今回、色々な都合で一部のオリカの効果エラッタと名称変更を施させて頂いております。申し訳ありませんでした。
2019/04/30
《リストア・ドラゴン》の効果を変更しました。
藤原不人様、ご報告ありがとうございます。
現在時刻23:55。
私と梓、助手席にシルフィを乗せた島津先生の車は、決闘時刻の5分前に神簇邸に到着した。
車のまま門を潜り、相変わらず自然公園のような庭を進んで中央に。
指定した場所はすでに見知った顔でいっぱいになっていた。前方には、アインスがシュウを隣につけ、右側にはフェンリル、鈴音さん、木更ちゃん、全身防備姿のガルム、さらにはゲイ牧師に深海ちゃん、炎崎の姿まで。左側はNLT・ネビュラ側らしく霞谷さん、菊菜ちゃん、みいね、ナルキサスの姿。その内、みいねとフェンリルは車に歩み寄ると、双方から後部席のドアを開けた。
「各組織大集合って話ね」
私は左側のドアから外に出る。
「これだけ集まれば、あなたを討とうにも討てないでしょう。今回に関してはフィール・ハンターズも沙樹さんの味方らしいですし」
と、みいねはいった。
梓とシルフィも車を降り、最後に島津先生も邪魔にならない所に駐車してから、梓と共に右側サイドに。
「そのフィール・ハンターズはどうしてここに?」
私は、深海ちゃんと炎崎に向けて訊ねると、
「かすが様の指示です」
深海ちゃんはいい、続けて炎崎が、
「地縛神やクリアウィングがネビュラに回収されるのは避けたいらしいよ。この人数だと横取りに出ることもできないしね」
いつの間にか他所にもネビュラってバレてる件。あそこが存在を秘匿して活動してるのは間違いなさそうなのに。
ナルキサスが名乗り上げたのだろうか。
「大依は?」
「知っての通り北海道だよ。まあ、丁度今日帰ってきてそのまま報酬を家に持ち込んで休暇に入っちゃったけど」
「報酬?」
「明日のニュースをお楽しみに」
どこか不機嫌そうに、炎崎はいった。
この意味がどういう事か分からないけど、ゼウスちゃんは無事なのだろうか。グループLINEには久々に発言を投下しておいたけど、誰からも反応がない以上分からないのだ。
「NLTは何かこの件については?」
訊ねるも、NLT組三人は揃って首を横に振る。当然だ。NLTの活動範囲は県ひとつ。霞谷さんこそ警察機関なものの、北海道なんて、さすがに管轄外もいい所なのだ。
「こんな時に他人の心配かい? 鳥乃」
アインスがいった。見ると、いつの間にかシルフィもあちら側について立っている。まあ、仕方ないことではあるけど。
私は答える代わりに、
「フィーアがいないわね」
「彼女なら室内で狙撃の準備に入ってる。必要ないと思ってるが、一応君に不審な行動があったら殺処分するように指示してある」
「優遇されてるって話ね私」
とはいうものの、実際は私ではない
「時間だ」
デュエルディスクのタブレット画面を見て、シュウがいった。
「そうか」
アインスは言い、デュエルディスクの赤外線で私のディスクを強制デュエルモードにさせていう。
「決闘の勝者は敗者の命を自由にできる。それで構わないかい?」
「OKよ。せっかくだし、デュエルは盛大にマスターデュエルでどう?」
「元々そのつもりでデッキを準備してきた。私はそれで構わないよ」
お互いの言葉を聞き取ったデュエルディスクは、自動で今回のデュエルをマスターデュエルに設定する。他に決めることはなさそうだ。
といった所で、
「ならば、デュエルの前に改めて名乗らせて貰おう」
と、アインスがいった。
「ネビュラ財団名小屋支部管轄、ハイウィンド隊隊長。“
そういえば、一応決闘なのだから名乗るのが筋だったわね。
「ハングド所属、“レズの肌馬”鳥乃 沙樹」
「沙樹ちゃん。なにそれ」
梓が何かドン引きした声を発する中、
『デュエル!』
私たちが叫んだと同時に、ソリッドビジョンが互いのライフを表示した。
沙樹
LP4000
手札5
[][][][][]
[][][][][]
-[]-[]-
[][][][][]
[][][][][]
アインス
LP4000
手札5
「先攻は頂いた。私のターン」
アインスがターンの開始を宣言すると、
「まず、私は手札から《ゲートウェイ・ドラゴン》を通常召喚しよう。ゲートウェイの効果、1ターンに1度、手札からレベル4以下のドラゴンを呼び出す。来て頂こう、《スニッフィング・ドラゴン》! そしてスニッフィングの効果で、デッキの《スニッフィング・ドラゴン》を回収」
「開け、私のステージよ」
彼女の足下に、リンクマーカーが出現した。同時に、突然流れ始める舞踏曲。
「え、なに?」
「突然BGMが」
この演出を初めて見た梓とフェンリルが驚き、それ以外にも異様なリンク召喚演出に周囲がざわめきだす。
「早速晒す気ね。こんな大勢の前であの濃いリンク召喚演出を」
「ああ。召喚条件はドラゴン族・闇属性モンスター2体。私は《ゲートウェイ・ドラゴン》と《スニッフィング・ドラゴン》をリンクマーカーにセット!」
アインスが二丁のショットガンを抜くと、《ゲートウェイ・ドラゴン》と《スニッフィング・ドラゴン》は光の弾丸となってアインスの銃に装填。続けてアインスは、リンクマーカーの上でひとりワルフを踊りながら、上下のリンクマーカーに弾丸となったモンスターで撃ち抜き、
「リンク召喚! Shall We Dance? 《デリンジャラス・ドラゴン》」
やはり、この王子様はリンクマーカーから出現したモンスターとポーズを決めるのだった。
「やっぱり長い」
BGMがフェードアウトする中、私はいった。
「やっぱりウザい」
続けてシュウがいった。
「ウザい」
「キモい」
「悔しいが美しい」
「かすが様にさせてみたいですね」
「同感です」
「ミカァ!!」
「木更ちゃん!?」
さらにギャラリーからも様々な声が飛び交う。まあ藤稔一族のキチ反応は無視するとして。
「カードを2枚セット。私はこれでターン終了しよう」
それでもって、ひとり満足した顔で手番を終えるアインス。全く、この王子様は。
沙樹
LP4000
手札5
[][][][][]
[][][][][]
-[]-[《デリンジャラス・ドラゴン(アインス)》]-
[][][][][]
[][《伏せカード》][][][《伏せカード》]
アインス
LP4000
手札2
「私のターン、ドロー」
カードを引き、私はフィールドを確認。
リンク2なだけあって《デリンジャラス・ドラゴン》の攻撃力は1600とさほど高くない。そして伏せが2枚。
まだデュエルは始まったばかりなので、私は最小限の動きで様子を見てみることにする。
「私は手札から《幻獣機テザーウルフ》を召喚。効果で幻獣機トークンを守備表示で生成」
召喚したのは、いつものトップバッターであるテザーウルフ。
「早速きたか、テザーウルフ」
アインスはうなずき、
「テザーウルフの攻撃力は1700と私の《デリンジャラス・ドラゴン》より攻撃力は高い。加えて、このカードなら召喚するだけで簡単にトークンを生み出せ、幻獣機の共通効果を起動させられる。仮に、私が《デリンジャラス・ドラゴン》の攻撃力を上げて返り討ちを狙おうにも鳥乃のライフをちょっと削るだけの結果にしかならないわけだ」
「そういう話」
幻獣機の共通効果は、場にトークンがいる限り相手によって破壊されなくなるもの。
いつもの手ではあるけど、これなら安全に相手の動きを確認することができる。
と、思ったのだけど。
「バトル! 《幻獣機テザーウルフ》で《デリンジャラス・ドラゴン》に攻撃」
私の幻獣機からテザーが伸び、アインスのモンスターの拘束しにかかるも、この瞬間、アインスは伏せカードの片方を表向きにし、
「甘いですよ、鳥乃。罠カード《ドゥーブルパッセ》を発動!」
「あっ」
このカードは駄目。初手でもう伏せられてたなんて。
「《ドゥーブルパッセ》の効果。《デリンジャラス・ドラゴン》の攻撃力分の効果ダメージを鳥乃に与え、テザーウルフの攻撃を私への直接攻撃にする」
《デリンジャラス・ドラゴン》はテザーを避けながら私に向けて両腕の砲身から銃弾を放つ。
沙樹 LP4000→2400
私はすんでの所で銃弾から
アインス LP4000→2300
「ぐああっ!!」
直後、アインスは自身を襲う激痛に悲鳴をあげた。
「あっ」
「え、先輩が攻撃にフィールを?」
驚く梓と木更ちゃん。
「
「でも、先輩って普段攻撃にフィールはあまり使わないのに」
「まあドローとかにフィール使ったほうがデュエルって面では確実だしね」
言いながら私はアインスの拘束を解く。するとアインスはすぐ膝をつき、片目を手で押さえる。
「やってくれたね。鳥乃」
と、いうアインスにシュウが、
「おい、大丈夫か?」
アインスは首を横に振り、
「少し不味いことになった。片目をやられた」
「片目だと?」
「ああ。人は8割~9割の情報を目から得ると言われてる。もちろん、視覚から得る情報はデュエルにだって大事な要素だ。鳥乃はそれを奪ってきたんだ」
直後。
「なっ、なんて卑怯な! 見損なったぞ!」
と、ナルキサスが叫ぶも、
「いや、違うんだナルキサス」
彼に言ったのは、誰でもないアインス。
「先ほどの攻撃、実は私も《デリンジャラス・ドラゴン》の弾丸で鳥乃の眉間を狙ったんだ。鳥乃は優しいからね、だから私は本気だぞって伝えたつもりだったんだ。だから、これはあくまで鳥乃からの返事で、防ぎきれなかった私の不注意さ」
「待てよ」
反論したのはシュウ。
「なら、何でアインスがここまで傷ついてんだよ。あいつは返事のために莫大なフィールを使ったっていうのか?」
しかし、アインスは再び首を振り。
「いや……。彼女の攻撃にはそこまでフィールを込められてなかったよ」
「ならどうして」
「幾ら弱いフィールで攻撃しようとも、機銃の雨が1mmの狂いもなく眼球の
アインスはいった。シュウは「は?」となり、
「いや、眼球の一点ばかりって、モンスターの攻撃だぞ? しかも機銃で? ありえないだろ」
「いや、鳥乃の得意技は早撃ちと近距離でのワンホールショットだ。私もここまでとは思わなかったが、単純に至近距離なら遠隔射撃でも自動射撃でも通用するだけの馬鹿げた精度を持っていただけだろう。無論、フィールあっての賜物だろうけど」
さらに霞谷さんも、
「その上、彼女の射撃はアインスの脳まで貫通していません。推測ですが“決闘後に回復させれる程度”のフィールダメージに抑えたのでしょう」
「正解」
私は肯定した。
「ついでに言うと、攻撃したのが事前に敵を拘束できるテザーウルフだったから出来たって話。運が悪かったわね、アインス」
「全くだ」
アインスはフッと笑った。
「ところで」
ここで木更ちゃんが、梓に向かって、
「徳光先輩は平気なのですか? 先輩があれだけ残虐なことをされたのに」
「え? あっ」
ここで梓は、自分がショックを受けてない不自然さに気づいたみたいで、
「うん。沙樹ちゃんのラフプレイは見慣れてるから」
「見慣れてる?」
「うん。高校に入ってからはなりを潜めてたんだけど、昔の沙樹ちゃんは、私を虐めた人と喧嘩するとき、あの位過激な事はしてたから」
そういえば、小学生の頃すでに男子の股間を集中的に狙うくらいしてたっけ。
「だから、驚きはしたけど、怖いよりも『あ、ついにやらかした』って感じかなー。むしろ今回は加減してるみたいだから、これでも昔よりずっとましだよー」
なんて困った顔で梓はいう。で、木更ちゃんは逆に「これでましなんですか」と困惑してる様子。
霞谷さんが行く末を見守るように、
「
と、ナルキサスにいっていた。
対し、その言葉を聞かされたナルキサスがどう反応したのかは気になるが、これ以上ギャラリーに意識を向ける時間はなく、
「だが。ただダメージを受けただけでは終わらないさ」
ここでアインスはもう1枚の伏せカードを表向きにしていった。
「罠カード《ダメージ・ゲート》を発動。私が戦闘ダメージを受けた時、そのダメージ以下の攻撃力を持つモンスターを墓地から特殊召喚する」
元々テザーウルフはアインスの罠カードで直接攻撃になったもの。あの《ドゥーブルパッセ》はここまで狙って発動されたものだったのだ。
「私は墓地から《ゲートウェイ・ドラゴン》を蘇生しよう」
再び現れるアインスのモンスター。
「カードをセット。私のターンは終了よ」
私は手番を終える。
しかし、これは困ったことになった。今回、私のデッキは幻機獣を使用している以上奇襲策として《起爆獣ヴァルカノン》を投入しているのだけど、早速大幅にライフを削られてしまった以上、気軽に使用できなくなってしまったのだ。うまくアインスのライフだけ削ってとどめのバーンに使えればいいのだけど。
