンスター効果。ボクのライフが回復したとき、マジョラムは場のアロマの数だけ相手の墓地からカードを除外する。いま、アロマはマジョラム1体。ボクは《DD魔導賢者ゲイツ》を除外」

「わかりました」

 言われるまま、フィーちゃんは墓地からゲイツを抜き取り、デュエルディスクから取り除く。

 これで、ゲイツを介してDDDを完全蘇生するっていうボクの《ローンファイア・ブロッサム》みたいなコンボを封じることができた。

「私はこれでターンを終了します」

 フィーちゃんはいった。なんとかこのターンも耐えることができた。

 

水姫

LP2400

手札1

[《アロマガーデン》]

[][《神の恵み》][《セットカード》]

[][《No.49 秘鳥フォーチュンチュン(守備)》][《アロマージ-マジョラム》]

[《DDD救護王フローレンス(クワトロ)》]-[]

[《DDD神託王ダルク》][《DDD疾風王アレクサンダー》][《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》]

[《戦神との不正契約書》][《地獄門の契約書》][《誤封の契約書》]

クワトロ

LP2800

手札2

 

「ボクのターン、ドロー」

 言いながら、ボクはカードを1枚引き、

「《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》の効果。自分のスタンバイフェイズ毎にボクは500ライフ回復する。さらに、ボクのライフが回復したことで、マジョラムの効果も発動。今度は《DDリリス》を除外して貰うよ」

「分かりました」

 やった! これで《DDリリス》も除外できた。

 ゲイツも怖かったけど、この《DDリリス》も墓地にあると《DDナイト・ハウリング》を何度も何度も回収されちゃって辛かったんだよね。

 それにしても。

 蘇生とサルベージを駆使して、同じモンスターを何度も何度も酷使しながら展開していく。いま思ったけど、DDって社会人を主人公にした漫画でよく出てくる社畜みたい。あと、ブラック企業?

 それはともかく、いまボクの手札は《アロマポット》と2枚目の《アロマージ-ローズマリー》。そして伏せカードは《誤封の契約書》でも防げない必殺の1枚、《ご隠居の猛毒薬》!

 《DDD救護王フローレンス》の回復効果は1ターンに1度だから、次のターンにフィーちゃんは契約書の効果で3000ダメージを受けてボクの勝ちだけど。

(まだ何かあるよね?)

 となると、次のターンもフィーちゃんが動いてくるものと思ってデュエルを進めないと。

「ボクは手札から《アロマージ-ローズマリー》を召喚。さらに《アロマガーデン》の効果で500ライフ回復。さらにボクのモンスターの攻守を500上げて、ローズマリーのモンスター効果。《DDD神託王ダルク》を守備表示に」

 一応、ダルクを守備表示にはしたけど。ボクが狙うのはフローレンスとアビス・ラグナロク。いくよ!

「バトル!」

「の前に、《戦神との不正契約書》の効果を使用。フローレンスの攻撃力を1000アップし、マジョラムの攻撃力を1000下げます」

 

《DDD救護王フローレンス》 攻撃力2300→3300

《アロマージ-マジョラム》 攻撃力2500→1500

 

 あ、忘れてた。そういえばあのカードは相手のメインフェイズにも使えるって言ってたっけ。

 ローズマリーでフローレンスを攻撃しても今じゃ返り討ちにあうだけ。となるとこのターン破壊しておくのは、

「《アロマージ-ローズマリー》で、《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》を攻撃」

 ローズマリーの攻撃力は、《アロマガーデン》の効果を受けて2300。対してアビス・ラグナロクは攻撃力2200、ギリギリだけど戦闘破壊可能。

「手札から《DDプラウド・パラディン》の効果を使用。私のモンスターが破壊される場合、代わりにこのカードを墓地に送ります」

 と、フィーちゃんは手札を1枚墓地に送ろうとしたけど、

「悪いけど、《アロマージ-ローズマリー》のモンスター効果。ボクのライフが相手より多い場合、ローズマリーが場にいる限りボクの植物族モンスターが攻撃するとき、フィーちゃんはモンスター効果を使用できないよ」

「ッ」

 ピクッとフィーちゃんの手が止まる。その際に、アビス・ラグナロクは破壊されて、

 

フィーア LP2800→2700

 