アインスの目を潰したとはいえ、今回の《ドゥーブルパッセ》は私にとって痛み分けどころでは済まない事態だった。
沙樹
LP2400
手札4
[][][][][《伏せカード》]
[《幻獣機テザーウルフ》][][][][《幻獣機トークン》]
-[]-[《デリンジャラス・ドラゴン(アインス)》]-
[《ゲートウェイ・ドラゴン》][][][][]
[][][][][]
アインス
LP2300
手札2
「なら、私のターンだね。ドロー」
アインスはカードを引くと、
「まずは《ゲートウェイ・ドラゴン》の効果を使おう。手札から2体目の《スニッフィング・ドラゴン》を特殊召喚し、3枚目の《スニッフィング・ドラゴン》を手札に加えようか」
と、手札を一切消費せず《ダメージ・ゲート》に見合った展開を行うと、
「鳥乃の伏せカード。恐らく《空中補給》と思うが気になるね」
アインスはいい、
「となれば、攻める前にこうしてみようか。開け、私のステージよ」
再び、彼女の足下に出現するリンクマーカー。舞踏曲に併せてアインスは踊りながら、
「召喚条件は効果モンスター2体。私は《ゲートウェイ・ドラゴン》と《スニッフィング・ドラゴン》をリンクマーカーにセット」
と、マーカーの上と右にモンスターだった弾丸を放ち、
「リンク召喚! Shall We Dance? 《ダズル・ドラゴン》」
アインスは白と黒のダズル迷彩を施されたドラゴンを呼び出す。
「《ダズル・ドラゴン》のモンスター効果。このカードが相互リンク状態で特殊召喚された場合、相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する」
白黒の竜は腕の砲身から放つ銃撃で、私の伏せカードを撃ち抜く。寸前、私はそのカードを表向きにし、
「ご名答。罠カード《空中補給》を発動。その効果で幻獣機トークンを1体生成」
私の場に2体目のトークンが出現する。とはいえ、フリーチェーンでトークンを出せるカードを、こういう形で使わされたのは正直嬉しい話ではない。
「なら、安心してこの手で行かせて頂こう。手札から《アネスヴァレット・ドラゴン》を通常召喚、さらに速攻魔法《スクイブ・ドロー》。アネスヴァレットを破壊して2枚ドロー」
アインスはカードを引き、
「再度開け、私のステージよ」
BGMその他ウザいリンク召喚モーションをしっかり見せられた後、
「リンク召喚! Shall We Dance? 《トポロジック・ボマー・ドラゴン》!」
過去のデュエルで、ストームアクセスで入手していたアインスのサイバースが出現した。攻撃力は3000。やっぱり、今回もデッキに入れていたわね。
「《トポロジック・ボマー・ドラゴン》で《幻獣機テザーウルフ》に攻撃。終極のマリシャス・コード!」
トポロジックのブレス攻撃がテザーウルフを飲み込む。私は手札を1枚抜き取り、
「トークンがいる事で、テザーウルフは戦闘では破壊されない。さらに手札の《
なんとかテザーウルフはトークンとの連携で攻撃を回避するも、
「しかし余波は受けて貰おう」
沙樹 LP2400→1100
双方の攻撃力の差分がダメージとなって私のライフを削る。ああ、更にヴァルカノンが使用できなく。
「そして、トポロジックは相手モンスターを攻撃したダメージ計算後に、相手モンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。エイミング・ブラスト!」
続けて放たれる、トポロジックの無数のかまいたち。しかし、直後私を庇うように出現したのはホログラムで出来た観測機。つまり幻獣機トークン。
「これは」
呟くアインスに私はいった。
「もう気づいてるでしょうけど、私は手札の《幻獣機ピーバー》の効果を発動していた」
アニメでよくある「していた」演出だけど、今回はちゃんと宣言していたしセーフって話よね?
「《幻獣機ピーバー》は手札から墓地に送る事で、このターン私が効果ダメージを受ける場合、代わりに幻獣機トークンを場に出す」
すると、アインスはフッと微笑み、
「読んでいたよ」
って言い、
「カードを2枚セット。エンドフェイズ時にアネスヴァレットの効果。デッキから《メタルヴァレット・ドラゴン》をトポロジックのリンク先に特殊召喚しよう」
共通効果によってフィールドに出現する新たなヴァレットモンスター。しかも、
「トポロジックのリンク先ってことは」
「ご名答。《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のモンスター効果。リンクモンスターのリンク先にこのカード以外のモンスターが特殊召喚された場合、互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。フルオーバーラップ!」
私の場のモンスターは、テザーウルフが1体と幻獣機トークンが3体。だけど、
「トークンがいることでテザーウルフは幻獣機の共通効果で破壊を免れる」
「知っているさ。《メタルヴァレット・ドラゴン》のモンスター効果。エンドフェイズ時にデッキから別のヴァレットを呼び出す。私は《オートヴァレット・ドラゴン》をトポロジックのリンク先に特殊召喚」
いまはまだ同じエンドドフェイズ時。従って、トポロジックの効果で破壊されてもすぐ次のヴァレットモンスターが場に装填される。しかも、
「《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のモンスター効果。リンクモンスターのリンク先にこのカード以外のモンスターが特殊召喚された場合、互いのメインモンスターゾーンのモンスターを全て破壊する。今度は防げるかい? フルオーバーラップ!」
「っ、テザーウルフを破壊するわ」
さすがに二連続を防げるはずがない。仮にトークンを出して防げたとしても、アインスは防げなくなるまで一連のループを繰り返すのだろう。
「《オートヴァレット・ドラゴン》の効果で、今度は《シェルヴァレット・ドラゴン》を守備表示で、かつ《トポロジック・ボマー・ドラゴン》のリンク外に出すとしようか。今度こそ、ターンを終了させて頂こう」
アインスはいった。
沙樹
LP1100
手札3
[][][][][]
[][][][][]
-[]-[《トポロジック・ボマー・ドラゴン(アインス)》]-
[][《シェルヴァレット・ドラゴン(守備)》][][][]
[《伏せカード》][][][][《伏せカード》]
アインス
LP2300
手札1
正直、手札の消費を最小限にしていて助かった。もし前のターンに一気に展開しても、結局トポロジックの効果を執拗に使われて焼野原になっていた事だろうから。
(しかし)
私は改めてトポロジックを見る。
やはり、アインスは普段の私の戦術を知り尽くしている。幻獣機を使ってる限りどのタイプのデッキだろうと関係ない位に。やはり、使い慣れてたデッキで向かってたら大変なことになっていた。
「私のターン、ドロー」
私はカードを1枚引く。
「手札から《幻機獣サーチライオネット》を通常召喚」
ここで召喚したのは、デュエルモンスターズ展の
「サーチライオネット!?」
小声ながら、確かに驚きをみせるアインス。よし、多分だけど相手はこのカードに関する情報は殆ど持っていない。
「《幻機獣サーチライオネット》の召喚・特殊召喚に成功した事で効果発動。デッキから幻獣機1枚を手札に加え、手札を1枚墓地に送る。私はデッキから《幻獣機オライオン》をサーチし、そのまま墓地に。続けて《幻獣機オライオン》の効果によって、墓地に送られた事で、場に幻獣機トークンを1体呼び出す。攻撃表示」
私はトークンを呼びつつ、デッキのオライオンを手札に墓地にと次々に移動させ、
「攻撃表示?」
と、私は目をやられ不調なアインスに思考させる時間を与えず、続けてオライオンを墓地からも取り除く。
「《幻獣機オライオン》のもうひとつの効果。墓地のこのカードをゲームから除外して、私は手札の幻獣機を召喚する。《幻獣機ブルーインパラス》を召喚!」
出てきたのは幻獣機のチューナーモンスター。ここでアインスは2枚ある伏せカードの片方を表向きにして、
「ならここで一手を打とう。速攻魔法《クイック・リボルブ》。デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚する。私は《アネスヴァレット・ドラゴン》をトポロジックのリンク先に特殊召喚しよう。そして《トポロジック・ボマー・ドラゴン》の効果でメインモンスターゾーンのモンスターを全滅させる。フルオーバーラップ!」
やはり伏せてたって話ね。
アインスは私のターンに関わらず、トポロジックの全体破壊の効果を使用してきた。この相手ターンでも全体除去を発動する使い方には前回も相当苦労させられたのを覚えてる。
「確か幻機獣には幻獣機の共通効果は無かったはずだね。なら、召喚権を使い切った所でブルーインパラス以外のモンスターには消えて頂く」
アインスはいうも、効果破壊によって生じた爆風と舞い上がる煙のビジョンが収まったとき、フィールドで退場していたのはサーチライオネットだけだった。ブルーインパラスとトークンは無事フィールドに残っており。
「なっ」
驚くアインス。私はついにやっと、
「確かに幻機獣にはトークンがいると破壊されない共通効果は持ってない。けど、いまの所逆にトークンを破壊させなくする共通効果は持ってるみたいって話なのよ」
「失念していたよ」
アインスはいい、
「となると、レベル6のシンクロは許してしまうわけか」
「ん?」
アインスの言葉に、私は一瞬あれっと思った後、
「どうやら、片目を失って相当判断力が鈍ってるみたいね」
「え?」
「《幻獣機ブルーインパラス》は機械族以外のシンクロモンスターの素材にできず、素材モンスターは全て幻獣機に限定される代わりに、手札のモンスターも素材にできるって話」
「あっ」
ここで、自分の勘違いに気づくアインス。
「まあ、その前に《幻機獣サーチライオネット》の効果。このカードが破壊された場合、手札・デッキ・墓地から幻獣機Pモンスター1体をPゾーンに置く事ができる。私はデッキから《幻機獣アベンジャガー》をPゾーンに。《幻機獣アベンジャガー》はルール上幻獣機として扱う」
「あっ」
と、木更ちゃんが反応したのが分かった。ナーガちゃんとのデュエルでも反応してたように、自分とのデュエルで生み出されたこのカードの事が余程印象に残ってるらしい。
そして、私は場のブルーインパラスと、手札の幻獣機1体を墓地に送って、
「私は、手札のレベル4《幻獣機アルマジル》にレベル3《幻獣機ブルーインパラス》をチューニング。大空を駆ける機械の怪鳥よ。その巨体にて勝利の旅路へ私を導け」
ブルーインパラスが3つの円に変わると、アルマジロの特徴を持った航空機が潜り、4つの光に変って混ざり合う。
「シンクロ召喚! 発進せよ、レベル7《幻獣機コンコルーダ》!」
こうして出現したのは、先端が怪鳥の頭部の形状をした旅客機。
「コンコルーダだって!?」
更に驚くアインス。それもそのはず、このカードって幻獣機デッキであっても控え目にいって使い勝手の悪いカードなのだ。
「バトルフェイズ。私は幻獣機トークンで《トポロジック・ボマー・ドラゴン》に攻撃」
「なっ」
もう驚きっぱなしのアインスは、
「鳥乃、君は一体何を」
言ってる間に、バトルはダメージステップに。
「《幻機獣アベンジャガー》のP効果。幻獣機トークンが戦闘を行って受ける私へのダメージは0になり、幻獣機と戦闘を行ったモンスターはダメージ計算後に破壊される」
「くっ! ですが、幻獣機トークンに退場はして貰いま――」
言いかけた所へ私は、
「また失念してる? 《幻獣機コンコルーダ》がフィールド上に表側表示で存在する限り、私のトークンは戦闘・効果では破壊されない。さっきのサーチライオネットと同じって話」
「あっ」
つまり、一方的に《トポロジック・ボマー・ドラゴン》だけが破壊されるのだ。
たかがホログラムで生まれたデコイの一撃。そこに気を取られたトポロジックは直後、Pゾーンのアベンジャガーが放ったガトリング砲の掃射を浴び、爆破四散する。
相変わらず半端なく厄介なモンスターだったけど、《トポロジック・ボマー・ドラゴン》何とか攻略!
「フィニッシュ。《幻獣機コンコルーダ》でアインスにダイレクトアタック」
アインスのライフは2300、対してコンコルーダの攻撃力は2400。これが通れば、デュエルは私の勝ち。
とはいえ、勿論そう簡単にいくはずがない。アインスは伏せカードを表向きにして、
「でしたら底知れぬ絶望の淵へ沈んで貰う。《聖なるバリア -ミラーフォース-》!」
アインスの体を光のバリアが包み、そのまま突っ込んだコンコルーダはひしゃげて破壊される。その際の爆発のエネルギーは全て攻撃となって幻獣機トークンに襲い掛かるも、
「うん、まあアインス」
私はいった。
「確かに絶望の淵へ沈んでたって話よ。このミラフォが幻獣機トークンの攻撃で発動されてたらって話だけど」
それでも、ミラフォを喰らった時点ではトークンこそ生き残るのでトポロジックを破壊はできる。しかし、コンコルーダを失ってる為に相打ちでフィールドを離れ、私の場がガラ空きになってたのだ。
「コンコルーダの効果で幻獣機トークンは破壊されない。そして、コンコルーダが破壊された事で効果を発動。私はトークンを全てリリースし、墓地からレベル4以下の幻獣機を特殊召喚する」
ミラーフォースから放たれたエネルギーの奔流がトークンを飲み込む寸前、トークンが光の球体に変化し攻撃をかき消す。
球体は次第に機械の体に変化しながら変形し、アルマジロの特徴を持った航空機に姿を変えた。
「私は墓地から《幻獣機アルマジル》を特殊召喚。アインスに直接攻撃」
アルマジルの攻撃力は1200。その分のダメージが今度こそアインスに直撃し、
アインス LP2300→1100
私とアインスのライフは同じ1100に並ぶ。
「バトルはこれで終了。メインフェイズに戻って、手札から魔法カード《
直後、デュエルディスクのソリッドビジョンは周囲一帯を包み、ギャラリーを含む私たちは空の上を飛行する《幻子力空母エンタープラズニル》の甲板の上へと降り立った。とはいえ、フィールド魔法のビジョンは半透明な為、本来の神簇邸の庭も確認できるのだけど。
「《
私は幻獣機トークンを今度こそ守備表示で特殊召喚し、
「私はこれでターン終了」
「ターン終了時、破壊されたヴァレット2体の効果」
アインスはいった。
「私はデッキから《オートヴァレット・ドラゴン》《マグナヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚。さらに今回はここで《デリンジャラス・ドラゴン》も特殊召喚しよう。このカードはヴァレットモンスターが特殊召喚された場合に、墓地のこのカードを特殊召喚できる」
せっかく一度フィールドを焼け野原にしたというのに、もうアインスのフィールドにはモンスターが3体。この制圧力と戦線維持力は本当嫌になる。
「なら私も《幻獣機アルマジル》のモンスター効果。相手がモンスターを特殊召喚した場合に幻獣機モンスター1体を特殊召喚する」
もっとも、私もアルマジルを使い場のモンスターを3体にするのだけど。
「改めてターン終了」
今度こそ私はターンをアインスに明け渡す。
沙樹
LP1100
手札0
[《
[《幻機獣アベンジャガー》][][][][]
[《幻獣機トークン》][][《幻獣機トークン》][][《幻獣機アルマジル》]
-[]-[]-
[《オートヴァレット・ドラゴン》][][《デリンジャラス・ドラゴン》][][《マグナヴァレット・ドラゴン》]
[][][][][]
アインス
LP1100
手札1
「私のターン。ドロー」
アインスがカードを引いた所で、
「言うまでもないと思うけど、《幻機獣アベンジャガー》のP効果は当然相手ターンでも持続してるから」
「つまり、全ての幻獣機が半ば《ボマー・ドラゴン》状態ということですね」
「そういう話」
なので、無策で突っ込めばどんなに強力なモンスターでも破壊耐性を持ってない限り、幻獣機トークンと1:1交換を強いられる。もし自分が相手側だったらゲッソリする程嫌な布陣になってるはずなのだ。
「なら。私は最後の《スニッフィング・ドラゴン》を通常召喚しよう。当然、これが3枚目だからサーチ効果は発動しない」
と、アインスは4体目のモンスターを出し、
「開け、私のステージよ」
私たちはまたアインスの踊りを見せつけられる。
「召喚条件は効果モンスター3体以上。私は《マグナヴァレット・ドラゴン》《デリンジャラス・ドラゴン》《スニッフィング・ドラゴン》の3体をリンクマーカーにセット。リンク召喚! Shall We Dance? 《ヴァレルロード・ドラゴン》!」
こうして出現した、その新たなリンクモンスターを前に、
「やばっ」
と、呟いてしまった。
何せ、このモンスターはアインスの真のエースモンスターだからである。
他のアインスのリンクモンスター同様に機械族かと思う程メカメカしい外見をしたドラゴンでその攻撃力は3000。さらに、滅茶苦茶厄介な効果を2つも備えてる上に「このカードはモンスターの効果の対象にならない」なんて効果テキストまで持ってらっしゃるのだ。
正直、過去にアインスと敵対したときにはこのカード1枚で押し切られた事が何度かある。一応、対象を取らない全体破壊には無力なので、今回も私のデッキにはヴァレルロードを倒す為のカードも何枚か投入しているが、やはりというかアインスのフィールのせいで、私はそういったカードをドローさせて貰えない。
「とりあえず、相手がモンスターを特殊召喚したことで《幻獣機アルマジル》の効果を発動。1ターンに1度、場に幻獣機トークンを置く」
これで、一応私の場の幻獣機トークンは3体。しかし、
「《ヴァレルロード・ドラゴン》のモンスター効果。1ターンに1度、フィールド上の表側表示モンスター1体を対象とし、その攻守を500下げる」
きた! ヴァレルロードの滅茶苦茶厄介な効果その1が。この効果は、一見ただの汎用的に使える効果に見えるも、実はそんな生易しいものではない。
「私は自分の《オートヴァレット・ドラゴン》にこの効果を使用。そして《オートヴァレット・ドラゴン》は自身を対象にリンクモンスターの効果が発動した時、オートヴァレット自身を破壊できる。その後、フィールド上の魔法・罠カード1枚を墓地に送る」
これである。
いままではトポロジックの全体破壊を連発するスイッチに過ぎなかったヴァレットモンスターだけど、真の力は、このヴァレルロードの弾丸として、アインスのエースに汎用性と制圧力を抜群に与える共通効果なのだ。
「墓地に送って貰うのは当然《幻機獣アベンジャガー》。悪いけど、ヴァレルロードの前では幻獣機のボマー・ドラゴン化は無意味だよ、鳥乃」
「そのようね」
言いながら、私はデュエルディスクからアベンジャガーを剥がし、墓地に送る。
実は一応。
これでもアベンジャガーはヴァレルロード対策も兼ねてはいたのだ。
ヴァレルロードはリンク4な上に効果モンスターを3体以上素材にしないといけない。その為、出した時点では場がヴァレルロード1体だけになる可能性だってある。そんな場面でなら、対象を取る効果ではない以上、さすがのヴァレルロードでさえ攻撃はできないし、返しの私のターンで幻獣機トークンを用いてサクッとヴァレルロードを破壊できてしまう。
しかし、今回は上手く《オートヴァレット・ドラゴン》を残しながらリンク召喚されてしまった為、狙い通りにはいかなかった。
伏せカードはない。手札はゼロ。エンドフェイズ時に敵は新たなヴァレットを補充する。正直、いままでの私なら負けルートだ。
「バトルフェイズに入ろう。《ヴァレルロード・ドラゴン》で《幻獣機アルマジル》に攻撃」
言いながら、アインスはおもむろに懐からサングラスを取り出して着用。そして、
「
なんか言い切った。
「ええ……」
シルフィが、なんかすっごく白い目でアインスを見る。
私はトークンを1体フィールドからはがし、
「《幻獣機アルマジル》のモンスター効果。トークン1体をリリースして自分のモンスター1体を表側守備表示にする。私はこれでアルマジル自身を守備表示に」
ヴァレルロードとアルマジルの攻撃力の差分は1800。攻撃表示のままヴァレルロードの攻撃を受けていたら、例えアルマジルが共通効果で破壊されなくても、私のライフが0になる所だったのである。
「攻撃は撤回しない。改めて《ヴァレルロード・ドラゴン》で《幻獣機アルマジル》に攻撃」
でしょうね。
「そしてダメージステップ開始時にヴァレルロードの効果を発動する。攻撃対象モンスターをこのカードのリンク先に置いてコントロールを得る」
ヴァレルロードの口から砲身が顔を出すと、アルマジルに向けて弾丸が放たれる。
弾丸を受けたアルマジルの体からノイズが走ったと思うと、データを書き換えられその場から姿を消し、ヴァレルロードのリンク先に装填される。
(これよ、これこれ)
この効果があるから、ヴァレルロードは簡単に私の幻獣機を排除してくれちゃう。トークンを置いてようがお構いなしに。
「とはいえ、守備表示な以上アルマジルで追撃ができないのだけどね。私はカードを1枚セットしてエンドフェイズ。ヴァレルロードの効果でコントロールを得たモンスターはこの瞬間に墓地に送られる。そして《オートヴァレット・ドラゴン》の効果で《マグナヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚しようか。ターンを終了しよう」
なんとかトークンを2体残して自分のターンに持ち込むことができた。
私は心の中でほっと安心した。
沙樹
LP1100
手札0
[《
[][][][][]
[《幻獣機トークン》][][《幻獣機トークン》][][]
-[]-[《ヴァレルロード・ドラゴン(アインス)》]-
[][][][《マグナヴァレット・ドラゴン》][]
[][《伏せカード》][][][]
アインス
LP1100
手札0
(さて)
私は盤上を見て思った。
場には幻獣機トークンが2体、さらにフィールド魔法の《
ここは何としてでも《緊急発進》を引くしかない。それこそダークドローを使用してでも。
私はその場で手を掲げた。直後、私の手にフィールのエネルギーが集まり、闇色の輝きを帯びる。