 フィーちゃんのライフが僅かに削られる。

「《DDD壊薙王アビス・ラグナロク》はPモンスターですので、墓地には行かずEXデッキに送られます」

 うん。それも知ってた。だから狙ったんだよ、蘇生と違ってこっちだと再利用は難しそうだもんね。

「ボクはこれでターン終了」

 そういってボクはターンを明け渡した。

 

水姫

LP3400

手札2

[《アロマガーデン》]

[][《神の恵み》][《セットカード》]

[《アロマージ-ローズマリー》][《No.49 秘鳥フォーチュンチュン(守備)》][《アロマージ-マジョラム》]

[《DDD救護王フローレンス(クワトロ)》]-[]

[《DDD神託王ダルク》][《DDD疾風王アレクサンダー》][]

[《戦神との不正契約書》][《地獄門の契約書》][《誤封の契約書》]

クワトロ

LP2700

手札2

 

「私のターンですね」

 フィーちゃんはいった。だけど、ドローする前に、

「水姫」

「なに?」

 訊ね返すと、

「あなたは大きなミスをしました。先ほどの戦闘、ローズマリーで狙ったモンスターがもしダルクだったら、私はデュエルに負けていました」

「え?」

「ドロー。そしてスタンバイフェイズ時に契約書カード3枚の効果。私は合計3000のダメージを受けます」

 このままいくと、フィーちゃんは3000ダメージを受けてライフは0に、

「しかし《DDD神託王ダルク》は、自身が場に存在する限り、私にダメージを与える効果は私のライフを回復させる効果となります」

「あっ」

 そういうことだったんだ。

 

クワトロ LP2700→3700→4700→5700

 

 一気に回復していくフィーちゃんのライフ。しかも、

「この回復は、1000ポイント回復する効果が3回発動したもの。ですので、《DDD救護王フローレンス》の効果が3回、さらにメインフェイズ時にフローレンス自身の効果も使い2000回復し、さらにもう1回。計4回フローレンスの効果を使用します。フローレンスのモンスター効果。このカードは自分のライフが回復する度に、次の相手ターン終了時まで攻撃力を500アップし、さらにDDモンスター1体に貫通能力を付与」

 

クワトロ LP5700→7700

 

 この一連の流れで、最終的にフィーちゃんのライフは7700まで回復し、さらに、

「《戦神との不正契約書》の効果。フローレンスの攻撃力をさらに1000上げ、逆にローズマリーの攻撃力を1000下げます」

 

《DDD救護王フローレンス》 攻撃力1800→2300→2800→3300→3800→4800

《アロマージ-ローズマリー》 攻撃力2300→1300

 

 フローレンスの攻撃力は最終的に4800。さらにローズマリーの攻撃力は1300にまで減少。

「もちろん、フローレンスの貫通付与の効果は、現在フィールドにいるすべてのモンスターにかけました。さらに《地獄門の契約書》の効果で、デッキから《DDユニコーン》を手札に加えます」

 この《DDユニコーン》の効果はボクは知らないけど、わざわざサーチしたんだからロクなカードのはずがないよね。

「バトル! 《DDD救護王フローレンス》で《No.49 秘鳥フォーチュンチュン》に攻撃。貫通ダメージは3400です」

 それボクのライフがちょうど0になる数字だよ。でも、ボクは伏せカードを発動し、

「速攻魔法《ご隠居の猛毒薬》。ボクのライフを1200回復して《アロマージ-ローズマリー》のモンスター効果! フローレンスを守備表示にするよ」

 これで大ダメージは免れるはず。けど、フィーちゃんはいったんだ。

「リンクモンスターに守備表示は存在しません」

「そうだった!」

 じゃあ、どうしよう。どのモンスターを守備表示にすればいいんだろう。

「ろ、ローズマリーを守備表示にしてフォーチュンチュンと一緒に耐えれば」

「いま私のモンスターはすべて貫通持ちです」

「そうだった!」

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。どのモンスターを守備表示にすればいいんだろう。

「だったら、《DDD神託王ダルク》を守備表示に」

「構いません。ですが、この攻撃の後《DDD疾風王アレクサンダー》で攻撃力1300となったローズマリーに攻撃を仕掛けます」

「え?」

 えっと、アレクサンダーの攻撃力は2500だから、差分ダメージは1200で。

「あれ? ボク積んでる?」

 《ご隠居の猛毒薬》で回復した分がまた丸々ジャストキルされちゃうんだけど。

「少なくとも、水姫が手札誘発を握ってないのであれば恐らく」

 さっきも言ったけど、ボクの最後の手札は《アロマポット》。ただのリバースモンスターなんだ。

 