「鳥乃、ここで勝負に出る気か」
察したアインスがいう中、
「暗き力はドローカードをも闇に染める!――ダークド」
私は、闇色に輝くその手で、私はカードを1枚引き抜きかけ、
「っ!?」
書き換えられたデッキトップから感じるフィールに、私は“やらかした”事に気づいた。
「鳥乃?」
「先輩?」
「沙樹ちゃん?」
アインス、木更ちゃん、梓が私の様子に訊ねる中、私は露骨に不機嫌な態度で、
「ちょっと。こんな時に出しゃばらないでって話なんだけど」
と、デッキトップに文句をいう。
「鳥乃、まさかデッキトップのカードは」
アインスが察し訊ねる。私は諦め、
「その通りって話。悪いわねアインス、ちょっと邪魔が入っちゃったわ。ダークドロー」
私はカードを引き抜く。直後、私の中にダークドローで消費した以上の濃度を持つ闇のフィール、いや冥界のフィールが流れ込んでくる。
さらに、私の体は闇の傀儡と化し、勝手にデュエルを進めだした。
「冥界より描け、我がサーキット」
ここで私はリンク召喚を宣言。甲板の上に闇色の光が這い進み、リンクマーカーの模様を描く。
「沙樹ちゃん?……じゃない」
すぐさま、私の様子の変化を察知した梓が呟く。
「沙樹ちゃん、どうしちゃったの?」
梓の言葉を聞いて、今度はこの状態の経験者であるシルフィが顔を青くして、
「もしかして。闇のフィールに支配されて」
「何ですって!」
霞谷さんが反応。
「しっかりしろ、鳥乃! 闇に負けんじゃねえ!」
シュウが熱い言葉を投げかける中、
「大丈夫よ。意識はちゃんとあるから」
私は返事した。
「あーでも、体の自由は駄目ね。この前のガルムと同じ状態。意識はあるんだけど、体がいう事聞かない感じ」
直後、フィール・ハンターズ組を含む当時の事件の関係者たちが一斉にガルムへと視線を向ける。
ガルムは梓がいる手前喋ることもできず、あたふたしていた。可愛い。
「問題ない。続けてください」
アインスがいった。
「元はとはいえば、その地縛神のせいで決闘になったんです。せっかくですから私も地縛神と話がしたい」
「後悔しないで頂戴」
私は返し、
「召喚条件はリンクモンスター以外の幻獣機モンスター1体。私は幻獣機トークン1体をリンクマーカーにセット!」
ホログラムのデコイが1機、闇色の光に代わりリンクマーカーの下側に取り込まれる。直後、私の前方に光り輝くカードが浮かび上がったので、私はそれを掴まされ、
「リンク召喚! リンク1《幻獣機プテラウラー》」
そのまま、私はたったいま手に入れたカードをデュエルディスクに。現れたのは翼と機首部分がプテラノドンになった航空機のモンスター。
「レベル4以下のモンスターを素材にプテラウラーを召喚した事で、このターン私はこれ以上リンク召喚できない。そして《幻獣機プテラウラー》のモンスター効果。このカードのリンク召喚に成功した場合、リンク先に幻獣機トークンを1体生成。そして私はプテラウラーとこのトークンを生贄に捧げる」
私は、ダークドローで引いてしまったカードをデュエルディスクに叩きつけた。
デュエルディスクがカードを読み込む。すると、辺りは黒い雲に覆われ暗闇に支配される。そんな上空に紫色の光で描かれたのは鯨模様のナスカの地上絵。
私はいった。
「アドバンス召喚。現れよ《地縛神 Chacu Challhua》!」
ここで、2体のモンスターは光の粒子へと変わり、フィールドに出現したのは、一匹のシャチだった。
同時に私自身にも変化が起こる。
全身の血の気が一気に引き、心が吹きざらしにあうような感覚を覚えた。肌は死者のように青白く変わり、瞳孔が常に開いて白目が黒く染まる。
「沙樹、ちゃん……?」
幼馴染の変貌に梓が唇を震わせる。
「梓にだけは、こんな姿見せたくなったって話だけどね」
私は、地縛神にせめてもの不満をぶつけるように、思いっきり溜息を吐く。
周囲はみんな言葉を失っていた。
当然だ。
いまの私は、当時のシルフィよりずっと化け物に近い姿になっている。そんなものを、これだけ大勢の人の前で晒しているのだ。特に梓はどんな顔をしているのだろうか。私は、怖くて幼馴染の顔色をうかがう事ができなかった。
「《
沙樹 LP1100→300
効果を宣言しながら、私は「幻獣機らしくないな」とか思った。恐らくはダークドローに近い要領で地縛神がいまの盤面で必要だと思ってるカードをピンポイントで生成したのだろうけど。
「くっ」
アルマジルを出した瞬間、アインスが苦い顔を出してみせる。
『サテ、追イ詰めたゾ』
ここで《地縛神 Chacu Challhua》が喋った。私の口ではなく、ソリッドビジョンで映りだされてる鯨の口からである。
しかも喋り方がまた変わってるし。
『今カラ我ハ通常攻撃で貴様ニ攻撃スル。止めナけれバ貴様ノ負けダ。ダガ、止めレバ《幻獣機アルマジル》ガ再び貴様ノ攻撃ヲ阻むダロウ』
「そして、このターンに撃つより盤石なフィールドで次のターンに《緊急発進》かい?」
アインスが訊ねた所、
『その通りダ。バトルフェイズ! 我で貴様ニ直接攻撃』
「え」
反応したのは、みいねだった。
「地縛神の攻撃力は2900、その数値で相手モンスターを無視して直接攻撃ができるというのですか?」
どうやら彼女は地縛神の効果を知らなかったらしい。
「《地縛神 Chacu Challhua》は相手に直接攻撃でき、代わりに相手モンスターの攻撃対象にされない効果を持ってるわ」
私はいい、
「で、どうするのアインス」
訊ねた所、
「なら私は《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果を《マグナヴァレット・ドラゴン》を対象に使用しよう。これにより《マグナヴァレット・ドラゴン》を自壊させ、《幻獣機アルマジル》を墓地に送る」
アインスは宣言し、
「さて、どう致しますか? 貴方は自身が守備表示の場合、私にバトルフェイズに入らせない効果をお持ちのはず。今なら《幻獣機アルマジル》を使い守備表示にはできます。しかし、守備表示にした場合はトークンが残り1体になり、次のターン確実に貴方を排除し私のドローカード次第では2体以上の攻撃で鳥乃のライフを0にしますが」
「Chacu Challhua?」
私が視線を向けて確認を取った所、
『守備表示ニはスルな』
と、返事。
「了解」
私は大人しく《幻獣機アルマジル》を墓地に。
「なら引き続き永続罠《銀幕の鏡壁》を発動します」
アインスが伏せカードを表向きにし、自分を護る銀色の壁を発生させる。この効果は攻撃モンスターの攻撃力を半分にする効果。
『足りヌ! それダケでは我が一撃は防げぬゾ』
地縛神は《銀幕の鏡壁》を突き抜け、
《地縛神 Chacu Challhua》 攻撃力2900→1450
と、攻撃力を半減させながらも、問題なくアインスに向かって攻撃を仕掛ける。
「まだです!」
アインスは続けて墓地からカードを1枚抜き取り、
「墓地の《ダズル・ドラゴン》のモンスター効果を発動。このカードを墓地から除外することで、1度だけ私が受ける戦闘ダメージを半分にします」
アインスは二重の防壁越しに地縛神の一撃を受け、
アインス 1100→375
ギリギリ、そのライフを繋ぎ止める。
しかし地縛神の半透明の体がアインスの肉体を通り抜けた際、
「ぐううっ」
アインスは膝をつき、呻きだす。
「ちょ、Chacu Challhuaまさかアインスにリアルダメージを?」
私が訊ねた所、
『当然ダ』
と、言い切った。
『さア、心ノ闇ニ押し潰サレ自滅シロ』
直後、アインスが闇色の瘴気に包まれる。
「あああっ」
自らを抱き、身を震わせるアインス。この前のシルフィ同様、闇のフィールがアインスの精神に入り込み、彼女の中にある醜い感情、トラウマその他諸々の心の闇を湧きあがらせてるのだ。
だが、アインスが心の闇に負けた場合、シルフィのように闇のフィールの支配下に堕ちるのではなく、恐らく精神崩壊に陥るのだろう。
「Chacu Challhua、そこまでする事ないでしょ」
彼女の目を狙った自分の行ないは棚に上げ、私は反論するも、
『我は貴様らノ仲間ではナイ』
地縛神はいい、
『貴様こそ思い出セ、シルフィの一件以来、貴様ハ我ニ馴れ馴れしスギル。何故貴様ニ憑いてるノカ思い出セ』
「っ」
その言葉を聞いて、私は気づいた。
まさか地縛神の狙いは。
直後。
「アインス!」
「っ」
叫ぶシュウの言葉に、アインスははっとし、
「シュウ! 頼みがある」
地縛神の攻撃で、彼女自身の心の闇に襲われながら、アインスはいった。
「手を、つないで欲しい。君のぬくもりが必要だ」
多分だけど、いまこの瞬間、初めてアインスは家族に甘えたのだろう。そんな気がする。
彼女の言葉に、何か気づいたシュウは、
「アタシだけじゃ足りねぇだろ」
シュウは空高く吠える。
「シルフィ、フィーア、力を貸してくれ! 一緒にアタシらの長女を支えるぞ!」
直後、シュウの傍に《ワーム・ホール》のゲートが開き、
「了解しました」
と、フィーア。
「うん」
続けてシルフィもうなずく。
そして、3人はアインスを包む瘴気の中に飛び込み、その内側で長女の体を3人掛かりで抱きしめる。私たちの目にはそれだけしか見えなかったけど、多分彼女たち姉妹はアインスの精神世界に入り込み、言葉をかけ、手を伸ばし、心の闇から救い出そうとしてるのだろう。
アニメや漫画でよくある流れだ。もっとも私は当事者ではないから根拠のない推測でしかないけど。
程なくして、闇色の瘴気がパァンとはじけ飛ぶのが見えた。
『耐えタ。……ダト』
驚く地縛神。
『何故ダ! 人ノ身で耐えれる程ノやわなフィールはぶつけてイナイゾ』
「でも、所詮は人の身で抱える心の闇を増大したに過ぎません」
アインスが立ち上がり、いった。
「どうやら、私の心の闇は家族愛というものへの渇望だったようです。それなら、妹たちからの愛と信頼で満たされれば、耐えることができます」
アインスはいい、
「けど、よく分かりましたねシュウ。私の心の闇が」
「アタシも同じだったからな」
シュウはヘッと鼻をかき、
「元々、アタシも
「私も」
シルフィもうなずき、
「私も、両親から愛情を受けた経験がなかったから、だから気持ちは分かるよ」
最後にフィーアも、
「家族は無条件の味方です。それを教えてくれたのはアインスです」
って。
「みんな、ありがとう」
アインスはいい、三人を順番に抱きかかえる。
「シルフィちゃん。……ぐすっ」
どこからか泣きじゃくる声が聞こえたと思ったら、島津先生が感涙していた。苦労してたもんね、シルフィには。
さらに、木更ちゃんもぼそりと呟く。
「少し羨ましいですね。私も深海ちゃんや金玖ちゃんとは、あの4人と同じくらいの絆を感じていたつもりだったのに」
すると深海ちゃんが、
「過去形、ですか?」
「え?」
「私は感じてるつもりですよ、今でも」
「でも」
「それ以上に、かすが様の為なら何だって殺るだけですから」
さらっと言ってのけた深海ちゃんは続けて、
「姉さんは違ったのですか?」
「……違いませんね」
僅かな間の後、木更ちゃんは微笑んだ。「程度は違いますけど」と付け加えて。
この辺りで、
「アインス! 聞いて頂戴」
私は、感動的な空気を台無しにするのを覚悟でいった。
「地縛神の目的は恐らく」
「分かっている。私も丁度気づいた所だよ」
アインスはいった。そして地縛神に向かって、
「地縛神。確かに貴方は邪悪な存在のようだ。財団上層部の判断は間違ってなかったらしい。しかし、貴方はあえて財団のシナリオ通りに事が進むのを望んでいる。違いますか?」
「どういう事ですか?」
霞谷さんが訊ねた所、
「我々に鳥乃を殺害させたがってるということです」
アインスがいった。
「馬鹿な!」
ナルキサスが驚き、続けてみいねが、
「どうして。曲がりなりにも地縛神は沙樹さんのカードのはず。まさか地縛神は沙樹さんの下よりネビュラ財団の手に渡るのを望んでるのですか?」
と、微妙に私と地縛神の関係を正しく認識していない発言をする。
「いえ、我々の手に渡す気もないでしょう」
アインスはいった。
「以前、アンより聞いた事があります。鳥乃から意識を奪った上でのアンティデュエルでカードを回収した際、他のカードは全て奪い尽くしたはずなのに、地縛神だけは奪う事ができなかったと。……つまり、貴方はデュエルで勝とうとも鳥乃の命を奪おうとも、それだけでは回収できない。違いますか? 逆に、鳥乃が死ぬ事で貴方は初めて完全なる復活を果たす。是か非か答えて頂きましょう、地縛神」
数秒後、
『正解ダ』
地縛神はいった。
「やはり、そうですか」
と、アインス。直後、ナルキサスが。
「馬鹿な! 崇高なる我らが騎士道を、この地縛神は利用していたというのか」
「いや、それは違うさ」
アインスは否定し、
「それが本当に本音なら、地縛神は馬鹿正直に肯定しなかったでしょう。つまり、更なる本当の正解は、あえてこの真実を晒す事で、この場の全員に地縛神という脅威を警告したのでしょう。もちろん、自分の力を元に作った闇のフィールを扱う、フィール・ハンターズの皆さんにも」
「え!?」「な!?」
驚くフィール・ハンターズのお二方。
『ククッ、ハハハハ! 流石は鳥乃ノ友人ダ』
笑い声をあげる地縛神。私には分かる。どうやら正解らしい。それが善意からの行動か否かはともかく。
「さて、質問はもう少しあります」
アインスはいった。
「地縛神は全部で何体存在しますか? かつ、その内何体が目覚めている?」
『目覚メてる数ハ知ラン。ダガ、我ラガ創造神の手によっテ生まレタ数は7体ダ』
「創造神?」
『今日ノ我は気分がイイ。特別に教えてヤロウ』
地縛神はいった。
『我ラは、現世で“無貌の神”や“這い寄る混沌”ナド呼ばれる邪神ガ、ここトハ異なる世界ノ“
「げ」
私を含まない、その名前を知ってるらしい人が何人か、露骨にゾッとした反応を見せる。
直後、
「それってナイアルラトホテップじゃないのよ!」
反応した内のひとり、島津先生が悲鳴でもあげるような声でいった。
「知ってるの、先生?」
私が訊ねると、
「クトゥルフ神話に登場する邪神よ。それが関わると大抵ロクな事にならないのよぉ」
はあっとため息混じりでいう島津先生。
数日後、私は自分で調べてみてその正体に同じくげんなりするのだけど、それはまた別の話。
『ハッハッハ、我ヲ目覚めさせテくれるナよ。モウ暫くの間、使命ヲ忘れて現世ヲ満喫したいノデな』
地縛神が愉快そうに笑う中、
「とりあえずターンエンド。で、いいのよね?」
『アア』
許可を取った所で、私はターン終了を宣言する。
「なら、《マグナヴァレット・ドラゴン》の効果で《シェルヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚します。場所は《地縛神 Chacu Challhua》と同じライン上に」
アインスはいった。
沙樹
LP300
手札0
[《
[][][][][]
[《地縛神 Chacu Challhua》][][《幻獣機トークン》][][《幻獣機トークン》]
-[]-[《ヴァレルロード・ドラゴン(アインス)》]-
[《シェルヴァレット・ドラゴン》][][][][]
[][《銀幕の鏡壁》][][][]
アインス
LP375
手札0
「そして、私のターン、ドロー」
アインスはカードを引き、
「《銀幕の鏡壁》のコストは払えませんので、破壊します。そして、《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果によって《シェルヴァレット・ドラゴン》の効果を発動。シェルバレット自身を破壊し、《地縛神 Chacu Challhua》を破壊します」
《シェルヴァレット・ドラゴン》だった弾丸が放たれ、地縛神の体に撃ち込まれる。
「今日は色々な話を聞かせて頂き感謝します。ですが、このデュエルは私と鳥乃の決闘。ここから先は悪いですがお引き取り願います」
アインスの言葉に、地縛神は何も喋ることなく満足そうな様子で爆破された。直後、私の体から冥界のフィールが弾け飛び、肌の色や目が普段のものに戻る。
「助かったわ。これで体が自由になった」
私はその場で一回伸びして、
「で、どうするの? 財団のやり方じゃBADENDにしかならないって発覚したわけだけど」
と、私はいうも、
「悪いけど。まだ財団から答えはきてないからね。現状は分かってても執行するしかない」
アインスはいい、
「それに、任務とか抜きで君はそれを許せるのかい? このまま決闘を中断させる事を、デュエリストのプライドが」
「ま、ないって話ね」
だからこそ、分かってて確認半分で訊いたんだけど。
デュエルは続行される。
「そしてこのターン、私はこんなカードを引かせて貰ったよ」
言いながら、ドローしたカードをアインスはデュエルディスクに読み込ませる。
「魔法カード《貪欲な壺》を発動」
「げっ」
ここでまさかの。
「私は墓地から《マグナヴァレット・ドラゴン》《ゲートウェイ・ドラゴン》そして3体の《スニッフィング・ドラゴン》をデッキに戻し、カードを2枚ドローする」
アインスがこれで2体以上のモンスターの展開に成功した場合、私はトークンで護りきることができなくなりデュエルで敗北する。
「ドロー」
アインスがカードを引いた。
一度、地縛神の支配下に陥った副産物でフィールも少しは回復している。だから、フィールによるドロー運への妨害は行ってるけど。さて、どうなるか。
「そうきたか」
引いたカードをみてアインスは呟いた。
「私は、手札を1枚捨て《リストア・ドラゴン》を自身の効果によって表側守備表示で特殊召喚」
フィールドに出てきたのはレベル5の闇属性モンスター。
「《リストア・ドラゴン》のモンスター効果。このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合、ゲームから除外されているドラゴン族・闇属性モンスター1体を効果を無効にした状態で特殊召喚する。私は《デリンジャラス・ドラゴン》を特殊召喚。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃できない」
2体のモンスターを出されてしまったが、これでは私のトークンを倒すには至らない。
となると。
「開け、私のステージよ」
やはりリンク召喚。
「召喚条件はドラゴン族モンスター2体以上。私は《リストア・ドラゴン》とリンク2《デリンジャラス・ドラゴン》をリンクマーカーにセット。サーキットコンバイン。リンク召喚! Shall We Dance? 《マズルフラッシュ・ドラゴン》」
こんな時でもBGMと踊りを欠かさないアインス。こうして出現したのは四脚の龍。そのリンクマーカーは、左上・上・右上と全部上側に向いており、そんなモンスターがアインスのメインモンスターゾーンの真ん中。つまり、両のEXモンスターゾーンにリンクマーカーを向けた状態で特殊召喚されたのだ。
「《マズルフラッシュ・ドラゴン》の効果によって、私はこのカードのリンク先にモンスターを呼べません。従って、ここからエクストラリンクを行うことはできませんのでご安心を」
そんな事は分かっていた。私はアインスの説明に対して、
「加えて、1ターンに1度、このカードのリンク先にモンスターが召喚・特殊召喚された場合に、リンク先のモンスター1体を破壊し500のダメージを与える、でしょ?」
と、返した所。
「ええ、その通りです。従って、次のターン鳥乃はヴァレルロードの包囲網を潜り抜けてEXモンスターゾーンにモンスターを呼んだ所で、マズルフラッシュのリンク先故に排除されるという状況に陥ったわけです。もちろん、このカードはリンクモンスターですので《クリアウィング・シンクロ・ドラゴン》をもってしても突破はできません」
アインスはそう言ってから、
「ではバトル。マズルフラッシュとヴァレルロードで鳥乃のモンスターを全滅。エンドフェイズ時に《シェルヴァレット・ドラゴン》の効果で《マグナヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚。ターンを終了しましょう」
と、ここで決着にはならないものの、更に私を追い込んだ盤面にしてターンを明け渡してきた。
「私のターン」
言いながら、私は自分の盤面を見る。
沙樹