水姫 LP3400→4600→1200→0

 

 結局。

 色々と模索したけど正解は見つからなくて、フローレンスとアレクサンダーの攻撃でボクのライフは0に。

(ちぇー。負けちゃったよー)

 なんて思ったのも束の間、ソリッドビジョンが消えると同時に突如心臓が発作を起こして、

「うっ」

 って、胸を掴みながらボクの意識は闇に閉じちゃったんだ。

 

 

 そして。

 気づいたとき、ボクの視界に映ったのは見慣れた白い天井。

 ボクは病室のベッドで寝ていたんだ。

「あれ、ボク」

 そっか。また、倒れちゃったんだ。ボクがそれに気づくのに、さほど時間はかからなかった。

 だって、いつものことだから。

 それでも最近はカードのおかげで、いきなり倒れるってことは無くなったはずなのに。なんてちょっぴり憂鬱な気分に浸ってると、

「水姫?」

 って、ボクは呼びかけられます。

(えっ?)

 と思い横をみると、病室にはフィーちゃんがひとり、とても心痛な顔でボクを見てたんだ。で、ボクと目があうと、ちょっとだけ嬉しそうに、

「気が付きましたか、水姫」

「フィーちゃん」

 どうしてここに。

「すみませんでした」

 と、フィーちゃんは頭を下げた。

「水姫がフィールで体調を保ってたことを忘れたつもりはなかったのですが、水姫のフィールが全損したらフォーチュンチュンの回復も一旦ストップすることを忘れてました」

「え? あ」

 言われて、やっとボクは直前の状況を思い出した。

 ボクはデュエルで負けたんだ。そして、デュエルにフィールを使っちゃったせいで、フィーちゃんに負けてボクのフィールは一旦全損。はしゃぎ過ぎた分が一気に心臓にきて、そのまま気絶しちゃったみたい。

「ううん」

 ボクは首を横に振って、

「フィールを全く使わずデュエルすれば、こんな事はなかったんだもん。ボクの自業自得だよ。それよりごめんね、せっかくの転校初日なのに」

「私のことはいいんです」

 フィーちゃんはいって、

「それより、体調はどうですか? 一応、水姫のフィールも少しは回復してるようですので、フォーチュンチュンの回復効果は起動してると思うのですが」

「うん。思ったより平気」

 言いながらボクは起き上がろうとして、やめた。

 ボクの腕に点滴が刺さってるのに気づいたから、大丈夫だとは思うけど看護師さんが来るのを待ってからのほうがいいかなって。だけど、いつもより目覚めた直後の体調がいいのは本当。ちょっとだけ気分は悪いけど、吐き戻すほどじゃない。

「フィーちゃん、いまの時間は?」

 ボクが訊ねると、フィーちゃんのかわりに病室の外から、

「いまは午後3時を過ぎた頃だよっ」

 って、聞いてて元気を貰えるような快活な声と共にひとりの看護師が入ってきた。ボクはその顔をみてすぐ、ぱっと笑顔で、

「あ、優希さん」

「水姫ちゃん。気が付いたんだね、良かった良かった」

 その看護師はボクのおでこを触ると、「ん、よし」と小さく呟くも、

「もう大丈夫だと思うけど、一回お熱測ろっか?」

 なんていって、体温計をボクの腋に挟んだ。

 この看護師の名前は神谷 優希(USUALLY2でも登場)さん。ボクがよく入院する病院に昔から勤務してる看護師さんで、ボクが物心つく前からお世話になってる人。

 年齢はもう40近いんじゃないかな? ボクのお母さんよりちょっと年上って聞いた気がする。だけど、昔から笑顔が可愛くて元気で、お母さんよりずっと見た目若々しいんだ。実は既婚者で、ボクが生まれる前から本当の苗字は別にあるらしいけど、病院ではいまも旧姓の神谷で通してるって聞いたことがある。