LP300
手札0
[《
[][][][][]
[][][][][]
-[]-[《ヴァレルロード・ドラゴン(アインス)》]-
[][][《マズルフラッシュ・ドラゴン》][][《マグナヴァレット・ドラゴン》]
[][][][][]
アインス
LP375
手札0
場には、すでに効果を使う事さえできない《
(さて、何をドローすればいいんだろ)
私は辺りを見渡す。阿呆かもしれないけど、何かをドローするにしても引き寄せる為のインスピレーションが欲しかったのだ。
そして、私は不意に梓に目がいった。
梓は祈っていた。
私が地縛神を引いてから、梓はずっとショッキングな思いばかりしていたのだろう。化け物になった目で梓を見たくなくて、ずっと意識を逸らしてたから推測でしかないけど。それでも、いま梓は私の為に祈ってくれている。
(あ)
あのカードをもし出す事ができたら。
そう思った瞬間、
「梓」
私は、気づけば彼女を呼んでいた。
「梓、ちょっとこっちに来てくれない?」
「え?」
と、梓は祈りを中断しこちらに顔を向ける。
「願掛けみたいなものだけど、梓の力を借りたいなって」
「私の?」
「そ」
私は微笑み、
「梓からもらったアレ出したいから、一緒にダークドロー協力してくれない?」
「あっ」
梓は目を見開いて、
「そっか、あのカードなら。でも」
「話すの忘れてたけど、ダークドローってデッキトップのカードをフィールで別のカードに書き換える奥義って話でね。それで絶対アレを出すためのカードを、実在しないカードだろうとドローしてみせるって話」
「うん」
少し困惑しながらだけど、梓は私の前に来てくれた。
「怖かったでしょ。地縛神を引いたときの私」
私は梓をそっと片手で抱き寄せ、あえてこの話をする。
「今だから言うしかないけど、私一回死んでるのよ。その時に地縛神の眷属とかそういうのに選ばれて、化け物に変えられちゃって。……そんな私を回収して、半年かけて人間に戻してくれたのが鈴音さん」
「……ごめんね、実は知ってる」
梓は、ぼそっと呟くようにいった。
「え?」
「全部知ったのは最近だけど。だから、本当は鈴音さんが悪くないのも知ってるの」
と、いったので。
「私の体が、半分機械になってることは?」
「うん。その機械で生命維持してることも、地縛神ってカードに支配されないようにしてることも」
「そのメンテナンスのために、月1回は外泊してることも?」
「うん。本当は全部知ってたのに我侭でごねてた」
梓は言ってからぎゅっとしがみついて、
「でも、だから許したんだよ? この前の土日より、これからの私と一緒にいたいって
「そっか」
私がうなずくと、
「どうしてって聞かないんだね。私が全部知ってる理由」
と、梓。私は優しく微笑んで、
「そりゃ気になるけど、いまはデュエルに勝って、明日も梓と一緒にいれることのほうが大事。聞くのは終わってから」
言ってから、私は梓を両腕で抱き直し頭を撫でる。
梓は、私の胸の中で猫のように丸くなって、
「えへへー」
と、だらしない笑みを浮かべる。
「あの抱きしめ方」
遠くで木更ちゃんの声が聞こえた。
「間違いないわ。先輩が私を堕とそうとしたときの、あの優しい抱き方」
大正解、
あと、何気に敬語を使わない木更ちゃんの喋りって初めて耳にした気がする。あの子従妹相手でもよく丁寧な言葉遣いするから。
「その抱きしめ方のメカニズムはご存知ですか?」
鈴音さんが訊ねる。木更ちゃんは(たぶん)軽く驚いた顔で、
「いえ、ご存知なのですか?」
「ご存知も何も、あれは赤子をよしよしと抱きしめる母親の抱擁がベースですわ」
と、鈴音さん。大正解。
更にいうと、私が荒れてた頃に鈴音さんが全身で受け止めてくれた時の温もりなのである。それを、少しでも再現したくてね。
そう。
家族愛に飢えた経験があるのは、アインスたちだけではない。
私だって、とんでもない親の下に生まれて、親の愛を知らずに育ってきたのだ。幼少期には放置子の経験をして、梓の小母さんに嫌われ、親戚であるみいねの叔母さんも保護者代わりになる事を放棄した。私の本当の性格は人間不信だ。長い間私に味方はいないと思い続けていた。その結果、いまでも人を信用してないと
それでも私は、私を家族といってくれた鈴音さんや高村司令率いるハングド、増田が死んだあの日から私を支えてくれる木更ちゃん、そして私の善いも悪いも昔から見てきて未だ幼馴染を続けてくれる梓のおかげで今を生きている。
「じゃあ、梓。お願い」
私は再び手を掲げた。直後、私の手にフィールのエネルギーが集まり、闇色の輝きを帯びる。ここで。
「梓」
「うん」
梓が闇色の輝きに手を伸ばす。
「これでいいの?」
「ありがとう。後は一緒にアレを出すカードを引きたいって呼びこんで」
「うん」
片手を私の腕に添えたまま、今度は梓が私を支えるように抱き寄せる。
温かい。全身に力が湧いてくるようだった。
私は、
「暗き力はドローカードをも闇に染める!――ダークドロー」
今回二度目のダークドローでカードを引き抜く。直後、私のフィールは空になるも、
「あ」
と、先にドローカードを見た梓が、
「見たことのない幻獣機」
って。
見たら、それは確かに私の知らない幻獣機だった。
幻機獣ではなく、幻獣機。
「ありがとう梓」
私はいって、
「墓地の《幻獣機ブルーインパラス》のモンスター効果。相手フィールド上にのみモンスターが存在する場合、このカードをゲームから除外する事で、場に幻獣機トークンを発生させる」
とりあえず私はトークンを1体生成し、
「そして、私は手札からチューナーモンスター《幻獣機エンジェル・シンクロン》を通常召喚」
私の場に梓と協力してのダークドローで誕生したモンスターを場に出す。それは一見天使の翼さえ無い普通の航空機。
「幻獣機でシンクロンだって?」
驚くアインス。その横でシュウが、
「しかもエンジェルって何だよ。名前には幻獣機の要素が何も無ぇし、見た目にシンクロン要素もゼロじゃないか。インチキカード名もいい加減にしろよ」
とか突っ込む中、
「何言ってるのって話だけど」
私は言い切った。
「確かにシンクロンはどうか思うけど、梓と一緒にダークドローしたんだから、エンジェル付いて当然じゃない」
「惚気んな!」
シュウは叫び、かと思ったら頭を抱え、
「ブラックコーヒー飲みてえ」
私、そんな糖度高いこと言ったっけ?……言ったわね。
自分で自覚した所で、そっと梓に視線を向ける。
「……」
梓は顔を真っ赤にしていた。しかも、周囲も何だかすっごい空気。これどうしよう。
「いいなぁ、青春っていいなぁ。私にも春来ないかなぁ」
そんな中聞こえる、島津先生の切実な悩み。
「と、とりあえずエンジェル・シンクロンのモンスター効果。このカードの召喚に成功した場合に、墓地の風属性・Sモンスター1体を特殊召喚する。浮上せよ《幻獣機コンコルーダ》! 守備表示」
再び場に出現する幻獣機のSモンスター。
「この効果で特殊召喚されたモンスターの攻守は0になり、相手はエンドフェイズ時に1度、このモンスターを破壊する権利を得る」
「なるほど、しかし権利を行使してモンスターを破壊すればコンコルーダの効果が起動してしまうわけか」
アインスはうなずき、
「コンコルーダの効果なら問題なさそうに思えるが、一応ここで対処させて貰う。《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果からの《マグナヴァレット・ドラゴン》の効果を発動。マグナヴァレットを破壊し、コンコルーダを墓地に送ろうか」
《マグナヴァレット・ドラゴン》だった弾丸がヴァレルロードに装填される。ここで私は、場のトークンを取り除き、
「《幻獣機エンジェル・シンクロン》のモンスター効果。トークンを全てリリースして効果発動。私のモンスターはその効果を受けない」
宣言した瞬間、エンジェル・シンクロンから超小型の幻獣機トークンが無数に散布される。
ばら撒かれたトークンは光り輝き、その軌跡によって、エンジェル・シンクロンの背後に天使の翼を創り出した。そんな中、ヴァレルロードはこのトークンの翼に向けてマグナヴァレットの弾丸を発射してしまい、私のモンスターは効果を一切受けずに終わる。
「エンジェルフレアじゃないか」
炎崎がいった。
「何ですか?」
深海ちゃんが訊ねた所、
「輸送機が誘導ミサイルとかから護るために
との事らしい。実際、エンジェル・シンクロンが見せるこの光景は、そう呼ばれるのが納得なほどに神々しい。
「綺麗」
梓が呟く。
「そうね」
私はうなずき、
「じゃあ、今度実物見に行かない?」
「え?」
「エンジェルフレアって呼称がある位だし、たぶん現実に見ることができる光景なんでしょ。ハングドの給料は結構いいから、海外旅行くらい何とかなるわ」
「うん」
梓はうなずく。
実際は海外旅行したからって簡単に見れる物じゃないのは分かってる。だけど、いまの私はそれを忘れてしまう程度には、梓への想いで頭がスイーツになっていた。
「じゃあアインス。終わらせてもいいのよね?」
「できるものなら」
と、相手がいったので、私は。
「なら遠慮なく。私はレベル7《幻獣機コンコルーダ》に、レベル1《幻獣機エンジェル・シンクロン》をチューニング!」
エンジェル・シンクロンが1つの円に変わると、コンコルーダが潜って7つの光になって混ざり合う。
私は、出発前に梓から受け取ったカードをデュエルディスクに置き、いった。
「穢れさえ光を透す聖なる翼よ。その神々しさで敵を祓え! シンクロ召喚! 飛翔せよ、レベル8! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
フィールドに出現したのは、水晶を思わせる翼や外装をしたクリアウィングによく似たドラゴン。その攻守は3000/2500。
「クリスタルウィング? クリアウィングじゃないのか。いや、そもそもレベルが違う。デザイン的には進化形といった所か」
アインスは呟いた後、
「だが、EXモンスターゾーンに出された事で《マズルフラッシュ・ドラゴン》の効果を発動。クリスタルウィングを破壊し、500ポイントのダメージを与える」
きた!
「沙樹ちゃん」
梓の合図に、
「ええ」
私はうなずき、
「クリスタルウィングのモンスター効果。1ターンに1度、このカード以外のモンスターの効果の発動を無効にして破壊する」
「なっ」
アインスは驚き、
「その効果はまさにクリアウィングの!? まさに正統進化した効果を持ってるというのかい?」
「そ。そして、ターン終了までこの効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分、このカードの攻撃力をアップする」
私の説明の直後、《マズルフラッシュ・ドラゴン》は破壊され、
《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》 攻撃力3000→5300
クリスタルウィングの攻撃力が上昇。
「バトル。《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》で《ヴァレルロード・ドラゴン》に攻撃!」
私の攻撃宣言を受け、クリスタルウィングはアインスのエースに攻撃を仕掛け、破壊する。
「くっ」
攻撃にフィールは乗せなかったものの、ヴァレルロードが破壊されて生じる爆風を浴び、アインスは膝をついた。
ところで。
気づけば私とアインスは互いに命より大事な存在に物理的に支えられた形でデュエルを続行していた。
アインス LP375→0
そして、最後に立っていたのは、梓に支えられた私だった。
デュエルが終わった。
全てのソリッドビジョンが終了し、辺りも甲板の上から神簇邸の庭へと景色が戻る。
「負けたよ、鳥乃」
膝をつき俯いたまま、アインスがいった。
「君とは過去何度も共闘と敵対を重ねたが、実力は五分と5分のつもりだった。しかし、こんな決闘の場で負けたとあれば、ついに君は完全に私の上にいったといっていい」
何を言うのかと思いきや、
「鳥乃、君は強いな」
アインスは泣いていた。決闘に負けた悔しさか、涙声で喋ってるのだ。
「アインス」
私はいった。
「引き分けよ。これが戦場ならね」
「え?」
「戦場なら幾らデュエルで勝ってもフィールを使い切ったら、あとは死ぬだけみたいな話じゃない」
「まあ。いや、だがしかし」
反論するアインスに、
「デュエルの内容だってそう。奇襲で目を潰し、事実上2回のダークドローと明らかに私が持ってる以上のフィールを使う反則技。デュエルには勝ったけど、これじゃあジャッジ付きなら反則負けよ。でしょ?」
と、私はナルキサスやNLTにも視線を向ける。
突然意見を求められ、反応に困った様子の彼らを尻目に、私は、
「フィーア!」
と、懐から1枚カードを投げる。フィール・カード化させた《治療の神 ディアン・ケト》である。
私は彼女がカードを受け取ったのを確認してから、
「これでアインスの目を治してあげて。さっきも言ったけど、もうフィールが空だから治したくてもね。それに持ってるフィール量はあなたが一番多いし適任でしょ」
「分かりました」
フィーアはカードを発動。アインスの背に老婆の女神が出現すると、アインスに手をかざし光を注ぎ込む。多分これで彼女の目は大丈夫だろう。
私は彼女の下に歩み寄る。そして、前に立ち手を伸ばした。
「アインス」
「鳥乃」
アインスは顔をあげ、涙でくしゃくしゃになった顔を晒すと、一回フッと微笑み、
「ありがとう」
と、私の手をうけ立ち上がる。
直後だった。
「キエエエエ!!」
物陰から鷹女ちゃんが飛び出し、そのまま短刀の刃を梓に向けて突っ込んできたのだ。
「!?」
突然のことに、誰もが反応を遅らせる。
「危ない!」
その中で、ナルキサスだけが硬直することなく梓を庇いに走るが、不運にも位置が悪く間に合わない。
「きゃっ」
梓の小さな悲鳴を聞き、やっと硬直から抜け出した私。手早く片腕を鷹女ちゃんに向け、私は内蔵銃で足を撃ち抜いた。
「――ッ」
鷹女ちゃんの声にならない叫び。そのまま彼女は地面を転がり、短刀を手から離す。それを私は手早くワイヤーで拾い、絡ませたまま彼女の眼前で地面に突き刺した。
「鳥乃……沙樹……!」
憎しみのあまり般若そのものな顔で私を見上げる鷹女ちゃん。
私は、冷たい目で彼女を見下ろし、
「次は何処が希望?」
と、手首から昇る煙を払いながら、懐から拳銃を抜き、彼女の眉間に銃口を向ける。
「あなたに興味はないし目障りだから、希望なら一瞬の痛みだけで全て終わらせてあげてもいいって話だけど? 嫌ならこの街、じゃないわね。この国から出てって頂戴。慰謝料代わりにその程度の工面ならしてあげるから」
「沙樹ちゃん」
梓が心配そうに私を見る。そして、他の皆はゾッとした顔で私を見ていた。
アインスの目を潰した時とはまるで違う。大切な梓を傷つける者が現れたとき、私がどんな存在に成り果てるのかを目の当たりにしたからだ。正直、いまの私は下手に鷹女ちゃんを擁護する者がいれば、銃口を躊躇いなくそいつに向ける可能性が高い。
小中学校時代のクラスメイトなど半分機械になる前の私を知ってる者なら、いまの私を何度か見たことがあるだろう。しかし、残念ながらこの場のギャラリーでそれを知るのは梓と島津先生のふたりだけ。
で、そのふたりが恐怖を振り払い、
「沙樹ちゃん、落ち着いて」「沙樹ちゃん、落ち着いて」
ふたりはタイミングこそ違えど、同じことを言って私の下に駆け寄る。
「私は大丈夫だから。沙樹ちゃんのおかげで怪我してないから」
と、私を掴む梓。それでも私は鷹女ちゃんに対して殺意が収まらない。
「全く貴女は」
突如、奥から声が聞こえた。
「昔っからこうよね。徳光さんに危害加わると」
その方角に視線を向けると、屋敷側から歩いてくる神簇姉妹の姿が。
なお先ほど喋ったのは神簇で、アンちゃんは手元に何か書類を持っている。
「神簇?」
どうしてここに? なんて一瞬考えちゃったけど、そういえばここは彼女たちの敷地なのだから。本来いないほうが不自然なのだった。
「邪魔しないで」
私はいった。もちろん、先述の通り今度は銃口を神簇に向けるも、
「もう少し冷静になりなさいよ。昔と違って、いまの貴女は簡単に人を殺せるんだから」
こちらの殺意なんて何のその。神簇は堂々と私に近づいては、流れるような手刀で私から拳銃を叩き落し、
「っ!?」
「しばらく没収よ」
私が驚く間に、銃を拾ってはすぐアンちゃんに渡す。
手元から武器が奪われたことで、私はやっと少し正気に戻り、
「この。普段はうっかりと不器用の塊のくせに」
と、愚痴を呟いた。
本当、何でこういう事は滅茶苦茶上手にできるのだろう、この人は。しかも、銃口を向けられたのに、このクソ度胸。
「凄い。怖くなかったのですか?」
呆然としながら訊ねる島津先生に、
「慣れてますから。この人生の宿敵に殺意を向けられるのは」
と、神簇。そういえばこいつ、小学校の頃にさっきの状態の私相手にしょっちゅう歯向かってきたんだっけ。
島津先生はハッと驚き、
「それって。じゃあ、あなたがもしかして神簇 琥珀さん?」
「そ」
と、私が横から答え、
「この人が、この屋敷の主で、恐らく世界で一番たくさん梓を虐め、さっき状態の私と幾度も喧嘩した私の人生の宿敵」
なんて、ついでに紹介。すると横からアンが、
「ふふ、よく五体満足で小学校を卒業できましたね。姉上様」
「本当よ」
神簇は返す。たぶんアンちゃんは皮肉や煽りで言ったのだろうけど、神簇には通じてない模様。もしくは事実過ぎて煽りになってないか。
「あ」
直後だった。
鷹女ちゃんがパッと顔をあげ、足から血を流したまま這うようにしてアンちゃんの下に向かったのだ。このふたりは知り合いなのだろうか。
「鷹女さん」
アンちゃんが、憐憫の眼差しで鷹女ちゃんを見る。
鷹女ちゃんはいった。
「アンお姉さま」
「アンおねえさまぁっ?」
彼女の言葉に、私は口をあんぐり開け、唖然となる。
「よして下さいませ。もう私に寄り添う必要もないでしょうに」
アンは軽く項垂れるようにいうも、
「そのような事は御座いません。わたくしにとってアンお嬢様はアンお姉さまですもの」
なんて聞く耳を持たず。というか鷹女ちゃん、目がハートってレベルでキラキラした眼差しを向けてるんだけど。それも、よりにもよってアンちゃんに。
「よしてください!」
怒声を利かせ、吐き捨てるようにいうアンちゃん。
「お姉さま」
鷹女ちゃんが、寂しさに耳が垂れた仔犬みたいになるも、
「どうせ鳥乃さんの次は私を狙うつもりなのでしょう? 今更近づこうとしても分かっておりますから、無駄だと言いたいのです」
「そんな、わたくしはただ……」
拒絶するアンちゃんに、鷹女ちゃんは泣き出しそう。
「アンちゃん? もしかして誓裁さんとお知り合いなの?」
梓が訊ねた所、
「彼女の苗字は誓裁ではありません。恐らく身元がバレない為と“制裁”を“誓う”願掛けを兼ねていたのでしょう」
アンちゃんはいった。
「彼女の本当の名前は
「というと?」
私が神簇に訊くと、
「貴女に依頼を頼んだとき、
「そりゃまあ」
「その時、敵側に私に剣術を教えてくれた先生がいたことは?」
いたわね。私がうなずいた所、
「
「ああ」
ようやく合点がいった。何故鷹女ちゃんが私を殺そうとするのか、そして私の次はアンちゃんなのか。その経緯が。
「その剣の先生の娘さんが、どうして沙樹ちゃんを?」
梓が訊ねた所で、
「殺したのよ。私が首藤先生を」
私は正直にいった。
「えっ?」
驚く梓に、私は続けて、
「でも、撃たなければ、あの時死んでたのは私だったのよ。何より、あの局面で殺さず止めれるような甘い相手じゃなかった」
と、一応の言い訳。
「まあ確かに、大切な親を殺されて復讐を企てる。恋人の仇の次にありがちな動機ではあるわね」
「そんな、生易しい話じゃありません」
鷹女ちゃんがいった。
「貴女のおかげで私の信愛するアンお姉さまは、憎き琥珀様に勢力争いで負けて屈しなくてはならなくなったじゃないですか! これはお姉さまに対する魂の殺人です!」
「うっ」
あ、アンちゃんが居た堪れなさに顔を逸らした。しかも、その意味を履き違えた神簇が、
「アン! まさか、貴女まだ反逆を企てて」
「いえ。姉上様ごときを相手に嫉妬や劣等感を抱いていた過去の自分が、もう恥ずかしくて惨めで」
「どういう意味よ!」
強い口調で返す神簇。だけど、私はこっそり。
「はい。ハイウィンドの皆さん、この中でアンちゃんの気持ちが正直すっごく分かる方は挙手」
とか訊いてみた所、アインスとシュウが即座に挙手し、新参のシルフィさえ申し訳なさそうに手を挙げる。最後まで手を挙げなかったのはフィーアだけだった。
が、それを別の意味で解釈した鷹女ちゃんは、
「お姉さま、ここに私を含め貴女の味方が四人もいらっしゃいます。亡き私の父の為にも、今度こそ琥珀様を血祭にあげましょう」
というも、
「鷹女さん」
再びアンちゃんは、憐憫の眼差し。
「お姉さま?」
「残念ですけど、姉上様は血祭にあげる価値もない方です。ポンコツすぎて」
「ポンコツって何よ!」
神簇がギャースな反応するも、
「貴女が昔から私の事が嫌いで嫌いで、上げて落として死体蹴りしたいのは凄く伝わってますけど、今更姉上様の上に立った所で上がった気が」
と、アンちゃん。しかし鷹女ちゃんは、
「そうやってお姉さまがわたくしを想って、あえて危険な神簇家襲撃のメンバーに加えなかったのは知っております。ですけど、わたくしは貴女の為なら命だって惜しくは」
ここでふと、私はふたりが完全に食い違ったまま互いの認識の中で会話を繰り広げてる気がして、
「神簇、神簇?」
「なに?」
「あのふたり、何だかお互い勘違いしてない?」
訊ねると、
「ええ。見ての通り、鷹女はアンを強く慕ってるわ。それこそ同性愛に近いレベルで。……でも、アンが基本強烈にマイナス思考なのは知ってるでしょう?」
「まあね」
「だから、鷹女がアンを慕えば慕うほど、アンは自分を慕う子がいるはずがないって警戒しだしたのよ。それがこじれにこじれて、今ではアンの中では自分を慕ってるふりして近づいて、信頼を勝ち取ってから蹴落とそうとしてる人って事になってるのよ」
「ああ」
アンちゃんらしい。激しくアンちゃんらしい発想だ。
「しかも、今回あの子が貴女に近づいたやり方が、まさにアンの被害妄想を忠実に再現した形だったもの。これはもう確信の域になってるわね」
ああ……。けどそれって万一あるんじゃ。
「その被害者から質問。アンの妄想が正解だって可能性は?」
「あの子は、事故でアンの裸を見たときに幸せそうな顔をして卒倒したわ」
うん、それでアンの妄想が正解って話はさすがにないわ。別の意味でアンちゃんの身が危険だけど。
「あ、鳥乃さん、アインスさん。少しお時間よろしいでしょうか?」
アンちゃんが私たちに向けていった。鷹女ちゃんは現在アンちゃんのおみ足に顔をすりすりしてる。
「たった今、地縛神回収の任務が延期になりましたのでご報告とさせて頂きます」
そういって、アンちゃんは指令書のコピーを私とアインスに渡す。確認すると、そこには「鳥乃沙樹を殺害する任を撤回、及び地縛神の回収手段が確認されるまで当任務を延期する」といった旨の内容が書かれていた。もちろん、神簇と違って私に見せてはいけない部分は全て編集で削除済。
ただ、差出人の名前がメールちゃんだったのは確認できた。
「アインスさんが地縛神の言質を獲得して下さったことが今回の決定に繋がりました」
と、アンちゃんがいうので私は、