「良かったね。これなら明後日には退院できるよ」

 測り終えた体温計の結果を見せて、優希さんはいった。倒れた直後は体温にも影響があるんだけど、今回は殆ど平熱に戻っていた。だけど、

「明日の朝じゃ駄目? せっかくフィ……クーちゃんが転校してきたんだから、早く学校行きたいんだけど」

 ボクは我儘いうけど、

「駄目。一応大事をとって明日はいくつか検査するから」

「えー」

「うん、気持ち分かる。すっごく分かるけど、早く退院しすぎたら逆にお友達が心配するでしょ、ね?」

 って、優希さんはフィーちゃんに一回ウインク。

「水姫。早く良くなってください。私たちは待ってますから」

 フィーちゃんはいった。

「うん」

 ボクはうなずく。ズルいよ、優希さん。フィーちゃんを使われたらこれ以上抵抗できないじゃん。

「それと」

 フィーちゃんは続けて、

「お昼に、水姫のデュエルディスクに旗枷さんという方から連絡がきまして」

「紫水ちゃんから?」

「授業が終わったら、クラスの方全員でお見舞いに来るそうです」

「そっか。って、全員!?」

 思えば、ボクが倒れたり入院したとき、毎回じゃないけど紫水ちゃんがみんなを連れてお見舞いに来てくれたっけ。でも、全員っていうのは滅多にない。

 ここ数日は調子が良い日が続いてたから、もしかしてみんなびっくりしちゃったのかも。

「それで水姫。ひとつお願いがあるのですけど」

「なに?」

 ボクが訊ねると、フィーちゃんはこういったんだ。

「電話に出たとき、私もショックで気が動転してて、素の態度で電話に出てしまいました。なので、クワトロ・ベルが演技だったってバレないように協力してくれませんか?」

 普段、無骨で天然なフィーちゃんが鬼気迫った様子でいうものだから。

 ボクはつい、病室で大笑いしちゃったんだ。

 





●今回のオリカ


LP増強α
スキル
(1):初期ライフポイントを1000増やす。
(遊戯王デュエルリンクス)

DD魔導賢者ゲイツ
リンク・効果モンスター
リンク1/地属性/悪魔族/攻 900
【リンクマーカー:下】
「DD」モンスター1体
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードをリリースして発動する。墓地から「DD」モンスター1体を手札に加える。そのモンスターがエクストラデッキに戻る場合、かわりにそのモンスターを特殊召喚できる。
(名称元ネタ:ビル・ゲイツ)

新規雇用の契約書
スキル
(1):自分のライフポイントが1000以下になった後に1度だけ使用できる。
相手フィールドまたは墓地からモンスターを1体選択し、元々の攻撃力が同じ「DD」モンスターをゲーム外からランダムに1枚エクストラデッキに加える。

DDD救護王フローレンス
リンク・効果モンスター
リンク3/光属性/悪魔族/攻1800
【リンクマーカー:右/左下/右下】
効果モンスター2体以上
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分メインフェイズ時に発動できる。自分フィールドに「契約書」魔法・罠カードが2枚以上存在する場合、自分は2000LP回復する。
(2):自分のLPが回復した場合に発動できる。自分の墓地から、回復した数値以下の攻撃力を持つ「DD」モンスター1体を、このカードのリンク先となる自分フィールドに特殊召喚できる。この効果を使用したターン、このカードをリンク素材に使用できない。
(3):自分のLPが回復する度に、1つ、または両方を選び、次の相手ターン終了時まで適用する。●このカードの攻撃力を500アップする。●自分フィールドの「DD」モンスター1体を選ぶ。そのモンスターが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(名称元ネタ:フローレンス・ナイチンゲール)

戦神との不正契約書
永続魔法
(1):1ターンに1度、自分・相手のメインフェイズに、
自分フィールドの「DD」モンスター1体と
相手フィールドのモンスター1体を対象としてこの効果を発動できる。
このカードがフィールドに存在する限り、
バトルフェイズ終了時まで、対象の自分モンスターの攻撃力は1000アップし、
対象の相手モンスターの攻撃力は1000ダウンする。
(2):自分スタンバイフェイズに発動する。自分は1000ダメージを受ける。
(遊☆戯☆王アーク・ファイブ)

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