「やっぱ、デュエル中の会話内容は全部送信してたのね」
「地縛神を誘いだせるかは半ば賭けだったけどね」
さすがに疲れた顔をして、アインスはいった。
分かっていたけど、どうやら私たちがデュエルしてる最中も、この場にいなかった神簇姉妹はずっとメールちゃんと共に上層部に訴え続けてたらしい。でなければ、こんなに早く任務の撤回が降りるはずがない。
さて、残りの問題は鷹女ちゃんだけど。
「鳥乃、悪いけど報酬は出すからふたりの誤解を解いてくれる? 私では無理だもの」
と、お願いする神簇に、私は即答した。
「私も無理」
って。
結局。
私たちは、鷹女ちゃんが実は「アンちゃんを完璧超人と思って崇拝してる困ったヤンデレ」って事にして、アンちゃんのほうに何とか理解(別の誤解にすり替え)してもらい、これ以上私や梓を恨まないよう誘導して貰うことに成功。
最後まで鷹女ちゃんが梓に謝罪することはなかったけど、契約書に血印して貰うことには成功した為、ネビュラ・ハングド・NLTの三組織に提出され、鷹女ちゃんの件は解決となった。
こうして、島津先生の車で研究施設に帰還する最中。
「ねえ、沙樹ちゃん?」
車内で、ふと梓に訊ねられ、
「ん、なに?」
「ふと思ったんだけど、沙樹ちゃん、よく誓裁さん、じゃなかった首藤さんを撃てたね。沙樹ちゃんの大好きな女の子なのに」
「私としては、私が銃を持って人を撃ったのに動揺してない梓が気になるんだけど」
気づけば、前にも
「あ、えっと」
俯く梓。
「まあ、そこはいいけど」
言いたくなさそうだったので、私は言う。だって、自分はずっと梓に隠し事してたのに、梓の隠し事は全力で追及するとかどうかと思うしね。
「で」
私は今回に隠れてた事実を言うことにした。
「梓、突然だけど私が嫌いなものが何だか言ってみて?」
「え?」
梓はきょとんとして、
「男の人と、子供?」
と、梓は一度言ってから、
「え? 首藤さんってもしかして」
「私よりひとつ下のアンちゃんを『姉』と慕ってるのよ。中学生以下に決まってるじゃない」
「でも、銃を向けたときはまだそんな事実は」
「だから、昨日言ったでしょ」
ここで。今回は
「『梓、セクハラし疲れた……』って」
私が女の子にセクハラして疲れるなんて、したくもない
翌日、朝。
私たちは各自宅でこんなニュースを目にすることになる。
『次のニュースです。北海道某市にて、昨晩より藤稔
今回、修正不可能な段階で《幻獣機ピーバー》の不備が発生した為、フリーチェーンで使用できるようにエラッタをかけさせて貰ったものと、
今更ながら《フル・フラット》を幻獣機サポートの魔法・罠でありながら四字熟語じゃ無かった事に気持ち悪さを覚え、読み方をそのままにカード名を変更させて頂きました。
MISSION25でも少し触れたように、今回はMISSION14から続いてる(いま思えば)ハイウィンド編と思える流れの節目として書いたつもりでいます。
その為、ハイウィンドの出番や役割が終わったわけではないですけど、ある意味4人が家族の絆を結ぶ物語としてはハッピーエンドを迎えたはず。
また、当小説全体としても「起承転結」の「承」に類する部分が終わったものと想定しており、実際の話数がどうなるかはともかくとして考えてる全体の流れとしても次回からは後半に踏み込むのは間違いありません。
ここまでHANGSを続けてこられたのは、偏に読んでくださる皆様の応援があってことだと思っております。
いままでありがとうございました。
そして、次回からのHANGSもどうかよろしくお願いいたします。
●今回のオリカ
幻獣機ピーバー(エラッタ後)
星3/風属性/機械族/攻1500/守1200
(1):このカードを手札から墓地に送って発動する。ターン終了時まで、自分が効果ダメージを受ける場合、代わりに自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。この効果は相手ターンでも使用できる。
(2):このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(零式観測機@ピーター+ビーバー/MISSION26よりエラッタしました)
幻獣機ピーバー(エラッタ前)
星3/風属性/機械族/攻1500/守1200
(1):相手がダメージを与える魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、以下の効果を適用する。
●自分が効果ダメージを受ける場合、代わりに自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
(2):このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(零式観測機@ピーター+ビーバー)
ダズル・ドラゴン
リンク・効果モンスター
リンク2/闇属性/ドラゴン族/攻1200
【リンクマーカー:上/右】
効果モンスター2体
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードが特殊召喚した場合に発動できる。このカードの相互リンク状態の場合、相手フィールド上の魔法・罠カードを1枚破壊する。
(2):自分または相手のメインフェイズに発動できる。エンドフェイズまでフィールドまたは墓地のこのカード名の属性は「光」として扱う。
(3):相手ターンに墓地のこのカードを除外して発動できる。このターン、1度だけ自分が受ける戦闘ダメージを半分にする。
幻機獣サーチライオネット
ペンデュラム・効果モンスター
星3/風属性/炎族/攻 0/守2000
【Pスケール:青5/赤5】
「幻機獣サーチライオネット」の①のP効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールド上にトークンもしくは「《
●デッキからPモンスター以外の「幻獣機」モンスター1体を手札に加える。
●デッキからPモンスター以外の「幻獣機」モンスター1体を墓地に送る。
【モンスター効果】
このカードはルール上「幻獣機」カードとしても扱う。
このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のトークンは戦闘及び効果では破壊されない。
(2):このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「幻獣機」モンスター1体を手札に加えて、手札を1枚墓地に送る。
(3):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
手札・デッキ・墓地から、このカード名以外の「幻獣機」Pモンスター1体をPゾーンに置く事ができる。
(サーチライト@探照灯+ライオネット@子獅子の某漫画表記。ラテン語で名前の最後にetをつければ「小さい○○」みたいな意味になるとのこと)
幻機獣アベンジャガー
ペンデュラム・効果モンスター
星2/風属性/炎族/攻 500/守 200
【Pスケール:青5/赤5】
(1):自分フィールド上にトークンが存在する限り、「幻獣機トークン」が戦闘を行う事によって受けるコントローラーの戦闘ダメージは0になり、「幻獣機」モンスターと戦闘を行ったモンスターはダメージ計算後に破壊される。
【モンスター効果】
このカードはルール上「幻獣機」カードとしても扱う。
(1):このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分フィールド上のトークンは戦闘及び効果では破壊されない。
(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。
自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた、
このカードを含む「幻獣機」融合素材モンスターを自分フィールドから墓地へ送り、
その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。
この効果によって特殊召喚したモンスターはターン終了時に破壊される。
(GAU-8 Avenger:アヴェンジャー+ジャガー)
幻獣機アルマジル
星4/風属性/機械族/攻1200/守 200
(1):1ターンに1度、相手がモンスターを特殊召喚した場合、自分フィールドに「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚できる。
(2):このカードのレベルは自分フィールドの「幻獣機トークン」のレベルの合計分だけ上がる。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(4):1ターンに1度、トークン1体をリリースして発動できる。
自分フィールド上のモンスター1体を選択して表側守備表示にする。
この効果は相手ターンでも発動できる。
(ジル@天山+アルマジロ)
速攻魔法
このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):デッキから「作戦通達」以外の、「幻獣機トークン」のカード名が記された魔法・罠カード1枚を手札に加える。
(2):墓地のこのカードをゲームから除外する。ターン終了時まで、自分は1度だけライフを払わず「《
(3):自分がトークンをリリースする場合、その「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体分のリリースとして墓地のこのカードをゲームから除外できる。この効果は、このカードが墓地に送られたターンに使用できない。
フィールド魔法
(1):1ターンに1度、800ライフポイント払い、以下の効果から1つを選択して発動する。
●「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体を特殊召喚する。
●手札から「幻獣機」モンスター1体を通常召喚する。
(今回より幻獣機共通の四字熟語を付けさせて頂きました)
幻獣機プテラウラー
リンク・効果モンスター
リンク1/風属性/機械族/攻 500
【リンクマーカー:下】
リンクモンスター以外の「幻獣機」モンスター1体
このカード名のモンスターは1ターンに1度しかリンク召喚できない。
(1):このカードのリンク召喚に成功した場合に発動できる。「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)1体をこのカードのリンク先に特殊召喚できる。
(2):このカードがレベル4以下のモンスターを素材にリンク召喚された場合、このターン、自分は他のモンスターをリンク召喚できない。
(3):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(4):自分フィールドに「幻獣機トークン」が特殊召喚された場合に発動できる。墓地のこのカードをゲームから除外し、手札・デッキ・墓地からレベル4以下の「幻獣機」モンスター1体を特殊召喚する。
(EA-6 プラウラー+プテラノドン)
リストア・ドラゴン
星5/闇属性/ドラゴン族/攻1000/守1000
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札を1枚捨てる。このカードを表側守備表示で特殊召喚する。
(2):このカードの召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。ゲームから除外されている「ヴァレット」モンスターもしくはドラゴン族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、攻撃できない。
幻獣機エンジェル・シンクロン
チューナー・効果モンスター
星1/風属性/機械族/攻 250/守 200
(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地の風属性・Sモンスター1体を特殊召喚する。
この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力・守備力は0になり、相手はエンドフェイズに1度、そのモンスターを破壊できる。
この効果の発動後、エンドフェイズまで自分は風属性モンスターしか特殊召喚できない。
(2):自分フィールドにトークンが存在する限り、このカードは戦闘・効果では破壊されない。
(3):相手が魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した場合、トークンを全てリリースして発動できる。自分のモンスターは、その相手のカードの効果を受けない。
(4):1ターンに1度、「幻獣機」モンスター1体をリリースして発動できる。
レベルの合計がリリースしたモンスターのレベル以下となるように、「幻獣機トークン」(機械族・風・星3・攻/守0)を任意の数だけ特殊召喚する。
この効果は、墓地に存在する「幻獣機エンジェル・シンクロン」1体をゲームから除外する事で、相手ターンでも使用できる。
(エンジェルフレア+シンクロン)